2022年09月

注意1)この内容は群馬県居住の小児患者向けです。
注意2)「検査が陽性」とは、
1.PCR検査陽性
2.抗原検査キット「医薬品」が陽性
を意味します。抗原検査キット「研究用」は無効です。

<保健所からの連絡対象の変更(2022年9月26日)>
(詳しくは群馬県HPをご覧ください)

・9/25以前は医療機関が保健所に報告し、保健所から患者さんへSMSで連絡がありました。

・9/26以降は「入院した方」「重症化リスクのある方」以外、保健所から連絡はありません! 
・行政からの支援(※)を希望する方は、自分で下記へ電話連絡あるいは登録してください。
スクリーンショット 2022-09-25 13.33.38

※ 行政支援の内容
・健康相談
・生活支援(食料品)
・体調悪化時の受診案内
・宿泊療養施設の入居調整など

<陽性者の自宅療養と隔離期間>

・検査で陽性になった場合は隔離・自宅療養が必要です。

・お薬ご希望の方は、当院の電話診療をご利用ください。

隔離解除は発症した翌日から数えて7日間以上経過し、かつ症状軽快から24時間以上経過が条件です。

・10日間は感染リスクが残りますので、その間は自主的な感染予防行動を続けてください。

厚生労働省HPより)
000987044

<濃厚接触者と隔離期間>

・同居家族は基本的に濃厚接触者となります。

濃厚接触者の隔離期間は、

発症した翌日から数えて5日間(6日目に隔離解除)

隔離2日目/3日目の抗原定性検査が両方陰性の場合は3日目に隔離解除

 →ただし①②いずれの場合であっても7日間を経過するまでは検温など自身による健康状態の確認などを行うこと。

石川県HPより)
濃厚接触者自宅待機:石川県

<陽性になったあなたと(同居家族以外で)濃厚接触した人がいる!>

・あなたと濃厚接触(1m以内で十分な感染予防なしで15分以上の接触)したと思われる方がいれば、あなたがその人に連絡してあげてください。

西洋医学にASD(自閉症スペクトラム)に対する根本的な治療法は存在しません。
療育により、社会生活に適応できるよう訓練していきます。

漢方医学ではどうでしょうか。

それを説明する前に、
まずASDの病態の大まかな捉え方を提示します。

ASD児がもともと有する性質を「一次障害」、
環境により強い不安・緊張の反復・持続すると、
その結果、「二次障害」が発生すると考えられます。

(川嶋浩一郎先生のレクチャーのメモより)

ASDの一次障害:対人関係、コミュニケーション、想像力、変化適応能力の障害
  ↓
(環境による)強い不安・緊張の反復・持続
  ↓
ASDの二次障害:興奮、易怒性、パニック


小児漢方界では、
環境による強い不安・緊張の反復・持続をやわらげることにより、
二次障害には予防と対応ができるのではないか、
と考えて診療に取り入れています。

ここで紹介する川嶋浩一郎先生、山口英明先生ともに、
こころの不調・メンタルの不調を「不安」「緊張」「怒り」に分け、
それに対応する漢方薬を提案しています。

ただ、私が実際に患者さんの話を聞いていると、
「不安」と「緊張」は切り離せないのではないかと感じることがしばしばあります。

私の診療スタイルは、
「この薬から使ってみましょうか」
「これは今ひとつ手応えがなかったからこちらの方がいいかも」
などと患者さんに提案し、一緒に考えながら、
体に合う漢方薬を探すというものです。

近年、川嶋浩一郎先生は
「甘麦大棗湯(72)や十全大補湯(48)は一次障害にも効果を期待できる漢方薬」
と発言し、注目されています。
ただし、講演では「短期間ではなく年単位で長く服用することが必要」と話されていました。

私が参加した講演やWEB配信セミナーから、
ASD関連のメモをまとめてみました;


山口英明先生

<ASD治療に有効とされる漢方薬>

1.怯え・不安
2.緊張・不安定変動
3.怒り・興奮

1  :甘麦大棗湯(72)
2+1:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、大柴胡湯(去大黄)(8)
3  :黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
3+2:抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)


山口先生の解説では、不安・緊張・怒りが並列で扱われています。
ただ前述のように、不安と緊張が切り離せないことがままあるので迷います。


川嶋浩一郎先生

<ASDに対する漢方薬>

・ASDの一次障害に対する漢方:一次障害改善による二次障害軽減
 甘麦大棗湯(72)、十全大補湯(48)

・ASDの二次障害に対する漢方:扁桃体の鎮静や交感神経を抑制する漢方薬
※ 中止するともとに戻ることがある
芍薬甘草群)小建中湯(99)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、大柴胡湯(8)、柴胡桂枝湯(10)、四逆散(35)など
柴胡剤群)小柴胡湯(8)、柴胡桂枝湯(10)、大柴胡湯(8)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)


▢ こどもの漢方的特徴は「二余三不足
・肝(自律神経系)と心(循環系)が機能亢進
・消化系、呼吸系、腎泌尿・内分泌系が機能不足、すなわち脾(水穀)・肺(宗気)・腎(精気)の不足 → 血の生成不足
・“血は気の母”だから、気の生成不足に及ぶ
 ↓
・“肝”が亢進:怒りっぽい
・“心”が亢進:情緒不安定
・“脾”が不足:意欲が続かない
・“肺”が不足:本能的欲望に流されやすい
・“腎”が不足:夢や希望、志が続かない

<子どものこころの不調に使える抗不安薬>

(西洋薬)
・セロトニン作動性不安薬:クエン酸タンドスピロン(セディール®)
 ・・・小学生にはセディール錠5mgを2-3錠/日

(漢方薬)
1.不安
・甘麦大棗湯(72)が第一選択

2.緊張
・小建中湯(99)が第一選択
・四逆散(35)が第二選択
(鑑別処方)
 実証:大柴胡湯(8)、
 虚証:香蘇散(70)(不安が強いとき)
    柴胡疏肝散 ≒ 香蘇散+四逆散

1+2.緊張を伴う不安
・半夏厚朴湯(16)
・桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

3.怒り
・抑肝散(54)
・抑肝散加陳皮半夏(83)
・柴胡剤群

<方剤解説>

【甘麦大棗湯】
ASDの本治が期待できる方剤で、精神的な視野狭窄を改善させる(オキシトシン様作用)
こんな方へ:
・不安で悲しくなり涙が止まらない
・不安で過呼吸発作が止まらない
・不安でチック発作が止まらない
★ 甘麦大棗湯が効果不十分のADには、セロトニンの上流にあるエストロゲンを増やす四物湯や十全大補湯(48)を試す価値あり。

【半夏厚朴湯】
こんな方へ:吐き気や梅核気(ヒステリー球)、胃腸症状を伴う不安

【桂枝加竜骨牡蛎湯】
こんな方へ:桂枝湯証(軽い頭痛、自汗、悪風、鼻鳴、乾嘔)+動悸を伴う不安

【柴胡加竜骨牡蛎湯】(大黄を含まないTJ12)
こんな方へ:柴胡証(胸満・胸脇苦満)、煩驚(動悸不安+神経過敏・易怒性)

【抑肝散・抑肝散加陳皮半夏】
・小児の“ひきつけ”のために作られた処方なので、青筋を立てて憤怒しやすく、舌が震えて前方に出しにくい人に著効する。
・浅田宗伯の見解は四逆散(35)の変方:四逆散の芍薬(補血)・枳実(行気)が当帰(補血)・川芎(行血)に置き換わり、白朮茯苓の補脾利水と釣藤鉤の鎮痙が加わった処方。
・こんな方へ:神経質で感が強く興奮しやすく怒りっぽいが、自虐的でくよくよして、親子間や家庭内でストレスがぶつけることがあっても、他人に八つ当たりして責めることがない。

ストレス反応十全大補湯(48)
・現代医学の考え方:交感神経(ノルアドレナリン系)を抑えて副交感神経(セロトニン系)活性化、
※ 副交感神経=胃腸機能(漢方的には補脾)
・漢方診断:脾腎両虚
・漢方治療:補脾・補腎  → 十全大補湯(48)など


<参考>
・書評「自閉症は漢方でよくなる」(飯田誠著)

【不眠症に対する漢方治療】

日本人の男性では約17%、女性では約22%に睡眠障害があると報告されています。
そして現在、睡眠の悩みはどんどん低年齢化しています。
大人で使われている睡眠薬の使用ができない子どもたちに、
漢方治療が応用できないか、調べてみました。

薬を使う前に生活習慣をまず見直しましましょう。
それだけで改善すれば、薬に頼る必要はありません。
厚労省作成の「睡眠障害対処12の指針」を紹介します。

1.睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分。
・睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない。
・年を取ると必要な睡眠時間は短くなる(例:思春期前までは9時間、25歳は7時間、45歳は6.5時間、65歳は6時間)。

2.刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法を。
・就寝前4時間のカフェイン摂取、就寝前1時間の喫煙は避ける
・軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング

3.眠くなってから床につく。就床時間にはこだわりすぎない。

・眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝付きを悪くする。

4.同じ時刻に毎日起床

・早寝早起きではなく、早起きが早寝に通じる

5.光の利用でよい睡眠

・目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン
・夜は明るすぎない照明を

6.規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣

・朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く
・運動習慣は熟睡を促進

7.昼寝をするなら、15時前の20〜30分

・長い昼寝はかえってぼんやりのもと
・夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響

8.眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに

・寝床で長く過ごしすぎると、熟睡感が減る

9.睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のピクつき・ムズムズ感は要注意

・背景に睡眠の病気、専門治療が必要

10.十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に

・長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談
・車の運転に注意

11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと

・睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる。

12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全

・一定時刻に服用し就寝
・アルコールとの併用をしない


一部、子どもには合わない記述もありますが、基本は変わりません。

人類の歴史は400万年とか言われていますが、
電気で夜も明るくなったのはせいぜいこの150年くらい。
その前の399万年と9850年は太陽が昇ると起きて活動し、
太陽が沈むと活動を止めて寝る、
という生活がひたすら繰り返されていましたので、
これが本来のヒトの生活リズムです。
そこに戻ることが、まず健康的と言えるのでしょう。

その生活リズムから外れた生活は、
自律神経の乱れを起こします。
日中の交感神経優位(onの状態)から、夜間の副交感神経優位(offの状態)への切り替えがうまくいかなくなり、
頭がさえて休めなくなると考えられています。

生活リズムや習慣を改めても、
解決できない睡眠障害は治療対象となります。

ただし、不眠の原因に病気が隠れていて、
その病気が西洋医学で治療可能であれば、
西洋医学治療が優先されます。

睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版より)

生活習慣や病棟の睡眠環境に問題  → あり:環境因による不眠
 ⇩なし
身体疾患による睡眠妨害  → あり:身体因による不眠
 ⇩なし
睡眠を障害しうる薬剤を服用  → あり:
薬剤性不眠
 ⇩なし
頻回の中途覚醒、あるいは過眠、睡眠中の窒息感
呼吸停止により中断される激しいイビキ  → あり:睡眠時無呼吸症候群
 ⇩なし
入眠障害、就寝時下肢の異常知覚  → あり:レストレスレッグ症候群
 ⇩なし
入眠障害、さらに中途覚醒
睡眠時の下肢不随意運動の自覚  → あり:周期性四肢運動障害
睡眠中の体動の増加
 ⇩なし
著しい入眠障害と起床困難  → あり:概日リズム睡眠障害、睡眠相後退型
 ⇩なし
中途覚醒、早期覚醒、抑うつ感、興味喪失  → あり:うつ病
 ⇩なし
早期覚醒、夕方からの眠気  → あり:概日リズム睡眠障害、睡眠相前進型
 ⇩なし             (高齢者の早期覚醒)
中途覚醒  → あり:中途覚醒型不眠症
 ⇩なし
入眠障害のみ  → あり:入眠障害型不眠症、精神生理性不眠


上のフローチャートで赤い文字の病名にたどりつたら、
西洋医学の治療が優先されます。
それ以外は西洋医学では解決できないタイプなので、
成人に使用される睡眠薬が使えない小児には、
漢方薬を試すことを提案します。

専門家の解説をいくつか紹介します。
私には大澤先生と杵渕先生の解説が分かり易いと感じました。
各解説は微妙に異なりますが、
頷ける解説、あなたに合う漢方薬を一緒に探しましょう。


大澤稔先生

眠れないことが病的レベルかどうかは、昼間の眠気の程度で判断します。
寝不足と思っても昼間ふつうに過ごせれば大丈夫ですし、
昼間眠くて活動に支障が出るようなら病的と判断されます。

漢方薬は「その場しのぎの睡眠を得る」のではなく、
「睡眠のリズムをコントロールしてくれる」薬なので、
飲み続けるうちに不眠を含めた体調不良が全般的・根本的に解決され、
最終的には漢方薬も休薬できることが期待できます。

もともと西洋医学の睡眠薬を服用している人で、効果が不十分と感じている場合、はじめは西洋薬と漢方薬を併用し、調子がよくなってきたら西洋薬を休薬していきます。


<不眠の治療フロー>

寝付きが悪い
 はい → 気持ちが落ち込んでいる → はい:加味帰脾湯(137)+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
 いいえ → 早朝に目が覚める:釣藤散(47)
     → 真夜中に目が覚める 音に敏感 → はい:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
                     → いいえ:抑肝散(54)

<方剤解説>

【加味帰脾湯】
こんな方へ:気持ちが落ち込んでいて、不安や心配の多い抑うつ傾向にあり、だるい、貧血などの症状が見られるヒト向き。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【加味帰脾湯】+【桂枝加竜骨牡蛎湯】
こんな方へ:嫌な夢をよく見て、いくら寝ても疲れが取れないようなヒト向き。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【酸棗仁湯】
こんな方へ:気持ちの落ち込みはなく、体は疲れているのに眠れないヒト向き。眠りすぎて困る過眠症にも有効。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【釣藤散】
こんな方へ:明け方に頭痛や耳鳴りがして、早朝に目覚めてしまうヒト向き。
※ 夜間高血圧で早朝目覚めてしまうヒトは専門医に要相談。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【柴胡加竜骨牡蛎湯】
こんな方へ:音や匂いに敏感で、動悸が強く、一度気になると眠れなくなったり、夜中に目覚めてしまったりするようなヒト向き。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感

【抑肝散】
こんな方へ:真夜中に目が覚めてしまう人で、ふだんからイライラしやすい、怒りっぽいヒト向き。チックが診られることがよくあります。胃腸が弱いヒトには抑肝散加陳皮半夏の方が適しています。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:数日で効果実感


小川恵子先生

・昼食後の眠気 → 補中益気湯(41)
・嗜眠・過眠 → 酸棗仁湯(103)
・月経前睡眠障害(月経前症候群の一部) → 月経前症候群の治療参照

<方剤選択のポイント>

1.不安・不眠、決断できない、驚きやすい
・酸棗仁湯(103):疲れすぎて眠れない
・帰脾湯(65):疲れ気味
・加味帰脾湯(137):より鎮静効果あり

2.イライラがメイン
・抑肝散(54)
・抑肝散加陳皮半夏(83)

3.悪夢をよく見る
・桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

4.疲労がメイン
・補中益気湯(41)
・清暑益気湯(136)
・黄耆建中湯(98)


後山尚久先生

・漢方薬にはいわゆる“睡眠薬”はない。
・不眠症を全身症状の一つとして捉え、“心身一如”の考え方で「証」に従って漢方薬を選択し、気血水の調整により自然な眠りを得られるようにする。
・不眠の発生機序について記載のある『黄帝内経』を現代医学的に意訳すると、「交感神経の興奮が夜になっても続いており、副交感神経が優位にならず、神経が闘争的なまま夜を迎えてしまうため、覚醒状態が持続する」となる。
・帰脾湯(65)、酸棗仁湯(103)、加味帰脾湯(137)には中枢抑制作用の強い酸棗仁が配合されている。
・不眠の治療に用いられる方剤には、酸棗仁の他に柴胡や山梔子(さんしし)が配合されているものが多い。
・不眠症に使われる漢方薬は習慣性がないため長期間の服用が可能。

<方剤解説>

【抑肝散】裏熱虚証
・神経質でイライラするため眠れないヒト向き。
・神経過敏で興奮しやすく、怒りやすい、イライラするという不定愁訴を訴えて、その部分症状として不眠が認められる場合に適応。
・柴胡剤である。柴胡剤の内、不眠症の治療によく使われる方剤には、抑肝散加陳皮半夏(83)、大柴胡湯(8)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、加味逍遥散(24)などがある。

【帰脾湯】裏寒虚証
・倦怠感や疲労感があって元気のない不眠症向き。
・精神不安を訴え、取り越し苦労で疲れ果てるヒト向き。胃腸が弱ければ最適。
・気血双補剤、特に血虚のある例に。

【酸棗仁湯】裏熱虚証
・疲れて神経が高ぶっている場合
・体力が低下し、疲れて精神が昂ぶり眠れないヒト向き。

【黄連解毒湯】裏熱実証
・のぼせて(頭がさえて)いつもイライラしている場合
・山梔子(くちなしの実)が胸中の煩熱を消し、黄連が主剤となり心と脾胃の熱を取り、不安焦燥を沈静させて、黄柏、黄岑と協同して徹底して解熱することで不眠症を治療する。


杵渕彰先生

不眠の漢方的分類と処方

1.心熱 → 黄連剤(黄連湯、三黄瀉心湯)、柴胡剤(柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯など)
・精神的な興奮が収まらないために眠れない。
・寝る直前まで仕事をしていたり、パソコンでチャットをしていたりする場合。

2.胆虚・胆冷 → 温胆湯類(竹筎温胆湯など)
・不安感が強く眠れない場合。
・眠れないのではないか、翌日の仕事に差し支えるのではないかという不安があって眠れない。

1+2 → 抑肝散
・不安感と興奮が混在しており、寝付きが悪く、熟睡感のない不眠。

3.虚労 → 酸棗仁湯、補剤(人参湯、補中益気湯、十全大補湯など)
・心身ともに疲れ果て、体力の低下が著明な場合。
・効く対象患者は限られており多くはない、高齢者に有効なことが多い。

不眠の訴えで受診される患者さんの大多数は、精神生理性不眠(うまく寝付けなかったことがきっかけで、眠ろうと努力するほど緊張のために眠れなくなる)であり、ベンゾジアゼピン系薬剤を漫然と投与するより漢方薬を選択すべきである。

思春期には体と心のアンバランスから、いろいろな不調に悩まされます。
体の不調については小児科あるいは内科を受診すればよいのですが、
こころ(メンタル)の不調はどこに相談してよいのか迷います。
心療内科や精神科は敷居が高いし・・・。

小児科開業医にいきなりメンタルの不調を訴えて受診される方は少ないのですが、
思春期の体の不調の相談の中でメンタルの不調が併存していることも多く、
私は漢方薬を提案し、希望される患者さんに処方しています。

ただし、症状の程度問題があります。
日常生活はできているけどつらいレベルなら漢方薬を試す価値がありますが、
不登校や引きこもりが完成していて日常生活が破綻しているレベルでは、
西洋医学の治療を優先してください。

ここでは、私(小児科開業医)が行っているメンタルの不調に対する漢方治療を、
専門家の解説を引用しながら紹介します。

と、その前に、メンタルを整えるリ枠ゼーション体操を紹介しておきます;

心が疲れたときのリラクゼーション方法(動画)

・・・さて皆さん、“不安”と“緊張”って分けられると思いますか?

患者さんの話を聞いていると、
「不安になってドキドキして大変」
と両方混在することが多く、
この二つは分けられないのではないかと常々感じています。

メンタルの不調を考える際、
不安と緊張の捉え方が専門家の間でも微妙に異なります。
なかなかスッキリ納得できないものが多かったのですが、
大澤稔先生の解説はシンプルで明瞭でした。

ベースにドキドキ(不安)があり、
それにウツウツ(うつ状態)
あるいはイライラ(緊張)
が加わっていく、という考え方。

つまり、“メンタルの不調”を単純化すると、

ドキドキ(不安)
ドキドキ+イライラ(不安+緊張)
ドキドキ+ウツウツ(不安+うつ状態)


の三つに集約するのです。

ほかにも小児漢方界の重鎮である山口英明先生の解説も紹介します。
この項目を読んで試してみたい方はご相談ください。


大澤稔先生

 急にドキドキする(不安症・パニック発作・過呼吸)

 甘麦大棗湯72)が第一選択

 ドキドキ+立ちくらみやふらつき 苓桂朮甘湯39

 ドキドキ+気分の落ち込み     → 桂枝加竜骨牡蛎湯26

<方剤解説>

甘麦大棗湯
こんな方へ:興奮しやすく、急にドキドキして過呼吸になりやすいヒト向き。
 神経症、不眠症、更年期障害に適応。
服用方法:1回1包、1日3回内服
効果発現:数日で効果実感

甘麦大棗湯】+【苓桂朮甘湯
こんな方へ:パニック発作が起こったとき、ふらつきや立ちくらみが起こりやすい、というヒト向き。
服用方法:2剤を1日1包ずつ、1日3回服用
効果発現:数日でふらつきや立ちくらみが起こりにくくなり、
 パニック発作の予防にも役立つ。


甘麦大棗湯】+【桂枝加竜骨牡蛎湯

こんな方へ:パニック発作・過呼吸などの症状と共に、
 抑うつ傾向があって精神的に落ちているヒト向き。
服用方法:甘麦大棗湯+桂枝加竜骨牡蛎湯を1回1包ずつ、1日3回服用
効果発現:数日でこころの落ち込みが少しずつ持ち上がってきて、発作も出にくくなる。

 イライラ・怒りっぽい

 → 冷えのぼせ 

 → あり(イライラ+冷えのぼせ):
    柴胡桂枝乾姜湯
11)、桃核承気湯61)、加味逍遥散24

 → なし → 動悸 

      → なし → 全般的な不調 → あり(イライラ+全般的不調):
                     加味逍遥散
24

                  → なし:抑肝散54

       → あり(イライラ+動悸):柴胡加竜骨牡蛎湯12

<方剤解説>

柴胡桂枝乾姜湯
こんな方へ:冷えのぼせ(下半身は冷えているのに顔はのぼせている)、
 頭皮の多汗、倦怠感などがあるヒト向き。
 更年期障害、神経症、不眠症に適応。
服用方法:1回1包、1日3回内服。
効果発現:数日で効果実感

桃核承気湯
こんな方へ:冷えのぼせ、頑固な便秘、月経痛の強いヒト向き。
 月経不順、月経痛、月経時や産後の精神不安に適応。
服用方法:1回1包、1日1回からはじめて、
 便の状態を見ながら増量(はじめから1日3回服用すると下痢しやすい)
効果発現:数日で効果実感

加味逍遥散
こんな方へ:体調不良に対する不安など、
 こころの症状がメインのイライラと、
 それに伴う諸症状で悩んでいるヒト向き。
 更年期障害、冷え症、月経不順などに適応。
服用方法:1回1包、1日3回服用
効果発現:数日で効果実感

抑肝散
こんな方へ:いつもガマンをして怒りをため込み、
 原因不明の身体症状(まぶたのけいれんなど)に悩んでいるヒト向き。
 胃腸が弱いヒトには抑肝散加陳皮半夏(83)の方がよい。
服用方法:1回1包、1日3回服用
効果発現:数日で効果実感

柴胡加竜骨牡蛎湯
こんな方へ:音や光に敏感で、
 気になるとドキドキして眠れなくなるような神経性心悸亢進タイプで、
 不眠に悩んでいるヒト向き。
服用方法:1回1包、1日3回内服
効果発現:数日で効果実感

気分の落ち込み・うつうつ(うつ状態)

 桂枝加竜骨牡蛎湯26)が第一選択

 うつうつ+のどがつまった感じ 半夏厚朴湯16

 うつうつ+みぞおちが苦しい 香蘇散70

 うつうつ+食欲不振・胃もたれ 六君子湯43

 うつうつ+月経不順・冷え症・口唇乾燥  → +温経湯106


<方剤解説>

桂枝加竜骨牡蛎湯
こんな方へ:神経過敏で自信喪失、疲れやすいなどの精神症状のほか、
 頭痛・腹痛といった身体症状の出ているヒト向き。
服用方法:1回1包、1日3回
効果発現:1〜2週間くらいでこころの落ち込みが少しずつ持ち上がってくる。

桂枝加竜骨牡蛎湯】+【半夏厚朴湯
こんな方へ:ウツウツしているヒトで、
 喉につまり感のあるヒト向き。
 軽い抗うつ作用あり。
服用方法:2剤を1回1包ずつ、1日3回

効果発現:数日で効果実感

桂枝加竜骨牡蛎湯】+【香蘇散
こんな方へ:ウツウツしているヒトで、
 みぞおちにつまり感があるヒト向き。
 軽い抗うつ作用あり。
服用方法:2剤を1回1包ずつ、1日3回

効果発現:数日で効果実感

桂枝加竜骨牡蛎湯】+【六君子湯
こんな方へ:ウツウツに加えて、食欲がないヒト向き。
服用方法:2剤を1回1包ずつ、1日3回

効果発現:食欲は数日中に回復し、食べることで気力も少しずつ涌いてくる。

桂枝加竜骨牡蛎湯】+【温経湯
こんな方へ:ウツウツに加えて、月経不順、冷え、唇の乾き
 などが見られるヒト向き。
服用方法:2剤を1回1包ずつ、1日3回
効果発現:数日で効果実感(更年期や月経に関連する女性のウツウツの場合)


(ここからは山口英明先生のレクチャーより)

山口先生は、不安・緊張・怒りを並列で捉え、
各々が重なることもある、という考え方です。

1.悲哀・怯え・不安
2.緊張・不安定変動
3.興奮・怒り・多動

ただ、この分類法は私にはしっくりきません。
「悲哀」と「不安」って同じ?
「不安定変動」って何?
「怒り」と「多動」って同じ?
という素朴な疑問があるからです。

という疑問を抱えつつ、
山口先生のお勧めする“こころに効く漢方薬”を提示します。

1.悲哀・怯え・不安:
 甘麦大棗湯(72)
 帰脾湯(65)、加味帰脾湯(137)
 酸棗仁湯(103)
 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)

2.緊張・不安定変動:
 四逆散(35)
 香蘇散(70)
 加味逍遥散(24)
 柴朴湯(96)

3.興奮・怒り・多動:
 黄連解毒湯(15)
 三黄瀉心湯(113)
 桃核承気湯(61)
 竜胆瀉肝湯(76)

1+2:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)など
2+3:大柴胡湯(去大黄)(8)など
3+2:抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)

この内容を某学会の講演会で聴講して知ったのですが、
どうも使いこなせなくて・・・もっと単純に、

1 不安 → 甘麦大棗湯(72)
2 緊張 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
3 怒り → 抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)

とした方がわかりやすいのではないかと感じていました。
そこに大澤先生のレクチャーに出会い、合点したわけです。

月経前症候群(premenstrual syndrome, PMS)というワードを聞いたことがありますか?

簡単に言うと、生理中だけ腹痛‣腰痛でつらいのは月経困難症と呼び、
生理前にいろんな体調不良が襲ってくる状態を月経前症候群と呼びます。

医学的には、「月経前3〜10日に起こる精神的あるいは身体的症状で、月経開始後すみやかに消退あるいは軽快するもの」(日本産婦人科学会)
と定義される病態です。

からだの不調(身体的症状)だけでなく、こころの不調(精神的症状)もあるのが特徴です。

<身体的症状>
 乳房が張ったり痛んだりする
 腹痛・腹部膨満感
 腰痛
 頭痛
 手足のむくみ感
 便通異常(便秘・下痢)
 全身倦怠感、易疲労
 吹き出物が多くなる、等

<精神的症状>
 イライラして攻撃的になりやすい
 気分の落ち込み(※)
 睡眠障害(不眠・過眠)
 集中力低下
 不安・焦燥感
 過食傾向、等

※ うつ病とは継続期間が2週間を超すことがないことで鑑別されます。

アメリカ精神医学会による精神疾患の診断基準(DSM-5)においては「抑うつ症候群」の一病態として扱われています。

さらに、PMSの中でも精神症状が強いタイプを、
「著しい精神症状(ウツウツ、イライラ)や情動変化(泣く、わめく、など)を伴う月経前気分障害(premenstrual dysphoric disorder, PMDD)」として別に分類しています。

近年、PMSとPMDDをまとめてPMDs(Premenstrual Disorders)と呼ぶ傾向があるそうです。
月経痛が重ければPMDsを合併率も高くなり、重度月経痛の25%にPMDsが合併します。

さて、月経前症状は成人女性の50〜80%にみられ、決して珍しいものではありません。
このうち、日常生活に支障がある程度のものは10%未満。
年齢別でみると中等度以上のPMSは、
・成人で5.3%
・高校生で11.8%
と(成人)<(女子高生)いう驚くべきデータがあります。10代の方が多いのですね。
学校欠席率を見ると、月経痛で7%、PMDsで6%と無視できない数字です。
PMS症状を自覚するのは初経年齢とは関係なく、15歳前後が多いと報告されています。
初経後、生理痛を発症するまで1年、PMDsを発症するまで3年が標準です。

思春期における生理関連体調不良(月経随伴症状)の内訳は、
 PMS:61.4%、非PMS:38.6%
PMSの内訳をさらに細かく見ると、
 PMSのみ:35.2%
 PMS+月経困難症:53.4%
 PMS+月経不順:7.6%
 PMS+月経不順+月経困難症:3.8%
という報告もあります(Derman, et al. 2004)。

思春期女子の皆さん、他人事ではありません!

西洋医学では治療として、低用量ピル(OC・LEP)や抗うつ薬(SSRI、SNRI)、
鎮痛剤などが用いられます。

10代女子にLEPやSSRI処方をためらう医療者も少なくありません。
また副作用の問題などで西洋医学的治療が困難な場合、漢方薬の出番です。
実は日本産婦人科学会作成の「診療ガイドライン2020年版」
にも漢方薬の記載があります。

しかしPMSの症状は個人差が大きく「第一選択はこの漢方!」とはいきません。
生理痛(=月経痛/月経困難症)のところで説明した“駆於血剤”を中心に、
体格・便通・身体症状と精神症状のどちらがメインか、
などにより漢方薬を選択します。

では専門家の説明をいくつか紹介します。
ぜひ読み比べてみてください。
「私にはこの漢方薬が合いそう」
と探し当てたら、試してみましょう。

小児科医の私の視点から見ると、
女性に多用される駆瘀血薬(血の巡りが悪いときに用いる)のほかに、
メンタルの不調に用いられる方剤がラインナップされている印象です。
処方希望の方、当院にご相談ください。


後山尚久 先生が提案する漢方治療

・PMSの病態は、瘀血(血の巡りが悪いこと)がその中心となり、
気血水すべての平衡が乱れている。
・強い瘀血により血の巡行が妨げられて気滞が生じそれにより精神症状が出現するが、
瘀血の解除(月経)により症状が改善する、と捉える。
・PMSの中でも著しい精神症状(ウツウツ、イライラ)や情動変化(泣く、わめく、など)を伴う状態を月経前気分障害(premenstrual dysphoric disorder, PMDD)と呼ぶが、『傷寒論』によると桃核承気湯(61)の証がこれに近い。
・桃核承気湯(61)のほかには、苓桂朮甘湯(39)などの利水剤が中心となる。
・しかしながら、漢方においてもPMSに対する確立した治療法は存在しないのが現状であり、
身体症状が中心であれば、それに対する西洋医学的対症療法でもよいのではないかと考える。


杵渕 彰 先生が提案する漢方治療

・精神症状>身体症状:桃核承気湯(61)、女神散(67)、抑肝散(54)、加味逍遥散(24)など。
・身体症状のみ:桂枝茯苓丸(25)、当帰芍薬散(23)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)など。

<方剤解説>
1.桂枝茯苓丸(25):比較的体格がよく、腹診で下腹部に圧痛を認める。
2.当帰芍薬散(23):易疲労、冷えの訴えがある。水毒体質。
3.抑肝散(54):イライラ感がキーワードで用いられるが、痛みなどの症状にも有効。利水作用をより強める意味で抑肝散加陳皮半夏(83)を用いることもある。
4.加味逍遥散(24):更年期障害の第1選択薬であるが、PMSにも有効。
5.女神散(67):体格がよく、イライラ感が強い場合に用いる。抑肝散タイプのより実証の方へ。
6.桃核承気湯(61):体格がよく、便秘が強く、激しいPMS症状(〜PMDD)がある場合に用いる。
7.当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38):頭痛・腹痛が強く、四肢冷感が使用目標。
8.折衝飲:煎じ薬


小川真理子先生が提案する漢方治療

・西洋医学では、PMSに対する薬物療法として以下のものが使用される:
 OC(oral contraceptive)・・・経口避妊薬
 LEP(low dose estrogen progestin)・・・低用量エストロゲン/プロゲステロン(経口避妊薬)
 SSRI

OC・LEP一覧表

・PMSの病態は、漢方医学的には“瘀血”そのものである。
月経前によどんだ血液が体内に貯留し、月経と共にそれが流れて軽快する。
・よってPMSの漢方治療は駆瘀血薬が中心となる。
婦人科三大漢方薬と呼ばれる、
当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25)
から、まず一つ選んで処方してみるのがよい。
桃核承気湯(61)も適用できる。

当帰芍薬散】やせ型で月経不順や月経困難症を合併
加味逍遥散】メンタル面の訴えが多かったり、更年期様の不定愁訴がある。
桂枝茯苓丸】しっかり目の体格でほてりや頭痛を訴える。
桃核承気湯】便秘があってイライラ・ほてりが強い例。

・ストレスの関与も大きいため、瘀血と共に“気滞”への治療も重要。
抑肝散(54)および抑肝散加陳皮半夏(83)、半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)など。

抑肝散】イライラや易怒性に即効性があり、月経前のみ限定的に使用することも可能。
半夏厚朴湯】【香蘇散】気をめぐらす。

・月経前の浮腫や頭痛は“水毒”が関与しているため、そのような例には五苓散(17)などの利水剤を合わせると効果が期待できる。


◆ 小川恵子 先生(小児外科医)が提案するフローチャート

(月経前に)ささいなことが気になりますか?

はい → みぞおち(心窩部)の膨満が強い?
     → はい → 悲しい気持ちになりやすい?
          → はい → 香蘇散(70)
          → いいえ → 茯苓飲合半夏厚朴湯
     → いいえ → 落ち込みやすい?
          → はい → 乾燥肌、口渇は?
               → あり → 滋陰至宝湯(92)
               → なし → 加味逍遥散(24)、甘麦大棗湯(72)
いいえ → 怒りっぽい、イライラがひどい?
      → はい → 腹部不快感は?  
           → あり → 抑肝散加陳皮半夏(83)
           → なし → 便秘傾向?
                → はい → 桃核承気湯(61)
                → いいえ → 抑肝散(54)
      → いいえ → 当帰芍薬散(23)

<方剤解説>
香蘇散】(70):悲哀感、身体表現が下手で行き詰まりを上手に発散できない。
半夏厚朴湯】(16):ささいなことが気になる。神経質、几帳面(メモ魔)。
当帰芍薬散】(23):軽度のイライラ。腹痛、むくみやすい。
加味逍遥散】(24):落ち込みやすい、症状が変わりやすい。
抑肝散】(54):怒りっぽい。
抑肝散加陳皮半夏】(83):イライラしやすい、怒りっぽい。
桃核承気湯】(61):便秘傾向、逆上しやすい。


◆ 江川美保 先生が特にお勧めする半夏白朮天麻湯

・PMSには駆瘀血薬・気剤・利水剤のどれか一つをベースに処方を考える。
・PMDDには半夏白朮天麻湯(37)有効例がある。
 その有効例はPMSであれほかの疾患であれ、
「病気を患っている、あるいは改善できない症状を抱えている」
 状態が長期間にわたっているという点がポイント。
・五臓論では肝と脾は相克の関係で、
 ストレスの影響を受けやすい肝の乱れは消化吸収機能の脾を痛めつける。
 そこで、肝が抑えるか、脾を補うかということにおいて、
 半夏白朮天麻湯(37)はまさに脾を補う薬で、
 長期間のストレス状態にさらされたPMSの方達に投与すると、
 脾虚がよくなりベースアップが図れる。
・胃腸が弱い人(PMS/PMDDの標準治療であるピルもSSRIも吐き気が出るため服用を継続できない)に向く。

<方剤解説>
半夏白朮天麻湯】(37):気虚・気うつ・水毒・脾虚
・胃腸を整える六君子湯(43)に利水作用のある生薬を加えたもの。
・PMS+便秘 → 桃核承気湯(61)がよいが、PMS+IBS → 半夏白朮天麻湯(37)がよい。



<参考>

PMSラボ(大塚製薬)

PMSの診断基準(ACOG:
米国産婦人科学会, 2014)
過去3か月の月経前5日間に、
下記の情緒的または身体的症状のうち、
少なくとも一つを患者が訴えた場合PMSと診断できる。

(情緒的症状)抑うつ、怒りの爆発、いらだち、不安、混乱、社会からの引きこもり
(身体的症状)乳房の痛みまたは張り、腹部膨満感、頭痛、
       関節または筋肉の痛み、体重増加、手足のむくみ
それらの症状は月経開始後4日以内に消失し、
すくなくとも13日目までは再発しない。
症状は薬物の中断やホルモン接種、薬物やアルコール使用によるものでない。
症状は2周期の前方視的記録でも認められる
患者は社会的、学問的なたは仕事におけるパフォーマンスに明確な障害を示す。

PMDDの診断基準(DSM-5:米国精神科学会, 2014)
以下の基準A, B, Cをすべて満たし、
BまたはCの5つ以上の症状が存在
→ PMDD(premenstrual dysphoric disorder, 月経前不快気分障害)の診断。

(基準A)
ほとんどの月経周期において、
月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が見られ、
月経開始後数日以内に軽快、月経終了後の週には最小限か消失。

(基準B)
以下のうち一つまたはそれ以上が存在
1.著しい感情の不安定性
2.著しいいらだたしさ、怒り、または人間関係の摩擦の増加
3.著しい抑うつ気分、絶望感、自己批判的思考
4.著しい不安、緊張および/または高ぶっているとかいら立っているという感覚

(基準C)以下のうち一つまたはそれ以上が存在
1.通常の活動における興味の減退
2.集中困難の自覚
3.倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
4.食欲の著しい変化、過食
5.過眠または不眠
6.圧倒される、または制御不能という感じ
7.その他の身体症状

PMSの診断・管理(産婦人科診療ガイドライン、2020)
1.発症時期、身体症状、精神症状から診断する(A)。
2.カウンセリング、生活指導や運動療法を行う(B)。
3.利尿剤や漢方薬を処方する(C)。
4.ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠などの低用量エストロゲン・プロゲステロン配合薬を処方する(B)。
5.精神症状が主体の場合、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)により治療する(B)。
6.精神症状が強いときは精神科または心療内科に紹介する(C)。
※ 推奨度(ABC)解説;
 A:強く勧める、B:勧められる、C:考慮される

OC・LEP(低用量ピル) …「OC・LEPガイドライン2020」より
いずれもエストロゲンと黄体ホルモンの合剤
・OC(COCs):Oral contraceptives
 → 避妊を目的として用いるもの
・LEP:low dose estrogen progestin 
 → 月経困難症や子宮内膜症など疾患の治療を目的として用いるもの(日本独自の呼び方)

※ EP配合剤に含まれるエチニルエストラジオール
 中用量EP:50μg
 低用量EP:50μg未満
 超低用量EP:20μg以下



月経不順で婦人科を受診すると、
たいていピル(経口避妊薬様女性ホルモン配合剤)が処方されます。
月経サイクルをある程度コントロールすることが可能になるそうです。

ピルは専門医の管理下で服用すると、とてもよい薬です。
しかし、婦人科以外ではピルを処方することができません。
また、若い未婚女性にとって婦人科の敷居は高いと思われます。

そこで漢方薬の出番です。
漢方薬は婦人科以外でも処方できます。
当院は小児科ですが、
小さい頃から通院してきた患者さんから、
「生理が始まったのですが、間隔が一定しなくて心配」
「生理痛がつらくて痛み止めが欠かせません」
という相談を受けることがあり、
漢方薬を処方することがあります。

月経異常の中で、月経不順は最もストレスが関与していると言われています。
西洋医学では、月経コントロールの薬とストレス対策の薬は別に処方されますが、
漢方医学では、一つの薬で済むことが多いことが違うところ。
なぜかといえば、月経不順がストレスに関係していることを2000年前から認識して治療してきたからです。

すごいですね。

では漢方専門家による治療法解説を紹介します。
各先生により解説が微妙に異なりますが、
原典は約2000年前の中国の書物『傷寒論』『金匱要略』であることは共通しており、
そこに師匠の流派や個人の臨床経験が加わったものとご理解ください。

私はシンプルな大澤先生の解説が好きですが、
理論的な後山先生の解説にも肯けます。
お二人とも、温経湯を第一選択に挙げていますね。

当院でも処方可能ですので、試してみたい方はご相談ください。
あなたに合った漢方薬を、一緒に探しましょう。


産婦人科医:大澤稔先生

月経不順
くちびるが渇いている
 → はい → 温経湯(106)
 → いいえ → 当帰芍薬散(23)


産婦人科医:後山尚久先生

月経不順
瘀血・血虚桂枝茯苓丸(25)、当帰芍薬散(23)、温経湯(106)
気虚・気滞十全大補湯(48)、六君子湯(43)、通導散(105)

この中で、温経湯(106)が第一選択となる。

<解説>
・月経不順のうち、排卵障害患者に対しては、西洋医学では種々の治療法が施される。
・排卵障害や月経異常は心身症としての一面も有しており、画一的な西洋医学的治療では限界がある。
・若年者では未婚者の月経不順の治療目的は、決して定期的な月経ではなく、自分の力で排卵できるようになることである。
・漢方医学的には、生殖機能は五臓の「腎」機能に最も関与しており、月経周期異常の病態は「腎虚」と捉える。この「腎虚」には「脾胃虚(気虚)」「血虚」が関与すると言われ、月経異常には「瘀血」と「気滞」も原因として挙げられる。
・どの漢方薬を用いるかの決定は、実際には即断が難しい。
・月経異常の本態が「下焦の虚寒」と「瘀血」であることから、温経湯(106)の証と一致する例が多いため、この方剤が第1選択薬として用いられることが多く、効果も得られる。
・最近の若年女性の食生活や生活パターンは「瘀血」と「気滞」を起こしやすい。
・ダイエットで無理矢理体重を落とした場合は、「血虚」やさらには「気虚」状態が生じることがある。
・精神ストレスの強い毎日を送っている場合には「気虚」「気滞」が病態の中心となる。

<方剤解説>

温経湯】(106):虚証・寒:血虚・瘀血・気虚
服用方法:1回1包、1日3回服用
効果発現:早ければ次の月経時に効果発現
腹証:特徴的なものはない(腹壁軟弱でときに下腹部の不快感や瘀血点圧痛)
こんな人に:
・下半身の冷えが強い(+上肢のほてり、のぼせ)
・手の平・足の裏がほてる
・乾燥しやすい体質

当帰芍薬散】(23):虚証・寒:血虚・水毒
服用方法:1回1包、1日3回服用
効果発現:早ければ次の月経時に効果発現
腹証:軟弱で軽度〜中等度の小腹急結
こんな人に:
・色白で貧血気味
・なで肩・細身
・四肢の冷えがあり、むくみやすい体質
・めまい、頭痛

桂枝茯苓丸】(25):瘀血
腹証:少腹瘀血圧痛、左腹皮拘急
こんな人に:
・肩こり、頭痛、めまい
・紅潮を伴うのぼせ、月経痛

桃核承気湯】(61):実証・熱:瘀血
腹証:著明な小腹急結
こんな人に:
・便秘
・肩こり、頭痛
・月経前症候群(月経前にのぼせ、頭痛、めまい、肩こり、精神症状)

四物湯】(71):血虚
服用:温経湯(106)との併用で効果向上
腹証:軟弱、臍上悸
こんな人に:
・貧血・色白
・皮膚乾燥気味


小児外科医:小川恵子先生

瘀血剤(当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯)に加えて、
下記のような方剤を併用する。

六君子湯(43):気うつ傾向、消化管が弱い
柴胡桂枝湯(10):緊張しやすい、胃が痛くなりやすい
四逆散(35):緊張が非常に強い
加味逍遥散(24):落ち込みやすく、イライラしやすい
十全大補湯(48):疲れと肌のかさつき
補中益気湯(41):食後に眠くなりやすい


三宅和久先生

・漢方概念の「血」は血管内の液体を意味する。
・昼間体を動かし消費して減っていき、夜に再生産される性質がある。
・寝ている間に脾(現代医学の胃腸)が血を再生産するので、寝る時間が短いと作る時間が短く、血が減ってしまう。
・月経が遅れる理由は3つある。

1.血虚(血の不足)
血が十分にあると順調に子宮に血を貯めて、28日でいっぱいになり月経が始まる。血が不足していると貯まるまで時間がかかるので月経が遅れがちになる。
治療:養血薬:四物湯(71)、当帰芍薬散(23)、六味丸(87)、牛車腎気丸(107)

2.肝気鬱結(ストレス)
ストレスがあかり肝の気がうっ滞して止まると血を順調に動かせず、子宮に血を貯めるのに時間がかかり、月経が遅れる。
治療:疏肝理気薬:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、四逆散(35)、加味逍遥散(24)、抑肝散(54)

3.瘀血(血の停滞)
血が止まった状態を瘀血と言い、血が子宮に届きにくくなり月経が遅れる。
治療:活血化瘀薬:桂枝茯苓丸(25)、疎経活血湯(53)


谷川聖明Dr

4つの方剤の使い分けを漢方概念の“虚実”で表すと…
(実)
 ↓ 桃核承気湯
 ↓ 桂枝茯苓丸
 ↓ 当帰芍薬散
 ↓ 温経湯
(虚)

4つの方剤の使い分けを漢方概念の“陰陽”で表すと…
(陽)
 ↓ 桃核承気湯
 ↓ 桂枝茯苓丸
 ↓ 温経湯(半陰半陽)
 ↓ 当帰芍薬散
(陰)

【方剤解説】
桃核承気湯)お血・気逆4、気滞1
温経湯)血虚4、お血・気逆3、気滞・気虚・水毒2
桂枝茯苓丸)お血5、気逆3、気滞・血虚・水毒2、気虚1
加味逍遙散)お血4、気逆3、血虚・気滞・気虚・水毒2
当帰芍薬散)血虚・水毒4、お血3、気虚・気滞2、気逆1

★達人の名言:寺澤捷年Dr
「当帰芍薬散は春の田んぼ」(みずみずしい)
「温経湯は秋の田んぼ」(乾いている)


<参考>
▢ 女性の健康推進室・ヘルスケアラボ「月経不順・無月経」(厚生労働省)

 初経年齢が低下してきた現在、小学4年生女子で約1割が経験するそうです。
それとともに、生理痛(=月経痛、医学的には月経困難症)とお友達になります。
中高生で薬を使いたくなるレベルの生理痛のある女子は、約5割もいるそうです。
市販の痛み止めでガマンしている、なんとかしのいでいるという人がほとんどだと思われます。

病院へ行くほどじゃないけど、やはりつらい、
産婦人科は敷居が高いし、
行ったことがわかるといろいろうわさされるのが嫌、
ピルという薬があることは知っているけど、
これも副作用とか、周りの反応とかが怖い・・・
という方へ、漢方薬をお勧めします。

漢方薬の特徴として、
痛みが強いときに頓服でのむ薬もありますが、
その場限り・一時しのぎの西洋医学の鎮痛剤と異なり、
生理のない日も含めて毎日服用することにより、
生理痛が軽くなる体質改善効果を期待できる薬もあります。

さらに生理中の痛み以外のつらい症状(冷え、頭痛、便秘など → 月経困難症)を同時に改善でき、
服用を続けているうちに月経困難症そのものが出現しなくなり、
休薬できる場合も多いのです。

漢方医学では、生理痛は“血の巡りが悪い”と捉え、
“瘀血”(おけつ)と表現します。
その瘀血を治す薬を“駆於血剤”と呼び、 
その人の体力・体調により複数の薬剤が用意されているのです。
自分に合った駆於血剤を見つけられると、ハッピーになれますよ。

近年、漢方薬の薬効が科学的に解析されるようになり、
駆瘀血薬は体の組織の血液微小循環を改善させることがわかってきました。
静脈系の微小循環障害に効く薬は西洋医学では乏しいので、貴重な存在です。

ここでは複数の漢方専門家による生理痛の治療を紹介します。
読んでみて、「私にはこの漢方が合いそう」と感じたらぜひご相談ください。

小児科である当院でも処方できます。
あなたに合った漢方薬を一緒に探しましょう。

ただし、日常生活に支障が出るほど重い人は、
ベースに病気が隠れていないかどうか確認する目的で、
まず婦人科受診をお勧めします。


産婦人科医:大澤稔先生

■ 月経痛の種類
1.収縮過剰型:子宮の筋肉が収縮して古い血液を排出するとき、収縮が強すぎて痛みを覚える。
2.病気合併型:子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が原因で痛む
3.冷え誘発型 :冷え症(冷えると痛む)、鎮痛剤が体の冷えを助長する悪循環もある。

<月経痛の漢方治療フロー>

(頓服)
急性月経痛の第1選択薬 →
芍薬甘草湯(68)

(定期内服)
冷え症がありますか?  

→ あり → 唇の乾き、足の裏のほてりは?
      → あり:温経湯(106)
      → なし:当帰芍薬散(23)、当帰建中湯(123)

→ なし  → 子宮筋腫・子宮内膜症は? 
      → あり → 便秘 → あり:桃核承気湯(61)
              → なし:桂枝茯苓丸(25) 
      → なし:芍薬甘草湯(68)

■ 飲むタイミング
① 頓服(痛みがひどいときの緊急避難):芍薬甘草湯(68)
② 定期内服(生理中だけではなく毎日服用):桂枝茯苓丸(25)、桃核承気湯(61)、温経湯(106)、当帰芍薬散(23)
③ 生理中のみ内服:当帰建中湯(123)(月経以外の日は当帰芍薬散を毎日服用)

<方剤解説>
芍薬甘草湯(68):5-6分で痛みが和らぐ超即効薬。生理痛がひどいときに1(〜2)包頓服する。鎮痛剤(NSAIDs)と併用可能。
桂枝茯苓丸(25):子宮筋腫・子宮内膜症のヒトの第一選択。 微小循環改善作用あり。1回1包、1日3回継続服用。鎮痛剤(NSAIDs)と併用可能。
桃核承気湯(61):子宮筋腫・子宮内膜症+便秘があるヒト向け。微小循環改善作用あり。1回1包、1日1回からはじめて、便の状態をみながら増やしていく(いきなり1日3回ではじめると下痢するかも)。 鎮痛剤(NSAIDs)と併用可能。
温経湯(106):下半身の冷えが強いのに、手の平・足の裏は火照っていて、唇が乾き、月経不順などに悩んでいるヒト向け。1回1包、1日3回継続内服。鎮痛剤(NSAIDs)と併用可能。
当帰芍薬散(23):冷え・むくみ・頭痛があり、色白で貧血気味のヒト用。 1回1包、1日3回定期内服。
当帰建中湯(123):疲れやすく、血色が悪い、冷え、(生理中の)下痢に悩んでいるヒト向け。 生理中の7日間、1回1包、1日3回服用(月経以外の日は当帰芍薬散を服用)。


小児外科医小川恵子先生) 

■ 月経痛の種類
1.機能性月経困難症:ベースに病気がない・・・90%以上を占める
2.器質的月経困難症:ベースに病気がある

■ 月経困難症における漢方薬の位置づけ
・機能性月経困難症において、鎮痛剤(NSAIDs)や低用量ピルと並ぶ選択枝の一つ。

<生理痛の漢方治療フロー>

月経時に塊が出ますか、月経血が暗赤色ですか?

 → はい →
便秘は? → あり:通導散(105)、桃核承気湯(61)
           → なし:
桂枝茯苓丸(25)、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)

 → いいえ →
むくみやすい? → はい:当帰芍薬散(23)
              → いいえ:
当帰建中湯(123)
  
月経血が多い(
月経過多)→ 芎帰膠艾湯(77)

<方剤解説>
芍薬甘草湯(68):痛みが強いときに頓服(1回1包、1日4回まで可)、あるいは月経中2包分2で使用可能。
当帰建中湯(123):血虚(当帰)+気虚(大棗・甘草・生姜)に対応。 
当帰芍薬散(23):血虚+水毒に対応。
桃核承気湯(61):気逆(+便秘)に対応。 
通導散(105):気うつ(+便秘)に対応。
桂枝茯苓丸(25)、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125):臍周囲の圧痛を目標とする。 

月経過多の治療フロー>

月経過多肌荒れ、爪が割れやすい(血虚)?

 → はい → 不眠傾向? → はい:帰脾湯(65)、加味帰脾湯(137)
           → いいえ → 出血が長く続く:芎帰膠艾湯(77)
                 → 手足のほてり、口唇の荒れ:温経湯(106)

 → いいえ → 便秘傾向?
      → はい →
下腹部の圧痛は? → あり:桃核承気湯(61)、通導散(105)
                    → なし:三黄瀉心湯(113)
       → いいえ → 桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)、桂枝茯苓丸(25)


産婦人科医:後山尚久先生

・月経困難症、月経前症候群(緊張症)は“瘀血”と“水毒”がその病態の中心をなす。その基盤に“気の異常”(気虚、気うつ)が存在している。

<月経困難症への治療>

月経痛中心(10代女性の軽度の月経困難症)
当帰芍薬散(23)を継続投与 ・・・有効率5〜8割
月経中は鎮痛剤頓服、
芍薬甘草湯(68)頓服可

月経痛+瘀血(肩こり、ほてり、冷えなど)
月経前7日から終了まで:
芍薬甘草湯(68)
月経終了から月経前7日まで:
桂枝茯苓丸(25)、加味逍遥散(24)、当帰芍薬散(23)、桃核承気湯(61)、通導散(105)

月経痛+水毒(めまい、頭痛、嘔吐など)
月経前7日から終了まで:
芍薬甘草湯(68)
月経終了から月経前7日まで:
苓桂朮甘湯(39)、五苓散(17)、半夏白朮天麻湯(37)、当帰芍薬散(23)

<方剤解説>
当帰芍薬散(23):虚証・寒:血虚・水毒
芍薬甘草湯(68):虚証・寒熱
温経湯106):虚証・寒:血虚・瘀血
温清飲(57):虚証・熱:血虚・血熱
加味逍遥散(24):虚〜中間証・熱:気血両虚、胸脇苦満、瘀血
桂枝茯苓丸(25):中間〜実証:瘀血
大黄牡丹皮湯(33):実証・熱:瘀血、便秘
桃核承気湯(61):実証・熱:瘀血、便秘、精神不安定



谷川聖明Dr.)

4つの漢方薬の使い分けは“陰陽”概念を使う。

(陽)
 ↓ 桂枝茯苓丸
 ↓ 加味逍遙散
 ↓ 当帰芍薬散
 ↓ 当帰建中湯
(陰)

【方剤解説】
各方剤に含まれる生薬の担当病態の強さを数字(1~5)で表した:
桂枝茯苓丸)お血5、気逆3、気滞・血虚・水毒2、気虚1
加味逍遙散)お血4、気逆3、血虚・気滞・気虚・水毒2
当帰芍薬散)血虚・水毒4、お血3、気虚・気滞2、気逆1
当帰建中湯)お血3、血虚3、気逆1


以上、4名の漢方専門医による解説を並べてみました。
やはり微妙に異なりますが、共通しているのは、

“瘀血”がベース、
+“水毒”
+“さまざまな気の異常(気虚/気鬱/気逆)”

という捉え方ですね。
水毒や気の異常は各患者さんにより異なるため、
オーダーメイドの治療薬選択が必要になるという流れです。

小学校高学年から中学生くらいになると、
朝礼の時に倒れてしまう女子がたまにいますね。

そういう子は起立性調節障害という病気が疑われ、
よく聞くといろいろな体調不良が出てきます。
立ちくらみやめまい、頭痛に悩まされている、朝起きるのがつらい、
学校へ行くのがつらい・・・等々。

起立性調節障害という病気は自律神経失調症の思春期版です。
頻度は5-10%と少なくありません。
自律神経とは、意識せずに人の体を調節してくれるシステムで、
例えば心臓は自分で意識しなくても動き続けてくれますよね。
そのリズムを調節してくれているのが自律神経とご理解ください。

その自律神経の調節がうまくいかないと、いろいろな不具合が発生します。
自律神経は全身に張りめぐされていますから、症状もなんでもありです。

なのでその診断は、血液検査ではなく、基本的には症状を数えて確定します。

OD身体症状項目
(項目が3つ以上当てはまるか、あるいは2つであってもODが強く疑われる場合に疑う)

1.立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
2.立っていると気分が悪くなる。ひどくなると倒れる
3.入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
4.少し動くと動機あるいは息切れがする
5.朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
6.顔色が青白い
7.食欲不振
8.臍疝痛をときどき訴える
9.倦怠あるいは疲れやすい
10.頭痛
11.乗り物に酔いやすい

なんだか誰でもありそうな“体調不良”ワードが並んでいます。
実は起立性調節障害にはサブタイプがあって、
そこまで診断にこだわる場合は「新起立試験」という検査を病院で受ける必要があります。
興味のある方はこちらをご覧ください。


起立性調節障害の治療には昇圧剤を使います。代表的な薬剤は、メトリジン®です。
ただ、この薬だけで症状が軽快する例は残念ながら多くありません。


治療の手応えがない場合は、他の病気が隠れていないかチェックする必要があります。
その中には「心身症」も含まれます。

日本小児心身医学会によると「ODと診断されている子どもの70〜80%は心身症である
のが現実のようです。
「心身症としてのOD」の診断基準と、なりやすい子どもの性格を紹介します;

★ 「心身症としてのOD」(日本小児心身医学会)
・学校を休むと症状が軽減する
・身体症状が再発・再燃を繰り返す
・気にかかっていることを言われたりすると症状が悪化する
・一日の内でも身体症状の程度が変化する
・身体的訴えが2つ以上にわたる
・日によって身体症状が次から次へと変化する
⇒ 以上の内4項目以上がときどき(週1〜2回)以上見られる場合、
 心理・社会的関与ありと判定して「心身症としてのOD」と診断する

★ 「心身症としてのOD」になりやすい子どもの特徴
・一般的に過剰適応で気を遣う人柄
・幼少時期から親を手こずらすことが少なく従順な性格傾向
・自己の意思表示が少なく感情を抑圧しやすい
・学校での集団生活において自我を抑制し、友達の意向に合わせて周囲の期待に応えようとする傾向が強い(NO!と表現するのが苦手)
・日常の中で慢性的なストレスを感じながらもそれを発散することが困難であり、無意識下にため込んでいる
・発達障害を伴うケースは学校不適応を起こしやすく心理的ストレスによって症状悪化

・・・真面目で正直者は、現代社会では生きづらいのですねえ。
我慢していても一線を越えると耐えきれなくなって体がSOSを出すのがOD、と捉えることもできそうです。

ただし「心身症としてのOD」は「心療内科医」が担当する病気であり、
一般小児科医は診療できません。


しかし心療内科は敷居が高く、ちょっと行きづらいですよね。
そこでは私は「こころの不調の要素もあるOD」に対して漢方薬を応用しています。
すべての患者さんに効くとは言いませんが、
体に合う漢方薬が見つかると症状が楽になって生活の質が改善し、
通院している中高生もいます。


西洋医学は心と体を分けて発展してきましたが、
漢方薬は“心身一如”といって心と体は影響し合うものと2000年前から認識し、
使われる薬にもこころに効く生薬が必ずと言っていいほど含まれているのが特徴です。


思春期という多感で敏感な年頃の子どもは、
からだもこころも不安定になりがちですから、
その両方をカバーしてくれる漢方薬は強い味方です。
自分に合う薬が見つかると、ハッピーになれます。


興味のある方はこちらをご覧ください。
起立性調節障害の漢方(その1
起立性調節障害の漢方(その2

<追加ブログ>
起立性調節障害の漢方治療 by 幸井俊高Dr. 

この項目は、感染症や副鼻腔炎などによる急性頭痛ではなく、ベースに病気が隠れていないけど、発作性の頭痛を繰り返す「片頭痛」の治療に関する内容です。

子どもの片頭痛の特徴を挙げますと、

・持続時間が短い(大人は4〜72時間、子どもは2〜72時間)。
・片側性は希で、両側性が多い。
・拍動性かどうかはっきりしない。
・吐き気・嘔吐が見られることが多い。

もう少し詳しく知りたい方は、こちらをお読みください。

さてふだんの診療の中で、時々片頭痛の相談を受けますが、
子どもの片頭痛の治療薬は、西洋医学では選択枝が2つしかありません。

・アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®
・イブプロフェン(ブルフェン®

これらを処方しても効果今ひとつ、という患者さんもいて、
病院を紹介することもありますが、
残念ながら治療内容はあまり変わりません。

一方、成人の片頭痛治療薬は日進月歩で、
・トリプタン製剤
・抗体医薬
等を用いて目を見張るような効果で注目されていますが、
小児はその恩恵を受けることができません(2025年現在)。

そこで私は、漢方薬でどこまで治療可能か、調べてみました。
すると、トリプタン製剤に頼らなくても、
頭痛の治療ができる可能性に手応えを感じました。

というわけで、
市販薬や病院で処方される鎮痛剤(カロナール®、コカール®、ブルフェン®)では痛みのコントロールができない片頭痛持ちの方は、
この項目を是非お読みください。

さて、頭痛発作時に用いる漢方薬は以下の通り;
・五苓散
・呉茱萸湯
・呉茱萸五苓散(呉茱萸湯+五苓散)


他にも頭痛に効く漢方薬は色々あるのですが、
今回は「片頭痛発作」に絞った話なので、
方剤も限定的です。

3剤の使い分けは、
・五苓散:低気圧により頭痛が悪化する場合
・呉茱萸湯:手足の冷えや胃弱などを伴う場合
・呉茱萸五苓散:上記2剤が単剤で効果が得られないとき併用

五苓散と呉茱萸湯の各々単独での有効率は5割程度、
2剤の併用(呉茱萸五苓散)をうまく使うと7〜8割まで上昇するとのこと。

呉茱萸湯は・・・味がキツくて、苦いというかエグい味で飲みにくいので有名です。
たまに処方しても飲んでくれる子どもは少なく、
「飲めて効いた」
という患者さんはまだ片手で足りるくらいでしょうか。

でも大丈夫。
飲み込めなくても口の中に10秒間含んでから吐き出す「口含法」でも効くそうです。

そして、漢方薬と鎮痛剤を発作時頓服しても頭痛のコントロールができない場合は、
予防内服・定期内服を追加する方法もあります。
そちらも紹介します。

この項目を読んで、当院での頭痛治療を試したいと希望される方は、ぜひご相談ください。

まずは五苓散、呉茱萸湯の単独投与を試してみましょう。
アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®)、イブプロフェン(ブルフェン®)と併用しても大丈夫です。

それでもうまくいかずつらいときは呉茱萸五苓散(呉茱萸湯+五苓散)を試しましょう。
以下に、松田正先生の提唱する呉茱萸五苓散の飲み方を紹介します。
“分単位”で追加投与していく、ち密な方法です。


<片頭痛発作の治療>
・投与のタイミングが大切です。

 前駆症状出現(前兆ではありません!)
   ↓
 呉茱萸五苓散1回目  → 効果あり → 治療終了
   ↓
(効果不十分)
   ↓
 7分後呉茱萸五苓散2回目  → 効果あり → 治療終了
   ↓
(効果不十分) → ロメリジン(ミグシス®)予防投与を検討
   ↓
 5分後トリプタン製剤投与(ただし12歳以上)
   ↓
(効果不十分)
   ↓
 30分後呉茱萸五苓散3回目 → 10分程度で残存症状が軽快することが多い。
   
【解説】
・投与のタイミングは前兆ではなく前駆症状(あくび、倦怠感、急激な眠気、首・肩のこりなど)で、異変を自覚したら直ちに服用する(迷ったらまず服用!)。
・前兆(閃輝暗点、視野狭窄)は呉茱萸五苓散を内服するギリギリ最後のタイミングである。前兆自覚後30分で片頭痛発作が始まってしまう。
・呉茱萸五苓散1回内服しても効果不十分な場合は7分後に追加内服する。「7分間隔で2回連続投与」が標準である。
・呉茱萸五苓散2回目投与後、5分経過しても頭痛がゼロにならない場合は、(12歳以上であれば)トリプタン製剤を投与。トリプタン製剤は、体動により頭痛が悪化するタイミング(首振りテスト・お辞儀テストで確認)で投与するのが“至適タイミング”である。
・トリプタン製剤(内服・点鼻)後30分が経過しても、まだ頭痛、頚部痛、肩こり、倦怠感などの症状が残存している場合には、呉茱萸五苓散3回目投与を行うと10分程度で残存症状が軽快することが多い。
・子どもへの投与の工夫:チョコレートアイスに混ぜ込む、コーラなどの炭酸飲料で飲ませるなどをしても飲めない場合は「口含法」(口の中に漢方薬と水を入れ、10秒間保持してから吐き出させる)方法でも有効。

【備考】
・呉茱萸五苓散はトリプタン注射にも匹敵する即効性と有効性がある。
・呉茱萸五苓散の反復投与では一般の鎮痛剤のようにクセになることはなく、むしろ体質改善効果により片頭痛発作の頻度が減っていくことが期待される。
・呉茱萸五苓散の効果がなければ、二次性頭痛の可能性があるので要精査、二次性頭痛を否定された呉茱萸五苓散不応例にはトリプタン製剤を併用すべし。
・漢方薬と西洋薬のハイブリッド片頭痛治療により、8割の片頭痛患者さんが治療可能である。

(呉茱萸五苓散不応例への漢方アレンジ)大野Dr.
呉茱萸湯+葛根湯・・・項部のコリから来る頭痛
五苓散+桂枝湯桂枝加桂湯合四苓湯)低気圧襲来などによる気の上衡(突発的な精神緊張状態)


<片頭痛の予防治療>
・片頭痛発作の頻度が多いときに考慮する。
・下記薬剤を定期内服+呉茱萸五苓散頓用が基本。

 呉茱萸五苓散を3ヶ月内服  → 頭痛発作減少なら頓服へ
  ↓
(効果不十分)
  ↓
 ロメリジン(ミグシス®)予防内服
  ↓
(効果不十分)
  ↓

①(女性例)ロメリジン+当帰芍薬散を定期内服(2週間試す)
  ↓
(効果あり)
  ↓
 当帰芍薬散定期内服(ロメリジン休薬)

②(めまい)ロメリジン+苓桂朮甘湯を定期内服

③(小児例)小建中湯

④(心因関与)抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、六君子湯


呉茱萸五苓散】(大野Dr.)
・発作頻発例では、呉茱萸五苓散を3ヶ月ほど定期内服(大人であれば1日3回、子どもでは減量)し、発作の頻度が減ってきたら頓用にする(大野Dr.)。

ロメリジン
・呉茱萸五苓散でも効果不十分なとき、ロメリジン(ミグシス®)の予防投与を検討する。ロメリジン単独での予防効果は限定的であるが、呉茱萸五苓散の効果が不十分な時にロメリジンを予防内服することで、呉茱萸五苓散の薬効が増強することが多い。ロメリジンは妊婦には使用禁忌であるが、小児・青年期には比較的安全に投与可能である。
・(松田正Dr.は)片頭痛通院患者の約3割に、片頭痛が多発する春一番(2月中旬)〜台風シーズン終了(9月下旬)の期間限定で、呉茱萸五苓散とロメリジンを併用している。片頭痛発作が減ってきたらロメリジンを中止し、呉茱萸五苓散頓用に戻す例も多い。

当帰芍薬散
・“駆於血剤”の中で頭痛予防に一番有効な漢方薬。
・呉茱萸五苓散とロメリジン併用でも頭痛のコントロールが困難な場合、患者さんが女性なら「ロメリジンと当帰芍薬散を2週間投与+頭痛発作時に呉茱萸五苓散頓用」し、頭痛発作が減少すればロメリジンを中止して当帰芍薬散だけを定期内服させ、呉茱萸五苓散頓用に移行する選択肢もある。

苓桂朮甘湯
・ロメリジン+苓桂朮甘湯を通常量予防内服し、呉茱萸五苓散頓用。
・茯苓含有量は五苓散が3g/日、苓桂朮甘湯は6g/日と多く、苓桂朮甘湯有効例を「茯苓感受性片頭痛」と呼んでいる。
・前庭性片頭痛(めまいを伴う片頭痛)の際に苓桂朮甘湯を予防投与することも多い。

小建中湯
・呉茱萸五苓散の効果が乏しい小児例に、小建中湯通常量を予防投与する。
・小建中湯定期内服+呉茱萸五苓散頓用が標準法。

抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、六君子湯
・呉茱萸五苓散頓用+ロメリジン定期内服でも抑制できない片頭痛発作に活用可能。
・抑肝散は「隠れた怒り」を鎮める薬で、原因不明の頭痛・腰痛の治療にもよく使われる。痛みは「脳」で感知しているので、脳に働きかける漢方薬で痛みをコントロールできることは合点がいく。
・つまり「心因性頭痛」の要素がある場合に手応えが期待される漢方薬である。
・ストレス緩和による片頭痛予防として、小児では小建中湯、成人では抑肝散が選択枝。
・痛みが強い場合には抑肝散から、気分の落ち込みや元気のなさが目立つ場合は抑肝散加陳皮半夏を用いる。
・気分の落ち込みに加えて食欲不振や吐き気など、消化器症状を伴うときには六君子湯から開始する。


<参考> 
主に松田正先生と大野修嗣先生の解説(ツムラの医師専用サイト)を参考に「呉茱萸五苓散」とその関連処方をまとめました。
松田正の「急性疾患にこそ漢方薬を!」(日経メディカル)
「片頭痛こそ漢方が効く」という医師の裏技(2021/08/11:日経メディカル)

▶ 頭痛の漢方治療(飯塚病院、井上Dr.)
・雨降り前に悪化 → 五苓散(17)、九味檳榔湯
 +冷え → 真武湯(30) 
 +冷え・瘀血 → 当帰芍薬散(23)
・冷えがある、冷えで悪化 → 呉茱萸湯(31)
 +瘀血 → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
・パソコンやスマホで悪化 → 治打撲一方(89)
 ー便秘 → 桂枝茯苓丸(25)
以上の方剤で除痛が不十分なとき
 → +川芎茶調散(124)追加

↑このページのトップヘ