果物・野菜アレルギー症状にはいくつものパターンがあり、混在することもあります。
代表的なもの3タイプを解説します。この中で一番多いのは2です。
1.食べると2時間以内にじんま疹が出たり、吐いたり、咳き込んで苦しくなったり。
2.食べた直後~5分以内に口やのどの違和感(※1)が出る。
3.仮性アレルゲン(薬理活性物質)によるアレルギー類似症状
※ 1)かゆい・ヒリヒリ・イガイガなど。子どもは違和感を「辛い」「苦い」「のどが痛い」「口が痛い」などと表現しますので、好き嫌いと間違わないよう注意が必要です。
1:一般の食物アレルギーで、乳幼児期に発症し、その後軽症化し、6歳までに80〜90%が治癒します。全身症状が出るため、重症例ではアナフィラキシー(一度に複数のアレルギー症状が出る)のリスクがあります。日本では多くありません。
2:「口腔アレルギー症候群(OAS、Oral Allergy Syndrome)」「花粉・食物アレルギー症候群(PFAS/PFS、Pollen-Food Allergy Syndrome)」
OASは花粉症との関連が指摘されており、花粉アレルゲンの構造と果物アレルゲン成分の構造が似ているため、体が反応してしまいます(これを交差抗原性あるいは交差反応と呼びます)。近年、大人で増えてきた果物アレルギーの多くはこのタイプで、その背景には花粉症の増加があるのです。花粉ではありませんがラテックス(天然ゴム)もこのようなメカニズムで反応します(ラテックス-フルーツ症候群)。
特徴として以下のことが挙げられます;
・幼児期以降に発症し、一生続く(治らない)。
・口の中の症状にとどまり、無理に大量を食べなければ全身に広がることはまれ(※ 1)。
・何種類もの果物に反応することが多い。
・生では症状が出るが、加熱調理したものや加工品では出にくい。同じ果物では、熟したものに反応が強い。
・同じ果物でも症状が出るときと出ないときがある。産地や季節、熟度、部位によりアレルゲン含有量が異なるため。
・(関連した)花粉が飛散する季節には症状が起こりやすくなる。
・診断:血液検査では特異的IgE抗体が陽性になりにくく(※2)、陰性でも否定できない。皮膚テスト(プリックプリックテスト)が診断に有用であるが、それでも100%ではない。 一方、OAS症状と捉えて関連花粉を調べるとその特異的IgE抗体は100%の感度で陽性となる。
・治療:「食べない」に尽きる、あるいは症状が出ない程度に食べること。 ビワ、モモ、豆乳は強い全身症状が誘発されやすいので原則除去。
※ 1)症状は口腔・咽頭の粘膜に限局した即時型アレルギーで、全身症状はまれです(ゼロではありません)。この理由は、原因となる食物アレルゲンが唾液・胃液などに含まれる消化酵素で容易に分解されてそのアレルゲン性を失い、腸から吸収されてもアレルギー症状を起こせなくなるから、と説明されています。
※ 2)果物・野菜中のアレルゲン成分(PR-10やプロフィリンなどのコンポーネント)は含有量が少なく、種々の要因で抗原性を失いやすい蛋白質であるため、特異的IgE抗体検査では偽陰性になりやすい(約20%)。
(花粉アレルゲン → 交差反応する果物類)
花粉と果物の関係を大まかにいうと「シラカンバ花粉とバラ科の果実」「ブタクサ花粉とウリ科の果実」「スギ花粉とナス科」などの組み合わせが知られています。
アレルギー性鼻炎患者さんでの発症率は、ハンノキ陽性者の7〜55%(70%という報告も)、イネ科花粉症では約20%、ヨモギ花粉症では約40%の患者さんに果物・野菜アレルギー症状の合併があると報告されています。
検査で陽性になった項目、食べて症状が出た果物から関係を探してみてください;
★ 頻度が高いものを赤字で表示;
・ハンノキ(※1) → リンゴ、モモ、イチゴ、ナシ、ビワ、サクランボ、スモモ、アンズ、キウイ、西洋ナシ、マンゴー、ニンジン、セロリ、パセリ、ジャガイモ、トマト
・イネ科(※2) → メロン、スイカ、オレンジ、キウイ、キュウリ、ジャガイモ、トマト
・ブタクサ → メロン、スイカ、キュウリ、バナナ、ズッキーニ
・ヨモギ → マンゴー、ニンジン、セロリ、パセリ
・スギ → ジャガイモ、トマト
・ラテックス → キウイ、バナナ、アボガド、マンゴー、クリ
※1)ハンノキ:ブナ目カバノキ科でシラカンバに近く、春の花粉症の原因になります。モモ、ビワ、豆乳(後述)では全身症状(呼吸困難、アナフィラキシー)を起こす可能性があるので要注意です。
※2)イネ科花粉:カモガヤ、ホソムギ、オオアワガエリなど。
OASのひとつで、ハンノキ・シラカンバ花粉と豆乳成分の交差抗原性により発症し、重症化することがあるので注目されています。豆乳をたくさん飲んだことが原因ではなく、花粉症になったからそのおまけで豆乳にも反応する体質となりアレルギー症状が出ると考えてください。
生の豆乳は危険ですが、納豆や豆腐は食べられる例が多いのが不思議です(でもやわらかい・水っぽい豆腐は要注意)。豆乳を飲むと鼻汁・口腔内症状にとどまらず全身じんま疹や、アナフィラキシーを起こすこともあります。
(症状の出やすさ)
豆乳>>枝豆・もやし(緑豆も)・冷や奴・湯葉>湯通しした豆腐>油揚げ>・・・(煮豆・味噌・しょう油・納豆では無症状)
なお、この交差抗原性のある成分(PR-10というアレルギーコンポーネント)はバラ科の果実(リンゴ、モモ、サクランボ、ナシ、ビワなど)にも含まれており、豆乳アレルギーの方の半数以上でこれらの果物を食べたときにも口腔咽頭症状が出ます。
アレルギー検査で大豆が陰性のことがあり(陽性率50%)診断に役に立ちませんが、より詳細な Gly m 4抗体で診断可能です。
3:仮性アレルゲン(別名:薬理活性物質)による症状。
仮性アレルゲンとは食品中に含まれる化学物質で、アレルギー反応と同じような皮膚の発赤やかゆみを引き起こします。ヒスタミン・セロトニン・チラミンなどの生体アミン類や、アセチルコリン(神経伝達物質)などが代表的です。ほとんどの場合、症状が軽く一過性で、1時間以内に消失します。大量に摂取した場合は全身じんま疹、頭痛、喘息発作などに進展する場合もあります。
(仮性アレルゲンと症状)
・ヒスタミン → 血管を拡張させ、むくみ、じんま疹、皮膚の発赤、気管支収縮などを起こす
・セロトニン → 平滑筋収縮・血管収縮を起こし、効果が切れると過剰な血管拡張を起こし頭痛、動悸、顔面紅潮、発汗、吐き気・嘔吐などを起こす
・チラミン → 血管収縮作用による血圧上昇、効果が切れると血管拡張が起こす(同上)
・アセチルコリン → 副交感神経を刺激し自律神経失調症状や血管拡張、気管支喘息などを起こす
(仮性アレルゲンとそれを含む食品)
・ヒスタミン → 魚類、チーズ、ナス、ホウレンソウ、トマトなど
・セロトニン → バナナ、キウイ、パイナップル、アボガド、プラム、トマトなど
・チラミン → チーズ、ワイン、アボガド、バナナ、ナス、プラム、トマト、チョコレートなど
・アセチルコリン → タケノコ、トマト、ナス、そば、ヤマイモ、サトイモ、マツタケなど
(発生例)
・サバ科の魚(サバ、マグロ、カツオなど)によるヒスタミン中毒
・古くて過剰に発酵したチェダーチーズによるチラミン中毒
★ 番外編2:ヤマイモを食べるとかゆくなるのはなぜ?
→ ヤマイモを食べると口や肌がかゆくなったり痛くなったりすることがありますが、これはアレルギーではありません。ヤマイモの中の針状結晶「シュウ酸カルシウム」が刺さるためです。
ほかにもサトイモ、キウイにも同じような針が含まれているそうです。
(院長のつぶやき)
花粉症が増えた現在、果物アレルギー(OAS)の患者さんも珍しくなくなりました。非アレルギー専門医は「症状が出た果物だけ検査する」傾向がありますが、OASでは必ずしも陽性にならないため、検査項目に花粉も入れないと診断できないことがあります。
私は、アレルギーのスクリーニング検査をして「ハンノキ」が陽性に出た子どもの患者さんには、「将来、果物を食べると50%の確率で口の中がかゆくなるかもしれませんよ」と追加説明しています。
あらためて整理すると、IgEを介したアレルギー反応以外にもいろんな原因で症状が出やすいことがわかり、決めつけずに視野を広く持つ姿勢が大切だと感じました。
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