しかし、アレルギー学会では時々耳にします。
というわけであまり多くはありませんが納豆アレルギーはいくつかの点で有名です。
そのひとつは「遅発型アナフィラキシー」。
ふつう、アナフィラキシーは即時型アレルギー症状の重症型ですが、不思議なことに納豆アレルギーでは「遅発型」として発症します。
「遅発型アナフィラキシー」は他に「α-Gal syndrome(マダニ咬傷由来獣肉アレルギー)」があります。
それから、患者さんは圧倒的に「サーファー」が多いのです。
納豆とサーファー?
サーファーに納豆好きが多い?
・・・ピンときませんね。
???がいっぱいになった方は、以下の説明をご覧ください。
■ どんな病気?
・納豆を食べた約半日後にアナフィラキシーで発症する食物アレルギー。
■ 疫学
・20〜50歳代の男性に多く見られます。
・生活歴として、マリンスポーツ歴のある人が多く、中でもサーファーが全体の80%を占めます。
・小児例は希です。
■ 機序・メカニズム
・主要アレルゲンは納豆の粘稠成分であるポリガンマグルタミン酸(poly-γ-glutamic acid, PGA)(※)であり、その感作はクラゲ刺症を介して成立すると考えられています。
・クラゲは標的を刺すときに、触覚細胞内でPGAを産生します。クラゲ刺症を繰り返すうちにクラゲ由来PGAに感作された人は、納豆摂取時に納豆由来PGAとの交差反応が発生します。
・遅発型で発症する理由は、高分子のPGAが腸管内で分解され吸収されるまでに時間がかかるためと推察されています。
※ PGAは大豆と納豆菌を混合後の発酵過程で新たに産生される物質であり、原則、大豆にアレルギー反応を起こすことはありません。
■ 症状
・納豆を食べて約半日後(5〜14時間)に発症します。
・ほぼ全例がアナフィラキシーで発症し、じんま疹や呼吸困難を認め、消化器症状、意識障害などを伴うことがあります。
・アナフィラキシーショックの頻度は約70%と高率です。
・摂取から症状出現までの時間が長いため、診断が遅れがちです。特に夜間〜早朝の原因不明のアナフィラキシーでは、本症の鑑別が必要です。
■ 診断
<問診>
・納豆摂取後に遅発型アレルギー症状が出現すれば本症を疑います。
・夜間〜早朝に生じた原因不明のアナフィラキシーでは、半日前まで遡って納豆を摂取していないかを確認します。
<検査>
(現時点(2022年7月)では納豆やPGAに対する特異的IgE抗体検査は市販されていません)
・納豆を用いた prick-to-prick test が有用です。これは、症状の出た納豆を持参していただき、納豆そのものに検査専用針を刺し、それをそのまま患者さんの肌に刺し、発赤・腫脹・かゆみが出現するかどうかを観察する、極めてアナログ的方法です。
・研究レベルですが、PGAを抗原に用いる好塩基球活性化試験は診断の一助になると報告されています。
■ 治療(食事指導)
・納豆およびPGAを含有する食品や化粧品などを避けます。
・成分表示は統一されておらず、ポリガンマグルタミン酸、ポリグルタミン酸、γ-PGA、納豆菌ガムなどと表記されるので注意が必要です;
(食品)出汁、減塩醤油などの調味料、かまぼこ、ドレッシング、保存剤、甘味料、特定保健用食品など
(化粧品)保湿剤、ドライマウス用剤、医薬品など
・豆腐などの大豆製品や、納豆菌を用いない大豆発酵製品(醤油、味噌)にはPGAは含まれていないため、除去の必要はありません。
■ 予後
・不明です。
<院長のつぶやき>
「納豆を食べた後に遅発型アナフィラキシーを起こす患者がサーファーに多い」という不思議な食物アレルギー。
まさかクラゲと納豆に共通抗原があったとは・・・このカラクリを解き明かした医学者は、おそらく推理小説が好きなタイプでしょうね。
<参考>
・食物アレルギー診療ガイドライン2021(協和企画)