思春期の子どもで時々相談を受けます。
起立性調節障害は以下の診断基準のうち3つ当てはまり、
貧血など他の病気が除外できると診断されます。 


1

立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい

2

立っていると気分が悪くなる。ひどくなると倒れる

3

入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる

4

少し動くと動機あるいは息切れがする

5

朝なかなか起きられず午前中調子が悪い

6

顔色が青白い

7

食欲不振

8

臍疝痛をときどき訴える

9

倦怠あるいは疲れやすい

10

頭痛

11

乗り物に酔いやすい


欧米では純粋に「循環器疾患」という位置づけで、
主に血圧に作用する薬を使用します。
日本もそれに準じる一方で、
なかなか薬が効かない患者さんも少なからず存在します。

それは、日本の診断基準に、

3

入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる

5

朝なかなか起きられず午前中調子が悪い

 
という「ココロの影響を受けるような項目」を入れてしまったから、
と言われています。
「嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる」って誰でもそうですよね。
 
ですから、起立性調節障害と診断され、
西洋薬を処方されても 効果が今ひとつの場合は、
ココロの問題も関与している可能性を考え、
当院では漢方薬の使用を提案しています。

起立性調節障害の症状を漢方医学用語に置き換えてみると、
(立ちくらみ、めまい、乗り物酔い、朝起きられない、頭痛)
 → 水バランスをうまく取れない体質(水毒・水滞
(腹痛、嫌なことを聞くと気分不快)
 → ストレスに過敏に反応しやすい体質(気うつ・肝鬱
という体質をベースに、
(怠い、疲れやすい、朝起きられない)
 → 人間関係で気力を使い果たして疲れている状態(気虚
(顔色が悪い)
 → それが長く続き身も心も疲れている状態(血虚
などが加わった病態と考えられます(諸説あり)。

上記を参考に、その人の体質・体調に合った薬を選択します。
体に合う漢方に出会うと、身も心も少し楽になることが期待できます。 
 

▶ 起立性調節障害に効く漢方薬


<基礎編>

倦怠感がメイン
・朝起きられない、めまい/たちくらみ、車酔い 苓桂朮甘湯39)(

        +胃腸虚弱・頭痛・めまい   半夏白朮天麻湯(37)

・朝起きられない、だるい・しんどい  補中益気湯41
※ 苓桂朮甘湯の効果が今ひとつ  苓桂朮甘湯(39)四物湯71)(連珠飲の方意) 


痛みがメイン
・おなかが痛い、虚弱        小建中湯99

・おなかが痛い・頭が痛い・ストレス 柴胡桂枝湯10

・心身症(ストレスによる体の症状)
 → 抑肝散54)、抑肝散加陳皮半夏83)、柴胡加竜骨牡蛎湯12


月経の影響あり
・生理中に悪化 → 当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25


<応用編>
〜上記薬剤でも手応えが今ひとつの場合に考慮

▶ 倦怠感(+α) に効く漢方薬
〜とにかく怠くてつらい、動けない、朝起きられないときに。
・倦怠感(とにかくだるい) → 補中益気湯(41)
・倦怠感 + 貧血・皮膚乾燥  → 十全大補湯(48)
・倦怠感 + めまい・頭痛   → 半夏白朮天麻湯(37)
・倦怠感 + 不安・落ち込み  → 加味帰脾湯(137)

・倦怠感 + 胃もたれ・冷え  → 六君子湯(43) 


▶ 
不安感(+α)に効く漢方薬

〜漢方には思春期の不安に寄り添う薬も用意されています。
・悲しみ・パニック・感情失禁  → 甘麦大棗湯(72)
  単剤で効果不十分なら   → 苓桂甘棗湯:甘麦大棗湯(72)+苓桂朮甘湯(39)
  慢性期には        → 苓桂朮甘湯(39)+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・喉のつまり          → 半夏厚朴湯(16)
・不安で心配でたまらない、体力なし、無気力 → 加味帰脾湯(137)

・ストレス、動悸、体力あり → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12) 

さらに、不安・緊張・怒りに効く漢方について知りたい方は、
こちらもご参照ください。
 

苦い漢方薬を子どもが飲めるわけがない!と思いがちですが、
それはあなたの思い込みです。

いろいろ試してみると、活路が見いだせます。
以下の内容は、当院スタッフが実際に味見をして作成したモノです。
ぜひお試しください。

(乳児期)

口内なすりつけ法
 漢方薬を少量のお湯で練ってペースト状にして、
 授乳前にほっぺの内側になすりつけます。
 残りは冷蔵庫保存し、授乳のたびに繰り返し。
 一日が終わったら破棄し、翌日また新しく作成。
 

ヨーグルトで食べさせる:生後6ヶ月以降
 混ぜるのではなくサンドして隠すイメージで。
 子どもが気づいたらヨーグルトだけの部分を食べさせて、
 ごまかしごまかし飲ませましょう。


(幼児期以降) 
液体・半固形物に溶かして味をわからなくする方法を伝授します。
   


小青竜湯

葛根湯加川芎辛夷

辛夷清肺湯

小柴胡湯加桔梗石膏

五虎湯

麦門冬湯

五苓散

半夏瀉心湯

小建中湯

黄耆建中湯

桂枝加黄耆湯

温清飲

甘麦大棗湯

抑肝散

柴胡加竜骨牡蛎湯

オレンジJ

× 

× 

× 

× 

× 

× 

× 

リンゴJ

× 

× 

× 

× 

牛乳

× 

× 

× 

× 

コーヒー牛乳

× 

× 

× 

カルピス

× 

× 

× 

× 

× 

× 

マミー



× 








× 

× 


ココア/ミロ

野菜ジュース(黄)

× 

× 

チョコアイス

× 

× 

バニラアイス

× 

× 

クッキー&クリーム

× 

× 

 


現在、日本では子どもの3人に1人が睡眠関連の悩みを抱えている、
というデータがあります。
もう、他人事ではありません。
眠れないお子さんへの日常生活に関するアドバイスを以下に記載しました:


■ 睡眠のスケジュール

・ふとんに入る時間・起きる時間は、
 毎日ほぼ同じ時間になるようにしましょう。

・睡眠時間に週末と平日の差があっても、
 1時間以内になるようにしましょう。

・人間の体は“寝だめ”はできないしくみになっています。
 週末寝だめをして、睡眠不足を解消するのはやめましょう。

 

■ 日光を浴びる

・朝、日光を浴びることは、
 正常な睡眠覚醒の体内時計(サーカディアン・リズム)を
 維持することに役立ちます。

  

■ 定期的な運動

・毎日、日中は外で活動する時間を作りましょう。 

 

■ 昼寝の可否

・低年齢(3歳未満)の子どもには
 昼寝は必要であり、問題ありません。

・高年齢(5歳以降)の子どもでは、
 昼寝をすると夜の寝付きが悪くなるので長時間の昼寝は避けましょう。
 ただし個人差があります。

 

■ 電子メディア

・テレビ、パソコン、スマホなどによる強い視覚刺激は、
 寝付きの妨げになるので、寝室には置かないようにしましょう。 

 

■ 夕方の活動

・ふとんに入るまでの時間は穏やかに静かに過ごすようにつとめ、
 テレビゲーム(スマホゲーム)のような興奮する活動は避けましょう。

 

■ カフェイン

・カフェインはふとんに入る前の3~4時間は避けましょう。
・カフェインは炭酸飲料、コーヒー、アイスティーなどに入ってます。
★ 麦茶、ルイボスティー、十六茶には入っていません。 


■ 規則正しい食事

・毎日決まった時間の食生活を心がけましょう。 

・ふとんに入る1~2時間前の食事は睡眠の妨げになります。

・お腹が空いたままでは眠れない、途中で目が覚めるため、
 その時間帯に食べることも仕方ない場合があります。
 ミルクやクッキーのような軽食ならよいでしょう。 

 

■ ふとんに入るときの習慣

・ふとんに入るときの20~30分間の習慣を作りましょう。

・本を読む、その日のことを話すなど、
 静かで楽しい活動を寝室で行いましょう。

 

■ 寝室の環境 

・暗くして、気持ちがよく快適な静かな環境にしましょう。

・部屋の温度は23~24℃以下で涼しめにしましょう。

・ふとんに入ったら、睡眠に関係のない勉強、電話などは控えましょう。 


・・・以上のことを試してみても、
やはり眠れなくて昼間の生活に支障が出る場合、
子どもには成人用の睡眠薬は使えないため、
当院では漢方薬を提案しています。

体質に合う漢方薬が見つかると、悩み軽減が期待できます。

▶ 睡眠の悩みに効く漢方薬 


(乳児期)夜泣き

 + 泣き虫、シクシク泣く、不安 → 甘麦大棗湯(72)

 + 怒りんぼ、ギャーギャー泣く、かんしゃくもち → 抑肝散(54)

 

(幼児期・学童期)眠らない・眠れない

 + 不安・泣き虫・あくび → 甘麦大棗湯(72)

 + 神経質・イライラ・多動 → 抑肝散(54)

 + 反復性腹痛・虚弱 → 小建中湯(99)

 + 鼻閉・口を開けて寝ている → 葛根湯加川芎辛夷(2)


(思春期)眠れない・朝起きられない

 + 不安 → 甘麦大棗湯(72)

 + イライラ・興奮 → 抑肝散(54)

 + 動悸・ストレス・恐怖 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

 + うつうつ、不安・心配だらけ → 加味帰脾湯(137)

+ 心身ともに疲れて眠れない → 酸棗仁湯(103)


・・・乳児期〜幼児期〜学童期〜思春期に共通して登場する、
抑肝散は「自律神経の日内リズムの狂い」、つまり、
「昼間の交感神経優位 → 夜間の副交感神経優位」への移行
がうまくいかない状態を改善してくれます。
交感神経亢進状態をやわらげることにより、
緊張から解放されて眠りにつける、とされています。
 
現代社会では大人も子どもも交感神経亢進状態を強いられ、
それによる健康障害が発生しがちです。
自律神経失調によるカラダの不調は“現代病” と言えるかもしれません。
 

乳幼児健診では「偏食」の悩みも多い相談事です。

ひとくちに「偏食」と言っても、
程度により2つに分けられると思います。

 

1.好き嫌い:嫌いなモノは数種類以内で、成長・発育に問題なし

2.偏食:嫌いなモノがたくさんあり、成長・発育が心配

  

1の「好き嫌い」のレベルであれば、

日々の食事の工夫で乗り切れることが多いです。

2の「偏食」の場合は程度により、

専門的な介入が必要になることがあります。

解説サイトを用意したのでご参照ください。   


子どもの好き嫌い・偏食
 

偏食にダイレクトに効く薬はありませんが、
漢方はお腹を温めて腸内細菌の善玉菌を増やし、
元気を底上げして食欲増加&偏食軽減が期待できます。

 

● 基本薬は小建中湯(99)。
オリゴ糖入り(※)でほんのり甘くて飲みやすい薬です。

小建中湯で効果が得られない場合は、
他の症状も考慮して数種類を使い分けます。

 

● 偏食+便秘  → 桂枝加芍薬大黄湯(134)

● 偏食+冷え  → 人参湯(32)

● 偏食+緊張  → 柴胡桂枝湯(10)

● 偏食+腹痛  → 安中散(5)

 

もしお子さんに睡眠の問題があれば、
そちらを先に解決することをお勧めします。

子どもの睡眠の悩みに漢方を
 

良質な睡眠 → 昼間の活動量増加 →
 → お腹が空いて食事量増加 → 偏食・便秘解消

というよい循環が作られます。



※ オリゴ糖入りの小建中湯;
小建中湯には「膠飴」という水飴成分がたくさん入っています。
これはほぼ麦芽糖であり、現代医学ではオリゴ糖に分類されています。 
小建中湯が漢方医学のテキストである『傷寒論』 に記載されたのは、
なんと今から1800年前の昔です。
つまり、1800年前の中国の医師達は、
子どもにオリゴ糖を飲ませ続けると体調がよくなることをすでに発見していた、
ということになります。
逆に言うと、子どもの健康を底上げしてくれる漢方薬の薬効の一つは、
オリゴ糖であったと現代医学が解明したということ。
この事実を知ったとき、私は感動して体が震えました。 
これからも漢方薬の薬効を現代医学が解明していくことでしょう。
 

乳児健診で多い相談事です。
1歳半健診や3歳児健診では毎回、耳にします。

残念ながら西洋医学では、
「環境を整えて様子を見ましょう」
という指導しかできません。

しかし漢方では対応可能です。
漢方薬にはカラダに効く生薬だけでなく、
ココロに効く生薬が必ずと言っていいほど入ってます。

そのお子さんの症状、性格、体調などを考慮し、
体に合う漢方薬が見つかると悩み軽減が期待できます。


<基礎編> 

かんしゃく・夜泣きなどの “乳幼児のココロの問題” を、
不安緊張怒りというキーワードを用いて分類し、
以下のように漢方薬を使い分けます。

1.
不安

性格:心配性、不安、怯え、怖がり、泣き虫
症状:夜なき、不安~パニック発作、こだわり、言葉の遅れ、
   コミュニケーション障害、感覚過敏、自信のなさ
睡眠:不安で目が覚める、目覚めると母を探す、心配で眠れない
漢方:甘麦大棗湯(72)、酸棗仁湯(103)、加味帰脾湯(137)


2.
緊張

性格:イライラ、ドキドキ、憂うつ、ヒステリック
症状:かんしゃく、不注意、落ち着きのなさ、緊張しやすい
睡眠:歯ぎしり、夜驚症、夢が多い
漢方:四逆散(35)、柴朴湯(96)、加味逍遥散(24)、香蘇散(70)


3.
怒り・興奮

性格:怒りんぼ、落ち着きがない
症状:夜なき、強いかんしゃく、焦燥感、易刺激性、多動
睡眠:寝付きに時間がかかる(入眠困難)、激しく泣く、完全に覚醒して遊ぶ
漢方:黄連解毒湯(15)

 

<応用編>
上記の漢方薬で効果が今ひとつの時は、
子どもの様子をよく観察し、以下の漢方薬も考慮します。

 

1+2(不安+緊張柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

2+3(緊張>怒り大柴胡湯(8)/大柴胡湯去大黄

3+2(怒り>緊張抑肝散(54)/抑肝散加陳皮半夏(83)


「不安と緊張」「緊張と怒り」を明確に分離することは難しく、
現実には混在することが多いと感じます。
外来ではこれらの漢方薬を処方する機会が多いですね。
 
余談ですが、「不安」と「緊張」は分けられるのか?とAIに訊いてみました。
すると明確な答えが返ってきました。

・心理学において「不安」と「緊張」は異なる感情として考えられています。

・不安は、漠然とした心配や恐れを伴う感情であり、
 特定の原因が明確でない場合もあります。
 これは、未来に対する予期不安や、
 何か悪いことが起こるのではないかという感覚から生じます

・緊張は、特定の出来事や状況に対する反応として現れます。
 例えば、試験やプレゼンテーションの際に感じる緊張は、
 具体的な状況に対する身構えた状態を指します。
 緊張は、身体的な緊張感や心の高まりを伴うことが多いです

・このように、不安は一般的で漠然とした感情であり、
 緊張は特定の状況に対する反応であるため、
 心理学ではこれらを分けて考えます。
 また、不安が続くことで緊張状態になることもあれば、
 緊張から不安が生じることもあります。
 したがって、両者は関連しつつも異なる感情として理解されるべきです。

・・・なるほど。 

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