参考にした本には、2剤併用による増強効果の例が掲載されており、
単剤で効果が今ひとつだった場合の“次の一手”として利用可能で助かります。


小児科医の私が下痢で来院した子どもに処方する薬は、
整腸剤が中心です。
私が医師になった30数年前は、ロペラミド(ロペミン®)が多用されていました。
強力に腸のぜん動運動を止める薬です。
下痢は止まり、腹痛も和らぎ、効果は抜群でした。

しかし腸麻痺(イレウス)状態を悪化させることが判明し、
また毒素産生菌(出血性大腸菌など)の毒素排泄を妨げるため、
重要化のリスクが存在することもあり、
ロペミンは使用されなくなりました。

そう、出血性大腸菌が登場してから、
急性胃腸炎の治療は変わったのです。

「下痢の急性期は止めてはいけない」
という概念が定着し、
「下痢の初期は整腸剤、長引いたら止痢剤」
という方針が現在はスタンダードです。

さて、漢方薬ではどうでしょう。

私は止痢剤として半夏瀉心湯をよく処方します。
苦い薬ですが、手応え十分で、
私は自分が下痢をしたときもこの薬を飲みます。

お腹が痛くてつらいときは、
昔はブスコパン®という、やはり腸のぜん動運動を止める薬が多用されていましたが、
近年はロペミン®と同じ理由で使わなくなりました。

私は桂枝加芍薬湯(幼児には小建中湯)という漢方を処方しています。
ブスコパンほど強力にぜん動運動を止めませんが、
いい具合に痛みをやわらげてくれます。
この方剤は過敏性腸症候群の薬としても有名です。

桂枝加芍薬湯に水飴の原料である麦芽糖をたくさん追加した薬が小建中湯です。
麦芽糖はオリゴ糖で、腸内細菌のエサとなり善玉菌を増やして整腸作用を発揮します。

500年以上前から使用されてきた漢方薬の効果のメカニズムを、
現代科学が証明してくれました。

それから、不思議なことに漢方では下痢と便秘に同じ薬を使うこともあります。
建中湯類(大建中湯、小建中湯など)がその代表です。
どちらに転んでいても、よい状態(中庸)に戻してくれるという、
漢方独特の効果ですね。

さらに漢方では、下痢の原因により方剤を使い分けます。
・炎症(急性胃腸炎)による下痢 → 炎症の熱を冷ます方剤
・冷えによる下痢        → 温めて回復を促進する方剤
という風に。

では、下痢に用いる漢方を見ていきましょう。


■ 2剤併用による効果増強レシピ

胃苓湯3包/日+芍薬甘草湯1包(腹痛時頓用)
・・・胃苓湯証で腹痛が強い場合に併用

葛根湯3包+小半夏加茯苓湯3包/日
・・・葛根湯証で、悪心・嘔吐が強いときに併用(葛根加半夏湯の方意)

半夏瀉心湯3包+五苓散3包/日
・・・下痢が激しいときに併用
半夏瀉心湯3包+芍薬甘草湯1包(頓用)
・・・下痢・腹鳴が強いときに併用

黄芩湯3包+小半夏加茯苓湯3包/日
・・・下痢とともに悪心・嘔吐があるとき併用

桂枝加芍薬湯3包+附子末1.5g/日
・・・お腹の痛みが強いとき、冷えがあるときは附子を併用する

人参湯3包+附子末0.5〜1.5g/日
・・・人参湯証で冷えが強いときに附子を追加する

真武湯3包+人参湯3包/日
・・・真武湯証で単独では下痢に効果不十分の時に併用、長期にわたり水様下痢が治らないときに使用してみるとよい。


■ 下痢に対する基本漢方薬 

五苓散《傷寒論》:
▶ 沢瀉4-6;猪苓3-4.5;茯苓3-4.5;蒼朮3-4.5(白朮も可);桂皮2-3
(キーワード)口渇、脱水、尿量低下、嘔吐、水様下痢(発症直後)

胃苓湯1《万病回春》:
▶ 蒼朮2.5-3;厚朴2.5-3;陳皮2.5-3;猪苓2.5-3;沢瀉2.5-3;芍薬2.5-3;
(キーワード)水様下痢、食べ過ぎ、食あたり、感染性下痢

柴苓湯1《世医得効方》:
▶ 柴胡4-7;半夏4-5;生姜1(ヒネショウガを使用する場合3-4);
(キーワード)水様下痢、炎症性腸疾患、感染性下痢(発症から数日経過)

葛根湯《傷寒論》:
▶ 葛根4-8;麻黄3-4;大棗3-4;桂皮2-3;芍薬2-3;甘草2;生姜1-1.5
(キーワード)胃腸の風邪、感冒症状(悪寒)を伴う下痢(発症直後)

半夏瀉心湯《傷寒論》:
▶ 半夏4-6;黄芩2.5-3;乾姜2-3;人参2.5-3;甘草2.5-3;大棗2.5-3;黄連1
(キーワード)ゴロゴロと腹鳴のある下痢、軟便・泥状便、下痢型過敏性腸症候群

黄芩湯《傷寒論》:
▶ 黄芩4-9;芍薬2-8;甘草2-6;大棗4-9
(キーワード)高熱、強い腹痛、激しい下痢、ノロウイルス感染症、裏急後重(しぶり腹)

桂枝加芍薬湯《傷寒論》:
▶ 桂皮3-4;芍薬6;大棗3-4;生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合3-4);甘草2
(キーワード)過敏性腸症候群、裏急後重

小建中湯《傷寒論》:
▶ 桂皮3-4;生姜1-1.5;大棗3-4;芍薬6;甘草2-3;膠飴20(マルツエキス;滋養糖可;水飴の場合40)
(キーワード)子どもの下痢・腹痛

人参湯《金匱要略》:
▶ 人参3;甘草3;白朮3(蒼朮も可);乾姜2-3
(キーワード)冷えによる慢性下痢

真武湯《傷寒論》:
▶ 茯苓3-5;芍薬3-3.6;白朮2-3(蒼朮も可);生姜1;加工ブシ0.3-1.5
(キーワード)冷えによる慢性下痢

大建中湯《金匱要略》:
▶ 山椒1-2;人参2-3;乾姜3-5;膠飴20-64
(キーワード)腹部膨満、腸管ガスの貯留、冷えのある下痢


<各方剤の解説>

五苓散(17)
・小児の嘔吐下痢症に有効。
・水様下痢に対して、初日は1日5〜6回服用すると効果的。
・服用するとすぐに嘔吐する場合は、湯に溶いて冷ましてから、スプーンで一口ずつゆっくり服用するとよい。

胃苓湯(115)
・平胃散+五苓散の構成・・・平胃散単独よりも効果が強い。
平胃散(79)は食べ過ぎて下痢したときに使用する。
・消化不良や食中毒、水あたりなどの水様下痢に有効。

柴苓湯(114)
・五苓散+小柴胡湯の構成。
・小柴胡湯は強い消炎作用を有し、炎症性腸疾患や感染性胃腸炎による下痢に有効。
・ノロウイルス感染症にも使用できる。

葛根湯(1)
・感冒の下痢、胃腸の風邪に有効。
・温服すると効果的。

半夏瀉心湯(14)
・黄連+黄岑で消炎作用を持ち、粘膜の充血・びらんを改善する。
・胃痛と下痢の両方に有効。
・下痢型過敏性腸症候群の第一選択薬。
・水様便ではなく、軟便〜泥状便に有効。
・胃苓湯同様、食べ過ぎ・飲みすぎの下痢に有効
・甘草の含有量が多いため、継続使用の際は偽アルドステロン症に注意。

黄芩湯
・黄岑で炎症を改善し、芍薬+甘草で腹痛を軽減する。
・ノロウイルス感染症で見られるような、高熱・強い腹痛・激しい下痢に有効。

桂枝加芍薬湯
・芍薬+甘草で筋組織(横紋筋と平滑筋の両方)の異常収縮を緩和して痛みを取る。
 → 蠕動亢進、腹痛のある下痢に有効。
・裏急後重(頻回に便意を催すが排便量が少なく、排便後にすぐにトイレに行きたくなる)に有効
・過敏性腸症候群に有効

小建中湯(99)
・子どもの下痢に使う。便秘にも使用可能。
・子どもに呑ませるときは、少量のお湯に溶いて服用させる。
・嘔吐のあるときは使用しない、嘔吐を伴う水様下痢は五苓散を使用する。

人参湯(32)
・「お腹が冷える」と訴えるときに有効。
・外部からの冷え(下肢の冷え)と内部の冷え(冷たいものの摂り過ぎ)が原因で起こる慢性下痢に有効。
・冷たいもの(アイスクリームやビール)、寒性の果物(みかん、バナナなど)を摂り過ぎない内容に指導することも重要。

真武湯(30)
・冷えによる下痢に有効
・“ゆらゆらと揺れて倒れそうな人”に有効
・下痢は1日2〜5回程度で、腹痛は少なく、排便後はスッキリしている場合に有効なことが多い。
・早朝に起きる下痢(鶏鳴下痢)に有効。

大建中湯(100)
・熱湯に溶いて温服すると効果的。


<参考>

すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方(安斎圭一著、羊土社)