宮内倫也先生による神経発達症と漢方の公園を視聴しました。
西洋医学的知識と漢方医学的解説の両方が出てきて役に立ちました。
漢方薬を考える際は、やはりここでも「五臓論」が登場します。

ASDの発症因子の解説を興味深く聴きました。
リスクが2倍以上になる因子は、
① 出生時の要因:早産、新生児仮死、妊娠感覚が1年未満
② 両親の年齢:母>40歳、父>50歳
・・・私が常々感じてきたことと一致しました。

メンタル不調を訴える思春期の患者さんを診療していると、とにかく「不安」が強いことが印象的です。ASDの子どもたちも、コミュニケーションが苦手で社会参加が十分にできないことから、さらに不安が増すことが考えられます。

一方、ADHDの併存症はASDと少し異なります。生活上のストレスにより自己評価が低下し、それをきっかけに悪循環、それが・・・
(内在化)うつ病、双極症、不安症
(中間)複雑型PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症
(外在化)物質使用症、反抗挑戦症、素行症、反社会性パーソナリティ症
と、一部は精神疾患につながるとのこと。

また、神経発達症を五臓論で解釈すると、ADHDとASDは異なる捉え方をしていました。

・ADHD

腎:腎精不足

肝:肝陽上亢・肝風内動

心:心火偏亢・心神不安

・ASD

脾:脾胃虚弱・痰迷心竅

肺:肺虚熱・肺失粛降
ASD/ADHD併存

気血両虚による心血/肝血不足(虚熱)

肺失粛降による肝火/心火



▶ 脳内のシナプスの刈り込みと疾患

・小児期はシナプス形成が盛んで、思春期以降に刈り込みが行われ、成人期に安定する。

(ASD:自閉スペクトラム症)シナプス形成が過剰、刈り込みが不十分

(SZ:統合失調症)シナプス形成はふつう、刈り込みが早期で過剰

(AD:アルツハイマー病)シナプス形成はふつう、老年期に刈り込みが過剰


▶ ASD(自閉症スペクトラム)の因子(Odds/relatibe risk ratio)

・新生児仮死(低酸素血症) → 1~8

・妊娠糖尿病 → 1.5

・妊娠中のバルプロ酸 → 1.5

・妊娠間隔が1年未満 → 2

・高齢出産(>40歳) → 1~2

・父が高齢(>50歳) → 1~3

・兄弟がASD → 8~10

・早産 → 1~4

・母の肥満 → 1~1.5

・葉酸摂取 → <1


▶ ASDの特性(Nat Rev Dis Primers. 2020 Jan 16;6(1):5)

神経生物学的な特性(脳機能・神経発達の違い)

・知的障害、非定型的な対人交流(対人コミュニケーションの特性)

   ⇩

・学業達成の制限、限定的・制限された社会経験

  ⇩

・社会的・経済的機会の減少


ASDの併存症(Nat Rev Dis Primers. 2020 Jan 16;6(1):5)

【幼児期】~6歳頃

不安症(50%)

ADHD(40%)

・限局性恐怖症(40%)

・反抗挑戦症/素行症(20%)

【小児期~思春期】~12歳頃

不安症(30%)

ADHD(30%)

・反抗挑戦症/素行症(15%)

【成人期】

不安症・社交不安症(30%)

・うつ病(20%)

・強迫症・強迫性障害(20%)


▶ ADHDと睡眠の問題

ADHDが主体:ADHD症状が睡眠問題をもたらす/増悪させる

相互作用:相互因果関係/共通の病因

睡眠の問題が主体:睡眠の問題がADHDをもたらす/ADHDをミミックする


ADHDの併存症

一押しとなる要因

・自己評価低下

・心的外傷

・低IQ

・人格形成への影響

以上により、

 → 内在化すると・・・うつ病、双極症、不安症

 内在化と外在化の中間・・・複雑型PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症

 → 外在化すると・・・物質使用症、反抗挑戦症、素行症、反社会性パーソナリティ症


▶ ASDに併存するADHDはADHDなのか?

ASD:コミュニケーションの症状

ASD/ADHD合併症:認知の不安定性の症状、FPNの乱れ

ADHD:認知の不安定性の症状、DANの乱れ

※ FPN:frontoparietal network,  DAN:default mode network


▶ 神経発達症では正気(気血津液)+「精」が重要

先天の精

・両親から受け継いだ生命の基礎物質(気血津液の源)

・成長、発育、生殖のベースとなる。

・絶えず後天の精の補充を受け、腎で腎精として蓄えられる。

後天の精

・後天的に飲食(水穀)を脾胃が消化吸収して得られる栄養物質

・全身の臓腑組織へ運ばれ、それぞれの生理機能の働きを果たす上で基本物質となる。

・絶えず腎に集まり、先天の精の働きを補う。

腎精と気血津液のイメージ

・腎精:ダムにたまった水

・気:その水が流れ落ちて発生する電気

・血:水が運び出す養分

・津液:水が周囲を湿らせるうるおい


▶ 知的発達症を含む神経発達症

・先天の精の不足(腎精不足)と考えられている。

五遅五軟

 五遅:立遅、行遅、髪遅、歯遅、語遅

 五軟:頭軟、項軟、手軟、足軟、口軟


▶ “虚熱”を理解する

腎精不足により“水不足”となることで、大地は干上がって温暖化が進んでしまう。

・一時的な熱は「実熱」、二次的な熱は「虚熱」

・虚熱は冷ますだけでは解決しない。

① 水不足 → 水を補う

② 温暖化 → 熱を冷ます


▶ 熱により生まれる痰

津液により煮詰まってドロドロになる。

・さらに熱により脾や肺の水分代謝バランスが崩れ、が持続的に生まれる。

・脾胃は生痰の源、肺は貯痰の器

・この痰が様々な症状につながり、張景岳が「怪病気病は痰に属す」と述べるほど。


▶ 生津と化痰のバランス

・虚熱では水不足を想定するため生津作用を意識する。

・痰がたまることに対しては化痰作用(水を散らす)を意識する。

(例)麦門冬湯・・・半夏と麦門冬

(例)柴胡桂枝乾姜湯・・・乾姜と栝楼根


▶ 神経発達症は腎が基盤となる

1.腎

・生命の貯蔵庫

・発達の土台

・脳の成長

2.肝

・情緒の交通整理

・感情やそれに基づく行動の制御

3.心

・精神の司令塔

・精神、意識、睡眠、言葉

4.脾

・エネルギー工場

・思考の整理、脳への栄養補給

5.肺

・バリア

・感覚フィルター、呼吸


▶ ADHDと五臓

1.腎 ・・・腎精不足

2.肝 ・・・肝陽上亢・肝風内動

3.心 ・・・心火偏亢・心神不安


▶ ASDと五臓

4.脾 ・・・脾胃虚弱・痰迷心竅

5.肺 ・・・肺虚熱・肺失粛降


▶ ASD/ADHD併存と五臓

・気血両虚による心血/肝血不足(虚熱)

・肺失粛降による肝火/心火

▶ 神経発達症の症状と五臓

2.肝 → 多動性・衝動性

2&3 → 焦燥・てんかん発作

3.心 → 不安・不眠・不注意

4.脾 → こだわり・疲労

5.肺 → 感覚過敏


▶ 神経発達症に対する漢方薬


心・肝の問題が大きい場合

大柴胡湯(8)+抑肝散(54)・・・飯田処方

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)+抑肝散(54)・・・飯田処方変法


突発的な症状が大きい場合

大柴胡湯(8)+甘麦大棗湯(72)・・・甘麦大棗湯は養心安神作用や補気健脾作用(肺虚熱も静まる)で様々なASD症状への配慮あり、ただし甘草が多いので注意。

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)+甘麦大棗湯(72)・・・大柴胡湯と柴胡加竜骨牡蛎湯は甘草を含まない点で合方しやすい。


フラッシュバックの場合:心血の著しい虚のことが多いと理解されている

四物湯(71)+桂枝加芍薬湯(60)・・・神田橋処方

十全大補湯(48)+小建中湯(99)・・・神田橋処方変法

フラッシュバック怒りを伴う場合

温清飲(57)+桂枝加芍薬湯(60)・・・神田橋処方に清熱を噛ませる。

脳波異常がある場合

柴胡桂枝湯(10)+桂枝加芍薬湯(60)・・・相見処方。「脾胃は生痰の源、肺は貯痰の器」。てんかんは痰迷心竅や風痰が原因、桂枝湯成分でしっかりと痰を捌いている。

感覚過敏からの易刺激性がある場合

人参養栄湯(108)・・・遠志による開竅作用や五味子によるの生津作用もあり、五臓をカバーしたマルチプレイヤー。気血両虚が目立つ場合はASDの一時的な病態に伴う諸症状に対して気長に使いたい方剤(人参養栄湯+大柴胡湯など)。

竹筎温胆湯(91)・・・竹筎によるの清熱化痰作用が特徴であり、人参や茯苓による補気健脾作用も期待できる。長期の使用で清熱化痰が気になるときは、帰脾湯や人参養栄湯との合方で使用する。

天候に左右される場合

茵蔯五苓散(117)・・・清熱利湿作用を持つので、天候に左右されやすい諸症状や口渇やイライラなどを併せ持つときに有効(化痰作用は弱い)。長期の使用で清熱利湿が気になるときは、帰脾湯(65)や人参養栄湯(108)との合方で使用する(人参養栄湯との合方は神田橋処方2号

血虚・虚熱が目立つ場合

六味丸(87)・・・腎陰虚に特化している。気虚がなく血虚が目立つ場合はASDの一時的な病態に伴う諸症状に対して気長に使いたい方剤(六味丸合柴胡加竜骨牡蛎湯など)


▶ 状況に合わせてアレンジする

イライラが強い
・まず肝の問題を収めてから脾や肺や腎の長期カバーに入るか
・両方への配慮をした処方を最初から行うか。

疲労や感覚過敏が大きい
・まず脾や肺を立て直す。



某研究会で宮内倫也先生の講演を聴きました。
この先生は、精神科医で漢方使いなのですが、昔(10年以上前)に彼の著書を読んだことがあります。しかし、当時の私にはちんぷんかんぷん。今回は少し頭に入りました。やはり中医学系だったことがわかります。
備忘録としてメモを残しておきます。


▶ 「正気」と「病邪」

1.正気
・生命力&抵抗力
気・血・津液の3つの要素からなる

① 気:体内を巡る目に見えないエネルギー

② 血:全身に栄養とうるおいを運ぶ物質

③ 津液:血液以外のあらゆる正常な水分

・気・血・津液は独立変数ではなく、手を取り合って巡っている。

 ✓ 気は血の師

 ✓ 血は気の母

・ほどよい量がほどよく巡るのが健康、量が減るのが“虚”、巡りが滞るのが“滞”。

2.病邪

外因・内因・不内外因の3つからなる。

外因:気候や環境の異常な変化が人体に侵入して起こす病気のもと。

(例)梅雨の時期は体が重い

内因:人体の内部から生じる病気の原因であり、感情の過度な変動(内傷七情)が代表。

(例)精神的ストレス

不内外因:生活習慣(食事、嗜好、労働、睡眠、性生活など)

3.正気と病邪のバランスで病気が決まる

1.外感病:(正気:実)+(病邪:実)

2.多くの雑病:(正気:やや虚)+(病邪:やや実) 

・雑病では気滞に陥り、病理的産物(悪血、痰湿)が生成される

・さらに気滞・病理的産物・正気・病邪が互いに影響し合って病像を作る

(具体的に言うと)

  患者さん側の因子(遺伝、発達、生活習慣など)

   ×

  環境側の因子(種々のストレッサー、気候の変化)

   ⇩

  精神症状(正気の虚、気滞、病理的産物)

▶ 治療原則:「扶正」と「祛邪」
扶正)正気を助けること
祛邪)病邪を追い出すこと

▶ 治療の実際:扶正と祛邪のどちらを重視するか?
 → 病状により治療を変える
イライラの強いうつ症状 → 祛邪メイン
(例)大柴胡湯(8)合香蘇散(70)
疲労感の強いうつ症状 → 扶正メイン
(例)十全大補湯(48)
いずれもあるうつ症状 → 祛邪&扶正の両方を同時に、もしくは扶正を優先
(例)十全大補湯(48)合四逆散(35)

▶ 抑うつ・イライラ・疲労感に対する処方マップ

気虚

 六君子湯(43)

 補中益気湯(41)

 帰脾湯(65)

 十全大補湯(48)

 人参養栄湯(108)

気滞

 苓桂朮甘湯(39)

 香蘇散(70)

 半夏厚朴湯(16)

 四逆散(35)

 加味逍遥散(24)

 加味帰脾湯(137)

 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

 抑肝散(54)

 大柴胡湯(8)

 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

 抑肝散(54)

 大柴胡湯(8)

 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

 抑肝散(54)

 黄連解毒湯(15)

 加味逍遥散(24)

 加味帰脾湯(137)

<漢方関連記事の目次>

▢ 総論
子どもに漢方?
漢方薬の上手な飲ませ方
漢方の飲ませ方のコツ
マルツエキスで漢方を飲ませる方法
漢方の副作用

▢ かぜ
風邪の経過と漢方
 ・風邪のひき始め(2剤併用)
 ・風邪を引いて数日(2剤併用)
 ・風邪がよくならない
発熱
咽頭痛

咳(2剤併用)
鼻汁・鼻閉
鼻汁・鼻閉-1
鼻汁・鼻閉-2
副鼻腔炎(ちくのう症)

▢ お腹の症状
悪心・嘔吐(2剤併用)
食欲不振・倦怠感(2剤併用)
下痢(2剤併用)
便秘(2剤併用)
しゃっくり(2剤併用)

▢ いろいろな不調
夜なき
かんしゃく・夜なき
睡眠の悩み(夜なき・眠らない・眠れない)
不眠症
不眠症(2剤併用)
偏食
チック
熱中症
多汗症・寝汗
冷え性(2剤併用)

▢ 頭痛
頭痛
頭痛(2剤併用)
頭痛(天気痛)
天気痛・気象病

▢ 神経発達症(ASD/ADHD)関連
神経発達症の困りごと
自閉症スペクトラム-1
自閉症スペクトラム-2
神経発達症と五臓論
・神経発達症に使用される西洋薬・漢方薬(作成中)
・HSP(繊細さん)(作成中)

▢ 皮膚の病気
水いぼ
じんましん
じんましん(2剤併用)
ニキビ(総論)
ニキビ
ニキビ(2剤併用)
ニキビ
帯状疱疹(2剤併用)

▢ 思春期の心のトラブル&メンタルの不調
メンタルの不調
気分(ドキドキ、イライラ、ウツウツ)
不安
不安障害・パニック(2剤併用)
動悸(2剤併用)
ストレスによる体調不良
心のトラブル
心のトラブル(方剤解説)
のどの違和感(2剤併用)

▢ 起立性調節障害(OD)・自律神経失調症関連
起立性調節障害(病気の解説)
起立性調節障害(気ぐすり)
起立性調節障害-1
起立性調節障害
起立性調節障害-2(フクロウ型体質)
起立性調節障害-3(水毒)
自律神経失調症
OD漢方:基本処方
OD漢方:病態

▢ 月経関連
月経痛・生理痛
月経不順
月経関連のトラブル(月経痛/生理痛・生理不順)
月経関連トラブル(2剤併用)
PMS(月経前症候群)
PMS(月経前症候群)
・更年期障害(作成中)
更年期障害(2剤併用)

▢ 病態・理論
舌診
寺澤の気血水スコア
こどもの漢方医学的特徴は“二余三不足
「不安」を中医学で捉えると
「過緊張」を中医学で捉えると
「イライラ」を中医学で捉えると
・「パニック」を中医学で捉えると
メンタルの不調を「気」と「血」から捉えると
漢方医学における虚実概念の混乱
月経関連漢方を気血水理論から分析してみると

「自律神経失調症」という病名、怪しいですよね。

体調不良で医者にかかり、検査で異常が検出されないとこの病名がつけられる傾向があります。

あるいは、「気のせいでしょう」とか「心療内科・精神科へ行ってみますか?」と誘導されてショックを受けたり。


漢方好きの私から見ると、

「気のせい」=「気の異常」

です。

漢方医学では「気」という概念を用いてその患者さんの病態を把握し、それに見合う漢方薬を処方して治療してきました。

見立てが合えば、手応えがあります。


私は子どもたちのメンタルの不調を漢方で治療することを目標にしています。

乳幼児期の夜泣き、かんしゃく。

幼児学童期の寝ぼけ、自家中毒、登校・登園しぶり、反復性腹痛。

思春期の起立性調節障害、倦怠・疲労感、反復性腹痛・頭痛、不登校、メンタルの不調(不安・緊張・イライラ・ウツウツ)、等々。


今まで診療してきた印象では、「水毒」体質、「脾虚」体質の虚弱児が、ストレスにさらされてそれに反応し「気」の異常(気逆・気うつ・気虚)をきたしている病態であると考えています。


今回、谷川聖明先生による自律神経失調症のセミナーを視聴しました。

理論的でかつわかりやすくて、私のお気に入りの専門家です。

スライドを細見してみましたが、やはり捉えどころがないというか、頭の中で整理しにくいですね。

ポイントと感じた箇所を引用・抜粋させていただきます。


<ポイント>


▶ 自律神経失調症とは

・体の動きを自動で調節している「自律神経」のバランスが乱れ、さまざまな心身の不調が出る病態。

・身体症状:動悸、めまい、頭痛、だるさ、胃腸の不調、手足の冷え、発汗異常、不眠

・精神的な症状:不安感、イライラ、気分の落ち込み、集中力低下


▶ 気の異常(漢方医学的概念)

・気虚(気の不足):疲労倦怠、易疲労、気力低下、食欲不振、食後の眠気、風邪を引きやすい

・気滞(気の滞り):抑うつ、のどや胸のつまり感、腹部の張り、時間で症状が動く、排ガスが多い、ゲップが多い

・気逆(気の逆行):症状が発作的、冷えのぼせ、動悸、顔面紅潮、焦燥感、手足の汗、イライラ、驚きやすい


▶ 気の異常に対する代表的漢方薬 〜陰陽虚実の視点から〜

陽・実    → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

陽・虚実中間 → 半夏厚朴湯(16)

陽・やや虚  → 加味帰脾湯(137)

陽・虚    → 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)


▶ 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)

気逆に対応

・構成生薬の竜骨・牡蛎は動揺する精神を安定させる効果がある。

・適応:

✓ 体力が衰えている人で、症状の根底に強い不安感を抱いている場合に。

✓ 自律神経失調状態により神経過敏と也、動悸や不眠などの症状を訴える方に。

✓ 「悪夢を見る」というキーワードが使用目標になることがある。

✓ 比較的年配のやせ型の女性で、常に不安を感じオドオドしたタイプの方には特に有効。

・効果:愁訴の根底にある不安感を改善させることにより、諸症状を緩和することができる。


▶ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

・陰陽虚実:陽・実

・気血水:気逆、気滞が併存

・適応:ストレスにより交感神経芽か緊張状態となり、不安、抑うつ、イライラ、神経過敏などの精神神経症状を訴える場合。

・竜骨・牡蛎という精神安定作用を持つ生薬を含み、精神不安や抑うつ状態を改善する効果がある。

▶ 半夏厚朴湯(16)

・気血水:気滞

・年齢:ストレス世代

・徴候:

① 咽喉頭異常感症(咽中炙臠)

② 狭心症様症状・喘息様症状

③ 腹部膨満・腹痛・めまい

④ 神経質・几帳面

・適応:

✓ 心気的でこだわりが強い方

✓ 自分の症状をしっかりメモに書いてくるような方

✓ ストレスなどにより気の流れに停滞が生じ、気がうっ滞した部位に閉塞感やつまり感を自覚する方

✓ ヒステリー球、咽中炙臠、梅核気は本剤の使用目標

・心理傾向:末梢性気うつ

✓ 心理的葛藤を身体表現にして解放する。

✓ 精神的に行き詰まると、弱いところ・敏感なところに不快な症状として具体的に現れ、愁訴が安全弁になっている場合がある。

▶ 香蘇散(70)

・適応:① 胃腸虚弱・高齢者の風邪、② 食事性蕁麻疹

・年齢:虚弱者・中高年

・徴候:

① 食事性蕁麻疹

② うつ状態(無力様顔貌)

③ 腹部膨満・腹痛

④ かぼそい声・小さな字

・心理傾向:中枢性気うつ

✓ 心理的葛藤が内向し、鬱々悶々としている。

✓ 身体表現が下手で精神的な息詰まりを上手に解放できない傾向にある。

▶ 精神神経症状4処方の使い分け(気の異常と患者さんの特徴)

・気逆:打ち解けにくい → 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)

・気逆:打ち解けやすい → 加味逍遥散(24)

・気逆>気うつ:打ち解けにくい → 抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)

・気虚>気うつ:打ち解けやすい → 加味帰脾湯(137)


▶ 過剰適応(overadaptation)

・内的な欲求を無理に抑圧してでも、外的な期待や欲求にこたえる努力を行うこと。

・過剰適応になりやすい人の特徴:

✓ まじめ

✓ 頑張り屋

✓ 頼まれるとイヤと言えない

✓ 相手の期待に添う

✓ よいこ

▶ 代表的な婦人科処方薬の陰陽虚実

陽実:桂枝茯苓丸(25)

陽虚:加味逍遥散(24)

陰・虚実中間:温経湯(106)

陰虚:当帰芍薬散(23)


▶ 加味逍遥散(24)を構成する4つのユニット

① 当帰・芍薬・牡丹皮 → 補血、駆瘀血

② 茯苓・白朮・甘草・生姜 → 利水(胃腸の働きを整える)

③ 薄荷、山梔子 → 清熱(精神安定)・・・カッと熱くなって発汗し、スッと引くという「熱のふけさめ」

④ 柴胡 → 自律神経系の緊張緩和


▶ 加味逍遥散(24)

・証:陽虚、瘀血・気逆

・腹診:胸脇苦満、臍傍圧痛、臍上悸

・適応:

✓ 疲労しやすく、精神不安、不眠、イライラなどの精神神経症状

✓ 換気の高ぶりによる、上半身を中心とした熱感や発作性の発汗


▶ 柴胡桂枝乾姜湯(11)と加味逍遥散(24)の証

柴胡桂枝乾姜湯:気逆>気滞

加味逍遥散:瘀血・気逆>血虚・気滞・気虚



<生薬解説>

▶ 生薬解説「竜骨」

・古代の大型ほ乳動物の骨の化石(サイ、ゾウ、マンモスなど)。

・骨は人体でも最も硬い収斂した組織で「気の収斂力が高い」と考えられている。

・動揺する精神を安定させ、気持ちを座らせる効果がある。

・体に必要なものが外に漏れてしまうのを防ぐために用いられる。


▶ 生薬解説「牡蛎」

・牡蛎の殻

・動揺する心神・肝を重しを乗せるように安定させる。

・不安・動悸・不眠に対する鎮静剤。

・体に必要なものが外に漏れてしまうのを、殻で覆うかのように防ぐ。

(例)寝汗、失禁、夢精、帯下、等。


▶ 竜骨と牡蛎の違い(山本巌先生)

・両者の作用は似ている。ともに鎮静作用があり、精神を安定させ、胸腹の動悸を鎮め、弛緩作用がある。

・心悸・煩驚(神経過敏状態)・不眠・多夢などに用いる。

竜骨は安神作用が優れ、牡蛎は心悸を鎮める


▶ 生薬解説「茯苓」

・体から余分な水分を取り除く利水作用がある。

・水毒によるむくみ、めまい、胃内停水などを改善する。

脾の作用を高めることで気を補う効果があり、食欲不振、胃もたれ、嘔気・嘔吐などの消化器症状によく用いられる。

精神を安定させる(=安神)作用にも優れ、不安・不眠・動悸などの精神神経症状にも使用される。


▶ 生薬解説「大黄」

瀉下剤として用いられる。

清熱(抗炎症)活血(血の巡りを改善)する作用がある。

・活血や瀉下により気を下に下ろすことによって、のぼせや興奮など精神的に落ち着かない状態を改善する。


▶ 生薬解説「蘇葉」

・ふだん食用で用いる青じそではなく赤じそを使用する。シソの香りが強いものを良品とする。

・香りの作用で風邪(ふうじゃ)を追い払い、肺や脾胃の気を巡らせる理気作用がある。

・気滞を取り除くことで、嘔気・嘔吐・胸のつかえや不安感などを改善する。

・気滞の代表薬である香蘇散(70)や半夏厚朴湯(16)に含まれる。


▶ 生薬解説「薄荷」

・辛涼解毒剤

・清涼感のある香りが熱を冷まし気を巡らす

・薄荷含有方剤:川芎茶調散(124)、清上防風湯(58)、滋陰至宝湯(92)、竜胆瀉肝湯(76)


▶ 生薬解説「山梔子」

・清熱瀉火:三焦の火熱を瀉し、祛湿解毒する

・熱を冷まし気持ちを静める働き、大便溏泄作用

・山梔子含有方剤:黄連解毒湯(15)、温清飲(57)、加味逍遥散(24)、梔子柏皮湯、加味帰脾湯(137)

▶ 生薬解説「柴胡」

・気血水:気滞 → 理気薬

・気を巡らせ、体にこもった熱を発散させる。

・炎症を抑える。

・怒りの感情を穏やかにする。

・気を持ち上げる。

・ウツウツとした感情を回復させる。



<備考>

★ コタロー香蘇散(N70)の適応:長期処方可能

神経質で、頭痛がして、気分がすぐれず食欲不振を訴えるもの、あるいは頭重、めまい、耳鳴を伴うもの。

感冒、頭痛、じんま疹、神経衰弱、婦人更年期神経症、神経性月経困難症

★ コタローの加味逍遥散(N24)は男性にも処方できる

・頭痛、頭重、のぼせ、肩こり、倦怠感などがあって食欲減退し、便秘するもの。

・神経症、不眠症、更年期障害、月経不順、胃神経症、胃アトニー証、胃下垂症、胃拡張症、便秘症、湿疹



<参考>

・「自律神経失調症」に対する漢方治療(2026.6.4)

(谷川聖明:谷川醫院)

西洋医学ではまだこの「天気痛・気象病」の病態を捉えきれず、一方の漢方医学では「水毒」という概念が合致し、水毒に対する漢方薬が見事に効くという現実があります。

私も風邪で受診した患者さんを診察しているとき、水毒・水滞徴候(※)が目立つと、
「もしかして車酔いしやすいですか?」
と聞きます。ご家族は、

「なぜわかるんですか?」
と不思議がりますが、舌を診ると一目瞭然なのです。

そのような例には、ご希望により、五苓散を頓服薬として処方することがあります。


※ 水毒・水滞徴候:
✓ 胖大舌:舌がボテッとしてむくんでいる
✓ 歯痕:舌辺縁に歯形がある
✓ 振水音:上腹部を軽く叩くとポチャポチャ音がする


久手堅司先生の講義メモから、ポイントと感じた箇所を引用・抜粋させていただきます。


<ポイント>


▶ 治療の柱は以下の3つ:

① 投薬治療:漢方薬中心

② セルフケア指導:生活習慣の工夫、ストレッチや呼吸法の指導

③ 骨格の歪みを改善:パーソナルトレーニングやヨガ・ピラティスなど背骨の動きをよくする運動療法や、整体・鍼灸などを提案


▶ 第一選択薬は五苓散

✓ 水毒の徴候に気象病の症状が合致している。

✓ 五苓散は水毒を改善する利水剤の基本薬。体内の水分代謝異常を調整し、正常に戻す。

✓ 約70%に有効

✓ 肩こりを伴う例では筋弛緩薬を併用すると効果が出やすいが、副作用(眠気・筋力低下)もあるため、できれば単独投与する。

✓ 過去に五苓散の投薬歴があり無効例でも、1日3回服用してもらうと改善する例もある。最低2週間投与し、できれば4週間投与する。3〜4週から効果が出始める症例も多く、また、休薬後に「効いていた」と実感する患者さんもいる。


▶ 水毒でよくみられる症候

✓ 浮腫(水腫)

✓ 車酔い、悪酔い、嘔吐、下痢しやすい

✓ めまい、耳鳴、頭痛

✓ 冷え症

✓ 症状が季節と天候の影響を受ける


▶ 五苓散単独で手応えがない場合


五苓散+西洋薬

 ⇨ 緊張型頭痛:エペリゾン(ミオナール®)、チザニジン(テルネリン®)等

 ⇨ 片頭痛:バルプロ酸(デパケン®)、ロメリジン(ミグシス®)、プロプラノロール(インデラル®)、トリプタノール、等

 ⇨ めまい:ベタヒスチンメシル(メリスロン®)、ジフェニドール(セファドール®)等

 ⇨ 低血圧・起立性調節障害:ミドドリン(メトリジン®)、アメジニウム(リズミック®)等

※ CGRP関連抗体薬使用例では、五苓散は補足的な立場になる。ただし、五苓散が有効な場合が多く、CGRP関連抗体薬導入に至る例は少ない。

五苓散+漢方薬

 ⇨ 緊張性頭痛:葛根湯(1)

 ⇨ 片頭痛:呉茱萸湯(31)

 ⇨ めまい:半夏白朮天麻湯(37)、苓桂朮甘湯(39)

 ⇨ 低血圧・起立性調節障害:苓桂朮甘湯(39)、麻黄附子細辛湯(127)

 ⇨ 全身倦怠感・だるさ:補中益気湯(41)

 ⇨ 不眠:抑肝散(54)

 ⇨ 生理不順:当帰芍薬散(23)

 ⇨ 胃腸不良:六君子湯(43)


▶ 五苓散からの切り替え

・半夏白朮天麻湯(37):めまい、頭痛

・苓桂朮甘湯(39):めまい

・葛根湯(1):肩こり・頭痛

・呉茱萸湯(31):片頭痛・冷え

・抑肝散(54):不眠

・補中益気湯(41):倦怠感・虚弱体質

・六君子湯(43):胃の不調、食欲低下、易疲労


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