西洋医学にASD(自閉症スペクトラム)に対する根本的な治療法は存在しません。療育により、社会生活に適応できるよう訓練していきます。

漢方医学ではどうでしょうか。

それを説明する前に、まずASDの病態の大まかな捉え方を提示します。

ASD児がもともと有する性質を「一次障害」、環境により強い不安・緊張の反復・持続すると、その結果「二次障害」が発生すると考えられます。

(川嶋浩一郎先生のレクチャーのメモより)

ASDの一次障害:対人関係、コミュニケーション、想像力、変化適応能力の障害
  ↓
(環境による)強い不安・緊張の反復・持続
  ↓
ASDの二次障害:興奮、易怒性、パニック


小児漢方界では、環境による強い不安・緊張の反復・持続をやわらげることにより、二次障害には予防と対応ができるのではないか、と考えて診療に取り入れています。

ここで紹介する川嶋浩一郎先生、山口英明先生ともに、こころの不調・メンタルの不調を「不安」「緊張」「怒り」に分け、それに対応する漢方薬を提案しています。

ただ、私が実際に患者さんの話を聞いていると、「不安」と「緊張」は切り離せないのではないかと感じることがしばしばあります。

私の診療スタイルは、
「この薬から使ってみましょうか」
「これは今ひとつ手応えがなかったからこちらの方がいいかも」
などと患者さんに提案し、一緒に考えながら、体に合う漢方薬を探すというものです。

近年、川嶋浩一郎先生は、
「甘麦大棗湯(72)や十全大補湯(48)は一次障害にも効果を期待できる漢方薬」
と発言し、注目されています。ただし、講演では「短期間ではなく年単位で長く服用することが必要」と話されていました。

私が参加した講演やWEB配信セミナーから、ASD関連のメモをまとめてみました;


山口英明先生

<ASD治療に有効とされる漢方薬>

1.怯え・不安
2.緊張・不安定変動
3.怒り・興奮

1  :甘麦大棗湯(72)
2+1:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、大柴胡湯(去大黄)(8)
3  :黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
3+2:抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)


山口先生の解説では、不安・緊張・怒りが並列で扱われています。
ただ前述のように、不安と緊張が切り離せないことがままあるので迷います。


川嶋浩一郎先生

<ASDに対する漢方薬>

・ASDの一次障害に対する漢方:一次障害改善による二次障害軽減
 甘麦大棗湯(72)、十全大補湯(48)

・ASDの二次障害に対する漢方:扁桃体の鎮静や交感神経を抑制する漢方薬
※ 中止するともとに戻ることがある
芍薬甘草群)小建中湯(99)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、大柴胡湯(8)、柴胡桂枝湯(10)、四逆散(35)など
柴胡剤群)小柴胡湯(8)、柴胡桂枝湯(10)、大柴胡湯(8)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)


▢ こどもの漢方的特徴は「二余三不足
・肝(自律神経系)と心(循環系)が機能亢進
・消化系、呼吸系、腎泌尿・内分泌系が機能不足、すなわち脾(水穀)・肺(宗気)・腎(精気)の不足 → 血の生成不足
・“血は気の母”だから、気の生成不足に及ぶ
 ↓
・“肝”が亢進:怒りっぽい
・“心”が亢進:情緒不安定
・“脾”が不足:意欲が続かない
・“肺”が不足:本能的欲望に流されやすい
・“腎”が不足:夢や希望、志が続かない

<子どものこころの不調に使える抗不安薬>

(西洋薬)
・セロトニン作動性不安薬:クエン酸タンドスピロン(セディール®)
 ・・・小学生にはセディール錠5mgを2-3錠/日

(漢方薬)
1.不安
・甘麦大棗湯(72)が第一選択

2.緊張
・小建中湯(99)が第一選択
・四逆散(35)が第二選択
(鑑別処方)
 実証:大柴胡湯(8)、
 虚証:香蘇散(70)(不安が強いとき)
    柴胡疏肝散 ≒ 香蘇散+四逆散

1+2.緊張を伴う不安
・半夏厚朴湯(16)
・桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

3.怒り
・抑肝散(54)
・抑肝散加陳皮半夏(83)
・柴胡剤群

<方剤解説>

【甘麦大棗湯】
ASDの本治が期待できる方剤で、精神的な視野狭窄を改善させる(オキシトシン様作用)
こんな方へ:
・不安で悲しくなり涙が止まらない
・不安で過呼吸発作が止まらない
・不安でチック発作が止まらない
★ 甘麦大棗湯が効果不十分のADには、セロトニンの上流にあるエストロゲンを増やす四物湯や十全大補湯(48)を試す価値あり。

【半夏厚朴湯】
こんな方へ:吐き気や梅核気(ヒステリー球)、胃腸症状を伴う不安

【桂枝加竜骨牡蛎湯】
こんな方へ:桂枝湯証(軽い頭痛、自汗、悪風、鼻鳴、乾嘔)+動悸を伴う不安

【柴胡加竜骨牡蛎湯】(大黄を含まないTJ12)
こんな方へ:柴胡証(胸満・胸脇苦満)、煩驚(動悸不安+神経過敏・易怒性)

【抑肝散・抑肝散加陳皮半夏】
・小児の“ひきつけ”のために作られた処方なので、青筋を立てて憤怒しやすく、舌が震えて前方に出しにくい人に著効する。
・浅田宗伯の見解は四逆散(35)の変方:四逆散の芍薬(補血)・枳実(行気)が当帰(補血)・川芎(行血)に置き換わり、白朮茯苓の補脾利水と釣藤鉤の鎮痙が加わった処方。
・こんな方へ:神経質で感が強く興奮しやすく怒りっぽいが、自虐的でくよくよして、親子間や家庭内でストレスがぶつけることがあっても、他人に八つ当たりして責めることがない。

ストレス反応十全大補湯(48)
・現代医学の考え方:交感神経(ノルアドレナリン系)を抑えて副交感神経(セロトニン系)活性化、
※ 副交感神経=胃腸機能(漢方的には補脾)
・漢方診断:脾腎両虚
・漢方治療:補脾・補腎  → 十全大補湯(48)など


<参考>
・書評「自閉症は漢方でよくなる」(飯田誠著)