日本人の男性では約17%、女性では約22%に睡眠障害があると報告されています。
そして現在、睡眠の悩みはどんどん低年齢化しています。
大人で使われている睡眠薬の使用ができない子どもたちに、
漢方治療が応用できないか、調べてみました。

薬を使う前に生活習慣をまず見直しましましょう。
それだけで改善すれば、薬に頼る必要はありません。
厚労省作成の「睡眠障害対処12の指針」を紹介します。

1.睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分。
・睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない。
・年を取ると必要な睡眠時間は短くなる(例:思春期前までは9時間、25歳は7時間、45歳は6.5時間、65歳は6時間)。

2.刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法を。
・就寝前4時間のカフェイン摂取、就寝前1時間の喫煙は避ける
・軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング

3.眠くなってから床につく。就床時間にはこだわりすぎない。

・眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝付きを悪くする。

4.同じ時刻に毎日起床

・早寝早起きではなく、早起きが早寝に通じる

5.光の利用でよい睡眠

・目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン
・夜は明るすぎない照明を

6.規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣

・朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く
・運動習慣は熟睡を促進

7.昼寝をするなら、15時前の20〜30分

・長い昼寝はかえってぼんやりのもと
・夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響

8.眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに

・寝床で長く過ごしすぎると、熟睡感が減る

9.睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のピクつき・ムズムズ感は要注意

・背景に睡眠の病気、専門治療が必要

10.十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に

・長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談
・車の運転に注意

11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと

・睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる。

12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全

・一定時刻に服用し就寝
・アルコールとの併用をしない


一部、子どもには合わない記述もありますが、基本は変わりません。

人類の歴史は400万年とか言われていますが、
電気で夜も明るくなったのはせいぜいこの150年くらい。
その前の399万年と9850年は太陽が昇ると起きて活動し、
太陽が沈むと活動を止めて寝る、
という生活がひたすら繰り返されていましたので、
これが本来のヒトの生活リズムです。
そこに戻ることが、まず健康的と言えるのでしょう。

その生活リズムから外れた生活は、
自律神経の乱れを起こします。
日中の交感神経優位(onの状態)から、夜間の副交感神経優位(offの状態)への切り替えがうまくいかなくなり、
頭がさえて休めなくなると考えられています。

生活リズムや習慣を改めても、
解決できない睡眠障害は治療対象となります。

ただし、不眠の原因に病気が隠れていて、
その病気が西洋医学で治療可能であれば、
西洋医学治療が優先されます。

睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版より)

生活習慣や病棟の睡眠環境に問題  → あり:環境因による不眠
 ⇩なし
身体疾患による睡眠妨害  → あり:身体因による不眠
 ⇩なし
睡眠を障害しうる薬剤を服用  → あり:
薬剤性不眠
 ⇩なし
頻回の中途覚醒、あるいは過眠、睡眠中の窒息感
呼吸停止により中断される激しいイビキ  → あり:睡眠時無呼吸症候群
 ⇩なし
入眠障害、就寝時下肢の異常知覚  → あり:レストレスレッグ症候群
 ⇩なし
入眠障害、さらに中途覚醒
睡眠時の下肢不随意運動の自覚  → あり:周期性四肢運動障害
睡眠中の体動の増加
 ⇩なし
著しい入眠障害と起床困難  → あり:概日リズム睡眠障害、睡眠相後退型
 ⇩なし
中途覚醒、早期覚醒、抑うつ感、興味喪失  → あり:うつ病
 ⇩なし
早期覚醒、夕方からの眠気  → あり:概日リズム睡眠障害、睡眠相前進型
 ⇩なし             (高齢者の早期覚醒)
中途覚醒  → あり:中途覚醒型不眠症
 ⇩なし
入眠障害のみ  → あり:入眠障害型不眠症、精神生理性不眠


上のフローチャートで赤い文字の病名にたどりつたら、
西洋医学の治療が優先されます。
それ以外は西洋医学では解決できないタイプなので、
成人に使用される睡眠薬が使えない小児には、
漢方薬を試すことを提案します。

専門家の解説をいくつか紹介します。
私には大澤先生と杵渕先生の解説が分かり易いと感じました。
各解説は微妙に異なりますが、
頷ける解説、あなたに合う漢方薬を一緒に探しましょう。


大澤稔先生

眠れないことが病的レベルかどうかは、昼間の眠気の程度で判断します。
寝不足と思っても昼間ふつうに過ごせれば大丈夫ですし、
昼間眠くて活動に支障が出るようなら病的と判断されます。

漢方薬は「その場しのぎの睡眠を得る」のではなく、
「睡眠のリズムをコントロールしてくれる」薬なので、
飲み続けるうちに不眠を含めた体調不良が全般的・根本的に解決され、
最終的には漢方薬も休薬できることが期待できます。

もともと西洋医学の睡眠薬を服用している人で、効果が不十分と感じている場合、はじめは西洋薬と漢方薬を併用し、調子がよくなってきたら西洋薬を休薬していきます。


<不眠の治療フロー>

寝付きが悪い
 はい → 気持ちが落ち込んでいる → はい:加味帰脾湯(137)+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
 いいえ → 早朝に目が覚める:釣藤散(47)
     → 真夜中に目が覚める 音に敏感 → はい:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
                     → いいえ:抑肝散(54)

<方剤解説>

【加味帰脾湯】
こんな方へ:気持ちが落ち込んでいて、不安や心配の多い抑うつ傾向にあり、だるい、貧血などの症状が見られるヒト向き。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【加味帰脾湯】+【桂枝加竜骨牡蛎湯】
こんな方へ:嫌な夢をよく見て、いくら寝ても疲れが取れないようなヒト向き。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【酸棗仁湯】
こんな方へ:気持ちの落ち込みはなく、体は疲れているのに眠れないヒト向き。眠りすぎて困る過眠症にも有効。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【釣藤散】
こんな方へ:明け方に頭痛や耳鳴りがして、早朝に目覚めてしまうヒト向き。
※ 夜間高血圧で早朝目覚めてしまうヒトは専門医に要相談。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【柴胡加竜骨牡蛎湯】
こんな方へ:音や匂いに敏感で、動悸が強く、一度気になると眠れなくなったり、夜中に目覚めてしまったりするようなヒト向き。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【抑肝散】
こんな方へ:真夜中に目が覚めてしまう人で、ふだんからイライラしやすい、怒りっぽいヒト向き。チックが診られることがよくあります。胃腸が弱いヒトには抑肝散加陳皮半夏の方が適しています。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感


小川恵子先生

・昼食後の眠気 → 補中益気湯(41)
・嗜眠・過眠 → 酸棗仁湯(103)
・月経前睡眠障害(月経前症候群の一部) → 月経前症候群の治療参照

<方剤選択のポイント>

1.不安・不眠、決断できない、驚きやすい
・酸棗仁湯(103):疲れすぎて眠れない
・帰脾湯(65):疲れ気味
・加味帰脾湯(137):より鎮静効果あり

2.イライラがメイン
・抑肝散(54)
・抑肝散加陳皮半夏(83)

3.悪夢をよく見る
・桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

4.疲労がメイン
・補中益気湯(41)
・清暑益気湯(136)
・黄耆建中湯(98)


後山尚久先生

・漢方薬にはいわゆる“睡眠薬”はない。
・不眠症を全身症状の一つとして捉え、“心身一如”の考え方で「証」に従って漢方薬を選択し、気血水の調整により自然な眠りを得られるようにする。
・不眠の発生機序について記載のある『黄帝内経』を現代医学的に意訳すると、「交感神経の興奮が夜になっても続いており、副交感神経が優位にならず、神経が闘争的なまま夜を迎えてしまうため、覚醒状態が持続する」となる。
・帰脾湯(65)、酸棗仁湯(103)、加味帰脾湯(137)には中枢抑制作用の強い酸棗仁が配合されている。
・不眠の治療に用いられる方剤には、酸棗仁の他に柴胡や山梔子(さんしし)が配合されているものが多い。
・不眠症に使われる漢方薬は習慣性がないため長期間の服用が可能。

<方剤解説>

【抑肝散】裏熱虚証
・神経質でイライラするため眠れないヒト向き。
・神経過敏で興奮しやすく、怒りやすい、イライラするという不定愁訴を訴えて、その部分症状として不眠が認められる場合に適応。
・柴胡剤である。柴胡剤の内、不眠症の治療によく使われる方剤には、抑肝散加陳皮半夏(83)、大柴胡湯(8)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、加味逍遥散(24)などがある。

【帰脾湯】裏寒虚証
・倦怠感や疲労感があって元気のない不眠症向き。
・精神不安を訴え、取り越し苦労で疲れ果てるヒト向き。胃腸が弱ければ最適。
・気血双補剤、特に血虚のある例に。

【酸棗仁湯】裏熱虚証
・疲れて神経が高ぶっている場合
・体力が低下し、疲れて精神が昂ぶり眠れないヒト向き。

【黄連解毒湯】裏熱実証
・のぼせて(頭がさえて)いつもイライラしている場合
・山梔子(くちなしの実)が胸中の煩熱を消し、黄連が主剤となり心と脾胃の熱を取り、不安焦燥を沈静させて、黄柏、黄岑と協同して徹底して解熱することで不眠症を治療する。


杵渕彰先生

不眠の漢方的分類と処方

1.心熱 → 黄連剤(黄連湯、三黄瀉心湯)、柴胡剤(柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯など)
・精神的な興奮が収まらないために眠れない。
・寝る直前まで仕事をしていたり、パソコンでチャットをしていたりする場合。

2.胆虚・胆冷 → 温胆湯類(竹筎温胆湯など)
・不安感が強く眠れない場合。
・眠れないのではないか、翌日の仕事に差し支えるのではないかという不安があって眠れない。

1+2 → 抑肝散
・不安感と興奮が混在しており、寝付きが悪く、熟睡感のない不眠。

3.虚労 → 酸棗仁湯、補剤(人参湯、補中益気湯、十全大補湯など)
・心身ともに疲れ果て、体力の低下が著明な場合。
・効く対象患者は限られており多くはない、高齢者に有効なことが多い。

不眠の訴えで受診される患者さんの大多数は、精神生理性不眠(うまく寝付けなかったことがきっかけで、眠ろうと努力するほど緊張のために眠れなくなる)であり、ベンゾジアゼピン系薬剤を漫然と投与するより漢方薬を選択すべきである。