カテゴリ: 思春期

思春期の子どもで時々相談を受けます。
起立性調節障害は以下の診断基準のうち3つ当てはまり、
貧血など他の病気が除外できると診断されます。 


1

立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい

2

立っていると気分が悪くなる。ひどくなると倒れる

3

入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる

4

少し動くと動機あるいは息切れがする

5

朝なかなか起きられず午前中調子が悪い

6

顔色が青白い

7

食欲不振

8

臍疝痛をときどき訴える

9

倦怠あるいは疲れやすい

10

頭痛

11

乗り物に酔いやすい


欧米では純粋に「循環器疾患」という位置づけで、
主に血圧に作用する薬を使用します。
日本もそれに準じる一方で、
なかなか薬が効かない患者さんも少なからず存在します。

それは、日本の診断基準に、

3

入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる

5

朝なかなか起きられず午前中調子が悪い

 
という「ココロの影響を受けるような項目」を入れてしまったから、
と言われています。
「嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる」って誰でもそうですよね。
 
ですから、起立性調節障害と診断され、
西洋薬を処方されても 効果が今ひとつの場合は、
ココロの問題も関与している可能性を考え、
当院では漢方薬の使用を提案しています。

起立性調節障害の症状を漢方医学用語に置き換えてみると、
(立ちくらみ、めまい、乗り物酔い、朝起きられない、頭痛)
 → 水バランスをうまく取れない体質(水毒・水滞
(腹痛、嫌なことを聞くと気分不快)
 → ストレスに過敏に反応しやすい体質(気うつ・肝鬱
という体質をベースに、
(怠い、疲れやすい、朝起きられない)
 → 人間関係で気力を使い果たして疲れている状態(気虚
(顔色が悪い)
 → それが長く続き身も心も疲れている状態(血虚
などが加わった病態と考えられます(諸説あり)。

上記を参考に、その人の体質・体調に合った薬を選択します。
体に合う漢方に出会うと、身も心も少し楽になることが期待できます。 
 

▶ 起立性調節障害に効く漢方薬


<基礎編>

倦怠感がメイン
・朝起きられない、めまい/たちくらみ、車酔い 苓桂朮甘湯39)(

        +胃腸虚弱・頭痛・めまい   半夏白朮天麻湯(37)

・朝起きられない、だるい・しんどい  補中益気湯41
※ 苓桂朮甘湯の効果が今ひとつ  苓桂朮甘湯(39)四物湯71)(連珠飲の方意) 


痛みがメイン
・おなかが痛い、虚弱        小建中湯99

・おなかが痛い・頭が痛い・ストレス 柴胡桂枝湯10

・心身症(ストレスによる体の症状)
 → 抑肝散54)、抑肝散加陳皮半夏83)、柴胡加竜骨牡蛎湯12


月経の影響あり
・生理中に悪化 → 当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25


<応用編>
〜上記薬剤でも手応えが今ひとつの場合に考慮

▶ 倦怠感(+α) に効く漢方薬
〜とにかく怠くてつらい、動けない、朝起きられないときに。
・倦怠感(とにかくだるい) → 補中益気湯(41)
・倦怠感 + 貧血・皮膚乾燥  → 十全大補湯(48)
・倦怠感 + めまい・頭痛   → 半夏白朮天麻湯(37)
・倦怠感 + 不安・落ち込み  → 加味帰脾湯(137)

・倦怠感 + 胃もたれ・冷え  → 六君子湯(43) 


▶ 
不安感(+α)に効く漢方薬

〜漢方には思春期の不安に寄り添う薬も用意されています。
・悲しみ・パニック・感情失禁  → 甘麦大棗湯(72)
  単剤で効果不十分なら   → 苓桂甘棗湯:甘麦大棗湯(72)+苓桂朮甘湯(39)
  慢性期には        → 苓桂朮甘湯(39)+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・喉のつまり          → 半夏厚朴湯(16)
・不安で心配でたまらない、体力なし、無気力 → 加味帰脾湯(137)

・ストレス、動悸、体力あり → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12) 

さらに、不安・緊張・怒りに効く漢方について知りたい方は、
こちらもご参照ください。
 

ここではめまい・立ちくらみ(水毒)に使用される3方剤を比較してみます。

「めまい・立ちくらみ」を訴えて受診された患者さんには、
まず西洋医学的検査を優先します。

諸検査に異常なく、
しかし症状がつらい場合は漢方の出番です。

「めまい・立ちくらみ」には以下の漢方薬が頻用されます。

五苓散(17)
苓桂朮甘湯(39)
半夏白朮天麻湯(37)

これらの構成生薬の概要をまとめた表を紹介します;
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すべて「水毒」対応の生薬が中心ですが、
ほかに「気逆」や「気虚」に対する生薬も含まれています。
それらを考慮して使い分けるのです。

漢方の世界では、
立てば苓桂、回れば沢瀉、歩くめまいは真武湯」という言い伝え(口訣)
が存在します。
このうち、「立てば苓桂」は「起立性低血圧には苓桂朮甘湯」という意味です。

苓桂朮甘湯には甘草という生薬が含まれています。
甘草は「急迫(急激な症状)を治す」とされています。
つまり、起き上がったときなど発症時点が比較的明確な症状に効果を発揮しやすいのです。
桂皮は気逆を治します。五苓散でも起立時のめまいにある程度効果があるかもしれないのですが、苓桂朮甘湯の方が桂皮を多く含んでいる分だけ、よりめまいに特化しているという違いがあります。
一方で、五苓散とは異なり、沢瀉や猪苓が入っていない分、水毒に対する効果が少し弱まり、嘔吐や排尿障害といった水の出入りに対する効果は五苓散よりも弱いと思われます。

半夏白朮天麻湯(37)は参耆剤(人参と黄耆を含む)の仲間で、気虚(倦怠感・無気力)に対して効果を発揮する特徴があります。

五苓散は水毒に対応する生薬を詰め込んだ薬であり、乏尿や口渇など水毒徴候が目立つ例に効果が期待あれ、浮腫や下痢をある程度治すことが可能です。
五苓散に含まれる桂皮(気逆を治す作用)の存在を考慮すると、吐き気や嘔吐、頭痛、めまいといった症状と相性がよいことも類推できます。水毒に気逆が少し付随している症状となると、例えば、雨天時に増悪する片頭痛やめまい
、急性胃腸炎に伴う嘔吐などが挙げられます

なお、3つすべてに茯苓と朮が含まれています。
ともに水毒に対する生薬ですが、
ともに「気虚」に有効な生薬でもあります。

茯苓には「安神作用」といって、動悸やまぶたのぴくつきといった神経症的な症状に対して精神を和らげて治す薬能も付随します。

ここが大きなポイントです。
「めまい・立ちくらみ」とともに、
「倦怠感・無気力」をもカバーする薬なのです。

起立性調節障害にピッタリですね。


<参考>
立った時? 歩いた時? めまいの起こり方で異なる漢方処方(2025年5月:日経メディカル)
 伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)
これだけは覚えたい!水毒を治す4つの代表的生薬とは(2025年2月:日経メディカル)
 伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)

近年、子どもの不登校が増えてきています。
昔は人間関係が原因のことが多く、
カウンセリングで紐解いていく作業が必須でした。
近年は「漠然とした不安」が原因の第一位となりました。 

しかし専門家の話を聞くと、
・子ども自身が不安を言語化できない
・さらには子ども自身が不安を自覚できていない
ーことが多いと聞きます。 

不安を言語化できないので、体調不良で訴えるわけですね。
症状は心のSOSのサインかもしれません。

このグレーゾーンに漢方薬が役立つと思います。 
漢方医学では、症状を訴える人の病態を「気・血・水」というものさしで評価します。 
このうち「気」は元気の気、やる気の気、弱気の気・・・
日常的に使用している単語の語源です。

漢方医学では心と体は走後に影響し合うという「心身一如」という概念があります。
そして漢方薬は「心と体」の両方に効くようにつくられているのです。

具合が悪くてどうにもならず病院を受診し検査を受け、その結果異常なし、
すると医師からは、
「気のせいでしょう」
と言われてガッカリする話を時々耳にします。

漢方では「気のせい=気の異常」と捉えます。
ですから「気のせい」と言われたら、すなわち漢方の出番なのです。

気の異常はさらに以下のように分類され、
その病態に対応する生薬や薬がいくつも用意されています。

【気虚】
・気が消耗した状態
・心が疲れた状態
・無気力
【気うつ】
・悩みやストレスをため込んで発散できない状態
【気逆】
・不安や怒りが逆上して湧き上がってくる状態

では子どもの不安に対して、漢方でどう対処するのかを見ていきましょう。 

▶ 気虚

補中益気湯(41) 
● 適応
・無気力症状(気が空になった、やる気が起きない、ゴロゴロしていたい)+身体症状(倦怠感、食欲低下)

加味帰脾湯(137)
● 適応 
・貧血傾向の疲労感を伴う抑うつ状態
・疲れ切っているのに思考は活性化してしまう(思考がぐるぐるとまとまらない)
● 症状
・集中力低下、健忘症状、不眠
・COVID-19の罹患後精神症状(ブレインフォグ)

小建中湯(99)
● 適応
・虚弱でやせ型、くすぐったがり屋
・性格的には過敏で、対人関係ではビクビクしていることが多い。
● 症状
・疲労倦怠感が強く、腹痛や頻尿・夜尿など
・動悸が息苦しさなどの不安症状
・不安感は特定の「場所」だけではなく「空気感」にも感じることが多く、怒るかもしれないことに対して強い不安感(予期不安)を感じる。
・身体症状としては過敏性腸症候群による腹痛や、頻尿を伴うことが多く、学校で「トイレに閉じこもる」 傾向が観察される。
 
▶ 気うつ

半夏厚朴湯(16) 
● 適応
・真面目な性格で対人関係を思い悩み不安を感じることが多い。
・ストレスを強く主張することができず、胸の中にため込み、
「のどが詰まる」「胸がモヤモヤする」と表現する。
● 症状
・咽喉頭異常感:のどがつまる
・のどから胸にかけての不快感 
・声が出しにくい
・息苦しい
・過呼吸発作
・考え込んで眠れない

▶ 気逆

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
● 適応
・不安の対象が「人」ではなく「場所」「空気感」「物音」の場合
・過敏性の高い状態からパニック障害や過呼吸症候群を呈する 
● 症状
・教室に入ることができない
・人混みが苦手 → 外出を避けて引きこもりがち
・(教室や人混みに行くと)動悸や息苦しさを感じて過呼吸発作
・少しの物音にも敏感で驚きやすく不安を感じやすい(煩驚)

抑肝散(54)
● 適応
・ポイントは「怒り」
・かんしゃくを起こして怒り出す子ども
・思い通りにならないとイライラしたり、怒鳴ったり手を出したりする子ども 
● 症状
・かんしゃく
・不眠 

▶ 効果不十分の時の次の一手
● 気の異常+水毒
・上記薬剤+五苓散(17)
・苓桂朮甘湯(39)・・・不安感+(天気の影響を受けるふらつき・朝の倦怠感・めまい) 
● その他
茯苓飲合半夏厚朴湯(116)・・・気持ちの落ち込み・不安感+吐き気
抑肝散加陳皮半夏(83)・・・怒り+消化器症状

▶ 抗不安作用を増強する方法5つ(千福Dr)
● 桂皮を増量:腹症に特徴なし
(例)苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)
   苓桂朮甘湯(39)+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
● 芍薬を加える:腹直筋緊張(精神的に過緊張)
(例)苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)
   苓桂朮甘湯(39)+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
   桂枝加芍薬湯(60)+四物湯(71)
● 四物湯を加える:貧血・冷え症・クヨクヨ
(例)苓桂朮甘湯(39)+四物湯(71)(→ 連珠飲
   桂枝加芍薬湯(60)+四物湯(71)(→ 神田橋処方
● 竜骨・牡蛎を加える:臍上悸・イライラ
● 柴胡を加える:胸脇苦満(ストレスまみれ)
(例)柴胡桂枝乾姜湯(11)…抗不安(桂皮配合)
   補中益気湯(41)…抗うつ(人参配合)

漢方医学では「フクロウ型体質」と呼ばれる病態があります。
山本巌という先生が提唱した概念で、ほぼ起立性調節障害とイコールです。
そしてその病態には苓桂朮甘湯と補中益気湯という薬が適用されます。

つまり、漢方医学では起立性調節障害の治療法が以前から存在していたのです。

現在、久留米大学の惠紙英昭先生が「フクロウ外来」を開いて、
上記体質でつらい思いをしている患者さんを漢方薬で治療しています。
その講演メモを備忘録として残しておきます。

▶ フクロウ型体質の症状
・「朝寝の宵っ張り」で寝ていたい。日曜日は昼頃まで寝ている。
・朝は頭がボーっとしているが、夕方から夜にかけて最も元気。
・朝食は欲しくない。夕食が美味しいし、よく食べる。
・カラダがしんどい、疲れやすい、体力がない、頭が痛む、肩がこる、胃が痞える、重ぐるしい、吐き気がある、胃が痛む、めまいがする、手足が冷える、など多愁訴。
・体力がなく、粘りが効かず、力仕事に向かない。
・内科や小児科を受診しても異常がなく(起立性調節障害±)、治療に難渋。
・世の中に2~3割。

▶ フクロウ型体質の特徴・問題点
・不定愁訴だらけなので、怠け・気分障害などと診断されかねない。
・弱虫?のび太?
・副交感神経優位タイプ。
・漢方的には虚証が多い。
・朝起き苦手、体が重い(浮腫)、めまい、頭痛、立ちくらみ、倦怠感、冷え、神経質…漢方医学的には水滞。

▶ 苓桂朮甘湯(傷寒論・金匱要略)
● 構成生薬
 茯苓・蒼朮・桂皮…利水
 桂皮      …血行を良くする、軽度強心作用、抗不安作用
 茯苓・桂皮・甘草…動悸(心悸亢進)を鎮める
● 効能効果(保険病名)
  神経質、ノイローゼ、めまい、動悸、息切れ、頭痛
● 古典の記載(金匱要略)
・「心下に痰飲ありて胸脇支満し、目眩するは苓桂朮甘湯之を主る」
・(現代語訳)胃内停水があり、その量が多いと胸部につっかえ棒が入っているような感じがして目眩がし、その時には苓桂朮甘湯を用いる。

▶ 苓桂朮甘湯に併用する漢方薬
・五苓散
・補中益気湯、十全大補湯
・半夏厚朴湯
・当帰芍薬散
・桂枝茯苓丸
・葛根加朮附湯
・加味逍遥散
・抑肝散・抑肝散化陳皮半夏
・桂枝加芍薬湯・小建中湯
・柴胡清肝湯・荊芥連翹湯
・八味地黄丸・六味丸
・真武湯
・治打撲一方
・四物湯(連珠飲)

★ 治打撲一方
● 生薬構成
 川骨・センキュウ・ぼくそく・大黄…駆お血作用(打撲の内出血による腫脹を除く)
 センキュウ・桂皮・ちょうし…駆お血剤の働きを助ける(活血)
 ぼくそく…抗炎症、鎮痛作用
 大黄  …しゃげ作用によりお血の排出を助ける
● 保険適応
・打撲による腫れおよび痛み
・打撲・ねん挫などで患部が腫脹・疼痛する場合

▶ 苓桂朮甘湯に併用する西洋薬
・アリピプラゾール(エビリファイ)
・スルピリド(ドグマチール)
・アトモキセチン(ストラテラ)
・SSRI、SNRI
・睡眠導入剤
 ✓ レンボレキサント(デエビゴ)
 ✓ ラメルテオン(ロゼレム)
 ✓ メラトニン(メラトベル)
・ミドドリン

▶ 現代のフクロウ型体質(症候群)と要因・誘因
・起立性調節障害:人間関係・血管運動神経失調
・メニエール症候群:人間関係、食生活のアンバランス(コンビニ弁当、甘いもの等)
・不登校:人間関係
・睡眠障害(睡眠相後退症候群):人間関係
・自律神経失調症・不定愁訴:人間関係
・気分障害・適応障害:人間関係
・頚椎・脊椎異常:姿勢・ランドセル・机に向かう時間・ゲームの長さ等、外傷(打撲や骨折)、出産時、
…全体に関与するのが神経発達症、統合失調症圏、椎骨脳底動脈循環動態、脳リンパ流

▶ フクロウ型体質のまとめ
・詳細な病歴聴取が基本:生育歴・生活歴・既往歴
・起立性調節障害を含む広い概念
・子どもだけでなく幅広い年齢に存在(知らずに成長)
・心身両面の西洋医学的診断(複数の診療科的視点)
 ① 脊椎異常も考慮すべし
 ② 古い外傷(打撲や骨折)も含めた病歴聴取
 ③ 不定愁訴を理解し受け入れる
・東洋医学的診断治療
 ✓ 気血水・腹診・脈診・舌診・望診など
 ✓ 漢方治療の再現性が必要
・こころのケア
 ✓ ダメだしされて自信喪失
 ✓ 自分のすべてを受け入れてくれる安心感と安全な場
 ✓ 寄り添う、一緒に楽しむ
・生活習慣(食事・睡眠衛生教育など)
・ストレッチ、運動、鍼灸
・内服後の心身の変化、薬の味をどのように感じるかなどをすべて受け入れる(たくさんの情報、ヒント、関係性を築く)

生理痛がつらくても市販の鎮痛剤で様子を見ている方が多いと思います。
よほどつらければ婦人科を受診、
すると“低用量ピル”を勧められ躊躇・・・
というパターンもよく耳にします。

鎮痛剤が手放せない、
日常生活に支障が出る、
婦人科のホルモン剤は不安・・・

そんな方には漢方薬をオススメします。
体に合う漢方薬が見つかると、
生理痛だけではなく、他の症状(※)の改善も期待できます。
※ 冷えや頭痛、イライラなど

当院は小児科ですが、
院長は「性教育認定講師」(日本思春期学会公認)の資格もあります。

以下に女性の月経関連症状に使用される漢方薬をまとめました。

★ 重症例、あるいは漢方治療に手応えがない場合は、
 婦人科受診をお勧めします。

 

▶ 月経トラブルに継続内服する漢方薬

↓ 当帰芍薬散(23):月経トラブル + めまい、貧血
↓ 加味逍遥散(24):月経トラブル + 不定愁訴、神経質
↓ 桂枝茯苓丸(25):月経トラブル + 冷えのぼせ
↓ 桃核承気湯(61):月経トラブル + 便秘

その他の候補:

女神散(67)
 加味逍遥散(24)の裏処方
 同じ症状・不調を繰り返し訴える
 のぼせとめまいが口訣

温経湯(106)
 当帰芍薬散(23)一部類似
  → +腹部を温め、乾燥も治す
 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)と類似
  → しもやけや手荒れを改善

▶ 月経痛・生理痛に対する頓服用漢方薬

芍薬甘草湯(68)
・筋肉の痛み全般に有効
安中散(5)
・胃痛に有効だが、生理痛にも有効
・腹痛一般に有効なことがある。
・カプセルあり
芍薬甘草湯(68)+安中散(5)
・両方を併用するとより効果的
・大正漢方胃腸薬と同じ成分構成になる
 

<参考>

▶ 女性の「冷え」について


★ 現代人の生活には冷えの原因が多く存在する
・冷房
・ダイエット(皮下脂肪不足)
・ファッション(薄着)
・運動不足・筋肉不足
・陰性食品の摂取
・ストレス(→ 交感神経緊張)
→ しかし西洋医学では対応していない。

★ 女性の冷えに対する漢方薬
・四肢末端の冷え・しもやけ → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
・腹部の冷え + 胃もたれ       → 六君子湯(43)
       + 腹痛・おなかゴロゴロ → 大建中湯(100)
       + めまい・倦怠感・下痢 → 真武湯(30)
・月経関連トラブル
       + 浮腫・貧血     → 当帰芍薬散(23)
       + 冷えのぼせ     → 桂枝茯苓丸(25)
       + 冷えのぼせ・神経質 → 加味逍遥散(24)
上記でも改善が悪い場合の最終手段は、
茯苓しぎゃく湯(人参湯+真武湯)
 ✓居ても立っても居られないつらさ(煩躁)
 ✓手足が冷たい、脈が細くて弱い(伸びたそうめん)
 ✓座りたい、横になりたい倦怠感

★ 冷えを改善する生薬
● 附子
・新陳代謝低下による冷え
・ガスバーナーで温める感じ
・冷えを改善して疼痛を緩和する作用
● 乾姜
・電球で温める感じ
・元気をつけながら温める
● その他の冷えを改善する生薬
・桂皮、当帰、人参、細辛、呉茱萸、生姜


<方剤解説>

23【当帰芍薬散】〜やや陰虚証
● 構成生薬:
 当帰・芍薬・川芎(血を補う)→(四物湯ー地黄)
 蒼朮・茯苓・沢瀉(水をめぐらせる)→(五苓散ー桂皮・猪苓)
● こんな症状・所見に:
・華奢な色白タイプ
・めまい・むくみ
・冷え症
・貧血

24【加味逍遥散】〜やや陽虚証
● 構成生薬:逍遥散+山梔子・牡丹皮
 柴胡・山梔子・薄荷(清熱・精神安定)(理気・降気)
 当帰・芍薬(血を補う)
 牡丹皮(血をめぐらせる)
 茯苓・蒼朮(水をめぐらせる)
 生姜・甘草(胃腸機能改善)
● こんな症状・所見に:
・更年期障害
・不定愁訴が多い(受診のたびに相談事が異なる、愁訴が移ろいやすい)
・冷えのぼせ
・便秘や肩こりにも有効
※ 気血水の異常をバランスよく治す
※ 肌荒れがあれば四物湯を加える
● 効能効果:
体質虚弱な婦人で、肩が凝り、疲れやすく、精神不安などの精神症状、
ときに便秘傾向のある次の諸症:
冷え症、虚弱体質、月経不順、更年期障害、血の道症

※ 山梔子(5000g以上)になると腸間膜静脈硬化症のリスクあり、
代わりとなる方剤候補:
 女神散(67)
 当帰芍薬散(23)+柴胡桂枝乾姜湯(11)

25【桂枝茯苓丸】〜やや陽実証
● 構成生薬:
 桂皮(気をめぐらせる)
 茯苓(精神安定、利水)
  桂皮+茯苓 → のぼせとめまいに対応
 桃仁・牡丹皮(血をめぐらせる)
  桃仁+牡丹皮 → 瘀血による腹痛に対応
 芍薬(止痛・鎮痙)
● こんな症状・所見に:
・体力あり
・月経関連トラブル
・冷えのぼせ・赤ら顔のことが多い。
・打撲による腫脹や痔にも有効。
● 効能効果:
体力がしっかりしていて赤ら顔が多く、下腹部に抵抗のあるものの次の諸症:
・月経不順
・月経困難
・更年期障害
・冷え症
・腹膜炎
・打撲症
・痔疾患
・睾丸炎

38【当帰四逆加呉茱萸生姜湯
● 構成生薬:桂枝湯+当帰・呉茱萸・細辛・木通
 当帰・芍薬(血をめぐらせる)
 桂皮・芍薬・大棗・甘草・生姜(=桂枝湯)
 桂皮・大棗・甘草・生姜(気をめぐらせ温める)
 呉茱萸・細辛(温める、止痛)
 木通(利水)
● こんな症状・所見に:
・手足の冷え
・しもやけ
・寒冷により増悪する痛み(頭痛・腰痛・下肢痛、等)

61【桃核承気湯】〜陽実証
● 構成生薬:
 桃仁・大黄(血をめぐらせる)
 大黄・芒硝(瀉下)=承気湯(気分を安定させる、余った気を承る)
 桂皮(気をめぐらせる、降気)
 甘草(緩和)
  桂皮+甘草 → ヒステリーに対応(例:苓桂朮甘湯(39))
● こんな症状・所見に:
・体力がある
・月経関連トラブル(月経時狂状)
・女性の頑固な便秘
・イライラ(精神症状)
※ 桂枝茯苓丸タイプ+便秘、のイメージ
● 効能効果:
比較的体力があり、のぼせて便秘しがちなものの次の諸症:
・月経不順
・月経困難症
・月経時や産後の精神不安
・腰痛
・便秘
・高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)

67【女神散】〜やや陽虚証
● 構成生薬:
 当帰・川芎(補血)
 蒼朮(利水)
 桂枝・黄連・黄岑(降気)
 香附子・丁子・木香・檳榔子(理気)
 人参・甘草(補気)
● こんな症状・所見に:
・加味逍遥散(24)の裏処方
・同じ症状・不調を繰り返し訴える
・のぼせとめまいが口訣

106【温経湯】〜陰虚証
● 生薬構成:
 当帰・芍薬・川芎(補血)
 桂枝(冷えのぼせ)
 呉茱萸(胃腸を温めて痛みや嘔気を治す)
 牡丹皮(血を巡らせる)
 半夏(湿を除いて嘔気を止める)
 麦門冬・阿膠(滋潤)
 生姜・甘草(胃薬)
● 特徴:
・当帰芍薬散(23)と一部似ているが、腹部も温め、乾燥も治す
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)と類似
  → しもやけや手荒れを改善
● こんな症状・所見に:陰虚証
・冷えのぼせ、手掌のほてり、口唇乾燥が目標
 ・・・ハンドクリーム・リップクリーム愛用者
・冷えによる下腹部痛
・無排卵症に効果が期待できるとの報告あり

127【麻黄附子細辛湯
● 生薬構成:
 麻黄
 附子(強力に温める)
 細辛
● こんな症状・所見に:
・悪寒が強い
・沈脈
・寒さで悪化する関節痛
・喉チク風邪

▢ ポイント
※ 効果判定は3ヶ月が目安;

【男性】
荊芥連翹湯(軽症では十味敗毒湯)を炎症が治まるまで使用
・ニキビ瘢痕には柴苓湯へ変更あるいは併用(半年内服すると赤みが目立たなくなる)

(軽症:赤ニキビ) 十味敗毒湯 → (十味敗毒湯+)柴苓湯
(中等症:+しこり)荊芥連翹湯 → (荊芥連翹湯+)柴苓湯
(重症:ボコボコ) 荊芥連翹湯 + 柴苓湯

【女性】
桂枝茯苓丸加薏苡仁をベースに
・赤ニキビ・嚢腫が目立つ場合は荊芥連翹湯(軽症では十味敗毒湯)併用
・炎症が治まったら柴苓湯へ変更(半年内服すると赤みが目立たなくなる)

(軽症) 桂枝茯苓丸加薏苡仁(+十味敗毒湯) → 柴苓湯
(中等症)桂枝茯苓丸加薏苡仁荊芥連翹湯 → 荊芥連翹湯を柴苓湯へ変更
(重症) 桂枝茯苓丸加薏苡仁荊芥連翹湯(あるいは荊芥連翹湯柴苓湯

▢ ニキビ(痤瘡)の漢方治療の基本

▶ 「清熱剤」と「駆於血剤」の組み合わせが基本
(清熱剤)十味敗毒湯(6)、荊芥連翹湯(50)、清上防風湯(58)、黄連解毒湯(15)
(駆於血剤)当帰芍薬散(23)、桂枝茯苓丸(25)・桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)、加味逍遥散(24)桃核承気湯(61)

▶ 炎症が強い場合は2剤を併用し、炎症が落ちついたら駆於血剤のみにする
 → 再発を抑え、痤瘡瘢痕の治療目的で継続する。

▶ 痤瘡瘢痕が懸念される場合は、炎症が落ちついたら駆於血剤と柴苓湯(114)の併用を継続する
 → 再発を抑え、痤瘡瘢痕の治療を強力に行う。
※ 柴苓湯はもともと、ケロイドや瘢痕に用いる漢方薬で、むくみ(浮腫)を取る作用がある。

▶ 十味敗毒湯(6)と荊芥連翹湯(50)の使い分け

(キーワード)
✓ 荊芥連翹湯:炎症の場が深い(嚢腫)、慢性化膿性炎症、肉芽腫性炎症
✓ 十味敗毒湯:炎症の場が浅い(紅色丘疹)、急性化膿性炎症

・荊芥連翹湯は湿潤を伴う紅斑や膿疱を認め、炎症の場が深くて慢性化した例(嚢腫様痤瘡)に効果を発揮する。
・十味敗毒湯を開始後、紅色丘疹はまあまあでも、嚢腫が新たにできるようなら荊芥連翹湯への変更を検討する。

▶ 柴苓湯(114)の適応と使い方
(適応例)
・ニキビ跡(痤瘡瘢痕)が気になる方
・男性の重症例
(開始時期)
・上記患者さんには最初から併用を検討
・荊芥連翹湯による炎症治療が成功した例には、まず荊芥連翹湯減量を試み、再燃がないようなら柴苓湯へ切り替える(効果判定は3ヶ月程度で)。

▶ 漢方薬の効果判定・投与期間・減薬方法
・効果判定は開始後3ヶ月が基本
・桂枝茯苓丸加薏苡仁は女性で月経前の悪化が疑われる例には基本薬(「ない」と本人が思い込んでいてもあるかも)として連日内服(月経3周期後に効果判定)、ただし30代後半になると効きにくくなる傾向あり。
・ニキビ痕(痤瘡瘢痕)対策の柴苓湯(114)の開始時期:炎症が十分治まってきた時点で清熱剤を減量し再燃がなければ変更するが、すでにできている例や重症例には最初から併用する。

▢ 治療例
◆ 女性のニキビの治療例(中等症)
・桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)をベースに外用療法併用
・炎症が強い場合は荊芥連翹湯を併用し炎症を取る
・炎症が落ちついてきたらニキビ痕改善目的で荊芥連翹湯を柴苓湯(114)へ変更

◆ 男性のニキビの治療例(中等症以上)
・膿腫・嚢胞は切開排膿+外用抗菌薬・・・しかし再燃・反復例が多い
・荊芥連翹湯を併用すると再燃を予防可能、3ヶ月くらいで炎症が改善傾向、1年で軽快
・ニキビ痕が目立つ場合は柴苓湯をはじめから併用


<方剤解説>

■ 荊芥連翹湯(50)
・効果:湿潤を伴う紅斑や膿疱を認め、炎症の場が深くて慢性化した例に効果を発揮する。「化膿体質の改善」に役立つ・・・抗炎症、排膿作用のある生薬に血流改善の生薬が加わる。
・機序:
 ✓ 痤瘡に関与する好中球由来の活性酵素を抑制する。
 ✓ アクネ菌の増殖を抑制する(黄連、黄柏)
 ✓ アクネ菌に対するリパーゼ作用を有する(黄連)
・構成:17の生薬からなる複雑な構成・・・四物湯+黄連解毒湯+(薄荷・白芷・防風・連翹・甘草・桔梗・枳実・荊芥・柴胡)
 ✓ 熱を冷ます・肝を整える ← 柴胡、薄荷
 ✓ 熱を冷ます ← 黄連、黄岑、山梔子、黄柏、連翹
 ✓ かゆみ・痛み止め ← 白芷、防風、荊芥、川芎
 ✓ 排膿 ← 連翹、桔梗、枳実、芍薬、川芎
 ✓ 血を補い潤す ← 川芎、芍薬、地黄、当帰
・保険適応:ちくのう症、慢性鼻炎、慢性扁桃炎、にきび


<参考>
・形成外科医が行う漢方治療(毛山剛先生、2025.3.1)
・「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017」における漢方薬の位置づけ
注)C1:選択枝の一つとして推奨する、C2:行ってもよいが推奨はしない

Q.  炎症性皮疹に漢方は有効か?
(C1)荊芥連翹湯、清上防風湯、十味敗毒湯
(C2)黄連解毒湯、温清飲、温経湯、桂枝茯苓丸
Q.  面疱に漢方は有効か?
(C1)荊芥連翹湯
(C2)黄連解毒湯、十味敗毒湯、桂枝茯苓丸

カラダだけではなくココロの不調も見え隠れする起立性調節障害。
西洋医学の薬だけではなかなかコントロールが難しいのが現状です。

専門医の中には循環器内科で使用する薬物を複数使い分け、
さじ加減を調整してよい成績を得ているという報告もありますが、
一般小児科医には敷居の高い分野です。

さて、漢方医学は“心身一如”という概念のもと、カラダの不調はこころの不調とリンクしている考えます。
起立性調節障害に見られる症状を、漢方医学はどのように捉えるのか見てみましょう。

漢方医学は人体の働き・体調不良を「気・血・水」という概念で説明します。
細かいことを言うとキリがないので究極的単純化をすると、
・“
”は元気の気
・“
”は血液
・“
”は体液
と考えてください。

あなた自身はどうでしょうか?
自分の気血水のタイプを知ることができるチェックシートがありますので、
興味のある方は試してみてください。
未病チェックシート(元慶応大学教授:渡辺賢治Dr.監修)
気血水チェック(千福貞博Dr.監修)
クラシエの漢方診断(クラシエ)
また、気血水の異常の概要はこちらを参照してください。

日本語には“気”の付く単語がたくさんありますね。
元気、やる気、気持ち、気分、強気、弱気、内気、・・・挙げるとキリがありません。
これはすべて漢方医学の概念である“気”が語源であり、
西洋医学で検査異常がないと「気のせいでしょう」と言われてガッカリする患者さん、
実はそれは「“気”のせい=“気”の異常」なんです。つまり、漢方薬の出番です!

起立性調節障害は漢方医学的に分析するとメインは気と水の異常、
長期にわたると血の異常を伴うと捉えられることが多いので、
ここでは簡単に気と水について説明します。

“気”の異常は気虚・気うつ・気逆に分けられます。単純化すると、
・“
気虚”  → 元気がないこと
・“
気うつ” → 気持ちが沈んでウツウツしていること
・“
気逆”  → 気持ちが逆上してイライラすること
ということになります。

漢方的診察法に「腹診」といってお腹を触る方法があるのですが、
おへその周囲を触れたときに心臓の拍動が腹部大動脈を介して触れることがあり、
これは“気逆”の所見とされています。

“水”の異常は水毒(あるいは水滞)と表現され、
体の水分のアンバランスな分布を意味します。
前述の腹診の際、胃の辺りを軽く指で叩くとポチャポチャ音がすることがあります。
胃の中の水はけが悪い状態を反映しており、
このような所見が慢性的にある人は車酔いしやすく、
天気痛(低気圧が近づくと頭痛が出る)持ちの傾向があります。
これが“水毒”の所見です。

いかがでしょう。すこし漢方を身近に感じてもらえたでしょうか。

起立性調節障害の診断基準を再掲します;


1.立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
2.立っていると気分が悪くなる。ひどくなると倒れる
3.入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
4.少し動くと動機あるいは息切れがする
5.朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
6.顔色が青白い
7.食欲不振
8.臍疝痛をときどき訴える
9.倦怠あるいは疲れやすい
10.頭痛
11.乗り物に酔いやすい

これらの症状を漢方的にとらえた専門家による記述をいくつか紹介します。

耳鼻科医の境修平先生による解説
気虚と捉えられるもの:5、6、7、8、9
気逆と捉えられるもの:1、2
水毒と捉えられるもの:10
ODは全体的に気虚の傾向があり、気逆気うつを伴っている。
・腹部症状が強いときは、痛みを目標とするような方剤である安中散(5)や柴胡桂枝湯(10)が第一選択になる。
・めまいや立ちくらみが強い場合は気逆を治す苓桂朮甘湯(39)が第一選択になるが、
胃腸症状(脾虚)を伴う場合は半夏白朮天麻湯(37)を考慮する。

1、2、11に対して:五苓散、苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯
4、5、9に対して:補中益気湯
3、9、10に対して:柴胡桂枝湯、四逆散、小建中湯
反復性腹痛(8)に対して:小建中湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、柴胡桂枝湯、安中散

産婦人科医の後山尚久先生の解説
人間の一生を五行説でみると、
出生から小児期を経て思春期までは腎の機能が旺盛な腎旺期と呼ばれ、生命力と活動力に富んでいる。
ただ、思春期は肝の機能が十分にないと精神活動が低下し、精神障害や心身症をきたしやすい。
ODは小児期・思春期心身症の一つで、この時期には珍しい虚証を表す疾患である。

・漢方臨床では“気虚”と見なされ、補気剤が用いられる。
・気虚には“脾胃虚”がベースにあるため、最適薬は補中益気湯(41)である。
・めまいや立ちくらみは“水毒”であり、苓桂朮甘湯(39)、半夏白朮天麻湯(37)、五苓散(17)が用いられる。
・虚弱なタイプには小建中湯が適している。
・精神・神経症状を有する患者には柴胡加竜骨牡蛎湯(12)あるいは桂枝加竜骨牡蛎湯(26)が用いられる。

産婦人科医の大澤稔先生の解説
大澤先生は漢方専門用語を使わずに漢方を使いこなす達人です。
彼の著書に起立性調節障害の項目はありませんが、症状から拾ってみました。

めまい・ふらつき(1、2)
 → 五苓散(17)が第一選択
 回転性めまい+冷え  → あり:半夏白朮天麻湯(37)、真武湯(30)
            → なし:五苓散(17)
 宙に浮いたような感覚+冷え  → あり:苓桂朮甘湯(39)+四物湯(71)
                → なし:苓桂朮甘湯(39)  

なんとなくだるい(5、9)
 → 補中益気湯(41)が第一選択
 +貧血  → なし:六君子湯(43) 
      → あり:十全大補湯(48)

食欲がない(7)
 → 六君子湯(43)が第一選択
 +お腹の調子が悪い  → なし:茯苓飲(69)
            → あり:人参湯(32)、半夏瀉心湯(14)

大澤先生のフローチャートの読み方にはちょっとした秘密があり、
「なし」の矢印は「あってもなくてもよい」と読みます。
すると、症状と方剤の対応を書き換えると以下のようになります;

・めまい(回転性)+ふらつき(+冷え) → 五苓散
・めまい(回転性)+ふらつき+冷え   → 半夏白朮天麻湯(37)、真武湯(30)
・めまい(宙に浮いたような感覚)(+冷え) → 苓桂朮甘湯(39)
・めまい(宙に浮いたような感覚)+冷え → 苓桂朮甘湯(39)+四物湯(71)

・なんとなくだるい      → 補中益気湯(41)
・なんとなくだるい(+貧血) → 六君子湯(43) 
・なんとなくだるい+貧血   → 十全大補湯(48)

・食欲がない → 六君子湯(43)
・食欲がない(+お腹の調子が悪い) → 茯苓飲(69)
・食欲がない+お腹の調子が悪い → 人参湯(32)、半夏瀉心湯(14)


各先生の記述は微妙に異なりますが、
気血水の中の“気”と“水”の異常の併存した病態と捉えているのは共通しています。

“自律神経の異常・アンバランス”と言われても、
わかったような、わからないような、ですが、
漢方医学はそれを抽象的な概念・理論に高めてアンバランスを評価し、
それを補正する薬を開発してきた、
と考えると、使わない手はないと思います。

西洋医学の薬(メトリジン®)では解決できない場合、
ぜひご相談ください。
一緒に体に合う漢方薬を探しましょう。


<参考>
登場した漢方製剤の性質・特徴をまとめておきます。
全ての方剤に共通するのが“
虚証”(体力が消耗した状態)です。
エネルギーの固まりというイメージの思春期なのに、
消耗・憔悴しきっている中高生たちの姿が垣間見えるようです。

補中益気湯(41):裏寒
証:脾胃虚・気虚
苓桂朮甘湯(39):裏寒
証:水毒・気逆
半夏白朮天麻湯(37):裏寒
証:水毒・脾虚
五苓散(17):裏熱
証:水毒
小建中湯(99):裏寒
証:脾虚(+気虚・血虚)
柴胡加竜骨牡蛎湯(12):裏熱
証:気うつ
桂枝加竜骨牡蛎湯(26):裏寒
証:桂枝湯証(+気虚・血虚)


<追加ブログ>
起立性調節障害の漢方(その2
起立性調節障害の漢方治療 by 幸井俊高Dr. 

学校健診は「症状がないけど病気がかくれているかどうか」をスクリーニングする医療行為です。
どんな目的で行っているか、どんな病気が見つかるのか、小児科専門医が解説します。

▶ 学校健診でわかること

低身長に隠れている病気

▶ 思春期が来るのが早い

▶ 小児肥満

子どものスポーツ障害

脊柱側弯症(思春期側弯症) 

成長期の思春期には体や心の困りごとが顔を出します。
当院ではそんな状態に漢方薬の使用を提案しています。


▶ 思春期のニキビを治したい

▶ 思春期のダイエット

▶ メンタルの不調(ドキドキ・イライラ・ウツウツ)

▶ カラダの不調(朝起き不良〜起立性調節障害)

▶ 思春期貧血

▶ 頭痛

▶ 眠れない(不眠症)

▶ 思春期の摂食障害

<女子の悩み>

▶ 正常な月経と月経異常

▶ 生理痛・月経関連トラブル

(より詳しく知りたい方へ)
 ▢
生理痛・月経痛
 ▢ 月経前症候群(PMS)
 ▢ 月経不順

☆ 参考;
思春期のケア(日本産婦人科学会)
 〜思春期女子の医学的問題が網羅されています。
(当院ブログ)
・「思春期の生理痛(月経困難症)
・「ブラジャーを極める


<男子の悩み>

▶ 思春期男子に正しい性の知識を伝授します
 

思春期に多い起立性調節障害(以下OD、orthostatic dysregulation)は、
大人で言う起立性低血圧の思春期版です。

アメリカでは循環器疾患という位置づけですが、
日本の診断基準には「こころ」の要素も入れてしまったので、
様々な疾患のゴミ箱的な診断名になっていると批判されています。
なぜかというと、「こころ」に効く薬が用意されていないので、
臨床現場で困ってしまうのですね。

しかし心身一如(※)という漢方的捉え方からすると当たり前の病態、
つまり漢方薬の得意分野とも言えます。
※ 体と心は切り離せない、連動しているという考え方

漢方的にどんな捉え方をして、どんな風に治療を組み立てるのか、
これまでも繰り返し学習してきましたが、今一度整理してみます。

今回参考にしたのは、漢方薬局のHPで、
主に薬剤師さん&一般患者さん向けですが、
医師にとっても分かり易く、以前から参考にさせてもらっています。

■ ODという病気
・ODは起立時に立ちくらみ、めまい、動悸などの循環器症状や、
 倦怠感、頭重、腹痛などの不定愁訴が生じる疾病。
・女性に多く、5-6月と夏休み明けの9-10月に相談が増える。

■ ODの漢方的病態
・めまい、立ちくらみ → 水毒(=水滞、痰飲)
・胃腸虚弱、疲労倦怠感、根気が続かない → 気虚、血虚、気滞(=気鬱)

■ ODの漢方的病態と対応する生薬
(水毒)茯苓
(痰飲)半夏
(気虚)人参
(気滞)柴胡
(血虚)当帰、芍薬

■ ODの病期と対応する方剤
1)症状の顕著な状態→ 薬味が少なく即効性のある方剤を選択
苓桂朮甘湯半夏白朮天麻湯
2)症状が落ち着けば背景の病態を整えて寛解維持を目指す
柴胡桂枝湯(腹痛)、小建中湯(腹痛、倦怠感)、補中益気湯(だるさ)

■ ODに用いる三大漢方薬
苓桂朮甘湯 ・・・症状の顕著な時期に:めまい、立ちくらみ、動悸、頭痛
半夏白朮天麻湯・・・初期〜亜急性期に:めまい、頭痛、吐き気
補中益気湯 ・・・寛解期の体調管理に:倦怠感、だるさ、筋緊張低下

▢ 苓桂朮甘湯
・動揺性のめまい、立ちくらみ、動悸、頭痛に頻用される。
・古典には「起則頭眩」と記載。
・冷え傾向、頭痛やのぼせ、冷や汗が発作的に現れる病態に適応。
・吐き気が顕著なときは五苓散を併用。
フクロウ症候群(午前中の体調がよくない傾向のヒト)に適応。
・即効性あり、味も悪くないので小児に投与する第一選択薬。

▢ 半夏白朮天麻湯
・めまい、立ちくらみに使用される。
・胃腸虚弱、吐き気、食後の眠気、冷え症に適応。
低気圧頭痛(悪天候で頭痛が悪化する)に適応。
・甘草を含まないので苓桂朮甘湯より長期服用に適する。

■ 苓桂朮甘湯(降起利水補気)と半夏白朮天麻湯(補気化痰熄風)の比較
・共通生薬:白朮、茯苓・・・補気利水
・共通症状:めまい、立ちくらみ、頭痛、乗り物酔い
・苓桂朮甘湯のポイント:桂枝・甘草(降気・・・動悸、息切れ)
 → (発作的な)のぼせ、動悸、頭痛
 → 半夏白朮天麻湯より神経質
・半夏白朮天麻湯のポイント:六君子湯(補気化痰)の6生薬入り+天麻(熄風・・・めまい、頭痛)
 → 胃もたれ、食欲不振、低気圧頭痛
 → 苓桂朮甘湯より胃腸虚弱、冷え傾向

▢ 補中益気湯
めまいが主たる適応ではない
・OD患者の虚弱状態を改善して寛解維持目的の方剤。
・全身倦怠感、手足のだるさ、声や目に力がない、易感染性に適応。
・苓桂朮甘湯に初期から眠前1包を併用する方法もある。

■ 全身病態を調整するその他の方剤

▢ 柴胡桂枝湯(10)、小建中湯(99)
・・・OD患者の胃腸症状と倦怠感などに用いる。

▢ 六君子湯(43)
・・・胃腸虚弱者の食欲不振、食後の胃もたれを軽減する第一選択薬。
 体力維持のための食事療法を支援する方剤。
 本方は、香蘇散(抑うつ、頭重)、半夏厚朴湯(不安、抑うつ)、
四逆散(抑うつ、苛立ち、腹痛)などと併用して臨床領域を広げる工夫がされる。

▢ 当帰芍薬散(23)
・・・顔色不良、冷え傾向(血虚)と性周期と関連するめまいなどに適する。
 本方は、理気薬の四逆散(35)と組み合わせて、
 潜在的鉄欠乏に対する鉄剤と食事指導を併用して、
 女性の起床困難、手足の冷え、ODに用いられる。

▢ 連珠飲
・・・四物湯(補血活血剤)と苓桂朮甘湯の合方。
 桂皮と甘草を含むので、当帰芍薬散(23)より発作性の動悸、のぼせ、頭痛のあるときに適する。
 連珠飲を服用して熟地黄による胃もたれや食欲不振が出たときには、
 当帰芍薬散(23)へ変更するか、人参湯を併用する。

▢ 十全大補湯(48)
・・・連珠飲と補気薬の人参、黄耆を含む。連珠飲の適応病態で、胃腸虚弱や倦怠感を伴うときに適する。


<参考>
・漢方の気ぐすりき.com〜漢方を知る〜病気の悩みを漢方で〜起立性調節障害の漢方

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