子どもは“風邪”をよく引きます。風邪の9割は上気道のウイルス感染症とされています。上気道とはのど・はな、下気道は気管支・肺です。
鼻水がつらいため耳鼻科を受診するとよく「副鼻腔炎」と言われます。一般に言う「ちくのう症」と同じです。 
 副鼻腔とは、鼻の奥につながっている顔面の空洞です。幼児の鼻風邪のほとんどは副鼻腔炎も合併しており、「鼻副鼻腔炎」と呼ぶことがあります。
 つまり、乳幼児の風邪 ≒ 鼻副鼻腔炎、ということですね。 
 副鼻腔炎は耳鼻科では抗生物質(=抗菌薬)で治療します。すると、風邪を引くたびに抗生物質を飲むことになり、一部のお子さんはその副作用(下痢、薬疹)で悩むことになります。また、善玉菌もやられてしまうため腸内細菌叢が乱れ、その回復に数ヶ月かかるとも言われています。
 この抗生物質漬けをなんとかできないかと、小児科医である私は漢方薬を応用し、手応えを感じています。
 西洋医学では鼻水止めは「抗ヒスタミン薬」一択ですが、漢方医学では鼻水の様子(水っぱな、濁った鼻、青っ洟)により、以下の薬を使い分けます。
 小青竜湯(19)
 葛根湯加川芎辛夷(2)
 辛夷清肺湯(104)
これらの薬は、鼻づまり(鼻閉)をやわらげてくれることも特徴です。急性期・亜急性期は以下の柴胡剤を併用すると効果がアップします。
 小柴胡湯(9)
 小柴胡湯加桔梗石膏(109)
副鼻腔炎が慢性化した場合は、
 柴胡清肝湯(80)
 荊芥連翹湯(50)
を定期内服してもらうと手応えがあり、鼻症状が解決した患者さんが何人かいます。
 上記の漢方薬を使い分けることにより、6〜7割の患者さんが漢方だけでよくなります。残念ながら100%ではありませんが。
 さて、知り合いの耳鼻科漢方医がYouTubeに副鼻腔炎漢方の動画をアップしていました。
「なぜこの漢方が効くのか?」
を生薬ベースで解説しており、興味深く視聴しました。だいたい、私の方針と一致していますね。ただ、
「副鼻腔炎には抗生物質が必要」
という前提なのがちょっと気になりました。
 備忘録としてメモを残しておきます。
 
▢ 副鼻腔炎の漢方

▶ 副鼻腔炎で使用される漢方薬
葛根湯加川芎辛夷(2) → 麻黄で温めて鼻閉・鼻汁を減らす
辛夷清肺湯(104) → 消炎〇、冷やす、潤す、粘液溶解◎
小柴胡湯加桔梗石膏(109) → 消炎◎、冷やす、やや乾かす、鼻汁⇩、粘液溶解〇

▶ 2剤併用で効果増強

葛根湯加川芎辛夷+小柴胡湯加桔梗石膏
・急性>慢性
・鼻粘膜腫脹、発熱、感冒、副鼻腔気管支症候群

葛根湯加川芎辛夷+辛夷清肺湯
・急性>>慢性
・鼻粘膜腫脹、粘稠鼻汁、副鼻腔炎のみ

小柴胡湯加桔梗石膏+辛夷清肺湯
・急性<慢性
・こじれた副鼻腔炎、顔面痛、粘稠鼻汁

辛夷清肺湯+小柴胡湯)・・・松田邦夫先生愛用処方
・難治性副鼻腔炎

辛夷清肺湯+小柴胡湯加桔梗石膏
・難治性副鼻腔炎

▶ 頻用2剤の比較

葛根湯加川芎辛夷】 vs 【辛夷清肺湯
 急性>慢性        慢性>急性
 冷えて鼻風邪       こじれた慢性副鼻腔炎
 風邪の鼻症状
 急性副鼻腔炎で発熱    急性副鼻腔炎で発熱
 副鼻腔炎以外の鼻閉    副鼻腔炎のみの鼻閉
  頭痛・肩こり
 アレルギー性鼻炎にも   アレルギー性鼻炎には無効
 単剤では今ひとつ     単剤では今ひとつ


葛根湯】      vs 【小柴胡湯
 初期の風邪        進行した風邪
 発熱           往来寒熱
 頭痛・悪寒・関節痛    咳・食欲不振・胃のもたれ・口苦
 初期の風邪の総合感冒薬  こじれた風邪の総合感冒薬

葛根湯加川芎辛夷】 vs 【小柴胡湯加桔梗石膏
 急性>慢性        急性〜慢性
 風邪の鼻症状       急性副鼻腔炎で発熱
 初期の副鼻腔炎      こじれた慢性副鼻腔炎
 温める          冷やす
 麻黄あり         麻黄なし
 アレルギー性鼻炎に有効  アレルギー性鼻炎に無効
 副鼻腔炎以外の鼻閉    鼻閉には無効
  頭痛・肩こりに     消炎強力(辛夷清肺湯に類似)
 単剤では今ひとつ     単剤では今ひとつ

▶ 難治性副鼻腔炎

● 免疫力を高めて対応 → 補中益気湯(41)

● 2剤併用(前出)
辛夷清肺湯+小柴胡湯)・・・松田邦夫先生愛用処方
辛夷清肺湯+小柴胡湯加桔梗石膏

▶ 各方剤解説

【葛根湯加川芎辛夷】(2)
● 構成生薬
葛根4-8;麻黄3-4;大棗3-4;桂皮2-3;芍薬2-3;甘草2;生姜1-1.5;川芎2-3;辛夷2-3 
● 生薬の薬効
麻黄(エフェドリン) → 鼻粘膜腫脹改善、鼻汁減少
葛根 → 抗炎症作用、排膿作用
 葛根+芍薬 → 抗炎症作用増強、排膿作用増強
川芎 → 排膿、頭痛改善
辛夷 → 鼻粘膜腫脹改善、鼻閉改善
葛根・芍薬・大棗・甘草 → 滋潤(鼻汁溶解)
麻黄・葛根・桂枝・生姜・川芎・辛夷 → 体を温める、冷えによる鼻閉改善 
● 薬効
以上をまとめると、葛根湯加川芎辛夷(2)の適応は、
 頭痛
 鼻閉 
 寒いと悪化する鼻症状
 水溶性鼻汁〇、粘膿性鼻汁△
 寒くて鼻水・鼻風邪〇 
 慢性<急性

★ ディレグラ®
・アレグラ+プソイドエフェドリン(プソフェキ)
・プソイドエフェドリン含有量は漢方薬の数倍
・薬剤性鼻炎に著効
・副作用:血圧上昇、頻脈、尿閉、嘔気(10人に1人)
 
【辛夷清肺湯】(104)
● 構成生薬《外科正宗》
辛夷2-3;知母3;百合3;黄芩3;山梔子1.5-3;麦門冬5-6;石膏5-6;升麻1-1.5;枇杷葉1-3 
● 生薬の薬効
辛夷 → 鼻閉改善
黄岑・山梔子 → 消炎(乾かす、分泌物を減らす) ← 黄連解毒湯(15)
石膏・知母 → 消炎(潤す) ← 白虎加人参湯(34)
枇把葉・升麻 → 消炎
(黄岑・山梔子・石膏・知母・枇把葉・升麻 → 消炎強力!
石膏・知母・麦門冬・百合・枇把葉 → 滋潤(粘液溶解)
● 薬効
・強力に消炎+潤す → 粘液溶解、膿性鼻汁排出改善
・感染が関与する副鼻腔炎・鼻炎に有効
 → アレルギー性鼻炎には無効
・慢性>急性
・石膏の副作用で消化器症状の可能性あり
・黄岑含有で間質性肺炎、肝機能障害の可能性あり
・甘草なし(偽アルドステロン症のリスクなし)
● 特徴
・OTC(市販薬)のチクナイン(小林製薬)
・安全性高い?
・黄岑含有 → 肝障害・間質性肺炎
● 製薬会社による違い
・クラシエ:石膏・麦門冬・辛夷・升麻が多く、山梔子・枇把葉が少ない

【小柴胡湯】(9)
● 構成生薬《傷寒論》
柴胡5-8;半夏3.5-8;生姜1-2;黄芩2.5-3;大棗2.5-3;人参2.5-3;甘草1-3
● 薬効:消炎、咳止め・去痰剤、吐き気止め、胃薬、安定剤
● 適応:往来寒熱、胸脇苦満、口が苦い、リンパ節炎

【小柴胡湯加桔梗石膏】(109)
● 構成生薬《本朝経験方》
柴胡7;半夏5;生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合4);黄芩3;大棗3;人参3;甘草2;桔梗3;石膏10
● 生薬の薬効
柴胡・黄岑・石膏 → 消炎
半夏・石膏 → 粘液溶解
桔梗 → 排膿
柴胡・半夏・生姜・人参・大棗・甘草 → 繊毛運動回復?(副交感神経刺激)
人参・大棗・生姜・甘草・半夏 → 胃薬(消化器への配慮)
● 薬効
・扁桃炎の漢方
・桔梗石膏:消炎・抗化膿、去痰、排膿
・気管支炎・肺炎にも有効
・「膿性痰を伴う咳」
● 適応
・扁桃炎
・咳・気管支炎
・咽喉頭炎
・化膿性中耳炎
・リンパ節炎
・唾液腺炎
● 応用
+半夏厚朴湯で咳・痰を減らす(柴朴湯)
+葛根湯加川芎辛夷(柴葛解肌湯の猿まね)

▶ 副鼻腔を漢方医学でどう捉えるか?

● 副鼻腔の特性
・半表半裏(表でも裏でもない)
・追い出す(解表・邪を下す)対応はできない
 → 和法
・咳の治療と同様
・小柴胡湯(9)の適応

▶ 漢方医学における表裏の概念
● 表
・体表部付近
・表証:体表部に闘病反応の結果が表出
 → 頭痛、悪寒、発熱、項背筋のこわばりと痛み、四肢の関節痛・筋肉痛
・治療法:体表から侵入しようとしている「寒邪」を発汗して追い出す

● 裏
・身体深部:消化管付近
・裏証:身体深部に闘病反応の結果が発現
 → 消化器症状:腹満、下痢、便秘
 → 身体深部の熱感、稽留熱、せん妄
・治療法:便秘で病邪が消化管にとどまる場合は下して追い出す

● 半表半裏
・胸郭内症状:咳嗽、胸満感、胸痛、胸内苦悶感
・上部消化器症状:悪心、嘔吐、口苦、心窩部痛、季肋部痛
・治療法:追い出せないので病邪を抑制(抗菌薬のイメージ)

 
<参考>
ちょいたし漢方・副鼻腔炎・副鼻腔炎気管支症候群(竹越哲男Dr.)
▢ 要約:副鼻腔炎・副鼻腔気管支症候群(竹越哲男Dr.)
 
<追加>
※ 市村恵一先生による漢方治療解説(Dr.s Prime Academy)

● 葛根湯加川芎辛夷(2)
・鼻炎あるいは副鼻腔炎による慢性化した鼻閉、鼻漏、後鼻漏などに用いられる。
・若年者、成人の慢性副鼻腔炎で漢方治療する場合の第一選択薬であり、頭重感、肩こり、鼻閉が続く場合に用いる。

● 辛夷清肺湯(104)
・鼻汁がより膿性の場合や、後鼻漏が多い場合、鼻茸合併例に用いると良い。
・小児には飲ませにくいのでカルピスソーダやヨーグルトに混ぜると飲んでくれる。