小児科医は鼻汁・鼻閉を「風邪症状の一部」として捉える傾向があります。一方、耳鼻科医は「鼻という臓器が炎症を起こしている」という視点で捉えます。
数年前に元大学教授の耳鼻科医(東京みみ・はな・のどサージクリニック、市村恵一先生)による講演を聴いたことがあり、その際に目からうろこが落ちた記憶があります。その講義メモが残っていましたので、ポイントと感じた箇所を引用・抜粋し、備忘録としてここに残しておきます。
近隣の耳鼻科では、鼻汁・鼻閉遷延例、反復例を抗生物質漬けにすることが多くて辟易しているのですが、市村先生のお話は「抗菌薬に有用性なし」「細菌性を疑う場合はまず細菌培養検査を」と現実と大きく異なる内容でしたね。大学教授と開業医の違いでしょうか・・・。
ついでに言うと、抗ヒスタミン薬の代わりに抗アレルギー薬を処方している耳鼻科医・小児科医も多いです。抗ヒスタミン薬が効く理由は抗コリン効果のため、抗ヒスタミン効果のみの抗アレルギー薬ははっきり言って風邪の鼻水に効きません。「処方された薬を飲んでいるけどよくならないので・・・」と当院に流れてきます。
私はそんな患者さんに漢方薬を提案しています。こちらの方が手応えがあり、乳幼児の夜の鼻づまりが軽くなるので喜ばれます。
▶ 鼻汁を構成するもの
① 鼻副鼻腔からの分泌液
・血液成分や組織液の移行したもの
・水やイオンが能動輸送により移行したもの
・粘膜の胚細胞や鼻腺から分泌された液
② 涙液
③ 呼気から凝結した水
▶ 鼻汁の基本知識
・健常人では粘液は1日に1000ml以上産生される。多くは吸気への加湿に使われ、残りは線毛運動で咽頭に運ばれ無意識に嚥下される。
・鼻分泌液量は刺激が加わると増量する。
・鼻腺の分泌刺激には、炎症により放出されるメディエーターの直接作用と、神経反射を介する間接作用の二通りがある。
▶ 鼻漏とは
・鼻汁の性質が正常と異なったり、多量に存在して外鼻孔や後鼻孔から流れ出る状態を指す。
・水性(漿液性)、粘性、膿性、および粘膿性、血性がある。
① 漿液性鼻漏:鼻腺からの反射性分泌が主体をなし、鼻の過敏状態を伴うことが多い。感冒の初期、アレルギー性鼻炎、特発性鼻炎、鼻性髄液漏など。
② 粘性鼻漏:胚細胞由来のものが主体で、持続的な炎症性刺激が存在する慢性副鼻腔炎が主で、アレルギー性鼻炎の非発作期にも見られる。
③ 膿性鼻漏:細菌感染の関与が考慮される。急性・慢性副鼻腔炎が多く、まれに異物が原因となる。
④ 血性鼻漏:組織の破壊・損傷が何らかの形で関与している。腫瘍、肉芽腫、鼻出血など。
▶ 小児で鼻水を生じる病態
・感冒および急性鼻副鼻腔炎
・アレルギー性鼻炎
・慢性鼻副鼻腔炎
・まれに鼻腔異物
▶ 鼻閉・鼻づまりとは
(定義)
・鼻から上咽頭にかけて空気の通過を妨げる要素が生じて鼻呼吸がうまくいかない状態。
・ふつうに息をしている状態で鼻を通る空気量が不十分と感じる自覚。
・鼻内気流が乱れた場合に生じる不快感。
(鼻閉を生じうる病態)
・鼻腔を構成する要素(粘膜、骨)の腫脹や変形によるもの
・分泌物、異物など鼻腔内部の空間を充満するもの。
・鼻腔の外側からの圧迫や密閉。
▶ 小児で鼻閉を生じる病態
(急性)
① 感冒
② アレルギー性鼻炎の発作時
(慢性)
③ アレルギー性鼻炎
④ アデノイド増殖症
(まれ)
⑤ 後鼻孔鼻茸
⑥ 後鼻孔閉鎖
⑦ 異物
※ ①②③は鼻粘膜の血管拡張、浮腫、鼻汁貯留、④⑤は腫瘤による閉塞、⑥⑦は物理的閉塞
▶ 感冒(かぜ症候群)
・風邪症状(発熱・咳嗽・鼻漏)は、それぞれが免疫細胞の働きを活発にしたり、気道を確保したり、病原体の侵入を防御したりといった、生体の風邪病原体に対する防衛反応であり、原則として治療の必要はない。
・しかし、諸症状により苦痛や不眠を訴えるときは対症療法を行う。
・小児の症状で親が最も敏感に反応するのは、① 発熱、② 咳嗽や鼻閉による夜間の不眠、である。
▶ 感冒時の鼻汁
・当初、透明で水性であるが、粘性に変化し、数日後には膿性となる。
・そこからは再び粘性、透明となり、乾燥してくる。
▶ 鼻汁の色が意味するもの
・感染(ウイルス感染を含む)が進行すると、鼻汁は透明〜黄色・緑色に変化する。この色調変化には、鼻腔・副鼻腔内への白血球浸潤が関わる。
・好中球や単球は、ミエロペルオキシダーゼの作用により緑色となるアズール親和性顆粒を内包する。
・鼻汁は白血球をほとんど含まないと白色か透明で、白血球数が増えるにつれて黄色(淡緑色)、さらには緑色に変化する。
・従って「黄色い鼻水」は細菌感染を意味するものではなく、炎症反応の結果を表す。
▶ 急性鼻副鼻腔炎の定義
(日本)急性鼻副鼻腔炎診療GL, 2010年
・急性に発症し、発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症で、鼻閉・鼻漏・後鼻漏・咳嗽といった呼吸器症状を呈し、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などを伴う疾患
(欧州)EPOS, European Position Paper on Rhinosinusitis and Nasal Polyps, 2007
・急な発症で以下の症状が2つ以上あり、12週間以内続く状態
✓ 鼻閉
✓ 色の付いた鼻漏
✓ 咳嗽(日中及び夜間)
▶ 10 day mark(ウイルス性と細菌性の線引き)(Ueda&Yoto: Pediatr Inf Dis J 1996)
・急性鼻副鼻腔炎上気道のウイルス感染に続発して発症。急性ウイルス性鼻副鼻腔炎では特別な治療をしなくとも10日以内に治癒する。
・膿性鼻汁が10日間以上持続する場合、あるいは5-7日後に悪化する場合は細菌の二次感染による急性細菌性鼻副鼻腔炎と診断する。
・症状が10〜30日間持続した症例は、X-rayで80%の患者に副鼻腔陰影を認め、上顎洞穿刺、細菌培養では70%で細菌を検出する(Wald)。
▶ 急性鼻副鼻腔炎の分類(欧州)
(10日以内)急性ウイルス性鼻副鼻腔炎
(12週以内)
1.急性ウイルス感染後鼻副鼻腔炎
2.急性細菌性鼻副鼻腔炎(先行する感冒症状+下記のうち少なくとも3項目該当)
✓ 38℃以上の発熱
✓ 二相性症状(経過観察中に症状増悪)
✓ 片側罹患
✓ 激痛
✓ 血沈やCRP上昇
※ 感冒から急性細菌性鼻副鼻腔炎に移行する率は、小児:6-13%、成人:0.5-2%。
▶ 感冒に対する治療法の推奨(EPOS, 2020)
・抗菌薬(1a) → 推奨しない(有用性、副作用ともになし)
・ステロイド鼻噴霧(1a) → 推奨しない
・抗ヒスタミン薬(1a) → 推奨しない(有用性なし)
・血管収縮薬(1a) → (小児には使用しない)
・アセトアミノフェン(1a) → 鼻閉鼻漏に有効
・NSAIDs(1a) → 疼痛と倦怠感に有効
・生食洗浄(1b) → 症状を抑制
▶ 急性ウイルス感染後鼻副鼻腔炎治療法の推奨(EPOS, 2020)
・抗菌薬(1a) → 有効性なし
・ステロイド鼻噴霧(1a) → 全体症状スコアは改善するがエビデンスの質は低く推奨しない
・抗ヒスタミン薬(1b) → 有効性なし
・菌体由来成分(1b) → 優勝期間を短縮するという1報告のみ
▶ 急性細菌性鼻副鼻腔炎治療の推奨(EPOS, 2000)
・抗菌薬(1a-) → 非常に限定されたデータのみ。2県の研究のみでプラセボとの効果の差がない上に有害事象は有意に高い。成人でみられた有用性とは異なることを証明する大規模研究が望まれる。
・粘液融解薬(1b-) → Erdostein を抗菌薬に付与してもプラセボと差はない。
▶ 急性鼻副鼻腔炎の臨床診断基準
① 膿性鼻汁または後鼻漏
② 湿性咳嗽
③ 細菌検査:発熱+膿性鼻汁が少なくとも3-4日連続する場合には急性細菌性鼻副鼻腔炎を疑い細菌検査を考慮することが望ましい(画像診断は有効でない)。
▶ 小児急性鼻副鼻腔炎の検出病原体
・15歳以下の小児41例から検出された病原体(工藤、2008)
(細菌のみ)85.4%
(ウイルス+細菌)12.2%
・上顎洞貯留液からの分離菌(松原:耳鼻臨床93:283,2000)
(40%)S.pneumoniae
(43%)H.Influenzae
(9%)S.aureus
(4%)M.catarrhalis
(2%)S.pyogenes
▶ 小児急性細菌性鼻副鼻腔炎に対する抗菌薬(急性鼻副鼻腔炎診療GL2010、日本鼻科学会)
(第1選択薬)
・AMPC(ABPC)経口 1回16-30mg/kg・1日3回を5日間
(第2・3選択薬)
・CDTR-PI(メイアクト®)経口 1回3mg/kg(高用量6mg/kg)・1日3回を5日間
・CFPN-PI(フロモックス®)経口 1回3mg/kg(高用量4.5mg/kg)・1日3回を5日間
・CFTM-PI(トミロン®)経口 1回3mg/kg(高用量6mg/kg)・1日3回を5日間
・TBPM-PI(オラペネム®)経口 1回4-6mg/kg・1日2回を5日間
▶ 小児慢性鼻副鼻腔炎
(疫学)
・日本の小児鼻副鼻腔炎罹患頻度:3-10%
・東京都学校健診(2018年)によると、アレルギー性鼻炎を除く鼻副鼻腔疾患の有病率は、小学校低学年:6%、中学生:4%、高校生:2%
(病態)
・年齢経過;
(3-5歳)中鼻道自然口ルート中心の病変
(6-7歳)汎副鼻腔病変
(10歳〜)自然軽快する方向
・自然口は成人と比較して大きい → 換気排泄保持
(症状)
・慢性でも症状変化は急激
(検査)
・急性鼻副鼻腔炎で同定される菌がよく検出される
・画像診断は偽陽性が多い
(合併症)
・アレルギー性鼻炎合併例が多い
・鼻茸形成は少ない
(治療)
・急性増悪時は積極的な治療が有効
(予後)
・10歳までは増加しその後減少(石塚)、10歳までに多くは消退(名越)
・成人の慢性副鼻腔炎への移行は16%
・治療抵抗性の慢性鼻副鼻腔炎小児患者の7年後は自然軽快が95%(多くは7歳までに)
▶ 小児慢性鼻副鼻腔炎治療の推奨
・抗菌薬:1b-:短期及び長期の抗菌薬投与に有効性を支持するレベルの高い研究はない。
・ステロイド鼻噴霧:5:有効性を示す証拠はない。
・ステロイド内服:1b+:抗菌薬への相加効果はない
・生食洗浄:1b+:いくつかの試験がある。安全性もある。
・アデノイド切除術:4:症状のある幼児症例には有効。薬物療法が無効な幼児例への施行を支持。
・内視鏡下鼻副鼻腔手術:4:年齢の高い小児で薬物治療抵抗例や既アデノイド切除例に安全で有効。
▶ 小児慢性鼻副鼻腔炎に対する局所治療
・鼻処置
・副鼻腔自然口開大処置
・ネブライザー治療
・上顎洞穿刺
・鼻腔洗浄
・副鼻腔洗浄
✓ 副鼻腔炎治療用カテーテルによる場合(ENT-DIBカテーテル、YAMIK)
✓ 副鼻腔炎の吸引処置:Proetz置換法
✓ 上顎洞洗浄:自然口洗浄、穿刺洗浄
▶ 慢性鼻副鼻腔炎の薬物療法
・抗菌薬
✓ 短期:増悪時
✓ 長期:マクロライド少量
・粘液融解薬/粘液線毛系修復薬
・ロイコトリエン拮抗薬
・ステロイド鼻噴霧薬
・漢方薬
▶ 小児のマクロライド療法ガイドライン(試案)
・使用薬剤:14員環マクロライドを半量〜1/4量で
✓ EM:8〜12mg/kg
✓ CAM:2〜5mg/kg
・投与期間:
✓ 症状が消退したら休薬
✓ 消退しなければ2ヶ月継続して効果を判定
✓ それでも効かないときは、さらに1か月投与 → 無効なら中止し他の治療法を考慮
・急性増悪時:起炎菌を同定し、適切な抗菌薬を投与
・対象:3歳以上で膿性または粘膿性鼻汁あり
▶ 小児慢性鼻副鼻腔炎の漢方治療
(標治)
・二重盲検比較試験やシステマティック・レビューはない。症例報告では有効な報告が多い。
✓ 辛夷清肺湯:マクロライド無効例の73%に有効(渋谷、1995年)
✓ 葛根湯加川芎辛夷:4か月投与で75%に有効(伊藤、1984年)
✓ 荊芥連翹湯:マクロライド無効例の70%に有効(岡村、2004年)
(本治)
✓ 小建中湯(99)
✓ 黄耆建中湯(98)
・小児の基本処方薬で、体力低下時に適するが、特に証にこだわらない
・くすぐったがりの小児でよく効く
・甘くて飲みやすい(膠飴含有)
・黄耆建中湯は小建中湯に黄耆を加え、より気を補う。
・小建中湯は急性副鼻腔炎の反復を減らすという報告あり
▶ 鼻閉に対する漢方薬
・麻黄湯(27):乳児の鼻閉塞・哺乳困難の適応あり
・他の麻黄含有薬剤でも有効
・長期投与は避ける
・乳児なら少量のお湯で泥状にしてよく練り、清潔な手で口蓋や頬粘膜に塗りつける。
・幼児ならパンに塗るチョコクリームに混ぜる。あるいはバニラアイス、チョコアイスに混ぜて飲ませる。
・学童なら薬の意味を理解させて、納得して飲んでもらう。
▶ 生理食塩水による洗浄の効果
(アレルギー性鼻炎)
・成人及び小児アレルギー性鼻炎患者において、行わない場合と比較して、疾患の重症度を最大3ヶ月低下させる可能性がある。しかしエビデンスの質は非常に低い(Cochrane Library 2018)
数年前に元大学教授の耳鼻科医(東京みみ・はな・のどサージクリニック、市村恵一先生)による講演を聴いたことがあり、その際に目からうろこが落ちた記憶があります。その講義メモが残っていましたので、ポイントと感じた箇所を引用・抜粋し、備忘録としてここに残しておきます。
近隣の耳鼻科では、鼻汁・鼻閉遷延例、反復例を抗生物質漬けにすることが多くて辟易しているのですが、市村先生のお話は「抗菌薬に有用性なし」「細菌性を疑う場合はまず細菌培養検査を」と現実と大きく異なる内容でしたね。大学教授と開業医の違いでしょうか・・・。
ついでに言うと、抗ヒスタミン薬の代わりに抗アレルギー薬を処方している耳鼻科医・小児科医も多いです。抗ヒスタミン薬が効く理由は抗コリン効果のため、抗ヒスタミン効果のみの抗アレルギー薬ははっきり言って風邪の鼻水に効きません。「処方された薬を飲んでいるけどよくならないので・・・」と当院に流れてきます。
私はそんな患者さんに漢方薬を提案しています。こちらの方が手応えがあり、乳幼児の夜の鼻づまりが軽くなるので喜ばれます。
▶ 鼻汁を構成するもの
① 鼻副鼻腔からの分泌液
・血液成分や組織液の移行したもの
・水やイオンが能動輸送により移行したもの
・粘膜の胚細胞や鼻腺から分泌された液
② 涙液
③ 呼気から凝結した水
▶ 鼻汁の基本知識
・健常人では粘液は1日に1000ml以上産生される。多くは吸気への加湿に使われ、残りは線毛運動で咽頭に運ばれ無意識に嚥下される。
・鼻分泌液量は刺激が加わると増量する。
・鼻腺の分泌刺激には、炎症により放出されるメディエーターの直接作用と、神経反射を介する間接作用の二通りがある。
▶ 鼻漏とは
・鼻汁の性質が正常と異なったり、多量に存在して外鼻孔や後鼻孔から流れ出る状態を指す。
・水性(漿液性)、粘性、膿性、および粘膿性、血性がある。
① 漿液性鼻漏:鼻腺からの反射性分泌が主体をなし、鼻の過敏状態を伴うことが多い。感冒の初期、アレルギー性鼻炎、特発性鼻炎、鼻性髄液漏など。
② 粘性鼻漏:胚細胞由来のものが主体で、持続的な炎症性刺激が存在する慢性副鼻腔炎が主で、アレルギー性鼻炎の非発作期にも見られる。
③ 膿性鼻漏:細菌感染の関与が考慮される。急性・慢性副鼻腔炎が多く、まれに異物が原因となる。
④ 血性鼻漏:組織の破壊・損傷が何らかの形で関与している。腫瘍、肉芽腫、鼻出血など。
▶ 小児で鼻水を生じる病態
・感冒および急性鼻副鼻腔炎
・アレルギー性鼻炎
・慢性鼻副鼻腔炎
・まれに鼻腔異物
▶ 鼻閉・鼻づまりとは
(定義)
・鼻から上咽頭にかけて空気の通過を妨げる要素が生じて鼻呼吸がうまくいかない状態。
・ふつうに息をしている状態で鼻を通る空気量が不十分と感じる自覚。
・鼻内気流が乱れた場合に生じる不快感。
(鼻閉を生じうる病態)
・鼻腔を構成する要素(粘膜、骨)の腫脹や変形によるもの
・分泌物、異物など鼻腔内部の空間を充満するもの。
・鼻腔の外側からの圧迫や密閉。
▶ 小児で鼻閉を生じる病態
(急性)
① 感冒
② アレルギー性鼻炎の発作時
(慢性)
③ アレルギー性鼻炎
④ アデノイド増殖症
(まれ)
⑤ 後鼻孔鼻茸
⑥ 後鼻孔閉鎖
⑦ 異物
※ ①②③は鼻粘膜の血管拡張、浮腫、鼻汁貯留、④⑤は腫瘤による閉塞、⑥⑦は物理的閉塞
▶ 感冒(かぜ症候群)
・風邪症状(発熱・咳嗽・鼻漏)は、それぞれが免疫細胞の働きを活発にしたり、気道を確保したり、病原体の侵入を防御したりといった、生体の風邪病原体に対する防衛反応であり、原則として治療の必要はない。
・しかし、諸症状により苦痛や不眠を訴えるときは対症療法を行う。
・小児の症状で親が最も敏感に反応するのは、① 発熱、② 咳嗽や鼻閉による夜間の不眠、である。
▶ 感冒時の鼻汁
・当初、透明で水性であるが、粘性に変化し、数日後には膿性となる。
・そこからは再び粘性、透明となり、乾燥してくる。
▶ 鼻汁の色が意味するもの
・感染(ウイルス感染を含む)が進行すると、鼻汁は透明〜黄色・緑色に変化する。この色調変化には、鼻腔・副鼻腔内への白血球浸潤が関わる。
・好中球や単球は、ミエロペルオキシダーゼの作用により緑色となるアズール親和性顆粒を内包する。
・鼻汁は白血球をほとんど含まないと白色か透明で、白血球数が増えるにつれて黄色(淡緑色)、さらには緑色に変化する。
・従って「黄色い鼻水」は細菌感染を意味するものではなく、炎症反応の結果を表す。
▶ 急性鼻副鼻腔炎の定義
(日本)急性鼻副鼻腔炎診療GL, 2010年
・急性に発症し、発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症で、鼻閉・鼻漏・後鼻漏・咳嗽といった呼吸器症状を呈し、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などを伴う疾患
(欧州)EPOS, European Position Paper on Rhinosinusitis and Nasal Polyps, 2007
・急な発症で以下の症状が2つ以上あり、12週間以内続く状態
✓ 鼻閉
✓ 色の付いた鼻漏
✓ 咳嗽(日中及び夜間)
▶ 10 day mark(ウイルス性と細菌性の線引き)(Ueda&Yoto: Pediatr Inf Dis J 1996)
・急性鼻副鼻腔炎上気道のウイルス感染に続発して発症。急性ウイルス性鼻副鼻腔炎では特別な治療をしなくとも10日以内に治癒する。
・膿性鼻汁が10日間以上持続する場合、あるいは5-7日後に悪化する場合は細菌の二次感染による急性細菌性鼻副鼻腔炎と診断する。
・症状が10〜30日間持続した症例は、X-rayで80%の患者に副鼻腔陰影を認め、上顎洞穿刺、細菌培養では70%で細菌を検出する(Wald)。
▶ 急性鼻副鼻腔炎の分類(欧州)
(10日以内)急性ウイルス性鼻副鼻腔炎
(12週以内)
1.急性ウイルス感染後鼻副鼻腔炎
2.急性細菌性鼻副鼻腔炎(先行する感冒症状+下記のうち少なくとも3項目該当)
✓ 38℃以上の発熱
✓ 二相性症状(経過観察中に症状増悪)
✓ 片側罹患
✓ 激痛
✓ 血沈やCRP上昇
※ 感冒から急性細菌性鼻副鼻腔炎に移行する率は、小児:6-13%、成人:0.5-2%。
▶ 感冒に対する治療法の推奨(EPOS, 2020)
・抗菌薬(1a) → 推奨しない(有用性、副作用ともになし)
・ステロイド鼻噴霧(1a) → 推奨しない
・抗ヒスタミン薬(1a) → 推奨しない(有用性なし)
・血管収縮薬(1a) → (小児には使用しない)
・アセトアミノフェン(1a) → 鼻閉鼻漏に有効
・NSAIDs(1a) → 疼痛と倦怠感に有効
・生食洗浄(1b) → 症状を抑制
▶ 急性ウイルス感染後鼻副鼻腔炎治療法の推奨(EPOS, 2020)
・抗菌薬(1a) → 有効性なし
・ステロイド鼻噴霧(1a) → 全体症状スコアは改善するがエビデンスの質は低く推奨しない
・抗ヒスタミン薬(1b) → 有効性なし
・菌体由来成分(1b) → 優勝期間を短縮するという1報告のみ
▶ 急性細菌性鼻副鼻腔炎治療の推奨(EPOS, 2000)
・抗菌薬(1a-) → 非常に限定されたデータのみ。2県の研究のみでプラセボとの効果の差がない上に有害事象は有意に高い。成人でみられた有用性とは異なることを証明する大規模研究が望まれる。
・粘液融解薬(1b-) → Erdostein を抗菌薬に付与してもプラセボと差はない。
▶ 急性鼻副鼻腔炎の臨床診断基準
① 膿性鼻汁または後鼻漏
② 湿性咳嗽
③ 細菌検査:発熱+膿性鼻汁が少なくとも3-4日連続する場合には急性細菌性鼻副鼻腔炎を疑い細菌検査を考慮することが望ましい(画像診断は有効でない)。
▶ 小児急性鼻副鼻腔炎の検出病原体
・15歳以下の小児41例から検出された病原体(工藤、2008)
(細菌のみ)85.4%
(ウイルス+細菌)12.2%
・上顎洞貯留液からの分離菌(松原:耳鼻臨床93:283,2000)
(40%)S.pneumoniae
(43%)H.Influenzae
(9%)S.aureus
(4%)M.catarrhalis
(2%)S.pyogenes
▶ 小児急性細菌性鼻副鼻腔炎に対する抗菌薬(急性鼻副鼻腔炎診療GL2010、日本鼻科学会)
(第1選択薬)
・AMPC(ABPC)経口 1回16-30mg/kg・1日3回を5日間
(第2・3選択薬)
・CDTR-PI(メイアクト®)経口 1回3mg/kg(高用量6mg/kg)・1日3回を5日間
・CFPN-PI(フロモックス®)経口 1回3mg/kg(高用量4.5mg/kg)・1日3回を5日間
・CFTM-PI(トミロン®)経口 1回3mg/kg(高用量6mg/kg)・1日3回を5日間
・TBPM-PI(オラペネム®)経口 1回4-6mg/kg・1日2回を5日間
▶ 小児慢性鼻副鼻腔炎
(疫学)
・日本の小児鼻副鼻腔炎罹患頻度:3-10%
・東京都学校健診(2018年)によると、アレルギー性鼻炎を除く鼻副鼻腔疾患の有病率は、小学校低学年:6%、中学生:4%、高校生:2%
(病態)
・年齢経過;
(3-5歳)中鼻道自然口ルート中心の病変
(6-7歳)汎副鼻腔病変
(10歳〜)自然軽快する方向
・自然口は成人と比較して大きい → 換気排泄保持
(症状)
・慢性でも症状変化は急激
(検査)
・急性鼻副鼻腔炎で同定される菌がよく検出される
・画像診断は偽陽性が多い
(合併症)
・アレルギー性鼻炎合併例が多い
・鼻茸形成は少ない
(治療)
・急性増悪時は積極的な治療が有効
(予後)
・10歳までは増加しその後減少(石塚)、10歳までに多くは消退(名越)
・成人の慢性副鼻腔炎への移行は16%
・治療抵抗性の慢性鼻副鼻腔炎小児患者の7年後は自然軽快が95%(多くは7歳までに)
▶ 小児慢性鼻副鼻腔炎治療の推奨
・抗菌薬:1b-:短期及び長期の抗菌薬投与に有効性を支持するレベルの高い研究はない。
・ステロイド鼻噴霧:5:有効性を示す証拠はない。
・ステロイド内服:1b+:抗菌薬への相加効果はない
・生食洗浄:1b+:いくつかの試験がある。安全性もある。
・アデノイド切除術:4:症状のある幼児症例には有効。薬物療法が無効な幼児例への施行を支持。
・内視鏡下鼻副鼻腔手術:4:年齢の高い小児で薬物治療抵抗例や既アデノイド切除例に安全で有効。
▶ 小児慢性鼻副鼻腔炎に対する局所治療
・鼻処置
・副鼻腔自然口開大処置
・ネブライザー治療
・上顎洞穿刺
・鼻腔洗浄
・副鼻腔洗浄
✓ 副鼻腔炎治療用カテーテルによる場合(ENT-DIBカテーテル、YAMIK)
✓ 副鼻腔炎の吸引処置:Proetz置換法
✓ 上顎洞洗浄:自然口洗浄、穿刺洗浄
▶ 慢性鼻副鼻腔炎の薬物療法
・抗菌薬
✓ 短期:増悪時
✓ 長期:マクロライド少量
・粘液融解薬/粘液線毛系修復薬
・ロイコトリエン拮抗薬
・ステロイド鼻噴霧薬
・漢方薬
▶ 小児のマクロライド療法ガイドライン(試案)
・使用薬剤:14員環マクロライドを半量〜1/4量で
✓ EM:8〜12mg/kg
✓ CAM:2〜5mg/kg
・投与期間:
✓ 症状が消退したら休薬
✓ 消退しなければ2ヶ月継続して効果を判定
✓ それでも効かないときは、さらに1か月投与 → 無効なら中止し他の治療法を考慮
・急性増悪時:起炎菌を同定し、適切な抗菌薬を投与
・対象:3歳以上で膿性または粘膿性鼻汁あり
▶ 小児慢性鼻副鼻腔炎の漢方治療
(標治)
・二重盲検比較試験やシステマティック・レビューはない。症例報告では有効な報告が多い。
✓ 辛夷清肺湯:マクロライド無効例の73%に有効(渋谷、1995年)
✓ 葛根湯加川芎辛夷:4か月投与で75%に有効(伊藤、1984年)
✓ 荊芥連翹湯:マクロライド無効例の70%に有効(岡村、2004年)
(本治)
✓ 小建中湯(99)
✓ 黄耆建中湯(98)
・小児の基本処方薬で、体力低下時に適するが、特に証にこだわらない
・くすぐったがりの小児でよく効く
・甘くて飲みやすい(膠飴含有)
・黄耆建中湯は小建中湯に黄耆を加え、より気を補う。
・小建中湯は急性副鼻腔炎の反復を減らすという報告あり
▶ 鼻閉に対する漢方薬
・麻黄湯(27):乳児の鼻閉塞・哺乳困難の適応あり
・他の麻黄含有薬剤でも有効
・長期投与は避ける
・乳児なら少量のお湯で泥状にしてよく練り、清潔な手で口蓋や頬粘膜に塗りつける。
・幼児ならパンに塗るチョコクリームに混ぜる。あるいはバニラアイス、チョコアイスに混ぜて飲ませる。
・学童なら薬の意味を理解させて、納得して飲んでもらう。
▶ 生理食塩水による洗浄の効果
(アレルギー性鼻炎)
・成人及び小児アレルギー性鼻炎患者において、行わない場合と比較して、疾患の重症度を最大3ヶ月低下させる可能性がある。しかしエビデンスの質は非常に低い(Cochrane Library 2018)
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