月経前症候群(premenstrual syndrome, PMS)というワードを聞いたことがありますか?

簡単に言うと、生理中だけ腹痛‣腰痛でつらいのは月経困難症と呼び、
生理前にいろんな体調不良が襲ってくる状態を月経前症候群と呼びます。

医学的には、「月経前3〜10日に起こる精神的あるいは身体的症状で、月経開始後すみやかに消退あるいは軽快するもの」(日本産婦人科学会)
と定義される病態です。

からだの不調(身体的症状)だけでなく、こころの不調(精神的症状)もあるのが特徴です。

<身体的症状>
 乳房が張ったり痛んだりする
 腹痛・腹部膨満感
 腰痛
 頭痛
 手足のむくみ感
 便通異常(便秘・下痢)
 全身倦怠感、易疲労
 吹き出物が多くなる、等

<精神的症状>
 イライラして攻撃的になりやすい
 気分の落ち込み(※)
 睡眠障害(不眠・過眠)
 集中力低下
 不安・焦燥感
 過食傾向、等

※ うつ病とは継続期間が2週間を超すことがないことで鑑別されます。

アメリカ精神医学会による精神疾患の診断基準(DSM-5)においては「抑うつ症候群」の一病態として扱われています。

さらに、PMSの中でも精神症状が強いタイプを、
「著しい精神症状(ウツウツ、イライラ)や情動変化(泣く、わめく、など)を伴う月経前気分障害(premenstrual dysphoric disorder, PMDD)」として別に分類しています。

近年、PMSとPMDDをまとめてPMDs(Premenstrual Disorders)と呼ぶ傾向があるそうです。
月経痛が重ければPMDsを合併率も高くなり、重度月経痛の25%にPMDsが合併します。

さて、月経前症状は成人女性の50〜80%にみられ、決して珍しいものではありません。
このうち、日常生活に支障がある程度のものは10%未満。
年齢別でみると中等度以上のPMSは、
・成人で5.3%
・高校生で11.8%
と(成人)<(女子高生)いう驚くべきデータがあります。10代の方が多いのですね。
学校欠席率を見ると、月経痛で7%、PMDsで6%と無視できない数字です。
PMS症状を自覚するのは初経年齢とは関係なく、15歳前後が多いと報告されています。
初経後、生理痛を発症するまで1年、PMDsを発症するまで3年が標準です。

思春期における生理関連体調不良(月経随伴症状)の内訳は、
 PMS:61.4%、非PMS:38.6%
PMSの内訳をさらに細かく見ると、
 PMSのみ:35.2%
 PMS+月経困難症:53.4%
 PMS+月経不順:7.6%
 PMS+月経不順+月経困難症:3.8%
という報告もあります(Derman, et al. 2004)。

思春期女子の皆さん、他人事ではありません!

西洋医学では治療として、低用量ピル(OC・LEP)や抗うつ薬(SSRI、SNRI)、
鎮痛剤などが用いられます。

10代女子にLEPやSSRI処方をためらう医療者も少なくありません。
また副作用の問題などで西洋医学的治療が困難な場合、漢方薬の出番です。
実は日本産婦人科学会作成の「診療ガイドライン2020年版」
にも漢方薬の記載があります。

しかしPMSの症状は個人差が大きく「第一選択はこの漢方!」とはいきません。
生理痛(=月経痛/月経困難症)のところで説明した“駆於血剤”を中心に、
体格・便通・身体症状と精神症状のどちらがメインか、
などにより漢方薬を選択します。

では専門家の説明をいくつか紹介します。
ぜひ読み比べてみてください。
「私にはこの漢方薬が合いそう」
と探し当てたら、試してみましょう。

小児科医の私の視点から見ると、
女性に多用される駆瘀血薬(血の巡りが悪いときに用いる)のほかに、
メンタルの不調に用いられる方剤がラインナップされている印象です。
処方希望の方、当院にご相談ください。


後山尚久 先生が提案する漢方治療

・PMSの病態は、瘀血(血の巡りが悪いこと)がその中心となり、
気血水すべての平衡が乱れている。
・強い瘀血により血の巡行が妨げられて気滞が生じそれにより精神症状が出現するが、
瘀血の解除(月経)により症状が改善する、と捉える。
・PMSの中でも著しい精神症状(ウツウツ、イライラ)や情動変化(泣く、わめく、など)を伴う状態を月経前気分障害(premenstrual dysphoric disorder, PMDD)と呼ぶが、『傷寒論』によると桃核承気湯(61)の証がこれに近い。
・桃核承気湯(61)のほかには、苓桂朮甘湯(39)などの利水剤が中心となる。
・しかしながら、漢方においてもPMSに対する確立した治療法は存在しないのが現状であり、
身体症状が中心であれば、それに対する西洋医学的対症療法でもよいのではないかと考える。


杵渕 彰 先生が提案する漢方治療

・精神症状>身体症状:桃核承気湯(61)、女神散(67)、抑肝散(54)、加味逍遥散(24)など。
・身体症状のみ:桂枝茯苓丸(25)、当帰芍薬散(23)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)など。

<方剤解説>
1.桂枝茯苓丸(25):比較的体格がよく、腹診で下腹部に圧痛を認める。
2.当帰芍薬散(23):易疲労、冷えの訴えがある。水毒体質。
3.抑肝散(54):イライラ感がキーワードで用いられるが、痛みなどの症状にも有効。利水作用をより強める意味で抑肝散加陳皮半夏(83)を用いることもある。
4.加味逍遥散(24):更年期障害の第1選択薬であるが、PMSにも有効。
5.女神散(67):体格がよく、イライラ感が強い場合に用いる。抑肝散タイプのより実証の方へ。
6.桃核承気湯(61):体格がよく、便秘が強く、激しいPMS症状(〜PMDD)がある場合に用いる。
7.当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38):頭痛・腹痛が強く、四肢冷感が使用目標。
8.折衝飲:煎じ薬


小川真理子先生が提案する漢方治療

・西洋医学では、PMSに対する薬物療法として以下のものが使用される:
 OC(oral contraceptive)・・・経口避妊薬
 LEP(low dose estrogen progestin)・・・低用量エストロゲン/プロゲステロン(経口避妊薬)
 SSRI

OC・LEP一覧表

・PMSの病態は、漢方医学的には“瘀血”そのものである。
月経前によどんだ血液が体内に貯留し、月経と共にそれが流れて軽快する。
・よってPMSの漢方治療は駆瘀血薬が中心となる。
婦人科三大漢方薬と呼ばれる、
当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25)
から、まず一つ選んで処方してみるのがよい。
桃核承気湯(61)も適用できる。

当帰芍薬散】やせ型で月経不順や月経困難症を合併
加味逍遥散】メンタル面の訴えが多かったり、更年期様の不定愁訴がある。
桂枝茯苓丸】しっかり目の体格でほてりや頭痛を訴える。
桃核承気湯】便秘があってイライラ・ほてりが強い例。

・ストレスの関与も大きいため、瘀血と共に“気滞”への治療も重要。
抑肝散(54)および抑肝散加陳皮半夏(83)、半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)など。

抑肝散】イライラや易怒性に即効性があり、月経前のみ限定的に使用することも可能。
半夏厚朴湯】【香蘇散】気をめぐらす。

・月経前の浮腫や頭痛は“水毒”が関与しているため、そのような例には五苓散(17)などの利水剤を合わせると効果が期待できる。


◆ 小川恵子 先生(小児外科医)が提案するフローチャート

(月経前に)ささいなことが気になりますか?

はい → みぞおち(心窩部)の膨満が強い?
     → はい → 悲しい気持ちになりやすい?
          → はい → 香蘇散(70)
          → いいえ → 茯苓飲合半夏厚朴湯
     → いいえ → 落ち込みやすい?
          → はい → 乾燥肌、口渇は?
               → あり → 滋陰至宝湯(92)
               → なし → 加味逍遥散(24)、甘麦大棗湯(72)
いいえ → 怒りっぽい、イライラがひどい?
      → はい → 腹部不快感は?  
           → あり → 抑肝散加陳皮半夏(83)
           → なし → 便秘傾向?
                → はい → 桃核承気湯(61)
                → いいえ → 抑肝散(54)
      → いいえ → 当帰芍薬散(23)

<方剤解説>
香蘇散】(70):悲哀感、身体表現が下手で行き詰まりを上手に発散できない。
半夏厚朴湯】(16):ささいなことが気になる。神経質、几帳面(メモ魔)。
当帰芍薬散】(23):軽度のイライラ。腹痛、むくみやすい。
加味逍遥散】(24):落ち込みやすい、症状が変わりやすい。
抑肝散】(54):怒りっぽい。
抑肝散加陳皮半夏】(83):イライラしやすい、怒りっぽい。
桃核承気湯】(61):便秘傾向、逆上しやすい。


◆ 江川美保 先生が特にお勧めする半夏白朮天麻湯

・PMSには駆瘀血薬・気剤・利水剤のどれか一つをベースに処方を考える。
・PMDDには半夏白朮天麻湯(37)有効例がある。
 その有効例はPMSであれほかの疾患であれ、
「病気を患っている、あるいは改善できない症状を抱えている」
 状態が長期間にわたっているという点がポイント。
・五臓論では肝と脾は相克の関係で、
 ストレスの影響を受けやすい肝の乱れは消化吸収機能の脾を痛めつける。
 そこで、肝が抑えるか、脾を補うかということにおいて、
 半夏白朮天麻湯(37)はまさに脾を補う薬で、
 長期間のストレス状態にさらされたPMSの方達に投与すると、
 脾虚がよくなりベースアップが図れる。
・胃腸が弱い人(PMS/PMDDの標準治療であるピルもSSRIも吐き気が出るため服用を継続できない)に向く。

<方剤解説>
半夏白朮天麻湯】(37):気虚・気うつ・水毒・脾虚
・胃腸を整える六君子湯(43)に利水作用のある生薬を加えたもの。
・PMS+便秘 → 桃核承気湯(61)がよいが、PMS+IBS → 半夏白朮天麻湯(37)がよい。



<参考>

PMSラボ(大塚製薬)

PMSの診断基準(ACOG:
米国産婦人科学会, 2014)
過去3か月の月経前5日間に、
下記の情緒的または身体的症状のうち、
少なくとも一つを患者が訴えた場合PMSと診断できる。

(情緒的症状)抑うつ、怒りの爆発、いらだち、不安、混乱、社会からの引きこもり
(身体的症状)乳房の痛みまたは張り、腹部膨満感、頭痛、
       関節または筋肉の痛み、体重増加、手足のむくみ
それらの症状は月経開始後4日以内に消失し、
すくなくとも13日目までは再発しない。
症状は薬物の中断やホルモン接種、薬物やアルコール使用によるものでない。
症状は2周期の前方視的記録でも認められる
患者は社会的、学問的なたは仕事におけるパフォーマンスに明確な障害を示す。

PMDDの診断基準(DSM-5:米国精神科学会, 2014)
以下の基準A, B, Cをすべて満たし、
BまたはCの5つ以上の症状が存在
→ PMDD(premenstrual dysphoric disorder, 月経前不快気分障害)の診断。

(基準A)
ほとんどの月経周期において、
月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が見られ、
月経開始後数日以内に軽快、月経終了後の週には最小限か消失。

(基準B)
以下のうち一つまたはそれ以上が存在
1.著しい感情の不安定性
2.著しいいらだたしさ、怒り、または人間関係の摩擦の増加
3.著しい抑うつ気分、絶望感、自己批判的思考
4.著しい不安、緊張および/または高ぶっているとかいら立っているという感覚

(基準C)以下のうち一つまたはそれ以上が存在
1.通常の活動における興味の減退
2.集中困難の自覚
3.倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
4.食欲の著しい変化、過食
5.過眠または不眠
6.圧倒される、または制御不能という感じ
7.その他の身体症状

PMSの診断・管理(産婦人科診療ガイドライン、2020)
1.発症時期、身体症状、精神症状から診断する(A)。
2.カウンセリング、生活指導や運動療法を行う(B)。
3.利尿剤や漢方薬を処方する(C)。
4.ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠などの低用量エストロゲン・プロゲステロン配合薬を処方する(B)。
5.精神症状が主体の場合、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)により治療する(B)。
6.精神症状が強いときは精神科または心療内科に紹介する(C)。
※ 推奨度(ABC)解説;
 A:強く勧める、B:勧められる、C:考慮される

OC・LEP(低用量ピル) …「OC・LEPガイドライン2020」より
いずれもエストロゲンと黄体ホルモンの合剤
・OC(COCs):Oral contraceptives
 → 避妊を目的として用いるもの
・LEP:low dose estrogen progestin 
 → 月経困難症や子宮内膜症など疾患の治療を目的として用いるもの(日本独自の呼び方)

※ EP配合剤に含まれるエチニルエストラジオール
 中用量EP:50μg
 低用量EP:50μg未満
 超低用量EP:20μg以下