参考にした本には、2剤併用による増強効果の例が掲載されており、
単剤で効果が今ひとつだった場合の“次の一手”として利用可能で助かります。

小児科の現場で問題になる咳は、
風邪を引いて長引くタイプです。
西洋医学の咳止めを使用していても今ひとつで、
抗生物質を使っても、抗喘息薬を使っても手応えがなく、
「何とかして欲しい」
と訴えられます。

そんな際に、私は漢方薬を提案します。
漢方では風邪のフェイズにより使う方剤が異なり、
また咳の様子により10種類以上の方剤を使い分けます。
一口に咳と言っても、乾いた咳、締めって痰が絡む咳、エヘン虫系咳払いなど、
いろいろありますからね。

具体的には、風邪の初期の咳(喉の咳)には麻黄湯や葛根湯が適応になりますが、
私は西洋薬を優先します。
風邪の治りが悪いときは半夏と柴胡という生薬が入った小柴胡湯を処方します。
半夏は鎮咳作用と喉のつかえ感改善作用があり、
柴胡は喉〜気管支の炎症を治める作用があります。

その後も長引くときは、以下を目安に選択しています;

 乾いた咳(痰が切れなくてつらい) → 麦門冬湯
 湿った咳(痰が絡む、痰が出る) → 五虎湯
 エヘン虫系(喉の違和感、引っかかり) → 半夏厚朴湯、柴朴湯
 喘息系(ゼーゼー、ヒューヒュー) → 麻杏薏甘湯
 咳+透明鼻汁(鼻水みたいな薄い痰が出る) → 小青竜湯
 咳+黄色鼻汁(青っ洟が喉に廻って垂れる) → 葛根湯加川芎辛夷、辛夷清肺湯

 
一方の西洋医学では、中枢性鎮咳薬(麻薬系・非麻薬系)と末梢性鎮咳薬(気管支拡張剤)の二つだけです。


■ 2剤併用による効果増強レシピ

▶ 麻杏甘石湯2包+小青竜湯2包/日
・・・急性気管支炎で粘稠痰を含む咳が強くなったときに併用
▶ 麻杏甘石湯3包+麦門冬湯3包/日
・・・激しい咳が続くとき(越碑加半夏湯の方意)
▶ 麻杏甘石湯3包+小柴胡湯3包/日
・・・炎症が強いときに併用

▶ 五虎湯3包+小柴胡湯3包/日
・・・炎症が強いときには柴胡剤(小柴胡湯、大柴胡湯)と併用する。
▶ 五虎湯3包+二陳湯3包/日
▶ 五虎湯3包+半夏厚朴湯3包/日
・・・痰が多いときは、半夏厚朴湯や二陳湯を併用する(五虎二陳湯の方意)

▶ 半夏厚朴湯3包+葛根湯3包/日
・・・葛根湯は咳嗽に対する生薬が麻黄のみで弱いため、咳の強い風邪には半夏を加える意味で半夏厚朴湯を併用する。

▶ 麦門冬湯3包+麻杏甘石湯3包/日
・・・激しい咳には併用(越碑加半夏湯の方意)
▶ 麦門冬湯3包+小柴胡湯3包/日
・・・気管支の炎症が強いときは柴胡剤(小柴胡湯や大柴胡湯)と併用する

▶ 小青竜湯2包+麻杏甘石湯2包/日
・・・鎮咳作用増強目的で併用
▶ 小青竜湯3包+附子末1.5g/日
・・・冷えが強いときに附子を併用
★ ほかにアコニンサン錠があり、3錠で修治附子0.5gに相当する。
▶ 小青竜湯3包+六君子湯3包/日
・・・気虚(疲れやすい、食欲不振など)が診られるときに併用

▶ 竹筎温胆湯3包+滋陰降火湯3包/日
・・・竹筎温胆湯証で咳が悪化したときに併用


■ 咳に対する基本薬

越碑加半夏湯(エキス剤には存在しないので以下の組み合わせを1日3回服用)
(湿性咳嗽)麻杏甘石湯1包+半夏厚朴湯1包
(乾性咳嗽)麻杏甘石湯1包+麦門冬湯1包
・・・麻黄で気管支を広げ、石膏で気管支の熱と水を取り、止咳効果のある半夏を加えて強い咳に対応する。
・・・麻杏甘石湯の代わりに越婢加朮湯を使用することも可能。
・・・感冒後などで連続的に激しく咳き込み〜嘔吐してしまう場合に。
・・・咳き込むと顔が赤くなり、目が腫れたようになるくらい激しい咳に有効

★ 大野修嗣Dr.の解説によると、越碑加半夏湯=越婢加朮湯+半夏厚朴湯、でした。

麻杏甘石湯(55):1回1包、1日3〜5回
・・・やや激しい咳、痰あり
・・・気管支喘息などの喘鳴に有効
・・・痰の多い湿性咳嗽にも使用する

五虎湯(95):1回1包、1日3回
・・・麻杏薏甘湯より鎮咳作用が強い

半夏厚朴湯(16):1回1包、1日3回
・・・湿性咳嗽(乾性咳嗽には使用しない)、心因性咳嗽、呼吸困難感、空気飢餓感、誤嚥性肺炎予防
・・・半夏は中枢性鎮咳作用(リン酸コデイン類似)、厚朴は気管支平滑筋弛緩作用を持つ。
・・・心因性咳嗽に有効
・・・喉がつまった感じ(咽中炙臠、梅核気)がして、それを吐き出そうとして咳をする場合に。

麦門冬湯(29):1回1包、1日3回
・・・痰が切れない、痰が喉にへばりつく感じ、感冒後の咳
・・・のどの乾燥感と刺激感(イガイガ感)が目標
・・・去痰薬として慢性呼吸器疾患に使用可能
・・・咳が激しく、顔が赤くなり、嘔吐する場合にも有効
・・・妊娠咳にも有効
・・・シェーグレン症候群の口腔乾燥にも使用可能

神秘湯(85):1回1包、1日3回
・・・柴朴湯・麦門冬湯が無効な咳喘息、喉がつまる感じ、ストレス
・・・麻黄剤+柴胡剤の構成
・・・慢性化した咳嗽、心因性咳嗽に有効、しかし消化機能が低下しているときは注意(麻黄入り)
・・・粘稠痰が出る場合は麻杏甘石湯や清肺湯がよい。
・・・小児に使用することが多い

小青竜湯(19):1回1包、1日3回
・・・薄い泡状の痰がしきりに出てくる咳、鼻汁・くしゃみ
・・・温める生薬(麻黄・桂皮・乾姜・細辛)+鎮咳(半夏・五味子)
・・・冷えが原因の薄い痰の多い咳(寒くてくしゃみ・鼻汁が出るパターン)
・・・熱湯に溶いて温服すると効果的

桂枝加厚朴杏仁湯:1回1包、1日3回(東洋薬行)
・・・(麻黄を使いにくい)虚弱な人の咳、感冒後の遷延した軽い咳
・・・桂枝湯の加減方であり、咳が残った感冒の仕上げとして使用

竹筎温胆湯(91):1回1包、1日3回(初期は1日3〜6回)
・・・適応:湿性咳嗽、夜に悪化する咳、眠れない
・・・温胆湯(二陳湯+竹茹+枳実)を含む構成で脳の興奮や自律神経の興奮を改善し、不眠・イライラ・不安などに使用する。
・・・風邪やインフルエンザの急性期後、元気がない、気分が晴れないときに残った咳に使用するとよい。
・・・痰が多い咳が出て眠れない時に使用できるが、咳にこだわらず不眠の改善目的に使用可能

滋陰降火湯(93):1回1包、1日3回
・・・適応:乾性咳嗽、夜間の咳
・・・乾性咳嗽は麦門冬湯と同じだが、麦門冬湯よりも激しくない場合に使用する。
・・・血痰がみられる場合にも有効
・・・夕方から夜間に咳が多い、老人や虚弱者に適応が多い
・・・嗄声、ドライアイにも使用可能

清肺湯(90):1回1包、1日3回
・・・適応:粘稠の痰が多い咳、喫煙者、慢性気管支炎、気管支拡張症
・・・喫煙者の気管支炎などでしばしばみられる、膿のようなドロッとした痰が出る咳に使用する。
・・・COPDや慢性気管支炎、気管支拡張症に有効
・・・抗菌薬を併用する必要のあることが多い
・・・辛夷清肺湯とはまったく異なるので注意

柴朴湯(96):1回1包、1日3回
・・・適応:喘息の安定期、痰が切れない、喉が塞がる感じ
・・・半夏厚朴湯(鎮咳作用)+小柴胡湯(抗炎症作用)の構成
・・・気道を乾燥させる作用が強いため、乾性咳嗽には使用しない(乾性咳嗽の場合は麦門冬湯+小柴胡湯)


■ 咳に対する第二選択薬

滋陰至宝湯(92):体力が低下して慢性に経過した咳嗽に有効。乾性咳嗽・粘稠喀痰を認め、加味逍遥散と同じような精神症状を認める例に使用する。
柴陥湯(73):咳をすると胸が痛い(胸膜炎の症状)と訴える患者の咳嗽に使用する。
人参養栄湯(108):肺がん術後・肺結核などの呼吸器疾患の病後などで体力が低下し咳が出るときに使用する。
苓甘姜味辛夏仁湯(119):小青竜湯と同じく水溶性鼻汁を伴い麻黄が使用できない場合に選択する。
辛夷清肺湯(104):副鼻腔炎による後鼻漏があり、そのために何か喉の引っかかるような咳に。
茯苓飲合半夏厚朴湯(116):GERDの咳に対して、PPIと併用すると効果的。
麻黄湯(26):インフルエンザの初期などの咳はこれで対応。



 <参考>
すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方(安斎圭一著、羊土社)