考えてみると、かぜの症状は「侵入してきた病原体(主にウイルス)を追い出す行動」であることがわかります。咳は気道に侵入した病原体を、鼻水は鼻腔に浸入してきた病原体を追い出す防衛反応。胃腸炎でも、嘔吐・下痢ともに消化管から病原体を追い出す行動ですね。発熱についても、ウイルスは38℃以上では失活することがわかっており、病原体にやられたダメージではなく、本来はウイルスをやっつける生体反応です。
すると、かぜ症状を完全に抑え込むことはいいことなの?という素朴な疑問が生まれてきます。そうです、過剰に押さえ込むと病原体を追い出せなくなるので、かえって病気が長引くことが報告されています。
ではかぜ薬の役割は?
防衛反応(=風邪症状)が激しいと本人もつらいため、それをやわらげるのが目的です。あとは自分の免疫力頼み。
しかし、かぜ薬の歴史を紐解くと、日本では西洋医学が入ってくる以前は(今で言う)漢方薬を使用していました。実は漢方薬、すごいことをやっていて、体の免疫力を高めて病原体を追い出すという働きを強化するのです。こちらの方が本来の“かぜ薬”かもしれません。しかし西洋医学に偏った現在、ただ症状を押さえ込む薬が中心となってしまいました。残念ですね。
耳鼻科の元大学教授の講演で「現在のかぜ薬がいかに効かないか」を解説していました。処方される咳止めも鼻水止めもどれも効かない・・・効くのは解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン)と去痰薬のみ、という内容です。備忘録として講義メモをここに残しておきます。
▶ かぜ薬
・古くから葛根湯などの漢方薬が用いられてきた。漢方薬は生体の防衛反応を高める方向に作用する。
・大正時代から生薬(漢方の原料)と西洋薬との配合剤に移行。西洋薬は症状を抑える対症療法にすぎない。
・1950年代から西洋薬を配合した総合感冒薬へ移行。対症療法としては優れるものの、治癒期間を遅らせ、場合によると副作用も生じるといった問題点も抱えた。
・小児用製剤では安全面から解熱成分としてアセトアミノフェンのみを含む製剤がほとんど。それ以外に、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、カフェイン、ビタミン、生薬などを含有。
▶ 小児の鼻汁・咳嗽への処方の現実
・抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、粘液融解薬/粘膜繊毛機能改善薬(去痰薬)などをセットにして処方しているケースは少なくない。
▶ 感冒に対する治療法の推奨(EPOS, European Position Paper on Rhinosinusitis and Nasal Polyps, 2020)
・抗菌薬(1a) → 推奨しない(有用性、副作用ともになし)
・ステロイド鼻噴霧(1a) → 推奨しない
・抗ヒスタミン薬(1a) → 推奨しない(有用性なし)
・血管収縮薬(1a) → (小児には使用しない)
・アセトアミノフェン(1a) → 鼻閉鼻漏に有効
・NSAIDs(1a) → 疼痛と倦怠感に有効
・生食洗浄(1b) → 症状を抑制
▶ 子どもの風邪に抗ヒスタミン薬は有効か?
・Cochrane review での2つのランダム化比較試験では抗ヒスタミン薬のプラセボに対する咳嗽への効果に有意差は出ていない。
・抗ヒスタミン薬はヒスタミン由来の腺分泌に有効。
・古典的な鎮静性抗ヒスタミン薬は併せ持つ抗コリン効果でウイルス感染による鼻汁分泌を25-30%抑制(Turner, Heyden)。
・脳内ヒスタミン神経系がH1受容体を介してけいれん抑制系として作動しているため、抗ヒスタミン薬により作用が阻害されて痙攣が誘発される。
・EPOSでは有用性な市としてガイドラインでは推奨されていない。
▶ 抗ヒスタミン薬の痙攣誘発効果
・ヒスタミンの作用
✓ 覚醒
✓ 認知機能増加
✓ 自発運動量増加
✓ 摂食行動抑制
✓ けいれん抑制
✓ ストレスによる興奮抑制
・抗ヒスタミン薬により「けいれん抑制」系のヒスタミン作用が阻害されてけいれんを誘発する。
・特に小児ではGABAによる中枢神経の抑制系が発達していないため、けいれん誘発の可能性が高くなる。
・要注意:2歳以下、けいれんの既往
・使用する場合は非鎮静性抗ヒスタミン薬を。ただし、非鎮静性抗ヒスタミン薬の中ではセチリジンとロラタジンにはけいれんの記載あり。
▶ 子どものかぜに鎮咳薬は有効か
・2007年3月に Baltimore市が「6歳未満の小児へのOTC鎮咳薬やかぜ薬の使用は安全性と有効性に懸念がある」とする誓願書を提出した。FDAは2007年10月に6歳未満にかぜ薬を、2008年1月に2歳未満の乳児にOTD咳止め・かぜ薬を使用しないよう勧告した。
・2008年秋に製薬会社が自主的に「4歳未満の小児には使用しないこと」と変更した。これを受けて、同年中にイギリス、オーストラリア、カナダでは6歳未満のOTC咳止め・かぜ薬は使用すべきではないと勧告した。
・Dextromethorphan(メジコン®)を用いた cohort 研究では、夜間の咳やQOLにおいてプラセボと有意差がなかったと結論づけられている。
・感冒時の咳嗽はむしろ後鼻漏の影響が大きく、鎮咳薬使用は勧められない。
▶ 感冒に対する処方の是非
(抗ヒスタミン薬)
・鎮静性のものは鼻汁を減らすがけいれんや眠気を誘発し、分泌物を粘稠化する。
・非鎮静性のものは副作用は少ないが、鼻水・鼻閉には無効。
(鎮咳薬)
・感冒の咳嗽の軽減効果なし。
・呼吸抑制や咳嗽の遷延化もある。
(去痰薬)
・湿性咳嗽に有効、副作用もない。
今から20年以上前にも、かぜ薬について調べたことがありました。当時はアメリカをはじめ諸外国で「市販のかぜ薬(OTC薬)を乳幼児に使わないように」というムーブが起きてきた頃です。アメリカでは大瓶で販売されているため、一度に大量を飲んで中毒症状で医療機関に運ばれる、という事情もあったようです。
そして現在、私はかぜ症状にふつうの西洋医学の薬が今ひとつ効かない場合は漢方薬をお勧めしています。明らかに手応えがあるため、「苦い薬を飲む」というハードルを越えた患者さんはリピーターになりますね。


