神経発達症(ASD、ADHDなど)の診療には3つの柱があります。
1.療養
2.環境整備
3.医療的介入
1の療養は発達の特性・凸凹を認識・自覚して生活に支障がないよう工夫すること。
2の環境整備は集団生活(園や学校)と連絡を取り合いながら本人がさらされるストレスを減らすこと。
3の医療的介入は投薬により症状をコントロールすること。
しかし、6歳未満の神経発達症に使用できる西洋薬(※)はありません。
そして自閉症スペクトラム(以後ASDと表記)の特性に効く西洋薬は存在しません。
※ 6歳未満に使用できない薬;
・コンサータ:6歳から(医師登録&患者登録必要)
・ストラテラ:6歳から
・インチュニブ:6歳から
・ビバンセ:6〜18歳(医師登録&患者登録必要)
・メラトニン受容体作動性入眠改善薬
✓ メラトニン(メラトベル®):6〜15歳 ・・・こども用粉薬
✓ ラメルテオン(ロゼレム®):15歳から・・・大人用錠剤
私が処方している漢方薬もASDの特性を治すことはできません。
でも、その特性に由来する“困りごと”に対応することは可能です。
また、まだ診断されていない幼児期のグレーゾーンのお子さんにも対応可能です。
私は小児神経専門医ではありませんので、
神経発達症に関する厳密な診断はしておらず、
コンサータやビバンセなども処方しておりません。
ただ、以前から夜なき・かんしゃくなどの困りごとの相談を受けると、
漢方薬の使用を提案し、希望があれば処方してきました。
気がつくと、そのようなお子さん達が神経発達症と診断されていることが多いことがわかりました。
漢方薬を飲んでもらうと、驚くほど効果があることを何回も経験しています。
しかし、はじめに処方した方剤が全員に有効というわけではなく、
いくつか方剤を試していくうちにそのお子さんに合った方剤が見つかる、
というパターンが多いです。
最終的な有効率は7割くらいでしょうか。
残念ながら、困りごとが10 → 0 になるわけではありません。
困りごとのレベルが10 → 5 程度に減るくらい(たまに10 → 2-3も)、
それでも生活の質がグンと上がりますので、
ご家族は継続を希望されます。
いつまで使用するか、については、
数ヶ月〜半年の安定期を経た後、希望により減量・休薬を試みます。
その過程で症状が再度目立ってきたら元に戻して継続しています。
今回、ASDに関するWEBセミナーを視聴したところ、
役に立つ情報がたくさんありましたので、備忘録として残しておきます。
(鈴村水鳥先生の講義「漢方薬で支援する自閉症スペクトラム(ASD)」(2025.2.9)メモより)
▶ ASD・ADHDに効果が期待できる漢方
(ココロの症状・困りごと)
・怒りんぼ、かんしゃく、チック → 抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
・衝動性、易刺激性、多動・興奮 → 黄連解毒湯(15)
・こだわりが強い、落ち着きがない → 大柴胡湯去大黄
・抑うつ傾向、不安感、不眠 → 加味帰脾湯(137)
・不安感、言語発達遅滞 → 甘麦大棗湯(72)
(カラダの症状・困りごと)
・元気がない、食欲不振 → 六君子湯(43)
・嘔気、胃もたれ、食欲不振 → 平胃散(79)+香蘇散(70)
・過敏性腸症候群、腹痛 → 小建中湯(99)、桂枝加芍薬湯
・心窩部痛、腹痛、月経痛 → 安中散(5)
・めまい、起立性調節障害 → 半夏白朮天麻湯(37)
▶ ASDに対する漢方治療の有効性
・効果が高い
✓ パニック・かんしゃく
✓ 睡眠障害
✓ イライラ
✓ 落ち着きのなさ
✓ 怯え・怖がり
✓ チック(初期)
✓ 便秘・偏食などの消化器症状
・効果あり
✓ 社会性やコミュニケーション障害
✓ 自傷行為
✓ フラッシュバック
✓ 月経前症候群
✓ 言葉の遅れ
・効果が薄い
✓ チック(長期化)
✓ 多動
✓ 暴言・暴力
✓ 成人例
▶ 漢方医学の“こころ”の捉え方
1.怯え・不安状態(心神不寧証)
・心配性・不安・悲哀感・怖がり(ビクビク)など
・存在が脅かされているような感情が主体
(処方)甘麦大棗湯(72)、帰脾湯(65)、酸棗仁湯(103)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、
2.緊張・易変動状態(肝気鬱結証)
・憂鬱・不安・イライラ・ヒステリック
・身体の緊張が強く、気分が変動しやすい。
(処方)四逆散(35)、柴朴湯(96)、加味逍遥散(24)、香蘇散(70)
3.興奮・怒り状態(化火証)
・イライラ・怒りっぽい・落ち着きがない・焦燥感など
・主に興奮的な症状が主体
(処方)黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
(1+2)柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
(2+3)大柴胡湯(8)・大柴胡湯去大黄
(3+2)抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
▶ 多様な症状には2剤併用が有効
・化火証:黄連解毒湯(15)、抑肝散加陳皮半夏(83)
✓ かんしゃく
✓ パニック
✓ 易怒
✓ 多動
✓ 衝動性
✓ 自傷行為
✓ 他害行為
✓ 落ち着きのなさ
・心神不寧証:甘麦大棗湯(72)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
✓ 落ち着きのなさ
✓ 不安
✓ 自信のなさ
✓ 怯え
・肝気鬱結証:大柴胡湯去大黄、四逆散(35)
✓ 過緊張
✓ 不機嫌
✓ イライラ
✓ チック
▢ 方剤解説:甘麦大棗湯(72)
(構成生薬)《金匱要略》:甘草3-5;大棗2.5-6;小麦14-20
(証)気血水:気虚・血虚、五臓:心
・心血虚:心の血が不足し、安心できず神経が高ぶり、不眠や不安などの精神症状や動悸を起こす証 → 投与により血を増やし、心を安定させる
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
✓ 神経過敏
✓ なんとなく不安そうでそわそわしている
✓ 医師を見ると大声で泣く
✓ 母親との分離不安が強い
✓ あくびが多い
・脈:平または数
・舌:淡紅舌
・腹:軟〜中等度、腹直筋攣急
(特徴)
・一次障害(対人関係・コミュニケーション・こだわり)の改善が期待できる。
・一次障害の改善例は乳幼児に多く、5歳以前のできるだけ早期に開始すべき。
・小麦蛋白にはトリプトファンが含まれ、セロトニンやメラトニンの原料となる。
・ASD児ではセロトニン合成能発達プロセスが阻害されているため、セロトニンの補充が有効。
▢ 方剤解説:抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
(構成生薬)《保嬰撮要》:当帰3;釣藤鈎3;川芎3;白朮4(蒼朮);茯苓4;柴胡2-5;甘草1.5(+陳皮・半夏)
(証)気血水:気鬱・血虚・水滞、五臓:肝・脾(83)
・肝気鬱結:肝の疏泄作用が失調し、精神症状と気滞の症状を起こす証。精神的な緊張と抑うつ、自律神経の緊張、怒りやすくイライラしやすい、ヒステリックになる、胸腹の痛み、等
・肝火上炎:感情の抑うつや怒りから肝を損傷し、肝気鬱が火に変化し、気と火が上逆したために起きる頭痛・めまい・顔面と目の紅潮、等
・肝風内動:肝の証から内風を生じて、痙攣・振戦・意識障害などを起こす証。頭痛、ふらつき、めまい、手足の震え、四肢のしびれ、筋肉の引きつり、等
→ 投与により肝の流れを整え、痙攣など(内風)を鎮め、脾を守り(83)水を捌く。
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
✓ イライラしやすい
✓ 落ち着きがない
✓ 親も困っていて矢継ぎ早に話す
・脈:数
・舌:紅舌、白苔、白膩苔
・腹:腹力は軟〜中等度、腹直筋攣急
※ 83は左の腹部大動脈の動悸が亢進している時(臍上悸・臍下悸)に使用する
(特徴)
・易刺激性・多動性の改善
✓ 広汎性発達障害の前向き非盲検試験
✓ グルタミン酸ニューロンの抑制による興奮の抑制
・攻撃性・自傷行為・かんしゃくの軽減
✓ 広汎性発達障害・アスペルガー障害の後向き非盲検試験
▢ 方剤解説:大柴胡湯(8)・大柴胡湯去大黄
(生薬構成)《傷寒論》:柴胡6-8;半夏2.5-8;生姜1-2;黄芩3;芍薬3;大棗3-4;枳実2-3(+大黄1-2)
(証)気血水:気鬱>血虚>水滞、五臓:肝
・肝鬱化熱:肝気鬱結が高じると、停滞した気から内熱を生じ、その熱が顔面部に昇って、強い焦燥とのぼせなどを起こす証。強い焦燥、抑うつ、のぼせ、頭痛。
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
✓ 体力がある。
✓ 落ち着きがない。
✓ 胸や脇腹に圧迫感や痛みを訴える。
✓ 肥満傾向を認めることもある。
・脈:実
・舌:紅舌、白苔〜黄苔
・腹:腹力あり、胸脇苦満、心下痞硬、時に腹直筋攣急
〜心窩部に厚みがあって堅く緊張し、季肋下部を圧迫するも凹まないほどのもの。
(特徴)
・13歳以下の古典的ASDに対して6ヶ月以上投与したところ、睡眠障害・多動・かんしゃく・パニック・自傷・同一性保持・脅迫的行動などが改善した。
・大柴胡湯は柴胡剤の中で、体力の充実した者、季肋部の苦満感・肋骨弓下部に抵抗・圧痛(胸脇苦満)・腹部は硬く緊張している。
・小柴胡湯証にして、腹満拘攣し嘔劇しき者を治す。
・柴胡・芍薬・枳実が肝気鬱結を改善、黄岑で清熱。
▶ “かんしゃく”を治すには心身の土台(睡眠・食事・排泄)を整えることが必要
・不調・症状はピラミッドのてっぺん
・ピラミッドの土台は「眠る力」
・不調と眠る力の間に「おいしく食べる・排泄する力」がある。
・治す順番は、睡眠 → 食事(偏食)・便秘/軟便 → かんしゃく・パニック、の順がよい。
・これは他の“困りごと”の対応にも当てはまる。
▶ 基本は「寝る子は育つ」
・ASD児・青年の44〜93%に睡眠障害があり、持続する。
・患児に「入眠障害・中途覚醒・夜驚症」などの睡眠の問題がある場合は、まず眠りから治す。
・眠れるようになると子どもたちのかんしゃくが減り、落ちついて物事に取り組めるようになり、言葉や運動発達が伸びる。
睡眠障害
↓ ← 漢方薬
眠れるようになる
↓
かんしゃくが減る
↓
物事に落ちついて取り組める
↓
言葉や運動発達が伸びる
・学童期では、起床困難からの不登校の改善などにもつながる。
▶ 乳幼児の睡眠障害への対応
・大柴胡湯去大黄+甘麦大棗湯の組み合わせが第一選択。
・困っている相談があればすぐに開始する。基本は就寝前に内服。
・昼寝をしない子どもは“過覚醒”が疑われるため「分2:昼食前・就寝前」を指示する。
・症状が安定後、3〜6ヶ月を目安に減薬する。
▶ 偏食など“食べることに関する困りごと”への対応
・眠れない → 昼間寝ている → 昼間の活動量減少 → 疲れていないので眠れない → ・・・
の悪循環を断ち切るためには、まず「眠れること」を治療目標に設定する。
・甘くて飲みやすい甘麦大棗湯(72)から始める。
・ストレス反応+食が細い → 抑肝散加陳皮半夏(83)
・大柴胡湯去大黄は補脾(脾虚を治す)
・食が細い、軟便あるいは硬便傾向 → 小建中湯(99)
▶ “かんしゃく”への対応
・大柴胡湯去大黄+抑肝散加陳皮半夏(83)がベスト
(柴胡剤を2剤併用することにより強い“肝鬱”に対応)
▶ 初期の不登校への対応
・完全に行けなくなる前からスタートする。
・漢方薬はメインの症状に合わせて調節する。
・症状安定後、3〜6ヶ月ほど継続し、減量・休薬を試みる。
▶ 服薬の工夫
・漢方薬に不安を持っている患者さんには「合わなかったらいつでも止められる」ことを説明する。
・睡眠障害に対して抑肝散(54)を処方する際には「分2:朝・就寝前」を指示する。
・減量する際は、一度に休薬するのではなく回数・量を漸減していく。
・減量する際、複数の方剤を併用しているときは1剤ずつ減らす。
・学童期以降でコンサータなどを内服していても漢方薬は併用可能。
▶ ASDの症状と対応する脳機能・担当部位
・多様な症状と脳機能担当部位が存在し、
それらが年齢と共に変化する複雑な病態
✓ 対人機能 → 中枢神経
✓ 感情コントロール → 大脳皮質
✓ 社会的行動 → 内側前頭内皮質
✓ 睡眠リズム、姿勢運動 → 脳幹
✓ 自律神経、感覚 → 帯状回、視床、辺縁系
▶ ASDと神経伝達物質
・オキシトシン:関与している・関与していないと両方の論文があり、結論は出ていない。
→ 漢方方剤では加味逍遥散(24)がオキシトシン分泌を増加させるという報告があるが、頻用はされていない。
・セロトニン:5歳以下のASD児の髄液セロトニン濃度は低い、セロトニン取込み合成能の異常、という報告がある。
→ 甘麦大棗湯(72)
・グルタミン酸:興奮性グルタミン酸と抑制性GABAの不均衡説がある。
→ 抑肝散(54)
1.療養
2.環境整備
3.医療的介入
1の療養は発達の特性・凸凹を認識・自覚して生活に支障がないよう工夫すること。
2の環境整備は集団生活(園や学校)と連絡を取り合いながら本人がさらされるストレスを減らすこと。
3の医療的介入は投薬により症状をコントロールすること。
しかし、6歳未満の神経発達症に使用できる西洋薬(※)はありません。
そして自閉症スペクトラム(以後ASDと表記)の特性に効く西洋薬は存在しません。
※ 6歳未満に使用できない薬;
・コンサータ:6歳から(医師登録&患者登録必要)
・ストラテラ:6歳から
・インチュニブ:6歳から
・ビバンセ:6〜18歳(医師登録&患者登録必要)
・メラトニン受容体作動性入眠改善薬
✓ メラトニン(メラトベル®):6〜15歳 ・・・こども用粉薬
✓ ラメルテオン(ロゼレム®):15歳から・・・大人用錠剤
私が処方している漢方薬もASDの特性を治すことはできません。
でも、その特性に由来する“困りごと”に対応することは可能です。
また、まだ診断されていない幼児期のグレーゾーンのお子さんにも対応可能です。
私は小児神経専門医ではありませんので、
神経発達症に関する厳密な診断はしておらず、
コンサータやビバンセなども処方しておりません。
ただ、以前から夜なき・かんしゃくなどの困りごとの相談を受けると、
漢方薬の使用を提案し、希望があれば処方してきました。
気がつくと、そのようなお子さん達が神経発達症と診断されていることが多いことがわかりました。
漢方薬を飲んでもらうと、驚くほど効果があることを何回も経験しています。
しかし、はじめに処方した方剤が全員に有効というわけではなく、
いくつか方剤を試していくうちにそのお子さんに合った方剤が見つかる、
というパターンが多いです。
最終的な有効率は7割くらいでしょうか。
残念ながら、困りごとが10 → 0 になるわけではありません。
困りごとのレベルが10 → 5 程度に減るくらい(たまに10 → 2-3も)、
それでも生活の質がグンと上がりますので、
ご家族は継続を希望されます。
いつまで使用するか、については、
数ヶ月〜半年の安定期を経た後、希望により減量・休薬を試みます。
その過程で症状が再度目立ってきたら元に戻して継続しています。
今回、ASDに関するWEBセミナーを視聴したところ、
役に立つ情報がたくさんありましたので、備忘録として残しておきます。
(鈴村水鳥先生の講義「漢方薬で支援する自閉症スペクトラム(ASD)」(2025.2.9)メモより)
▶ ASD・ADHDに効果が期待できる漢方
(ココロの症状・困りごと)
・怒りんぼ、かんしゃく、チック → 抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
・衝動性、易刺激性、多動・興奮 → 黄連解毒湯(15)
・こだわりが強い、落ち着きがない → 大柴胡湯去大黄
・抑うつ傾向、不安感、不眠 → 加味帰脾湯(137)
・不安感、言語発達遅滞 → 甘麦大棗湯(72)
(カラダの症状・困りごと)
・元気がない、食欲不振 → 六君子湯(43)
・嘔気、胃もたれ、食欲不振 → 平胃散(79)+香蘇散(70)
・過敏性腸症候群、腹痛 → 小建中湯(99)、桂枝加芍薬湯
・心窩部痛、腹痛、月経痛 → 安中散(5)
・めまい、起立性調節障害 → 半夏白朮天麻湯(37)
▶ ASDに対する漢方治療の有効性
・効果が高い
✓ パニック・かんしゃく
✓ 睡眠障害
✓ イライラ
✓ 落ち着きのなさ
✓ 怯え・怖がり
✓ チック(初期)
✓ 便秘・偏食などの消化器症状
・効果あり
✓ 社会性やコミュニケーション障害
✓ 自傷行為
✓ フラッシュバック
✓ 月経前症候群
✓ 言葉の遅れ
・効果が薄い
✓ チック(長期化)
✓ 多動
✓ 暴言・暴力
✓ 成人例
▶ 漢方医学の“こころ”の捉え方
1.怯え・不安状態(心神不寧証)
・心配性・不安・悲哀感・怖がり(ビクビク)など
・存在が脅かされているような感情が主体
(処方)甘麦大棗湯(72)、帰脾湯(65)、酸棗仁湯(103)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、
2.緊張・易変動状態(肝気鬱結証)
・憂鬱・不安・イライラ・ヒステリック
・身体の緊張が強く、気分が変動しやすい。
(処方)四逆散(35)、柴朴湯(96)、加味逍遥散(24)、香蘇散(70)
3.興奮・怒り状態(化火証)
・イライラ・怒りっぽい・落ち着きがない・焦燥感など
・主に興奮的な症状が主体
(処方)黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
(1+2)柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
(2+3)大柴胡湯(8)・大柴胡湯去大黄
(3+2)抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
▶ 多様な症状には2剤併用が有効
・化火証:黄連解毒湯(15)、抑肝散加陳皮半夏(83)
✓ かんしゃく
✓ パニック
✓ 易怒
✓ 多動
✓ 衝動性
✓ 自傷行為
✓ 他害行為
✓ 落ち着きのなさ
・心神不寧証:甘麦大棗湯(72)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
✓ 落ち着きのなさ
✓ 不安
✓ 自信のなさ
✓ 怯え
・肝気鬱結証:大柴胡湯去大黄、四逆散(35)
✓ 過緊張
✓ 不機嫌
✓ イライラ
✓ チック
▢ 方剤解説:甘麦大棗湯(72)
(構成生薬)《金匱要略》:甘草3-5;大棗2.5-6;小麦14-20
(証)気血水:気虚・血虚、五臓:心
・心血虚:心の血が不足し、安心できず神経が高ぶり、不眠や不安などの精神症状や動悸を起こす証 → 投与により血を増やし、心を安定させる
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
✓ 神経過敏
✓ なんとなく不安そうでそわそわしている
✓ 医師を見ると大声で泣く
✓ 母親との分離不安が強い
✓ あくびが多い
・脈:平または数
・舌:淡紅舌
・腹:軟〜中等度、腹直筋攣急
(特徴)
・一次障害(対人関係・コミュニケーション・こだわり)の改善が期待できる。
・一次障害の改善例は乳幼児に多く、5歳以前のできるだけ早期に開始すべき。
・小麦蛋白にはトリプトファンが含まれ、セロトニンやメラトニンの原料となる。
・ASD児ではセロトニン合成能発達プロセスが阻害されているため、セロトニンの補充が有効。
▢ 方剤解説:抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
(構成生薬)《保嬰撮要》:当帰3;釣藤鈎3;川芎3;白朮4(蒼朮);茯苓4;柴胡2-5;甘草1.5(+陳皮・半夏)
(証)気血水:気鬱・血虚・水滞、五臓:肝・脾(83)
・肝気鬱結:肝の疏泄作用が失調し、精神症状と気滞の症状を起こす証。精神的な緊張と抑うつ、自律神経の緊張、怒りやすくイライラしやすい、ヒステリックになる、胸腹の痛み、等
・肝火上炎:感情の抑うつや怒りから肝を損傷し、肝気鬱が火に変化し、気と火が上逆したために起きる頭痛・めまい・顔面と目の紅潮、等
・肝風内動:肝の証から内風を生じて、痙攣・振戦・意識障害などを起こす証。頭痛、ふらつき、めまい、手足の震え、四肢のしびれ、筋肉の引きつり、等
→ 投与により肝の流れを整え、痙攣など(内風)を鎮め、脾を守り(83)水を捌く。
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
✓ イライラしやすい
✓ 落ち着きがない
✓ 親も困っていて矢継ぎ早に話す
・脈:数
・舌:紅舌、白苔、白膩苔
・腹:腹力は軟〜中等度、腹直筋攣急
※ 83は左の腹部大動脈の動悸が亢進している時(臍上悸・臍下悸)に使用する
(特徴)
・易刺激性・多動性の改善
✓ 広汎性発達障害の前向き非盲検試験
✓ グルタミン酸ニューロンの抑制による興奮の抑制
・攻撃性・自傷行為・かんしゃくの軽減
✓ 広汎性発達障害・アスペルガー障害の後向き非盲検試験
▢ 方剤解説:大柴胡湯(8)・大柴胡湯去大黄
(生薬構成)《傷寒論》:柴胡6-8;半夏2.5-8;生姜1-2;黄芩3;芍薬3;大棗3-4;枳実2-3(+大黄1-2)
(証)気血水:気鬱>血虚>水滞、五臓:肝
・肝鬱化熱:肝気鬱結が高じると、停滞した気から内熱を生じ、その熱が顔面部に昇って、強い焦燥とのぼせなどを起こす証。強い焦燥、抑うつ、のぼせ、頭痛。
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
✓ 体力がある。
✓ 落ち着きがない。
✓ 胸や脇腹に圧迫感や痛みを訴える。
✓ 肥満傾向を認めることもある。
・脈:実
・舌:紅舌、白苔〜黄苔
・腹:腹力あり、胸脇苦満、心下痞硬、時に腹直筋攣急
〜心窩部に厚みがあって堅く緊張し、季肋下部を圧迫するも凹まないほどのもの。
(特徴)
・13歳以下の古典的ASDに対して6ヶ月以上投与したところ、睡眠障害・多動・かんしゃく・パニック・自傷・同一性保持・脅迫的行動などが改善した。
・大柴胡湯は柴胡剤の中で、体力の充実した者、季肋部の苦満感・肋骨弓下部に抵抗・圧痛(胸脇苦満)・腹部は硬く緊張している。
・小柴胡湯証にして、腹満拘攣し嘔劇しき者を治す。
・柴胡・芍薬・枳実が肝気鬱結を改善、黄岑で清熱。
▶ “かんしゃく”を治すには心身の土台(睡眠・食事・排泄)を整えることが必要
・不調・症状はピラミッドのてっぺん
・ピラミッドの土台は「眠る力」
・不調と眠る力の間に「おいしく食べる・排泄する力」がある。
・治す順番は、睡眠 → 食事(偏食)・便秘/軟便 → かんしゃく・パニック、の順がよい。
・これは他の“困りごと”の対応にも当てはまる。
▶ 基本は「寝る子は育つ」
・ASD児・青年の44〜93%に睡眠障害があり、持続する。
・患児に「入眠障害・中途覚醒・夜驚症」などの睡眠の問題がある場合は、まず眠りから治す。
・眠れるようになると子どもたちのかんしゃくが減り、落ちついて物事に取り組めるようになり、言葉や運動発達が伸びる。
睡眠障害
↓ ← 漢方薬
眠れるようになる
↓
かんしゃくが減る
↓
物事に落ちついて取り組める
↓
言葉や運動発達が伸びる
・学童期では、起床困難からの不登校の改善などにもつながる。
▶ 乳幼児の睡眠障害への対応
・大柴胡湯去大黄+甘麦大棗湯の組み合わせが第一選択。
・困っている相談があればすぐに開始する。基本は就寝前に内服。
・昼寝をしない子どもは“過覚醒”が疑われるため「分2:昼食前・就寝前」を指示する。
・症状が安定後、3〜6ヶ月を目安に減薬する。
▶ 偏食など“食べることに関する困りごと”への対応
・眠れない → 昼間寝ている → 昼間の活動量減少 → 疲れていないので眠れない → ・・・
の悪循環を断ち切るためには、まず「眠れること」を治療目標に設定する。
・甘くて飲みやすい甘麦大棗湯(72)から始める。
・ストレス反応+食が細い → 抑肝散加陳皮半夏(83)
・大柴胡湯去大黄は補脾(脾虚を治す)
・食が細い、軟便あるいは硬便傾向 → 小建中湯(99)
▶ “かんしゃく”への対応
・大柴胡湯去大黄+抑肝散加陳皮半夏(83)がベスト
(柴胡剤を2剤併用することにより強い“肝鬱”に対応)
▶ 初期の不登校への対応
・完全に行けなくなる前からスタートする。
・漢方薬はメインの症状に合わせて調節する。
・症状安定後、3〜6ヶ月ほど継続し、減量・休薬を試みる。
▶ 服薬の工夫
・漢方薬に不安を持っている患者さんには「合わなかったらいつでも止められる」ことを説明する。
・睡眠障害に対して抑肝散(54)を処方する際には「分2:朝・就寝前」を指示する。
・減量する際は、一度に休薬するのではなく回数・量を漸減していく。
・減量する際、複数の方剤を併用しているときは1剤ずつ減らす。
・学童期以降でコンサータなどを内服していても漢方薬は併用可能。
▶ ASDの症状と対応する脳機能・担当部位
・多様な症状と脳機能担当部位が存在し、
それらが年齢と共に変化する複雑な病態
✓ 対人機能 → 中枢神経
✓ 感情コントロール → 大脳皮質
✓ 社会的行動 → 内側前頭内皮質
✓ 睡眠リズム、姿勢運動 → 脳幹
✓ 自律神経、感覚 → 帯状回、視床、辺縁系
▶ ASDと神経伝達物質
・オキシトシン:関与している・関与していないと両方の論文があり、結論は出ていない。
→ 漢方方剤では加味逍遥散(24)がオキシトシン分泌を増加させるという報告があるが、頻用はされていない。
・セロトニン:5歳以下のASD児の髄液セロトニン濃度は低い、セロトニン取込み合成能の異常、という報告がある。
→ 甘麦大棗湯(72)
・グルタミン酸:興奮性グルタミン酸と抑制性GABAの不均衡説がある。
→ 抑肝散(54)
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