「自律神経失調症」という病名、怪しいですよね。
体調不良で医者にかかり、検査で異常が検出されないとこの病名がつけられる傾向があります。
あるいは、「気のせいでしょう」とか「心療内科・精神科へ行ってみますか?」と誘導されてショックを受けたり。
漢方好きの私から見ると、
「気のせい」=「気の異常」
です。
漢方医学では「気」という概念を用いてその患者さんの病態を把握し、それに見合う漢方薬を処方して治療してきました。
見立てが合えば、手応えがあります。
私は子どもたちのメンタルの不調を漢方で治療することを目標にしています。
乳幼児期の夜泣き、かんしゃく。
幼児学童期の寝ぼけ、自家中毒、登校・登園しぶり、反復性腹痛。
思春期の起立性調節障害、倦怠・疲労感、反復性腹痛・頭痛、不登校、メンタルの不調(不安・緊張・イライラ・ウツウツ)、等々。
今まで診療してきた印象では、「水毒」体質、「脾虚」体質の虚弱児が、ストレスにさらされてそれに反応し「気」の異常(気逆・気うつ・気虚)をきたしている病態であると考えています。
今回、谷川聖明先生による自律神経失調症のセミナーを視聴しました。
理論的でかつわかりやすくて、私のお気に入りの専門家です。
スライドを細見してみましたが、やはり捉えどころがないというか、頭の中で整理しにくいですね。
ポイントと感じた箇所を引用・抜粋させていただきます。
<ポイント>
▶ 自律神経失調症とは
・体の動きを自動で調節している「自律神経」のバランスが乱れ、さまざまな心身の不調が出る病態。
・身体症状:動悸、めまい、頭痛、だるさ、胃腸の不調、手足の冷え、発汗異常、不眠
・精神的な症状:不安感、イライラ、気分の落ち込み、集中力低下
▶ 気の異常(漢方医学的概念)
・気虚(気の不足):疲労倦怠、易疲労、気力低下、食欲不振、食後の眠気、風邪を引きやすい
・気滞(気の滞り):抑うつ、のどや胸のつまり感、腹部の張り、時間で症状が動く、排ガスが多い、ゲップが多い
・気逆(気の逆行):症状が発作的、冷えのぼせ、動悸、顔面紅潮、焦燥感、手足の汗、イライラ、驚きやすい
▶ 気の異常に対する代表的漢方薬 〜陰陽虚実の視点から〜
陽・実 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
陽・虚実中間 → 半夏厚朴湯(16)
陽・やや虚 → 加味帰脾湯(137)
陽・虚 → 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
▶ 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・気逆に対応
・構成生薬の竜骨・牡蛎は動揺する精神を安定させる効果がある。
・適応:
✓ 体力が衰えている人で、症状の根底に強い不安感を抱いている場合に。
✓ 自律神経失調状態により神経過敏と也、動悸や不眠などの症状を訴える方に。
✓ 「悪夢を見る」というキーワードが使用目標になることがある。
✓ 比較的年配のやせ型の女性で、常に不安を感じオドオドしたタイプの方には特に有効。
・効果:愁訴の根底にある不安感を改善させることにより、諸症状を緩和することができる。
▶ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
・陰陽虚実:陽・実
・気血水:気逆、気滞が併存
・適応:ストレスにより交感神経芽か緊張状態となり、不安、抑うつ、イライラ、神経過敏などの精神神経症状を訴える場合。
・竜骨・牡蛎という精神安定作用を持つ生薬を含み、精神不安や抑うつ状態を改善する効果がある。
▶ 半夏厚朴湯(16)
・気血水:気滞
・年齢:ストレス世代
・徴候:
① 咽喉頭異常感症(咽中炙臠)
② 狭心症様症状・喘息様症状
③ 腹部膨満・腹痛・めまい
④ 神経質・几帳面
・適応:
✓ 心気的でこだわりが強い方
✓ 自分の症状をしっかりメモに書いてくるような方
✓ ストレスなどにより気の流れに停滞が生じ、気がうっ滞した部位に閉塞感やつまり感を自覚する方
✓ ヒステリー球、咽中炙臠、梅核気は本剤の使用目標
・心理傾向:末梢性気うつ
✓ 心理的葛藤を身体表現にして解放する。
✓ 精神的に行き詰まると、弱いところ・敏感なところに不快な症状として具体的に現れ、愁訴が安全弁になっている場合がある。
▶ 香蘇散(70)
・適応:① 胃腸虚弱・高齢者の風邪、② 食事性蕁麻疹
・年齢:虚弱者・中高年
・徴候:
① 食事性蕁麻疹
② うつ状態(無力様顔貌)
③ 腹部膨満・腹痛
④ かぼそい声・小さな字
・心理傾向:中枢性気うつ
✓ 心理的葛藤が内向し、鬱々悶々としている。
✓ 身体表現が下手で精神的な息詰まりを上手に解放できない傾向にある。
▶ 精神神経症状4処方の使い分け(気の異常と患者さんの特徴)
・気逆:打ち解けにくい → 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・気逆:打ち解けやすい → 加味逍遥散(24)
・気逆>気うつ:打ち解けにくい → 抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)
・気虚>気うつ:打ち解けやすい → 加味帰脾湯(137)
▶ 過剰適応(overadaptation)
・内的な欲求を無理に抑圧してでも、外的な期待や欲求にこたえる努力を行うこと。
・過剰適応になりやすい人の特徴:
✓ まじめ
✓ 頑張り屋
✓ 頼まれるとイヤと言えない
✓ 相手の期待に添う
✓ よいこ
▶ 代表的な婦人科処方薬の陰陽虚実
陽実:桂枝茯苓丸(25)
陽虚:加味逍遥散(24)
陰・虚実中間:温経湯(106)
陰虚:当帰芍薬散(23)
▶ 加味逍遥散(24)を構成する4つのユニット
① 当帰・芍薬・牡丹皮 → 補血、駆瘀血
② 茯苓・白朮・甘草・生姜 → 利水(胃腸の働きを整える)
③ 薄荷、山梔子 → 清熱(精神安定)・・・カッと熱くなって発汗し、スッと引くという「熱のふけさめ」
④ 柴胡 → 自律神経系の緊張緩和
▶ 加味逍遥散(24)
・証:陽虚、瘀血・気逆
・腹診:胸脇苦満、臍傍圧痛、臍上悸
・適応:
✓ 疲労しやすく、精神不安、不眠、イライラなどの精神神経症状
✓ 換気の高ぶりによる、上半身を中心とした熱感や発作性の発汗
▶ 柴胡桂枝乾姜湯(11)と加味逍遥散(24)の証
柴胡桂枝乾姜湯:気逆>気滞
加味逍遥散:瘀血・気逆>血虚・気滞・気虚
<生薬解説>
▶ 生薬解説「竜骨」
・古代の大型ほ乳動物の骨の化石(サイ、ゾウ、マンモスなど)。
・骨は人体でも最も硬い収斂した組織で「気の収斂力が高い」と考えられている。
・動揺する精神を安定させ、気持ちを座らせる効果がある。
・体に必要なものが外に漏れてしまうのを防ぐために用いられる。
▶ 生薬解説「牡蛎」
・牡蛎の殻
・動揺する心神・肝を重しを乗せるように安定させる。
・不安・動悸・不眠に対する鎮静剤。
・体に必要なものが外に漏れてしまうのを、殻で覆うかのように防ぐ。
(例)寝汗、失禁、夢精、帯下、等。
▶ 竜骨と牡蛎の違い(山本巌先生)
・両者の作用は似ている。ともに鎮静作用があり、精神を安定させ、胸腹の動悸を鎮め、弛緩作用がある。
・心悸・煩驚(神経過敏状態)・不眠・多夢などに用いる。
・竜骨は安神作用が優れ、牡蛎は心悸を鎮める。
▶ 生薬解説「茯苓」
・体から余分な水分を取り除く利水作用がある。
・水毒によるむくみ、めまい、胃内停水などを改善する。
・脾の作用を高めることで気を補う効果があり、食欲不振、胃もたれ、嘔気・嘔吐などの消化器症状によく用いられる。
・精神を安定させる(=安神)作用にも優れ、不安・不眠・動悸などの精神神経症状にも使用される。
▶ 生薬解説「大黄」
・瀉下剤として用いられる。
・清熱(抗炎症)や活血(血の巡りを改善)する作用がある。
・活血や瀉下により気を下に下ろすことによって、のぼせや興奮など精神的に落ち着かない状態を改善する。
▶ 生薬解説「蘇葉」
・ふだん食用で用いる青じそではなく赤じそを使用する。シソの香りが強いものを良品とする。
・香りの作用で風邪(ふうじゃ)を追い払い、肺や脾胃の気を巡らせる理気作用がある。
・気滞を取り除くことで、嘔気・嘔吐・胸のつかえや不安感などを改善する。
・気滞の代表薬である香蘇散(70)や半夏厚朴湯(16)に含まれる。
▶ 生薬解説「薄荷」
・辛涼解毒剤
・清涼感のある香りが熱を冷まし気を巡らす
・薄荷含有方剤:川芎茶調散(124)、清上防風湯(58)、滋陰至宝湯(92)、竜胆瀉肝湯(76)
▶ 生薬解説「山梔子」
・清熱瀉火:三焦の火熱を瀉し、祛湿解毒する
・熱を冷まし気持ちを静める働き、大便溏泄作用
・山梔子含有方剤:黄連解毒湯(15)、温清飲(57)、加味逍遥散(24)、梔子柏皮湯、加味帰脾湯(137)
▶ 生薬解説「柴胡」
・気血水:気滞 → 理気薬
・気を巡らせ、体にこもった熱を発散させる。
・炎症を抑える。
・怒りの感情を穏やかにする。
・気を持ち上げる。
・ウツウツとした感情を回復させる。
<備考>
★ コタロー香蘇散(N70)の適応:長期処方可能
神経質で、頭痛がして、気分がすぐれず食欲不振を訴えるもの、あるいは頭重、めまい、耳鳴を伴うもの。
感冒、頭痛、じんま疹、神経衰弱、婦人更年期神経症、神経性月経困難症
★ コタローの加味逍遥散(N24)は男性にも処方できる
・頭痛、頭重、のぼせ、肩こり、倦怠感などがあって食欲減退し、便秘するもの。
・神経症、不眠症、更年期障害、月経不順、胃神経症、胃アトニー証、胃下垂症、胃拡張症、便秘症、湿疹
<参考>
・「自律神経失調症」に対する漢方治療(2026.6.4)
(谷川聖明:谷川醫院)