西洋医学的知識と漢方医学的解説の両方が出てきて役に立ちました。
漢方薬を考える際は、やはりここでも「五臓論」が登場します。
ASDの発症因子の解説を興味深く聴きました。
リスクが2倍以上になる因子は、
① 出生時の要因:早産、新生児仮死、妊娠感覚が1年未満
② 両親の年齢:母>40歳、父>50歳
・・・私が常々感じてきたことと一致しました。
メンタル不調を訴える思春期の患者さんを診療していると、とにかく「不安」が強いことが印象的です。ASDの子どもたちも、コミュニケーションが苦手で社会参加が十分にできないことから、さらに不安が増すことが考えられます。
一方、ADHDの併存症はASDと少し異なります。生活上のストレスにより自己評価が低下し、それをきっかけに悪循環、それが・・・
(内在化)うつ病、双極症、不安症
(中間)複雑型PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症
(外在化)物質使用症、反抗挑戦症、素行症、反社会性パーソナリティ症
と、一部は精神疾患につながるとのこと。
また、神経発達症を五臓論で解釈すると、ADHDとASDは異なる捉え方をしていました。
・ADHD
腎:腎精不足
肝:肝陽上亢・肝風内動
心:心火偏亢・心神不安
・ASD
脾:脾胃虚弱・痰迷心竅
肺:肺虚熱・肺失粛降
・ASD/ADHD併存
気血両虚による心血/肝血不足(虚熱)
肺失粛降による肝火/心火
▶ 脳内のシナプスの刈り込みと疾患
・小児期はシナプス形成が盛んで、思春期以降に刈り込みが行われ、成人期に安定する。
(ASD:自閉スペクトラム症)シナプス形成が過剰、刈り込みが不十分
(SZ:統合失調症)シナプス形成はふつう、刈り込みが早期で過剰
(AD:アルツハイマー病)シナプス形成はふつう、老年期に刈り込みが過剰
▶ ASD(自閉症スペクトラム)の因子(Odds/relatibe risk ratio)
・新生児仮死(低酸素血症) → 1~8
・妊娠糖尿病 → 1.5
・妊娠中のバルプロ酸 → 1.5
・妊娠間隔が1年未満 → 2
・高齢出産(>40歳) → 1~2
・父が高齢(>50歳) → 1~3
・兄弟がASD → 8~10
・早産 → 1~4
・母の肥満 → 1~1.5
・葉酸摂取 → <1
▶ ASDの特性(Nat Rev Dis Primers. 2020 Jan 16;6(1):5)
神経生物学的な特性(脳機能・神経発達の違い)
・知的障害、非定型的な対人交流(対人コミュニケーションの特性)
⇩
・学業達成の制限、限定的・制限された社会経験
⇩
・社会的・経済的機会の減少
▶ ASDの併存症(Nat Rev Dis Primers. 2020 Jan 16;6(1):5)
【幼児期】~6歳頃
・不安症(50%)
・ADHD(40%)
・限局性恐怖症(40%)
・反抗挑戦症/素行症(20%)
【小児期~思春期】~12歳頃
・不安症(30%)
・ADHD(30%)
・反抗挑戦症/素行症(15%)
【成人期】
・不安症・社交不安症(30%)
・うつ病(20%)
・強迫症・強迫性障害(20%)
▶ ADHDと睡眠の問題
ADHDが主体:ADHD症状が睡眠問題をもたらす/増悪させる
相互作用:相互因果関係/共通の病因
睡眠の問題が主体:睡眠の問題がADHDをもたらす/ADHDをミミックする
▶ ADHDの併存症
一押しとなる要因
・自己評価低下
・心的外傷
・低IQ
・人格形成への影響
以上により、
→ 内在化すると・・・うつ病、双極症、不安症
内在化と外在化の中間・・・複雑型PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症
→ 外在化すると・・・物質使用症、反抗挑戦症、素行症、反社会性パーソナリティ症
▶ ASDに併存するADHDはADHDなのか?
ASD:コミュニケーションの症状
ASD/ADHD合併症:認知の不安定性の症状、FPNの乱れ
ADHD:認知の不安定性の症状、DANの乱れ
※ FPN:frontoparietal network, DAN:default mode network
▶ 神経発達症では正気(気血津液)+「精」が重要
先天の精
・両親から受け継いだ生命の基礎物質(気血津液の源)
・成長、発育、生殖のベースとなる。
・絶えず後天の精の補充を受け、腎で腎精として蓄えられる。
後天の精
・後天的に飲食(水穀)を脾胃が消化吸収して得られる栄養物質
・全身の臓腑組織へ運ばれ、それぞれの生理機能の働きを果たす上で基本物質となる。
・絶えず腎に集まり、先天の精の働きを補う。
腎精と気血津液のイメージ
・腎精:ダムにたまった水
・気:その水が流れ落ちて発生する電気
・血:水が運び出す養分
・津液:水が周囲を湿らせるうるおい
▶ 知的発達症を含む神経発達症
・先天の精の不足(腎精不足)と考えられている。
・五遅五軟;
五遅:立遅、行遅、髪遅、歯遅、語遅
五軟:頭軟、項軟、手軟、足軟、口軟
▶ “虚熱”を理解する
・腎精不足により“水不足”となることで、大地は干上がって温暖化が進んでしまう。
・一時的な熱は「実熱」、二次的な熱は「虚熱」
・虚熱は冷ますだけでは解決しない。
① 水不足 → 水を補う
② 温暖化 → 熱を冷ます
▶ 熱により生まれる痰
・津液は熱により煮詰まってドロドロになる。
・さらに熱により脾や肺の水分代謝バランスが崩れ、痰が持続的に生まれる。
・脾胃は生痰の源、肺は貯痰の器
・この痰が様々な症状につながり、張景岳が「怪病気病は痰に属す」と述べるほど。
▶ 生津と化痰のバランス
・虚熱では水不足を想定するため生津作用を意識する。
・痰がたまることに対しては化痰作用(水を散らす)を意識する。
(例)麦門冬湯・・・半夏と麦門冬
(例)柴胡桂枝乾姜湯・・・乾姜と栝楼根
▶ 神経発達症は腎が基盤となる
1.腎
・生命の貯蔵庫
・発達の土台
・脳の成長
2.肝
・情緒の交通整理
・感情やそれに基づく行動の制御
3.心
・精神の司令塔
・精神、意識、睡眠、言葉
4.脾
・エネルギー工場
・思考の整理、脳への栄養補給
5.肺
・バリア
・感覚フィルター、呼吸
▶ ADHDと五臓
1.腎 ・・・腎精不足
2.肝 ・・・肝陽上亢・肝風内動
3.心 ・・・心火偏亢・心神不安
▶ ASDと五臓
4.脾 ・・・脾胃虚弱・痰迷心竅
5.肺 ・・・肺虚熱・肺失粛降
▶ ASD/ADHD併存と五臓
・気血両虚による心血/肝血不足(虚熱)
・肺失粛降による肝火/心火
▶ 神経発達症の症状と五臓
2.肝 → 多動性・衝動性
2&3 → 焦燥・てんかん発作
3.心 → 不安・不眠・不注意
4.脾 → こだわり・疲労
5.肺 → 感覚過敏
▶ 神経発達症に対する漢方薬
・心・肝の問題が大きい場合
大柴胡湯(8)+抑肝散(54)・・・飯田処方
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)+抑肝散(54)・・・飯田処方変法
・突発的な症状が大きい場合
大柴胡湯(8)+甘麦大棗湯(72)・・・甘麦大棗湯は養心安神作用や補気健脾作用(肺虚熱も静まる)で様々なASD症状への配慮あり、ただし甘草が多いので注意。
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)+甘麦大棗湯(72)・・・大柴胡湯と柴胡加竜骨牡蛎湯は甘草を含まない点で合方しやすい。
・フラッシュバックの場合:心血の著しい虚のことが多いと理解されている
四物湯(71)+桂枝加芍薬湯(60)・・・神田橋処方
十全大補湯(48)+小建中湯(99)・・・神田橋処方変法
・フラッシュバックが怒りを伴う場合
温清飲(57)+桂枝加芍薬湯(60)・・・神田橋処方に清熱を噛ませる。
・脳波異常がある場合
柴胡桂枝湯(10)+桂枝加芍薬湯(60)・・・相見処方。「脾胃は生痰の源、肺は貯痰の器」。てんかんは痰迷心竅や風痰が原因、桂枝湯成分でしっかりと痰を捌いている。
・感覚過敏からの易刺激性がある場合
人参養栄湯(108)・・・遠志による開竅作用や五味子による肺の生津作用もあり、五臓をカバーしたマルチプレイヤー。気血両虚が目立つ場合はASDの一時的な病態に伴う諸症状に対して気長に使いたい方剤(人参養栄湯+大柴胡湯など)。
竹筎温胆湯(91)・・・竹筎による肺の清熱化痰作用が特徴であり、人参や茯苓による補気健脾作用も期待できる。長期の使用で清熱化痰が気になるときは、帰脾湯や人参養栄湯との合方で使用する。
・天候に左右される場合
茵蔯五苓散(117)・・・清熱利湿作用を持つので、天候に左右されやすい諸症状や口渇やイライラなどを併せ持つときに有効(化痰作用は弱い)。長期の使用で清熱利湿が気になるときは、帰脾湯(65)や人参養栄湯(108)との合方で使用する(人参養栄湯との合方は神田橋処方2号)
・血虚・虚熱が目立つ場合
六味丸(87)・・・腎陰虚に特化している。気虚がなく血虚が目立つ場合はASDの一時的な病態に伴う諸症状に対して気長に使いたい方剤(六味丸合柴胡加竜骨牡蛎湯など)
▶ 状況に合わせてアレンジする
イライラが強い
・まず肝の問題を収めてから脾や肺や腎の長期カバーに入るか
・両方への配慮をした処方を最初から行うか。
疲労や感覚過敏が大きい
・まず脾や肺を立て直す。