この食物アレルギー、ちょっと変わっています。
アレルゲンとなる食物を食べただけでは症状が出ないのです。
でも、その食物を食べた後に運動すると強いアレルギー症状(アナフィラキシー)が出ます。
そして運動しただけでも症状が出ません。つまり、
アレルゲン食物摂取(単独) → 無症状
運動(単独) → 無症状
アレルゲン食物摂取 + 運動 → アナフィラキシー
という構図です。
ですから、患者さん自身は気づきにくく、医師が積極的に疑わないと診断にたどり着きにくいという特徴があります。
典型的には・・・
・小学生中学年以上の生徒が、
・学校給食でパン(小麦)を食べて、
・5時間目、あるいは6時間目の体育の授業中に症状が出る、
というパターンですね。
では病気の解説をします。
【病名】食物依存性運動誘発アナフィラキシー
(FDEIA,food-dependent exercise-induced anaphylaxis)
【定義】
食物摂取単独あるいは運動負荷単独での症状は認められず、ある特定の食物摂取後の運動が加わることによって、全身じんま疹、喘鳴などを呈するアナフィラキシーが誘発される病気。
【疫学】
・発症:10〜20歳代以降。
・男女比:男性>女性
・頻度は学童で0.0047%、中学生で0.018%(2012年、横浜市)。
・頻度は国によって異なる。
・何らかのアレルギー疾患の既往がある例が多い。
【原因食品と運動】
▶ 原因食品
(食物アレルギー診療ガイドライン2021より)

・(日本)小麦>甲殻類>軟体類
※ 「食物アレルギー診療ガイドライン2021」(日本小児アレルギー学会)によると、小麦62%、甲殻類28%、そば3%、魚2%、果物1%、牛乳1%。
※ 小麦によるFDEIAは特に小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)とも呼ばれる。
・近年は果物や野菜が増加傾向。
・複数の食品が原因抗原になり得る。
▶ 誘発する運動
・運動強度の高い運動(フットボール、ランニング、ダンスなど)での発症が多い。
・散歩のような軽度の運動でも症状が出ることがある。
・入浴でも症状が出ることがある。
※ 「食物アレルギー診療ガイドライン2021」(日本小児アレルギー学会)によると、球技38%、ランニング28%、歩行17%、自転車3%、水泳3%、ゴルフ3%
【症状】
・食後から運動開始まで2時間以内で、運動開始後1時間以内の発症が多い。
・なかには食後4時間の運動で発症した例もある。
・皮膚症状(全身じんま疹、血管性浮腫、紅斑)がほとんどの例で出現する。
・ほかに、呼吸器症状(70%)、ショック症状(50%)。
・半数以上が再発し、頻回に繰り返す例もある。
【アナフィラキシーの診断基準】「アナフィラキシーガイドライン2022」(日本アレルギー学会)
1.皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性のじんま疹、かゆみまたは紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分〜数時間で)発症した場合で、さらに少なくとも次の一つを伴う;
A. 重度の呼吸器症状(呼吸困難、呼気性喘鳴・気管支れん縮、吸気性喘鳴、低酸素血症)
B. 循環器症状(血圧低下、筋緊張低下、失神、失禁など)
C. 重度の消化器症状(重度のけいれん性腹痛、反復性嘔吐など)
2.典型的な皮膚症状を伴わなくても、その患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性が極めて高いものに暴露された後、血圧低下または気管支れん縮または喉頭症状が急速に(数分〜数時間で)発症した場合;
(乳幼児・小児)収縮期血圧が低い(※)、または30%を超える収縮期血圧の低下
(成人)収縮期血圧が90mmHg未満、または本人のベースライン値に比べて30%を超える収縮期血圧の低下。
※ 乳児および10歳未満の小児:収縮期血圧が(70+[2×年齢(歳)])mmHg未満
【症状を増悪させる因子】
・食物、運動のほかに複数の要因が発症に影響する。
(全身の状態)疲労、寝不足、感冒
(自律神経)ストレス
(女性ホルモン)月経前状態
(気象条件)高温、寒冷、湿度
(薬剤)NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:アスピリンなど)
※ 運動をしなくても、NSAIDsの服用によって食物アレルギー症状が誘発されることがある。アスピリン前投薬により皮膚テストの原因アレルゲンに対する反応が増強されることが示されている。
(その他)アルコール摂取、入浴、花粉飛散時期
【病態】
・アレルゲン特異的IgE抗体が関与する即時型アレルギー反応。
・運動により腸管上皮からの透過性が亢進し、アレルゲンの吸収が促進されることで発症すると考えられている。
【鑑別すべき病気】
・気管支喘息発作:皮膚症状は出ない。
・急性じんましん・血管性浮腫:腹痛(消化器症状)・血圧低下(循環器症状)はない。
・不安発作・パニック発作:皮膚症状、喘鳴(呼吸器症状)、血圧低下(循環器症状)はない。
・血管迷走神経反射:皮膚症状、呼吸器症状、消化器症状は出ない。
【診断】
1.問診
・食後から2時間(〜最大4時間)以内の運動負荷でアレルギー症状を呈した場合に疑う。
※ ただし、症状の再現性は低く、食物+運動+αの要素がある病気である。
2.血液検査
・疑われる食品の特異的IgE抗体を検査する。
・特異的IgE抗体陽性率は80%、皮膚テスト陽性率は90%。
(例)小麦では、小麦とω-5 グリアジン
→ ω-5 グリアジンは陽性適中率:38%、陰性的中率:91%、感度:93%(成人)、46%(20歳未満)
※ 20歳以下では高分子量グルテニン特異的IgE抗体陽性率が高い。
・甲殻類の原因アレルゲンは不明であり、感度・特異度の高い血液検査はない。
3.運動誘発負荷試験(入院管理下)
・疑わしい食品を摂取して30〜60分後に運動負荷(トレッドミル、エルゴメーター)を行う。
・偽陰性が多い検査のため、陰性の場合はアスピリン前負荷投与後に再度行うことも検討。
【対応・生活指導】
1.運動回避:
・原因食物を摂取後、最低2時間(可能であれば4時間)は運動を避ける。
・運動2〜4時間前の原因食物摂取を禁止する。
・NSAIDs内服時は原因食物を摂取しない。
・運動時に軽い症状が出た時点でただちに運動を中止して、2〜4時間は休憩する。必要に応じて医療機関を受診する。
・学校給食について、原因食物の除去が必要かどうかを、患者家族・医師・学校で検討する。
(例)学校では除去、家庭では運動に気をつける条件で許可、など。
2.アナフィラキシーへの対応
・頻回発症例や重症例にはアドレナリン自己注射製剤(エピペン®)の処方を検討。
【予後】
・将来治るかどうか、一定の見解はない。
・ω-5 グリアジン特異的IgE抗体陽性のWDEIAの長期予後は不良の可能性が高いと報告されている。
<参考>
・小児科 2023年4月号 Vol.64 No.4 2023(金原出版)
・大人の食物アレルギー必携ハンドブック(永田真著、中外医薬社、2024年発行)
アレルゲンとなる食物を食べただけでは症状が出ないのです。
でも、その食物を食べた後に運動すると強いアレルギー症状(アナフィラキシー)が出ます。
そして運動しただけでも症状が出ません。つまり、
アレルゲン食物摂取(単独) → 無症状
運動(単独) → 無症状
アレルゲン食物摂取 + 運動 → アナフィラキシー
という構図です。
ですから、患者さん自身は気づきにくく、医師が積極的に疑わないと診断にたどり着きにくいという特徴があります。
典型的には・・・
・小学生中学年以上の生徒が、
・学校給食でパン(小麦)を食べて、
・5時間目、あるいは6時間目の体育の授業中に症状が出る、
というパターンですね。
では病気の解説をします。
【病名】食物依存性運動誘発アナフィラキシー
(FDEIA,food-dependent exercise-induced anaphylaxis)
【定義】
食物摂取単独あるいは運動負荷単独での症状は認められず、ある特定の食物摂取後の運動が加わることによって、全身じんま疹、喘鳴などを呈するアナフィラキシーが誘発される病気。
【疫学】
・発症:10〜20歳代以降。
・男女比:男性>女性
・頻度は学童で0.0047%、中学生で0.018%(2012年、横浜市)。
・頻度は国によって異なる。
・何らかのアレルギー疾患の既往がある例が多い。
【原因食品と運動】
▶ 原因食品
(食物アレルギー診療ガイドライン2021より)

・(日本)小麦>甲殻類>軟体類
※ 「食物アレルギー診療ガイドライン2021」(日本小児アレルギー学会)によると、小麦62%、甲殻類28%、そば3%、魚2%、果物1%、牛乳1%。
※ 小麦によるFDEIAは特に小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)とも呼ばれる。
・近年は果物や野菜が増加傾向。
・複数の食品が原因抗原になり得る。
▶ 誘発する運動
・運動強度の高い運動(フットボール、ランニング、ダンスなど)での発症が多い。
・散歩のような軽度の運動でも症状が出ることがある。
・入浴でも症状が出ることがある。
※ 「食物アレルギー診療ガイドライン2021」(日本小児アレルギー学会)によると、球技38%、ランニング28%、歩行17%、自転車3%、水泳3%、ゴルフ3%
【症状】
・食後から運動開始まで2時間以内で、運動開始後1時間以内の発症が多い。
・なかには食後4時間の運動で発症した例もある。
・皮膚症状(全身じんま疹、血管性浮腫、紅斑)がほとんどの例で出現する。
・ほかに、呼吸器症状(70%)、ショック症状(50%)。
・半数以上が再発し、頻回に繰り返す例もある。
【アナフィラキシーの診断基準】「アナフィラキシーガイドライン2022」(日本アレルギー学会)
1.皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性のじんま疹、かゆみまたは紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分〜数時間で)発症した場合で、さらに少なくとも次の一つを伴う;
A. 重度の呼吸器症状(呼吸困難、呼気性喘鳴・気管支れん縮、吸気性喘鳴、低酸素血症)
B. 循環器症状(血圧低下、筋緊張低下、失神、失禁など)
C. 重度の消化器症状(重度のけいれん性腹痛、反復性嘔吐など)
2.典型的な皮膚症状を伴わなくても、その患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性が極めて高いものに暴露された後、血圧低下または気管支れん縮または喉頭症状が急速に(数分〜数時間で)発症した場合;
(乳幼児・小児)収縮期血圧が低い(※)、または30%を超える収縮期血圧の低下
(成人)収縮期血圧が90mmHg未満、または本人のベースライン値に比べて30%を超える収縮期血圧の低下。
※ 乳児および10歳未満の小児:収縮期血圧が(70+[2×年齢(歳)])mmHg未満
【症状を増悪させる因子】
・食物、運動のほかに複数の要因が発症に影響する。
(全身の状態)疲労、寝不足、感冒
(自律神経)ストレス
(女性ホルモン)月経前状態
(気象条件)高温、寒冷、湿度
(薬剤)NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:アスピリンなど)
※ 運動をしなくても、NSAIDsの服用によって食物アレルギー症状が誘発されることがある。アスピリン前投薬により皮膚テストの原因アレルゲンに対する反応が増強されることが示されている。
(その他)アルコール摂取、入浴、花粉飛散時期
【病態】
・アレルゲン特異的IgE抗体が関与する即時型アレルギー反応。
・運動により腸管上皮からの透過性が亢進し、アレルゲンの吸収が促進されることで発症すると考えられている。
【鑑別すべき病気】
・気管支喘息発作:皮膚症状は出ない。
・急性じんましん・血管性浮腫:腹痛(消化器症状)・血圧低下(循環器症状)はない。
・不安発作・パニック発作:皮膚症状、喘鳴(呼吸器症状)、血圧低下(循環器症状)はない。
・血管迷走神経反射:皮膚症状、呼吸器症状、消化器症状は出ない。
【診断】
1.問診
・食後から2時間(〜最大4時間)以内の運動負荷でアレルギー症状を呈した場合に疑う。
※ ただし、症状の再現性は低く、食物+運動+αの要素がある病気である。
2.血液検査
・疑われる食品の特異的IgE抗体を検査する。
・特異的IgE抗体陽性率は80%、皮膚テスト陽性率は90%。
(例)小麦では、小麦とω-5 グリアジン
→ ω-5 グリアジンは陽性適中率:38%、陰性的中率:91%、感度:93%(成人)、46%(20歳未満)
※ 20歳以下では高分子量グルテニン特異的IgE抗体陽性率が高い。
・甲殻類の原因アレルゲンは不明であり、感度・特異度の高い血液検査はない。
3.運動誘発負荷試験(入院管理下)
・疑わしい食品を摂取して30〜60分後に運動負荷(トレッドミル、エルゴメーター)を行う。
・偽陰性が多い検査のため、陰性の場合はアスピリン前負荷投与後に再度行うことも検討。
【対応・生活指導】
1.運動回避:
・原因食物を摂取後、最低2時間(可能であれば4時間)は運動を避ける。
・運動2〜4時間前の原因食物摂取を禁止する。
・NSAIDs内服時は原因食物を摂取しない。
・運動時に軽い症状が出た時点でただちに運動を中止して、2〜4時間は休憩する。必要に応じて医療機関を受診する。
・学校給食について、原因食物の除去が必要かどうかを、患者家族・医師・学校で検討する。
(例)学校では除去、家庭では運動に気をつける条件で許可、など。
2.アナフィラキシーへの対応
・頻回発症例や重症例にはアドレナリン自己注射製剤(エピペン®)の処方を検討。
【予後】
・将来治るかどうか、一定の見解はない。
・ω-5 グリアジン特異的IgE抗体陽性のWDEIAの長期予後は不良の可能性が高いと報告されている。
<参考>
・小児科 2023年4月号 Vol.64 No.4 2023(金原出版)
・大人の食物アレルギー必携ハンドブック(永田真著、中外医薬社、2024年発行)