2025年02月

じんま疹には西洋医学の抗アレルギー薬が有効です。

効きが悪い場合は、
① 他の抗アレルギー薬に変更する。
② 他の抗アレルギー薬を追加する。
③ 短期間、ステロイド薬を使用する(皮膚科専門医)。
等の方法があります。

私は①②でも解決しない場合、漢方薬を提案しています。
有効な漢方薬が見つかると、
それを内服し続けることにより体質改善が期待できるので、
すべての薬を休薬できる可能性があるのが漢方薬のメリットです。


漢方医学では西洋医学のように「じんましん → 抗アレルギー薬」という単純な公式ではなく、
患者さんの体質・体調により複数の方剤を使い分けます。

いろいろ調べた結果、谷口聖明先生の解説がわかりやすいので引用・紹介します。
まずは私が好きな“陰陽虚実グラフ”を提示します;

スクリーンショット 2025-02-16 7.26.15

陰陽虚実の意味するところは、グラフの文言を参考にしてください。
3つの方剤がありますが、すべて実証&陽証のため、これだけでは使い分けが難しい。

次に、「発症後どのくらい時間が経過しているか」による使い分けを提示します。

スクリーンショット 2025-02-16 7.26.54

こちらは単純でわかりやすい。

(急性期)葛根湯(1)
(亜急性期)十味敗毒湯(6)
(慢性期)大柴胡湯(8)

なぜこうなるのか?
病気の経過の起承転結を漢方では「六病位」で表現します。
上表の右端の項目ですね。
これは病気の始まりは体表が侵され、進行すると体内が侵されるというイメージです。

その順番は、
太陽病 → 少陽病 → 陽明病 → 少陰病 → 太陰病 → 厥陰病
ですが、じんましんに使う方剤は太陽病・少陽病期のもの。
イラストを提示します。

スクリーンショット 2025-02-16 7.26.34

つまり、漢方医学的には、

太陽病期 → 葛根湯(1)
表的少陽病期 → 十味敗毒湯(6)
裏的少陽病期 → 大柴胡湯(8)

となります。
少陽病をさらに細かく“表的”と“裏的”に分けているのが興味深いですね。

私は「皮膚科で抗アレルギー薬治療しているけどよくならないじんましん」の相談を受けると、
漢方薬を提案し、希望があれば処方しています。
抗アレルギー薬併用、OKです。

急性期には葛根湯、
亜急性期には十味敗毒湯、
慢性期には大柴胡湯。

有効であれば、抗アレルギー薬を減量・中止し、
いずれ漢方薬も減量・中止していきます。



<参考>
じんましんの漢方(その2
1剤で治まらないときの併用療法の説明です。

<参考ブログ>
(2023.04.27)陰陽・虚実・寒熱で使い分けるじんま疹漢方

神経発達症(ASD、ADHDなど)の診療には3つの柱があります。
1.療養
2.環境整備
3.医療的介入

1の療養は発達の特性・凸凹を認識・自覚して生活に支障がないよう工夫すること。
2の環境整備は集団生活(園や学校)と連絡を取り合いながら本人がさらされるストレスを減らすこと。
3の医療的介入は投薬により症状をコントロールすること。

しかし、6歳未満の神経発達症に使用できる西洋薬(※)はありません。
そして自閉症スペクトラム(以後ASDと表記)の特性に効く西洋薬は存在しません。

※ 6歳未満に使用できない薬;
・コンサータ:6歳から(医師登録&患者登録必要)
・ストラテラ:6歳から
・インチュニブ:6歳から
・ビバンセ:6〜18歳(医師登録&患者登録必要)
・メラトニン受容体作動性入眠改善薬
 ✓ メラトニン(メラトベル®):6〜15歳 ・・・こども用粉薬
 ✓ ラメルテオン(ロゼレム®):15歳から・・・大人用錠剤


私が処方している漢方薬もASDの特性を治すことはできません。
でも、その特性に由来する“困りごと”に対応することは可能です。
また、まだ診断されていない幼児期のグレーゾーンのお子さんにも対応可能です。

私は小児神経専門医ではありませんので、
神経発達症に関する厳密な診断はしておらず、
コンサータやビバンセなども処方しておりません。

ただ、以前から夜なき・かんしゃくなどの困りごとの相談を受けると、
漢方薬の使用を提案し、希望があれば処方してきました。
気がつくと、そのようなお子さん達が神経発達症と診断されていることが多いことがわかりました。

漢方薬を飲んでもらうと、驚くほど効果があることを何回も経験しています。
しかし、はじめに処方した方剤が全員に有効というわけではなく、
いくつか方剤を試していくうちにそのお子さんに合った方剤が見つかる、
というパターンが多いです。
最終的な有効率は7割くらいでしょうか。

残念ながら、困りごとが10 → 0 になるわけではありません。
困りごとのレベルが10 → 5 程度に減るくらい(たまに10 → 2-3も)、
それでも生活の質がグンと上がりますので、
ご家族は継続を希望されます。

いつまで使用するか、については、
数ヶ月〜半年の安定期を経た後、希望により減量・休薬を試みます。
その過程で症状が再度目立ってきたら元に戻して継続しています。

今回、ASDに関するWEBセミナーを視聴したところ、
役に立つ情報がたくさんありましたので、備忘録として残しておきます。
(鈴村水鳥先生の講義「漢方薬で支援する自閉症スペクトラム(ASD)」(2025.2.9)メモより)

▶ ASD・ADHDに効果が期待できる漢方

(ココロの症状・困りごと)
・怒りんぼ、かんしゃく、チック → 抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
・衝動性、易刺激性、多動・興奮 → 黄連解毒湯(15)
・こだわりが強い、落ち着きがない → 大柴胡湯去大黄
・抑うつ傾向、不安感、不眠 → 加味帰脾湯(137)
・不安感、言語発達遅滞 → 甘麦大棗湯(72)

(カラダの症状・困りごと)
・元気がない、食欲不振 → 六君子湯(43)
・嘔気、胃もたれ、食欲不振 → 平胃散(79)+香蘇散(70)
・過敏性腸症候群、腹痛 → 小建中湯(99)、桂枝加芍薬湯
・心窩部痛、腹痛、月経痛 → 安中散(5)
・めまい、起立性調節障害 → 半夏白朮天麻湯(37)

▶ ASDに対する漢方治療の有効性
・効果が高い
 ✓ パニック・かんしゃく
 ✓ 睡眠障害
 ✓ イライラ
 ✓ 落ち着きのなさ
 ✓ 怯え・怖がり
 ✓ チック(初期)
 ✓ 便秘・偏食などの消化器症状
・効果あり
 ✓ 社会性やコミュニケーション障害
 ✓ 自傷行為
 ✓ フラッシュバック
 ✓ 月経前症候群
 ✓ 言葉の遅れ
・効果が薄い
 ✓ チック(長期化)
 ✓ 多動
 ✓ 暴言・暴力
 ✓ 成人例

▶ 漢方医学の“こころ”の捉え方

1.怯え・不安状態(心神不寧証)
・心配性・不安・悲哀感・怖がり(ビクビク)など
・存在が脅かされているような感情が主体
(処方)甘麦大棗湯(72)、帰脾湯(65)、酸棗仁湯(103)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、

2.緊張・易変動状態(肝気鬱結証)
・憂鬱・不安・イライラ・ヒステリック
・身体の緊張が強く、気分が変動しやすい。
(処方)四逆散(35)、柴朴湯(96)、加味逍遥散(24)、香蘇散(70)

3.興奮・怒り状態(化火証)
・イライラ・怒りっぽい・落ち着きがない・焦燥感など
・主に興奮的な症状が主体
(処方)黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)

(1+2)柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
(2+3)大柴胡湯(8)・大柴胡湯去大黄
(3+2)抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)

▶ 多様な症状には2剤併用が有効

・化火証:黄連解毒湯(15)、抑肝散加陳皮半夏(83)
 ✓ かんしゃく
 ✓ パニック
 ✓ 易怒
 ✓ 多動
 ✓ 衝動性
 ✓ 自傷行為
 ✓ 他害行為
 ✓ 落ち着きのなさ

・心神不寧証:甘麦大棗湯(72)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
 ✓ 落ち着きのなさ
 ✓ 不安
 ✓ 自信のなさ
 ✓ 怯え

・肝気鬱結証:大柴胡湯去大黄、四逆散(35)
 ✓ 過緊張
 ✓ 不機嫌
 ✓ イライラ
 ✓ チック

▢ 方剤解説:甘麦大棗湯(72)
(構成生薬)《金匱要略》:甘草3-5;大棗2.5-6;小麦14-20
(証)気血水:気虚・血虚、五臓:心
・心血虚:心の血が不足し、安心できず神経が高ぶり、不眠や不安などの精神症状や動悸を起こす証 → 投与により血を増やし、心を安定させる
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
 ✓ 神経過敏
 ✓ なんとなく不安そうでそわそわしている
 ✓ 医師を見ると大声で泣く
 ✓ 母親との分離不安が強い
 ✓ あくびが多い
・脈:平または数
・舌:淡紅舌
・腹:軟〜中等度、腹直筋攣急
(特徴)
・一次障害(対人関係・コミュニケーション・こだわり)の改善が期待できる。
・一次障害の改善例は乳幼児に多く、5歳以前のできるだけ早期に開始すべき。
・小麦蛋白にはトリプトファンが含まれ、セロトニンやメラトニンの原料となる。
・ASD児ではセロトニン合成能発達プロセスが阻害されているため、セロトニンの補充が有効。

▢ 方剤解説:抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
(構成生薬)《保嬰撮要》:当帰3;釣藤鈎3;川芎3;白朮4(蒼朮);茯苓4;柴胡2-5;甘草1.5(+陳皮・半夏)
(証)気血水:気鬱・血虚・水滞、五臓:肝・脾(83)
・肝気鬱結:肝の疏泄作用が失調し、精神症状と気滞の症状を起こす証。精神的な緊張と抑うつ、自律神経の緊張、怒りやすくイライラしやすい、ヒステリックになる、胸腹の痛み、等
・肝火上炎:感情の抑うつや怒りから肝を損傷し、肝気鬱が火に変化し、気と火が上逆したために起きる頭痛・めまい・顔面と目の紅潮、等
・肝風内動:肝の証から内風を生じて、痙攣・振戦・意識障害などを起こす証。頭痛、ふらつき、めまい、手足の震え、四肢のしびれ、筋肉の引きつり、等
 → 投与により肝の流れを整え、痙攣など(内風)を鎮め、脾を守り(83)水を捌く。
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
 ✓ イライラしやすい
 ✓ 落ち着きがない
 ✓ 親も困っていて矢継ぎ早に話す
・脈:数
・舌:紅舌、白苔、白膩苔
・腹:腹力は軟〜中等度、腹直筋攣急
※ 83は左の腹部大動脈の動悸が亢進している時(臍上悸・臍下悸)に使用する
(特徴)
・易刺激性・多動性の改善
 ✓ 広汎性発達障害の前向き非盲検試験
 ✓ グルタミン酸ニューロンの抑制による興奮の抑制
・攻撃性・自傷行為・かんしゃくの軽減
 ✓ 広汎性発達障害・アスペルガー障害の後向き非盲検試験

▢ 方剤解説:大柴胡湯(8)・大柴胡湯去大黄
(生薬構成)《傷寒論》:柴胡6-8;半夏2.5-8;生姜1-2;黄芩3;芍薬3;大棗3-4;枳実2-3(+大黄1-2)
(証)気血水:気鬱>血虚>水滞、五臓:肝
・肝鬱化熱:肝気鬱結が高じると、停滞した気から内熱を生じ、その熱が顔面部に昇って、強い焦燥とのぼせなどを起こす証。強い焦燥、抑うつ、のぼせ、頭痛。
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
 ✓ 体力がある。
 ✓ 落ち着きがない。
 ✓ 胸や脇腹に圧迫感や痛みを訴える。
 ✓ 肥満傾向を認めることもある。
・脈:実
・舌:紅舌、白苔〜黄苔
・腹:腹力あり、胸脇苦満、心下痞硬、時に腹直筋攣急
 〜心窩部に厚みがあって堅く緊張し、季肋下部を圧迫するも凹まないほどのもの。
(特徴)
・13歳以下の古典的ASDに対して6ヶ月以上投与したところ、睡眠障害・多動・かんしゃく・パニック・自傷・同一性保持・脅迫的行動などが改善した。
・大柴胡湯は柴胡剤の中で、体力の充実した者、季肋部の苦満感・肋骨弓下部に抵抗・圧痛(胸脇苦満)・腹部は硬く緊張している。
・小柴胡湯証にして、腹満拘攣し嘔劇しき者を治す。
・柴胡・芍薬・枳実が肝気鬱結を改善、黄岑で清熱。

▶ “かんしゃく”を治すには心身の土台(睡眠・食事・排泄)を整えることが必要
・不調・症状はピラミッドのてっぺん
・ピラミッドの土台は「眠る力」
・不調と眠る力の間に「おいしく食べる・排泄する力」がある。
・治す順番は、睡眠 → 食事(偏食)・便秘/軟便 → かんしゃく・パニック、の順がよい。
・これは他の“困りごと”の対応にも当てはまる。

▶ 基本は「寝る子は育つ」
・ASD児・青年の44〜93%に睡眠障害があり、持続する。
・患児に「入眠障害・中途覚醒・夜驚症」などの睡眠の問題がある場合は、まず眠りから治す。
・眠れるようになると子どもたちのかんしゃくが減り、落ちついて物事に取り組めるようになり、言葉や運動発達が伸びる。

  睡眠障害
   ↓  ← 漢方薬
  眠れるようになる
   ↓
  かんしゃくが減る
   ↓
  物事に落ちついて取り組める
   ↓
  言葉や運動発達が伸びる

・学童期では、起床困難からの不登校の改善などにもつながる。

▶ 乳幼児の睡眠障害への対応
・大柴胡湯去大黄+甘麦大棗湯の組み合わせが第一選択。
・困っている相談があればすぐに開始する。基本は就寝前に内服。
・昼寝をしない子どもは“過覚醒”が疑われるため「分2:昼食前・就寝前」を指示する。
・症状が安定後、3〜6ヶ月を目安に減薬する。

▶ 偏食など“食べることに関する困りごと”への対応
・眠れない → 昼間寝ている → 昼間の活動量減少 → 疲れていないので眠れない → ・・・
 の悪循環を断ち切るためには、まず「眠れること」を治療目標に設定する。
・甘くて飲みやすい甘麦大棗湯(72)から始める。
・ストレス反応+食が細い → 抑肝散加陳皮半夏(83)
・大柴胡湯去大黄は補脾(脾虚を治す)
・食が細い、軟便あるいは硬便傾向 → 小建中湯(99)

▶ “かんしゃく”への対応
・大柴胡湯去大黄+抑肝散加陳皮半夏(83)がベスト
(柴胡剤を2剤併用することにより強い“肝鬱”に対応)

▶ 初期の不登校への対応
・完全に行けなくなる前からスタートする。
・漢方薬はメインの症状に合わせて調節する。
・症状安定後、3〜6ヶ月ほど継続し、減量・休薬を試みる。

▶ 服薬の工夫
・漢方薬に不安を持っている患者さんには「合わなかったらいつでも止められる」ことを説明する。
・睡眠障害に対して抑肝散(54)を処方する際には「分2:朝・就寝前」を指示する。
・減量する際は、一度に休薬するのではなく回数・量を漸減していく。
・減量する際、複数の方剤を併用しているときは1剤ずつ減らす。
・学童期以降でコンサータなどを内服していても漢方薬は併用可能。

▶ ASDの症状と対応する脳機能・担当部位
・多様な症状と脳機能担当部位が存在し、
 それらが年齢と共に変化する複雑な病態
 ✓ 対人機能 → 中枢神経
 ✓ 感情コントロール → 大脳皮質
 ✓ 社会的行動 → 内側前頭内皮質
 ✓ 睡眠リズム、姿勢運動 → 脳幹
 ✓ 自律神経、感覚 → 帯状回、視床、辺縁系


▶ ASDと神経伝達物質
・オキシトシン:関与している・関与していないと両方の論文があり、結論は出ていない。
 → 漢方方剤では加味逍遥散(24)がオキシトシン分泌を増加させるという報告があるが、頻用はされていない。
・セロトニン:5歳以下のASD児の髄液セロトニン濃度は低い、セロトニン取込み合成能の異常、という報告がある。
 → 甘麦大棗湯(72)
・グルタミン酸:興奮性グルタミン酸と抑制性GABAの不均衡説がある。
 → 抑肝散(54)

当院の花粉症診療の特徴は、
・漢方薬の併用により効果・満足度をアップ
・オンライン診療に対応
していることです。
※ おとなの花粉症も条件付で診療しています。

子どもの花粉症

おとなの花粉症

舌下免疫療法

舌下免疫療法の副反応 

子どもの花粉症と分けて項目を作ったのには理由があります。
大人で使う薬は小児とは違った注意点が存在するからです。
それは、
・車の運転
・妊娠・授乳

車の運転が許可されている(添付文書に注意喚起がない)抗アレルギー薬は限定されます。
また、「妊娠中でも安全に使用できる」ことを保証している抗アレルギー薬はありません。
授乳中も「有益性が安全性に勝ると医師が判断した場合は使用可能」と、
何かあったときは医師に責任を転嫁するというずるいしくみになっています。

当院は小児科ですが、子どもの付き添いで来院したおとなの花粉症も“条件付き”で診療しています。その条件とは、

① 診断が確定している。
② 他に持病がない。
③ 他に薬を飲んでいない。
④ 妊娠していない(治療期間中に妊娠予定がない)。

の4点です。
②と③ は、薬の飲み合わせを確認するのが大変で診療が止まってしまうため。

①②③④ のすべてをクリアした方は当院で診療可能です。
ただし処方は「最長1ヶ月単位」とさせていただいています。

・・・以上にご了承いただける方のみ、ご相談ください。

当院の特徴は、
・漢方薬併用により眠気中和&効果倍増、高い満足度
・オンライン診療に対応
です。

自分に合う薬・治療法が決まるまでは通院していただきますが、
一旦治療が決まるとオンライン診療(※)に切り替えることができます。
※)自宅にいながらスマホで診察室の私とつながり診察&処方が可能です。

なお、花粉症の種類や診断については、
子どもの花粉症」の項目に書きましたのでそちらをご参照ください。
では早速、実際の治療のお話に入ります。


▶ 基本治療:(抗アレルギー薬内服)+(局所療法:点眼・点鼻)

まずは抗アレルギー薬(内服薬)のお話を。
子どもの治療と異なる点は「眠くなる薬を使えない」ことです。
成人では車の運転をする方がほとんどと思われ、
以下のような「車の運転が許可されている薬」に限定されます。

・ロラタジン(クラリチン®)
・フェキソフェナジン(アレグラ®)
・ビラスチン(ビラノア®)

残念ながらロラタジンとフェキソフェナジンは、
眠くならない代わりに効果が今ひとつ、という感触があります。
ロラタジンは授乳婦にも処方されている安全な薬です。

ビラノア®は最近登場した薬ですが、
眠くなりにくいけど効果がある、と評判です。
ただし空腹時内服(※)というルールがあり、
タイミングが難しくて内服を忘れてしまいがち、という欠点もあります。
※ )食前1時間〜食後2時間は避ける、この時間帯に服用すると効果が半減する

当院で処方可能なすべての薬のラインナップを、
効果と眠気の強さでランキングしつつ紹介しておきます。

(効果:①強 → ⑥弱)
① オロパタジン(アレロック®)
② レボセチリジン(ザイザル®)
③ ビラスチン(ビラノア®)
④ エピナスチン(アレジオン®)
⑤ ロラタジン(クラリチン®)
⑥ フェキソフェナジン(アレグラ®)

(眠気:①強 → ⑥弱)
① オロパタジン(アレロック®)
② レボセチリジン(ザイザル®)
③ エピナスチン(アレジオン®)
④ ロラタジン(クラリチン®)
⑤ フェキソフェナジン(アレグラ®)
⑥ ビラスチン(ビラノア®)

わかりやすい一覧表を見つけましたので引用します(こちらから)。⭕️は「車の運転OK」の薬です。

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上記抗アレルギー薬の他に、別系統の抗アレルギー薬を併用することもあります。
「抗ロイコトリエン薬」というグループで、以下の2種類があります;

プランルカスト(オノン®)
モンテルカスト(キプレス®、シングレア®)

鼻閉に有効、とされていますが、効果はそれほど強くありません。
鼻閉には後に述べる漢方薬の方が手応えがあります。

内服薬のみでは効果が不十分な場合、
以下の局所療法(点眼・点鼻薬)を併用します。
つらい場所にダイレクトに薬を投与するため、効果が実感されます。

(点眼薬)
・オロパタジン(パタノール®)点眼
・エピナスチン(アレジオン®)点眼
・アレジオン®眼瞼クリーム(点眼が苦手な方へお勧め、ただし少しお値段が高い)
(点鼻薬)
フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アラミスト®)点鼻薬

点眼薬は即効性があります。
処方されても「かゆくなったら使用する」方が多いのですが、
それよりも「1日〇回」と定期的に使用する方が効果的です。

点鼻薬は即効性がないタイプ(※)で、効果が出るまでに約1週間かかります。
でも1本使い切ると鼻閉が改善して鼻で呼吸ができるようになりますので、
「“三日坊主”でやめてしまうともったいないですよ!」と指導しています。

※ 内科や耳鼻科で処方される「血管収縮剤点鼻薬」は即効性はありますが依存性もあり、長期連用すると鼻閉が増悪する副作用もあるため、当院では処方しておりません。

▶ 追加治療

上記基本治療を行っても効果が今ひとつの場合には、
以下の追加治療を提案しています;

1.抗アレルギー薬を増量
・ロラタジンとフェキソフェナジンは倍量投与可能
・ビラスチンは倍量投与不可

※ 他にも倍量投与可能な薬剤:オロパタジン(アレロック®)、エピナスチン(アレジオン®)、セチリジン(ジルテック®)、レボセチリジン(ザイザル®)

2.抗アレルギー薬を変更
・抗アレルギー薬は、その成分構造から「三環系」と「ピペリジン・ピペラジン系」に分けられ、別系統に変更すると効果が得られることがあります。

(三環系)
・オロパタジン(アレロック®)
・ロラタジン(クラリチン®)
・エピナスチン(アレジオン®)

(ピペリジン・ピペラジン系)
・フェキソフェナジン(アレグラ®)
・レボセチリジン(ザイザル®)
・ビラスチン(ビラノア®)


3.抗ロイコトリエン薬の併用
・プランルカスト(オノン®)、モンテルカスト(キプレス®、シングレア®)など。
・鼻閉への効果が期待できます。

3.漢方薬の併用:当院一押し!
・眠くならず、鼻閉にも有効、目のかゆみにも有効とよいことずくめ。
・漢方薬散剤の味とニオイが苦手な方には錠剤が用意されている方剤(※)もあります。
・当院では抗アレルギー薬+局所療法(点眼・点鼻)+漢方薬」の併用で満足度が高い患者さんが多くいらっしゃいます。

※ 錠剤のある漢方薬:
・小青竜湯(19)
・葛根湯加川芎辛夷(2)
・五虎湯(95)


(漢方薬がお勧めの患者さん)

✓ 抗アレルギー薬では効果が今ひとつ
✓ 目の症状が強くて目薬を使っても今ひとつ
✓ 喉のチリチリ感がよくならない
✓ 花粉症期間中、体がだるくて熱っぽい
✓ 抗アレルギー薬を飲むと眠くなる
✓ 他院で強い薬(ステロイド薬)を処方され心配

(以下の図表はツムラのHPより引用)

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4.舌下免疫療法(スギ花粉症のみ)
・いろいろ治療を尽くしてもなおつらい方、体質改善して根治を目指したい方にお勧めです。
・舌下免疫療法について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください;
▶ 「スギ花粉症・ダニによるアレルギー性鼻炎に舌下免疫療法



<参考>
■ 薬物治療コンサルテーション「妊娠と授乳」(南山堂)
・製薬会社的には添付文書に「有益性投与」と記載されており推奨はしていないが、経験的に以下の薬剤が使用される;ロラタジン、フェキソフェナジン、レボセチリジン、セチリジン
・第一・第二世代抗ヒスタミン薬は人への催奇形性は報告されておらず、授乳に関してもほとんどのモノが問題ないとされているが、本人が納得する選択をすべき。

カラダだけではなくココロの不調も見え隠れする起立性調節障害。
西洋医学の薬だけではなかなかコントロールが難しいのが現状です。

専門医の中には循環器内科で使用する薬物を複数使い分け、
さじ加減を調整してよい成績を得ているという報告もありますが、
一般小児科医には敷居の高い分野です。

さて、漢方医学は“心身一如”という概念のもと、カラダの不調はこころの不調とリンクしている考えます。
起立性調節障害に見られる症状を、漢方医学はどのように捉えるのか見てみましょう。

漢方医学は人体の働き・体調不良を「気・血・水」という概念で説明します。
細かいことを言うとキリがないので究極的単純化をすると、
・“
”は元気の気
・“
”は血液
・“
”は体液
と考えてください。

あなた自身はどうでしょうか?
自分の気血水のタイプを知ることができるチェックシートがありますので、
興味のある方は試してみてください。
未病チェックシート(元慶応大学教授:渡辺賢治Dr.監修)
気血水チェック(千福貞博Dr.監修)
クラシエの漢方診断(クラシエ)
また、気血水の異常の概要はこちらを参照してください。

日本語には“気”の付く単語がたくさんありますね。
元気、やる気、気持ち、気分、強気、弱気、内気、・・・挙げるとキリがありません。
これはすべて漢方医学の概念である“気”が語源であり、
西洋医学で検査異常がないと「気のせいでしょう」と言われてガッカリする患者さん、
実はそれは「“気”のせい=“気”の異常」なんです。つまり、漢方薬の出番です!

起立性調節障害は漢方医学的に分析するとメインは気と水の異常、
長期にわたると血の異常を伴うと捉えられることが多いので、
ここでは簡単に気と水について説明します。

“気”の異常は気虚・気うつ・気逆に分けられます。単純化すると、
・“
気虚”  → 元気がないこと
・“
気うつ” → 気持ちが沈んでウツウツしていること
・“
気逆”  → 気持ちが逆上してイライラすること
ということになります。

漢方的診察法に「腹診」といってお腹を触る方法があるのですが、
おへその周囲を触れたときに心臓の拍動が腹部大動脈を介して触れることがあり、
これは“気逆”の所見とされています。

“水”の異常は水毒(あるいは水滞)と表現され、
体の水分のアンバランスな分布を意味します。
前述の腹診の際、胃の辺りを軽く指で叩くとポチャポチャ音がすることがあります。
胃の中の水はけが悪い状態を反映しており、
このような所見が慢性的にある人は車酔いしやすく、
天気痛(低気圧が近づくと頭痛が出る)持ちの傾向があります。
これが“水毒”の所見です。

いかがでしょう。すこし漢方を身近に感じてもらえたでしょうか。

起立性調節障害の診断基準を再掲します;


1.立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
2.立っていると気分が悪くなる。ひどくなると倒れる
3.入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
4.少し動くと動機あるいは息切れがする
5.朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
6.顔色が青白い
7.食欲不振
8.臍疝痛をときどき訴える
9.倦怠あるいは疲れやすい
10.頭痛
11.乗り物に酔いやすい

これらの症状を漢方的にとらえた専門家による記述をいくつか紹介します。

耳鼻科医の境修平先生による解説
気虚と捉えられるもの:5、6、7、8、9
気逆と捉えられるもの:1、2
水毒と捉えられるもの:10
ODは全体的に気虚の傾向があり、気逆気うつを伴っている。
・腹部症状が強いときは、痛みを目標とするような方剤である安中散(5)や柴胡桂枝湯(10)が第一選択になる。
・めまいや立ちくらみが強い場合は気逆を治す苓桂朮甘湯(39)が第一選択になるが、
胃腸症状(脾虚)を伴う場合は半夏白朮天麻湯(37)を考慮する。

1、2、11に対して:五苓散、苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯
4、5、9に対して:補中益気湯
3、9、10に対して:柴胡桂枝湯、四逆散、小建中湯
反復性腹痛(8)に対して:小建中湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、柴胡桂枝湯、安中散

産婦人科医の後山尚久先生の解説
人間の一生を五行説でみると、
出生から小児期を経て思春期までは腎の機能が旺盛な腎旺期と呼ばれ、生命力と活動力に富んでいる。
ただ、思春期は肝の機能が十分にないと精神活動が低下し、精神障害や心身症をきたしやすい。
ODは小児期・思春期心身症の一つで、この時期には珍しい虚証を表す疾患である。

・漢方臨床では“気虚”と見なされ、補気剤が用いられる。
・気虚には“脾胃虚”がベースにあるため、最適薬は補中益気湯(41)である。
・めまいや立ちくらみは“水毒”であり、苓桂朮甘湯(39)、半夏白朮天麻湯(37)、五苓散(17)が用いられる。
・虚弱なタイプには小建中湯が適している。
・精神・神経症状を有する患者には柴胡加竜骨牡蛎湯(12)あるいは桂枝加竜骨牡蛎湯(26)が用いられる。

産婦人科医の大澤稔先生の解説
大澤先生は漢方専門用語を使わずに漢方を使いこなす達人です。
彼の著書に起立性調節障害の項目はありませんが、症状から拾ってみました。

めまい・ふらつき(1、2)
 → 五苓散(17)が第一選択
 回転性めまい+冷え  → あり:半夏白朮天麻湯(37)、真武湯(30)
            → なし:五苓散(17)
 宙に浮いたような感覚+冷え  → あり:苓桂朮甘湯(39)+四物湯(71)
                → なし:苓桂朮甘湯(39)  

なんとなくだるい(5、9)
 → 補中益気湯(41)が第一選択
 +貧血  → なし:六君子湯(43) 
      → あり:十全大補湯(48)

食欲がない(7)
 → 六君子湯(43)が第一選択
 +お腹の調子が悪い  → なし:茯苓飲(69)
            → あり:人参湯(32)、半夏瀉心湯(14)

大澤先生のフローチャートの読み方にはちょっとした秘密があり、
「なし」の矢印は「あってもなくてもよい」と読みます。
すると、症状と方剤の対応を書き換えると以下のようになります;

・めまい(回転性)+ふらつき(+冷え) → 五苓散
・めまい(回転性)+ふらつき+冷え   → 半夏白朮天麻湯(37)、真武湯(30)
・めまい(宙に浮いたような感覚)(+冷え) → 苓桂朮甘湯(39)
・めまい(宙に浮いたような感覚)+冷え → 苓桂朮甘湯(39)+四物湯(71)

・なんとなくだるい      → 補中益気湯(41)
・なんとなくだるい(+貧血) → 六君子湯(43) 
・なんとなくだるい+貧血   → 十全大補湯(48)

・食欲がない → 六君子湯(43)
・食欲がない(+お腹の調子が悪い) → 茯苓飲(69)
・食欲がない+お腹の調子が悪い → 人参湯(32)、半夏瀉心湯(14)


各先生の記述は微妙に異なりますが、
気血水の中の“気”と“水”の異常の併存した病態と捉えているのは共通しています。

“自律神経の異常・アンバランス”と言われても、
わかったような、わからないような、ですが、
漢方医学はそれを抽象的な概念・理論に高めてアンバランスを評価し、
それを補正する薬を開発してきた、
と考えると、使わない手はないと思います。

西洋医学の薬(メトリジン®)では解決できない場合、
ぜひご相談ください。
一緒に体に合う漢方薬を探しましょう。


<参考>
登場した漢方製剤の性質・特徴をまとめておきます。
全ての方剤に共通するのが“
虚証”(体力が消耗した状態)です。
エネルギーの固まりというイメージの思春期なのに、
消耗・憔悴しきっている中高生たちの姿が垣間見えるようです。

補中益気湯(41):裏寒
証:脾胃虚・気虚
苓桂朮甘湯(39):裏寒
証:水毒・気逆
半夏白朮天麻湯(37):裏寒
証:水毒・脾虚
五苓散(17):裏熱
証:水毒
小建中湯(99):裏寒
証:脾虚(+気虚・血虚)
柴胡加竜骨牡蛎湯(12):裏熱
証:気うつ
桂枝加竜骨牡蛎湯(26):裏寒
証:桂枝湯証(+気虚・血虚)


<追加ブログ>
起立性調節障害の漢方(その2
起立性調節障害の漢方治療 by 幸井俊高Dr. 

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