カテゴリ:アレルギー > 食物アレルギー

私がアレルギー専門医資格を取得した頃(1990年代)の食物アレルギー分野の医学は、どちらかというと宗教的なイメージが強く、学会のセクションを覗いても一種異様な雰囲気がありました。
2000年代に、それに穴を開けてサイエンスしたのが昭和大学小児科の故・飯倉洋治教授です。クセのある人物でしたが、食物アレルギーを発展させた功労者だと私は思っています。
その後、食物アレルギーの進歩は目まぐるしく、毎年のように新しいエビデンスが公表されるようになりました。
ここに基礎知識の整理をして残しておきます。

二重抗原曝露仮説:Dual allergen exposure hypothesis
(Lack G. J Allergy Clin Immunol. 2008; 121: 1331-1336)

(皮膚暴露)
 湿疹など荒れた皮膚から抗原が入る
  ⇩
 皮膚からアレルゲンが入ってくる
  ⇩
 経皮感作
  ⇩
 アレルギーを発症

(経口暴露)
 口からアレルゲンを摂取
  ⇩
 腸にアレルゲン
  ⇩
 経口免疫寛容(アレルゲンと反応が起こらないしくみ)
  ⇩
 アレルギーを抑える


▶ 環境中には食物アレルゲンがたくさん存在する
(Kitazawa H,et al. Allergol Int. 2019; 68(3): 391-393)
(Yasudo H,et al. Allergol Int. 2023 Oct; 72(4): 607-609)
(Yasudo H,et al. J Dermatol Sci. 2021 Dec; 104(3): 213-215)

・3歳児の布団のホコリすべてから鶏卵アレルゲンを検出し、ダニの主要アレルゲンより多かった。
・ベッドやリビングのホコリにクルミの蛋白を検出。
・ペットの毛にも食物(鶏卵・ピーナッツ)アレルゲンを検出。

▶ 食物アレルギー発症予防戦略
〜早期に皮膚を正常な状態にする&早期からアレルゲン摂取により食物アレルギー予防
・皮膚暴露対策:早期皮膚介入でアレルギー予防(PACI Study: JACI 2023)
・経口暴露対策:早期経口摂取でアレルギー予防
 ✓ ピーナッツ(LEAP Study: NEJM. 2016)
 ✓ 卵(PETIT Study: Lancet, 2017)
 ✓ 牛乳(SPADE Study: JACI, 2021)

PETIT研究(Natsume,et al. Lancet. 2017; 389: 276-286)
(対象)アトピー性皮膚炎児
(方法)加熱全卵粉末を毎日摂取
 生後5〜6か月から25mg(全卵0.2g相当)
 生後9ヶ月から125mg(全卵1g相当)
(結果)1歳時点でのたまごアレルギー発症
 コントロール群:38%
 鶏卵早期摂取群:4%
(結論)
 生後5〜6か月から微量加熱全卵(卵黄+卵白)を毎日摂取することで安全に鶏卵アレルギーの発症を抑制できた。
(発展)
 PETIT研究に基づいたタンパク量の加熱全卵粉末が開発された(ミルステップegg®1/2/3 Https://bcase.co.jp/mealstep-egg/)

LEAP研究(Du Toit G,et al. N Engl J Med. 2015 Feb 26; 372(9): 803-813)
〜ピーナッツ早期摂取によるアレルギー予防
(対象)アトピー性皮膚炎児 卵アレルギー
(方法)生後4〜11か月児に1週間でピーナッツ蛋白を6g摂取(ピーナッツとして約24g)
(結果)5歳時点でのピーナッツアレルギー発症
 コントロール群:17.2%
 早期摂取群:3.2%
(結論)
 生後4〜11か月から1週間に24gピーナッツを摂取するとピーナッツアレルギー発症を抑制できた。

▶ マルチアレルゲン早期摂取
(Nishimura,at al. Allergol Int. 2022 Mar 30: S1323-8930(22)00011-9)
(対象)アトピー性皮膚炎児
(方法)6品目パウダー(卵白粉末、ミルク粉末、小麦、大豆、そば、ピーナッツ)を生後3-4か月から摂取開始、2、4週目で増量し合計12週間摂取(食品でそれぞれ2.5mg、7.5mg、20mg)
(結果)1歳半時点での食物アレルギー発症率(コントロール群/摂取群)
・すべての食品:23.8%/8.4%(6.5割の予防効果)
・卵:16.3%/6.0%(6割の予防効果)
・卵以外:13.2%/4.8%(6割の予防効果)

▶ 海外と日本の補完食ガイドラインの状況
(海外)WHO、EAACI、AAAAI、BSACI、DGAなど
・生後4〜6か月からの導入を推奨
・ナッツ類も適切な形状(ペーストやパウダー)で開始
・1歳より遅らせる理由がない
・食物アレルギーハイリスク集団では生後4か月から
・乳は生後1週間は摂取しない
(日本)授乳・離乳の支援ガイド2019
・生後5〜6か月から卵黄・豆腐など
・生後7〜8か月から卵白
・ナッツ類については特に記載なし

▶ アレルゲン早期導入食品の開発
・ミルステップegg®1/2/3(https://bcase.co.jp/mealstep-egg/)
・パクパ(シングルアレルゲン、日本)(https://fufumu.com/pages/paqupa)
・Lil mixins(シングルアレルゲン、アメリカ)(https://www.lilmixins.com/)
・Ready set food!(マルチアレルゲン、アメリカ)(https://readysetfood.com/)
(現況と問題点)
・早期導入製品は利便性がよく実行可能性に有用
・製品後とのばらつきや精度、予防効果に問題が残る(経済的な問題も)
・食品により感作が始まる時期が異なるため、食品ごとの最適な導入時期の検討が必要

▶ Difense Study(2025年現在進行中)
(対象)生後42日から90日までのアトピー性皮膚炎児
(方法)2群に分けて登録16週後の食物アレルゲン(卵白・牛乳・小麦・クルミ・ピーナッツ)感作の割合を比較
A群:モイゼルト塗布群
B群:ヒルドイド塗布群

食物アレルギー患者さんが集団生活に入り、給食が用意される状況では、除去などの対策が必要になります。保護者が園や学校に配慮を希望する場合には生活管理指導表を作成します。

しかし、医師の間でも温度差があり、園や学校側が混乱してしまうケースが後を絶ちません。
(一応)アレルギー専門医である私が、作成の際に気をつけている点を説明します。

▶ 正確な診断
・検査陽性+食べると症状が出る → 確定診断
・検査陽性+食べても症状なし → 食物アレルギーではない
・検査陽性+未摂取 → 食物アレルギーの可能性(負荷試験が必要)
  → 負荷試験未施行の場合は園・学校では除去せざるを得ない。
  → 負荷試験ができる医療機関へ紹介。

▶ 「とりあえず除去」を避けるために
・「心配だから多項目スクリーニング検査」は慎重に。
・スクリーニング検査で陽性でも食べて症状が出なければ除去は不要。
・スクリーニング検査陽性で安易に「とりあえず除去」を指示すると、児・保護者・園/学校の負担増。

▶ ナッツ類はスクリーニング検査を考慮
・ナッツ類のアレルゲンコンポーネント検査(一般のアレルギー検査とは異なる)は感度・特異度が高いため、一つのナッツにで症状が出る場合は考慮すべき。
・アレルゲンコンポーネント例
(例)クルミ → Jug r 1
(例)カシューナッツ → Ana o 3
(例)ピーナッツ → Ara h 2

▶ 学校給食での食物アレルギー対応例
・献立表対応
・除去食対応
・弁当対応
・無提供

▶ 生活管理指導表の「診断根拠」
・症状が出た(エピソードあるいは負荷試験陽性)+検査陽性 → ⭕️ 
・診断根拠無記載 → ❌️ 
・血液検査陽性+症状なしでの除去は❌️ 
・血液検査陽性+未摂取での除去は△ → 「食物アレルギーの可能性」にとどまる。

▶ 生活管理指導表の「除去内容」
・安易に「すべて」にチェックを入れない。
・ナッツ類は個々の食材を記入すべし。
(例)クルミ、カシューナッツ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、松の実、クリ、ギンナン、ココナッツ、カカオ、・・・

▶ 安全に解除するために気をつけるべき点
・日常摂取量で無症状になるまでは完全除去対応が基本。
・学校での部分解除指導は行わない。
 → 事故防止の観点から摂取可・完全除去の二者択一が望ましい。
・自宅での摂取状況、負荷試験の結果などの情報提供が望ましい。
・小学生以上は「運動負荷」を考慮
(例)日常摂取量で無症状でも、激しい運動が加わると誘発されることがある


▶ 「より厳しい除去が必要なもの」の考え方
・これらに反応する患児は重症症例のみ。
・実際にこれらの食材での既往がある場合に除去が必要、なければ必要なし。
(例)大豆あるいは小麦でじんま疹が出るが、味噌や醤油では無症状

▶ 花粉・果物アレルギーについて
・近年増えてきた病型で口腔アレルギー症状のみ。
・生の果物野菜には反応するが、加熱や加工したものは症状が出にくい。
・対応は学校と養育者が相談して決めるが、高学年で自分で理解していれば「本人任せ」も。
・「除去」で作成する場合は、「加熱した〇〇は摂取可能」と記載するとよい。

この食物アレルギー、ちょっと変わっています。
アレルゲンとなる食物を食べただけでは症状が出ないのです。
でも、その食物を食べた後に運動すると強いアレルギー症状(アナフィラキシー)が出ます。
そして運動しただけでも症状が出ません。つまり、

 アレルゲン食物摂取(単独) → 無症状
        運動(単独) → 無症状

 アレルゲン食物摂取 + 運動  → アナフィラキシー

という構図です。
ですから、患者さん自身は気づきにくく、医師が積極的に疑わないと診断にたどり着きにくいという特徴があります。

典型的には・・・
・小学生中学年以上の生徒が、 
・学校給食でパン(小麦)を食べて、 
・5時間目、あるいは6時間目の体育の授業中に症状が出る、
というパターンですね。

では病気の解説をします。
 
病名】食物依存性運動誘発アナフィラキシー
(FDEIA,food-dependent exercise-induced anaphylaxis)

定義
食物摂取単独あるいは運動負荷単独での症状は認められず、ある特定の食物摂取後の運動が加わることによって、全身じんま疹、喘鳴などを呈するアナフィラキシーが誘発される病気。

疫学
・発症:10〜20歳代以降。
・男女比:男性>女性
・頻度は学童で0.0047%、中学生で0.018%(2012年、横浜市)。
・頻度は国によって異なる。
・何らかのアレルギー疾患の既往がある例が多い。

原因食品と運動

▶ 原因食品
食物アレルギー診療ガイドライン2021より)
スクリーンショット 2026-01-16 12.15.15

・(日本)小麦>甲殻類>軟体類
※ 「食物アレルギー診療ガイドライン2021」(日本小児アレルギー学会)によると、小麦62%、甲殻類28%、そば3%、2%、果物1%、牛乳1%。
※ 小麦によるFDEIAは特に小麦依存性運動誘発アナフィラキシーWDEIA)とも呼ばれる。

・近年は果物や野菜が増加傾向。
・複数の食品が原因抗原になり得る。

▶ 誘発する運動
・運動強度の高い運動(フットボール、ランニング、ダンスなど)での発症が多い。
・散歩のような軽度の運動でも症状が出ることがある。
・入浴でも症状が出ることがある。
※ 「食物アレルギー診療ガイドライン2021」(日本小児アレルギー学会)によると、球技38%、ランニング28%、歩行17%、自転車3%、水泳3%、ゴルフ3%

症状
・食後から運動開始まで2時間以内で、運動開始後1時間以内の発症が多い。
・なかには食後4時間の運動で発症した例もある。
・皮膚症状(全身じんま疹、血管性浮腫、紅斑)がほとんどの例で出現する。 
・ほかに、呼吸器症状(70%)、ショック症状(50%)。
・半数以上が再発し、頻回に繰り返す例もある。


アナフィラキシーの診断基準】「アナフィラキシーガイドライン2022」(日本アレルギー学会)
1.皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性のじんま疹、かゆみまたは紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分〜数時間で)発症した場合で、さらに少なくとも次の一つを伴う;
A. 重度の呼吸器症状(呼吸困難、呼気性喘鳴・気管支れん縮、吸気性喘鳴、低酸素血症)
B. 循環器症状(血圧低下、筋緊張低下、失神、失禁など)
C. 重度の消化器症状(重度のけいれん性腹痛、反復性嘔吐など)
2.典型的な皮膚症状を伴わなくても、その患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性が極めて高いものに暴露された後、血圧低下または気管支れん縮または喉頭症状が急速に(数分〜数時間で)発症した場合;
(乳幼児・小児)収縮期血圧が低い(※)、または30%を超える収縮期血圧の低下
(成人)収縮期血圧が90mmHg未満、または本人のベースライン値に比べて30%を超える収縮期血圧の低下。
※ 乳児および10歳未満の小児:収縮期血圧が(70+[2×年齢(歳)])mmHg未満

症状を増悪させる因子
・食物、運動のほかに複数の要因が発症に影響する。
(全身の状態)疲労、寝不足、感冒
(自律神経)ストレス
(女性ホルモン)月経前状態
(気象条件)高温、寒冷、湿度
(薬剤)NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:アスピリンなど)
※ 運動をしなくても、NSAIDsの服用によって食物アレルギー症状が誘発されることがある。アスピリン前投薬により皮膚テストの原因アレルゲンに対する反応が増強されることが示されている。
(その他)アルコール摂取、入浴、花粉飛散時期

病態
・アレルゲン特異的IgE抗体が関与する即時型アレルギー反応。
・運動により腸管上皮からの透過性が亢進し、アレルゲンの吸収が促進されることで発症すると考えられている。

鑑別すべき病気
・気管支喘息発作:皮膚症状は出ない。
・急性じんましん・血管性浮腫:腹痛(消化器症状)・血圧低下(循環器症状)はない。
・不安発作・パニック発作:皮膚症状、喘鳴(呼吸器症状)、血圧低下(循環器症状)はない。
・血管迷走神経反射:皮膚症状、呼吸器症状、消化器症状は出ない。

診断
1.問診
・食後から2時間(〜最大4時間)以内の運動負荷でアレルギー症状を呈した場合に疑う。
※ ただし、症状の再現性は低く、食物+運動+αの要素がある病気である。
2.血液検査
・疑われる食品の特異的IgE抗体を検査する。
・特異的IgE抗体陽性率は80%、皮膚テスト陽性率は90%。
(例)小麦では、小麦とω-5 グリアジン
 → ω-5 グリアジンは陽性適中率:38%、陰性的中率:91%、感度:93%(成人)、46%(20歳未満)
※ 20歳以下では高分子量グルテニン特異的IgE抗体陽性率が高い。
・甲殻類の原因アレルゲンは不明であり、感度・特異度の高い血液検査はない。
3.運動誘発負荷試験(入院管理下)
・疑わしい食品を摂取して30〜60分後に運動負荷(トレッドミル、エルゴメーター)を行う。
・偽陰性が多い検査のため、陰性の場合はアスピリン前負荷投与後に再度行うことも検討。

対応・生活指導
1.運動回避:
・原因食物を摂取後、最低2時間(可能であれば4時間)は運動を避ける。
・運動2〜4時間前の原因食物摂取を禁止する。
・NSAIDs内服時は原因食物を摂取しない。
・運動時に軽い症状が出た時点でただちに運動を中止して、2〜4時間は休憩する。必要に応じて医療機関を受診する。
・学校給食について、原因食物の除去が必要かどうかを、患者家族・医師・学校で検討する。
(例)学校では除去、家庭では運動に気をつける条件で許可、など。
2.アナフィラキシーへの対応
・頻回発症例や重症例にはアドレナリン自己注射製剤(エピペン®)の処方を検討。

予後
・将来治るかどうか、一定の見解はない。 
・ω-5 グリアジン特異的IgE抗体陽性のWDEIAの長期予後は不良の可能性が高いと報告されている。
 

<参考>
小児科 2023年4月号 Vol.64 No.4 2023(金原出版)
大人の食物アレルギー必携ハンドブック(永田真著、中外医薬社、2024年発行) 

当院はアレルギー専門家による標準治療を提供しています;
・院長:日本アレルギー学会認定専門医
・看護師:PAE(小児アレルギーエデュケーター)

▶ 食物アレルギーの検査と診断 
「検査で陽性=アレルギー」ではありません。
症状が誘発されて初めてアレルギー疾患と診断します。

<各論>
▶ 卵アレルギーのお話

▶ 卵黄アレルギー 

▶ 成人発症型卵アレルギー(bird-egg syndrome)

▶ 牛乳アレルギーのお話

▶ 小麦アレルギーのお話

▶ 大豆アレルギーのお話

▶ 野菜・果物アレルギーのお話 

▶ 魚アレルギーのお話

▶ ピーナッツ(落花生)アレルギー 

▶ ナッツ(木の実類)アレルギー 

▶ 豚肉アレルギー(pork-cat syndrome)

▶ α-Gal syndrome(マダニ咬傷由来獣肉アレルギー)

▶ 納豆アレルギー(クラゲ刺症由来PGAアレルギー)

▶ 食品のアレルギー表示 

(番外編)
アレルギー検査陽性だから除去、は正しい?  

私個人としては、納豆アレルギーの相談は受けたことがありません。
しかし、アレルギー学会では時々耳にします。

というわけであまり多くはありませんが納豆アレルギーはいくつかの点で有名です。
そのひとつは「遅発型アナフィラキシー」。
ふつう、アナフィラキシーは即時型アレルギー症状の重症型ですが、不思議なことに納豆アレルギーでは「遅発型」として発症します。
「遅発型アナフィラキシー」は他に「α-Gal syndrome(マダニ咬傷由来獣肉アレルギー)」があります。

それから、患者さんは圧倒的に「サーファー」が多いのです。

納豆とサーファー?
サーファーに納豆好きが多い?
・・・ピンときませんね。

???がいっぱいになった方は、以下の説明をご覧ください。


■ どんな病気?
納豆を食べた約半日後にアナフィラキシーで発症する食物アレルギー。

■ 疫学
・20〜50歳代の男性に多く見られます。
・生活歴として、マリンスポーツ歴のある人が多く、中でもサーファーが全体の80%を占めます。
・小児例は希です。

■ 機序・メカニズム
・主要アレルゲンは納豆の粘稠成分であるポリガンマグルタミン酸poly-γ-glutamic acid, PGA)(※)であり、その感作はクラゲ刺症を介して成立すると考えられています。
・クラゲは標的を刺すときに、触覚細胞内でPGAを産生します。クラゲ刺症を繰り返すうちにクラゲ由来PGAに感作された人は、納豆摂取時に納豆由来PGAとの交差反応が発生します。
遅発型で発症する理由は、高分子のPGAが腸管内で分解され吸収されるまでに時間がかかるためと推察されています。

※ PGAは大豆と納豆菌を混合後の発酵過程で新たに産生される物質であり、原則、大豆にアレルギー反応を起こすことはありません。

■ 症状
・納豆を食べて約半日後(5〜14時間)に発症します。
・ほぼ全例がアナフィラキシーで発症し、じんま疹や呼吸困難を認め、消化器症状、意識障害などを伴うことがあります。
アナフィラキシーショックの頻度は約70%と高率です。
・摂取から症状出現までの時間が長いため、診断が遅れがちです。特に夜間〜早朝の原因不明のアナフィラキシーでは、本症の鑑別が必要です。

■ 診断
<問診>
・納豆摂取後に遅発型アレルギー症状が出現すれば本症を疑います。
・夜間〜早朝に生じた原因不明のアナフィラキシーでは、半日前まで遡って納豆を摂取していないかを確認します。
<検査>
(現時点(2022年7月)では納豆やPGAに対する特異的IgE抗体検査は市販されていません)
・納豆を用いた prick-to-prick test が有用です。これは、症状の出た納豆を持参していただき、納豆そのものに検査専用針を刺し、それをそのまま患者さんの肌に刺し、発赤・腫脹・かゆみが出現するかどうかを観察する、極めてアナログ的方法です。
・研究レベルですが、PGAを抗原に用いる好塩基球活性化試験は診断の一助になると報告されています。

■ 治療(食事指導)
・納豆およびPGAを含有する食品や化粧品などを避けます。
・成分表示は統一されておらず、ポリガンマグルタミン酸ポリグルタミン酸γ-PGA納豆菌ガムなどと表記されるので注意が必要です;
(食品)出汁、減塩醤油などの調味料、かまぼこ、ドレッシング、保存剤、甘味料、特定保健用食品など
(化粧品)保湿剤、ドライマウス用剤、医薬品など
・豆腐などの大豆製品や、納豆菌を用いない大豆発酵製品(醤油、味噌)にはPGAは含まれていないため、除去の必要はありません。

■ 予後
・不明です。


<院長のつぶやき>
「納豆を食べた後に遅発型アナフィラキシーを起こす患者がサーファーに多い」という不思議な食物アレルギー。
まさかクラゲと納豆に共通抗原があったとは・・・このカラクリを解き明かした医学者は、おそらく推理小説が好きなタイプでしょうね。



<参考>
・食物アレルギー診療ガイドライン2021(協和企画)

日々の診療では獣肉(鶏肉、豚肉、牛肉など)アレルギーはあまり多く相談を受けません。
学会で時々耳にする程度ですが、調べてみるとその病態は単一項目選択ではなく、いくつかの違うメカニズムが背景にあり、興味深い病気です。

例えば「pork-cat syndrome」は飼い猫で感作された後、豚肉成分に交差反応して発症します。

ここでは、「マダニ咬傷後に発症する獣肉アレルギー」(α-Gal syndrome)について説明します。この病気はなんと、血液型がB型の人は発症しにくいと言われています。

ダニと獣肉がどんなふうに関係してアレルギーになるのか? 
なぜB型はなりにくいのか?
・・・興味が尽きません。


■ どんな病気?
・マダニ咬傷を介してその唾液成分に感作され、同じ成分を含む食物(主に牛肉や豚肉)や薬剤によりアレルギー症状が発症する病気で、すぐにではなく遅れて症状が出ます。
・(ちょっと詳しく)マダニ唾液や消化管内に存在する糖鎖の一種 α-1,3-galactose(α-Gal)に感作され、α-Galを含む食物や薬剤によりアレルギー症状が誘発される(α-Gal syndrome)。

■ 疫学
・はじめて報告されたのは2009年(アメリカとオーストラリア)、日本では2012年に報告された、新しい病気です。
・山野での活動中にマダニ咬傷を受けた例が多く、報告例のほとんどが成人です。
・日本ではフタトゲチマダニ(※)やタカサゴキララマダニが多く、欧米では別の種類が原因になると報告されています。

※ フタトゲチマダニはSFTS(重症熱性血小板減少症候群)を媒介することで有名です。

・獣肉アレルギーの多く(97%)は血液型がB型以外との報告があります。ABO式血液型は糖鎖で決定され、B型の糖鎖はα-Galと似た構造を有するため、自己抗原に対しての抗体を産生しにくく、本症ではB型の患者が少ないと考えられています。

■ 症状
<獣肉>
・ふつう、食物アレルギーは食べてすぐ症状が出る(即時型)が多いのですが、この α-Gal syndrome は遅れて出る(遅発型)(※ 1)のが特徴です。
・非霊長類ほ乳動物(ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、シカなどの四つ足動物)の肉が主な原因になります。鶏肉では誘発されません
・獣肉を食べてから2〜6時間後に、
(皮膚症状)じんま疹や血管性浮腫など
(消化器症状)下痢など
が現れます。
・時にアナフィラキシー(※ 2)に至ることがあり、遅れて出るアナフィラキシーのため「遅発型アナフィラキシー」(late-onset anaphylaxis)と呼ばれます。
・約16%は2時間以内に発症したとの報告があります。ヨーロッパの一部で好んで食べられるブタの腎臓では、即時型症状が出現する傾向があります。
・症状の再現性は一定せず、同じ患者さんでも運動、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)内服、飲酒などの二次的要因の関与により、症状の出現や増悪が認められます。

※ 1:遅発型になる理由:α-Galは獣肉として食べた場合、糖脂質や糖タンパクとして吸収されます。糖脂質として吸収された場合、脂質の吸収や低分子化に時間を要し、肥満細胞への到達が遅れるために遅発型になると推察されてい明日。
※ 2:アナフィラキシー:皮膚症状や消化器症状などが一度に現れるアレルギーの重症型。


<薬剤>
・抗がん剤である抗ヒトEGF受容体モノクローナル抗体製剤セツキシマブ(商品名:

アービタックス

®)やゼラチン含有コロイドもα-Galを含むため、α-Gal感作例ではアナフィラキシーが起こる可能性があります。
・点滴製剤(例:セツキシマブなど)では投与後速やかに症状が出現します。

■ 診断・検査
<問診>
・獣肉を食べてから2〜6時間後にじんま疹やアナフィラキシーなどのアレルギー症状が出た場合に疑います。
・マダニ咬傷歴は必須ではありません。
<検査>
・症状の出た獣肉(牛肉や豚肉)に対する特異的IgE抗体測定を行います。
・α-Galを直接測定することは現時点(2022年7月)ではできません。抗ウシサイログロブリン(α-Galを含む)に対する特異的IgE抗体を用いた評価方法も提案されています。
・研究レベルですが、α-Gal特異的IgE抗体保有者において、好塩基球活性化試験陽性が症状と強く相関し、セツキシマブが誘発するアナフィラキシー予測に有用との報告があります。


■ 治療・管理
<食事指導>
・基本的に、獣肉や内臓(腎臓、肝臓、心臓、腸管)を食べることを避けます。
・加熱により抗原性が低下する可能性が示唆されていますが、ブタの腎臓は加熱(95℃10分間)による抗原性低下はないという報告もあります。
・牛乳は抗体価が陽性になっても、乳製品中のα-Gal含有量はわずかのため、ほとんどの患者さんは食べても無症状であり、原則として牛乳やチーズは除去対象になりません。しかし、獣肉回避でも十分なコントロールができない牛乳特異的IgE抗体陽性者では、牛乳や乳製品を避けるよう指導します。
・日本では子持ちカレイとの交差反応が報告されています。

■ 予後
・感作源であるマダニ咬傷を避け続けると牛肉特異的IgE抗体が低下することが報告されており、マダニ咬傷予防により本症の寛解につながる可能性が期待されています。


★ 獣肉アレルギー一覧表
獣肉アレルギー一覧


<参考>
マダニ対策、今できること(国立感染症研究所)

卵を食べるとアレルギー症状が出る病気です。
「ん、それって卵アレルギーでしょ? 」
と突っ込みたくなりますよね。 

いわゆる“卵アレルギー”は乳幼児期に発症し、小学生になる頃にはほとんど治るタイプの食物アレルギーです。
一方ここで扱う病気は、大人になってから突然発症する卵アレルギーで、症状は同じでもメカニズム・成り立ちが違うため、別枠で扱われます。
原因が飼っているセキセイインコだったりするのです。鳥を飼育している方々、鶏卵アレルギーに要注意!

興味が湧いた方、 以下の説明をどうぞお読みください。

■ どんな病気?
・鳥飼育者が、鳥由来抗原に経気道感作・経皮感作(※)された後、鶏卵を食べたときに即時型アレルギー症状をきたす病態。
・飼育する鳥の羽毛や糞、血清などに含まれる抗原と、鶏卵由来抗原の交差反応に起因して発症します。
・主要抗原は血清アルブミンであることが同定されています。

 ※ 経気道感作・経皮感作;アレルゲン成分がバリアの壊れた気道あるいは皮膚から微量浸入を繰り返すことによりアレルギー体質を獲得すること。

■ 疫学
・鳥を飼育する成人に多く発症する傾向があり、小児では希です。
・感作源となる鳥の種類はセキセイインコが多く、その他、カナリヤオウムなどが報告されています。

■ メカニズム(発症機序)
・主に鳥類間での血清アルブミンへの交差反応により発症します。
・血清アルブミンは毛細血管内皮から上皮に移行するため、鳥では血清の他、上皮、羽毛、糞、肉にも存在します。鳥をペットとして飼育しているうちに、これらの中に含まれた血清アルブミンで経気道、経皮・経粘膜的に感作されることがあります。
・鶏卵を摂取した際に、ニワトリの血清アルブミン(α-リベチン、Gal d 5 )に交差反応が生じます。Gal d 5 は卵白よりも卵黄に多く含まれます。
・血清アルブミンは熱に不安定です。加熱によりGal d 5 のIgE反応性が88%減弱したとの報告があります。卵黄を十分に加熱しないまま摂取したときに誘発されやすい傾向があります。

■ 症状
・生ないし不十分な加熱の鶏卵(特に卵黄)を摂取直後に、以下のアレルギー症状が出現します;
 口内のかゆみ、違和感
 口唇や顔面の浮腫
 手掌のかゆみや全身性のじんま疹
 鼻汁・鼻閉
 咳嗽や呼吸困難(呼吸器症状)
 嘔吐、腹痛、下痢(消化器症状)
 時にアナフィラキシー。

・一部の例では鶏肉摂取でも誘発症状が出現します。小児で22%、成人で12%誘発されたとの報告があります。
 
■ 診断
・成人期に突然、鶏卵摂取後の即時型アレルギー症状をきたした場合に本症を疑い、鳥の飼育歴を聴取します。
・原因食物については、卵でも卵黄>卵白の誘発が認められるか、生や半熟など不十分な加熱調理で誘発されやすいかなどを確認します。
・鶏肉での誘発の有無も確認します。

 → これらの症状から本疾患を疑い、次の検査で確定診断します。

■ 検査
・卵黄、卵白の特異的IgE抗体 → 卵黄優位の感作を確認
・卵黄、卵白の皮膚テスト(SPT、皮膚プリックテスト) → 卵黄優位の感作を確認
・飼育歴のある鳥の羽毛や糞の特異的IgE抗体を測定
・Gal d 5 に対する特異的IgE抗体を測定(ただし保険適用外)

■ 治療・管理
・鶏卵摂取を避け、感作源となった鳥との接触を避けることが基本です。
・軽症例では、十分に加熱調理すれば鶏卵を摂取できることがありますが、個人差があるので試す場合は医師の管理下に行ってください。

■ 予後
・感作源を取り除くことで耐性を獲得した例が報告されています。
(例)飼育していた鳥への暴露を止めたところ、鳥の羽毛のみならず、卵黄やGal d 5 に対する特異的IgE抗体が陰性化し、症状も改善。


<院長のつぶやき>
昔から卵黄のアレルゲンは「血清アルブミン」とわかっていましたが、あまり注目されてきませんでした。しかし今日、この「bird-egg syndrome」「pork-cat syndrome」等の疾患で注目されるに至り、時代の流れを感じる次第です。




<参考>
・食物アレルギー診療ガイドライン2021(協和企画)

特殊な食物アレルギーを紹介します。
獣肉(主にブタ)アレルギーなのですが、原因がブタではなくネコなんです。
典型的には、ネコの飼育歴があり、豚肉などの獣肉の摂取で即時型アレルギー反応をきたす病気です。
なんでネコと豚肉?と疑問に思ったあなた、以下の説明をどうぞお読みください。

pork-cat syndrome 】(豚肉-ネコ症候群)

■ どんな病気?
・獣肉アレルギーの一種です。
・ネコ抗原に経気道感作され、交差反応により豚肉などの獣肉を摂取した際に即時型アレルギー症状をきたします。

■ 疫学
・ネコアレルギー患者の1〜3%に合併します。
・動物飼育開始後、感作成立まで年単位の時間を要します。
・幼児期から成人期に発症します(最年少報告例は6歳)。

■ メカニズム(機序)
・ネコを飼育中に、猫の毛やフケ、唾液、血液、尿などに含まれる血清アルブミンに経気道的に感作されると、生物学的近縁種の動物の肉を摂取した際に、血清アルブミン間で交差反応が生じ、アレルギー症状をきたします。
(例)ネコで感作され牛肉で症状誘発。
(例)イヌで感作され馬肉で症状誘発。
・この病気で問題となる抗原は、ネコの血清アルブミン(Fel d 2)、ブタの血清アルブミン(Sus s 1)です。
・哺乳類の血清アルブミンは相同性が70〜87%と高いため、ネコとブタ以外でも交差反応が起こりえます。
(例)ウシ(Bos d 6)、イヌ(Can f 3)、モルモット(未同定)

■ 症状
・獣肉摂取後1時間以内に症状が出現します(即時型アレルギー)。
・獣肉の加熱が不十分な場合に症状が出やすい傾向があります。
・再現性が低く、感作例でも症状を示さないことがあります。
・重症度に幅があり、死亡例の報告(イノシシ肉摂取例)もあります。

(具体的な症状)
・口腔内違和感
・じんま疹・血管性浮腫
・咳・喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)などの呼吸器症状
・腹痛・下痢などの消化器症状
・時にアナフィラキシー、まれにアナフィラキシー・ショック

■ 検査と診断
・血液検査で該当する動物関連の特異的IgE抗体を測定します。
(例)豚肉、牛肉、ネコのフケ等
・アレルゲンコンポーネントに対する特異的IgE抗体を検査すると交差反応の有無が推定できます。
(例)Fel d 2, Sus s 1 等(ただし保険適応外)

■ 鑑別診断
α-Gal による獣肉アレルギー:遅発型獣肉アレルギー(摂取後3〜5時間で症状出現)、マダニ咬傷歴、α-Gal に対する特異的IgE抗体陽性

■ 治療・管理
・感作源となったネコなどの動物への暴露を極力避けます。
・基本的に症状が出る原因獣肉の摂取を避けます。
・軽症例は十分に加熱調理すれば食べられることがあります。アルブミンは熱に不安定なので、非加熱の肉、干し肉、燻製肉は十分に加熱した肉よりも症状を誘発しやすい傾向があります。

■ 予後
・不明(データ不足)

★ 獣肉アレルギー一覧表
獣肉アレルギー一覧


<参考>
食物アレルギー診療ガイドライン2021(協和企画)

スーパーやコンビニで食べ物を買うとき、裏に「成分表示」がありますね。
近年はダイエットが気になり糖質・糖類・炭水化物の含有量をチェックする人も増えてきました。

食物アレルギー患者さんにとっても、この表示内容は重要です。
なぜって、成分表示にはアレルギー物質表示が含まれているからです。 
患者さんは食べると症状が出る食品成分が入っていないかどうか、確認することができます。

まだまだ完璧とは言えませんが、食物アレルギー患者さんにとってこれは画期的なことであり、日本が世界をリードしている制度です。

しかしアレルギーを起こし得る、すべての物質が表示されているわけではありません。

現時点(2022年7月)で、
・表示義務(特定原材料)7品目
・表示推奨(準ずるもの)21 品目

となっており、特定原材料は「発症数が多い、症状の重篤度」から選ばれています。
特定原材料に準ずるもの21品目は“表示推奨”なので、それを表示するかどうかは“義務”ではなく任意表示、つまり食品会社の判断に一任されているので表示されないこともあります。ご注意ください。

具体的な品目は以下の通りです;

特定原材料(表示義務7品目):えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)
特定原材料に準ずるもの(表示推奨21品目):アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
 
画期的なこの制度にも限界があります。

このアレルギー食品表示は「包装された加工食品に限定」されることにも注意が必要です。
つまり、レストランや居酒屋での「外食」や、スーパーのお惣菜などの「中食」には適用されず、表示されないのです。

また、「特定原材料+特定原材料に準ずるもの=28品目」
以外は法律の対象外であるため、28品目以外を原因アレルゲンとする食物アレルギー患者さんには役に立ちません。自分で調べる必要があります。

以上、食品のアレルギー表示について概要を述べさせていただきました。
細かい表示ルールが色々ありますので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

 
※ 食品のアレルギー表示の法律と歴史
・食物アレルギーを有するものが安全に食品を摂取し、加工食品に含まれるアレルゲンの誤食による症状誘発を回避し、自主的・合理的に選択できるよう、国は「食品表示法」という法律に基づき、容器包装された加工食品に対してアレルギー表示を義務づけています。
・具体的には、表示する必要性の高い食品を特定原材料として「食品表示基準」において表示を義務づけ、特定原材料に準ずる品目では「食品表示基準について」において表示を推奨しています。
・これにより、原材料中の個々の特定原材料および特定原材料に準ずるもの(以下、特定原材料等)の総たんぱく量が一定(数ug/g、数ug/ml)以上の加工食品については、当該原材料を含む旨を記載しなければなりません。
・また、アレルギー表示は消費者に直接販売されない食品の原材料も含め、食品流通のすべての段階において義務づけられています。
・アレルギー表示は、平成11年(1999年)に特定原材料:5品目、特定原材料に準ずるもの19品目で食品衛生法の元で開始されました。その後何回かの変更を経て現在(2022年)では特定原材料:7品目、特定原材料に準ずるもの:21品目となっています。元になる法律も2013年に食品表示法にかわりました。
・2022年中に表示推奨の「
くるみ」をその急増に対応する形で表示義務化する予定です。


<参考>
食物アレルギー表示に関する情報(消費者庁) 
 (アレルギー表示について
 (加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック
食品表示法の概要(消費者庁) 

日本では「食物アレルギーでショックを起こす」イコール「そばアレルギー」のイメージがありますが、アメリカではイコール「ピーナッツ・アレルギー」で、年間数十人が死亡しているそうです。

ピーナッツ(=落花生)アレルギーは症状が強く出る傾向があるため、食品表示法食品表示基準において特定原材料表示義務食品)に指定されており、アレルギー表示することが義務づけられています。スーパーで購入する食品の成分表示を見ると含まれているか・いないかが確認できます。

ピーナッツアレルギー患者さんは、「心配だから・・・」とすべてのナッツ類を食べない傾向があります。これは正しい行動なのでしょうか?

アレルギー専門医がお答えします。
正しい知識を持って、正しく怖がりましょう。


■ ピーナッツとは?
・マメ目マメ科ラッカセイ属の一年草。
・“ナッツ”と名前が付いていますが、木の実類ではなく豆類であり、アーモンドより大豆に近い食品です。

■ 疫学
・幼児期(中央値:1歳)に即時型アレルギー症状(※)で発症することが多い。
※ 即時型アレルギー症状:食べた直後から30分以内(遅くても2時間以内)にじんま疹などの症状が出ること。
・有症率:1.4〜3.0%
・食物アレルギーの原因として第5位(5.1%)。
・アナフィラキシーの原因としては全体の7.3%。
ピーナッツアレルギー患者さんは他のナッツにもすることがありますが、その頻度5%(20人に1人)と高くありません

※ 小学生以降でアレルギーのスクリーニング検査を行うと、ピーナッツが陽性になっていることがあります。「えっ?ピーナッツはふだんから食べていて症状は出ないけど・・・」と戸惑う患者さん。データによると、学童期以降に出現するピーナッツ感作(検査上陽性)は症状誘発と無関係な可能性が高いとされています。

■ 症状
・即時型アレルギー症状:食べた直後〜30分以内に出現する以下の症状;
(皮膚粘膜症状)発赤、かゆみ、じんましん、目や口唇の腫れ
(呼吸器症状)咳、ゼーゼー、声がれ、呼吸困難
(消化器症状)嘔気/嘔吐、腹痛、下痢
(循環器症状)血圧低下(脈が弱い)、顔面蒼白、意識消失

※ 一度に複数の症状が出る場合を「アナフィラキシー」、循環器症状を伴うと「アナフィラキシーショック」と呼びます。

・ピーナッツの粉を吸い込んで喘息発作を起こすことがあります。食べた場合は消化されてから吸収されますが、吸い込んだ場合はそのまま血液中に入るので症状が激しくなります。

■ 診断
食物アレルギーの診断の基本は、
・特定の食物を
・食べるたび毎回
・同じ症状が出る
この3つをすべて満たすことです。
血液検査は必須ではなく、確認程度の位置づけです。

患者さんや給食を管理する人たちは「検査をすればハッキリする」と検査を希望されますが、医師の頭の中では血液検査の位置づけは低いのです。

しかしピーナッツアレルギーは症状が激しいため、何回も食べて確認するのは危険を伴うため、血液検査の役割が大きくなります。
ただ、従来のアレルギー検査では検査値と症状との一致率が低く、「検査をすれば白黒が付く」レベルではありませんでした。

近年、アレルギー検査の精度が上昇・改善してきました。
それはアレルゲン成分(アレルゲンコンポーネントと呼びます)をより細かく検査できるようになったからです。
一つの食品にはアレルゲンコンポーネントが複数種類含まれることが多く、どのコンポーネントに反応するかで症状の強さが予想可能です。

ピーナッツのアレルゲンコンポーネントは17種類が同定されており、その中でも症状と最も一致するのは Ara h 2 であり、保険診療で認められています。
現在ピーナッツ・アレルギーの診断は、ピーナッツ特異的IgE抗体と Ara h 2 の両方を検査して進めます。

ピーナッツアレルギーの診断フロー

ピーナッツ特異的IgE抗体陽性
(> 50UA/mL)  → ピーナッツアレルギー確定
(> 0.35UA/mL、< 50UA/mL)
  → Ara h 2 > 4.0UA/mL  → ピーナッツアレルギー確定
  → Ara h 2 < 4.0UA/mL  → 経口負荷試験

ピーナッツ特異的IgE抗体陰性(< 0.35UA/mL)
  → 摂取開始を検討


上のフローをよく観察すると、ピーナッツ特異的IgE抗体陽性でも、Ara h 2 が陰性(<4.0UA/mL)であれば食べられる可能性があるので(医師の管理下に)経口負荷試験につなげるようになっています。
今までは「検査陽性なら一律除去」だったのが検査の進歩で変わってきたのですね。
ただし、これを読んで安心して、自己判断で試すことは控えてください。頻度は低いながら、Ara h 2 陰性でも症状が誘発されることがありますので。

(経験例)
「ピーナッツを食べたらじんま疹が出た」とアレルギーを心配して受診された小学生にアレルギー検査(ピーナッツ特異的IgE抗体と Ar h 2 )を検査しました。結果はピーナッツ特異的IgE抗体は陽性、Ara h 2 は陰性。この患者さんは、ピーナッツアレルギーではあるけれど、アナフィラキシーを起こす重症ではない、と判断できました。


フローで出てくる「経口負荷試験」とは、医師の管理下でアレルゲン食品を微量から試し、症状がないことを確認しながら少しずつ増やしていくことを指します。ピーナッツ・アレルギーの場合は、基本的にショック対応が可能な総合病院・専門病院での実施が適切です。


■ 治療・管理

食事指導
・症状の激しいピーナッツ・アレルギー患者さんは、完全除去が必要です。
・ピーナッツのアレルゲンは熱抵抗性(加熱調理しても弱くならない)です。またローストピーナッツではアレルゲン性が生より3倍以上に高まるので、これらを利用した食品はさらに注意が必要です。ピーナッツオイル、ピーナッツバターも除去してください。
・加工品では、チョコレート、ジーマーミ豆腐、佃煮、和菓子やカレールーなどの調味料に含まれていることがあります。
・ピーナッツは特定原材料に指定されており、表示義務があるため、スーパーで包装された食品を購入する際は原材料表示で含まれているかどうか確認できます。
・ピーナッツは豆類なので、ピーナッツ・アレルギーがあるという理由だけでナッツ(木の実類)をまとめて除去する必要はありません。ピーナッツ・アレルギー患者さんがナッツ類(木の実類)にも反応する頻度は5%(20人に1人)と高くありません。心配なら医師に相談して試しましょう。

薬物療法
アナフィラキシーの経験がある患者さんは、誤食した際に救急車を呼んで到着するまでの時間稼ぎ目的で「エピペン」を携帯・使用します。体重15kg以上なら使用可能なので主治医に相談してください。


■ 予後
・治る確率(耐性化率)は17〜22%(約20%)と高くありません。



<参考>
食物アレルギー診療ガイドライン2021
アナフィラキシー時のエピペンの使用について(環境再生保全機構)

↑このページのトップヘ