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▶ α-Gal syndrome(マダニ咬傷由来獣肉アレルギー)

▶ 納豆アレルギー(クラゲ刺症由来PGAアレルギー)

▶ 食品のアレルギー表示 

(番外編)
アレルギー検査陽性だから除去、は正しい?  

私個人としては、納豆アレルギーの相談は受けたことがありません。
しかし、アレルギー学会では時々耳にします。

というわけであまり多くはありませんが納豆アレルギーはいくつかの点で有名です。
そのひとつは「遅発型アナフィラキシー」。
ふつう、アナフィラキシーは即時型アレルギー症状の重症型ですが、不思議なことに納豆アレルギーでは「遅発型」として発症します。
「遅発型アナフィラキシー」は他に「α-Gal syndrome(マダニ咬傷由来獣肉アレルギー)」があります。

それから、患者さんは圧倒的に「サーファー」が多いのです。

納豆とサーファー?
サーファーに納豆好きが多い?
・・・ピンときませんね。

???がいっぱいになった方は、以下の説明をご覧ください。


■ どんな病気?
納豆を食べた約半日後にアナフィラキシーで発症する食物アレルギー。

■ 疫学
・20〜50歳代の男性に多く見られます。
・生活歴として、マリンスポーツ歴のある人が多く、中でもサーファーが全体の80%を占めます。
・小児例は希です。

■ 機序・メカニズム
・主要アレルゲンは納豆の粘稠成分であるポリガンマグルタミン酸poly-γ-glutamic acid, PGA)(※)であり、その感作はクラゲ刺症を介して成立すると考えられています。
・クラゲは標的を刺すときに、触覚細胞内でPGAを産生します。クラゲ刺症を繰り返すうちにクラゲ由来PGAに感作された人は、納豆摂取時に納豆由来PGAとの交差反応が発生します。
遅発型で発症する理由は、高分子のPGAが腸管内で分解され吸収されるまでに時間がかかるためと推察されています。

※ PGAは大豆と納豆菌を混合後の発酵過程で新たに産生される物質であり、原則、大豆にアレルギー反応を起こすことはありません。

■ 症状
・納豆を食べて約半日後(5〜14時間)に発症します。
・ほぼ全例がアナフィラキシーで発症し、じんま疹や呼吸困難を認め、消化器症状、意識障害などを伴うことがあります。
アナフィラキシーショックの頻度は約70%と高率です。
・摂取から症状出現までの時間が長いため、診断が遅れがちです。特に夜間〜早朝の原因不明のアナフィラキシーでは、本症の鑑別が必要です。

■ 診断
<問診>
・納豆摂取後に遅発型アレルギー症状が出現すれば本症を疑います。
・夜間〜早朝に生じた原因不明のアナフィラキシーでは、半日前まで遡って納豆を摂取していないかを確認します。
<検査>
(現時点(2022年7月)では納豆やPGAに対する特異的IgE抗体検査は市販されていません)
・納豆を用いた prick-to-prick test が有用です。これは、症状の出た納豆を持参していただき、納豆そのものに検査専用針を刺し、それをそのまま患者さんの肌に刺し、発赤・腫脹・かゆみが出現するかどうかを観察する、極めてアナログ的方法です。
・研究レベルですが、PGAを抗原に用いる好塩基球活性化試験は診断の一助になると報告されています。

■ 治療(食事指導)
・納豆およびPGAを含有する食品や化粧品などを避けます。
・成分表示は統一されておらず、ポリガンマグルタミン酸ポリグルタミン酸γ-PGA納豆菌ガムなどと表記されるので注意が必要です;
(食品)出汁、減塩醤油などの調味料、かまぼこ、ドレッシング、保存剤、甘味料、特定保健用食品など
(化粧品)保湿剤、ドライマウス用剤、医薬品など
・豆腐などの大豆製品や、納豆菌を用いない大豆発酵製品(醤油、味噌)にはPGAは含まれていないため、除去の必要はありません。

■ 予後
・不明です。


<院長のつぶやき>
「納豆を食べた後に遅発型アナフィラキシーを起こす患者がサーファーに多い」という不思議な食物アレルギー。
まさかクラゲと納豆に共通抗原があったとは・・・このカラクリを解き明かした医学者は、おそらく推理小説が好きなタイプでしょうね。



<参考>
・食物アレルギー診療ガイドライン2021(協和企画)

日々の診療では獣肉(鶏肉、豚肉、牛肉など)アレルギーはあまり多く相談を受けません。
学会で時々耳にする程度ですが、調べてみるとその病態は単一項目選択ではなく、いくつかの違うメカニズムが背景にあり、興味深い病気です。

例えば「pork-cat syndrome」は飼い猫で感作された後、豚肉成分に交差反応して発症します。

ここでは、「マダニ咬傷後に発症する獣肉アレルギー」(α-Gal syndrome)について説明します。この病気はなんと、血液型がB型の人は発症しにくいと言われています。

ダニと獣肉がどんなふうに関係してアレルギーになるのか? 
なぜB型はなりにくいのか?
・・・興味が尽きません。


■ どんな病気?
・マダニ咬傷を介してその唾液成分に感作され、同じ成分を含む食物(主に牛肉や豚肉)や薬剤によりアレルギー症状が発症する病気で、すぐにではなく遅れて症状が出ます。
・(ちょっと詳しく)マダニ唾液や消化管内に存在する糖鎖の一種 α-1,3-galactose(α-Gal)に感作され、α-Galを含む食物や薬剤によりアレルギー症状が誘発される(α-Gal syndrome)。

■ 疫学
・はじめて報告されたのは2009年(アメリカとオーストラリア)、日本では2012年に報告された、新しい病気です。
・山野での活動中にマダニ咬傷を受けた例が多く、報告例のほとんどが成人です。
・日本ではフタトゲチマダニ(※)やタカサゴキララマダニが多く、欧米では別の種類が原因になると報告されています。

※ フタトゲチマダニはSFTS(重症熱性血小板減少症候群)を媒介することで有名です。

・獣肉アレルギーの多く(97%)は血液型がB型以外との報告があります。ABO式血液型は糖鎖で決定され、B型の糖鎖はα-Galと似た構造を有するため、自己抗原に対しての抗体を産生しにくく、本症ではB型の患者が少ないと考えられています。

■ 症状
<獣肉>
・ふつう、食物アレルギーは食べてすぐ症状が出る(即時型)が多いのですが、この α-Gal syndrome は遅れて出る(遅発型)(※ 1)のが特徴です。
・非霊長類ほ乳動物(ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、シカなどの四つ足動物)の肉が主な原因になります。鶏肉では誘発されません
・獣肉を食べてから2〜6時間後に、
(皮膚症状)じんま疹や血管性浮腫など
(消化器症状)下痢など
が現れます。
・時にアナフィラキシー(※ 2)に至ることがあり、遅れて出るアナフィラキシーのため「遅発型アナフィラキシー」(late-onset anaphylaxis)と呼ばれます。
・約16%は2時間以内に発症したとの報告があります。ヨーロッパの一部で好んで食べられるブタの腎臓では、即時型症状が出現する傾向があります。
・症状の再現性は一定せず、同じ患者さんでも運動、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)内服、飲酒などの二次的要因の関与により、症状の出現や増悪が認められます。

※ 1:遅発型になる理由:α-Galは獣肉として食べた場合、糖脂質や糖タンパクとして吸収されます。糖脂質として吸収された場合、脂質の吸収や低分子化に時間を要し、肥満細胞への到達が遅れるために遅発型になると推察されてい明日。
※ 2:アナフィラキシー:皮膚症状や消化器症状などが一度に現れるアレルギーの重症型。


<薬剤>
・抗がん剤である抗ヒトEGF受容体モノクローナル抗体製剤セツキシマブ(商品名:

アービタックス

®)やゼラチン含有コロイドもα-Galを含むため、α-Gal感作例ではアナフィラキシーが起こる可能性があります。
・点滴製剤(例:セツキシマブなど)では投与後速やかに症状が出現します。

■ 診断・検査
<問診>
・獣肉を食べてから2〜6時間後にじんま疹やアナフィラキシーなどのアレルギー症状が出た場合に疑います。
・マダニ咬傷歴は必須ではありません。
<検査>
・症状の出た獣肉(牛肉や豚肉)に対する特異的IgE抗体測定を行います。
・α-Galを直接測定することは現時点(2022年7月)ではできません。抗ウシサイログロブリン(α-Galを含む)に対する特異的IgE抗体を用いた評価方法も提案されています。
・研究レベルですが、α-Gal特異的IgE抗体保有者において、好塩基球活性化試験陽性が症状と強く相関し、セツキシマブが誘発するアナフィラキシー予測に有用との報告があります。


■ 治療・管理
<食事指導>
・基本的に、獣肉や内臓(腎臓、肝臓、心臓、腸管)を食べることを避けます。
・加熱により抗原性が低下する可能性が示唆されていますが、ブタの腎臓は加熱(95℃10分間)による抗原性低下はないという報告もあります。
・牛乳は抗体価が陽性になっても、乳製品中のα-Gal含有量はわずかのため、ほとんどの患者さんは食べても無症状であり、原則として牛乳やチーズは除去対象になりません。しかし、獣肉回避でも十分なコントロールができない牛乳特異的IgE抗体陽性者では、牛乳や乳製品を避けるよう指導します。
・日本では子持ちカレイとの交差反応が報告されています。

■ 予後
・感作源であるマダニ咬傷を避け続けると牛肉特異的IgE抗体が低下することが報告されており、マダニ咬傷予防により本症の寛解につながる可能性が期待されています。


<参考>
マダニ対策、今できること(国立感染症研究所)

卵を食べるとアレルギー症状が出る病気です。
「ん、それって卵アレルギーでしょ? 」
と突っ込みたくなりますよね。 

いわゆる“卵アレルギー”は乳幼児期に発症し、小学生になる頃にはほとんど治るタイプの食物アレルギーです。
一方ここで扱う病気は、大人になってから突然発症する卵アレルギーで、症状は同じでもメカニズム・成り立ちが違うため、別枠で扱われます。
原因が飼っているセキセイインコだったりするのです。鳥を飼育している方々、鶏卵アレルギーに要注意!

興味が湧いた方、 以下の説明をどうぞお読みください。

■ どんな病気?
・鳥飼育者が、鳥由来抗原に経気道感作・経皮感作(※)された後、鶏卵を食べたときに即時型アレルギー症状をきたす病態。
・飼育する鳥の羽毛や糞、血清などに含まれる抗原と、鶏卵由来抗原の交差反応に起因して発症します。
・主要抗原は血清アルブミンであることが同定されています。

 ※ 経気道感作・経皮感作;アレルゲン成分がバリアの壊れた気道あるいは皮膚から微量浸入を繰り返すことによりアレルギー体質を獲得すること。

■ 疫学
・鳥を飼育する成人に多く発症する傾向があり、小児では希です。
・感作源となる鳥の種類はセキセイインコが多く、その他、カナリヤオウムなどが報告されています。

■ メカニズム(発症機序)
・主に鳥類間での血清アルブミンへの交差反応により発症します。
・血清アルブミンは毛細血管内皮から上皮に移行するため、鳥では血清の他、上皮、羽毛、糞、肉にも存在します。鳥をペットとして飼育しているうちに、これらの中に含まれた血清アルブミンで経気道、経皮・経粘膜的に感作されることがあります。
・鶏卵を摂取した際に、ニワトリの血清アルブミン(α-リベチン、Gal d 5 )に交差反応が生じます。Gal d 5 は卵白よりも卵黄に多く含まれます。
・血清アルブミンは熱に不安定です。加熱によりGal d 5 のIgE反応性が88%減弱したとの報告があります。卵黄を十分に加熱しないまま摂取したときに誘発されやすい傾向があります。

■ 症状
・生ないし不十分な加熱の鶏卵(特に卵黄)を摂取直後に、以下のアレルギー症状が出現します;
 口内のかゆみ、違和感
 口唇や顔面の浮腫
 手掌のかゆみや全身性のじんま疹
 鼻汁・鼻閉
 咳嗽や呼吸困難(呼吸器症状)
 嘔吐、腹痛、下痢(消化器症状)
 時にアナフィラキシー。

・一部の例では鶏肉摂取でも誘発症状が出現します。小児で22%、成人で12%誘発されたとの報告があります。
 
■ 診断
・成人期に突然、鶏卵摂取後の即時型アレルギー症状をきたした場合に本症を疑い、鳥の飼育歴を聴取します。
・原因食物については、卵でも卵黄>卵白の誘発が認められるか、生や半熟など不十分な加熱調理で誘発されやすいかなどを確認します。
・鶏肉での誘発の有無も確認します。

 → これらの症状から本疾患を疑い、次の検査で確定診断します。

■ 検査
・卵黄、卵白の特異的IgE抗体 → 卵黄優位の感作を確認
・卵黄、卵白の皮膚テスト(SPT、皮膚プリックテスト) → 卵黄優位の感作を確認
・飼育歴のある鳥の羽毛や糞の特異的IgE抗体を測定
・Gal d 5 に対する特異的IgE抗体を測定(ただし保険適用外)

■ 治療・管理
・鶏卵摂取を避け、感作源となった鳥との接触を避けることが基本です。
・軽症例では、十分に加熱調理すれば鶏卵を摂取できることがありますが、個人差があるので試す場合は医師の管理下に行ってください。

■ 予後
・感作源を取り除くことで耐性を獲得した例が報告されています。
(例)飼育していた鳥への暴露を止めたところ、鳥の羽毛のみならず、卵黄やGal d 5 に対する特異的IgE抗体が陰性化し、症状も改善。


<院長のつぶやき>
昔から卵黄のアレルゲンは「血清アルブミン」とわかっていましたが、あまり注目されてきませんでした。しかし今日、この「bird-egg syndrome」「pork-cat syndrome」等の疾患で注目されるに至り、時代の流れを感じる次第です。




<参考>
・食物アレルギー診療ガイドライン2021(協和企画)

特殊な食物アレルギーを紹介します。
獣肉(主にブタ)アレルギーなのですが、原因がブタではなくネコなんです。
典型的には、ネコの飼育歴があり、豚肉などの獣肉の摂取で即時型アレルギー反応をきたす病気です。

なんでネコと豚肉?
と疑問に思ったあなた、以下の説明をどうぞお読みください。


pork-cat syndrome 】(豚肉-ネコ症候群)

■ どんな病気?
・獣肉アレルギーの一種です。
・ネコ抗原に経気道感作され、交差反応により豚肉などの獣肉を摂取した際に即時型アレルギー症状をきたします。

■ 疫学
・ネコアレルギー患者の1〜3%に合併します。
・動物飼育開始後、感作成立まで年単位の時間を要します。
・幼児期から成人期に発症します(最年少報告例は6歳)。

■ メカニズム(機序)
・ネコを飼育中に、猫の毛やフケ、唾液、血液、尿などに含まれる血清アルブミンに経気道的に感作されると、生物学的近縁種の動物の肉を摂取した際に、血清アルブミン間で交差反応が生じ、アレルギー症状をきたします。
(例)ネコで感作され牛肉で症状誘発。
(例)イヌで感作され馬肉で症状誘発。
・この病気で問題となる抗原は、ネコの血清アルブミン(Fel d 2)、ブタの血清アルブミン(Sus s 1)です。
・哺乳類の血清アルブミンは相同性が70〜87%と高いため、ネコとブタ以外でも交差反応が起こりえます。
(例)ウシ(Bos d 6)、イヌ(Can f 3)、モルモット(未同定)

■ 症状
・獣肉摂取後1時間以内に症状が出現します(即時型アレルギー)。
・獣肉の加熱が不十分な場合に症状が出やすい傾向があります。
・再現性が低く、感作例でも症状を示さないことがあります。
・重症度に幅があり、死亡例の報告(イノシシ肉摂取例)もあります。

(具体的な症状)
・口腔内違和感
・じんま疹・血管性浮腫
・咳・喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)などの呼吸器症状
・腹痛・下痢などの消化器症状
・時にアナフィラキシー、まれにアナフィラキシー・ショック

■ 検査と診断
・血液検査で該当する動物関連の特異的IgE抗体を測定します。
(例)豚肉、牛肉、ネコのフケ等
・アレルゲンコンポーネントに対する特異的IgE抗体を検査すると交差反応の有無が推定できます。
(例)Fel d 2, Sus s 1 等(ただし保険適応外)

■ 鑑別診断
α-Gal による獣肉アレルギー:遅発型獣肉アレルギー(摂取後3〜5時間で症状出現)、マダニ咬傷歴、α-Gal に対する特異的IgE抗体陽性

■ 治療・管理
・感作源となったネコなどの動物への暴露を極力避けます。
・基本的に症状が出る原因獣肉の摂取を避けます。
・軽症例は十分に加熱調理すれば食べられることがあります。アルブミンは熱に不安定なので、非加熱の肉、干し肉、燻製肉は十分に加熱した肉よりも症状を誘発しやすい傾向があります。

■ 予後
・不明(データ不足)


<参考>
食物アレルギー診療ガイドライン2021(協和企画)

スーパーやコンビニで食べ物を買うとき、裏に「成分表示」がありますね。
近年はダイエットが気になり糖質・糖類・炭水化物の含有量をチェックする人も増えてきました。

食物アレルギー患者さんにとっても、この表示内容は重要です。
なぜって、成分表示にはアレルギー物質表示が含まれているからです。 
患者さんは食べると症状が出る食品成分が入っていないかどうか、確認することができます。

まだまだ完璧とは言えませんが、食物アレルギー患者さんにとってこれは画期的なことであり、日本が世界をリードしている制度です。

しかしアレルギーを起こし得る、すべての物質が表示されているわけではありません。

現時点(2022年7月)で、
・表示義務(特定原材料)7品目
・表示推奨(準ずるもの)21 品目

となっており、特定原材料は「発症数が多い、症状の重篤度」から選ばれています。
特定原材料に準ずるもの21品目は“表示推奨”なので、それを表示するかどうかは“義務”ではなく任意表示、つまり食品会社の判断に一任されているので表示されないこともあります。ご注意ください。

具体的な品目は以下の通りです;

特定原材料(表示義務7品目):えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)
特定原材料に準ずるもの(表示推奨21品目):アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
 
画期的なこの制度にも限界があります。

このアレルギー食品表示は「包装された加工食品に限定」されることにも注意が必要です。
つまり、レストランや居酒屋での「外食」や、スーパーのお惣菜などの「中食」には適用されず、表示されないのです。

また、「特定原材料+特定原材料に準ずるもの=28品目」
以外は法律の対象外であるため、28品目以外を原因アレルゲンとする食物アレルギー患者さんには役に立ちません。自分で調べる必要があります。

以上、食品のアレルギー表示について概要を述べさせていただきました。
細かい表示ルールが色々ありますので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

 
※ 食品のアレルギー表示の法律と歴史
・食物アレルギーを有するものが安全に食品を摂取し、加工食品に含まれるアレルゲンの誤食による症状誘発を回避し、自主的・合理的に選択できるよう、国は「食品表示法」という法律に基づき、容器包装された加工食品に対してアレルギー表示を義務づけています。
・具体的には、表示する必要性の高い食品を特定原材料として「食品表示基準」において表示を義務づけ、特定原材料に準ずる品目では「食品表示基準について」において表示を推奨しています。
・これにより、原材料中の個々の特定原材料および特定原材料に準ずるもの(以下、特定原材料等)の総たんぱく量が一定(数ug/g、数ug/ml)以上の加工食品については、当該原材料を含む旨を記載しなければなりません。
・また、アレルギー表示は消費者に直接販売されない食品の原材料も含め、食品流通のすべての段階において義務づけられています。
・アレルギー表示は、平成11年(1999年)に特定原材料:5品目、特定原材料に準ずるもの19品目で食品衛生法の元で開始されました。その後何回かの変更を経て現在(2022年)では特定原材料:7品目、特定原材料に準ずるもの:21品目となっています。元になる法律も2013年に食品表示法にかわりました。
・2022年中に表示推奨の「
くるみ」をその急増に対応する形で表示義務化する予定です。


<参考>
食物アレルギー表示に関する情報(消費者庁) 
 (アレルギー表示について
 (加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック
食品表示法の概要(消費者庁) 

日本では「食物アレルギーでショックを起こす」イコール「そばアレルギー」のイメージがありますが、アメリカではイコール「ピーナッツ・アレルギー」で、年間数十人が死亡しているそうです。

ピーナッツ(=落花生)アレルギーは症状が強く出る傾向があるため、食品表示法食品表示基準において特定原材料表示義務食品)に指定されており、アレルギー表示することが義務づけられています。スーパーで購入する食品の成分表示を見ると含まれているか・いないかが確認できます。

ピーナッツアレルギー患者さんは、「心配だから・・・」とすべてのナッツ類を食べない傾向があります。これは正しい行動なのでしょうか?

アレルギー専門医がお答えします。
正しい知識を持って、正しく怖がりましょう。


■ ピーナッツとは?
・マメ目マメ科ラッカセイ属の一年草。
・“ナッツ”と名前が付いていますが、木の実類ではなく豆類であり、アーモンドより大豆に近い食品です。

■ 疫学
・幼児期(中央値:1歳)に即時型アレルギー症状(※)で発症することが多い。
※ 即時型アレルギー症状:食べた直後から30分以内(遅くても2時間以内)にじんま疹などの症状が出ること。
・有症率:1.4〜3.0%
・食物アレルギーの原因として第5位(5.1%)。
・アナフィラキシーの原因としては全体の7.3%。
ピーナッツアレルギー患者さんは他のナッツにもすることがありますが、その頻度5%(20人に1人)と高くありません

※ 小学生以降でアレルギーのスクリーニング検査を行うと、ピーナッツが陽性になっていることがあります。「えっ?ピーナッツはふだんから食べていて症状は出ないけど・・・」と戸惑う患者さん。データによると、学童期以降に出現するピーナッツ感作(検査上陽性)は症状誘発と無関係な可能性が高いとされています。

■ 症状
・即時型アレルギー症状:食べた直後〜30分以内に出現する以下の症状;
(皮膚粘膜症状)発赤、かゆみ、じんましん、目や口唇の腫れ
(呼吸器症状)咳、ゼーゼー、声がれ、呼吸困難
(消化器症状)嘔気/嘔吐、腹痛、下痢
(循環器症状)血圧低下(脈が弱い)、顔面蒼白、意識消失

※ 一度に複数の症状が出る場合を「アナフィラキシー」、循環器症状を伴うと「アナフィラキシーショック」と呼びます。

・ピーナッツの粉を吸い込んで喘息発作を起こすことがあります。食べた場合は消化されてから吸収されますが、吸い込んだ場合はそのまま血液中に入るので症状が激しくなります。

■ 診断
食物アレルギーの診断の基本は、
・特定の食物を
・食べるたび毎回
・同じ症状が出る
この3つをすべて満たすことです。
血液検査は必須ではなく、確認程度の位置づけです。

患者さんや給食を管理する人たちは「検査をすればハッキリする」と検査を希望されますが、医師の頭の中では血液検査の位置づけは低いのです。

しかしピーナッツアレルギーは症状が激しいため、何回も食べて確認するのは危険を伴うため、血液検査の役割が大きくなります。
ただ、従来のアレルギー検査では検査値と症状との一致率が低く、「検査をすれば白黒が付く」レベルではありませんでした。

近年、アレルギー検査の精度が上昇・改善してきました。
それはアレルゲン成分(アレルゲンコンポーネントと呼びます)をより細かく検査できるようになったからです。
一つの食品にはアレルゲンコンポーネントが複数種類含まれることが多く、どのコンポーネントに反応するかで症状の強さが予想可能です。

ピーナッツのアレルゲンコンポーネントは17種類が同定されており、その中でも症状と最も一致するのは Ara h 2 であり、保険診療で認められています。
現在ピーナッツ・アレルギーの診断は、ピーナッツ特異的IgE抗体と Ara h 2 の両方を検査して進めます。

ピーナッツアレルギーの診断フロー

ピーナッツ特異的IgE抗体陽性
(> 50UA/mL)  → ピーナッツアレルギー確定
(> 0.35UA/mL、< 50UA/mL)
  → Ara h 2 > 4.0UA/mL  → ピーナッツアレルギー確定
  → Ara h 2 < 4.0UA/mL  → 経口負荷試験

ピーナッツ特異的IgE抗体陰性(< 0.35UA/mL)
  → 摂取開始を検討


上のフローをよく観察すると、ピーナッツ特異的IgE抗体陽性でも、Ara h 2 が陰性(<4.0UA/mL)であれば食べられる可能性があるので(医師の管理下に)経口負荷試験につなげるようになっています。
今までは「検査陽性なら一律除去」だったのが検査の進歩で変わってきたのですね。
ただし、これを読んで安心して、自己判断で試すことは控えてください。頻度は低いながら、Ara h 2 陰性でも症状が誘発されることがありますので。

(経験例)
「ピーナッツを食べたらじんま疹が出た」とアレルギーを心配して受診された小学生にアレルギー検査(ピーナッツ特異的IgE抗体と Ar h 2 )を検査しました。結果はピーナッツ特異的IgE抗体は陽性、Ara h 2 は陰性。この患者さんは、ピーナッツアレルギーではあるけれど、アナフィラキシーを起こす重症ではない、と判断できました。


フローで出てくる「経口負荷試験」とは、医師の管理下でアレルゲン食品を微量から試し、症状がないことを確認しながら少しずつ増やしていくことを指します。ピーナッツ・アレルギーの場合は、基本的にショック対応が可能な総合病院・専門病院での実施が適切です。


■ 治療・管理

食事指導
・症状の激しいピーナッツ・アレルギー患者さんは、完全除去が必要です。
・ピーナッツのアレルゲンは熱抵抗性(加熱調理しても弱くならない)です。またローストピーナッツではアレルゲン性が生より3倍以上に高まるので、これらを利用した食品はさらに注意が必要です。ピーナッツオイル、ピーナッツバターも除去してください。
・加工品では、チョコレート、ジーマーミ豆腐、佃煮、和菓子やカレールーなどの調味料に含まれていることがあります。
・ピーナッツは特定原材料に指定されており、表示義務があるため、スーパーで包装された食品を購入する際は原材料表示で含まれているかどうか確認できます。
・ピーナッツは豆類なので、ピーナッツ・アレルギーがあるという理由だけでナッツ(木の実類)をまとめて除去する必要はありません。ピーナッツ・アレルギー患者さんがナッツ類(木の実類)にも反応する頻度は5%(20人に1人)と高くありません。心配なら医師に相談して試しましょう。

薬物療法
アナフィラキシーの経験がある患者さんは、誤食した際に救急車を呼んで到着するまでの時間稼ぎ目的で「エピペン」を携帯・使用します。体重15kg以上なら使用可能なので主治医に相談してください。


■ 予後
・治る確率(耐性化率)は17〜22%(約20%)と高くありません。



<参考>
食物アレルギー診療ガイドライン2021
アナフィラキシー時のエピペンの使用について(環境再生保全機構)

近年、ナッツ(=木の実類)アレルギーの増加がめざましく、アレルギー学会でも問題視されています。
2021年の食物アレルギーの原因食品ランキングは、

① 鶏卵(33.4%)
② 牛乳(18.6%)
③ ナッツ(13.5%)
④ 小麦(8.8%)
⑤ ピーナッツ(6.1%)
⑥ 魚卵(5.2%)
⑦ 果実類(3.5%)
⑧ 甲殻類(1.6%)
⑨ 魚類(1.6%)
⑩ 大豆(1.3%)
⑪ ソバ(1.1%)

と、従来“三大アレルゲン”と言われてきた鶏卵・牛乳・小麦の一角を崩し、小麦を抜いて第3位に躍り出ています。

アレルギーの報告があるナッツを列挙すると、クルミ、カシューナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、ピスタチオ、ペカンナッツ、ヘーゼルナッツ、ココナッツ、カカオ、クリ、松の実などです。

「あれ、ピーナッツが入っていない?」と気づかれた方はするどい!
実はピーナッツ(落花生)は名前に“ナッツ”がついているもののナッツの仲間に入りません。木の実ではなく豆の仲間なので、紹介した統計データでもナッツとピーナッツは別項目で扱われています。

より詳しく見ると、ナッツアレルギーの中でもクルミが激増し、単独でも7.6%とピーナッツの6.1%を追い抜きました。クルミの輸入量増加に比例して、クルミアレルギーも増えていることが指摘されています。ちなみにピーナッツの輸入量はあまり変化ないそうです。

ナッツアレルギーは症状が強いこと、つまりアナフィラキシーを起こしやすいことで知られています。 
なので、一つのナッツで症状が出る患者さんは、他のナッツも不安・心配で避けがちです。

実際に、ナッツアレルギー患者さんは複数のナッツに反応して症状が出やすいのでしょうか。

この答えは、実は微妙です。

明らかにわかっている交差反応(アレルゲン構造が似ているため片方に症状が出る人はもう一方にも出やすい)組み合わせは、
クルミペカンナッツ(ピーカンナッツ)
カシューナッツピスタチオ
であり、これらは植物分類学上、近縁種であるためで注意が必要です。

クルミを食べると強いアレルギー反応が出る人は、ペカンナッツを食べないようにしましょう(その逆も同じ)。
カシューナッツを食べると強いアレルギー反応が出る人は、ピスタチオを食べないようにしましょう(その逆も同じ)

それ以外では交差反応が起きる可能性は約37%(3人に1人程度)です。
この数字を高いと考えるか低いと考えるか・・・微妙ですね。

逆に「3人に2人は食べても無症状」と捉えると、
少量から試す価値はありそうです。
心配で踏み切れない方は、医師に相談してください。

前述のようにピーナッツはナッツ類ではなく豆類に分類されます。
ピーナッツアレルギー患者さんは他のナッツにも反応しやすい傾向がありますが、その頻度はナッツ同士より低く5%(20人に1人)です。

一応、ピーナッツに反応する人が無条件に全種類のナッツを除去する必要はないとされています。

では基本事項を押さえておきましょう。


■ 疫学
ナッツアレルギーの多くは、幼児期に即時型アレルギー反応で発症します。即時型反応とは、食べた直後から30分以内(長くても2時間以内)にじんま疹などの症状が出る現象です。

2021年の日本の報告では、食物アレルギーの年齢別原因食物ランキングは以下の通り;

(0歳)①鶏卵、②牛乳、③小麦
(1-2歳)①鶏卵、②牛乳、③ナッツ、④魚卵、⑤ピーナッツ、⑥小麦
(3-6歳)①ナッツ、②牛乳、③鶏卵、④ピーナッツ、⑤魚卵、⑥小麦
(7-17歳)①牛乳、②ナッツ、③鶏卵、④甲殻類、⑤ピーナッツ、⑥果実類、⑦小麦
(>18歳)①小麦、②甲殻類、③果実類、④魚類、⑤ナッツ、⑥牛乳

思っていたより低年齢で多く報告されています。1-2歳では第3位、3-6歳ではなんと第1位、7-17歳でも第2位です。
ここでもピーナッツはナッツとは別に扱われていますね。

みんなが知りたいデータは以下の通り;

・ピーナッツが他の豆類(エンドウ豆、レンズ豆、インゲン豆)と交差反応する確率は5%
・クルミが他のナッツ類(ブラジルナッツ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ)と交差反応する確率は37%

繰り返しになりますが、ピーナッツアレルギー患者さんがほかのナッツ類にも反応して症状が出る可能性は5%(20人に1人)、クルミアレルギー患者さんが他のナッツ類に反応する可能性は37%(3人に1人)ということになります。


■ 症状
「ナッツアレルギーの症状は重い」というイメージがあります。
具体的には、じんま疹などの皮膚症状に加えて、咳込み・ゼーゼー・声がれなどの呼吸器症状、嘔吐・腹痛・下痢などの消化器症状が一度に出るアナフィラキシーの頻度が高いです。
さらに循環器症状(血圧低下、顔面蒼白、意識消失)が加わるとアナフィラキシー・ショックと呼ばれる最重症型になります。

2021年の報告では、ショック症状を起こした原因食物のランキングは、
① 鶏卵(23.6%)
② 牛乳(21.8%)
③ ナッツ(17.4%)
④ 小麦(14.8%)
と、第3位。やはりイメージ通りと言ってよさそうです。


■ 診断
食物アレルギーの診断の基本は、
・特定の食物を
・食べるたび毎回
・同じ症状が出る
この3つをすべて満たすことです。
血液検査は確認程度の位置づけです。

しかしナッツアレルギーでは症状が激しいため、何回も食べて再現性を確認ことは勧められません。
よって、血液検査の役割が大きくなります。
しかし従来のアレルギー検査では、検査値と症状との一致率が低く、「検査をすれば白黒が付く」レベルではありませんでした。

近年、アレルギー検査の精度が上昇・改善してきました。
それはアレルゲン成分(アレルゲンコンポーネントと呼びます)をより細かく検査できるようになったからです。
一つの食品にはアレルゲンコンポーネントが複数種類含まれることが多く、どのコンポーネントに反応するかで症状の強さが予想可能です。
例えば、クルミ(English walnut)のアレルゲンコンポーネントは8種類、カシューナッツのアレルゲンコンポーネントは3種類が同定されています。

ナッツ類で現在検査可能なアレルゲンコンポーネントは、
(クルミ)Jug r 1
(カシューナッツ)Ana o 3
(ピーナッツ)Ara h 2
などがあります。
陽性であれば症状が出る可能性が高い検査です。
これらを食物アレルゲンと同時検査して診断・管理に用いるわけです。

実際にどのように使われるか、クルミとカシューナッツを例に取り説明しましょう。

クルミアレルギーの診断フロー
「クルミを食べると〇〇〇の症状が出る」という患者さんが受診された際、
血液検査で「クルミ特異的IgE抗体」とそのアレルゲンコンポーネントである「Jug r 1」(ジャグアールワン)を調べます。その結果により以下のフローチャートに沿って診断・管理が決まります;

クルミ特異的IgE抗体陽性(> 0.35UA/mL)
  → Jug r 1 > 1UA/mL  → クルミアレルギー確定
  → Jug r 1 < 1UA/mL  → 経口負荷試験

クルミ特異的IgE抗体陰性(< 0.35UA/mL)
  → Jug r 1 >  0.35UA/mL  → 経口負荷試験
  → Jug r 1 <  0.35UA/mL  → 摂取開始を検討


以上のように二つの検査を組み合わせて診断・治療につなげています。
ちょっと複雑ですね。
今までは「クルミ特異的IgE抗体が陽性なら一律除去」とされてきましたが、
陽性でも食べられる例がいることがわかっていました。
この問題をなんとか解決できないものか・・・。
コンポーネントを用いると、クルミ特異的IgE抗体が陽性でも一律に除去するのではなく、Jug r 1を一緒に検査し、Jug r 1が規定値未満なら食べられるかもしれないので、医師の管理下の経口負荷試験につなげることができるようになりました。

カシューナッツアレルギーの診断フロー
検査項目は「カシューナッツ特異的IgE抗体」とそのアレルギーコンポーネント「Ana o 3」(アナオースリー)です。Ana o 3 の数値基準が Jug r 1 と微妙に異なります;

カシューナッツ特異的IgE抗体陽性(> 0.35UA/mL)
  → Ana o 3 > 2.5UA/mL  → カシューナッツアレルギー確定
  → Ana o 3 < 2.5UA/mL  → 経口負荷試験

カシューナッツ特異的IgE抗体陰性(< 0.35UA/mL)
  → Ana o 3 >  0.35UA/mL  → 経口負荷試験
  → Ana o 3 <  0.35UA/mL  → 摂取開始を検討


参考までに、ピーナッツアレルギーも提示しておきます。

ピーナッツアレルギーの診断フロー
ピーナッツはクルミ、カシューナッツと少し診断フローが異なっています。
検査項目は「ピーナッツ特異的IgE抗体」とそのアレルゲンコンポーネントである「Ara h 2」(アラエイチツー)です;

ピーナッツ特異的IgE抗体陽性
(> 50UA/mL)  → ピーナッツアレルギー確定
(> 0.35UA/mL、< 50UA/mL)
  → Ara h 2 > 4.0UA/mL  → ピーナッツアレルギー確定
  → Ara h 2 < 4.0UA/mL  → 経口負荷試験

ピーナッツ特異的IgE抗体陰性(< 0.35UA/mL)
  → 摂取開始を検討


なお、上記の3つのアレルゲンコンポーネント(Jug r 1, Ana o 3, Ara h 2)はその構造が似ており、別の分類法(アレルゲンコンポーネントファミリー)ではプロラミン → 2Sアルブミンの仲間に属します。その特徴は「種子貯蔵タンパク」で、アナフィラキシーを起こしやすい性質を持ちます。

アレルゲンコンポーネントについてもう少し詳しく知りたい方はこちらをどうぞお読みください。

他のナッツ類に関する診断フロー、アレルゲンコンポーネントの評価はまだ検討中で、
・ヘーゼルナッツはもう少しで基準ができそう、
・マカダミアナッツやアーモンドはデータ不足、
です(2022年7月時点)。

※追記(木の実類アレルギーアップデート2023年2月

<その他のナッツ・アレルギー>
アーモンド
・他のナッツ類と比較して重症な症状を呈することが少ない傾向にあります。
・アーモンド特異的IgE抗体陽性でも確実なエピソードがない場合は、医師の管理下に経口負荷試験を行って実際に症状が出るかどうか確認することが勧められています。

ヘーゼルナッツ
・ヨーロッパでは食物アレルギーの主な原因の一つですが、日本では検査陽性でもアレルギー症状を呈する割合は少ないとされています。


※ 検査値データと診断フローはサーモフィッシャー社の資料を参考に作成しました。


■ 治療

食事指導
・次項のようにナッツアレルギーが治る確率は10%と低く、かつ症状が激しいことが多いため、診断確定 → 除去が基本です。
・前述のように、クルミペカンナッツ(ピーカンナッツ)カシューナッツピスタチオは交差反応するため、どちらかを食べると症状が出る場合はもう一方も除去することが基本です。
・ナッツ類は菓子類、ドレッシングなど多くの食品に利用されています。食品の外見だけではわかりにくいため、原材料を確認することが必要です。
・現在、クルミ、カシューナッツ、アーモンド(2019年から)が表示推奨品目に指定されています。これは義務ではなく推奨なので、ご注意ください。なお、クルミは2022年中に表示推奨から表示義務へ変更される予定です。

薬物治療
・アナフィラキシーの経験がある患者さんは、誤食した際に救急車を呼んで到着するまでの時間稼ぎ目的で「エピペン」を携帯・使用します。体重15kg以上なら使用可能なので主治医に相談してください。


※ 海外では経口免疫療法(あえて食べさせることにより反応しない体を作る)も行われていますが、症状必発なので研究レベルにとどまり、日本では一般の治療として認められていません。


■ 予後
ナッツアレルギーは治るのでしょうか?
残念ながら他のアレルギー(乳幼児期に発症する卵・牛乳・小麦など)と比較すると耐性化率(食べられるようになること)は低い数字にとどまり、治ることは期待できません。
・大人になるまでの耐性化率はナッツ類全体で10%程度
・ピーナッツでは10〜20%程度
と報告されています。


<参考>
食物アレルギー診療ガイドライン2021
加工食品のアレルギー表示ハンドブック
アナフィラキシー時のエピペンの使用について(環境再生保全機構)
 

「食物アレルギーの検査をしてください」と受診する患者さんが後を絶ちません。

患者さんは「検査をすればハッキリわかる、白黒が付く」と思っていたり、「保育園・幼稚園から検査結果を提出するように言われた」という事情があったり。

しかし残念ながら、現在のアレルギー検査の精度は必ずしも高くなくて、1回の検査で白黒が付かないことも多いのです。

もっとも、アレルギー検査の精度は日進月歩なので、いずれ皆さんの希望に応えられる日が来ると思われます。

さて、私が食物アレルギーの相談を受けた場合の診断に至るまでの手順を紹介します。

まず「そのエピソードがホントに食物アレルギーなのか?」をハッキリさせるために聞くことは、
 

① 食物アレルギーを疑っている食品・食材を食べるたびに毎回、同じ症状が出ますか?

例えば・・・

(エピソード1)
「ヨーグルトを食べた後に口の周りをかゆがるような気がして牛乳アレルギーを心配して受診したけど、混合栄養で育児用ミルクは飲んでます。」

 → 乳製品を食べると症状が出るけど、育児用ミルク(≒牛乳)を飲んでも無症状の牛乳アレルギーはありません。

(エピソード2)

「卵の入っているお菓子を食べると顔が赤くなるような気がするけど、出るときと出ないときがあります。」

 → 食物アレルギーはその食材を食べる度に毎回同じ経過で症状が出るのが原則ですので、出たり出なかったりでは可能性は低いです。
※ ただし、大人で多い「アニサキスアレルギー」では、その魚にアニサキスが入っているかどうかで症状出現の有無が決まります。

つまり、食物アレルギーが心配で受診した人のすべてが食物アレルギーというわけではないのです。

逆に①をクリアしたら、食物アレルギーを強く疑うことになり、さらに詳しく具体的に話を聞かせていただきます。


② 疑わしい食品・食材をどんな状態で、どのくらい食べましたか?

・生で食べたのか。

・加熱調理したのもか。

・少量含む加工品を食べたのか。


・・・これらの情報はアレルギーの強度、診断後の食事指導に役立ちます。
生だと症状が出るけど加工品では大丈夫、という事例は多く、その場合は「今まで食べて無症状だったレベルの加工品や調理品は続けて食べてください」という指導になるからです。〇〇〇アレルギーと診断したからといって、〇〇〇という食材を含む食品をすべて除去する必要はありません。


③ いつ、どんな症状が出ましたか?

・食べている最中~食べてから1時間以内か、2時間以降か、翌日以降か。

・症状は以下のうちどれとどれか?

(皮膚症状)かゆみ、赤くなる、じんましん、アトピー性皮膚炎の悪化

(呼吸器症状)咳、ゼーゼー、かすれ声、呼吸困難

(消化器症状)嘔気・嘔吐、腹痛、下痢、血便

(全身症状)ふらつき、顔面蒼白、意識障害


・・・これらの情報、とくに「いつ?」は、確定診断のために検査を選択するときに役立ちます。

血液検査で検出できるのは食べて2時間以内に症状が出る「即時型反応」に限定されるからです。

食べて2時間以降に症状が出た場合は、確定できる検査方法が現時点ではありません(例外的に保険的法外の自費検査で可能な場合があります)。

また、「食べた翌日にアトピー性皮膚炎が悪化した」エピソードの場合は、もともと湿疹のかゆみ・程度には波があるため、それが食物アレルギーによるものかどうかの判定は難しくなります。この場合は、湿疹を十分治療してすべすべの肌にした後に、仕切り直して負荷試験をして判定することになります。


食物アレルギーの症状は皮膚症状が圧倒的に多いのですが、時々、咳き込んだり(呼吸器症状)、吐いたり(消化器症状)するエピソードも相談を受けます。

複数のアレルギー症状が同時に出現する現象を「アナフィラキシー」と呼びます。新型コロナワクチン接種の際の副反応としてTVでたびたび取りあげられ、有名になりましたね。

「アナフィラキシー」を起こしたことのある患者さんは、自己判断で食べさせることは絶対にやめてください。医師の食事指導の指示をしっかり守ってください。除去解除をする際、あるいは量を増やす場合はアナフィラキシー対応可能な総合病院レベルでの経口負荷試験が必要になります。


以上をまとめますと、血液検査が診断に役に立つ食物アレルギーは、

① その食材・食品を食べるたびに毎回同じ経過で症状が出る。

② 食べた後2時間以内に症状が出る。

場合に限定され、それ以外は症状の再現性(あるいは経口負荷試験)で判断するということになります。

そして、診断確定後の食事指導の基本は、

① 今まで食べても無症状だったものは続けてOK、症状が出るレベルは除去。
② 除去解除は医師の管理下で行う。

ということになります。


おっと、肝心の検査について書くのを忘れていました。

当院では以下のエピソードがある場合に血液検査で確認しています。

・アナフィラキシー

・症状の再現性あり

つまり、「症状の再現性がない場合」「症状が出るときと出ないときがある場合」は検査をしていません。


最初に「アレルギー検査の精度が今ひとつ」と書きましたが、

(検査が陽性)+(症状は出ない)・・・日常茶飯事

(検査が陰性)+(症状が出る)・・・・まれ

という現象があるからです。
このメカニズムについて詳しく知りたい方は、
食物アレルゲンの検査(IgE抗体)陽性だから除去してください、は正しい?」(当院ブログ)
をご覧ください。


症状が出ないけど検査は陽性の場合、あなたは食べますか? 食べませんか?

・・・そう、混乱を招くだけなのです。



<参考>

▢ 「プロバビリティ・カーブ」(食物アレルギー研究会)
 

「卵アレルギー」といえば、今までは「卵白アレルギー」のことを指していました。卵、特に卵白(白身部分)を食べると皮膚が赤くなってかゆがりじんま疹が出る、咳き込んでゼーゼーすることもある、という症状が典型的です。

しかし近年、「卵、とくに卵黄を食べた後に吐く」相談の患者さんが増えてきて、アレルギー学会でも話題になっています。

まったく健康な赤ちゃんが、卵黄を食べるたびに嘔吐を繰り返すことで気づかれます。卵黄を食べてから嘔吐までの時間はすぐではなく、1~4時間後と卵白より遅い傾向があります。

そのため、卵アレルギーは以下のように2種類に分けられるようになりました。


卵アレルギー 

1.卵白アレルギー:鶏卵摂取後1時間以内に皮膚・呼吸器症状出現

2.卵黄アレルギー:鶏卵摂取後数時間以降に消化器症状出現


「卵黄アレルギー」について、私の耳学問の範囲でわかっていることは、

・乳児期に発症

・食べてすぐではなく数時間後に嘔吐を反復

・じんま疹などの皮膚症状は出ない

・血液検査は役に立たない

・卵白は食べられることが多い

・幼児期までに治ることが多い

等々。


まだまだ情報不足ですが、2022年7月時点で集めた情報を整理しておきます。


卵黄アレルギー


■ どんな病気?

・卵黄を食べると体の中でアレルギー反応が起こり、数時間後に嘔吐を主とする消化器症状が出る病気。


※ (参考)専門用語では・・・

・卵黄によるIgE非依存型消化管アレルギー(FPIES, food protein-induced enterocolitis syndrome)

・アレルゲン特異的リンパ球の過剰反応による細胞依存性アレルギー(遅延型アレルギー)・食物蛋白誘発胃腸炎


■ 原因は?

・卵黄中のアレルゲン成分はまだ分離・確定されていない。


(参考)

・国際機関WHO/International Union of Immunological Societies(IUIS)のデータベースには、鶏卵に含まれるアレルゲン性(アレルギー症状を誘発する能力)を有するタンパク質(アレルゲンコンポーネント)として、6種類が登録されています。主要なアレルゲンコンポーネントとしては、卵白ではオボムコイド、オボアルブミン、リゾチームが、卵黄ではα-リベチンが知られています。


■ どれくらいいるの?

・子どもの食物アレルギーで一番多いのは卵白アレルギーであるが、卵黄アレルギーは少ない。

・海外では嘔吐・下痢などのお腹の症状が出る消化管アレルギーの原因は穀物が多く、日本では鶏卵の卵黄が圧倒的に多い。


■ どんな症状が出るの?

・卵黄を食べてから1~4時間後に嘔吐。

・程度により顔面蒼白、脱力感(グッタリ感)も出現。

・卵白アレルギーでよく見られる皮膚症状(かゆみ・発赤・じんましん)はみられない。


■ どうやって診断する? 検査でわかるの?

・実際の臨床症状の再現性が確認できれば診断確定。

・明確でないときは食物負荷試験を行い再現性を確認。

血液検査(卵黄特異的IgE抗体)は陰性(~弱陽性)なので役に立たない


■ 治療は?

・卵黄を除去。

・一定期間(数ヶ月~半年)開けてから、医師の管理下で少量より再開、あるいは経口負荷試験を行う。


■ 治るんですか?

・3歳時点で9割が改善。

・寛解率(治る確率)は2年で30%、3年で80%という報告も。



<参考>

▢ 「卵黄」を食べて数時間後に嘔吐などを繰り返す赤ちゃんは注意 -食物アレルギーとは異なり、食物蛋白誘発胃腸炎では「卵黄」が原因に-  
2020年10月15日 慶應義塾大学医学部・国立成育医療研究センター 

▢ 2~3時間後に激しい嘔吐 赤ちゃんの食物蛋白誘発胃腸炎(国立成育医療研究センターアレルギー研究室 森田英明室長)(時事メディカル、2021.6.26)

 

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