魚を食べたり、触ったりした後にアレルギー症状が出ることを「魚アレルギー」と呼びます。皮膚症状(じんましん)や消化器症状(腹痛、下痢)などが多く、症状がひどい場合は呼吸器症状(咳、喘鳴、呼吸困難)や循環器症状(顔面蒼白、血圧低下)などを伴うアナフィラキシーを引き起こすこともあります。

 魚を食べてアレルギー症状が出る病態は3つあり、区別の仕方は以下の通り;


□ 魚の種類に関係なく症状が出るが、出ないこともある
→ 1.ヒスタミン中毒
 (あるいは) 
→ 2.アニサキスアレルギー

□ 特定の魚を食べる度に毎回、症状が出る
→ 3.魚アレルギー

  

1.ヒスタミン中毒
 アレルギーではなく“食中毒”であり、誰にでも起こる可能性があります。鮮度の落ちた魚(サバ、サンマ、カツオ、イワシ、カジキ、マグロ、ブリなど)の中で増えたヒスタミン(「仮性アレルゲン」あるいは「薬理活性物質」)が原因のため、夏に多く発生します。ヒスタミンに臭いはないため気づきにくく、加熱しても冷凍しても分解されない(耐熱性)やっかいな物質です。

 食べてから10~90分以内に、顔面発赤、じんましん、動悸、頭痛、めまいなどを起こし、大抵は3~36時間以内によくなりますが、まれにショックを起こすこともあります。

(検査)食べて症状の出た魚のアレルゲン検査は陰性


2.アニサキスアレルギー
 魚そのものではなく、魚に寄生するアニサキスという虫に対するアレルギーです。 生きているアニサキスが胃壁に潜り激痛で発症する場合は「アニサキス症」と呼び区別します。アレルゲンは耐熱性で加熱調理しても症状が出ます。

(検査)食べて症状の出た魚のアレルゲン検査は陰性アニサキスは陽性
※ アニサキスが寄生する魚介類:一般的に青魚イカが寄生頻度が高いとされ、サバ,アジ,カツオ,イワシ,ブリ,ホッケなども報告が多いようです。


3.魚アレルギー
 真のアレルギー。日本では食物アレルギー全体の中で魚アレルギーの占める割合は5%と多くありませんが、スウェーデンでは約40%、国や食生活によりその頻度は変わるようです。
 一度発症したら治りにくく、診断がついてから10年経っても80%程度の方にアレルギーが持続していたという報告があります。

 原因となる魚は多い順に、

サケ > マグロ > イワシ > カレイ > アジ > タイ > タラ > ブリ > サバ

青字はアレルゲン検査(特異的IgE抗体)ができる魚。

(検査)食べて症状の出た魚のアレルゲン検査は陽性

 ただし、現在の魚のアレルギー検査は精度が高くないため、陰性でも症状が出ることがあり、また陽性でも症状が出ないことがありますので参考程度に考えてください。
 なお、食品の成分表示で表示推奨となっている魚はサバサケだけです。

 
検査できない魚( → 代用項目)

 タイ(→ マグロ、サバ、アジ)
 ブリ/ハマチ(→ アジ)
 カツオ(→ マグロ)

 シラス(→ イワシ)
 ヒラメ(→ カレイ)
 サワラ(→ マグロ、サバ)

 マス(→ サケ)
 サンマ( → 代用できる項目なし)


 食べて症状の出る魚が1種類だけでなく、複数あることが珍しくありません。魚のアレルゲンはその筋肉に含まれる「パルブアルブミン」と主に魚の皮、うろこに含まれ、骨、筋肉などにも存在する「コラーゲン」というたんぱく質であり、多くの魚に共通して含まれているためです。日本人では「パルブアルブミン」に反応する人が2/3、「コラーゲン」に反応するが1/3だそうです。症状の出方はどちらに反応するかで少し異なります。なお、パルブアルブミン、コラーゲンそのものを調べる検査はまだありません。
 この二つ以外にもアレルゲン成分は存在しますが、現在研究中です。例えば、ブリ(=ハマチ)のアレルギーではパルブアルブミンやコラーゲンなどの抗原蛋白の関与は低いとされています。

※ ブリは「出世魚」、40cmのハマチは成長して80cmになるとブリと呼ばれます
 30cmから40cmくらいの大きさだと「ハマチ」、成長して80cm以上になると「ブリ」と呼ばれるようになります。ブリの稚魚であるモジャコから始まりワカナ → ツバス・ヤズ → ハマチ → → メジロ → ブリとなります。


パルブアルブミン】 → 耐熱性・水溶性

 耐熱性のため、加熱調理しても食べられません。でも水溶性のため水にさらせば(例:鯉のあらい)アレルゲン物質が洗い流されて食べられることがあります。生でも焼いても食べられない人はこの物質が犯人である可能性があります。

 パルブアルブミンの含有量は魚の種類により大きく異なり、ホッケやボラなどではほとんど検出されず、メバチマグロやキハダマグロも少ないとされています。魚の部位でも異なり、頭部に多く、尾部にかけて低下する傾向があります。


コラーゲン】 → 非耐熱性・不溶性

 水に溶けず(不溶性)、水にさらしてもアレルゲン性はなくなりません。しかし加熱によりアレルゲン性が低下(非耐熱性)しますので、焼き魚ではアレルギー症状が出ない傾向があります。コラーゲンが原因抗原の場合、コラーゲン含有量が魚種間でその差が小さいため、魚全般の摂取制限が必要となってきます。


<食生活のヒント>

 魚アレルギーは1種類の魚だけ食べられない方、複数の魚で症状が出る方、生魚はダメだけど焼き魚は大丈夫など、様々です。

 焼いても食べられない場合はパルブアルブミン、焼くと食べられる場合はコラーゲンがアレルゲンの可能性が大であり、食生活のヒントになります。ただし、コラーゲンが冷えて固まった「煮こごり」では症状が出やすいようですのでご注意を。

 パルブアルブミンは魚の煮汁に溶け出すので、二度ゆで、三度ゆで後の魚肉はアレルゲンが低下する傾向があります。

 直接食べることがためらわれる場合は、ダシや缶詰から試すことをお勧めします。例えば水煮タイプの「マグロの缶詰」や「ツナ缶」。加工の際に加圧加熱殺菌過程でアレルギーを起こす力が弱くなるとされています。


<集団生活上の注意>

 実際に食べて症状が出るかどうかを見極めて「食べられる魚と食べられない魚」を整理することが大切です(一覧表作成⇩)。それを元に集団生活での食事制限を考えます。

「集団生活の給食で出される魚をすべて検査してください」と受診される方がいらっしゃいますが、食用魚すべての検査項目はありません。当院では医師が診断に必要と判断したとき以外は行っておりません。予めご了承ください。



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<参考資料>
成人食物アレルギーQ&A
魚アレルゲンに関する最新の分子生物学的知見

□ 魚アレルギーの症状・原因となる魚・検査・治療法

□ 魚のアレルギーのいろいろ・・・加熱したら大丈夫な人とダメな人。などなど

□ 食物アレルギーと仲良く付き合いましょう ⑨魚アレルギー 

□ 夏に多い『青身魚のうそアレルギー』とは?

□ 魚は優等生のはずですが。

□ Q&A - 魚アレルギー

魚介類アレルゲンの本体と性状
魚アレルギーと診断されたら
□ 魚コラーゲン、コラーゲンペプチドと食物依存性運動誘発アナフィラキシー

□ ブリアレルギーの1例

<コラム>

■ 赤身魚、白身魚、青(背)魚、赤魚の違い
 赤身魚と白身魚は見た目の色だけではなく、含まれる成分の違いで分類されます。
 赤身魚は回遊魚で常に泳ぎ続ける性質があり、筋肉に酸素を供給・貯蔵する成分(ヘモグロビン、ミオグロビン)を多く含んでいるため、とくにヘモグロビンには鉄分が多く含まれ、その色が反映されて赤く見えるのです。この性質を持つ筋肉を遅筋と呼びます。漁師さんが漁船で沖合に出て獲ってくる魚、というイメージですね。味もしっかりしていて濃厚な味わいです。
 一方の白身魚は近海に居つく魚で、 ふだんはじっとしていて獲物を捕らえるときのみ俊敏に動くため瞬発力が必要です。持続力は必要ないため、ヘモグロビンとミオグロビンは少しだけ、そのため赤みが乏しいのです。このような性質を持つ筋肉を速筋と呼びます。海釣りで釣れそうな魚、というイメージですね。味は淡泊な物が多いですが、歯ごたえがしっかりしており、“あらい”でも美味しく食べられます。また、その淡泊な味ゆえ、ちくわやかまぼこなど練り物に多用されます。赤身魚はグリコーゲンを多く含むため身が引き締まらず、歯ごたえを楽しむ“あらい”には向いていません。
 赤身魚と白身魚、正確には学術的(水産学)に「色素たんぱく質(ヘモグロビンとミオグロビンの合計)が10mg/100g以上含まれているものを赤身魚、以下のものを白身魚と分類」しているそうです。
 青(背)魚と赤魚(あかうお)は、外観による分類であり、明確な定義はありません。要は青っぽく見えるか、赤っぽく見えるかだけ。
 青(背)魚の多くは赤身魚に属し、保護色のために背に色が付いています。小型で群れを成して回遊する魚、というイメージ。またDHA/EPAという油(不飽和脂肪酸)が多く、人の健康にはよいのですが鮮度の低下が速く保存が利きにくい欠点でもあります。
 赤魚(あかうお)も魚の分類上はなく、体の地色が鮮紅色の深海魚などをいいます。これも主に流通用語として使われるもので、身が淡白で上品な味が特徴となっています。赤魚はパルブアルブミン含有量が多いと報告されています。

 では、それぞれの魚例を列挙してみます;

(赤身魚)マグロ、カツオ、サバ、アジ、サンマ、イワシ、ニシン、サワラ、メバチ、ハマチ、マカジキ、ブリ
(白身魚)ヒラメ、タイ、スズキ、キス、フグ、アナゴ、サケ、マス、タラ、クロダイ、メバル、キス、ハタハタ、ハモ、コチ
(青背魚) ニシン、アジ、サバ、サンマ、イワシ、キビナゴ、ムロアジ、ウルメイワシ、グルクマ―、マサバ
(赤魚)アコウダイ、キンメダイ、キンキ、メヌケ、アカムツ

・・・プリは他の赤身魚と比べて赤みが少なくピンクっぽい色ですが、分類上は赤身魚です。サケはオレンジ色で赤身魚と思いきや、白身魚に分類されます。サケの色はサケが食べたエビやカニの色(アスタキサンチン)が影響しています。

<参考資料>
□ 赤身魚と白身魚の違い!青魚の場合は?栄養も変わるの?

□ 赤身魚と白身魚と青魚 
□ 赤身魚と白身魚と青魚と赤魚の違い


■ 魚の鮮度チェック!

 ヒスタミン中毒対策として、お刺身で食べなくても、やはり鮮度は大切です。最低限かもしれませんがチェックしていますか?
1 魚の目をチェック!

 新鮮な魚の目は、透明なレンズのように膨らみ、キラキラ光って澄んでいます。

2 体全体の色・ツヤをチェック!

 表面に適度なヌメリがあり、みずみずしく光沢があるもの、ウロコが しっかり付いているものがオススメ。ただし、ヒラメ・カレイ類の中には、鮮度が落ちるほどヌメリが増す魚もいます。

3 魚のエラをチェック!

 新鮮な魚は、エラの内側が鮮やかな紅色です。鮮度が落ちると赤黒から灰色・白っぽくなります。

4 魚の弾力をチェック!

 お腹を指で軽く押してみて、ピント張って弾力があり、すぐに元の 形に戻る魚が新鮮です。 

<追記>
2023年2月の千貫祐子Dr(島根医科大学皮膚科)のWEBセミナーメモより;

・アトピー性皮膚炎に合併する魚アレルギーの臨床症状はOAS(oral alergy syndrome, 口腔アレルギー症候群)が多く、原因アレルゲンはパルブアルブミンと思われる。

・魚のFDEIA(food dependent exercise induced anaphylaxis, 食物依存性運動誘発アナフィラキシー)の原因アレルゲンはゼラチン(コラーゲン)と思われる。

・経験ではアカウオに反応する症例が圧倒的に多い。アカウオとは、メヌケ類の流通上の名称で、一例をあげるとアラスカメヌケはカサゴ目フカサゴ科(あるいはメバル科)メバル属に属する海水魚でパルブアルブミン含有量が多い。

・各魚に含まれるパルブアルブミン量は多い順に、
マアジ(11.6-19.7)
ハモ(5.7-13.7)
ウナギ(10.2)
メバル(8.9-9.8)
アカアマダイ(3.9-9.6)
キンメダイ(6.9)
イサキ(4.4-6.8)
トビウオ(2.8-6.5)
マイワシ(2.6-3.4)
マサバ(2.4)
メバチマグロ(0.33)
カツオ(0.25)
トラフグ(0.1‐0.2)

→ アカウオ(メバル属)で症状が出る場合は、湿疹をタイトコントロールし、パルブアルブミン含有量の少ない魚(メバチマグロ、カツオ)から試すのがよい。

・各魚に含まれるコラーゲン量は多い順に、
キンメダイ(3.5)
ウナギ(2.3)
マサバ(1.5)
メバチマグロ(1.4)
カツオ(1.0)

・魚アレルギー(平均14.6歳)とアニサキスアレルギー(平均64.3歳)は40歳を境にきれいに分かれる(千貫Drの経験)。