子どもの偏食「食べないのには理由があります」の解説編です。
総論で出てきた食べない理由4つを再度提示します;

▢ 食べない理由4つ
1.食べる機能の問題:噛む・飲み込む動作の発達には個人差がある
2.時間と量の問題:食事の時間設定、食卓に並べる量が適切かどうか
3.感覚の問題:こだわりが強いと偏食につながる
4.知らないという問題:はじめての食品・食材・料理は“知らないから恐い”と拒否るかも

のうちの「1」を説明します。
食べる機能は成長過程で獲得していくスキルで個人差があります。
子どもが「〇〇を食べられない」場合、
それが今の子どもの食べる機能の発達段階に合っているかチェックしましょう。

合っていないと吐き出してしまうこともあります。
吐くことは当たり前」と考えて対応しましょう。

「まだ〇〇は早かった」と判断できたら、
子どもの発達段階に合う食事を用意しましょう。
 
 
【食べる機能の問題】
・「食べる機能」とは「歯や歯周囲の組織、舌、くちびるなどの口腔の機能」のこと(口腔機能とも呼ぶ)。
・咀嚼(かむこと)や嚥下(飲み込むこと)に関わる食べる機能に問題があり、食べ物を上手く噛めなかったり、上手く飲み込めなかったりすると、食べられないものがある。
・子どもの「今現在の食べる機能」で食べられないものを無理に食べさせると、子どもはその食べ物を上手く処理できず、口から外に食べ物を吐き出してしまう。
・吐き出すと大人に叱られる → 「食べられないと、吐き出すとまた叱られる」と思うと、食べ物を口に入れること自体に消極的になってしまう。
・「姿勢」も大切で、椅子やテーブルが体に合わないと姿勢が安定せず、食が進まない。

▶ 食べる機能のチェックポイント:唇の動きに注目!
(Step1)唇を閉じることができる
 → 「ゴックン期」嚥下ができるようになる。
(Step2)口角が左右に動いている
 → 「モグモグ期」舌が上下に動く証拠で、舌と上顎で食べ物を押しつぶすことができる。
(Step3)口角の片方がねじれるように動く
 → 「カミカミ期」舌を左右に動かしている証拠、奥歯での咀しゃくができる。 

▶ 食べる機能獲得のステップと適切な食事形態
 
(Step1:ゴックン期)
:口を閉じて飲む、口角は動かない
:前後に動く
できること:ミルクやペースト状の食べ物などを飲み込むこと
できないこと:舌と上顎で食べ物を押しつぶすこと、下顎を動かして噛むこと
適切な食事形態:なめらかにすりつぶした状態のもの(はじめての食材は、舐めるくらいから少しずつ増やし、無理なく進める)
食事のポイント
・汁気が多いメニュー(煮物、具だくさんのスープなど)をすり鉢ですってみる、ミキサー・フードプロセッサーなどでペースト状にするなど、できるだけペースト状に近い形の食べ物を。
・トロトロしたヨーグルト、パン粥、おかゆ、すりつぶした果物など、噛まずに飲み込める状態の食べ物がベスト。
・家族の食事の一部をペースト状にする・すりつぶすことができれば、手間や負担を抑えることができる。はじめて口にする食品は、アレルギーがないか確認する意味で、少量から始める。
食べ物の例:トロッとしたヨーグルト、パン粥、おかゆ、すりつぶした・ペースト状にした野菜料理・魚料理・肉料理など

(Step2:モグモグ期)
:口角が左右に引かれる、下顎が下がる
:上下に動く
できること:舌と上顎で食べ物を押しつぶすこと
できないこと:舌で食べ物を歯の方に寄せて噛むこと
適切な食事形態:舌で押しつぶせる硬さのもの、舌で送り込んで飲み込めるまとまったもの
食事のポイント
・舌で潰せるくらいのやわらかさに食材を煮たり、蒸したりして提供する。その際、野菜はできるだけ線維芽少ない物を選び、圧力鍋を使って調理すると短時間でつくることができる。多めに作って冷凍保存することもできる。
・家族の食事の一部をすり鉢などで、少しつぶが残るくらいすりつぶして提供してもよい。
食べ物の例:湯豆腐、茶碗蒸し、少し硬めにしたパン粥・おかゆ、すりつぶした野菜料理、肉料理、舌で潰せる程度に煮た根菜類、等

(Step3:カミカミ期)
:咀嚼している側の口角が引かれる
:左右に動く
できること:舌で食べ物を歯に寄せて歯で噛みつぶして食べ物を細かくすること
できないこと:パサついたものや繊維の強い物をすりつぶして噛むこと
適切な食事形態:歯ぐきで潰せるくらいの硬さのもの → 子どもの様子を見ながら徐々に硬いものを増やしていく
食事のポイント
・はじめは箸で切れるくらいの硬さのものから、徐々に食べ物を硬くし、繊維が多い野菜なども子どもの様子を見ながら取り入れる。
・家族の食事の一部を細かく切って提供することも可能。ただし細かすぎる野菜・ひき肉などは、気管に入ってしまうこともあるので要注意。
・この段階に口腔機能は移行しているのに、噛まなくても飲み込めるものばかり提供していると口腔機能発達にとってよくないので要注意。
食べ物の例:状況に応じて、少しずつ「やわらかい食べ物」から「硬めの食べ物」への移行にトライ。


【対応方法】
・現在の子どもの「食べる機能の発達段階」を確認する(チェックリスト対応方法)。
・食べる機能には、
 ✓ 唇を閉じる
 ✓ 舌を上下左右前後に自在に動かす
 ✓ 奥歯を使ってすりつぶす
ーなど、様々な動きがある。
・食べる機能は段階的に獲得していくものであり、飛び級はできない。
・ふだんの献立における食事の形状、硬さ、触感などがその子の食べる機能の発達段階に合っているかどうかを確認する → 合っていなければ食べられない。
・食べる機能の未獲得は、窒息などの事故を招くことがある。
・基本的には「今の食べる機能の発達段階」を考えて、無理はさせず、
 ✓ 今食べられる食事形態のものを8-9割
 ✓ 今よりほんの少しステップアップした食事形態のものを1-2割
ーなど、食べられなくてもいいという前提で、食卓に並べていく。  

▶ 食べる機能を獲得する工夫
・口を閉じることができない
 → ストローを使って、好きな形に切った折り紙を吸い上げる、おもちゃの笛を思いっきり吹く、等
・舌を上手く動かせない
 → 唇にジャムなどを塗り、それを舐め取る

▶ 食事の形態、5つのポイント
・子どもの今の食べる機能に対して、食事の形態が合っていないと「食べられない」事態が発生する。
・以下の5つが“極端に”偏っている場合は、食べにくさや偏食につながる。

1)大きさ:大きすぎる、小さすぎる(細かすぎる)
(細かすぎる例)みじん切りの野菜、ひき肉

2)硬さ:硬すぎる、柔らかすぎる
(硬すぎの例)繊維質の野菜、肉、キノコ、魚介(タコ、イカなど)

3)粘り
(強い粘り例)餅、団子、イモ類

4)繊維

5)水分:少なすぎてパサパサ、多すぎて口の中でばらける
(水分少の例)パン、カステラ、焼き魚
(水分多の例)かまぼこ、こんにゃく、リンゴなどの果物、等

▶ 「吐き出しても大丈夫だよ」という環境作り参考サイト
・子どもは口に入れたものが食べられないときは吐き出してしまう。それをしにくい環境(責められる、叱られる)は不安が強くなり、食べなくなることがある。
・舐めるだけでもOK、吐き出してしまっても「口に入れられたね」と言える雰囲気が必要。
・吐き出してもいい容器(ボウル、お皿など)を用意して「食べられそうになかったら、ここに出してね」と声をかける。
・子どもは「吐き出しても大丈夫」という前提があれば、安心して食べ物を口に入れらる。

▶ よい姿勢が食べる力を高める参考サイト
・子どもは少し姿勢が崩れたり、テーブルや椅子が体に合わないだけで食べられなくなる。
・理想の姿勢(椅子とテーブル)のポイント:
 ✓ テーブルの上に肘・手をおける
 ✓ 猫背にならない
 ✓ 膝が90度に曲がる
 ✓ 椅子の座面が広すぎず、子どもの横幅に合っている
 ✓ 足が床板に着く 

(神奈川県立こども医療センター偏食外来パンフレットより)
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<参考書籍>
食べない子が変わる魔法の言葉(山口健太著、辰巳出版、2020年発行) 
子どもの偏食外来(大山牧子著、診断と治療社、2023年発行)
子どもの偏食Q&A(大山牧子著、中外医学社、2024年発行)
子どもの偏食相談スキルアップ(大山牧子著、診断と治療社、2024年発行)
発達障害児の偏食改善マニュアル(山根希代子監修、藤井葉子著/編集、中央法規出版、2019年発行)

<参考サイト>
きゅうけん(月刊給食指導研究資料)
・(動画)食べない子ども・偏食への対処法(大山牧子)
・(動画)小児摂食障害(食物アレルギーを持つ子どもの場合を含む)(大山牧子)
発達障害の方の偏食・摂食のご相談(藤井葉子)