カテゴリ: 漢方

思春期の子どもで時々相談を受けます。
起立性調節障害は以下の診断基準のうち3つ当てはまり、
貧血など他の病気が除外できると診断されます。 


1

立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい

2

立っていると気分が悪くなる。ひどくなると倒れる

3

入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる

4

少し動くと動機あるいは息切れがする

5

朝なかなか起きられず午前中調子が悪い

6

顔色が青白い

7

食欲不振

8

臍疝痛をときどき訴える

9

倦怠あるいは疲れやすい

10

頭痛

11

乗り物に酔いやすい


欧米では純粋に「循環器疾患」という位置づけで、
主に血圧に作用する薬を使用します。
日本もそれに準じる一方で、
なかなか薬が効かない患者さんも少なからず存在します。

それは、日本の診断基準に、

3

入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる

5

朝なかなか起きられず午前中調子が悪い

 
という「ココロの影響を受けるような項目」を入れてしまったから、
と言われています。
「嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる」って誰でもそうですよね。
 
ですから、起立性調節障害と診断され、
西洋薬を処方されても 効果が今ひとつの場合は、
ココロの問題も関与している可能性を考え、
当院では漢方薬の使用を提案しています。

起立性調節障害の症状を漢方医学用語に置き換えてみると、
(立ちくらみ、めまい、乗り物酔い、朝起きられない、頭痛)
 → 水バランスをうまく取れない体質(水毒・水滞
(腹痛、嫌なことを聞くと気分不快)
 → ストレスに過敏に反応しやすい体質(気うつ・肝鬱
という体質をベースに、
(怠い、疲れやすい、朝起きられない)
 → 人間関係で気力を使い果たして疲れている状態(気虚
(顔色が悪い)
 → それが長く続き身も心も疲れている状態(血虚
などが加わった病態と考えられます(諸説あり)。

上記を参考に、その人の体質・体調に合った薬を選択します。
体に合う漢方に出会うと、身も心も少し楽になることが期待できます。 
 

▶ 起立性調節障害に効く漢方薬


<基礎編>

倦怠感がメイン
・朝起きられない、めまい/たちくらみ、車酔い 苓桂朮甘湯39)(

        +胃腸虚弱・頭痛・めまい   半夏白朮天麻湯(37)

・朝起きられない、だるい・しんどい  補中益気湯41
※ 苓桂朮甘湯の効果が今ひとつ  苓桂朮甘湯(39)四物湯71)(連珠飲の方意) 


痛みがメイン
・おなかが痛い、虚弱        小建中湯99

・おなかが痛い・頭が痛い・ストレス 柴胡桂枝湯10

・心身症(ストレスによる体の症状)
 → 抑肝散54)、抑肝散加陳皮半夏83)、柴胡加竜骨牡蛎湯12


月経の影響あり
・生理中に悪化 → 当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25


<応用編>
〜上記薬剤でも手応えが今ひとつの場合に考慮

▶ 倦怠感(+α) に効く漢方薬
〜とにかく怠くてつらい、動けない、朝起きられないときに。
・倦怠感(とにかくだるい) → 補中益気湯(41)
・倦怠感 + 貧血・皮膚乾燥  → 十全大補湯(48)
・倦怠感 + めまい・頭痛   → 半夏白朮天麻湯(37)
・倦怠感 + 不安・落ち込み  → 加味帰脾湯(137)

・倦怠感 + 胃もたれ・冷え  → 六君子湯(43) 


▶ 
不安感(+α)に効く漢方薬

〜漢方には思春期の不安に寄り添う薬も用意されています。
・悲しみ・パニック・感情失禁  → 甘麦大棗湯(72)
  単剤で効果不十分なら   → 苓桂甘棗湯:甘麦大棗湯(72)+苓桂朮甘湯(39)
  慢性期には        → 苓桂朮甘湯(39)+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・喉のつまり          → 半夏厚朴湯(16)
・不安で心配でたまらない、体力なし、無気力 → 加味帰脾湯(137)

・ストレス、動悸、体力あり → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12) 

さらに、不安・緊張・怒りに効く漢方について知りたい方は、
こちらもご参照ください。
 

苦い漢方薬を子どもが飲めるわけがない!と思いがちですが、
それはあなたの思い込みです。

いろいろ試してみると、活路が見いだせます。
以下の内容は、当院スタッフが実際に味見をして作成したモノです。
ぜひお試しください。

(乳児期)

口内なすりつけ法
 漢方薬を少量のお湯で練ってペースト状にして、
 授乳前にほっぺの内側になすりつけます。
 残りは冷蔵庫保存し、授乳のたびに繰り返し。
 一日が終わったら破棄し、翌日また新しく作成。
 

ヨーグルトで食べさせる:生後6ヶ月以降
 混ぜるのではなくサンドして隠すイメージで。
 子どもが気づいたらヨーグルトだけの部分を食べさせて、
 ごまかしごまかし飲ませましょう。


(幼児期以降) 
液体・半固形物に溶かして味をわからなくする方法を伝授します。
   


小青竜湯

葛根湯加川芎辛夷

辛夷清肺湯

小柴胡湯加桔梗石膏

五虎湯

麦門冬湯

五苓散

半夏瀉心湯

小建中湯

黄耆建中湯

桂枝加黄耆湯

温清飲

甘麦大棗湯

抑肝散

柴胡加竜骨牡蛎湯

オレンジJ

× 

× 

× 

× 

× 

× 

× 

リンゴJ

× 

× 

× 

× 

牛乳

× 

× 

× 

× 

コーヒー牛乳

× 

× 

× 

カルピス

× 

× 

× 

× 

× 

× 

マミー



× 








× 

× 


ココア/ミロ

野菜ジュース(黄)

× 

× 

チョコアイス

× 

× 

バニラアイス

× 

× 

クッキー&クリーム

× 

× 

 


現在、日本では子どもの3人に1人が睡眠関連の悩みを抱えている、
というデータがあります。
もう、他人事ではありません。
眠れないお子さんへの日常生活に関するアドバイスを以下に記載しました:


■ 睡眠のスケジュール

・ふとんに入る時間・起きる時間は、
 毎日ほぼ同じ時間になるようにしましょう。

・睡眠時間に週末と平日の差があっても、
 1時間以内になるようにしましょう。

・人間の体は“寝だめ”はできないしくみになっています。
 週末寝だめをして、睡眠不足を解消するのはやめましょう。

 

■ 日光を浴びる

・朝、日光を浴びることは、
 正常な睡眠覚醒の体内時計(サーカディアン・リズム)を
 維持することに役立ちます。

  

■ 定期的な運動

・毎日、日中は外で活動する時間を作りましょう。 

 

■ 昼寝の可否

・低年齢(3歳未満)の子どもには
 昼寝は必要であり、問題ありません。

・高年齢(5歳以降)の子どもでは、
 昼寝をすると夜の寝付きが悪くなるので長時間の昼寝は避けましょう。
 ただし個人差があります。

 

■ 電子メディア

・テレビ、パソコン、スマホなどによる強い視覚刺激は、
 寝付きの妨げになるので、寝室には置かないようにしましょう。 

 

■ 夕方の活動

・ふとんに入るまでの時間は穏やかに静かに過ごすようにつとめ、
 テレビゲーム(スマホゲーム)のような興奮する活動は避けましょう。

 

■ カフェイン

・カフェインはふとんに入る前の3~4時間は避けましょう。
・カフェインは炭酸飲料、コーヒー、アイスティーなどに入ってます。
★ 麦茶、ルイボスティー、十六茶には入っていません。 


■ 規則正しい食事

・毎日決まった時間の食生活を心がけましょう。 

・ふとんに入る1~2時間前の食事は睡眠の妨げになります。

・お腹が空いたままでは眠れない、途中で目が覚めるため、
 その時間帯に食べることも仕方ない場合があります。
 ミルクやクッキーのような軽食ならよいでしょう。 

 

■ ふとんに入るときの習慣

・ふとんに入るときの20~30分間の習慣を作りましょう。

・本を読む、その日のことを話すなど、
 静かで楽しい活動を寝室で行いましょう。

 

■ 寝室の環境 

・暗くして、気持ちがよく快適な静かな環境にしましょう。

・部屋の温度は23~24℃以下で涼しめにしましょう。

・ふとんに入ったら、睡眠に関係のない勉強、電話などは控えましょう。 


・・・以上のことを試してみても、
やはり眠れなくて昼間の生活に支障が出る場合、
子どもには成人用の睡眠薬は使えないため、
当院では漢方薬を提案しています。

体質に合う漢方薬が見つかると、悩み軽減が期待できます。

▶ 睡眠の悩みに効く漢方薬 


(乳児期)夜泣き

 + 泣き虫、シクシク泣く、不安 → 甘麦大棗湯(72)

 + 怒りんぼ、ギャーギャー泣く、かんしゃくもち → 抑肝散(54)

 

(幼児期・学童期)眠らない・眠れない

 + 不安・泣き虫・あくび → 甘麦大棗湯(72)

 + 神経質・イライラ・多動 → 抑肝散(54)

 + 反復性腹痛・虚弱 → 小建中湯(99)

 + 鼻閉・口を開けて寝ている → 葛根湯加川芎辛夷(2)


(思春期)眠れない・朝起きられない

 + 不安 → 甘麦大棗湯(72)

 + イライラ・興奮 → 抑肝散(54)

 + 動悸・ストレス・恐怖 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

 + うつうつ、不安・心配だらけ → 加味帰脾湯(137)

+ 心身ともに疲れて眠れない → 酸棗仁湯(103)


・・・乳児期〜幼児期〜学童期〜思春期に共通して登場する、
抑肝散は「自律神経の日内リズムの狂い」、つまり、
「昼間の交感神経優位 → 夜間の副交感神経優位」への移行
がうまくいかない状態を改善してくれます。
交感神経亢進状態をやわらげることにより、
緊張から解放されて眠りにつける、とされています。
 
現代社会では大人も子どもも交感神経亢進状態を強いられ、
それによる健康障害が発生しがちです。
自律神経失調によるカラダの不調は“現代病” と言えるかもしれません。
 

乳幼児健診では「偏食」の悩みも多い相談事です。

ひとくちに「偏食」と言っても、
程度により2つに分けられると思います。

 

1.好き嫌い:嫌いなモノは数種類以内で、成長・発育に問題なし

2.偏食:嫌いなモノがたくさんあり、成長・発育が心配

  

1の「好き嫌い」のレベルであれば、

日々の食事の工夫で乗り切れることが多いです。

2の「偏食」の場合は程度により、

専門的な介入が必要になることがあります。

解説サイトを用意したのでご参照ください。   


子どもの好き嫌い・偏食
 

偏食にダイレクトに効く薬はありませんが、
漢方はお腹を温めて腸内細菌の善玉菌を増やし、
元気を底上げして食欲増加&偏食軽減が期待できます。

 

● 基本薬は小建中湯(99)。
オリゴ糖入り(※)でほんのり甘くて飲みやすい薬です。

小建中湯で効果が得られない場合は、
他の症状も考慮して数種類を使い分けます。

 

● 偏食+便秘  → 桂枝加芍薬大黄湯(134)

● 偏食+冷え  → 人参湯(32)

● 偏食+緊張  → 柴胡桂枝湯(10)

● 偏食+腹痛  → 安中散(5)

 

もしお子さんに睡眠の問題があれば、
そちらを先に解決することをお勧めします。

子どもの睡眠の悩みに漢方を
 

良質な睡眠 → 昼間の活動量増加 →
 → お腹が空いて食事量増加 → 偏食・便秘解消

というよい循環が作られます。



※ オリゴ糖入りの小建中湯;
小建中湯には「膠飴」という水飴成分がたくさん入っています。
これはほぼ麦芽糖であり、現代医学ではオリゴ糖に分類されています。 
小建中湯が漢方医学のテキストである『傷寒論』 に記載されたのは、
なんと今から1800年前の昔です。
つまり、1800年前の中国の医師達は、
子どもにオリゴ糖を飲ませ続けると体調がよくなることをすでに発見していた、
ということになります。
逆に言うと、子どもの健康を底上げしてくれる漢方薬の薬効の一つは、
オリゴ糖であったと現代医学が解明したということ。
この事実を知ったとき、私は感動して体が震えました。 
これからも漢方薬の薬効を現代医学が解明していくことでしょう。
 

乳児健診で多い相談事です。
1歳半健診や3歳児健診では毎回、耳にします。

残念ながら西洋医学では、
「環境を整えて様子を見ましょう」
という指導しかできません。

しかし漢方では対応可能です。
漢方薬にはカラダに効く生薬だけでなく、
ココロに効く生薬が必ずと言っていいほど入ってます。

そのお子さんの症状、性格、体調などを考慮し、
体に合う漢方薬が見つかると悩み軽減が期待できます。


<基礎編> 

かんしゃく・夜泣きなどの “乳幼児のココロの問題” を、
不安緊張怒りというキーワードを用いて分類し、
以下のように漢方薬を使い分けます。

1.
不安

性格:心配性、不安、怯え、怖がり、泣き虫
症状:夜なき、不安~パニック発作、こだわり、言葉の遅れ、
   コミュニケーション障害、感覚過敏、自信のなさ
睡眠:不安で目が覚める、目覚めると母を探す、心配で眠れない
漢方:甘麦大棗湯(72)、酸棗仁湯(103)、加味帰脾湯(137)


2.
緊張

性格:イライラ、ドキドキ、憂うつ、ヒステリック
症状:かんしゃく、不注意、落ち着きのなさ、緊張しやすい
睡眠:歯ぎしり、夜驚症、夢が多い
漢方:四逆散(35)、柴朴湯(96)、加味逍遥散(24)、香蘇散(70)


3.
怒り・興奮

性格:怒りんぼ、落ち着きがない
症状:夜なき、強いかんしゃく、焦燥感、易刺激性、多動
睡眠:寝付きに時間がかかる(入眠困難)、激しく泣く、完全に覚醒して遊ぶ
漢方:黄連解毒湯(15)

 

<応用編>
上記の漢方薬で効果が今ひとつの時は、
子どもの様子をよく観察し、以下の漢方薬も考慮します。

 

1+2(不安+緊張柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

2+3(緊張>怒り大柴胡湯(8)/大柴胡湯去大黄

3+2(怒り>緊張抑肝散(54)/抑肝散加陳皮半夏(83)


「不安と緊張」「緊張と怒り」を明確に分離することは難しく、
現実には混在することが多いと感じます。
外来ではこれらの漢方薬を処方する機会が多いですね。
 
余談ですが、「不安」と「緊張」は分けられるのか?とAIに訊いてみました。
すると明確な答えが返ってきました。

・心理学において「不安」と「緊張」は異なる感情として考えられています。

・不安は、漠然とした心配や恐れを伴う感情であり、
 特定の原因が明確でない場合もあります。
 これは、未来に対する予期不安や、
 何か悪いことが起こるのではないかという感覚から生じます

・緊張は、特定の出来事や状況に対する反応として現れます。
 例えば、試験やプレゼンテーションの際に感じる緊張は、
 具体的な状況に対する身構えた状態を指します。
 緊張は、身体的な緊張感や心の高まりを伴うことが多いです

・このように、不安は一般的で漠然とした感情であり、
 緊張は特定の状況に対する反応であるため、
 心理学ではこれらを分けて考えます。
 また、不安が続くことで緊張状態になることもあれば、
 緊張から不安が生じることもあります。
 したがって、両者は関連しつつも異なる感情として理解されるべきです。

・・・なるほど。 

 〜繰り返す、治りにくい、鼻づまりがつらい〜

乳幼児に集団生活が始まると風邪の洗礼を受けます。

中には「治る&もらう」を繰り返し、
「うちの子、免疫力が弱いのかしら」
と家族が不安になるケースも。
基本的に風邪を引いても、治って一旦元気になって、
またもらうパターンは心配ありません。
ただ、風邪の原因ウイルスは200種類もあるのでエンドレスです。

日々の診療では、

 「入園してからずっと風邪を引いてます」

 「かぜ薬を飲んでいるけどなかなか治りません」

 「鼻水・鼻づまりがつらそうで、夜眠れません」

 「咳止めを使っているのに夜中に咳き込んで目が覚めます」

等の悩みを、保護者の方からよく聞きます。
 

西洋薬で解決できないこのような悩みを、
漢方薬が改善・解決してくれる可能性があり、
当院では漢方薬の併用をオススメしています。


お役立ちケースを紹介します;

▶ 風邪を繰り返す、ずっと風邪を引いている

 → 漢方薬で風邪の回数と程度が軽くなることが期待できます。
 体力を底上げして健康になる薬、
 風邪を予防する薬、
 慢性の炎症を抑える薬、
 などがあります。

(例)小建中湯(99)、黄耆建中湯(98)、補中益気湯(41)

  柴胡清肝湯(80)、柴胡桂枝湯(10)

▶ 鼻水・鼻づまりが治りきらない、夜がつらそう

 → 鼻汁・鼻づまりは漢方の得意分野、西洋薬よりも効きます。
 透明な水様鼻汁、にごった白色鼻汁、青っぱなが止まらない・・・
 など、鼻水の様子で使い分けます。

 (例)小青竜湯(19)、葛根湯加川芎辛夷(2)、辛夷清肺湯(104)

  上記薬剤に小柴胡湯(9)/小柴胡湯加桔梗石膏(109)併用で効果アップ


▶ 薬を飲んでいるのに咳が止まらない

 → 乾いた咳、湿った咳、エヘン虫の咳、後鼻漏による咳、
 などで使い分けます。
 西洋薬で改善しない咳や、咳払いのクセにも効果が期待できます。

(例)麦門冬湯(29)、五虎湯(95)、半夏厚朴湯(16)、柴朴湯(96)、

   葛根湯加川芎辛夷(2)、辛夷清肺湯(104)


ここではめまい・立ちくらみ(水毒)に使用される3方剤を比較してみます。

「めまい・立ちくらみ」を訴えて受診された患者さんには、
まず西洋医学的検査を優先します。

諸検査に異常なく、
しかし症状がつらい場合は漢方の出番です。

「めまい・立ちくらみ」には以下の漢方薬が頻用されます。

五苓散(17)
苓桂朮甘湯(39)
半夏白朮天麻湯(37)

これらの構成生薬の概要をまとめた表を紹介します;
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すべて「水毒」対応の生薬が中心ですが、
ほかに「気逆」や「気虚」に対する生薬も含まれています。
それらを考慮して使い分けるのです。

漢方の世界では、
立てば苓桂、回れば沢瀉、歩くめまいは真武湯」という言い伝え(口訣)
が存在します。
このうち、「立てば苓桂」は「起立性低血圧には苓桂朮甘湯」という意味です。

苓桂朮甘湯には甘草という生薬が含まれています。
甘草は「急迫(急激な症状)を治す」とされています。
つまり、起き上がったときなど発症時点が比較的明確な症状に効果を発揮しやすいのです。
桂皮は気逆を治します。五苓散でも起立時のめまいにある程度効果があるかもしれないのですが、苓桂朮甘湯の方が桂皮を多く含んでいる分だけ、よりめまいに特化しているという違いがあります。
一方で、五苓散とは異なり、沢瀉や猪苓が入っていない分、水毒に対する効果が少し弱まり、嘔吐や排尿障害といった水の出入りに対する効果は五苓散よりも弱いと思われます。

半夏白朮天麻湯(37)は参耆剤(人参と黄耆を含む)の仲間で、気虚(倦怠感・無気力)に対して効果を発揮する特徴があります。

五苓散は水毒に対応する生薬を詰め込んだ薬であり、乏尿や口渇など水毒徴候が目立つ例に効果が期待あれ、浮腫や下痢をある程度治すことが可能です。
五苓散に含まれる桂皮(気逆を治す作用)の存在を考慮すると、吐き気や嘔吐、頭痛、めまいといった症状と相性がよいことも類推できます。水毒に気逆が少し付随している症状となると、例えば、雨天時に増悪する片頭痛やめまい
、急性胃腸炎に伴う嘔吐などが挙げられます

なお、3つすべてに茯苓と朮が含まれています。
ともに水毒に対する生薬ですが、
ともに「気虚」に有効な生薬でもあります。

茯苓には「安神作用」といって、動悸やまぶたのぴくつきといった神経症的な症状に対して精神を和らげて治す薬能も付随します。

ここが大きなポイントです。
「めまい・立ちくらみ」とともに、
「倦怠感・無気力」をもカバーする薬なのです。

起立性調節障害にピッタリですね。


<参考>
立った時? 歩いた時? めまいの起こり方で異なる漢方処方(2025年5月:日経メディカル)
 伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)
これだけは覚えたい!水毒を治す4つの代表的生薬とは(2025年2月:日経メディカル)
 伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)

近年、子どもの不登校が増えてきています。
昔は人間関係が原因のことが多く、
カウンセリングで紐解いていく作業が必須でした。
近年は「漠然とした不安」が原因の第一位となりました。 

しかし専門家の話を聞くと、
・子ども自身が不安を言語化できない
・さらには子ども自身が不安を自覚できていない
ーことが多いと聞きます。 

不安を言語化できないので、体調不良で訴えるわけですね。
症状は心のSOSのサインかもしれません。

このグレーゾーンに漢方薬が役立つと思います。 
漢方医学では、症状を訴える人の病態を「気・血・水」というものさしで評価します。 
このうち「気」は元気の気、やる気の気、弱気の気・・・
日常的に使用している単語の語源です。

漢方医学では心と体は走後に影響し合うという「心身一如」という概念があります。
そして漢方薬は「心と体」の両方に効くようにつくられているのです。

具合が悪くてどうにもならず病院を受診し検査を受け、その結果異常なし、
すると医師からは、
「気のせいでしょう」
と言われてガッカリする話を時々耳にします。

漢方では「気のせい=気の異常」と捉えます。
ですから「気のせい」と言われたら、すなわち漢方の出番なのです。

気の異常はさらに以下のように分類され、
その病態に対応する生薬や薬がいくつも用意されています。

【気虚】
・気が消耗した状態
・心が疲れた状態
・無気力
【気うつ】
・悩みやストレスをため込んで発散できない状態
【気逆】
・不安や怒りが逆上して湧き上がってくる状態

では子どもの不安に対して、漢方でどう対処するのかを見ていきましょう。 

▶ 気虚

補中益気湯(41) 
● 適応
・無気力症状(気が空になった、やる気が起きない、ゴロゴロしていたい)+身体症状(倦怠感、食欲低下)

加味帰脾湯(137)
● 適応 
・貧血傾向の疲労感を伴う抑うつ状態
・疲れ切っているのに思考は活性化してしまう(思考がぐるぐるとまとまらない)
● 症状
・集中力低下、健忘症状、不眠
・COVID-19の罹患後精神症状(ブレインフォグ)

小建中湯(99)
● 適応
・虚弱でやせ型、くすぐったがり屋
・性格的には過敏で、対人関係ではビクビクしていることが多い。
● 症状
・疲労倦怠感が強く、腹痛や頻尿・夜尿など
・動悸が息苦しさなどの不安症状
・不安感は特定の「場所」だけではなく「空気感」にも感じることが多く、怒るかもしれないことに対して強い不安感(予期不安)を感じる。
・身体症状としては過敏性腸症候群による腹痛や、頻尿を伴うことが多く、学校で「トイレに閉じこもる」 傾向が観察される。
 
▶ 気うつ

半夏厚朴湯(16) 
● 適応
・真面目な性格で対人関係を思い悩み不安を感じることが多い。
・ストレスを強く主張することができず、胸の中にため込み、
「のどが詰まる」「胸がモヤモヤする」と表現する。
● 症状
・咽喉頭異常感:のどがつまる
・のどから胸にかけての不快感 
・声が出しにくい
・息苦しい
・過呼吸発作
・考え込んで眠れない

▶ 気逆

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
● 適応
・不安の対象が「人」ではなく「場所」「空気感」「物音」の場合
・過敏性の高い状態からパニック障害や過呼吸症候群を呈する 
● 症状
・教室に入ることができない
・人混みが苦手 → 外出を避けて引きこもりがち
・(教室や人混みに行くと)動悸や息苦しさを感じて過呼吸発作
・少しの物音にも敏感で驚きやすく不安を感じやすい(煩驚)

抑肝散(54)
● 適応
・ポイントは「怒り」
・かんしゃくを起こして怒り出す子ども
・思い通りにならないとイライラしたり、怒鳴ったり手を出したりする子ども 
● 症状
・かんしゃく
・不眠 

▶ 効果不十分の時の次の一手
● 気の異常+水毒
・上記薬剤+五苓散(17)
・苓桂朮甘湯(39)・・・不安感+(天気の影響を受けるふらつき・朝の倦怠感・めまい) 
● その他
茯苓飲合半夏厚朴湯(116)・・・気持ちの落ち込み・不安感+吐き気
抑肝散加陳皮半夏(83)・・・怒り+消化器症状

▶ 抗不安作用を増強する方法5つ(千福Dr)
● 桂皮を増量:腹症に特徴なし
(例)苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)
   苓桂朮甘湯(39)+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
● 芍薬を加える:腹直筋緊張(精神的に過緊張)
(例)苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)
   苓桂朮甘湯(39)+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
   桂枝加芍薬湯(60)+四物湯(71)
● 四物湯を加える:貧血・冷え症・クヨクヨ
(例)苓桂朮甘湯(39)+四物湯(71)(→ 連珠飲
   桂枝加芍薬湯(60)+四物湯(71)(→ 神田橋処方
● 竜骨・牡蛎を加える:臍上悸・イライラ
● 柴胡を加える:胸脇苦満(ストレスまみれ)
(例)柴胡桂枝乾姜湯(11)…抗不安(桂皮配合)
   補中益気湯(41)…抗うつ(人参配合)

漢方医学では「フクロウ型体質」と呼ばれる病態があります。
山本巌という先生が提唱した概念で、ほぼ起立性調節障害とイコールです。
そしてその病態には苓桂朮甘湯と補中益気湯という薬が適用されます。

つまり、漢方医学では起立性調節障害の治療法が以前から存在していたのです。

現在、久留米大学の惠紙英昭先生が「フクロウ外来」を開いて、
上記体質でつらい思いをしている患者さんを漢方薬で治療しています。
その講演メモを備忘録として残しておきます。

▶ フクロウ型体質の症状
・「朝寝の宵っ張り」で寝ていたい。日曜日は昼頃まで寝ている。
・朝は頭がボーっとしているが、夕方から夜にかけて最も元気。
・朝食は欲しくない。夕食が美味しいし、よく食べる。
・カラダがしんどい、疲れやすい、体力がない、頭が痛む、肩がこる、胃が痞える、重ぐるしい、吐き気がある、胃が痛む、めまいがする、手足が冷える、など多愁訴。
・体力がなく、粘りが効かず、力仕事に向かない。
・内科や小児科を受診しても異常がなく(起立性調節障害±)、治療に難渋。
・世の中に2~3割。

▶ フクロウ型体質の特徴・問題点
・不定愁訴だらけなので、怠け・気分障害などと診断されかねない。
・弱虫?のび太?
・副交感神経優位タイプ。
・漢方的には虚証が多い。
・朝起き苦手、体が重い(浮腫)、めまい、頭痛、立ちくらみ、倦怠感、冷え、神経質…漢方医学的には水滞。

▶ 苓桂朮甘湯(傷寒論・金匱要略)
● 構成生薬
 茯苓・蒼朮・桂皮…利水
 桂皮      …血行を良くする、軽度強心作用、抗不安作用
 茯苓・桂皮・甘草…動悸(心悸亢進)を鎮める
● 効能効果(保険病名)
  神経質、ノイローゼ、めまい、動悸、息切れ、頭痛
● 古典の記載(金匱要略)
・「心下に痰飲ありて胸脇支満し、目眩するは苓桂朮甘湯之を主る」
・(現代語訳)胃内停水があり、その量が多いと胸部につっかえ棒が入っているような感じがして目眩がし、その時には苓桂朮甘湯を用いる。

▶ 苓桂朮甘湯に併用する漢方薬
・五苓散
・補中益気湯、十全大補湯
・半夏厚朴湯
・当帰芍薬散
・桂枝茯苓丸
・葛根加朮附湯
・加味逍遥散
・抑肝散・抑肝散化陳皮半夏
・桂枝加芍薬湯・小建中湯
・柴胡清肝湯・荊芥連翹湯
・八味地黄丸・六味丸
・真武湯
・治打撲一方
・四物湯(連珠飲)

★ 治打撲一方
● 生薬構成
 川骨・センキュウ・ぼくそく・大黄…駆お血作用(打撲の内出血による腫脹を除く)
 センキュウ・桂皮・ちょうし…駆お血剤の働きを助ける(活血)
 ぼくそく…抗炎症、鎮痛作用
 大黄  …しゃげ作用によりお血の排出を助ける
● 保険適応
・打撲による腫れおよび痛み
・打撲・ねん挫などで患部が腫脹・疼痛する場合

▶ 苓桂朮甘湯に併用する西洋薬
・アリピプラゾール(エビリファイ)
・スルピリド(ドグマチール)
・アトモキセチン(ストラテラ)
・SSRI、SNRI
・睡眠導入剤
 ✓ レンボレキサント(デエビゴ)
 ✓ ラメルテオン(ロゼレム)
 ✓ メラトニン(メラトベル)
・ミドドリン

▶ 現代のフクロウ型体質(症候群)と要因・誘因
・起立性調節障害:人間関係・血管運動神経失調
・メニエール症候群:人間関係、食生活のアンバランス(コンビニ弁当、甘いもの等)
・不登校:人間関係
・睡眠障害(睡眠相後退症候群):人間関係
・自律神経失調症・不定愁訴:人間関係
・気分障害・適応障害:人間関係
・頚椎・脊椎異常:姿勢・ランドセル・机に向かう時間・ゲームの長さ等、外傷(打撲や骨折)、出産時、
…全体に関与するのが神経発達症、統合失調症圏、椎骨脳底動脈循環動態、脳リンパ流

▶ フクロウ型体質のまとめ
・詳細な病歴聴取が基本:生育歴・生活歴・既往歴
・起立性調節障害を含む広い概念
・子どもだけでなく幅広い年齢に存在(知らずに成長)
・心身両面の西洋医学的診断(複数の診療科的視点)
 ① 脊椎異常も考慮すべし
 ② 古い外傷(打撲や骨折)も含めた病歴聴取
 ③ 不定愁訴を理解し受け入れる
・東洋医学的診断治療
 ✓ 気血水・腹診・脈診・舌診・望診など
 ✓ 漢方治療の再現性が必要
・こころのケア
 ✓ ダメだしされて自信喪失
 ✓ 自分のすべてを受け入れてくれる安心感と安全な場
 ✓ 寄り添う、一緒に楽しむ
・生活習慣(食事・睡眠衛生教育など)
・ストレッチ、運動、鍼灸
・内服後の心身の変化、薬の味をどのように感じるかなどをすべて受け入れる(たくさんの情報、ヒント、関係性を築く)

<方剤解説>

※ 芍薬+甘草 → 鎮痙・鎮痛作用
※ 柴胡+芍薬 → 抗ストレス作用、自律神経調節作用

10柴胡桂枝湯
● 構成生薬:小柴胡湯+桂枝湯
 桂皮・芍薬・甘草・大棗・生姜 → 桂枝湯
 柴胡・黄岑・半夏・人参・甘草・大棗・生姜 → 小柴胡湯
● 臨床応用:
・頭痛・腹痛などいろいろな症状
・ストレスがありそう
・自律神経失調症
・風邪の亜急性期
・反復性感染症
● こんな症状・体質に(広瀬滋之Dr):
・神経質・几帳面、不安傾向、ストレスに過敏
・ふだんから過緊張傾向(手掌発汗、肩こり、体が硬い)
・痛み(頭痛、腹痛、関節痛等)をよく訴える
・OD傾向あり(小症状>大症状・・・疼痛型)
・心身症に罹りやすい
・けいれん体質、周期性嘔吐症、夜尿症、チック、成長痛、不定愁訴、風邪をひきやすい
→「困ったときの柴胡桂枝湯」(新見正則Dr)

12柴胡加竜骨牡蛎湯
● 構成生薬:(小柴胡湯-甘草)+竜骨・牡蛎+α
 柴胡・黄岑・半夏・人参・大棗・生姜 →(小柴胡湯-甘草)
 桂皮
 竜骨・牡蛎(精神安定、抗動悸)
 茯苓(精神安定)
● 効能効果:
比較的体力があり、動悸、不眠、いらだちなどの精神症状のあるものの次の諸症:
・高血圧
・動脈硬化
・慢性腎臓病
・てんかん
・ヒステリー
・小児夜驚症
・陰萎
● こんな症状・所見に:
・体力中等度
・ストレスに立ち向かっている
・臍上悸(腹部大動脈拍動著明)
・胸脇苦満(心か部から右脇にかけて抵抗)
・脈:やや沈・実、舌苔:乾燥傾向、白、腹力3₋4

16半夏厚朴湯〜やや実証
● 構成生薬:小半夏加茯苓湯+厚朴・蘇葉
 半夏・茯苓(気をめぐらす)
 生姜
 厚朴・蘇葉(気をめぐらす)
● こんな症状・所見に:
・精神症状+喉のつまり感・つかえ感
・咽頭や食道部の違和感(梅核気、ヒステリー球、咽中炙臠)
・神経質、几帳面、用意周到、メモ魔
・予期不安(救急車で運ばれた経験がある、いつも異常なし)
・+胃腸症状 → 茯苓飲合半夏厚朴湯(116)
● 効能効果:
・不安神経症
・神経性胃炎
・つわり
・咳
・神経性食道狭窄症
・不眠症

17五苓散
● 構成生薬:
 桂皮(温める、抗炎症作用)
 蒼朮・沢瀉・猪苓・茯苓(水分代謝調節)
● 特徴:
・利水剤:脱水の時には水を保持、浮腫の時には水を排泄。
・水チャンネルであるアクアポリンに作用し水分代謝調節を行う。
● 臨床応用:
・ウイルス性胃腸炎
・頭痛(気象病・天気痛傾向)…アプリ「頭痛-る」の活用を
・乗り物酔い
・飛行機の離着時の症状
・熱中症
・二日酔い
・めまい

35四逆散
● 構成生薬
 柴胡
 芍薬
 甘草
 枳実

37半夏白朮天麻湯
● 構成生薬:
 天麻(頭痛・めまいを止める)
 黄耆・人参(元気にする)
 半夏・陳皮・生姜・茯苓・白朮 → 六君子湯
 茯苓・白朮・沢瀉(利水)
 麦芽・乾姜(健胃)
 黄ばく(清熱)
● 特徴:
・黄耆・人参入り → 参耆剤
・六君子湯の8つの構成生薬のうち、大棗・甘草以外が含まれている。
● こんな症状・所見に:
・日常的なめまい・頭痛・嘔気
・胃腸虚弱(お腹が冷えると下痢)、全身倦怠感
・冷え
・雨降りや過食で症状増悪
→胃腸虚弱で冷えを伴う頭痛・めまい

39苓桂朮甘湯
● 構成生薬:
 茯苓(水をめぐらせる、精神安定)
 桂皮(気をめぐらせる、温める)
 蒼朮(水をめぐらせる、胃腸を整える)
 甘草
● こんな症状・所見に:キーワードは「ドキドキ・チャポチャポ」(腹診所見)
・めまい、立ちくらみ
・頭痛、動悸
・臍上悸(ドキドキ)
・胃内停水音(チャポチャポ)

41補中益気湯
● 構成生薬:
 柴胡・升麻(下がったものを持ち上げる)
 (下がったものの例)食欲、気分、精神、内臓下垂
 人参・黄耆(元気にする)
 人参・蒼朮・陳皮・生姜・大棗・甘草(胃腸機能改善)
 当帰(血をめぐらせる)
● こんな症状・所見に:
・しんどくてやる気が出ない。
・食欲がない。
・疲れやすい。
・食後の眠気。
・風邪の回復が悪いとき。

54抑肝散〜虚証
● 原典:保嬰撮要(中国の明時代)
● 構成生薬:
 柴胡(理気、疎肝・清熱)
 釣藤鉤(降気、熄風:興奮を静める)
  釣藤鈎・柴胡(情緒安定)
 茯苓・蒼朮(利水)
 当帰・川芎(補血・活血)
 甘草
● 特徴:
・交感神経過緊張(怒りや筋緊張)を緩和
・効果は数日以内に感じられることが多い。 
● こんな症状・症状に:
・ストレスや交感神経過緊張による不眠
・子どもの夜泣きの薬
・神経質でイライラ、落ち着きがない。
・常に緊張を強いられている。
・やや興奮的な状態。
・どこかに怒りがある。
・診察室で打ち解けにくい印象(喜多Dr.)
※ 母親もイライラしているときは母子同服を。
● 効能効果:
・虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児癇症
● 臨床応用:
・イライラ
・夜泣き、疳の虫
・睡眠障害
・チック
・神経発達症
・泣き入りひきつけ
※ 怒りの急性期には抑肝散、
 長期化した怒りは、心身を損ね虚弱化させ胃腸を弱めるため、
 抑肝散化陳皮半夏がよい。

抑肝散有効例には「自分に対する怒り」が潜んでいる。 
・かんしゃくの根底に「自分の能力不足に対する怒り」、
「自分の理想像と実際の実力との乖離への怒り」がある場合に有効。
・逆に、抑肝散有効例には「自分自身への怒り」が存在している。
・そのような怒りの感情が出てくる発達段階以降から抑肝散の効果が出てくるため、
 甘麦大棗湯(72)と比較すると対象となる年齢は若干上がる
・対応としては、
✓ 自分の能力を向上させる(身体的成長や努力などを通じて)
✓ 自分の実力を受け入れて無理がかからないような環境調整をする
などを行うと、廃薬できる。
・抑肝散もしくは甘麦大棗湯単独で効果が頭打ちの場合は、
 併用するとよい場合が経験される。

72甘麦大棗湯
● 原典:金匱要略
「婦人のヒステリーで、悲しんで泣こうとし、
 モノノケが取り憑いたような動きをし、
 しばしばあくびをするようなときに使用」
● 構成生薬:
 甘草(緊張緩和・急迫症状抑制)
 浮小麦(情緒安定・鎮静作用)
 → トリプトファンを含み、セロトニンやメラトニンのもとになる。
 大棗(情緒安定・胃腸を整える)
● 特徴:
・すべてが食品としても使用される生薬で甘くて飲みやすい。
・有効例では数日以内に効果を実感する。 
● こんな症状・所見に:
・精神興奮がはなはだしく、不安・不眠・ひきつけなどのある子ども。
・「大丈夫、心配しないで」と声をかけたくなる子ども。
● 効能効果:
・夜泣き、ひきつけ(ツムラ)
・小児および婦人の神経症、不眠症(コタロー)
● 臨床応用
・不安が強い(母親分離不安も含む)
・夜泣き
・睡眠障害
・パニック、過換気
・チック
・神経発達症
・心因性頻尿
・涙があふれる
● 具体的な投与方法:
・パニック、不安予兆、過呼吸、涙があふれるとき → 頓用
・登校不安など → 朝、登校・登園前に
・夜泣き、夜驚症、怖い夢を見る → 夜、寝る前に
★ パニックに甘麦大棗湯(72)で効果が今一つの場合は、
 苓桂甘棗湯(奔豚湯):甘麦大棗湯(72)+苓桂朮甘湯(39)
 がおススメ。

83抑肝散化陳皮半夏
● 構成生薬:抑肝散+陳皮・半夏
 陳皮・半夏(胃腸機能調整・気のめぐり・水バランス調整)
● こんな症状・所見に:
・抑肝散より虚弱なタイプ。
・食が細い。
・怒りで心身が弱っている。

99小建中湯
● 原典:傷寒論・金匱要略(中国の後漢時代)
・虚弱な人で無理がたたっておなかが痛くなったときに使用
・体力が弱り腹直筋が緊張して動悸・鼻血・夢精・上下肢がだるくて疼く・手足が火照る・口やのどの乾燥感がある場合に使用
● 構成生薬:桂枝加芍薬湯+膠飴
 桂皮(気を巡らせて温める)
 芍薬(鎮痙・鎮痛)
 大棗・生姜・甘草(胃腸を整える)
 膠飴(滋養・潤す・気を補う)・・・麦芽糖(オリゴ糖)
● 特徴:
・虚弱児の体質改善
・腸を温めて腸蠕動を調節する
・緊張を緩和し情緒安定 → 体と心の緊張をゆるめて楽にしてくれる
・くすぐったがり屋で腹部診察困難、手足が温かく汗で湿っている場合はどんな症状でも有効。 
● こんな症状・所見に:
・食が細い、線が細い
・何となく顔色が悪い
・腹痛の訴えが多い
・目の下のクマ、まつげが長い
・偏食で甘いものが好き
・便秘したり下痢したり
・冷え症
・緊張しやすい
・汗をかきやすい(寝汗も)
・頻尿傾向
● 参考となる漢方的腹部診察(腹診)所見:
・お腹を触ると腹直筋が緊張(=交感神経過緊張)している
・くすぐったがる子ども
・「はい、力を抜いて~」と言っても抜けない人
● 効能効果:
・小児虚弱体質
・疲労倦怠
・神経質
・慢性胃腸炎
・小児夜尿症
・夜泣き
● 臨床応用:
・反復性腹痛、過敏性腸症候群
・虚弱児の体質改善
・周期性嘔吐症
・便秘症
・遷延性下痢症
・心因性頻尿
・アレルギー疾患の体質改善

137加味帰脾湯
● 構成生薬:帰脾湯+柴胡・山梔子
※ 帰脾湯には四君子湯が丸ごと入っている
 柴胡・山梔子(清熱)
 当帰・酸棗仁・竜眼肉・遠志・木香(血を補う、精神安定)
 黄耆・人参
 人参・茯苓・蒼朮・大棗・生姜・甘草
● 効能効果:
虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:
・貧血
・不眠症
・精神不安
・神経症
● こんな症状・所見に:
・顔色の悪い虚弱タイプ
・心配で思い悩んで疲れる
・オキシトシンとの関係(137はオキシトシンを増やす)


<参考>
・癇癪(上田晃三)小児内科 Vol.57 No.3 2025-3 

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