2024年06月

 嘔気・嘔吐の項で扱っていましたが、
 分けて整理しておくことにしました。

参考にした本には、2剤併用による増強効果の例が掲載されており、
単剤で効果が今ひとつだった場合の“次の一手”として利用可能で助かります。

しゃっくりに効く薬があるなんて、知ってました?
実は、漢方にはあるのです。


■ 2剤併用による効果増強レシピ

呉茱萸湯1包+芍薬甘草湯1包、発作時頓用
・・・吃逆(しゃっくり)の特効薬

半夏瀉心湯1包+芍薬甘草湯1包、発作時頓用
・・・食べ過ぎや飲み過ぎで起きた吃逆(しゃっくり)に即効性あり(甘草瀉心湯の方意)


■ 吃逆(しゃっくり)に対する基本漢方薬

呉茱萸湯《傷寒論》:
▶ 呉茱萸3-4;大棗2-4;人参2-3;生姜1-2
(キーワード)吃逆、冷たいものの摂り過ぎ、悪心・嘔吐

半夏瀉心湯《傷寒論》:
▶ 半夏4-6;黄芩2.5-3;乾姜2-3;人参2.5-3;甘草2.5-3;大棗2.5-3;黄連1
(キーワード)吃逆、食べ過ぎ、飲み過ぎ

芍薬甘草湯《傷寒論》:
▶ 芍薬3-8;甘草3-8
(キーワード)吃逆(横隔膜のけいれんと考える)

柿蒂湯《厳氏済生方》:
▶ 丁子1-1.5;柿蒂5;ヒネショウガ4
(キーワード)OTCで吃逆に対応する薬


<各方剤の解説>

▢ 呉茱萸湯(31)
・胃の冷えを改善する(すべて温める生薬)。
・苦みが強い(えぐみ?)ので、処方時にあらかじめ「苦い薬ですよ」と十分に説明をしておくとよい。
・偏頭痛に伴う悪心・嘔吐に有効。
・かき氷やアイスクリームなど冷たいものを食べたり飲んだりした後など、胃が冷えて起きた吃逆に即効性がある。

▢ 半夏瀉心湯(14)
・黄連+黄岑で消炎作用、胃粘膜の充血びらんを改善する。
・ストレス性胃炎の悪心・嘔吐に有効。
・食べ過ぎや飲み過ぎで起きた吃逆に即効性あり
・肝臓の量が多いので、継続使用する際は偽アルドステロン症に注意

▢ 芍薬甘草湯(68)
・甘味が強い。
・効果は非常に即効的。
吃逆に対して呉茱萸湯や半夏瀉心湯と併用することができる。
・甘草の量が多いので偽アルドステロン症に注意が必要だが、頓用で1回3包服用しても問題は起こらない。

▢ 柿蔕湯
・柿蔕は柿のへたを乾燥させたもので、気逆(吃逆や咳など)を治す。
・呉茱萸湯や半夏瀉心湯、芍薬甘草湯が効かない吃逆に用いるとよい。
・OTCで小太郎漢方製薬が「ネオカキックス®細粒(柿蔕湯エキス顆粒)」として市販されている。



<参考>

すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方(安斎圭一著、羊土社) 
 

参考にした本には、2剤併用による増強効果の例が掲載されており、
単剤で効果が今ひとつだった場合の“次の一手”として利用可能で助かります。

小児科医にとって悪心・嘔吐は患者さんから毎日のように訴えられる症状です。
主に胃腸炎(嘔吐下痢症)ですが、
中には溶連菌性咽頭炎の場合もあります。
喉に強い炎症が起きて痛くなる感染症であるものの、
なぜか気持ち悪くなりおなかが痛くなります(下痢はない)。

さらに、思春期の自律神経失調症(起立性調節障害)で悪心・嘔吐が現れることも。

このような症状に対して、西洋医学ではドンペリドン(商品名ナウゼリン®)一択です。
いわゆる“対症療法”ですね。

漢方ではどうでしょうか。
実は色々な薬を、患者さんの体質や体調により使い分けています。

私は胃腸炎(嘔吐下痢症)には、
水毒(水の体内バランスが崩れた状態)と考えて五苓散を処方、
このくすりは車酔いの吐き気の特効薬でもあります。

激しい嘔吐ではなく、気持ち悪い、食欲がない、胃がもたれる・・・
こんな時は六君子湯

喉のつかえ感(気分的なものも含めて)には半夏厚朴湯を処方することが多いですね。
この薬の不思議なところは、
喉の炎症(いわゆる“かぜ”)による喉の違和感にも、
ストレスによる喉のつかえ感にも、
さらに高齢者のむせ込み(気道に誤嚥して咳き込む)にも効いてしまうのです。
このような薬効を持つ西洋薬はありません。


■ 2剤併用による効果増強レシピ

小半夏加茯苓湯2包+二陳湯2包/日
・・・小半夏加茯苓湯単独では効果不十分で制吐作用を増強したいときに併用

五苓散半夏瀉心湯
五苓散
黄連解毒湯
・・・二日酔の悪心・嘔吐に有効

茯苓飲3包+補中益気湯3包/日
・・・胃切除後の悪心・嘔吐・食欲不振に有効

半夏厚朴湯小柴胡湯柴朴湯
・・・ストレスや不安が原因で起こる喉のつかえ感に柴胡剤と併用して効果増強


■ 悪心・嘔吐に対する基本漢方薬

小半夏加茯苓湯《金匱要略》:
▶ 半夏5-8;ヒネショウガ5-8(生姜を用いる場合1.5-3);茯苓3-8
(キーワード)制吐薬の基本、つわり、嘔吐の対症療法

二陳湯《和剤局方》:
▶ 半夏5-7;茯苓3.5-5;陳皮3.5-4;生姜1-1.5;甘草1-2
(キーワード)小半夏加茯苓湯より重症例に

五苓散《傷寒論》:
▶ 沢瀉4-6;猪苓3-4.5;茯苓3-4.5;蒼朮3-4.5(白朮も可);桂皮2-3
(キーワード)嘔吐、めまい、下痢、二日酔、乗り物酔い

茯苓飲《金匱要略》:
▶ 茯苓2.4-5;白朮2.4-4(蒼朮も可);人参2.4-3;生姜1-1.5;陳皮2.5-3;枳実1-2
(キーワード)突然起こる嘔吐(腹痛はない)

茯苓飲合半夏厚朴湯《本朝経験方》:
▶ 茯苓4-6;白朮3-4(蒼朮も可);人参3;生姜1-1.5;陳皮3;枳実1.5-2;半夏6-10;厚朴3;蘇葉2
(キーワード)喉のつかえ感、心窩部のつかえ感

半夏厚朴湯《金匱要略》:
▶ 半夏6-8;茯苓5;厚朴3;蘇葉2-3;生姜1-2
(キーワード)喉のつかえ、不安感、ストレス

六君子湯《医学正伝》:
▶ 人参2-4;白朮3-4(蒼朮も可);茯苓3-4;半夏3-4;陳皮2-4;大棗2;甘草1-1.5;生姜0.5-1
(キーワード)胃腸症状、胃もたれ、食欲不振、抗がん剤の副作用

呉茱萸湯《傷寒論》:
▶ 呉茱萸3-4;大棗2-4;人参2-3;生姜1-2
(キーワード)吃逆、冷たいものの摂り過ぎ、悪心・嘔吐

半夏瀉心湯《傷寒論》:
▶ 半夏4-6;黄芩2.5-3;乾姜2-3;人参2.5-3;甘草2.5-3;大棗2.5-3;黄連1
(キーワード)吃逆、食べ過ぎ、飲み過ぎ


<各方剤の解説>

▢ 小半夏加茯苓湯(21)
・悪心・嘔吐があるときは原因を問わず使用可能。
・つわりに有効。
・少量ずつ冷服するとよい。

▢ 二陳湯(81)
・小半夏加茯苓湯+陳皮、甘草
・小半夏加茯苓湯よりも症状が強いときに有効
・中医学では「痰飲を除く基本薬」
痰飲・・・何らかの原因により水分の吸収・排泄が障害され、気道の粘液分泌亢進(痰)や胃液の貯留(飲)が生じたもの。

五苓散(17)
・小児の下痢・嘔吐に有効。
・小児には湯に溶いて冷ましたものを、スプーンで一口ずつ服用するとよい。
吐き気があるときは、吐いても一口、吐いても一口と粘り強く繰り返す。一口ずつ4回、5回と飲み続けると吐き気が止まることが多い。
・乗り物酔いの予防として事前服用。
・めまい+嘔吐に有効。

茯苓飲(69)
・枳実は幽門の緊張を改善し、胃内容物の十二指腸への排出を促進する。
・GERDに伴う悪心・嘔吐に有効。PPIと併用可。
・幽門側胃切除、胃全摘術後の通過障害を緩和し、悪心・嘔吐を改善する。
・甘草を含まないため、他剤との併用が容易。

茯苓飲合半夏厚朴湯(116)
・胃のつかえと喉のつかえ(咽頭不快感)に有効。
・GERDによる咳にも有効。
・ストレスによる上腹部症状に幅広く使用可能で応用範囲が広い。

半夏厚朴湯(16)
・小半夏加茯苓湯+厚朴、蘇葉
・ストレスや不安が原因で起こる心窩部の不快感や、咽喉頭のつかえ感と不快感(咽中炙臠、梅核気)に有効。
・つわりの悪心・嘔吐にも有効。

六君子湯(43)
・四君子湯(補気薬)+半夏、陳皮
・四君子湯+二陳湯、と捉えることもできる。
・抗がん剤の副作用による悪心・嘔吐によい。

呉茱萸湯(31)
・胃の冷えを改善する(すべて温める生薬)。
・苦みが強い(えぐみ?)ので、処方時にあらかじめ「苦い薬ですよ」と十分に説明をしておくとよい。
・偏頭痛に伴う悪心・嘔吐に有効。
・かき氷やアイスクリームなど冷たいものを食べたり飲んだりした後など、胃が冷えて起きた吃逆に即効性がある。

半夏瀉心湯(14)
・黄連+黄岑で消炎作用、胃粘膜の充血びらんを改善する。
・ストレス性胃炎の悪心・嘔吐に有効。
・食べ過ぎや飲み過ぎで起きた吃逆に即効性あり。
・肝臓の量が多いので、継続使用する際は偽アルドステロン症に注意。


<参考>

すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方(安斎圭一著、羊土社) 

参考にした本には、2剤併用による増強効果の例が掲載されており、
単剤で効果が今ひとつだった場合の“次の一手”として利用可能で助かります。


小児科医の私が下痢で来院した子どもに処方する薬は、
整腸剤が中心です。
私が医師になった30数年前は、ロペラミド(ロペミン®)が多用されていました。
強力に腸のぜん動運動を止める薬です。
下痢は止まり、腹痛も和らぎ、効果は抜群でした。

しかし腸麻痺(イレウス)状態を悪化させることが判明し、
また毒素産生菌(出血性大腸菌など)の毒素排泄を妨げるため、
重要化のリスクが存在することもあり、
ロペミンは使用されなくなりました。

そう、出血性大腸菌が登場してから、
急性胃腸炎の治療は変わったのです。

「下痢の急性期は止めてはいけない」
という概念が定着し、
「下痢の初期は整腸剤、長引いたら止痢剤」
という方針が現在はスタンダードです。

さて、漢方薬ではどうでしょう。

私は止痢剤として半夏瀉心湯をよく処方します。
苦い薬ですが、手応え十分で、
私は自分が下痢をしたときもこの薬を飲みます。

お腹が痛くてつらいときは、
昔はブスコパン®という、やはり腸のぜん動運動を止める薬が多用されていましたが、
近年はロペミン®と同じ理由で使わなくなりました。

私は桂枝加芍薬湯(幼児には小建中湯)という漢方を処方しています。
ブスコパンほど強力にぜん動運動を止めませんが、
いい具合に痛みをやわらげてくれます。
この方剤は過敏性腸症候群の薬としても有名です。

桂枝加芍薬湯に水飴の原料である麦芽糖をたくさん追加した薬が小建中湯です。
麦芽糖はオリゴ糖で、腸内細菌のエサとなり善玉菌を増やして整腸作用を発揮します。

500年以上前から使用されてきた漢方薬の効果のメカニズムを、
現代科学が証明してくれました。

それから、不思議なことに漢方では下痢と便秘に同じ薬を使うこともあります。
建中湯類(大建中湯、小建中湯など)がその代表です。
どちらに転んでいても、よい状態(中庸)に戻してくれるという、
漢方独特の効果ですね。

さらに漢方では、下痢の原因により方剤を使い分けます。
・炎症(急性胃腸炎)による下痢 → 炎症の熱を冷ます方剤
・冷えによる下痢        → 温めて回復を促進する方剤
という風に。

では、下痢に用いる漢方を見ていきましょう。


■ 2剤併用による効果増強レシピ

胃苓湯3包/日+芍薬甘草湯1包(腹痛時頓用)
・・・胃苓湯証で腹痛が強い場合に併用

葛根湯3包+小半夏加茯苓湯3包/日
・・・葛根湯証で、悪心・嘔吐が強いときに併用(葛根加半夏湯の方意)

半夏瀉心湯3包+五苓散3包/日
・・・下痢が激しいときに併用
半夏瀉心湯3包+芍薬甘草湯1包(頓用)
・・・下痢・腹鳴が強いときに併用

黄芩湯3包+小半夏加茯苓湯3包/日
・・・下痢とともに悪心・嘔吐があるとき併用

桂枝加芍薬湯3包+附子末1.5g/日
・・・お腹の痛みが強いとき、冷えがあるときは附子を併用する

人参湯3包+附子末0.5〜1.5g/日
・・・人参湯証で冷えが強いときに附子を追加する

真武湯3包+人参湯3包/日
・・・真武湯証で単独では下痢に効果不十分の時に併用、長期にわたり水様下痢が治らないときに使用してみるとよい。


■ 下痢に対する基本漢方薬 

五苓散《傷寒論》:
▶ 沢瀉4-6;猪苓3-4.5;茯苓3-4.5;蒼朮3-4.5(白朮も可);桂皮2-3
(キーワード)口渇、脱水、尿量低下、嘔吐、水様下痢(発症直後)

胃苓湯1《万病回春》:
▶ 蒼朮2.5-3;厚朴2.5-3;陳皮2.5-3;猪苓2.5-3;沢瀉2.5-3;芍薬2.5-3;
(キーワード)水様下痢、食べ過ぎ、食あたり、感染性下痢

柴苓湯1《世医得効方》:
▶ 柴胡4-7;半夏4-5;生姜1(ヒネショウガを使用する場合3-4);
(キーワード)水様下痢、炎症性腸疾患、感染性下痢(発症から数日経過)

葛根湯《傷寒論》:
▶ 葛根4-8;麻黄3-4;大棗3-4;桂皮2-3;芍薬2-3;甘草2;生姜1-1.5
(キーワード)胃腸の風邪、感冒症状(悪寒)を伴う下痢(発症直後)

半夏瀉心湯《傷寒論》:
▶ 半夏4-6;黄芩2.5-3;乾姜2-3;人参2.5-3;甘草2.5-3;大棗2.5-3;黄連1
(キーワード)ゴロゴロと腹鳴のある下痢、軟便・泥状便、下痢型過敏性腸症候群

黄芩湯《傷寒論》:
▶ 黄芩4-9;芍薬2-8;甘草2-6;大棗4-9
(キーワード)高熱、強い腹痛、激しい下痢、ノロウイルス感染症、裏急後重(しぶり腹)

桂枝加芍薬湯《傷寒論》:
▶ 桂皮3-4;芍薬6;大棗3-4;生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合3-4);甘草2
(キーワード)過敏性腸症候群、裏急後重

小建中湯《傷寒論》:
▶ 桂皮3-4;生姜1-1.5;大棗3-4;芍薬6;甘草2-3;膠飴20(マルツエキス;滋養糖可;水飴の場合40)
(キーワード)子どもの下痢・腹痛

人参湯《金匱要略》:
▶ 人参3;甘草3;白朮3(蒼朮も可);乾姜2-3
(キーワード)冷えによる慢性下痢

真武湯《傷寒論》:
▶ 茯苓3-5;芍薬3-3.6;白朮2-3(蒼朮も可);生姜1;加工ブシ0.3-1.5
(キーワード)冷えによる慢性下痢

大建中湯《金匱要略》:
▶ 山椒1-2;人参2-3;乾姜3-5;膠飴20-64
(キーワード)腹部膨満、腸管ガスの貯留、冷えのある下痢


<各方剤の解説>

五苓散(17)
・小児の嘔吐下痢症に有効。
・水様下痢に対して、初日は1日5〜6回服用すると効果的。
・服用するとすぐに嘔吐する場合は、湯に溶いて冷ましてから、スプーンで一口ずつゆっくり服用するとよい。

胃苓湯(115)
・平胃散+五苓散の構成・・・平胃散単独よりも効果が強い。
平胃散(79)は食べ過ぎて下痢したときに使用する。
・消化不良や食中毒、水あたりなどの水様下痢に有効。

柴苓湯(114)
・五苓散+小柴胡湯の構成。
・小柴胡湯は強い消炎作用を有し、炎症性腸疾患や感染性胃腸炎による下痢に有効。
・ノロウイルス感染症にも使用できる。

葛根湯(1)
・感冒の下痢、胃腸の風邪に有効。
・温服すると効果的。

半夏瀉心湯(14)
・黄連+黄岑で消炎作用を持ち、粘膜の充血・びらんを改善する。
・胃痛と下痢の両方に有効。
・下痢型過敏性腸症候群の第一選択薬。
・水様便ではなく、軟便〜泥状便に有効。
・胃苓湯同様、食べ過ぎ・飲みすぎの下痢に有効
・甘草の含有量が多いため、継続使用の際は偽アルドステロン症に注意。

黄芩湯
・黄岑で炎症を改善し、芍薬+甘草で腹痛を軽減する。
・ノロウイルス感染症で見られるような、高熱・強い腹痛・激しい下痢に有効。

桂枝加芍薬湯
・芍薬+甘草で筋組織(横紋筋と平滑筋の両方)の異常収縮を緩和して痛みを取る。
 → 蠕動亢進、腹痛のある下痢に有効。
・裏急後重(頻回に便意を催すが排便量が少なく、排便後にすぐにトイレに行きたくなる)に有効
・過敏性腸症候群に有効

小建中湯(99)
・子どもの下痢に使う。便秘にも使用可能。
・子どもに呑ませるときは、少量のお湯に溶いて服用させる。
・嘔吐のあるときは使用しない、嘔吐を伴う水様下痢は五苓散を使用する。

人参湯(32)
・「お腹が冷える」と訴えるときに有効。
・外部からの冷え(下肢の冷え)と内部の冷え(冷たいものの摂り過ぎ)が原因で起こる慢性下痢に有効。
・冷たいもの(アイスクリームやビール)、寒性の果物(みかん、バナナなど)を摂り過ぎない内容に指導することも重要。

真武湯(30)
・冷えによる下痢に有効
・“ゆらゆらと揺れて倒れそうな人”に有効
・下痢は1日2〜5回程度で、腹痛は少なく、排便後はスッキリしている場合に有効なことが多い。
・早朝に起きる下痢(鶏鳴下痢)に有効。

大建中湯(100)
・熱湯に溶いて温服すると効果的。


<参考>

すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方(安斎圭一著、羊土社) 

参考にした本には、2剤併用による増強効果の例が掲載されており、
単剤で効果が今ひとつだった場合の“次の一手”として利用可能で助かります。

私は便秘の子どもに対する第一選択薬はモビコールです。
モビコールを使えない2歳未満児にはカマを中心に、
ラクツロースやラキソベロンを併用します。

大抵この処方でコントロール可能ですが、
うまくいかない例、
おなかが痛くなってしまう例には漢方薬を提案しています。

使う方剤は、
桂枝加芍薬大黄湯(134)、
小建中湯(99)
大建中湯(100)
などが多いですね。


■ 便秘の漢方治療

・基本は大黄含有製剤
・大黄は瀉下作用が強力なため、腹痛・下痢を起こすことがある。
・大黄を含まない方剤も存在する。
(例)大建中湯(100)、小建中湯(99)、加味逍遥散(24)
・下剤の効果は個人差が大きく、服用量の調節が必要。
・長期投与では甘草の有無も問題となる。

■ 2剤併用による効果増強レシピ

桂枝加芍薬大黄湯3包+大建中湯3〜6包/日
・・・桂枝加芍薬大黄湯証で、お腹が冷えている場合に併用

大建中湯3〜6包+桂枝加芍薬大黄湯3包/日
・・・大建中湯証で、単剤で効果不十分の時に併用する。

小建中湯3包+小柴胡湯1包/日(小学校低学年の場合)
・・・小建中湯証で、単剤では効果不十分の時、小柴胡湯を少量併用すると効果的


■ 便秘に対する基本漢方薬

麻子仁丸《傷寒論》:
▶ 麻子仁4-5;芍薬2;枳実2;厚朴2-2.5;大黄3.5-4;杏仁2-2.5(甘草1.5を加えても可)
(キーワード)便秘に対する第一選択薬、コロコロ便(兎糞状)、硬便

大黄甘草湯《金匱要略》:
▶ 大黄4-10;甘草1-5
(キーワード)腸管運動改善(プルゼニド®、センノシドと同じような効果)

調胃承気湯《傷寒論》:
▶ 大黄2-6.4;芒硝1-6.5;甘草1-3.2
(キーワード)大黄甘草湯の適応となる症例より強い便秘

大承気湯《傷寒論》:
▶ 厚朴5.0;枳実・芒硝各3.0;大黄2.0(適量)
(キーワード)腹部膨満、肥満傾向

桃核承気湯《傷寒論》:
▶ 桃仁5;桂皮4;大黄3;芒硝2;甘草1.5
(キーワード)小腹急結、月経困難症、頑固な便秘

潤腸湯《万病回春》:
▶ 当帰3-4;熟地黄・乾地黄各3-4(又は地黄6);麻子仁2;桃仁2;杏仁2;枳実0.5-2;黄芩2;厚朴2;大黄1-3;甘草1-1.5
(キーワード)麻子仁丸の適応症例よりも便の乾燥が強い。皮膚乾燥傾向。
 
桂枝加芍薬大黄湯《傷寒論》:
▶ 桂皮3-4;芍薬4-6;大棗3-4;生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合3-4);甘草2;大黄1-2
(キーワード)通常の下剤では腹痛が出てつらい。便秘型過敏性腸症候群

大建中湯《金匱要略》:
▶ 山椒1-2;人参2-3;乾姜3-5;膠飴20-64
(キーワード)腹部膨満、腸管ガスの貯留、冷えのある腹痛、便秘型過敏性腸症候群

小建中湯《傷寒論》:
▶ 桂皮3-4;生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合3-4);大棗3-4;芍薬6;甘草2-3;膠飴20(マルツエキス;滋養糖可;水飴の場合40)
(キーワード)子どもの腹痛、便秘、便秘型過敏性腸症候群

■ 便秘に対する第二選択薬

大柴胡湯《傷寒論》:
▶ 柴胡6-8;半夏2.5-8;生姜1-2(ヒネショウガを使用する場合4-5);黄芩3;芍薬3;大棗3-4;枳実2-3;大黄1-2
・・・ストレスにより自律神経のか緊張が隠岐、イライラや怒りっぽいなどの精神症状が見られるときに選択する。患者は両側の胸脇苦満が強く認められることが多い。

防風通聖散1《宣明論》:
▶ 当帰1.2-1.5;芍薬1.2-1.5;川芎1.2-1.5;山梔子1.2-1.5;連翹1.2-1.5;生姜0.3-0.5(ヒネショウガを使用する場合1.2-1.5);
・・・肥満を主訴に便秘がある場合に選択する。患者は太鼓腹がみられることが多く、便秘の解消で肥満が改善することがある。

加味逍遙散《女科撮要》:
▶ 当帰3;芍薬3;白朮3(蒼朮も可);茯苓3;柴胡3;牡丹皮2;山梔子2;甘草1.5-2;生姜1;薄荷葉1
・・・月経前後のイライラや気分の変調が多く、便秘気味のときに選択する。大黄を含まないため、通常の下剤で腹痛を訴える女性に使用してみるとよい。


<各方剤の解説>

麻子仁丸(126)
・便秘の第一選択薬。
・コロコロ便に有効であり、高齢者に使えるケースが多い(うるおいが足りないときは潤腸湯を使用)。
・油成分が多い(種子である麻子仁・杏仁・枳実)のため硬便が「スルッと出る」と感じられる。
・大黄の含有量が4g/日と最も多い(大黄甘草湯と同じ)。
・甘草を含まないため、長期投与が可能。効果不十分な場合、ほかの下剤と併用しやすい。

大黄甘草湯
・便秘症の基本方剤であるが、難治性の便秘には効果が弱い。
・甘草を含むため、多剤併用時に注意。
・「大正漢方胃腸薬」はこの方剤である。
・実際には油を含む生薬(麻子仁、杏仁、桃仁)や腸を潤す生薬(芒硝)等を含む漢方薬得見合わせる方が効果が高く、コロコロ便の場合、売るイオをつける調胃承気湯(74)や麻子仁丸(126)でないと快便は得られないことが多い。

調胃承気湯(74)
・大黄甘草湯+芒硝(塩類下剤、腸を潤す効果)
・「承気」とは「気を巡らす」という意味で、単なるdrains downward効果だけではなく、消化管運動を改善することで向精神作用も示す。
・効果の強さは、大承気湯(133)>桃核承気湯(61)>調胃承気湯(74)>大黄甘草湯
・成分としては、センノシド+酸化マグネシウムとほぼ同じ。

大承気湯(133)
・瀉下効果をやわらげる甘草を含まないため、瀉下効果は強い。
同じ腹部膨満でも腸管ガスが多い大建中湯とは違い、便が充実性に溜まっている場合に有効
・直腸に硬便が貯留し、便が出ない場合も使用してみるとよい。
・昔は「高熱にうなされてうわごとを話すようなときの解熱剤」として使用した。

桃核承気湯(61)
・調胃承気湯+桃仁・桂皮
・漢方エキス剤の下剤では最も強力な瀉下効果を有するため、服用量の調節が必要。
高齢者施設の寝たきり症例などは、桃核承気湯でないと反応が得られないことも多い。
・陰部を打撲して尿閉が起きたときにも有効。
・強いPMSに効果がある。
・便秘が解消すると、腰痛・肩こり・頭痛も改善することが多い。

潤腸湯(51)
・四物湯成分(当帰、地黄)により滋潤作用が強い。
・麻子仁丸で効果不十分の時に選択。
・甘草を含有しているため副作用に注意(麻子仁丸との違い)。

桂枝加芍薬大黄湯(134)
便秘だけでなく、下痢にも使用できる大黄は便秘時には瀉下剤に、下痢時には止痢剤として働く
・刺激性便秘薬では腹痛が起こり服用できないときに有用。
・裏急後重(しぶり腹)に有効。

大建中湯(100)
・冷えが原因で起こる腹部症状によい。
・熱湯に溶いて温服する(冷水で服用すると効果半減)。
便秘にも下痢にも使用できる
・術後の癒着性イレウスで使用することが多い。

小建中湯(99)
・桂枝加芍薬湯+膠飴(水飴)
・子どもの便秘の第一選択薬。
子どもの便秘および下痢の両方に使用可能


 <参考>
すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方(安斎圭一著、羊土社) 

■ 咽頭痛に対する漢方

急性炎症
 → 甘草湯(401)・・・咽頭炎の超初期(発熱なし、一過性の乾燥による痛みや発赤がなくとも、少し痛みを伴う) 
 → 桔梗湯(138)・・・発熱がなく、胃腸が弱めで、発赤を伴う咽頭痛以外の症状があまりないphase(あっても軽度の咳や痰)。
 → 桔梗石膏(324)・・・腸が弱くなく、発赤を伴う咽頭痛以外の症状があまりないphase(あってもたまにむせ込む咳がある程度) 
 → 小柴胡湯加桔梗石膏(109)・・・胃腸が弱くなく、咽頭痛や喉以外の症状があまりない、口渇があり、症状が長引いてきているとき(あってもたまにむせ込む咳がある程度)
 → 麻黄附子細辛湯(127):疲労などで体力が低下している人や高齢者で、発汗の程度に関係なく、水溶性鼻汁や寒気、倦怠感があり、咽頭痛があるとき。
 → 越婢加朮湯(28)+桂枝湯(45)・・・軽度の寒気、倦怠感、熱感と口渇(冷たいものを好む)があり、咽頭痛があるとき

慢性反復炎症
 → 小柴胡湯(9)・・・乳幼児で慢性扁桃炎、繰り返す扁桃炎やPFAPA症候群(周期性発熱症候群)などの慢性化phase。
 → 柴胡清肝湯(80)・・・学童期〜成人で、慢性扁桃炎、繰り返す扁桃炎やPFAPA症候群(周期性発熱症候群)などの慢性化phase。 
 → +補中益気湯(41)・・・慢性反復炎症の上記2剤を使用しても繰り返す例には、
 乳幼児:小柴胡湯+補中益気湯
 学童期〜:柴胡清肝湯+補中益気湯 
 
・・・上記各方剤に小柴胡湯を併用するとより効果が上がり、かつ胃腸障害予防&軽減効果も期待できる。


<各方剤の解説>

小柴胡湯加桔梗石膏《本朝経験方》:
▶ 柴胡7;半夏5;生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合4);黄芩3;大棗3;人参3;甘草2;桔梗3;石膏10 
・咳には基本、用いない。
 

<参考>
・「Phase で見極める!小児と成人の風邪の診かた&治しかた」 
(永田理希、日本医事新報社、2021年発行)   

■ 発熱症状の漢方治療のトリビア

・発汗がなく発熱している状態を葛根湯や麻黄湯を服用することでさらに発熱させて、汗をかかせることにより治癒力を高めるのが漢方治療のキモである。この際に解熱剤を安易に使用すると、狙った効果が発揮できなくなるため、昭和時代の解熱剤の慣習的処方はしてはならない。
・各方剤に小柴胡湯を併用すると、より効果も上がり、かつ胃腸障害予防&軽減効果も期待できる。
・顔面や口唇の紅潮を伴う発熱・熱感に口渇を伴う場合に白虎加人参湯(34)をさらに併用すると、脱水予防効果が期待できる。
・高齢者や過労で体力が低下している場合のカゼには、麻黄附子細辛湯(127)、桂枝湯(45)、香蘇散(70)を使用するとよい。

 ■ 発熱のphaseと適応する漢方

急性期)罹患1〜3日目
かつ「麻黄〇」タイプ 
 → 葛根湯(1)・・・多量の発汗がない発熱+ 寒気+軽度の悪寒+肩こり・全身の筋緊張 
 → 麻黄湯(26)・・・多量の発汗がない発熱+強い悪寒+全身筋肉痛・関節痛
 → 麻杏甘石湯(55)・・・多量の発汗がなく、軽度悪寒、強い熱感と黄色痰が絡み、喘鳴を伴う湿性咳嗽
かつ 「麻黄△」タイプ
 → 麻黄附子細辛湯(127)・・・発汗の程度・有無に関係なし+水溶性鼻汁+悪寒+咽頭痛
かつ「麻黄✖️」タイプ
 → 桂枝湯(45)・・・微熱+軽度発汗+軽度悪寒
 → 香蘇散(70)・・・胃腸も精神的にも弱っているような人の風邪の引き始めや治りかけに。

亜急性期)罹患3〜5日目以降
 → 参蘇飲(66)・・・胃腸症状があり、風邪を引いて数日経過し、香蘇散(70)を服用しても今ひとつスッキリしない場合。
 → 小柴胡湯(9)・・・舌苔が生え、口内に苦みを感じ、胃酸の逆流症状もあり、食欲が低下し、悪寒と熱感を繰り返したり、時に微熱もあるphaseに。
 → 柴胡桂枝湯(10)・・・軽度の発汗や背中のコリや頭痛、胃腸症状などがあり、小柴胡湯(9)よりもう少し炎症を抑えたいphaseに。
 → 白虎加人参湯(34)・・・発熱が続くも悪寒がなく、発汗はしている状態で口渇があるとき。

 
・・・上記各方剤に小柴胡湯を併用するとより効果が上がり、かつ胃腸障害予防&軽減効果も期待できる。


<各方剤の解説>

▢ 葛根湯《傷寒論》:
▶ 葛根4-8;麻黄3-4;大棗3-4;桂皮2-3;芍薬2-3;甘草2;生姜1-1.5
・服用してしっかり汗が出たら葛根湯の役目もそこで終了、中止する。
・効果を最大限に発揮させるには、初回2包内服、以降発汗するまで2〜3時間ごとに追加内服、発刊後は漢方薬を変更する。
・葛根湯により発汗するまでの1〜2日は、安易に解熱剤を使用しない。
・芍薬は麻黄+桂皮による過度の発汗をやわらげる効果がある(麻黄湯には芍薬は入っていない)。 

▢ 麻黄湯《傷寒論》:
▶ 麻黄3-5;桂皮2-4;杏仁4-5;甘草1-1.5
・麻黄で体温をぐっと上げて免疫を上げてウイルスをやっつけ、その後に桂皮で発汗させて解熱させるイメージ。 
・高熱のみで、強い悪寒や寒気、全身の筋肉痛や関節痛などがない場合は麻黄湯は適さない。その場合は葛根湯の方がよい。

 麻黄附子細辛湯《傷寒論》:
▶ 麻黄2-4;細辛2-3;加工ブシ0.3-1
・体温を上げる力のない人に附子で体温を上げる能力をアップさせようという方剤。
 
▢ 桂枝湯《傷寒論》:
▶ 桂皮3-4;芍薬3-4;大棗3-4;生姜1-1.5;甘草2
・風邪の基本漢方薬。あくまで軽症の初期症状が適応で、強い症状を抑える力はない。
・麻黄もなく、桂皮のみの発汗作用に、さらにその効果をやわらげる芍薬も入っており、非常にマイルド。 

▢ 香蘇散《和剤局方》:
▶ 香附子3.5-4.5;蘇葉1-3;陳皮2-3;甘草1-1.5;生姜1-2
・発熱・発汗作用のある麻黄・桂皮が入っていない、長マイルドなかぜ薬。
 
▢ 小柴胡湯《傷寒論》:
▶ 柴胡5-8;半夏3.5-8;生姜1-2;黄芩2.5-3;大棗2.5-3;人参2.5-3;甘草1-3
・・・(柴胡+黄岑)抗炎症・解熱効果
・・・(半夏)鎮吐効果
・・・(人参・大棗・甘草・生姜)健胃効果 
・胃腸障害を軽減する効果の高い方剤。
・柴胡は亜急性期〜慢性期の状態に効果がある。
・通常の倍量を投与すると効果が上がる。 

▢ 白虎加人参湯《傷寒論》:
▶ 知母5-6;石膏15-16;甘草2;粳米8-20;人参1.5-3
・高齢者の口腔乾燥症や口内不快感、乳児の突発性発疹を疑う皮疹出現前などにも使える。
・他の発熱時に使う漢方薬の処方時に、効果付与する目的で追加投与して使うとよい。
・慢性の場合にはアトピー性皮膚炎や皮膚掻痒症などにも使われる。

銀翹散(市販薬)
・急性期に寒気がなく、熱感が強い場合に適応。逆に寒気が強く全身関節痛&筋肉痛がある場合は麻黄湯が適し、それより症状がマイルドの時は葛根湯が良い。
麻黄湯+桂枝湯のような漢方(桂麻各半湯類似の方意)。
・生薬の構成的には、葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏、もしくは清上防風湯倍量に近似。
 

■ 回復期の風邪症状の漢方

 → 補中益気湯(41)・・・風邪症状の後の倦怠感が強く、回復しきれておらず、食欲もいまいちで元気も出ないとき。
 → 十全大補湯(48)・・・風邪症状の後に倦怠感があり、食欲もいまいちな上に、手足の冷え、皮膚や口腔内乾燥がある場合。
 → 人参養栄湯(108)・・・咳や痰が微妙にスッキリしないような呼吸器疾患が背景にあり、食欲・気力ともにスッキリしない場合。

 

<各方剤の解説>

▢ 補中益気湯《弁惑論》:
▶ 人参3-4;白朮3-4(蒼朮も可);黄耆3-4.5;当帰3;陳皮2-3;大棗1.5-3;柴胡1-2;甘草1-2;生姜0.5;升麻0.5-2
・中(体の中の消化吸収能)を補い、気を益す(元気を出す)回復剤。
・気虚を補う生薬である人参・朮・甘草・黄耆は風邪回復3剤の共通生薬であるが、補中益気湯だけに茯苓が入っていない。

 十全大補湯《和剤局方》:
▶ 人参2.5-3;黄耆2.5-3;白朮3-4(蒼朮も可);茯苓3-4;当帰3-4;芍薬3;地黄3-4;川芎3;桂皮3;甘草1-2
・気血の双方を補う。
・血虚を補う生薬(地黄、当帰、川芎、芍薬)入り。

▢ 人参養栄湯《和剤局方》:
▶ 人参3;当帰4;芍薬2-4;地黄4;白朮4(蒼朮も可);茯苓4;桂皮2-2.5;黄耆1.5-2.5;陳皮(橘皮も可)2-2.5;遠志1-2;五味子1-1.5;甘草1-1.5
・人参を主薬とし、全身的にさまざまな機能低下と栄養状態を改善、つまり「養栄」する方剤。 
・血虚を補う生薬(地黄、当帰、芍薬)が入っている。
・十全大補湯のほとんどが人参養栄湯に入っており、さらに遠志、五味子、陳皮の鎮咳効果のある生薬を足したもの。そのため、COPD等の慢性呼吸器疾患の患者にも効果が期待できる。


<参考>
・「Phase で見極める!小児と成人の風邪の診かた&治しかた」 
(永田理希、日本医事新報社、2021年発行)  

■ 咳症状の漢方

(乾性咳嗽)
 → 麦門冬湯(29)・・・乾いた咳で、痰があっても少なく、喉や気管にへばりつき、出そうにも出せない、咳が出だしたら止まらないようなに。
 → 滋陰降火湯(93)・・・乾いた咳で、粘性の強い痰が奥に絡み、寝ているとむせ込むような咳が余計にひどくなるに。

(湿性咳嗽)
 → 竹筎温胆湯(91)・・・黄色〜緑色の痰が絡み、夜間の咳込みが続き、気分がスッキリせず不眠傾向に。

(湿性咳嗽+喘鳴)
 → 麻杏甘石湯(55)・・・多量の発汗がなく、軽度悪寒、強い熱感と黄色痰が絡み、喘鳴(+)を伴う湿性咳嗽に。
 → 五虎湯(95)・・・黄色痰が絡み、ひどい喘鳴(2+)を伴う湿性咳嗽に。

(湿性咳嗽+後鼻漏)
 → 小青竜湯(19)・・・(麻黄〇)水溶性鼻汁、水様性痰が多く、後鼻漏による咳込みに。
 → 苓甘姜味辛夏仁湯(119)・・・(麻黄✖️)同上。
 → 辛夷清肺湯(104)・・・鼻閉が強く、粘性の強い黄白色鼻汁の後鼻漏による咳込みに。

(長引く湿性咳嗽)
 → 清肺湯(90)・・・慢性的な痰がゴロゴロした状態でのしつこい咳に。
 
・・・上記各方剤に小柴胡湯を併用するとより効果が上がり、かつ胃腸障害予防&軽減効果も期待できる。


<各方剤の解説>

▢ 麦門冬湯《金匱要略》:
▶ 麦門冬8-10;半夏5;粳米5-10;大棗2-3;人参2;甘草2 
・咽喉頭〜気管にうるおいを与えることでむせ込むような咳を鎮める。 
・起床時に喉がカラカラ・イガイガ。
・痰が多い場合にはかえって悪化する可能性がある。痰が多い → 麻杏甘石湯(55)や五虎湯(95)がよい。
百日咳による亜急性〜慢性咳嗽にも効果が期待できる。
・効果が不十分な場合には、抗炎症効果がある柴胡桂枝湯を併用(麦門冬湯+柴胡桂枝湯)するとより効果的。 

▢ 滋陰降火湯1《万病回春》:
▶ 当帰2.5;芍薬2.5;地黄2.5;天門冬2.5;麦門冬2.5;陳皮2.5;白朮あるいは蒼朮3;知母1-1.5;
・喫煙車の咳にも効果的。 

▢ 竹茹温胆湯《寿世保元》:
▶ 柴胡3-6;竹茹3;茯苓3;麦門冬3-4;陳皮2-3;枳実1-3;黄連1-4.5;甘草1;半夏3-5;香附子2-2.5;生姜1;桔梗2-3;人参1-2
・インフルエンザや風邪、肺炎などの回復期に、痰が多く咳がひどくて眠れない時に使用する。

▢ 麻杏甘石湯《傷寒論》:
▶ 麻黄4;杏仁4;甘草2;石膏10
・急性期というよりも、亜急性期の喘鳴を伴うかぜ症候群において効果を期待でき、発汗しても治らず咳が続くような例によい。 
・ 単剤で効果が不十分で黄色痰が絡む場合には柴陥湯(73)を併用(麻杏甘石湯+柴陥湯)する。

▢ 五虎湯《万病回春》:
▶ 麻黄4;杏仁4;甘草2;石膏10;桑白皮1-3
・急性期より、亜急性期の喘鳴を伴うかぜ症候群で効果が期待しやすい。
・五虎湯単剤では効果不十分で吐く食痰が多い場合は二陳湯(81)を併用(五虎二陳湯)するとより効果的。 

▢ 清肺湯1《万病回春》:
▶ 黄芩2-2.5;桔梗2-2.5;桑白皮2-2.5;杏仁2-2.5;山梔子2-2.5;
・慢性的な粘性の強い痰がゴロゴロした状態でのしつこい咳に(COPDにもよい)。
・急性期の無色透明な水様性痰による咳には使用しない。 


<参考>
・「Phase で見極める!小児と成人の風邪の診かた&治しかた」 
(永田理希、日本医事新報社、2021年発行)  

風邪の漢方に関しては、今までも扱ってきました。
咳の漢方
風邪の引きはじめの漢方
風邪を引いて数日経過したときの漢方

今回は、
Phase で見極める!小児と成人の風邪の診かた&治しかた」 
(永田理希、日本医事新報社、2021年発行) 
という本の内容を紹介するかたちで記述します。

風邪に使う漢方薬を【カゼ漢方薬30+1】と銘打って紹介しています。
つまり、30種類以上の薬を、
その患者さんの状態により使い分けなくてはいけないのです。

患者さんの状態を「証」と呼びます。
それは、患者さんの体質、体力、病気の状態をすべて加味して総合的に判断して初めて決まるもの。
もし「漢方薬を飲んだけど効かない」と感じている方、
それはあなたの「証」にあっていない可能性が大です。
この項目では鼻症状を扱います。


■ 急性鼻副鼻腔炎

(水溶性鼻汁) → 小青竜湯(19)、麻黄が合わない人は苓甘姜味辛夏仁湯(119)

(水溶性鼻汁+悪寒+咽頭痛) → 麻黄附子細辛湯(127)

(黄白色鼻汁+鼻閉強) → 葛根湯加川芎辛夷(2)、麻黄が合わない人は辛夷清肺湯(104)

(乳児で鼻閉強) → 飲食困難なら麻黄湯(26)、睡眠困難なら越婢加朮湯(28)


・・・上記各方剤に小柴胡湯を併用するとより効果が上がり、かつ胃腸障害予防&軽減効果も期待できる。

 
<各方剤の解説>

小青竜湯《傷寒論》:
▶ 麻黄2-3.5;芍薬2-3.5;乾姜2-3.5;甘草2-3.5;桂皮2-3.5;細辛2-3.5;五味子1-3;半夏3-8
・水溶性鼻汁、くしゃみや水様性痰による咳症状に。
・膿性鼻汁には適さない。
・アレルギー性鼻炎にも効果がある。

苓甘姜味辛夏仁湯《金匱要略》:
▶ 茯苓1.6-4;甘草1.2-3;半夏2.4-5;乾姜1.2-3(生姜2でも可);杏仁2.4-4;五味子1.5-3;細辛1.2-3
・水溶性鼻汁、くしゃみ、や水様性痰による咳症状に。膿性鼻汁には適さない。
・“麻黄を含まない小青竜湯”と呼ばれ、麻黄入り方剤で動悸や不眠、胃腸症状が出て飲めない人に適応。
・アレルギー性鼻炎にも効果がある。
 
麻黄附子細辛湯《傷寒論》:
▶ 麻黄2-4;細辛2-3;加工ブシ0.3-1
・発汗の程度・有無に関係なく、水溶性鼻汁や悪寒があり、喉がチクチク痛むphaseに。
・麻黄の強い作用を、細辛と附子で抑制してくれるやさしい麻黄剤。 
・鼻汁が多く、鼻閉が強いときは桂枝湯を併用する(麻黄附子細辛湯+桂枝湯)とよい。

葛根湯加川芎辛夷
▶ 葛根4-8;麻黄3-4;大棗3-4;桂皮2-3;芍薬2-3;甘草2;生姜1-1.5;川芎2-3;辛夷2-3
・鼻閉が強く、粘性の強い黄白色鼻汁の急性鼻副鼻腔炎phaseに。
・副鼻腔排膿作用や頭痛軽減作用のある川芎と辛夷が入っているので、まさに急性鼻副鼻腔炎に適した方剤である。
・鼻汁が黄色かつ粘稠で鼻閉が強いときは桔梗石膏を併用(葛根湯加川芎辛夷+桔梗石膏)するとより効果的である。 
 
辛夷清肺湯《外科正宗》:
▶ 辛夷2-3;知母3;百合3;黄芩3;山梔子1.5-3;麦門冬5-6;石膏5-6;升麻1-1.5;枇杷葉1-3
・鼻閉が強く、粘性の強い黄白色鼻汁の急性鼻副鼻腔炎に。
・慢性や鼻茸でも使える。
・鼻副鼻腔粘液繊毛輸送運動正常化作用あり。

麻黄湯《傷寒論》:
▶ 麻黄3-5;桂皮2-4;杏仁4-5;甘草1-1.5
・鼻閉のために飲食がしにくいphase(乳児)。
・発熱の急性期で、発汗がなく、水分が取れるphase。
・麻黄湯の桂皮を石膏に変えたものが麻杏甘石湯。 

越婢加朮湯《金匱要略》:
▶ 麻黄4-6;石膏8-10;生姜1;大棗3-5;甘草1.5-2;白朮3-4(蒼朮も可)
・鼻閉のため眠りにくい乳児に適応


 ■ 慢性鼻副鼻腔炎
(慢性・単回の感染症) →  辛夷清肺湯(104)、排膿散及湯(122)
(慢性・反復性感染症) → 成人:荊芥連翹湯(50)、小児:柴胡清肝湯(80)

※ 荊芥連翹湯はアレルギー性鼻炎や好酸球性鼻副鼻腔炎にも効果が期待できる。
※ 西洋医学ではクラリスロマイシン(CAM)長期投与が頻用されるが、細菌性慢性鼻副鼻腔炎には有効であるが、好酸球性鼻副鼻腔炎には効果が期待できない。
★ 上記漢方薬に柴胡剤(小柴胡湯、柴胡桂枝湯、補中益気湯、十全大補湯など)を追加すると、抗炎症効果や体力回復効果、胃腸障害予防・軽減効果が期待できる。
 
<各方剤の解説>

排膿散及湯《金匱要略》:
▶ 桔梗3-4;甘草3;大棗3-6;芍薬3;生姜0.5-1;枳実2-3
・好酸球性ではなく、細菌性・炎症性の慢性鼻副鼻腔炎で副鼻腔内に膿が貯留しスッキリしないphaseに。
・鼻副鼻腔だけではなく、皮膚や口腔内、麦粒腫などの体表面の化膿症に効果がある。
・単独処方で効果が不十分な場合は、ヨクイニンを併用(排膿散及湯+ヨクイニン)すると効果が高まる。

荊芥連翹湯1《万病回春》:
▶ 当帰1.5;芍薬1.5;川芎1.5;地黄1.5;黄連1.5;黄芩1.5;黄柏1.5;山梔子1.5;連翹1.5;
・体表の抗炎症効果を示す荊芥と、上気道の閉鎖部位の抗炎症効果による排膿効果のある連翹。
・粘性の強い黄色鼻汁の慢性&反復性鼻副鼻腔炎phaseで効果が期待できる。
・アレルギー性鼻炎や好酸球性鼻副鼻腔炎に効果 が期待できる。
 
柴胡清肝湯《一貫堂》:
▶ 柴胡2;当帰・芍薬・川芎・地黄・連翹・桔梗・牛蒡子・栝楼根・薄荷葉・甘草各2.5;黄連・黄芩・黄柏・山梔子各1.5
・荊芥連翹湯が苦すぎて飲めない乳幼児&小児の慢性鼻副鼻腔炎に。
・小児&成人の慢性扁桃炎、繰り返す扁桃炎やPFAPA症候群(周期性発熱症候群)、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎の慢性期に。
・荊芥連翹湯の枳実が牛蒡子に置き換わり、荊芥と白芷と防風がなく、柴胡と甘草が少し増量した方剤。
・・・(牛蒡子+桔梗)去痰作用、咽頭痛軽減作用 
 
 

思春期に多い起立性調節障害(以下OD、orthostatic dysregulation)は、
大人で言う起立性低血圧の思春期版です。

アメリカでは循環器疾患という位置づけですが、
日本の診断基準には「こころ」の要素も入れてしまったので、
様々な疾患のゴミ箱的な診断名になっていると批判されています。
なぜかというと、「こころ」に効く薬が用意されていないので、
臨床現場で困ってしまうのですね。

しかし心身一如(※)という漢方的捉え方からすると当たり前の病態、
つまり漢方薬の得意分野とも言えます。
※ 体と心は切り離せない、連動しているという考え方

漢方的にどんな捉え方をして、どんな風に治療を組み立てるのか、
これまでも繰り返し学習してきましたが、今一度整理してみます。

今回参考にしたのは、漢方薬局のHPで、
主に薬剤師さん&一般患者さん向けですが、
医師にとっても分かり易く、以前から参考にさせてもらっています。

■ ODという病気
・ODは起立時に立ちくらみ、めまい、動悸などの循環器症状や、
 倦怠感、頭重、腹痛などの不定愁訴が生じる疾病。
・女性に多く、5-6月と夏休み明けの9-10月に相談が増える。

■ ODの漢方的病態
・めまい、立ちくらみ → 水毒(=水滞、痰飲)
・胃腸虚弱、疲労倦怠感、根気が続かない → 気虚、血虚、気滞(=気鬱)

■ ODの漢方的病態と対応する生薬
(水毒)茯苓
(痰飲)半夏
(気虚)人参
(気滞)柴胡
(血虚)当帰、芍薬

■ ODの病期と対応する方剤
1)症状の顕著な状態→ 薬味が少なく即効性のある方剤を選択
苓桂朮甘湯半夏白朮天麻湯
2)症状が落ち着けば背景の病態を整えて寛解維持を目指す
柴胡桂枝湯(腹痛)、小建中湯(腹痛、倦怠感)、補中益気湯(だるさ)

■ ODに用いる三大漢方薬
苓桂朮甘湯 ・・・症状の顕著な時期に:めまい、立ちくらみ、動悸、頭痛
半夏白朮天麻湯・・・初期〜亜急性期に:めまい、頭痛、吐き気
補中益気湯 ・・・寛解期の体調管理に:倦怠感、だるさ、筋緊張低下

▢ 苓桂朮甘湯
・動揺性のめまい、立ちくらみ、動悸、頭痛に頻用される。
・古典には「起則頭眩」と記載。
・冷え傾向、頭痛やのぼせ、冷や汗が発作的に現れる病態に適応。
・吐き気が顕著なときは五苓散を併用。
フクロウ症候群(午前中の体調がよくない傾向のヒト)に適応。
・即効性あり、味も悪くないので小児に投与する第一選択薬。

▢ 半夏白朮天麻湯
・めまい、立ちくらみに使用される。
・胃腸虚弱、吐き気、食後の眠気、冷え症に適応。
低気圧頭痛(悪天候で頭痛が悪化する)に適応。
・甘草を含まないので苓桂朮甘湯より長期服用に適する。

■ 苓桂朮甘湯(降起利水補気)と半夏白朮天麻湯(補気化痰熄風)の比較
・共通生薬:白朮、茯苓・・・補気利水
・共通症状:めまい、立ちくらみ、頭痛、乗り物酔い
・苓桂朮甘湯のポイント:桂枝・甘草(降気・・・動悸、息切れ)
 → (発作的な)のぼせ、動悸、頭痛
 → 半夏白朮天麻湯より神経質
・半夏白朮天麻湯のポイント:六君子湯(補気化痰)の6生薬入り+天麻(熄風・・・めまい、頭痛)
 → 胃もたれ、食欲不振、低気圧頭痛
 → 苓桂朮甘湯より胃腸虚弱、冷え傾向

▢ 補中益気湯
めまいが主たる適応ではない
・OD患者の虚弱状態を改善して寛解維持目的の方剤。
・全身倦怠感、手足のだるさ、声や目に力がない、易感染性に適応。
・苓桂朮甘湯に初期から眠前1包を併用する方法もある。

■ 全身病態を調整するその他の方剤

▢ 柴胡桂枝湯(10)、小建中湯(99)
・・・OD患者の胃腸症状と倦怠感などに用いる。

▢ 六君子湯(43)
・・・胃腸虚弱者の食欲不振、食後の胃もたれを軽減する第一選択薬。
 体力維持のための食事療法を支援する方剤。
 本方は、香蘇散(抑うつ、頭重)、半夏厚朴湯(不安、抑うつ)、
四逆散(抑うつ、苛立ち、腹痛)などと併用して臨床領域を広げる工夫がされる。

▢ 当帰芍薬散(23)
・・・顔色不良、冷え傾向(血虚)と性周期と関連するめまいなどに適する。
 本方は、理気薬の四逆散(35)と組み合わせて、
 潜在的鉄欠乏に対する鉄剤と食事指導を併用して、
 女性の起床困難、手足の冷え、ODに用いられる。

▢ 連珠飲
・・・四物湯(補血活血剤)と苓桂朮甘湯の合方。
 桂皮と甘草を含むので、当帰芍薬散(23)より発作性の動悸、のぼせ、頭痛のあるときに適する。
 連珠飲を服用して熟地黄による胃もたれや食欲不振が出たときには、
 当帰芍薬散(23)へ変更するか、人参湯を併用する。

▢ 十全大補湯(48)
・・・連珠飲と補気薬の人参、黄耆を含む。連珠飲の適応病態で、胃腸虚弱や倦怠感を伴うときに適する。


<参考>
・漢方の気ぐすりき.com〜漢方を知る〜病気の悩みを漢方で〜起立性調節障害の漢方

1.麻黄
・交感神経刺激作用があるため、以下の疾患のある方は要注意:
 甲上腺機能亢進症
 循環器疾患(不整脈や虚血性心疾患など)
 前立腺肥大症
 高齢者
・・・胃腸症状、動悸・頻脈、不眠、食欲不振、尿閉、血圧上昇などが出現する可能性あり。 
・妊婦は長期にわたって内服しない限りは問題ないと考えられる(諸説あり)が、妊娠初期 (妊娠28週未満)は避けた方がよい。
・麻黄にはエフェドリンという成分が入っており、これは国際オリンピック委員会が指定する禁止薬物リストに登録され、ドーピングの検査対象となっている。そのため、スポーツ選手には処方を避ける。
 
2.甘草
偽性アルドステロン症(高血圧、低カリウム血症、ミオパチー、浮腫などを呈する)の発症リスクがある。
甘草を1日4g以上使用しているときは、2週間以内でも偽性アルドステロン症の発症に注意する必要があり、1日2.5gでも発症の可能性はある。 

3.黄岑
肝機能障害(0.55〜1.0%)や間質性肺炎(0.004%)を発症するリスクがある。
・肝機能障害の報告があるエキス剤は約40種類、
・間質性肺炎の報告があるエキス剤は約30種類ある。
 
4.附子; 
・附子はトリカブトの根を弱毒処理したものである。
・妊婦、妊娠の可能性のある場合は投与を避ける。
・附子には体を温める作用があり、少量を加えると漢方の効果を増強する。 

妊婦に避けるべき生薬;
 附子、桃仁、牡丹皮、大黄、厚朴、半夏、紅花、芒硝、牛膝 

5.山梔子
・クチナシのゲニポシドが成分に含まれる。
山梔子を積算で5kg以上になるほど長期服用すると、
 腸間膜性硬化症をきたす可能性があり、
 数年単位で内服する場合は要注意。

6.その他;胃腸障害をきたしやすい生薬
・地黄、当帰、川芎、石膏、山梔子
・これらを胃腸虚弱の人に投与したいときは、
 小柴胡湯(健胃効果のある抗炎症薬) を併用するとよい。
 

<参考>
・「Phase で見極める!小児と成人の風邪の診かた&治しかた」 
(永田理希、日本医事新報社、2021年発行)  

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