自閉症スペクトラム(以下ASD)児はこだわりが強い傾向があり、
その6〜9割に偏食があるといわれています。
その特性を理解し、対応を考えましょう。
偏食の解説でも「感覚の問題」として取りあげていますが、
この項目ではASD児の特性という視点から説明します。
子どもの特性は変化しません。
感覚過敏、こだわりは特性・性格の一部なので消えることはありません。
またこの特性は、本人がストレスを感じる場面(まさに食事場面)で出やすい傾向があります。
でも工夫により、少しずつ食を拡げることは可能です。
ポイントは、
❌️ 苦手なものに慣れる
⇩
⭕️ 好きなものから拡げる
に尽きます。
「今、食べられているもの」の特徴(色、形、食感)をつかみ、
その感覚的特徴をもとに、よく似た食材・料理へ拡げていくのです。
ただ、少しの変化にも敏感なので、
本人がわからないレベルでの「顕微鏡的変化」を、
粘り強く、繰り返し試していく忍耐力が必要です。
さらにそれを実行していくベースに、
ストレスなく座れる食卓環境を整えることが必要です。
安心・安全な食事環境ではリラックスできるので、
感覚過敏やこだわりが軽減していくことが期待できます。
▶ 食に関する特徴
・食事拒否が多く食事のレパートリーが少ない
・各栄養素の摂取が少ない
✓ ビタミン類(A、C、D)
✓ 亜鉛、カルシウム
✓ 食物線維
・便通異常が多い:慢性便秘(80%)、慢性下痢(56%)
・食事不耐症、食物アレルギーが多い
▶ ASD児が抱える様々な問題・課題
● 摂食スキルの課題
・口腔運動の遅れを含む発達遅滞が多い(64%)
✓ 食品のタイプまたは食感によるえり好み(94%)
✓ 口腔運動の遅れ(15%)
✓ 嚥下障害(12%)
● 感覚の課題(姿勢の不安定さを含む運動関連の感覚)
・手の複雑な触覚を使う作業が苦手、複雑な触覚刺激を嫌う
・体の認知能力が低い
・跳躍や飛びつきを好み、自己調整能力が低い
・聴覚過敏
・回る、駆け上がるなどの迷路刺激を好む
・特定の食品の食感やにおいを避ける
・味覚の特性
✓ 甘味と塩味はふつう
✓ 酸味に鈍い
✓ 苦味に鈍い
・乾いた食感(カリカリ、サクサクなど)を好む
・ASD児の食事選択と栄養の適切さの研究からわかったこと:
✓ 触感、温度、見た目に対する許容度が狭い
✓ ピューレ状のような食感の低い食べ物を受け入れやすい
✓ 食感の問題は0歳から始まる
✓ 口腔過敏は進行する
● 食事に関連した学習の特徴
・顕微鏡的学習:対象の細かい部分を詳しく見てわずかな違いも新しいものと捉える
→ 確実に同じものでないと同じ食品と思えない、食べ物そのものと容器・パッケージとの分別がつかず、パッケージがわずかでも違うとまったく違う食べ物と思ってしまう
・グループ化が苦手:食べ物の詳細な部分に注目し、全体として捉えられない
→ パッケージを食品の一部として捉えられない
● 行動の特徴
・ほとんどの適応できない特徴は感覚の問題に根ざしている
・コミュニケーションの90%は視覚、10%は聴覚が担当する
・情報を解読するまで時間がかかる
→ メッセージを受け取れるまで長時間出し続ける必要がある
▶ ASD児の感覚・行動特性を踏まえた食事対応
・感覚過敏だけに注目してもうまくいかない。
・多方面から評価をして理由を探る。
・強制をやめ、ストレスなく座れる食卓にする。
・食事時間に「安心・安全」を感じられるように。
・ASD児にとって、食べることは最も困難な行動の一つ。
✓ 不安が強い:食卓についていられない、集中できない。
✓ 新しい食べ物はモンスターに見える。
→ 極めて細かいスモールステップを根気よく反復する。
・ユーモアを持って根気強く寄り添って支援する(行動実況放送賞賛法など)、遊び感覚で子どもが食べ物と友だちになるチャンスを与える。
・治療可能な病態(上気道閉塞、便秘、睡眠障害、栄養評価)を見落とさない。
★ 感覚的な課題と口腔運動機能を促進する目的で食卓で食べ物を使った遊びをする方法 (SOS aproach to feeding)
<参考サイト>
・子ども偏食少食ネットワーク:摂食のためのSOSアプローチの基本原則
・子ども偏食少食ネットワーク:MISSIONとCONCEPT
<ASD児への食事対策>
● 保護者の基本姿勢
・多方面から評価をして理由を探る
・強制をやめる
・食卓でのストレスを極力減らす
✓ 子どもの気持ちに共感する
✓ 望ましい行動を肯定文で提案する
✓ 評価する言葉、質問形は使わない
✓ ユーモア、遊び心のある態度を取る
● 誰が、どこで、何をするかを視覚化
→ 安心と安定が与えられる
・食事時間のスケジュールを一定にする
・食事開始を一定の行動に:手洗い、行進、着席
・座っている時間を見える化する:タイマー、イラスト、表など
・食事終了を一定の行動に:あと〇分だよ、一緒に片付け開始、食卓を拭く、ごちそうさま、手洗い
・食事の環境を整備:決まった場所、気が散るものを排除、視覚的に食べ物に集中できるようにする
・食事中の環境を整備:食べ物以外の視覚・聴覚の妨害を最小限にする(ビデオ、テレビ、おもちゃで気をそらさない)
✓ ランチョンマットで子どものエリアを見える化
✓ 食器を置く位置を固定
✓ キャラクターのない無地の食器を使用
✓ 子どもの視野に食べ物以外の気になるものが入らないように
✓ おもちゃは持ち込まない約束を
✓ 食品をパッケージから出して提供する(パッケージではなく食べ物に注目するために)
・一度決めた食事環境は変えない
● 段階的に食事のバラエティを増やしていく
・子どもが新しい食べ物を、見る、ニオイを嗅ぐ、触る、味わう、という一つ一つの感覚ステップを踏めるよう、急がせず、穏やかな状況で提供する。
・口に入れることを決して強要せず、 家族自ら楽しく食べている様子を何度もゆっくりやってみせる。
・子どもをばっかり食べ(まったく同じ食品のみを毎食食べ続けること)に陥らせないように、子どもの好きな食品にごくわずかな変化(顕微鏡的変化)をつける。
・1日1回、好きな食品と家族のお皿にある新しい食品を一緒に与え、新しい食品になじむようにする。
・新しい食品を与えるときは、以前は好きで食べていたけれど今は食べない食品と混ぜ、好きな食品からわずかに感覚特性をシフトさせる。混ぜ合わせがうまくいかなかったら、好きな食べ物をほんの少し変える。
・子どもが自ら変化をつけることを促す。
・子どもが食べている最中に食品の違いについて話し合う。
・子どもが親に食品を手渡すことで、食品に触れたり関係を持ったりすることになる。
・食べ物、特に甘いものをご褒美にしない。
★ なぎさ園給食の食形態の作り方(動画「カリカリ食の作り方」)
▶ 苦手な食材をわからないように混ぜるのはタブー
・食材を混ぜても食べるようにはならない。ごまかしは効かない。
・3歳以降はごまかすとかえって信頼関係が失われ、疑心暗鬼になる。
・苦手な食材はルーに混ぜたり刻み込んだりしない。
(例)カレーはルーとは別に小皿に素材別に置き、
食べるかどうかは本人に決めさせる。
▶ 栄養素別メニューリスト作成のススメ
・現在食べたり飲んだりできるものをすべて書き出す。
・子どもが自分から少なくとも2〜3口を3回以上食べられる食べ物または飲み物を、主な栄養に分けて具体的にメニューで書く。
・メニューリストから毎食、それぞれの栄養素別に1品目だけ出すようにする。
・丸3日、違うメニューが望ましいが、最低でも2日間はわずかでも(顕微鏡的にでも)違うメニューを出す。
・家族の食事に興味を示したら、「単独の食材で作ったもの」を「小さすぎず、かじったり噛んだりできるサイズ」で「少量」ずつ出す。
<参考書籍>
・・子どもの偏食外来(大山牧子著、診断と治療社、2023年発行)
・子どもの偏食Q&A(大山牧子著、中外医学社、2024年発行)
・子どもの偏食相談スキルアップ(大山牧子著、診断と治療社、2025年発行)
・
<参考サイト>
・自閉症の偏食対応レシピ(広島市西部こども療育センター給食研究部)
・発達障害の方の偏食・摂食のご相談(藤井葉子)
・発達障害児の偏食改善(藤井葉子)・きゅうけん(月刊給食指導研究資料)
・(動画)食べない子ども・偏食への対処法(大山牧子)
・(動画)小児摂食障害(食物アレルギーを持つ子どもの場合を含む)(大山牧子)
その6〜9割に偏食があるといわれています。
その特性を理解し、対応を考えましょう。
偏食の解説でも「感覚の問題」として取りあげていますが、
この項目ではASD児の特性という視点から説明します。
子どもの特性は変化しません。
感覚過敏、こだわりは特性・性格の一部なので消えることはありません。
またこの特性は、本人がストレスを感じる場面(まさに食事場面)で出やすい傾向があります。
でも工夫により、少しずつ食を拡げることは可能です。
ポイントは、
❌️ 苦手なものに慣れる
⇩
⭕️ 好きなものから拡げる
に尽きます。
「今、食べられているもの」の特徴(色、形、食感)をつかみ、
その感覚的特徴をもとに、よく似た食材・料理へ拡げていくのです。
ただ、少しの変化にも敏感なので、
本人がわからないレベルでの「顕微鏡的変化」を、
粘り強く、繰り返し試していく忍耐力が必要です。
さらにそれを実行していくベースに、
ストレスなく座れる食卓環境を整えることが必要です。
安心・安全な食事環境ではリラックスできるので、
感覚過敏やこだわりが軽減していくことが期待できます。
▶ 食に関する特徴
・食事拒否が多く食事のレパートリーが少ない
・各栄養素の摂取が少ない
✓ ビタミン類(A、C、D)
✓ 亜鉛、カルシウム
✓ 食物線維
・便通異常が多い:慢性便秘(80%)、慢性下痢(56%)
・食事不耐症、食物アレルギーが多い
▶ ASD児が抱える様々な問題・課題
● 摂食スキルの課題
・口腔運動の遅れを含む発達遅滞が多い(64%)
✓ 食品のタイプまたは食感によるえり好み(94%)
✓ 口腔運動の遅れ(15%)
✓ 嚥下障害(12%)
● 感覚の課題(姿勢の不安定さを含む運動関連の感覚)
・手の複雑な触覚を使う作業が苦手、複雑な触覚刺激を嫌う
・体の認知能力が低い
・跳躍や飛びつきを好み、自己調整能力が低い
・聴覚過敏
・回る、駆け上がるなどの迷路刺激を好む
・特定の食品の食感やにおいを避ける
・味覚の特性
✓ 甘味と塩味はふつう
✓ 酸味に鈍い
✓ 苦味に鈍い
・乾いた食感(カリカリ、サクサクなど)を好む
・ASD児の食事選択と栄養の適切さの研究からわかったこと:
✓ 触感、温度、見た目に対する許容度が狭い
✓ ピューレ状のような食感の低い食べ物を受け入れやすい
✓ 食感の問題は0歳から始まる
✓ 口腔過敏は進行する
● 食事に関連した学習の特徴
・顕微鏡的学習:対象の細かい部分を詳しく見てわずかな違いも新しいものと捉える
→ 確実に同じものでないと同じ食品と思えない、食べ物そのものと容器・パッケージとの分別がつかず、パッケージがわずかでも違うとまったく違う食べ物と思ってしまう
・グループ化が苦手:食べ物の詳細な部分に注目し、全体として捉えられない
→ パッケージを食品の一部として捉えられない
● 行動の特徴
・ほとんどの適応できない特徴は感覚の問題に根ざしている
・コミュニケーションの90%は視覚、10%は聴覚が担当する
・情報を解読するまで時間がかかる
→ メッセージを受け取れるまで長時間出し続ける必要がある
▶ ASD児の感覚・行動特性を踏まえた食事対応
・感覚過敏だけに注目してもうまくいかない。
・多方面から評価をして理由を探る。
・強制をやめ、ストレスなく座れる食卓にする。
・食事時間に「安心・安全」を感じられるように。
・ASD児にとって、食べることは最も困難な行動の一つ。
✓ 不安が強い:食卓についていられない、集中できない。
✓ 新しい食べ物はモンスターに見える。
→ 極めて細かいスモールステップを根気よく反復する。
・ユーモアを持って根気強く寄り添って支援する(行動実況放送賞賛法など)、遊び感覚で子どもが食べ物と友だちになるチャンスを与える。
・治療可能な病態(上気道閉塞、便秘、睡眠障害、栄養評価)を見落とさない。
★ 感覚的な課題と口腔運動機能を促進する目的で食卓で食べ物を使った遊びをする方法 (SOS aproach to feeding)
<参考サイト>
・子ども偏食少食ネットワーク:摂食のためのSOSアプローチの基本原則
・子ども偏食少食ネットワーク:MISSIONとCONCEPT
<ASD児への食事対策>
● 保護者の基本姿勢
・多方面から評価をして理由を探る
・強制をやめる
・食卓でのストレスを極力減らす
✓ 子どもの気持ちに共感する
✓ 望ましい行動を肯定文で提案する
✓ 評価する言葉、質問形は使わない
✓ ユーモア、遊び心のある態度を取る
● 誰が、どこで、何をするかを視覚化
→ 安心と安定が与えられる
・食事時間のスケジュールを一定にする
・食事開始を一定の行動に:手洗い、行進、着席
・座っている時間を見える化する:タイマー、イラスト、表など
・食事終了を一定の行動に:あと〇分だよ、一緒に片付け開始、食卓を拭く、ごちそうさま、手洗い
・食事の環境を整備:決まった場所、気が散るものを排除、視覚的に食べ物に集中できるようにする
・食事中の環境を整備:食べ物以外の視覚・聴覚の妨害を最小限にする(ビデオ、テレビ、おもちゃで気をそらさない)
✓ ランチョンマットで子どものエリアを見える化
✓ 食器を置く位置を固定
✓ キャラクターのない無地の食器を使用
✓ 子どもの視野に食べ物以外の気になるものが入らないように
✓ おもちゃは持ち込まない約束を
✓ 食品をパッケージから出して提供する(パッケージではなく食べ物に注目するために)
・一度決めた食事環境は変えない
● 段階的に食事のバラエティを増やしていく
・子どもが新しい食べ物を、見る、ニオイを嗅ぐ、触る、味わう、という一つ一つの感覚ステップを踏めるよう、急がせず、穏やかな状況で提供する。
・口に入れることを決して強要せず、 家族自ら楽しく食べている様子を何度もゆっくりやってみせる。
・子どもをばっかり食べ(まったく同じ食品のみを毎食食べ続けること)に陥らせないように、子どもの好きな食品にごくわずかな変化(顕微鏡的変化)をつける。
・1日1回、好きな食品と家族のお皿にある新しい食品を一緒に与え、新しい食品になじむようにする。
・新しい食品を与えるときは、以前は好きで食べていたけれど今は食べない食品と混ぜ、好きな食品からわずかに感覚特性をシフトさせる。混ぜ合わせがうまくいかなかったら、好きな食べ物をほんの少し変える。
・子どもが自ら変化をつけることを促す。
・子どもが食べている最中に食品の違いについて話し合う。
・子どもが親に食品を手渡すことで、食品に触れたり関係を持ったりすることになる。
・食べ物、特に甘いものをご褒美にしない。
★ なぎさ園給食の食形態の作り方(動画「カリカリ食の作り方」)
▶ 苦手な食材をわからないように混ぜるのはタブー
・食材を混ぜても食べるようにはならない。ごまかしは効かない。
・3歳以降はごまかすとかえって信頼関係が失われ、疑心暗鬼になる。
・苦手な食材はルーに混ぜたり刻み込んだりしない。
(例)カレーはルーとは別に小皿に素材別に置き、
食べるかどうかは本人に決めさせる。
▶ 栄養素別メニューリスト作成のススメ
・現在食べたり飲んだりできるものをすべて書き出す。
・子どもが自分から少なくとも2〜3口を3回以上食べられる食べ物または飲み物を、主な栄養に分けて具体的にメニューで書く。
・メニューリストから毎食、それぞれの栄養素別に1品目だけ出すようにする。
・丸3日、違うメニューが望ましいが、最低でも2日間はわずかでも(顕微鏡的にでも)違うメニューを出す。
・家族の食事に興味を示したら、「単独の食材で作ったもの」を「小さすぎず、かじったり噛んだりできるサイズ」で「少量」ずつ出す。
<参考書籍>
・・子どもの偏食外来(大山牧子著、診断と治療社、2023年発行)
・子どもの偏食Q&A(大山牧子著、中外医学社、2024年発行)
・子どもの偏食相談スキルアップ(大山牧子著、診断と治療社、2025年発行)
・
<参考サイト>
・自閉症の偏食対応レシピ(広島市西部こども療育センター給食研究部)
・発達障害の方の偏食・摂食のご相談(藤井葉子)
・発達障害児の偏食改善(藤井葉子)・きゅうけん(月刊給食指導研究資料)
・(動画)食べない子ども・偏食への対処法(大山牧子)
・(動画)小児摂食障害(食物アレルギーを持つ子どもの場合を含む)(大山牧子)