ここではめまい・立ちくらみ(水毒)に使用される3方剤を比較してみます。

「めまい・立ちくらみ」を訴えて受診された患者さんには、
まず西洋医学的検査を優先します。

諸検査に異常なく、
しかし症状がつらい場合は漢方の出番です。

「めまい・立ちくらみ」には以下の漢方薬が頻用されます。

五苓散(17)
苓桂朮甘湯(39)
半夏白朮天麻湯(37)

これらの構成生薬の概要をまとめた表を紹介します;
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すべて「水毒」対応の生薬が中心ですが、
ほかに「気逆」や「気虚」に対する生薬も含まれています。
それらを考慮して使い分けるのです。

漢方の世界では、
立てば苓桂、回れば沢瀉、歩くめまいは真武湯」という言い伝え(口訣)
が存在します。
このうち、「立てば苓桂」は「起立性低血圧には苓桂朮甘湯」という意味です。

苓桂朮甘湯には甘草という生薬が含まれています。
甘草は「急迫(急激な症状)を治す」とされています。
つまり、起き上がったときなど発症時点が比較的明確な症状に効果を発揮しやすいのです。
桂皮は気逆を治します。五苓散でも起立時のめまいにある程度効果があるかもしれないのですが、苓桂朮甘湯の方が桂皮を多く含んでいる分だけ、よりめまいに特化しているという違いがあります。
一方で、五苓散とは異なり、沢瀉や猪苓が入っていない分、水毒に対する効果が少し弱まり、嘔吐や排尿障害といった水の出入りに対する効果は五苓散よりも弱いと思われます。

半夏白朮天麻湯(37)は参耆剤(人参と黄耆を含む)の仲間で、気虚(倦怠感・無気力)に対して効果を発揮する特徴があります。

五苓散は水毒に対応する生薬を詰め込んだ薬であり、乏尿や口渇など水毒徴候が目立つ例に効果が期待あれ、浮腫や下痢をある程度治すことが可能です。
五苓散に含まれる桂皮(気逆を治す作用)の存在を考慮すると、吐き気や嘔吐、頭痛、めまいといった症状と相性がよいことも類推できます。水毒に気逆が少し付随している症状となると、例えば、雨天時に増悪する片頭痛やめまい
、急性胃腸炎に伴う嘔吐などが挙げられます

なお、3つすべてに茯苓と朮が含まれています。
ともに水毒に対する生薬ですが、
ともに「気虚」に有効な生薬でもあります。

茯苓には「安神作用」といって、動悸やまぶたのぴくつきといった神経症的な症状に対して精神を和らげて治す薬能も付随します。

ここが大きなポイントです。
「めまい・立ちくらみ」とともに、
「倦怠感・無気力」をもカバーする薬なのです。

起立性調節障害にピッタリですね。


<参考>
立った時? 歩いた時? めまいの起こり方で異なる漢方処方(2025年5月:日経メディカル)
 伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)
これだけは覚えたい!水毒を治す4つの代表的生薬とは(2025年2月:日経メディカル)
 伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)