偏食について調べていると、
「この対応は〇〇の点でNG」
という表現に何回も出会いました。

どうやら、偏食になりにくい「理想の食習慣」「望ましい食事習慣」が存在するようなのです。
いくつかの書物から抜粋して要約しました。


▢ 子どもが楽しく食事するために必要なこと
● 適切な生活リズム
 ✓ 睡眠
 ✓ 便秘
● 適切な食事環境
● 適切な保護者のスタンス
● 適切な親子の役割分担

▶ 適切な生活リズム:睡眠
・眠る時間と起きる時間を決める。
・起きている間は、2.5〜3時間ごとに食事を取る。
・食事時間は15〜30分とする。
・夕食と風呂は眠る1時間前までに済ませる。
・眠る1時間前には激しい遊びをしない。
・眠る1時間前から部屋を暗くし、ブルーライトはオフにする。

▶ 適切な生活リズム:食事の時間枠
・2歳以降は3回食と1回の軽食で合計4回。
・保護者が食卓に座り一緒に食べる。
・食事の開始と終了を予告する。
・子どもが食卓に来なくても大人は食べはじめ、時間が来たら予告して終了する。
・片付けたら次の食事時間まで食べ物は出さない。
・食べる時間を子どもに合わせると時間の枠組みが作れない。
・いつ食べ物を出すかは保護者の仕事。
・大人によって態度が違う、同じ保護者でも気分によって態度が違う、はタブー。
・1回でも要求が通ると、子どもは「自分が欲しがったらいつでも食べ物が出てくる」と学習する。
・食事の場所と時間の枠組みを作るのは“しつけ”ではなく保護者の仕事。
・保護者の仕事を子どもにさせるとバトルが発生する。
・子どもの仕事は「決まった時間と場所で出されたものを、食べるか食べないか決める、食べる量を決める」こと。

▶ 適切な食事環境ー椅子と食卓の高さを調整
・子どもは少し姿勢が崩れたり、テーブルや椅子が体に合わないだけで食べられなくなる。
・食べるという微細運動を効率よく行うためには、粗大運動である座位を安定されることが重要。
・座位の安定のためには、足底で踏ん張って下腹部のコアマッスルに力が入ることが必要。 
・理想の姿勢(椅子とテーブル)のポイント:
(1歳まで)
 ✓ ハイチェア(座卓ではローチェア)では足がブラブラしないように、
 ✓ トレイの高さが子どもの乳頭とヘソの真ん中に来るように、
 ✓ 食卓に前腕をつけたとき、肘関節が90°になるくらいに、
  ・・・硬めのクッションやバスタオル、雑誌などで調整する
 ✓ 背当ては肩甲骨まで支える高さを
 ✓ 食卓と椅子に座った子どもとの間に子どものこぶし一つ分くらいのすき間があるように
(1歳以降)
 ✓ 足・膝・股関節が90°になるように調整
 ✓ 足底全体が床・足台に乗っているかを確認 
 ✓ 椅子の座面が広すぎず、子どもの横幅に合っている
・NGな椅子たち
 ✓ 簡易椅子(折りたたみ式で机にガチャンとはめ込むタイプ)
  → 子どもの足がブラブラする、座面が布で沈みやすく座位が安定しない
 ✓ バンボ®、バウンサー
  → 足が安定しない

神奈川県立こども医療センター偏食外来パンフレットより)
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▶ 座卓の場合の調整法
・体幹を安定させるため、座卓の高さが子どものおへそと乳頭の真ん中くらいになるような座面の椅子を用意する。
・股関節・膝関節・足関節が90°になるように調節する。
・足底が床につかない場合は足台を使う。
・背当ては必須で肩甲骨まで支えられるようにする。
・3〜4歳以降になると、座卓によっては子どもの太ももが座卓の下面にあたり窮屈になる。その場合は正座やあぐら姿勢をとり、硬めの座卓用クッション当てるなどの工夫をする。
・座卓の場合、子どもと大人で座り方が異なるので、大人のまねをしたい子どもは落ちつかず大人の膝に乗りたがることがある。思い切って高い食卓にして、家族みんな椅子に座るよう切り替えることも検討すべし。

▶ 適切な食事環境ー気が散らない環境を提供
● 食べることに関係のないものを子どもの視野に入れないようにする
・乳幼児(就学前まで)は二つのことを同時に行うことができない。
・子どもは大人より視覚による情報をたくさん得る傾向がある。
・気が散るものが食卓にあると食べ物に集中できない。
・食事の時は、食べ物と食器・食具以外のものは食卓から片付ける。
● “ながら食べ”ではいつまで経っても食べるようにならない。
・食事中にテレビ、ビデオ、YouTubeを見せたり、おもちゃで遊ばせたりすると、
 強制栄養されるだけで食べることを学習できない。
・おもちゃにこだわる場合は、
「食事が終わったら一緒に〇〇しようね、〇〇を見ようね」
と肯定文・提案型で言う(どうしてもグズったら、小さなおもちゃを一つだけ食卓において食事中は触らない約束をする)。
● 空腹過ぎると食卓に座らない傾向がある
・授乳から1〜2時間後に食事時間となるよう調整する。
・1歳以降は食卓では授乳はしない(「授乳は寝室で」などと決めておく)。

▶ 保護者のスタンス
● 楽しい食事の基本はストレスなく食卓に座っていられること
・家族がゆったりと落ちついて座って美味しそうに食べていること、
 その様子を子どもが座って見ていられることから始まる。
・保護者は無意識のうちに「早く座って」「急いで食べなさい」と指示しがち。
 ✓ 「座る」「食べる」は子どもの役割で、保護者の仕事ではない。
 ✓ 保護者は「座ろう」「食べよう」という気持ちになるよう促す係。
 ✓ 相撲の土俵入りをイメージしてゆっくりと。
・子どもが眠いときや体調不良の時以外は、
 一切の強制をやめることで食事に向き合えることが多い。
● 食卓でのしつけや強制圧があると食が進まない
・食べることを強制しない。
・「なんとか食べさせなければ」という保護者の行動には“強制”圧が発生しやすい。
・ストレス下、交感神経緊張状態では食欲が低下する。
・して欲しくない行動には「知らんぷり」して完全無視、
 して欲しい行動にはただちに「ニコ」「いいね」、しかし大げさにはほめない。
・評価する言葉を避ける。
・叱るとかえって注目を浴びたと勘違いして、その行動を助長しがち。
● 強制をやめると・・・
・強制をやめると、親子が一緒に食卓について同じものを食べる余裕が生まれる。
・強制されない安心・安全を感じる食卓で、子どもは初めて新しい食べ物に挑戦できる。
 → 「偏食に一番効果があるのは“強制”をやめること!」

★ “負のスパイラル”と“正のスパイラル”

(負のスパイラル)
 子どもが食べない
  ⇩
 強制する  →  食卓に座らない(家族の食べ方を学ぶチャンスがない)
  ⇩                  ⇩
 泣く・顔をそむける       食べる機能が発達しない
  ⇩
 テレビを見せながら食べさせる(ながら食べ)
  ⇩
 テレビがないと食べない
  ⇩
 食べる機能が発達しない
  ⇩
 食べさせるのに時間がかかる
  ⇩
 親子ともイライラ・疲れる

(正のスパイラル)
 子どもが食べない
  ⇩
 強制しない  → 食卓に座る(家族の食べ方を学ぶチャンス)
  ⇩            ⇩
 親が美味しそうに食べる   ⇩
  ⇩            ⇩
 食べ物に興味を示す・まねをして食べる
  ⇩
 食べる機能が発達する
  ⇩
 家族と同じくらいに食べ終わる
  ⇩
 楽しく食べる

● 保護者は無意識のうちに強制していることに気づいていない
・保護者は子どもに食べさせる際の行動に“強制”の要素があることに気づいていない。
・具体例;
(スプーンの使用)
 ✓ 顔を背ける
 ✓ 手で払いのける
(言葉や態度)
 ✓ ひとくちだけ食べよう
 ✓ おいしいよ〜
 ✓ せっかく作ったのに〜
 ✓ なんで食べないの?
 ✓ お腹が空いているはずだよね?
 ✓ 食べるかどうかみんな見てる
(食べ物で)
 ✓ 食べないものを必ず置く
 ✓ 食べきれないくらいの量を置く

▶ 何を食べるか
・基本は“家族と同じもの”
・2歳未満では生もの以外はOK
・塩分濃度6〜7g/日(WHO基準)で家族全員の食事を用意する。
・月齢6ヶ月以降は取り分け食を手づかみで食べる練習を始められる。


<食卓での親子の役割分担>

● 保護者の役割は「いつ」「どこで」「なにを」食べるか決めること

(いつ) → 規則正しい食事とおやつを提供する
⭕️ 2歳まで:3食+軽食2回(朝食・午前軽食・昼食・午後軽食・夕食)
⭕️ 2歳以降:3食+軽食1回(朝食・昼食・午後軽食・夕食)
⭕️ 食事間隔を2.5〜3時間開ける
⭕️ 1回の食事時間を15〜30分
⭕️ 家族の食事が終わる5分前に「あと5分だよ」と予告する
⭕️ 終了時に「さあ片付けする人」と声がけして一緒に片付ける
❌️ 1日3食
❌️ 食事と食事の間に欲しがったら与える(ダラダラ食べ)
❌️ 1回の食事時間が40分以上

(どこで) → 家族が食べる食卓で一緒に
⭕️ 座位保持から独步まで(6ヶ月〜1歳):ハイチェア
⭕️ 小走りし始めたら(1歳半〜2歳以降):ステップチェア
⭕️ 座卓の場合は豆椅子
 ✓ 1〜2歳:背もたれつき
 ✓ 3歳以降:円座(硬めの正座用クッション)
⭕️ 外出時は親が決めた場所
❌️ 親が食事の途中に離席する
 ✓ 離席した子どもの相手をするため
 ✓ 食卓にないものを取りに何度も立ち上がる
❌️ テレビやビデオ、YouTube、スマホ、タブレットを見せる
❌️ 親が食事中に食卓で授乳する

(なにを)
⭕️ 栄養バランスの取れたメニューを決めて出す
❌️ 何を食べたいか子どもに聞く
❌️ 出すつもりではなかった食べ物を出す
❌️ 食べる順番を決めて守らせる
❌️ 食べ物をごほうびにする

● 子どもの役割は「食べる・食べない」「どのくらい食べるか」を決めること
・子どもは家族の食べる様子を見て、
 自分が食べるべきもの、食べる量を、
 だんだん調節できるようになる能力を持っている。
・家族がバランス良く健康的な食べ物を心から楽しんでいる様子を見せる。
・あとは、保護者は腹をくくって子どもを信頼する。
⭕️ 食べる・食べない・食べ残すを決める
⭕️ 好きなものだけ食べる、嫌いなものは食べない
⭕️ その食卓のメニューのおかわりをする
❌️ その食卓のメニュー以外のものを要求する

● 上記の役割分担の境界線を越えると、摂食の問題が発生する
(例)子どもが何をどれだけ食べるかを保護者が決める・コントロールする
(例)子どもに献立を決めさせる
● 上記の役割分担を守ると子どもたちは食べることを楽しいと感じるようになる

 


<参考書籍>
食べない子が変わる魔法の言葉(山口健太著、辰巳出版、2020年発行) 
子どもの偏食外来(大山牧子著、診断と治療社、2023年発行)
子どもの偏食Q&A(大山牧子著、中外医学社、2024年発行)
子どもの偏食相談スキルアップ(大山牧子著、診断と治療社、2025年発行)
発達障害児の偏食改善マニュアル(山根希代子監修、藤井葉子著/編集、中央法規出版、2019年発行)

<参考サイト>
きゅうけん(月刊給食指導研究資料)
・(動画)食べない子ども・偏食への対処法(大山牧子)
・(動画)小児摂食障害(食物アレルギーを持つ子どもの場合を含む)(大山牧子)
発達障害の方の偏食・摂食のご相談(藤井葉子)