2026年01月

長年小児科医として夜尿症診療にたずさわってきましたが、正直に言いまして、薬物療法の手応えがない疾患の一つです。

夜尿症の薬物療法とはデスモプレシン(ミニリンメルト®)を指します。
これは抗利尿ホルモンといって、尿を濃縮させて量を少なくする働きがあります。
誰の体にも存在するホルモン(バゾプレシンあるいはバゾプレッシン)ですが、夜尿症児は相対的にそれが少ない、効きが悪いと考え、内服薬で補充するのですね。
抗利尿ホルモンであるバゾプレシンが欠乏する尿崩症という病気がありますが、この病気にもデスモプレシンが投与されます。不思議なのは、尿崩症に使用する量より、夜尿症に使用する量の方が多いこと。

夜尿症のすべてがデスモプレシン治療の対象になるわけではありません。
尿量を少なくする薬ですから、尿量が多いタイプ(多尿型、小児夜尿症の2/3はこのタイプ)に適応になり、有効率は60〜70%です。

一方、尿量は普通だけと膀胱が小さいために朝までに溢れて夜尿になるタイプ(膀胱型)もあります。
このタイプにデスモプレシンを投与しても、残念ながら効果はあまり期待できません。もともと多尿ではないので尿量減少効果が少ないですから。

膀胱型に有効な治療はアラーム療法で、有効率は70%程度。
こちらにまとめましたので興味のある方はお読みください。

多尿型と膀胱型、両方の要素があるタイプを混合型と呼び、予想される通り難治性です。このタイプにはデスモプレシンとアラームの療法を併用します。

また、有効性は低いものの、抗コリン薬や三環系抗うつ薬を併用することがあります。
今から30年前はこの二つの薬剤が夜尿症治療の中心でした。喘息などの病気と比べて、治療の手応えがなく、患者さんも通院に疲れてドロップアウトすることが多かったですね。

以上が一般論ですが、専門家による「難治性夜尿症」の記事が目に留まりましたので、備忘録としてポイントを引用させていただきます。

ポイントとして、
・多尿型と膀胱型を分けていない。
・国際ガイドラインでは薬物療法とアラーム療法を並列推奨されているが、著者はミニリンメルト®や抗コリン薬などの薬物療法を中心に、アラーム療法を補助として考えている様子。
・漢方(抑肝散)の効果に言及している。
などが挙げられます。

欧米では「とりあえず薬を試してみましょう」とミニリンメルトが処方されると耳にしたことがあります。日本のように、多尿型と膀胱型を分けて考えるという、繊細な作業はスルーしている様子。

さらに近年、難治性夜尿症例に神経発達症の合併が多いことが明らかになってきました。漢方の抑肝散は、私がふだんからかんしゃくの相談を受けると処方している方剤の一つです。ようやくこちらの面にも光が当てられてきた、という印象ですね。
神経発達症の漢方に興味のある方は、こちらをご参照ください。


▶ 排尿機能の発達
・3歳頃までに反射性排尿を抑制する脳の高位中枢が発達するため、誘導すれば排尿が可能になり、それ以前にみられていた反射的排尿が消失し、昼間の遺尿がみられなくなる。
・4歳頃には次第に夜間の不随意排尿も解消し、自律排尿が完成していく。
・5歳を過ぎても月に数回以上、夜間睡眠中に尿を漏らす例を「夜尿症」と定義している。
・日本における夜尿症の頻度は、5〜15歳では約6.4%(約80万人)である。

▶ 夜尿症の分類法は2つ
1.一次性(95%)と二次性(5%)
①一次性:生まれてからずっと夜尿が消えない
②二次性:夜尿が一旦、6ヶ月以上解消していたものが再燃
 → 尿路感染症、便秘症、脊髄疾患(脊髄炎、腫瘍など)を要チェック
2.単一症候性(60〜90%)と非単一症候性(10〜40%)
①夜尿のみ
②夜尿+昼間遺尿
 → 慢性便秘症、泌尿器科的疾患(尿路奇形、反復性尿路感染症など)、代謝・内分泌疾患(糖尿病、尿崩症など)、脊髄疾患(潜在性二分脊椎など)、神経発達症(ADHD児など)などの基礎疾患を有している可能性がある

★ 国際標準のチェック項目:ICCS,International
①昼間遺尿:3歳半以降も続く昼間遺尿の有無
②1日の排尿回数:3回以下、あるいは、8回以上は異常
③切迫性排尿の有無
④排尿をこらえている姿勢の有無
⑤下腹部を圧迫しての排尿の有無
⑥尿線を強く描けるか
⑦便秘の有無
⑧神経発達症(ADHD、ASD)合併の有無
⑨学習障害や発達障害の合併の有無

▶ 難治性夜尿症の治療

1.生活指導の徹底
・適切な水分摂取法:飲水の約2時間後に尿が生成されるので、夕食は就寝2時間前に済ませ、それ以降の飲水は極力控える(10mL/kg未満)
・塩分過剰摂取を控える
・就寝前に必ず排尿する習慣をつける

2.ミニリンメルト®(抗利尿ホルモン製剤、DDAVP)の適応
・多尿型
・60〜70%有効
・国際基準ICCSの推奨治療では第一選択薬
・120μgで開始し、効果不十分の場合は240μgへ増量する。
・OD錠は、従来のスプレー剤と比べて効果発現までのタイムラグを考慮し、就寝直前内服ではなく、就寝30分前に内服する。
・OD錠は、錠剤を口腔内で崩壊させ、口腔粘膜から吸収させることが重要である。口腔内で崩壊させずに嚥下したり、服用時に飲水すると十分な効果が得られない。内服前に歯みがきを済ませ、内服後は飲水を控え、口をゆすぐことを避けるなども重要である。

3.抗コリン薬(副交感神経遮断薬)
・上記DDAVPで効果不十分であった場合、機能的膀胱容量増加を目的として使用する。
・従来のオキシブチニン塩酸塩(ポラキス®)やプロピベリン塩酸塩(バップフォー®)に変わり、新しい世代のイミダフェナシン(ウトリス®、ステーブラ®)やコハク酸ソリフェナシン(ベシケア®)のそれぞれOD錠が汎用されている。
・昼間遺尿や過活動膀胱の症状を合併する児では、ウトリスかステーブラ2錠(0.2mg)を2回に分けて使用、体重35kgを超える児では、効果が不十分な場合は倍量まで増量する。
・夜尿のみで昼間遺尿を認めない児では、ベシケア2.5mgを就寝前に使用し、効果が不十分な場合は5mgに増量する。

4.アラーム療法
・薬物療法と並列した治療のオプション
・有効率:65〜70%、中止後の再発率:30〜60%
・作用機序:覚醒排尿を促すのではなく、膀胱の排尿抑制力を高め、膀胱容量を増加させることにある(詳細不明)。
・アラーム療法を成功させるためには、本人の努力のみならず家族の協力が極めて重要である。
・患児が家族と一緒に就寝し、アラームが作動した際、自力で起きることができなければ、親が起こす。
・開始2週間後に(主治医が)電話を入れるなどして治療継続の応援と技術的な問題を解決する。
・6〜8週間継続しても効果が得られなければ、一時中断する。
・(著者は)10歳以上の患児に対して薬物治療の補助療法としてアラーム療法を導入する。

5.睡眠問題への介入
・近年、夜尿症間寺における終夜脳波の検討から、多くが「浅くてクオリティーの低い睡眠が遷延している」ことが明らかになった。
・治療の一助として睡眠の改善が注目されてきており、欧米ではメラトニンの仕様の検討が行われている。

6.漢方による治療
・(著者ら)抑肝散を用いて良好な結果を得ている。使用量は、体重40kg未満に2.5g(夕食後)、体重40kg以上に2.5gで効果が乏しい場合は5gへ増量。
・抑肝散(54)は、漢方でいう「肝」の高ぶりを押さえ、興奮やイライラ、筋肉の緊張などを鎮める方剤であり、もともと小児の夜なき、疳の虫に使用されてきた。


<参考>
小児の難治性夜尿症への対応
 大友義之、順天堂大学小児科(日本医事新報社、最終更新日は2025.9.20)

「不安」「過緊張」「イライラ」など、症状としては捉えにくい感情・情緒を扱ってきました。今回ははっきりとした症状としての「パニック障害・パニック発作」を取りあげてみます。
パニックは「不安と緊張の極致」というイメージですが、漢方(中医学)ではどう捉えているのでしょうか。
ほかの感情・精神症状は「心」と「肝」のアンバランスと説明されていますが、パニックでも心・肝のアンバランスがメイン、そして「脾」と「腎」が登場するのが特徴ですね。


▶ パニック障害

パニック障害は、不安感や恐怖感の高まり、動悸、めまい、ふるえ、冷や汗、呼吸困難などの症状を伴うパニック発作が突然起こる病気。このまま死んでしまうのではないか、という恐怖を感じることもある。


▶ パニック発作

心拍数や血流量の急激な変化は、本来は危機を察知した時に瞬時に対応するための自然な反応である。この仕組みが敏感すぎたり不安定だったりするために、とくに危険が迫っていないのにスイッチが入ってしまうのがパニック発作。

多くの場合、一回の発作は長く続くわけではなく、救急車で運ばれて病院に着いたころには症状がかなり治まっている。検査をしても異常がみつからないケースがほとんど。

しかしパニック発作は繰り返して起こることが多いため、発作がまた起こるのではないかという不安や恐怖を感じ続けることになる。

また、発作を起こした場所やそれに似た状況には近づけなくなり、例えば急行電車や飛行機に乗れなくなるなど、日常生活が制約されることになる。睡眠中など、リラックスしている状況で発作が生じる場合もある。


▶ パニック障害の西洋医学的治療

セロトニン・ノルアドレナリンなど脳内の神経伝達物質のバランスの失調がパニック障害と関係が深いという観点から、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、抗不安薬などが処方される。

▶ 漢方治療
漢方では、不安を感じやすいパニック体質を改善していくことにより、パニック障害の治療を進める。そこには五臓の心・肝・脾・腎が深く関与している。
基本は「心身一如」。心と体は切っても切れない関係にある、という漢方思考です。

パニック障害をはじめとする心のトラブルも、五臓の相互関係の不均衡と関係があります。つまり、五臓というからだ全体のバランスを安定させることにより、「不安体質」「パニック体質」を改善していきます。神経伝達という局所的な現象を化学薬品でコントロールする西洋医学とはまた別のアプローチでである。

 

▶ パニック体質の主な4つの証


(1)「脾気虚」証

・消化吸収や代謝機能をつかさどる五臓の脾が弱い体質。

・脾の機能が弱いので体内に十分な気血を供給できず、中枢神経系も衰弱しており、パニック発作を起こしやすくなっている。

・脾気虚で出やすい症状:疲れやすい、息切れ、軟便、白い舌 など

→ 体力や気力を補う漢方薬を。


◆ さらにこんなケースも
めまい、立ちくらみ、動悸、眠りが浅いなどの症状が顕著な時は、脾気虚に(2)の心血虚が合わさった「心脾両虚」。

(2)「心血虚」証

・精神活動をつかさどる五臓の心が血で満たされていない体質

不安を感じやすいのが特徴で、パニック障害を起こすことも多いタイプ。

・心血虚で出やすい症状;寝つきが悪い、めまい、立ちくらみ、夢をよく見る、など

→ 心血を補う漢方薬を。

◆ さらにこんなケースも
あせり、いらいらが見られる場合、驚きやすさ、強迫観念を併せ持つ場合など、さらに細かいケースに応じて処方を選ぶ。

(3)「肝鬱気滞」証

・情緒をつかさどる五臓の肝の気が鬱滞している体質。

刺激に敏感なため、パニック障害になりやすいタイプ。

・肝鬱気滞で出やすい症状;情緒不安定、いらいら、ヒステリー、下痢と便秘を繰り返す、など

→ 気の流れをよくする漢方薬を。


◆ さらにこんなケースも
いらいら、のぼせ、頭痛などが顕著な場合は熱をとる作用を加えた漢方薬を用いる。


(4)「腎虚」証

生命力の貯蔵庫ともいえる五臓の腎の機能が衰弱している体質。

心身ともに弱っている状態で、びくびくと恐怖を感じやすくなっている。

→ 腎を補う漢方薬で、体の根本から立て直していく。

 

◆ パニック障害に効果的な漢方薬

四君子湯、帰脾湯、酸棗仁湯、黄連阿膠湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、加味逍遙散


<参考>

パニック障害(幸福薬局)


 

「不安」「過緊張」の次は「イライラ」を扱います。
さて、「イライラ」ってなんでしょう。AIに聞いてみました;

Q.  イライラする心理的な原因は?
A.  イライラする心理は、「理想と現実のギャップ」や「期待とのズレ」から生じる不快感で、ストレス・疲労・睡眠不足・ホルモンバランスの乱れ・完璧主義などが原因となり、心身の余裕がない時に起こりやすく、物事が思い通りにならない状況で生じます。背景にはストレスの蓄積、対人関係の不満、そして「こうあるべき」という強い思いがあり、自己嫌悪や孤立感、時にはうつ状態にもつながるため、原因を見つけて適切なケア(休息、リラックス、環境調整など)をすることが大切です。
だそうです。質問を変えてみました。

Q.  イライラする心理は、不安、緊張、怒り、興奮のどの要素が中心ですか。
A.  
イライラ(苛立ち)する心理は、複数の感情要素が絡み合っていますが、一般的には「怒り」「不安」が中心的な要素であると考えられます。以下に、それぞれの要素がどのように関連しているかを解説します。
・怒り: イライラの最も直接的な構成要素です。自分の思い通りにならない状況や、妨害されていると感じたときに生じる「欲求不満(フラストレーション)」が根底にあり、それが怒りとして表現されます。
・不安: 物事が予期せぬ方向へ進むことへの恐れや、状況がコントロールできないことへの懸念がイライラを引き起こすことがあります。不確実性や将来への懸念は、緊張感や落ち着きのなさとして現れ、イライラに繋がります。
・緊張: 不安やストレスによって身体的・精神的な緊張状態が続くと、些細なことで感情的になりやすくなり、イライラとして現れます。
・興奮: 通常はポジティブな感情ですが、過度な興奮やエネルギーが行き場を失うと、落ち着きのなさや衝動的な反応を引き起こし、結果的にイライラした状態と感じることがあります。 

結論として、イライラは単一の感情ではなく、「怒り」を表面的な表現としつつ、その根底に「不安」や「緊張」といった感情が複合的に存在している状態と言えます。

なるほど。
心理学では「怒り」は二次的感情とされていますから、「不安」や「緊張」をベースにした「怒り」を表面的に感情表現した状態、ということですね。
「不安・緊張」 → 「怒り」 → 「イライラ」という構図かな。

では、この「イライラ」を中医学で捉えるとどうなるのか、幸井俊高先生の解説を読んでいきましょう。
ここでも登場するのは五臓論の「心」と「肝」です。


◆ イライラと中医学

・イライラは西洋医学では治療の対象とならないが、漢方では改善が可能。イライラの背景にある体質的な要因を見極め、その問題点を改善することで、イライラの出にくい体質に変えることができる。

・たとえば同じようなストレスがかかっても、すぐイライラする人もいれば、ぜんぜんイライラしない人もいる。また、生理前や更年期でイライラしてしまう、疲れているのでちょっとしたことでイライラする、などということもある。ストレスの強弱だけでなく、体質的な要因で、イライラしやすかったり、あまりイライラしなかったりする。

・漢方では、イライラは熱邪の仕業と捉える。心神が火熱によってかき乱されると、イライラが生じる。

◆ イライラが出やすい証


(1)「心火」証

心神をつかさどる五臓の「心」が燃えさかっている状態。じっとしていられず、あせりを感じ、落ち着かない。心火を冷ます漢方薬でイライラを鎮める。

(2)「肝火」証

情緒や自律神経系をつかさどる五臓の「肝」に過剰な熱がこもっている。怒りっぽい、すぐかーっとなる、ヒステリー、といった症状がみられる。漢方薬で肝にこもる火邪をさばく。


(3)「肝鬱」証

五臓の「肝」の気の流れが鬱滞しているため、小さな刺激に対しても敏感になっており、イライラしやすくなっている。


(4)「陰虚火旺」証

火熱を冷ますのに必要な陰液が不足している体質。ふつうならイライラしない些細なことにも反応しやすくなっており、いら立つ。漢方薬で陰液を補う。


***

・心火と肝火は、イライラの種がどんと大きくのしかかったときや、いくつかのイライラの種が積み重なって大きくなったときにみられやすい証。

・肝鬱と陰虚火旺は、ちょっとしたことに対しても慢性的にすぐイライラしやすいタイプの証。


以上の証のほかに、体内の過剰な水液が熱をもった「痰熱」証、肝の陰液が不足して肝の機能が失調して内風が生じる「肝陽化風」証なども、よくみられる。

◆ イライラに効果的な漢方


黄蓮解毒湯、三黄瀉心湯、清心蓮子飲、竜胆瀉肝湯、四逆散、加味逍遙散、大柴胡湯、六味地黄丸


<参考>

イライラ(幸福薬局)

西洋医学では、過緊張=交感神経緊張状態、ですね。
現代社会は交感神経緊張を強いられ続ける環境なので、それを解除するのが下手な人は病気になりがちです。
不安障害、パニック障害、不眠・・・。

さて、過緊張を中医学で捉えるとどうなるか・・・幸井俊高先生の解説を読んだところ、たくさんの証があり収拾が付かなくなりました。
ただし「不安」と同じように「肝」と「心」のアンバランスの範囲ということは分かりました。
そして、緊張症状をコントロールしたいときは西洋医学、緊張体質をコントロールしたいときは漢方医学が適していると指摘は、的を得ていると思います。

大まかなイメージとして緊張要因(交感神経系)とリラックス要因(副交感神経系)の相対関係で考える、以下の「ポイント」の記述が役に立ちました。

肝鬱気滞や心火:緊張要因が強くなっている状態に近いと思われる。強いストレスや大きな環境変化でみられる緊張
肝血虚や心血虚:リラックス要因が弱くなっている(抑制過程が低下している)ために緊張要因が相対的に亢進している状態と思われる。ちょっとした小さなことに対してもすぐに緊張してしまう、常に緊張感に脅かされているタイプ

これは、前項目の「不安」を考えた際の、外的要因(ストレス・刺激)と内的要因(消耗・体力低下)とオーバーラップしてきますね。
また、この項目では証とそれに対応する処方例(方剤名)が記述されていました。不安と絡めて理解したいと思います。


▶ 過緊張の症状

・のぼせ、不安感、いらいら、顔や手や脇の下に汗をかく、手が震える、寝つきが悪い、眠りが浅い、いやな夢をよくみる、胸苦しい、動悸、肩こり、頭痛、喉のつかえ感、冷え、口の中がねばねばする、など。

・自分は緊張しやすい、という思い込みがあるために、緊張する場面が近づくと思うだけで、動悸などの症状が現れる場合もある。

・心身をリラックスさせたい夜間や休息時にまで昼間や仕事中の緊張を引きずり込んでしまい、じゅうぶんな深い睡眠や休息がとれない場合も少なくない。

就寝中に過度の緊張が続くと、ちょっとした物音で目が覚める、朝起きたときから肩や身体全体がこっている、などの症状が生じる。毎朝目覚まし時計が鳴る前に目が覚めてしまう、という人もいる。

・過緊張が高じた結果として、自律神経失調症高血圧症不安神経症不眠症うつ病、パニック障害、総合失調症、胃・十二指腸潰瘍、動脈硬化、不整脈、甲状腺腫更年期障害慢性頭痛(緊張型頭痛)などの病気になる場合もある。

▶ 原因

・過緊張のおもな原因は、自律神経系のバランスが崩れて、交感神経が優位な状態が必要以上に長く続くことにある。交感神経は、活動や攻撃に向かう状態で機能が亢進し、心身が活動や攻撃に適した状態に調整されます。

・自律神経系のバランスが崩れてしまうと、活動や攻撃をする必要がないときでも交感神経が優位となり、過緊張状態になる。心や体は休みたがっているのに、興奮・緊張状態が続き、さまざまな不調が生じてしまう。

▶ 西洋医学治療

緊張や不安、不眠、発汗、動悸などの症状を薬でコントロールしたい場合は西洋医学緊張しやすい体質(緊張体質)を根本的に改善して症状の緩和を目指したい場合は漢方が適している。
・西洋医学では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬や、抗不安薬、β遮断薬などを用い、症状を抑えてコントロールする。

▶ 漢方治療

・漢方では、過緊張は五臓の「」の機能不調が大きく影響していると考え、その肝の機能を漢方薬で調整することにより「緊張体質」を改善していきます。

・肝は身体の諸機能を調節し、情緒を安定させる臓腑で、自律神経や情緒の安定と深い関係がある。また筋肉や関節の運動を調整する役割なども担っている。この肝の機能が失調したり、過敏になったり、弱ったりすると、心身の調節がスムーズに働かなくなり、情緒が不安定になり、過度の緊張状態となります。

・もうひとつ、人間の意識や思惟など、高次の精神活動をつかさどる五臓の「」の機能が乱れて過緊張が生じる場合もある。この場合は心に働きかける漢方薬を用い、「緊張しにくい体質」に近づけていく。


▶ 体質別の漢方治療方針


*** 肝の不調による5つの過緊張タイプ ***

(1)「肝鬱気滞」証
肝の気(肝気)の流れが悪くなっている状態。刺激に対する反応が敏感になり、緊張が高まる。
→ 肝気の鬱結を和らげて、ストレス抵抗性を高める漢方薬を。

(2)「肝火」証
肝気の流れが鬱滞して熱を帯びた状態。強いストレスや激しい感情の起伏などが背景にある。過緊張に加え、いらいら、怒りっぽい、ヒステリー、不眠、顔面紅潮などがみられる。
→ 肝気の流れをよくして肝火を鎮める漢方薬を。

(3)「肝血虚」証
肝に必要な血液や栄養(肝血)が不足している体質。循環血液量の不足や栄養障害により、自律神経系が失調し、特に強い刺激がなくても緊張しやすくなっている。
→ 肝血を補う漢方薬を。

(4)「肝陽上亢」証
(3)の肝血虚がひどくなって肝のバランスが崩れ、熱が上昇した状態。頭痛、のぼせ、怒りっぽい、など熱証が現れる。
→ 肝陽を鎮める漢方薬を。

(5)「肝陽化風」証
(4)の肝陽上亢が進んで筋をつかさどる機能に影響した状態。震え、引きつり、めまい、ふらつきなどの症状があらわれる。
→ 肝陽を落ち着かせて内風を和らげる漢方薬を。

*** 心の不調による4つの過緊張タイプ ***

(6)「心火」証
精神をつかさどる心が過度の刺激を受けて亢進し、熱を帯びた状態。じっとしていられず、焦りを感じ、不安で落ち着きかない。悶々として目がさえて眠れない。
→ 心火を冷ます漢方薬を。

(7)「心腎不交」証
心火と同時に五臓の腎の陰液が消耗している証。生活の不摂生や過労、緊張する場面の継続などで、この証になる。(6)の心火の症状に加え、ほてりなどが強くなります。
→ 腎陰を潤しつつ心火を冷ます漢方薬を。

(8)「心血虚」証
心の機能を養う心血が不足している体質。過度の心労や、思い悩み過ぎ、過労が続くことにより心に負担がかかり、心血が消耗して精神が不安定になる。どきどきしやすく、驚きやすい。
→ 心血を潤す漢方薬を。

(9)「心陰虚」証
心の陰液が不足している体質で、心がじゅうぶん潤わされず、過度の緊張が生じていえる。些細なことでも緊張する。
→ 心の陰液を補う漢方薬を。


*** ポイント ***

・交感神経などの緊張要因と、副交感神経などのリラックス要因とのバランスで考えると、肝鬱気滞や心火などの証は、緊張要因が強くなっている状態に近いと思われる。強いストレスや大きな環境変化でみられる緊張
・逆に、肝血虚や心血虚などの証は、リラックス要因が弱くなっている(抑制過程が低下している)ために緊張要因が相対的に亢進している状態と思われる。ちょっとした小さなことに対してもすぐに緊張してしまう、常に緊張感に脅かされているタイプ

ほかにも過緊張にみられる証はたくさんある。証が違えば薬も変わる。

よく使われる漢方薬

肝鬱気滞:四逆散、加味逍遙散、大柴胡湯、半夏厚朴湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯など

肝火:竜胆瀉肝湯、柴胡加竜骨牡蛎湯など

肝血虚:四物湯、補肝湯など

肝陽上亢:六味地黄丸、杞菊地黄丸など

肝陽化風:釣藤散、抑肝散など

心火:黄連解毒湯、三黄瀉心湯、清心蓮子飲など

心腎不交:知柏地黄丸、黄連阿膠湯など

心血虚:帰脾湯、甘麦大棗湯、酸棗仁湯、人参養栄湯、四君子湯、桂枝加竜骨牡蛎湯など

心陰虚:炙甘草湯、天王補心丹など



<参考>

過緊張(幸福薬局)

私は主に日本漢方を勉強してきました。しかし時々、限界を感じることもあります。中医学は概念論の極致なのでマスターするには大変なエネルギーが必要ですが、美味しいところをかいつまんで使わせてもらっています。

漢方の内蔵(概念)には「脳」がありません。感情は「七情」と細分類されていますが、これを五臓(心・肝・肺・脾・腎)に分配しているのです。つまり、人間の意識・精神活動を独立としたものと考えず、内臓とリンクしたものと捉えています。これは心と体がリンクして相互作用で成り立つ「心身一如」という概念の根拠になっています。心と体を分離して発展してきた西洋医学とは異なりますね。ただ近年、西洋医学も心と体を別に扱ってきたことを反省し、「腸脳相関」とか「慢性頭痛の背景にはうつ病が隠れている」と言い出していますね。

幸井俊高先生(幸福薬局)の解説から、ポイントと感じた箇所を抜粋させていただきました。
一読してみて、「不安」五臓論の心と肝の乱れが原因と読めます。私のイメージとして、心は精神活動をコントロールする新しい脳(大脳新皮質)、肝は感情・情緒をコントロールする古い脳(大脳辺縁系)です。ただし、細分類の心気虚・心血虚・心陰虚・心火や肝欝気滞・肝火などの概念が出てきますが、これは五臓論に気血水理論を合わせた概念です。すると複雑になり、理解しにくいですね。中医学ではこれが延々と続き、病態概念の数が限りなく増えていくので、私はそこでいつも挫折してきました。だから今は、あまり深入りしないようにしています。

なるほど!と感じたところは、
・心火と肝火は外的要因(ストレス・刺激が過剰)
・心気虚と心血虚は内的要因(身体が疲弊・弱って敏感)
くらいでしょうか。

また、漢方薬は羅列されているだけで、どの方剤がどの賞に対応するか分かりません。つまり、この解説を読んだだけでは自分に合った漢方を見つけられません・・・やはり専門書を紐解かないと答えにたどり着けないと思われます。

▶ 不安を中医学で捉えると
漢方では、不安感には五臓の心の機能不調が大きく影響していると考える。は五臓の一つであり、心臓を含めた血液循環(血脈)をつかさどるだけでなく、人間の意識や思惟など、高次の精神活動(神志)をもつかさどる臓腑である。この心の機能が弱ったり、十分潤わされなかったり、余分な熱を帯びたりすると、神志が不安定になり、不安感が生じる。また、精神情緒をつかさどる五臓のの機能が乱れて不安感が強くなる場合もある。

▶ 不安感がひどくなりやすい証


1.心気虚:血脈や神志をつかさどる心の機能(心気)が低下している体質。
・心気の不足により、不安感が生じる。ベースとなる気力や体力が弱いので、普通の人なら気にならないことでも気になってしまう。
・疲れやすい、動悸、息切れなどの症状もみられる。
・心気を補う漢方薬を用いる。

2.心血虚:心の機能を養う心血が不足している体質。
・過度の心労や、思い悩み過ぎ、過労が続くことにより心に負担がかかり、心血が消耗してこの証になる。心血の不足により神志が不安定になり、不安感が高まる。
・どきどきしやすく、驚きやすい。
・心血を潤す漢方薬を用いる。

3.心陰虚:心の陰液が不足している体質。
・心が十分潤わされず、不安感が生じる。些細なことにでも不安を感じる。
・心の陰液を補い、神志を安定させる漢方薬を用いる。

4.心火:神志をつかさどる心が過度の刺激を受けて亢進し、熱を帯びて心火となり、不安感が引き起こされている状態。
・じっとしていられず、あせりを感じ、不安で落ち着かない。悶々として目がさえて眠れない。
・心火を冷ます漢方薬を用います。


・・・以上の四つが、五臓の心の不調に関連して不安感が高まっている証の例。ほかにも以下のような証がある。

5.肝鬱気滞:五臓の肝の機能が乱れた状態。
・肝は、身体の諸機能を調節する臓腑。自律神経系や情緒の安定、気血の流れと関係が深く、ストレスや緊張で機能が乱れ、この証になる。
・気の流れが悪くなることにより、小さな刺激に対しても敏感になっており、不安感が高まる。
・肝の機能(肝気)の鬱結を和らげて、ストレス抵抗性を高める漢方薬を用いる。

6.肝火:肝鬱気滞に熱が加わった状態。
・強いストレスや激しい感情の起伏などで肝気が失調すると、肝気の流れが鬱滞して熱を帯び、この証になる。
・不安感のほかに、不眠、いらいら、怒りっぽい、ヒステリーなどの症状がみられる。
・肝気の流れをよくして肝火を鎮める漢方薬を用いる。

★ 心火と肝火は、不安の種が強くのしかかってきたときや、いくつかの不安の種が積み重なって大きくなったときにみられやすい証。
★ 心気虚や心血虚などの証は、ちょっとした小さなことに対してもすぐに不安を感じてしまう、慢性的に不安にさいなまれやすいタイプの証。


▶ 不安感に効果的な漢方薬


三黄瀉心湯、黄連解毒湯、清心蓮子飲、竜胆瀉肝湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、酸棗仁湯、黄連阿膠湯、帰脾湯、人参養栄湯、甘麦大棗湯、加味帰脾湯、四君子湯、炙甘草湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、四逆散、加味逍遙散、小柴胡湯



<参考>

不安感(幸福薬局)

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