★ この項目は、群馬県医師会作成の「学校医Q&A」をもとに、
生徒・保護者向けにわかりやすく説明を試みたものです。


身長が低い=病気、ではありません。
しかしまれに治療が必要な病気が隠れていることがあります。
学校健診での身長計測の目的はそのような例を見つけることです。

まず、どんな場合に「身長が低い」と判断するか、その基準をお示しします。

① 現在の身長が低いこと
② 身長の増加率(成長率)が低いこと

①は当然ですが、②は?ピンときませんね。
現在の身長が低くなくても、2年に渡って身長の伸びが鈍い場合も問題視する、という意味です。
★ この項目の最後に計算方法を記載しました(⇩)。

養護教諭・学校医はこの二つの指標を用い、「成長曲線」と「成長率(増加率)曲線」を作成して、各生徒に問題がないか検討しています。

両親の身長も参考になります。
両親の身長から予測される本人の身長の計算式があります;
(target height)
 男児=(父の身長+母の身長+13)÷ 2
 女児=(父の身長+母の身長ー13)÷ 2
(target range)target height の95%信頼区間
 男児= target height ± 9cm
 女児= target height ± 8cm
この式から得られる予測身長から大きく外れる場合は、病気が隠れている可能性があり、検討が必要です。
身長が低くなる原因となる代表的な病気を提示します。

<低身長の原因となる病気>

▢ 内分泌疾患
成長ホルモン分泌不全性低身長(※)
甲状腺機能低下症
・副腎機能異常症
性腺機能低下症
▢ 染色体異常症・奇形症候群
Turner症候群(※)
Prader-Willi症候群(※)
Russel-Silver症候群
▢ 骨系統疾患
軟骨異栄養症(※)
骨形成不全症
▢ 代謝疾患および栄養障害
慢性腎不全性低身長(※)
慢性炎症性腸疾患
・心臓疾患
▢ 体質性低身長
・特発性低身長
SGA性低身長(※)
・家族性低身長
▢ 精神・情緒・愛情などの環境異常
愛情遮断症候群
・虐待
▢ 思春期遅発症
(※)は成長ホルモン療法の適応があります。


たくさんの病気がその部分症状として「身長が低い」を表すことがわかります。この中には治療により成長が回復する病気があります。
とくに(※)の病気は、成長ホルモン補充療法による効果が期待できます。この場合、骨端線(骨の端にある骨が成長する部位)の活動が止まる(骨端線閉鎖:男子17歳、女子15歳)前に治療を開始しなければ効果がありません。

「元気だから多少背が低くても大丈夫」と放置すると、治療により改善できる病気を見逃してしまう可能性があります。
学校健診で「身長が低い」ことを指摘された方は、必ず医療機関を受診してください。 

では、実際に学校医がどのように成長曲線・成長率曲線を利用して、病気の有無を判定しているのか、例示してみます。
興味のある方はご覧ください。


(例1:成長曲線)
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 A:身長は低いけれど平均との差が一定で経過しています。
 (想定される例)思春期遅発症
 B:乳幼児期から身長が低く、加齢とともに平均との差が広がっています。
 (想定される例)何らかの先天的疾患
 C:ある時点から成長率が低下しています。
 (想定される例)何らかの後天的疾患


(例2:成長曲線&成長率曲線:女子)
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(症例1)慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症
成長曲線はすでに7歳の頃から増加不良が存在しますが、この頃からの発症と思われるが周囲のものは気づかず、外来に来たのは4年後でした。
甲状腺機能低下に基づく活動性の低下や学業不振がありましたが、ゆっくり進んだためその変化に周囲は気づかなかったようです。
「成長率」をしっかり確認しておけば、より早期に診断できた可能性があります。

(症例2)クローン病慢性炎症性腸疾患の一つ)
軽度の反復性腹痛で来院した女児で、経過中に急性虫垂炎と診断され手術を受けています。
成長曲線をみると12歳時点で−2SDを下回っています。

(症例3)アトピー性皮膚炎
厳格な食事制限を行ったため、十分な栄養の摂取ができず、身長増加に支障を来した例です。食事制限解除により、身長増加の改善が得られました。


(例3:成長曲線&成長率曲線:男子)
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(症例4)特発性成長ホルモン分泌不全型低身長
成長ホルモン(GH)補充療法にて身長増加が得られています。

(症例5)成長ホルモン分泌不全脳腫瘍
ある時点から急速に身長増加が障害されています。


★ 私の経験例「思春期早発症」;
忘れ得ぬ患者さんがいます。
「身長が低くなる病気」でありながら「身長が急に伸びる病気」。それは「思春期早発症」です。これは思春期が本来の年齢より早く来る病気です。
思春期は成長のスパートを認める期間ですから、身長が急に伸びて、周りのみんなを追い越します。しかし早く始まった思春期は、早く終わってしまうので、すると成長がそこでストップ、逆にみんなに追い抜かれ、結局「身長が低い」まま状態になってしまうのです。
この病気では「身長が低い、伸びない」と気づいたときには、時すでに遅く、治療法がありません。
身長が急に伸びたときに「?」と疑って検査し診断できれば、治療法がありますので、本来の身長まで伸びる可能性があります。
気づくポイントとして、身長が伸びるほかに、第二次性徴が挙げられます(⇩)。
男子では声変わり、喉仏が目立つ、陰毛・腋毛が生えてくる、等
女子では乳房発達、陰毛・腋毛が生える、生理が始まる、等
これらが以下の目安に照らし合わせて「早すぎない?」という時期に出現したら、小児科にご相談ください。

<思春期早発症を疑う症状の目安>
(男子)
・9歳までに精巣(睾丸)が発育する。
・10歳までに陰毛が生える。
・11歳までに腋毛・ひげがはえたり、声変わりがみられる。
(女子)
・7歳6か月までに乳房がふくらみ始める。
・8歳までに陰毛・腋毛が生える。
・10歳6か月までに生理が始まる。



以上、「身長が低い」ときにどのような病気が考えられるかを解説しました。
再掲します;

「元気だから多少背が低くても大丈夫」と放置すると、治療により改善できる病気を見逃してしまう可能性があります。
学校健診で「身長が低い」ことを指摘された方は、必ず医療機関を受診してください。 



<身長の評価方法>

低身長:平均からの隔たり(SDスコア)を使用します。
SDスコアは以下の式で計算されます;

 (身長ー平均身長) ÷ (標準偏差) = SDスコア

 ※ 平均身長と標準偏差は同性・同年齢の数値を使います(成長科学協会HP)。

小中学生では「ー2SD以下」を身長が低いと判断します。
「ー3SD」(0.14パーセンタイル)以下は病気が隠れている可能性が高く、
「ー2SD〜ー3SD」はグレーゾーン(境界領域)です。 

★ SDとパーセンタイルとの関係;
 -2.0SDが2.28パーセンタイル
 -2.5SDが0.62パーセンタイル
 -3.0SDが0.13パーセンタイル


成長率:計算方法は以下の通り:

 (身長成長率ー平均身長成長率)÷(標準偏差)= 成長率 

 ※ 平均身長成長率と標準偏差は同性・同年齢の数値を使います(成長科学協会HP)。 

 「ー1.5SD以下の成長率が2年間続く」と「身長が低い」と判断されます。