入学前の説明会や面談で「好き嫌いをなるべくなくしてきてくださいね」と言われると、とても不安になります。

私自身、幼少期は肉が苦手だったので、
学校給食があまり好きではありませんでした。

その頃はまだ「完食主義」があり、
「残さず食べなさい」という指導があったのです。 
私はイヤイヤながらも食べられましたが、
友だちの中には吐いてしまった人もいました。
その人にとってトラウマになりそうです。 

保護者・子ども自身・学校(担任の先生)が対立していがみ合うのではなく、
三者が同じ方向を目指して解決していける雰囲気が作れるとよい結果が期待できます。

大切な我が子のことで保護者は胸を痛めて心配しますが、
担任の先生にとっては数十人の生徒のうちの一人であり、
十分な時間とエネルギーをかけて対応するの困難であることを認識しましょう。

ですから「うちの子は偏食なので、こうしてください」と依頼するのではなく、
「うちの子は偏食があります、
 自宅ではこんな風にしていて、
 少しずつ食べられるようになっています」
という状況報告、提案レベルがうまくいくようです。

まず、保護者ができることや担当する役割を紹介します。


▶ 近年は「完食主義」は減少
・昔あった「居残り給食」で子どもが苦痛を感じることは体罰に相当する、という考え方もある。 
・とくに小学校の給食で「無理に食べさせないこと」が大切にされつつある。
・苦手な食べ物は事前に減らせるようになっている学校が多い。 

▶ 学校の先生に「食べられない理由と対応」を求めるのは難しい
・一人一人の生徒に対して「食べられない理由は何?」と把握するのは困難。
・自分の子どもが食べられない理由を各保護者が担任の先生に伝えて根回しすることが必要。

▶ 担任の先生に伝えること5つ
1.食べられない理由 
2.家庭でしている工夫 
3.本人の気持ち
4.これまでの経験や体験
5.(お願いではなく)お助け情報として
ーなどを伝える 。

▶ 「食べられない理由」を伝える 
・食べないことが“子どものワガママ”と誤認されないように理由をしっかり伝える。
(例)
✓ 少食:元々からだが小さくて、食べられる量が少ない。
✓ 食べる機能(口腔機能)が未発達:咀しゃく・嚥下が難しく、苦手な食材がある。
✓ 感覚過敏:受けつけられない感覚が多い。 

▶ 「家庭でしている工夫」を伝える
・具体的に話し、工夫した結果、少しずつ食が広がっている現状を伝える。
(例)
✓ 苦手なものでも食卓に並べるようにしている。
✓ 間食の食べ過ぎに注意している。
✓ 食べるために、調理を工夫している。
 
▶ 「本人の気持ち」を伝える
(例)
・「食べなさい!」と言われると気持ちが萎縮して食欲がなくなる。

▶ 「これまでの経験・体験」を伝える
(例)
・「食べなくても大丈夫」という雰囲気なら食べられる。

▶ 「依頼」ではなく「お助け情報として」伝える
・“依頼” は担任の先生にとって肩の荷が重くなりがち。
・「こうすると指導の助けになると思い伝えました」というスタンスがベター。
・先生 vs. 家族、という構図になるのではなく、 同じゴールを目指すチームをイメージ。

▶ 食べられるものを持参してよいかを確認する
・食べられるものが少なくて体力面が心配なレベル、
 あるいは先生が不安を持っている場合は、
 子どもが食べられるものを持参してよいかどうかを相談すべし。 

▶ 担任の先生と上手くいかない場合は?
・担任以外の先生(養護教諭、園長、教頭・校長先生など) に相談し、
 間接的に担任の先生に伝えてもらう。
・資料を提供する。 
(例)「食に関する指導の手引きー第二次改訂版ー」(文部科学省)
    第6章第1節第3項「指導上の留意点」


3 指導上の留意点

個別的な相談指導を行うに当たって、次の点に注意が必要です。

① 対象児童生徒の過大な重荷にならないようにすること。

② 対象児童生徒以外からのいじめのきっかけになったりしないように、対象児童生徒の周囲の実態を踏まえた指導を行うこと。

③ 指導者として、高い倫理観とスキルをもって指導を行うこと。

④ 指導上得られた個人情報の保護を徹底すること。

⑤ 指導者側のプライバシーや個人情報の提供についても、十分注意して指導を行うこと。

⑥ 保護者を始め関係者の理解を得て、密に連携を取りながら指導を進めること。

⑦ 成果にとらわれ、対象児童生徒に過度なプレッシャーをかけないこと。

⑧ 確実に行動変容を促すことができるよう計画的に指導すること。

⑨ 安易な計画での指導は、心身の発育に支障をきたす重大な事態になる可能性があることを認識すること。 


次に、子ども自身ができることの提案です。

▶ 友だちから「どうして食べないの?」と聞かれたら
・いろいろ言われるのが嫌だから、みんなと一緒に給食を食べたくない
  → 給食が嫌
  → 給食の時間がつらいから学校へ行きたくない、
 というパターンもある。
・「食べられない理由」を子ども自身が友だちに伝えることができると、
 ほとんどのケースでそれ以上何も言われなくなることが多い。
・言いにくい場合は、家庭で練習する(ロールプレイング)。
 (例)お父さん・お母さんが友だち役になり「どうして食べないの?」と子どもに聞く、
 そして子どもが答える、という練習。返答の例として、
 「給食だと緊張して一杯食べられないんだ、心配してくれてありがとう」
 「上手に噛む練習中で、早く食べられないんだよね」
 「苦手なものが多くて、食べられないんだよね」

▶  “食べられたもの”を給食の献立表に⭕️を付ける
・少しずつ増えていくと励み・自信になる。 


最後に、担任の先生ができることを提案します。
 
▶ 給食で対応できることには限界があることを認識
・偏食改善には「その子に合わせた個別対応」が必要であり、給食では個別対応は難しい。
・個別対応にこだわる前に「楽しい給食時間」の演出を心がける。
 
▶ 給食が食べられない子、の理由を把握する
・機能的なものか、感覚的なものか、知らないから・見慣れていないからなのか・・・
・第四の視点として「精神的に給食が嫌になっている」ことをチェック(⇩)。

▶ 「精神的に給食が嫌」になっているサイン 
食べることに対する不安や緊張感が強いと嚥下ができなくなり、あるいは無意識に空気を吸い込む量が増えるため、以下の行動が観察される。
✓ 口にため込む:ずっとモグモグしている状態。
✓ 水分をよく取る:食べ物を流しこもうとして水分を取る回数が増える。
✓ ゲップやオナラをする:呑気症(空気嚥下症)緊張のため空気を吸い込む・飲み込む量が増える
✓ 口数が減る:緊張のため
✓ 無表情になる:緊張のため
 
▶ 「精神的に給食が嫌」な子どもへの対応
1.子どもの気持ちを認める
2.食べられない理由を聞く
3.どうしたいかを本人に聞いて、一緒に対応する
(例)
「保育園・学校には来たい?」 
「教室ではなく、別室だったら食べられる?」
「給食ではなく、お弁当だったら食べられる?」
「教室で食べないことをクラスメートにどう伝える?」
「自分で伝える?それとも先生が伝える?」
 
▶ 保護者と担任の先生とのすれ違いへの対応
1.なぜ給食への要望が出ているのか、背景を考える 
・完食主義が問題になっていることが多い。
2.園や学校でできることと家庭でできることを分ける
・「ここまでは園・学校でできるが、ここからは家庭でしかできない」線引きを保護者に伝える。



<参考書籍>
食べない子が変わる魔法の言葉(山口健太著、辰巳出版、2020年発行) 
子どもの偏食外来(大山牧子著、診断と治療社、2023年発行)
子どもの偏食Q&A(大山牧子著、中外医学社、2024年発行)
子どもの偏食相談スキルアップ(大山牧子著、診断と治療社、2024年発行)
発達障害児の偏食改善マニュアル(山根希代子監修、藤井葉子著/編集、中央法規出版、2019年発行)

<参考サイト>
きゅうけん(月刊給食指導研究資料)
・(動画)食べない子ども・偏食への対処法(大山牧子)
・(動画)小児摂食障害(食物アレルギーを持つ子どもの場合を含む)(大山牧子)
発達障害の方の偏食・摂食のご相談(藤井葉子)