アトピー性皮膚炎(かゆみのある乾燥性湿疹)の治療の基本はステロイド軟膏です。
しかし数十年前から“恐いくすり”というイメージができあがり、処方しても患者さんはなかなか十分量を塗ってくれません。
すると効果が十分でないので「ステロイド軟膏は効かない」と思い込み、ここから悪循環がはじまって、アトピービジネス(アトピー性皮膚炎患者相手に詐欺行為に近い治療を行う業者)や民間療法の泥沼にはまってしまいます。
現在、一部の重症例を除いて、約9割のアトピー性皮膚炎患者さんはステロイド軟膏でコントロールできることがわかっています。
ステロイド軟膏に関する不安・疑問を少しでも減らすべく、ここに多い質問を書き出し、小児科医の私の意見も添えましたのでご参照ください。
Q. 「ステロイド」とはどんな薬ですか?
A. 人の体内で造られる「ステロイドホルモン」をお手本に、その作用を治療に応用する目的で開発・合成された薬です。
腎臓の上にある小さな臓器「副腎」で作られる副腎皮質ホルモンの一つ「糖質コルチコイド」には免疫抑制作用、血管収縮作用、抗炎症作用などがあり、これがお手本です。
アレルギー疾患に対しては「抗炎症作用」を期待して広く用いられています。皮膚の炎症(アトピー性皮膚炎)にはステロイド軟膏、気道の炎症(気管支喘息)には吸入ステロイド、鼻粘膜の炎症(アレルギー性鼻炎)にはステロイド点鼻が主役です。
Q. ステロイド軟膏はこわい薬ですか?
A. 正しく使えば、良い薬です。
皮膚疾患の治療において、これほど頼りになる薬は他にありません。効く薬には副作用もあるのがふつうで、逆に副作用のないの薬はあまり効かないと言ってもよいでしょう。医者にはこれを使いこなす“さじ加減”が求められます(適正使用)。
この質問は「ハサミは危ない道具ですか?」という質問に似ています。ハサミは日常生活に不可欠の便利な道具ですが、刃物であることに変わりなく、使い方を間違えれば凶器になり得ます。「ステロイド軟膏は怖いから使わない」という考えは「ハサミは怖いから使わない」というのと同じかもしれません。
Q. アトピー性皮膚炎にステロイド軟膏は必要ですか?
A. はい。
アトピー性皮膚炎で皮膚が赤くなったり、ジュクジュクしたり、かゆみが出るのは皮膚表面で炎症が起こっているためであり、ステロイド軟膏にはこの炎症を鎮める作用(抗炎症作用)があります。同様の効果のある他薬はプロトピック軟膏のみです(2歳以上)。
ステロイド軟膏にはたくさんの種類がありますが、炎症を抑える強さにより5段階に分類されており、実際には皮膚からの吸収率を考慮して複数の軟膏を使い分けます。
(I群)Strongest:デルモベート
(II群)Very strong:アンテベート、マイザー、ネリゾナ、パンデル
(III群)Strong:エクラー、メサデルム、リンデロンV、リドメックス
(IV群)Medium:ロコイド、アルメタ、キンダベート
(V群)Weak:プレドニン(眼軟膏)
当院での基本的な使い分けは、皮膚の薄さと吸収度を考慮し、
・顔と首はロコイド(IV群)
・体と手足はリンデロンV(III群)
・頭皮はリドメックスローション(III群)
・目の周りはプレドニン眼軟膏(V群)
とし、治療への反応を観察しながらアレンジしています。
(注意!)ステロイド軟膏は皮膚の炎症を治しますが、炎症を起こしやすい乾燥肌まで治すことはできません。炎症が落ち着いたらゆっくりと保湿剤に置き換えて炎症が再燃するのをずっと予防する必要があります。
Q. ステロイド軟膏は一度使うとやめられなくなりますか?
A. 重症度によります。
ちなみに当院で治療した赤ちゃん(軽症〜中等症の一部)では半年後に9割がやめられています。
当院ではかゆみを伴う乳児湿疹(≒アトピー性皮膚炎)に対して、積極的にステロイド軟膏で治療しています。通院を続けてしっかり治療した赤ちゃんは約9割で通院を卒業、つまりステロイド軟膏をやめられて保湿剤中心のケアに落ち着いています。
残りの1割は、通院が途切れた詳細不明例や、当院で使う強さの軟膏ではコントロールしきれない中等症~重症例ため皮膚科専門医へ誘導・紹介した例です。
皮膚科専門医によると、大人ではさらに強力な軟膏療法を行ってもコントロールできない重症例が約5%存在し、近年、分子標的薬が使用されはじめました。
Q. ステロイド軟膏をやめると“リバウンド”が起きますか?
A. ステロイド軟膏をやめると湿疹が悪化することがありますが、これを“リバウンド”と医学的には呼びません。
湿疹・アトピー性皮膚炎は慢性の病気であり、症状が落ち着いているように見えても、程度の差はあれ、炎症のくすぶりがずっと続いています。
自己判断で不適切に塗るのをやめたために、病気が再び勢いを増して湿疹が悪化しただけなので、ステロイドを使ったからひどくなったわけではありません。
Q. ステロイド軟膏を塗り続けると皮膚に蓄積しますか?
A. 蓄積することはありません。
仮に皮膚や体の中に薬が蓄積すると仮定すると、軟膏の効果が続くはずです。
でも塗るのをやめると湿疹は悪化することを皆さん経験していると思われ、実際にはそうではないことをご存知のはずです。
Q. ステロイド軟膏を塗った場所に日光が当たるとダメですか?
A. 問題ありません。
ステロイド軟膏を塗った後に日光に当たると強い色素沈着が起こるという現象(いわゆる“ステロイド焼け”)に医学的根拠はありません。また、ステロイド軟膏により色素沈着が生じることを示した医学論文も存在しません。
Q. ステロイド軟膏の副作用について教えてください。
A. ステロイド軟膏の副作用は塗った場所、すなわち皮膚に出ます。不適切に長期使用していると、細胞増殖抑制作用により皮膚が薄く弱くなります。
よく話題になる全身性副作用は、基本的に全身投与(飲み薬や注射)の場合です。
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ステロイド軟膏による副作用 |
ステロイド全身投与による副作用 |
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(皮膚)皮膚萎縮、毛細血管拡張、酒皶様皮膚炎、色素脱失、多毛、ニキビ、皮膚の真菌感染症、皮膚線条、等 (皮膚以外)緑内障 |
易感染性、骨粗鬆症、糖尿病、消化性潰瘍、血栓症、満月様顔貌・中心性肥満、動脈硬化・高脂血症、高血圧症、白内障・緑内障、副腎不全、ニキビ、大腿骨頭壊死、等 |
【皮膚萎縮】(高齢者で多い)
(strong以上を数ヶ月毎日塗布で注意)
・皮膚が薄く弱くなります(傷つきやすくなります)。
【毛細血管拡張】(中高年で多い)
(strong以上を数ヶ月毎日塗布で注意)
・皮膚の毛細血管が目立ち、透けて見えたり、周囲と比べて赤く見えるようになります。
・顔に出るといわゆる“赤ら顔”。その初期症状は、出たり消えたりする赤み(潮紅発作)で、温度差な
どの軽い刺激で顔が赤くなりますので、この症状が見られたら要注意です。
【酒さ様皮膚炎】(中年女性で多い)
(strongでは数ヶ月、very strongでは1ヶ月毎日塗布で注意)
・顔面に皮膚萎縮・毛細血管拡張・ざ瘡(=ニキビ)様発疹がそろって生じたものです。
【多毛】(子どもに多い)
(手足にstrong以上を数ヶ月毎日塗布で注意)
・ステロイドの男性ホルモン作用によります。大人にはほとんど見られません。
【皮膚線条】(思春期に多い)
・皮膚の亀裂による線条。皮膚が急速に引き延ばされることで、真皮のコラーゲン・弾力線維に亀裂が入ることにより生じます。
※ ステロイド軟膏の副作用以外にも、体が急に成長する時期、急に体重が増えたとき、妊娠したとき(妊娠線として有名)などにも出現します。
【緑内障】(全年齢で起こり得ます)
・目の周りにステロイド軟膏を毎日長期に塗ると、副作用として眼圧が上がる「緑内障」の発症リスクがあります。軽症の場合は無症状ですが、重症では失明に至ることが報告されています。
・体質により、眼圧が上がりやすい人(responder)と上がりにくい人(non-responder)がいるようです。子どもの発症報告は多くはありませんが、大人より眼圧が上昇しやすいため、注意が必要です。
・当院では一番弱いweakからはじめ、治療効果が乏しいときはmediumに変更し、毎日塗る期間は1~2週間に限定し、その後は減量(間欠塗布)しています。
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