カテゴリ: アレルギー

じんま疹には西洋医学の抗アレルギー薬が有効です。

効きが悪い場合は、
① 他の抗アレルギー薬に変更する。
② 他の抗アレルギー薬を追加する。
③ 短期間、ステロイド薬を使用する(皮膚科専門医)。
等の方法があります。

私は①②でも解決しない場合、漢方薬を提案しています。
有効な漢方薬が見つかると、
それを内服し続けることにより体質改善が期待できるので、
すべての薬を休薬できる可能性があるのが漢方薬のメリットです。


漢方医学では西洋医学のように「じんましん → 抗アレルギー薬」という単純な公式ではなく、
患者さんの体質・体調により複数の方剤を使い分けます。

いろいろ調べた結果、谷口聖明先生の解説がわかりやすいので引用・紹介します。
まずは私が好きな“陰陽虚実グラフ”を提示します;

スクリーンショット 2025-02-16 7.26.15

陰陽虚実の意味するところは、グラフの文言を参考にしてください。
3つの方剤がありますが、すべて実証&陽証のため、これだけでは使い分けが難しい。

次に、「発症後どのくらい時間が経過しているか」による使い分けを提示します。

スクリーンショット 2025-02-16 7.26.54

こちらは単純でわかりやすい。

(急性期)葛根湯(1)
(亜急性期)十味敗毒湯(6)
(慢性期)大柴胡湯(8)

なぜこうなるのか?
病気の経過の起承転結を漢方では「六病位」で表現します。
上表の右端の項目ですね。
これは病気の始まりは体表が侵され、進行すると体内が侵されるというイメージです。

その順番は、
太陽病 → 少陽病 → 陽明病 → 少陰病 → 太陰病 → 厥陰病
ですが、じんましんに使う方剤は太陽病・少陽病期のもの。
イラストを提示します。

スクリーンショット 2025-02-16 7.26.34

つまり、漢方医学的には、

太陽病期 → 葛根湯(1)
表的少陽病期 → 十味敗毒湯(6)
裏的少陽病期 → 大柴胡湯(8)

となります。
少陽病をさらに細かく“表的”と“裏的”に分けているのが興味深いですね。

私は「皮膚科で抗アレルギー薬治療しているけどよくならないじんましん」の相談を受けると、
漢方薬を提案し、希望があれば処方しています。
抗アレルギー薬併用、OKです。

急性期には葛根湯、
亜急性期には十味敗毒湯、
慢性期には大柴胡湯。

有効であれば、抗アレルギー薬を減量・中止し、
いずれ漢方薬も減量・中止していきます。



<参考>
じんましんの漢方(その2
1剤で治まらないときの併用療法の説明です。

<参考ブログ>
(2023.04.27)陰陽・虚実・寒熱で使い分けるじんま疹漢方

当院の花粉症診療の特徴は、
・漢方薬の併用により効果・満足度をアップ
・オンライン診療に対応
していることです。
※ おとなの花粉症も条件付で診療しています。

子どもの花粉症

おとなの花粉症

舌下免疫療法

舌下免疫療法の副反応 

子どもの花粉症と分けて項目を作ったのには理由があります。
大人で使う薬は小児とは違った注意点が存在するからです。
それは、
・車の運転
・妊娠・授乳

車の運転が許可されている(添付文書に注意喚起がない)抗アレルギー薬は限定されます。
また、「妊娠中でも安全に使用できる」ことを保証している抗アレルギー薬はありません。
授乳中も「有益性が安全性に勝ると医師が判断した場合は使用可能」と、
何かあったときは医師に責任を転嫁するというずるいしくみになっています。

当院は小児科ですが、子どもの付き添いで来院したおとなの花粉症も“条件付き”で診療しています。その条件とは、

① 診断が確定している。
② 他に持病がない。
③ 他に薬を飲んでいない。
④ 妊娠していない(治療期間中に妊娠予定がない)。

の4点です。
②と③ は、薬の飲み合わせを確認するのが大変で診療が止まってしまうため。

①②③④ のすべてをクリアした方は当院で診療可能です。
ただし処方は「最長1ヶ月単位」とさせていただいています。

・・・以上にご了承いただける方のみ、ご相談ください。

当院の特徴は、
・漢方薬併用により眠気中和&効果倍増、高い満足度
・オンライン診療に対応
です。

自分に合う薬・治療法が決まるまでは通院していただきますが、
一旦治療が決まるとオンライン診療(※)に切り替えることができます。
※)自宅にいながらスマホで診察室の私とつながり診察&処方が可能です。

なお、花粉症の種類や診断については、
子どもの花粉症」の項目に書きましたのでそちらをご参照ください。
では早速、実際の治療のお話に入ります。


▶ 基本治療:(抗アレルギー薬内服)+(局所療法:点眼・点鼻)

まずは抗アレルギー薬(内服薬)のお話を。
子どもの治療と異なる点は「眠くなる薬を使えない」ことです。
成人では車の運転をする方がほとんどと思われ、
以下のような「車の運転が許可されている薬」に限定されます。

・ロラタジン(クラリチン®)
・フェキソフェナジン(アレグラ®)
・ビラスチン(ビラノア®)

残念ながらロラタジンとフェキソフェナジンは、
眠くならない代わりに効果が今ひとつ、という感触があります。
ロラタジンは授乳婦にも処方されている安全な薬です。

ビラノア®は最近登場した薬ですが、
眠くなりにくいけど効果がある、と評判です。
ただし空腹時内服(※)というルールがあり、
タイミングが難しくて内服を忘れてしまいがち、という欠点もあります。
※ )食前1時間〜食後2時間は避ける、この時間帯に服用すると効果が半減する

当院で処方可能なすべての薬のラインナップを、
効果と眠気の強さでランキングしつつ紹介しておきます。

(効果:①強 → ⑥弱)
① オロパタジン(アレロック®)
② レボセチリジン(ザイザル®)
③ ビラスチン(ビラノア®)
④ エピナスチン(アレジオン®)
⑤ ロラタジン(クラリチン®)
⑥ フェキソフェナジン(アレグラ®)

(眠気:①強 → ⑥弱)
① オロパタジン(アレロック®)
② レボセチリジン(ザイザル®)
③ エピナスチン(アレジオン®)
④ ロラタジン(クラリチン®)
⑤ フェキソフェナジン(アレグラ®)
⑥ ビラスチン(ビラノア®)

わかりやすい一覧表を見つけましたので引用します(こちらから)。⭕️は「車の運転OK」の薬です。

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上記抗アレルギー薬の他に、別系統の抗アレルギー薬を併用することもあります。
「抗ロイコトリエン薬」というグループで、以下の2種類があります;

プランルカスト(オノン®)
モンテルカスト(キプレス®、シングレア®)

鼻閉に有効、とされていますが、効果はそれほど強くありません。
鼻閉には後に述べる漢方薬の方が手応えがあります。

内服薬のみでは効果が不十分な場合、
以下の局所療法(点眼・点鼻薬)を併用します。
つらい場所にダイレクトに薬を投与するため、効果が実感されます。

(点眼薬)
・オロパタジン(パタノール®)点眼
・エピナスチン(アレジオン®)点眼
・アレジオン®眼瞼クリーム(点眼が苦手な方へお勧め、ただし少しお値段が高い)
(点鼻薬)
フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アラミスト®)点鼻薬

点眼薬は即効性があります。
処方されても「かゆくなったら使用する」方が多いのですが、
それよりも「1日〇回」と定期的に使用する方が効果的です。

点鼻薬は即効性がないタイプ(※)で、効果が出るまでに約1週間かかります。
でも1本使い切ると鼻閉が改善して鼻で呼吸ができるようになりますので、
「“三日坊主”でやめてしまうともったいないですよ!」と指導しています。

※ 内科や耳鼻科で処方される「血管収縮剤点鼻薬」は即効性はありますが依存性もあり、長期連用すると鼻閉が増悪する副作用もあるため、当院では処方しておりません。

▶ 追加治療

上記基本治療を行っても効果が今ひとつの場合には、
以下の追加治療を提案しています;

1.抗アレルギー薬を増量
・ロラタジンとフェキソフェナジンは倍量投与可能
・ビラスチンは倍量投与不可

※ 他にも倍量投与可能な薬剤:オロパタジン(アレロック®)、エピナスチン(アレジオン®)、セチリジン(ジルテック®)、レボセチリジン(ザイザル®)

2.抗アレルギー薬を変更
・抗アレルギー薬は、その成分構造から「三環系」と「ピペリジン・ピペラジン系」に分けられ、別系統に変更すると効果が得られることがあります。

(三環系)
・オロパタジン(アレロック®)
・ロラタジン(クラリチン®)
・エピナスチン(アレジオン®)

(ピペリジン・ピペラジン系)
・フェキソフェナジン(アレグラ®)
・レボセチリジン(ザイザル®)
・ビラスチン(ビラノア®)


3.抗ロイコトリエン薬の併用
・プランルカスト(オノン®)、モンテルカスト(キプレス®、シングレア®)など。
・鼻閉への効果が期待できます。

3.漢方薬の併用:当院一押し!
・眠くならず、鼻閉にも有効、目のかゆみにも有効とよいことずくめ。
・漢方薬散剤の味とニオイが苦手な方には錠剤が用意されている方剤(※)もあります。
・当院では抗アレルギー薬+局所療法(点眼・点鼻)+漢方薬」の併用で満足度が高い患者さんが多くいらっしゃいます。

※ 錠剤のある漢方薬:
・小青竜湯(19)
・葛根湯加川芎辛夷(2)
・五虎湯(95)


(漢方薬がお勧めの患者さん)

✓ 抗アレルギー薬では効果が今ひとつ
✓ 目の症状が強くて目薬を使っても今ひとつ
✓ 喉のチリチリ感がよくならない
✓ 花粉症期間中、体がだるくて熱っぽい
✓ 抗アレルギー薬を飲むと眠くなる
✓ 他院で強い薬(ステロイド薬)を処方され心配

(以下の図表はツムラのHPより引用)

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4.舌下免疫療法(スギ花粉症のみ)
・いろいろ治療を尽くしてもなおつらい方、体質改善して根治を目指したい方にお勧めです。
・舌下免疫療法について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください;
▶ 「スギ花粉症・ダニによるアレルギー性鼻炎に舌下免疫療法



<参考>
■ 薬物治療コンサルテーション「妊娠と授乳」(南山堂)
・製薬会社的には添付文書に「有益性投与」と記載されており推奨はしていないが、経験的に以下の薬剤が使用される;ロラタジン、フェキソフェナジン、レボセチリジン、セチリジン
・第一・第二世代抗ヒスタミン薬は人への催奇形性は報告されておらず、授乳に関してもほとんどのモノが問題ないとされているが、本人が納得する選択をすべき。

当院では主に赤ちゃん〜幼児期の湿疹・アトピー性皮膚炎の治療をしています。
生まれて数ヶ月の赤ちゃんの湿疹でもかゆみを伴うと、
その後反復・遷延する傾向があり、
その経過を視野に入れた治療・管理が必要になります。

近年、乳児期の湿疹がキッカケに食物アレルギーを発症することが判明しました。
食物アレルギー発症を予防する目的で、
湿疹を治してツルツル・ピカピカの肌を維持することを目指しています。

▶ 赤ちゃんのスキンケア〜一般篇〜

▶ 赤ちゃんのスキンケア~乾燥肌篇~

▶ ステロイド軟膏Q&A

▶ 湿疹がある赤ちゃんの離乳食の進め方

▶ 子どもの湿疹(≒アトピー性皮膚炎)の治療 


▶ 子どもの喘息 

▶ キュバール吸入手技チェックリスト

▶ アドエア・フルタイド吸入手技チェックリスト 


▶ 食物アレルギーの検査と診断 

▶ 卵アレルギーのお話

▶ 卵黄アレルギー 

▶ 成人発症型卵アレルギー(bird-egg syndrome)

▶ 牛乳アレルギーのお話

▶ 小麦アレルギーのお話

▶ 大豆アレルギーのお話

▶ 野菜・果物アレルギーのお話 

▶ 魚アレルギーのお話

▶ ピーナッツ(落花生)アレルギー 

▶ ナッツ(木の実類)アレルギー 

▶ 豚肉アレルギー(pork-cat syndrome)

▶ α-Gal syndrome(マダニ咬傷由来獣肉アレルギー)

▶ 納豆アレルギー(クラゲ刺症由来PGAアレルギー)

▶ 食品のアレルギー表示 

(番外編)
アレルギー検査陽性だから除去、は正しい?  

こどものアレルギー疾患には様々なものがあります。
知りたい病気・項目をクリックしてご覧ください。


▢ 食物アレルギー

▶ 食物アレルギーの検査と診断 

▶ 卵アレルギーのお話

▶ 卵黄アレルギー 

▶ 成人発症型卵アレルギー(bird-egg syndrome)

▶ 牛乳アレルギーのお話

▶ 小麦アレルギーのお話

▶ 大豆アレルギーのお話

▶ 野菜・果物アレルギーのお話 

▶ 魚アレルギーのお話

▶ ピーナッツ(落花生)アレルギー 

▶ ナッツ(木の実類)アレルギー 

▶ 豚肉アレルギー(pork-cat syndrome)

▶ α-Gal syndrome(マダニ咬傷由来獣肉アレルギー)

▶ 納豆アレルギー(クラゲ刺症由来PGAアレルギー)


▢ アトピー性皮膚炎

▶ 赤ちゃんのスキンケア〜一般篇〜

▶ 赤ちゃんのスキンケア~乾燥肌篇~

▶ ステロイド軟膏Q&A

▶ 湿疹がある赤ちゃんの離乳食の進め方

▶ 子どもの湿疹(≒アトピー性皮膚炎)の治療


▢ 気管支喘息

▶ 子どもの喘息 

▶ キュバール吸入手技チェックリスト

▶ アドエア・フルタイド吸入手技チェックリスト
 

▢ 花粉症・アレルギー性鼻炎


▶ 子どもの花粉症 

大人の花粉症

▶ アレルギー疾患の環境整備(主にダニ対策)

▶ スギ花粉症・ダニアレルギーの「舌下免疫療法」

▶ 舌下免疫療法の副反応


じんましん
 

参考にした本には、2剤併用による増強効果の例が掲載されており、
単剤で効果が今ひとつだった場合の“次の一手”として利用可能で助かります。

■ 併用による効果増強レシピ

消風散3包+黄連解毒湯2〜3包/日・・・かゆみが強いとき
消風散3包+十味敗毒湯3包/日・・・かゆみが強いじんま疹・皮疹に
消風散3包+越婢加朮湯3包・・・発赤・浮腫を認めるとき(虫刺症/蜂刺症にも)
消風散3包+茵蔯五苓散3包/日・・・食事性蕁麻疹で地図状に膨隆・発赤を認めるとき

香蘇散3包+茵蔯五苓散3包/日・・・魚介類によるじんま疹に
香蘇散3包+茵陳蒿湯3包/日・・・かゆみが強いとき

消風散(22)+加味逍遥散(24)・・・心因性じんま疹で月経時のイライラなどの精神症状を伴うときに
消風散(22)+抑肝散(54)・・・心因性じんま疹でイライラや怒りの感情が強い場合に
消風散(22)+大柴胡湯(8)・・・体力が充実していて(実証)胸脇苦満を認める心因性じんま疹に
消風散(22)+防風通聖散(62)・・・肥満が著明でじんま疹を認める場合に
黄連解毒湯(15)+大柴胡湯(8)・・・体力が充実していて(実証)胸脇苦満を認める心因性じんま疹に

■ じんま疹の基本漢方薬

(基本薬)
消風散(22)・・・じんま疹の第一選択薬
十味敗毒湯(6)・・・急性よりもやや慢性のじんま疹に
茵陳蒿湯(135)・・・食事性蕁麻疹、便秘
茵蔯五苓散(117)・・・食事性蕁麻疹、浮腫傾向
香蘇散(70)・・・魚介類によるじんま疹
黄連解毒湯(15)・・・かゆみに対する第一選択
越婢加朮湯(28)・・・皮膚の発赤・腫脹が明らか
 
(その他:主に急性期に)
葛根湯(1)
桂麻各半湯・・・発症初期にかゆみが強い場合に使用
麻黄附子細辛湯(127)・・・寒冷じんま疹に使用 

(その他:主に慢性期に)
加味逍遥散(24)・・・心因性じんま疹で月経時のイライラなどの精神症状を伴うときに消風散などと併用
抑肝散(54)・・・心因性じんま疹でイライラや怒りの感情が強い場合に消風散などと併用
大柴胡湯(8)・・・体力が充実していて(実証)胸脇苦満を認める心因性じんま疹に消風散や黄連解毒湯などと併用
防風通聖散(62)・・・肥満が著明でじんま疹を認める場合に消風散などと併用 


<参考>
すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方(安斎圭一著、羊土社) 
 

私個人としては、納豆アレルギーの相談は受けたことがありません。
しかし、アレルギー学会では時々耳にします。

というわけであまり多くはありませんが納豆アレルギーはいくつかの点で有名です。
そのひとつは「遅発型アナフィラキシー」。
ふつう、アナフィラキシーは即時型アレルギー症状の重症型ですが、不思議なことに納豆アレルギーでは「遅発型」として発症します。
「遅発型アナフィラキシー」は他に「α-Gal syndrome(マダニ咬傷由来獣肉アレルギー)」があります。

それから、患者さんは圧倒的に「サーファー」が多いのです。

納豆とサーファー?
サーファーに納豆好きが多い?
・・・ピンときませんね。

???がいっぱいになった方は、以下の説明をご覧ください。


■ どんな病気?
納豆を食べた約半日後にアナフィラキシーで発症する食物アレルギー。

■ 疫学
・20〜50歳代の男性に多く見られます。
・生活歴として、マリンスポーツ歴のある人が多く、中でもサーファーが全体の80%を占めます。
・小児例は希です。

■ 機序・メカニズム
・主要アレルゲンは納豆の粘稠成分であるポリガンマグルタミン酸poly-γ-glutamic acid, PGA)(※)であり、その感作はクラゲ刺症を介して成立すると考えられています。
・クラゲは標的を刺すときに、触覚細胞内でPGAを産生します。クラゲ刺症を繰り返すうちにクラゲ由来PGAに感作された人は、納豆摂取時に納豆由来PGAとの交差反応が発生します。
遅発型で発症する理由は、高分子のPGAが腸管内で分解され吸収されるまでに時間がかかるためと推察されています。

※ PGAは大豆と納豆菌を混合後の発酵過程で新たに産生される物質であり、原則、大豆にアレルギー反応を起こすことはありません。

■ 症状
・納豆を食べて約半日後(5〜14時間)に発症します。
・ほぼ全例がアナフィラキシーで発症し、じんま疹や呼吸困難を認め、消化器症状、意識障害などを伴うことがあります。
アナフィラキシーショックの頻度は約70%と高率です。
・摂取から症状出現までの時間が長いため、診断が遅れがちです。特に夜間〜早朝の原因不明のアナフィラキシーでは、本症の鑑別が必要です。

■ 診断
<問診>
・納豆摂取後に遅発型アレルギー症状が出現すれば本症を疑います。
・夜間〜早朝に生じた原因不明のアナフィラキシーでは、半日前まで遡って納豆を摂取していないかを確認します。
<検査>
(現時点(2022年7月)では納豆やPGAに対する特異的IgE抗体検査は市販されていません)
・納豆を用いた prick-to-prick test が有用です。これは、症状の出た納豆を持参していただき、納豆そのものに検査専用針を刺し、それをそのまま患者さんの肌に刺し、発赤・腫脹・かゆみが出現するかどうかを観察する、極めてアナログ的方法です。
・研究レベルですが、PGAを抗原に用いる好塩基球活性化試験は診断の一助になると報告されています。

■ 治療(食事指導)
・納豆およびPGAを含有する食品や化粧品などを避けます。
・成分表示は統一されておらず、ポリガンマグルタミン酸ポリグルタミン酸γ-PGA納豆菌ガムなどと表記されるので注意が必要です;
(食品)出汁、減塩醤油などの調味料、かまぼこ、ドレッシング、保存剤、甘味料、特定保健用食品など
(化粧品)保湿剤、ドライマウス用剤、医薬品など
・豆腐などの大豆製品や、納豆菌を用いない大豆発酵製品(醤油、味噌)にはPGAは含まれていないため、除去の必要はありません。

■ 予後
・不明です。


<院長のつぶやき>
「納豆を食べた後に遅発型アナフィラキシーを起こす患者がサーファーに多い」という不思議な食物アレルギー。
まさかクラゲと納豆に共通抗原があったとは・・・このカラクリを解き明かした医学者は、おそらく推理小説が好きなタイプでしょうね。



<参考>
・食物アレルギー診療ガイドライン2021(協和企画)

日々の診療では獣肉(鶏肉、豚肉、牛肉など)アレルギーはあまり多く相談を受けません。
学会で時々耳にする程度ですが、調べてみるとその病態は単一項目選択ではなく、いくつかの違うメカニズムが背景にあり、興味深い病気です。

例えば「pork-cat syndrome」は飼い猫で感作された後、豚肉成分に交差反応して発症します。

ここでは、「マダニ咬傷後に発症する獣肉アレルギー」(α-Gal syndrome)について説明します。この病気はなんと、血液型がB型の人は発症しにくいと言われています。

ダニと獣肉がどんなふうに関係してアレルギーになるのか? 
なぜB型はなりにくいのか?
・・・興味が尽きません。


■ どんな病気?
・マダニ咬傷を介してその唾液成分に感作され、同じ成分を含む食物(主に牛肉や豚肉)や薬剤によりアレルギー症状が発症する病気で、すぐにではなく遅れて症状が出ます。
・(ちょっと詳しく)マダニ唾液や消化管内に存在する糖鎖の一種 α-1,3-galactose(α-Gal)に感作され、α-Galを含む食物や薬剤によりアレルギー症状が誘発される(α-Gal syndrome)。

■ 疫学
・はじめて報告されたのは2009年(アメリカとオーストラリア)、日本では2012年に報告された、新しい病気です。
・山野での活動中にマダニ咬傷を受けた例が多く、報告例のほとんどが成人です。
・日本ではフタトゲチマダニ(※)やタカサゴキララマダニが多く、欧米では別の種類が原因になると報告されています。

※ フタトゲチマダニはSFTS(重症熱性血小板減少症候群)を媒介することで有名です。

・獣肉アレルギーの多く(97%)は血液型がB型以外との報告があります。ABO式血液型は糖鎖で決定され、B型の糖鎖はα-Galと似た構造を有するため、自己抗原に対しての抗体を産生しにくく、本症ではB型の患者が少ないと考えられています。

■ 症状
<獣肉>
・ふつう、食物アレルギーは食べてすぐ症状が出る(即時型)が多いのですが、この α-Gal syndrome は遅れて出る(遅発型)(※ 1)のが特徴です。
・非霊長類ほ乳動物(ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、シカなどの四つ足動物)の肉が主な原因になります。鶏肉では誘発されません
・獣肉を食べてから2〜6時間後に、
(皮膚症状)じんま疹や血管性浮腫など
(消化器症状)下痢など
が現れます。
・時にアナフィラキシー(※ 2)に至ることがあり、遅れて出るアナフィラキシーのため「遅発型アナフィラキシー」(late-onset anaphylaxis)と呼ばれます。
・約16%は2時間以内に発症したとの報告があります。ヨーロッパの一部で好んで食べられるブタの腎臓では、即時型症状が出現する傾向があります。
・症状の再現性は一定せず、同じ患者さんでも運動、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)内服、飲酒などの二次的要因の関与により、症状の出現や増悪が認められます。

※ 1:遅発型になる理由:α-Galは獣肉として食べた場合、糖脂質や糖タンパクとして吸収されます。糖脂質として吸収された場合、脂質の吸収や低分子化に時間を要し、肥満細胞への到達が遅れるために遅発型になると推察されてい明日。
※ 2:アナフィラキシー:皮膚症状や消化器症状などが一度に現れるアレルギーの重症型。


<薬剤>
・抗がん剤である抗ヒトEGF受容体モノクローナル抗体製剤セツキシマブ(商品名:

アービタックス

®)やゼラチン含有コロイドもα-Galを含むため、α-Gal感作例ではアナフィラキシーが起こる可能性があります。
・点滴製剤(例:セツキシマブなど)では投与後速やかに症状が出現します。

■ 診断・検査
<問診>
・獣肉を食べてから2〜6時間後にじんま疹やアナフィラキシーなどのアレルギー症状が出た場合に疑います。
・マダニ咬傷歴は必須ではありません。
<検査>
・症状の出た獣肉(牛肉や豚肉)に対する特異的IgE抗体測定を行います。
・α-Galを直接測定することは現時点(2022年7月)ではできません。抗ウシサイログロブリン(α-Galを含む)に対する特異的IgE抗体を用いた評価方法も提案されています。
・研究レベルですが、α-Gal特異的IgE抗体保有者において、好塩基球活性化試験陽性が症状と強く相関し、セツキシマブが誘発するアナフィラキシー予測に有用との報告があります。


■ 治療・管理
<食事指導>
・基本的に、獣肉や内臓(腎臓、肝臓、心臓、腸管)を食べることを避けます。
・加熱により抗原性が低下する可能性が示唆されていますが、ブタの腎臓は加熱(95℃10分間)による抗原性低下はないという報告もあります。
・牛乳は抗体価が陽性になっても、乳製品中のα-Gal含有量はわずかのため、ほとんどの患者さんは食べても無症状であり、原則として牛乳やチーズは除去対象になりません。しかし、獣肉回避でも十分なコントロールができない牛乳特異的IgE抗体陽性者では、牛乳や乳製品を避けるよう指導します。
・日本では子持ちカレイとの交差反応が報告されています。

■ 予後
・感作源であるマダニ咬傷を避け続けると牛肉特異的IgE抗体が低下することが報告されており、マダニ咬傷予防により本症の寛解につながる可能性が期待されています。


<参考>
マダニ対策、今できること(国立感染症研究所)

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