2023年04月

谷川聖明Dr.によるニキビに対する漢方治療解説から、
ポイントを抜粋・要約しました。

患者さんの“
虚実”により使い分けるスタンスです。
ニキビに使用する漢方は、経過(phase)で語られることが多いのですが、
こういう視点もあり、ということで参考になります。


日本漢方における“虚実”とは、大まかに言うと、
 虚:体力がない
 実:体力がある
です。

また全身の体力ではなく、
 ニキビ局所の勢いがあると実、
 ニキビ局所の勢いがないと虚、
と捉える専門家もいます。


▢ “虚実”による使い分け;

 虚証 荊芥連翹湯

 ⇩  十味敗毒湯

 ⇩  桂枝茯苓丸加薏苡仁

 実証 清上防風湯


▢ ニキビの性質による使い分け;

荊芥連翹湯:どす黒いニキビ(黒ニキビ

十味敗毒湯:化膿したニキビ(黄ニキビ

清上防風湯:思春期ニキビ(赤ニキビ

桂枝茯苓丸加薏苡仁:月経に伴うニキビ


清上防風湯

・比較的体力が充実した人(実証)向け

・顔面頭部の皮疹で発赤が強く化膿しやすい場合に

・炎症を伴い赤く腫れ上がったいわゆる赤ニキビ

思春期ニキビにしばしば用いられる

清上防風湯の解説;
12種類の生薬から構成されています;

(排膿)連翹、枳実

(排膿)桔梗、甘草、川芎

(清熱)黄連、黄岑、山梔子

(祛風解表※)荊芥、防風

 ※ 祛風解表:肌表のトラブルを改善する

・瘀血2、気滞2、気逆2、血虚1、気虚1、水毒1


十味敗毒湯

・体力中等度(虚実間証)の人向け。

・諸種の皮膚疾患で、患部が化膿を伴うか化膿を繰り返す場合に用いる。

散発性の皮疹に適応し、広い範囲に多発するタイプではない

・柴胡剤であり、ストレスなどの肝の高ぶりにより悪化するニキビに用いられる。

十味敗毒湯の解説;
10種類生薬で構成されます;

(排膿)桔梗、甘草、川芎

(祛風解表)荊芥、防風

・・・以上2つは清上防風湯と共通

(清熱・疏肝)柴胡       
(その他)独活、茯苓、生姜、撲樕

※ コタロー漢方のエキス剤では、防風は浜防風、撲樕は桜皮を使用

・気滞3、気虚2、水毒2、瘀血1、血虚1、気逆1


荊芥連翹湯

・青年期の解毒症体質(≒アレルギー体質、下記参照)に用いる。

・皮膚が浅黒く、精神的に敏感であり、手のひらや足の裏に汗をかきやすい人で、とくに炎症が慢性化した場合に用いる。

荊芥連翹湯の解説;
森道伯が創案した一貫堂処方の一つで、「万病回春」にある同名処方の加減方。

・温清飲(黄連解毒湯:黄岑、黄連、黄柏、山梔子と四物湯:地黄、芍薬、川芎、当帰)を含む。

・瘀血3、血虚3、気滞3、気逆2、気虚1、水毒1

解毒症体質とは?

・皮膚の色は浅黒く、皮膚のキメが粗い。

・小児期から中耳炎、鼻炎、蓄膿症、扁桃腺炎など身体上部の炎症性疾患に罹患しやすい。

・筋肉質、やせ型で神経質の人が多い。

・手掌や足の裏は神経性発汗により湿潤しやすい。

・脈は緊で、腹は腹筋の緊張が強く、くすぐったがり屋である。


桂枝茯苓丸加薏苡仁

・実証向け。

月経に伴うニキビに適応。

・のぼせ、頭痛、肩こり、めまい、月経異常など瘀血徴候に加え、肌荒れ、肝斑、ニキビ、疣贅など皮膚症状を伴う場合に用いる。

桂枝茯苓丸加薏苡仁の解説;
・桂枝茯苓丸(桂皮・芍薬・桃仁・茯苓・牡丹皮)+薏苡仁(利水・排膿)からなる。

・瘀血5、水毒3、血虚2、気逆2、気滞1、気虚1

・瘀血に対する代表的治療薬である桂枝茯苓丸に、消炎・排膿作用をもつ薏苡仁を加えた方剤。

long-covid(新型コロナ後遺症)の治療について、
西洋医学では治療は確立されていません。

しかし漢方医学では、
「体と心の不調」
として、古くから体調不良に対する治療が行われてきたため、
どんな症状にも対応可能です。

私は小児科ですが、
COVID-19罹患後に症状が続く患者さんには、
漢方薬中心に診療してきました。

この度、整理すべく調べてみると、
各漢方専門医により使う漢方薬が微妙に異なることに気づきました。
まあ、亜急性期は柴胡剤、
慢性期は補剤中心という基本は変わらないのですが。

いくつか紹介します;

1.渡辺賢治Dr.
日本臨床漢方医会」の啓蒙動画配信を視聴し、
ポイントと思われることを抜粋しました。 
扱われている症状は、
・嗅覚・味覚障害
・咳嗽・呼吸困難
・倦怠感・ブレインフォグ
です。 
急性期・亜急性期と慢性期に区別して、
漢方薬を使い分けているのがポイント。
急性期と亜急性期は炎症を抑える柴胡剤中心に様々な方剤を使用し、
慢性期には消耗した体力を補う補剤の使用を推奨しています。


<嗅覚・味覚障害の漢方治療>
 
・急性期から用いることで嗅覚障害の回復は早まる。

① (発症後2ヶ月くらいまで)上気道に炎症が残っている場合
葛根湯/葛根湯加川芎辛夷】急性期で用いる。解熱しても鼻炎症状/鼻閉が残る場合。
麻黄附子細辛湯】高齢者/体力がない人で鼻炎症状が残る場合
※ 2週間以上継続処方が必要な場合は桂枝湯と併用する(桂姜棗草黄辛附湯
小柴胡湯/小柴胡湯加桔梗石膏】咳・痰などが残る場合
柴胡桂枝湯】小柴胡湯より体力がない場合

② (発症後2ヶ月を超えて症状が固定)嗅覚・味覚障害のみが残存する場合
 → 漢方的見方で全身状態を改善する
補中益気湯】倦怠感・食欲不振
十全大補湯】倦怠感+脱毛、皮膚のつやがない
四君子湯/六君子湯】食欲不振、胃腸虚弱
柴胡加竜骨牡蛎湯/桂枝加竜骨牡蛎湯】自律神経の乱れ(腹部動悸)
加味逍遥散】不安・不眠
当帰芍薬散】体力がない・冷え・むくみ(嗅覚障害診療ガイドラインに掲載されている)


<咳嗽・呼吸困難の漢方治療>

・咳嗽・呼吸困難の時間経過を評価する。
① 急性期:発症から4週間
② 亜急性期:4週間〜3ヶ月
③ 慢性期:3ヶ月以上

①と②:発症から3ヶ月まで(解熱したが咳と痰が残る)
小柴胡湯
・咽頭痛があれば小柴胡湯加桔梗石膏を考慮。
・1〜2週間投与。
柴胡桂枝湯
・小柴胡湯より体力がない人に適用。
・頭痛・関節痛などが残る(遷延する)例に。
・咽頭痛があれば桔梗石膏を併用する。

②と③:発症後1か月以上遷延する咳と痰
麦門冬湯
・一度咳が始まると顔が真っ赤になるまで咳が止まらない(大逆上気)。
・乾いた痰が絡みつき、痰を出すのに苦労する。
麻杏薏甘湯
・痰があまり多くない咳で気道狭窄を伴う、喘鳴がある。
清肺湯】痰が多い例。
・痰が多い慢性気道炎症に対して用いる。
・気管支拡張が強く痰が多い場合には第1選択薬となる。
竹筎温胆湯
・咳・痰だけが残り、夜横になると咳き込む。

〜全身状態(疲労倦怠、体重減少、筋量の低下)を評価して補剤を追加する。
補中益気湯
・疲労倦怠が強い例。
・ほかに微熱、寝汗、食欲不振など。
十全大補湯
・(補中益気湯の使用目標)+皮膚のつやがない、脱毛。
人参栄養湯
・(十全大補湯の使用目標)+呼吸器症状が強い、動悸がして眠れない。

③:慢性期(3ヶ月を超えて呼吸困難が持続する例)
・補剤治療(補中益気湯人参養栄湯)を主とする。
・食欲がなければ四君子湯六君子湯などで体重を戻す。
・咳の症状が残る場合は麦門冬湯清肺湯などを適宜加える。


<倦怠感・ブレインフォグ>

・西洋医学的には慢性疲労症候群に類似した病態が疑われています。

▢ 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)
・長期間疲労感が続き、全身の脱力、少し動いただけで寝込んでしまう(post-exertional malaise)、不眠、記憶障害、集中力障害など多彩な症状により、日常生活が送れなくなる。
・ブレインフォグ(集中力低下、記銘力低下、読字障害、処理能力低下)
・原因は不明だが、風邪症状に続いて起こることがあるので、ウイルス感染が原因になると考えられている。
・治療法が確立していないため、治療に難渋する。

漢方医学的には、疲労倦怠感は気虚(気の不足)・血虚(血の不足)と捉え、
それらを補う(=補剤)方剤が使用されます。

気虚
・根元の気が全身的に不足している状態。
・元気が出ない、気力がない、体がだるい、疲れやすい、食欲・意欲がない。
・日中の眠気(特に食後)
(方剤)人参湯、六君子湯、四君子湯、補中益気湯、小建中湯

血虚
・血液が栄養を運べなくなる。
・爪がもろい、貧血、集中力低下
・こむら返り、過少月経
・皮膚のかさつき、白髪、脱毛。
(方剤)四物湯、芎帰膠艾湯

気虚+血虚 → 十全大補湯、人参養栄湯
気虚<血虚 → 大防風湯(痛みを目標)

▢ 三大補剤
補中益気湯】気虚に対する補気
十全大補湯】気血両虚に対する補気・補血
人参養栄湯】十全大補湯のバリエーション:+遠志(中枢へ作用)+五味子(呼吸器に作用)

▢ long-covid における自律神経異常(腹部動悸)
・長引く倦怠感で回復の道筋が見えないストレスで、交感神経の亢進状態が続く可能性もある。
・腹部動悸が著明であれば、まずは自律神経のバランスを整える。
(方剤)柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯
    抑肝散、抑肝散加陳皮半夏


 <参考>
(NPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」)


2.松田正Dr.

参考図書に記載のある症状は、
・倦怠感
・食欲不振
・嗅覚・味覚障害
・抜け毛
です。
嗅覚障害に対して当帰芍薬散を第1選択薬とし、
それに補剤を併用するスタンスです。
どのくらいの期間で効果判定すべきかも提示されており、
その点、親切です。

倦怠感)→ 補中益気湯
食欲不振)→ 六君子湯(食直前内服で効果アップ)
 → 1週間内服後、効果判定

嗅覚障害)→ 当帰芍薬散併用
味覚障害) → 補中益気湯あるいは六君子湯
 → 症状が完全に軽快するまで内服継続(最低でも2週間、長いと1ヶ月)

※ 味覚・嗅覚障害は症状発現後1ヶ月以内に治療を開始することが重要。そして漢方薬を2週間内服しても効果が乏しければ基幹病院や後遺症専門外来へ紹介。
※ 症状発現後1ヶ月以上経過した例でも、1ヶ月内服で効果を認めなければ後遺症専門外来へ紹介。

現場では、
補中益気湯+当帰芍薬散
六君子湯+当帰芍薬散
の組み合わせ処方が多い。

抜け毛
→ 第一選択:十全大補湯
※ 東洋医学的に「抜け毛」は血虚と捉える。
※ 十全大補湯に入っている地黄という生薬が胃に触ることがある。
→ 第二選択:人参養栄湯
→ 第三選択:補中益気湯+当帰芍薬散


<参考>
▢ 「急性疾患にすぐ効く“特選”漢方薬」(日経BP、2023年発行)

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