<子宮頚がんの原因は“ウイルス感染”>
現在、若い女性に子宮頚がんが増えています。日本でも年間3000人弱の女性が子宮頚がんにより命を奪われています。
そして子宮頚がんの原因のほとんどがHPV(Human Papiloma Virus、ヒトパピローマウイルス)の感染であることがわかっています。
ウイルス感染がガンの原因になるなんて、ピンときませんね。
でもこれは歴然とした事実であり、1982年に原因となるウイルスが発見され、発見した科学者には2008年にノーベル医学生理学賞が授与されています。他にもB型肝炎ウイルスが肝癌の原因になる例も知られています。
その、後世界中の医学者が研究を重ね、その成果として登場したのが子宮頚がんワクチン(HPVワクチン)です。
HPVワクチンはHPV感染を予防することにより、その先にある子宮頚がんを予防する医薬品です。つまり、
1.HPVワクチンはHPV感染を予防する
2.子宮頚がんの原因はHPV感染
3.HPVワクチンは子宮頚がんを予防する
という三段論法ですね。
<子宮頚がんは “マザー・キラー”>
30〜40代の女性は子育て真っ最中・・・子育て中の母親が病で倒れるため「マザー・キラー」と呼ばれています。
子宮頚がんにより、毎年世界中で約30万人、日本では3000人弱の女性が死亡しています。自殺を除くと 20歳代の女性の死亡原因第1位であり、交通事故よりも多くの女性の命を奪っている恐ろしい病気なのです。
子宮頚がんは健診で発見することが可能(発見率:50〜80%)です。しかし初期の段階でも外科治療が必要になることが多く、その後不妊や流産のリスクが高くなります。進行すれば子宮摘出、さらに進行すると命に関わります。
もちろん、HPVに感染した全員ががんになるわけではありません。
女性が感染すると一過性で終わることがほとんどです。しかし一部は持続感染状態となり、その中のさらに一部は数年〜数十年かけてがんへ進行するのです。
そしてHPVワクチンはこの感染を予防します。
<HPVワクチンについて>
子宮頚がんの多くはHPVワクチンで予防可能であり、当初は“子宮頚がんワクチン”と呼ばれました。ワクチンはHPV感染を90%以上予防してくれるため、それに続くがんの発生が激減します。
ただし、HPVは100種類以上のサブタイプに分類され、その中でがん化しやすいタイプがわかっていますが、従来のワクチン(サーバリックス、 ガーダシル)のカバー率は7割弱にとどまりました。 近年「シルガード9」という原因ウイルスの9割をカバーするワクチンが登場し、当院ではこれを採用しています。
<HPVワクチン中止・再開の経緯>
日本では副反応への懸念から2013年以降“積極的勧奨中止”となり、一時期 80%を越えていた接種率はゼロ%に近い状態まで下がりました。
▶ 副反応が疑われた症状:
ワクチンを接種した338万人の0.002%(186人、2万人に1人)に副反応が疑われる症状が観察されました。接種後すぐに症状が出るわけではなく、平均期間は接種後9.1ヶ月で、 報告された症状は、発熱、倦怠感、かゆみ、起床困難、はきけ、手足の痛み、頭痛、しびれ、不随意運動、関節痛、腹痛、めまい、失神などです。
▶ 副反応の検証:
これらの症状は中学生女子に見られる起立性調節障害の症状とオーバーラップし、 ワクチンによる症状なのか、ワクチンに関係なく出た症状なのか、区別することは困難でした。
そのような場合、統計学が役に立ちます。
(HPVワクチンを接種した女子)vs.(接種していない女子)で副反応様症状の発生頻度を比較検討する大規模な調査が名古屋市で行われ、“両者間に差がない”ことが報告されました(Nagoya Study、2018年)。
もし、HPVワクチンが悪さしている副反応なら、接種した女子に多くみられるはずですよね。つまり、問題視された症状群は、ワクチンと関係がない可能性が高いことが科学的に証明されたのです。
▶ 世界の状況:
日本ではマスコミのあおり報道の影響もあって副反応様症状が社会問題化しましたが、この現象は世界を見渡すと例外的です。世界保健機関(WHO)、米国疾病予防管理センター(CDC)、欧州医薬品庁(EMA) は「HPVワクチンは安全」との声明を出しており、医学的に最も信頼されているコクランも「有効性が高く安全性に問題ない」と評価しています(2018年)。
健診受診率とHPVワクチン接種率を上げることができれば、今世紀末までに世界で子宮頚がんを撲滅可能と報告されています(Lancet Oncology, 2019年)。
▶ 日本の惨状:
積極的勧奨停止前の時点で、日本では338万人に接種が済んでおり、試算では彼女らが将来、子宮頚がんで命を落とす可能性を約11000人から4000人に減らしてくれることになります。
一方、積極的勧奨中止期間に対象となる女子は300万人を越え、そのほとんどが接種を受けていません。試算では将来1万人以上が子宮頚がんで死亡することになります(接種すればそのうち約6800人救命されるはず)。
▶ HPVワクチン再開:
日本の状況を問題視した日本政府は、2022年に“積極的勧奨停止”を撤回し、ふつうの定期接種に戻しました。事実上の「ワクチン再開」です。
しかし1度広まった副反応に対する不安は、科学的に否定されても人々の心から拭い去ることはなかなかできません。
再開後も、ワクチン接種率は低迷しました。
▶ キャッチアップ接種:
接種機会を逃した女子大生達の声「HPVワクチン for me」がきっかけとなり、接種機会を再度与える制度ができました。これを“キャッチアップ接種”と呼びます。
啓蒙不足から指定された期間内の接種率は低迷し、期間延長が議論されました。
そして今回、最後の延長として「2025年3月いっぱいまでに初回接種をした人は定期接種と見なして公費負担とし、その後の接種も公費負担となる」ことが公表されました。
<参考>
・(マンガ)子宮頸がん等予防 9価HPVワクチンとは?(NHK)
・(マンガ)ストーリーで知る「子宮頚がん」(MSD)
・HPVワクチンに関するQ&A(厚生労働省)
・子宮頚がんと子宮体癌の基礎知識(日本対がん協会)
・子宮頚がんとその他のヒトパピローマウイルス(HPV)関連がんの予防ファクトシート2023(国立がん研究センター)
・HPVワクチンと接種後に報告されている症状は関係ない〜名古屋市7万人調査が論文として世界に発信(岩永直子、BuzzFeed News、2018年)
コメント