カテゴリ: 発達障害

自閉症スペクトラム(以下ASD)児はこだわりが強い傾向があり、
その6〜9割に偏食があるといわれています。

その特性を理解し、対応を考えましょう。
偏食の解説でも「感覚の問題」として取りあげていますが、
この項目ではASD児の特性という視点から説明します。

子どもの特性は変化しません。
感覚過敏、こだわりは特性・性格の一部なので消えることはありません。
またこの特性は、本人がストレスを感じる場面(まさに食事場面)で出やすい傾向があります。
でも工夫により、少しずつ食を拡げることは可能です。
ポイントは、

 ❌️ 苦手なものに慣れる
 ⇩
 ⭕️ 好きなものから拡げる

に尽きます。
「今、食べられているもの」の特徴(色、形、食感)をつかみ、
その感覚的特徴をもとに、よく似た食材・料理へ拡げていくのです。
ただ、少しの変化にも敏感なので、
本人がわからないレベルでの「顕微鏡的変化」を、
粘り強く、繰り返し試していく忍耐力が必要です。

さらにそれを実行していくベースに、
ストレスなく座れる食卓環境を整えることが必要です。
安心・安全な食事環境ではリラックスできるので、
感覚過敏やこだわりが軽減していくことが期待できます。


▶ 食に関する特徴
・食事拒否が多く食事のレパートリーが少ない
・各栄養素の摂取が少ない
 ✓ ビタミン類(A、C、D)
 ✓ 亜鉛、カルシウム
 ✓ 食物線維
・便通異常が多い:慢性便秘(80%)、慢性下痢(56%) 
・食事不耐症、食物アレルギーが多い

▶ ASD児が抱える様々な問題・課題

● 摂食スキルの課題

・口腔運動の遅れを含む発達遅滞が多い(64%)
 ✓ 食品のタイプまたは食感によるえり好み(94%)
 ✓ 口腔運動の遅れ(15%)
 ✓ 嚥下障害(12%)

● 感覚の課題(姿勢の不安定さを含む運動関連の感覚)
・手の複雑な触覚を使う作業が苦手、複雑な触覚刺激を嫌う
・体の認知能力が低い
・跳躍や飛びつきを好み、自己調整能力が低い
・聴覚過敏
・回る、駆け上がるなどの迷路刺激を好む
・特定の食品の食感やにおいを避ける
・味覚の特性
 ✓ 甘味と塩味はふつう
 ✓ 酸味に鈍い
 ✓ 苦味に鈍い
・乾いた食感(カリカリ、サクサクなど)を好む
・ASD児の食事選択と栄養の適切さの研究からわかったこと:
 ✓ 触感、温度、見た目に対する許容度が狭い
 ✓ ピューレ状のような食感の低い食べ物を受け入れやすい
 ✓ 食感の問題は0歳から始まる
 ✓ 口腔過敏は進行する

● 食事に関連した学習の特徴
・顕微鏡的学習:対象の細かい部分を詳しく見てわずかな違いも新しいものと捉える
 → 確実に同じものでないと同じ食品と思えない、食べ物そのものと容器・パッケージとの分別がつかず、パッケージがわずかでも違うとまったく違う食べ物と思ってしまう
・グループ化が苦手:食べ物の詳細な部分に注目し、全体として捉えられない
 → パッケージを食品の一部として捉えられない

● 行動の特徴
・ほとんどの適応できない特徴は感覚の問題に根ざしている
・コミュニケーションの90%は視覚、10%は聴覚が担当する 
・情報を解読するまで時間がかかる
  → メッセージを受け取れるまで長時間出し続ける必要がある

▶ ASD児の感覚・行動特性を踏まえた食事対応
・感覚過敏だけに注目してもうまくいかない。
・多方面から評価をして理由を探る。
・強制をやめ、ストレスなく座れる食卓にする。
・食事時間に「安心・安全」を感じられるように。
・ASD児にとって、食べることは最も困難な行動の一つ。
 ✓ 不安が強い:食卓についていられない、集中できない。
 ✓ 新しい食べ物はモンスターに見える。
 → 極めて細かいスモールステップ根気よく反復する。
・ユーモアを持って根気強く寄り添って支援する(行動実況放送賞賛法など)、遊び感覚で子どもが食べ物と友だちになるチャンスを与える。
・治療可能な病態(上気道閉塞、便秘、睡眠障害、栄養評価)を見落とさない。

★ 感覚的な課題と口腔運動機能を促進する目的で食卓で食べ物を使った遊びをする方法 (SOS aproach to feeding
<参考サイト>
・子ども偏食少食ネットワーク:摂食のためのSOSアプローチの基本原則
・子ども偏食少食ネットワーク:MISSIONとCONCEPT



<ASD児への食事対策> 

● 保護者の基本姿勢
・多方面から評価をして理由を探る
・強制をやめる
・食卓でのストレスを極力減らす
 ✓ 子どもの気持ちに共感する
 ✓ 望ましい行動を肯定文で提案する
 ✓ 評価する言葉、質問形は使わない
 ✓ ユーモア、遊び心のある態度を取る

● 誰が、どこで、何をするかを視覚化
 → 安心と安定が与えられる
・食事時間のスケジュールを一定にする
・食事開始を一定の行動に:手洗い、行進、着席 
・座っている時間を見える化する:タイマー、イラスト、表など
・食事終了を一定の行動に:あと〇分だよ、一緒に片付け開始、食卓を拭く、ごちそうさま、手洗い
・食事の環境を整備:決まった場所、気が散るものを排除、視覚的に食べ物に集中できるようにする
・食事中の環境を整備:食べ物以外の視覚・聴覚の妨害を最小限にする(ビデオ、テレビ、おもちゃで気をそらさない)
 ✓ ランチョンマットで子どものエリアを見える化
 ✓ 食器を置く位置を固定
 ✓ キャラクターのない無地の食器を使用
 ✓ 子どもの視野に食べ物以外の気になるものが入らないように
 ✓ おもちゃは持ち込まない約束を
 ✓ 食品をパッケージから出して提供する(パッケージではなく食べ物に注目するために)
・一度決めた食事環境は変えない 

● 段階的に食事のバラエティを増やしていく 
・子どもが新しい食べ物を、見る、ニオイを嗅ぐ、触る、味わう、という一つ一つの感覚ステップを踏めるよう、急がせず、穏やかな状況で提供する。
・口に入れることを決して強要せず、 家族自ら楽しく食べている様子を何度もゆっくりやってみせる。
・子どもをばっかり食べ(まったく同じ食品のみを毎食食べ続けること)に陥らせないように、子どもの好きな食品にごくわずかな変化(顕微鏡的変化)をつける。
・1日1回、好きな食品と家族のお皿にある新しい食品を一緒に与え、新しい食品になじむようにする。
・新しい食品を与えるときは、以前は好きで食べていたけれど今は食べない食品と混ぜ、好きな食品からわずかに感覚特性をシフトさせる。混ぜ合わせがうまくいかなかったら、好きな食べ物をほんの少し変える。
・子どもが自ら変化をつけることを促す。
・子どもが食べている最中に食品の違いについて話し合う。
・子どもが親に食品を手渡すことで、食品に触れたり関係を持ったりすることになる。
・食べ物、特に甘いものをご褒美にしない。

なぎさ園給食の食形態の作り方(動画「カリカリ食の作り方」)

▶ 苦手な食材をわからないように混ぜるのはタブー
・食材を混ぜても食べるようにはならない。ごまかしは効かない。
・3歳以降はごまかすとかえって信頼関係が失われ、疑心暗鬼になる。
・苦手な食材はルーに混ぜたり刻み込んだりしない。
(例)カレーはルーとは別に小皿に素材別に置き、
   食べるかどうかは本人に決めさせる。

▶ 栄養素別メニューリスト作成のススメ
・現在食べたり飲んだりできるものをすべて書き出す。
・子どもが自分から少なくとも2〜3口を3回以上食べられる食べ物または飲み物を、主な栄養に分けて具体的にメニューで書く。
・メニューリストから毎食、それぞれの栄養素別に1品目だけ出すようにする。
・丸3日、違うメニューが望ましいが、最低でも2日間はわずかでも(顕微鏡的にでも)違うメニューを出す。
・家族の食事に興味を示したら、「単独の食材で作ったもの」を「小さすぎず、かじったり噛んだりできるサイズ」で「少量」ずつ出す。



<参考書籍>
食べない子が変わる魔法の言葉(山口健太著、辰巳出版、2020年発行) 
子どもの偏食外来(大山牧子著、診断と治療社、2023年発行)
子どもの偏食Q&A(大山牧子著、中外医学社、2024年発行)
子どもの偏食相談スキルアップ(大山牧子著、診断と治療社、2025年発行)
発達障害児の偏食改善マニュアル(山根希代子監修、藤井葉子著/編集、中央法規出版、2019年発行)

<参考サイト>
自閉症の偏食対応レシピ(広島市西部こども療育センター給食研究部)
発達障害の方の偏食・摂食のご相談(藤井葉子)
発達障害児の偏食改善(藤井葉子)きゅうけん(月刊給食指導研究資料)
・(動画)食べない子ども・偏食への対処法(大山牧子)
・(動画)小児摂食障害(食物アレルギーを持つ子どもの場合を含む)(大山牧子)
 

神経発達症(ASD、ADHDなど)の診療には3つの柱があります。
1.療養
2.環境整備
3.医療的介入

1の療養は発達の特性・凸凹を認識・自覚して生活に支障がないよう工夫すること。
2の環境整備は集団生活(園や学校)と連絡を取り合いながら本人がさらされるストレスを減らすこと。
3の医療的介入は投薬により症状をコントロールすること。

しかし、6歳未満の神経発達症に使用できる西洋薬(※)はありません。
そして自閉症スペクトラム(以後ASDと表記)の特性に効く西洋薬は存在しません。

※ 6歳未満に使用できない薬;
・コンサータ:6歳から(医師登録&患者登録必要)
・ストラテラ:6歳から
・インチュニブ:6歳から
・ビバンセ:6〜18歳(医師登録&患者登録必要)
・メラトニン受容体作動性入眠改善薬
 ✓ メラトニン(メラトベル®):6〜15歳 ・・・こども用粉薬
 ✓ ラメルテオン(ロゼレム®):15歳から・・・大人用錠剤


私が処方している漢方薬もASDの特性を治すことはできません。
でも、その特性に由来する“困りごと”に対応することは可能です。
また、まだ診断されていない幼児期のグレーゾーンのお子さんにも対応可能です。

私は小児神経専門医ではありませんので、
神経発達症に関する厳密な診断はしておらず、
コンサータやビバンセなども処方しておりません。

ただ、以前から夜なき・かんしゃくなどの困りごとの相談を受けると、
漢方薬の使用を提案し、希望があれば処方してきました。
気がつくと、そのようなお子さん達が神経発達症と診断されていることが多いことがわかりました。

漢方薬を飲んでもらうと、驚くほど効果があることを何回も経験しています。
しかし、はじめに処方した方剤が全員に有効というわけではなく、
いくつか方剤を試していくうちにそのお子さんに合った方剤が見つかる、
というパターンが多いです。
最終的な有効率は7割くらいでしょうか。

残念ながら、困りごとが10 → 0 になるわけではありません。
困りごとのレベルが10 → 5 程度に減るくらい(たまに10 → 2-3も)、
それでも生活の質がグンと上がりますので、
ご家族は継続を希望されます。

いつまで使用するか、については、
数ヶ月〜半年の安定期を経た後、希望により減量・休薬を試みます。
その過程で症状が再度目立ってきたら元に戻して継続しています。

今回、ASDに関するWEBセミナーを視聴したところ、
役に立つ情報がたくさんありましたので、備忘録として残しておきます。
(鈴村水鳥先生の講義「漢方薬で支援する自閉症スペクトラム(ASD)」(2025.2.9)メモより)

▶ ASD・ADHDに効果が期待できる漢方

(ココロの症状・困りごと)
・怒りんぼ、かんしゃく、チック → 抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
・衝動性、易刺激性、多動・興奮 → 黄連解毒湯(15)
・こだわりが強い、落ち着きがない → 大柴胡湯去大黄
・抑うつ傾向、不安感、不眠 → 加味帰脾湯(137)
・不安感、言語発達遅滞 → 甘麦大棗湯(72)

(カラダの症状・困りごと)
・元気がない、食欲不振 → 六君子湯(43)
・嘔気、胃もたれ、食欲不振 → 平胃散(79)+香蘇散(70)
・過敏性腸症候群、腹痛 → 小建中湯(99)、桂枝加芍薬湯
・心窩部痛、腹痛、月経痛 → 安中散(5)
・めまい、起立性調節障害 → 半夏白朮天麻湯(37)

▶ ASDに対する漢方治療の有効性
・効果が高い
 ✓ パニック・かんしゃく
 ✓ 睡眠障害
 ✓ イライラ
 ✓ 落ち着きのなさ
 ✓ 怯え・怖がり
 ✓ チック(初期)
 ✓ 便秘・偏食などの消化器症状
・効果あり
 ✓ 社会性やコミュニケーション障害
 ✓ 自傷行為
 ✓ フラッシュバック
 ✓ 月経前症候群
 ✓ 言葉の遅れ
・効果が薄い
 ✓ チック(長期化)
 ✓ 多動
 ✓ 暴言・暴力
 ✓ 成人例

▶ 漢方医学の“こころ”の捉え方

1.怯え・不安状態(心神不寧証)
・心配性・不安・悲哀感・怖がり(ビクビク)など
・存在が脅かされているような感情が主体
(処方)甘麦大棗湯(72)、帰脾湯(65)、酸棗仁湯(103)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、

2.緊張・易変動状態(肝気鬱結証)
・憂鬱・不安・イライラ・ヒステリック
・身体の緊張が強く、気分が変動しやすい。
(処方)四逆散(35)、柴朴湯(96)、加味逍遥散(24)、香蘇散(70)

3.興奮・怒り状態(化火証)
・イライラ・怒りっぽい・落ち着きがない・焦燥感など
・主に興奮的な症状が主体
(処方)黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)

(1+2)柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
(2+3)大柴胡湯(8)・大柴胡湯去大黄
(3+2)抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)

▶ 多様な症状には2剤併用が有効

・化火証:黄連解毒湯(15)、抑肝散加陳皮半夏(83)
 ✓ かんしゃく
 ✓ パニック
 ✓ 易怒
 ✓ 多動
 ✓ 衝動性
 ✓ 自傷行為
 ✓ 他害行為
 ✓ 落ち着きのなさ

・心神不寧証:甘麦大棗湯(72)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
 ✓ 落ち着きのなさ
 ✓ 不安
 ✓ 自信のなさ
 ✓ 怯え

・肝気鬱結証:大柴胡湯去大黄、四逆散(35)
 ✓ 過緊張
 ✓ 不機嫌
 ✓ イライラ
 ✓ チック

▢ 方剤解説:甘麦大棗湯(72)
(構成生薬)《金匱要略》:甘草3-5;大棗2.5-6;小麦14-20
(証)気血水:気虚・血虚、五臓:心
・心血虚:心の血が不足し、安心できず神経が高ぶり、不眠や不安などの精神症状や動悸を起こす証 → 投与により血を増やし、心を安定させる
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
 ✓ 神経過敏
 ✓ なんとなく不安そうでそわそわしている
 ✓ 医師を見ると大声で泣く
 ✓ 母親との分離不安が強い
 ✓ あくびが多い
・脈:平または数
・舌:淡紅舌
・腹:軟〜中等度、腹直筋攣急
(特徴)
・一次障害(対人関係・コミュニケーション・こだわり)の改善が期待できる。
・一次障害の改善例は乳幼児に多く、5歳以前のできるだけ早期に開始すべき。
・小麦蛋白にはトリプトファンが含まれ、セロトニンやメラトニンの原料となる。
・ASD児ではセロトニン合成能発達プロセスが阻害されているため、セロトニンの補充が有効。

▢ 方剤解説:抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)
(構成生薬)《保嬰撮要》:当帰3;釣藤鈎3;川芎3;白朮4(蒼朮);茯苓4;柴胡2-5;甘草1.5(+陳皮・半夏)
(証)気血水:気鬱・血虚・水滞、五臓:肝・脾(83)
・肝気鬱結:肝の疏泄作用が失調し、精神症状と気滞の症状を起こす証。精神的な緊張と抑うつ、自律神経の緊張、怒りやすくイライラしやすい、ヒステリックになる、胸腹の痛み、等
・肝火上炎:感情の抑うつや怒りから肝を損傷し、肝気鬱が火に変化し、気と火が上逆したために起きる頭痛・めまい・顔面と目の紅潮、等
・肝風内動:肝の証から内風を生じて、痙攣・振戦・意識障害などを起こす証。頭痛、ふらつき、めまい、手足の震え、四肢のしびれ、筋肉の引きつり、等
 → 投与により肝の流れを整え、痙攣など(内風)を鎮め、脾を守り(83)水を捌く。
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
 ✓ イライラしやすい
 ✓ 落ち着きがない
 ✓ 親も困っていて矢継ぎ早に話す
・脈:数
・舌:紅舌、白苔、白膩苔
・腹:腹力は軟〜中等度、腹直筋攣急
※ 83は左の腹部大動脈の動悸が亢進している時(臍上悸・臍下悸)に使用する
(特徴)
・易刺激性・多動性の改善
 ✓ 広汎性発達障害の前向き非盲検試験
 ✓ グルタミン酸ニューロンの抑制による興奮の抑制
・攻撃性・自傷行為・かんしゃくの軽減
 ✓ 広汎性発達障害・アスペルガー障害の後向き非盲検試験

▢ 方剤解説:大柴胡湯(8)・大柴胡湯去大黄
(生薬構成)《傷寒論》:柴胡6-8;半夏2.5-8;生姜1-2;黄芩3;芍薬3;大棗3-4;枳実2-3(+大黄1-2)
(証)気血水:気鬱>血虚>水滞、五臓:肝
・肝鬱化熱:肝気鬱結が高じると、停滞した気から内熱を生じ、その熱が顔面部に昇って、強い焦燥とのぼせなどを起こす証。強い焦燥、抑うつ、のぼせ、頭痛。
(適応の目安)
・望診(診察室での様子):
 ✓ 体力がある。
 ✓ 落ち着きがない。
 ✓ 胸や脇腹に圧迫感や痛みを訴える。
 ✓ 肥満傾向を認めることもある。
・脈:実
・舌:紅舌、白苔〜黄苔
・腹:腹力あり、胸脇苦満、心下痞硬、時に腹直筋攣急
 〜心窩部に厚みがあって堅く緊張し、季肋下部を圧迫するも凹まないほどのもの。
(特徴)
・13歳以下の古典的ASDに対して6ヶ月以上投与したところ、睡眠障害・多動・かんしゃく・パニック・自傷・同一性保持・脅迫的行動などが改善した。
・大柴胡湯は柴胡剤の中で、体力の充実した者、季肋部の苦満感・肋骨弓下部に抵抗・圧痛(胸脇苦満)・腹部は硬く緊張している。
・小柴胡湯証にして、腹満拘攣し嘔劇しき者を治す。
・柴胡・芍薬・枳実が肝気鬱結を改善、黄岑で清熱。

▶ “かんしゃく”を治すには心身の土台(睡眠・食事・排泄)を整えることが必要
・不調・症状はピラミッドのてっぺん
・ピラミッドの土台は「眠る力」
・不調と眠る力の間に「おいしく食べる・排泄する力」がある。
・治す順番は、睡眠 → 食事(偏食)・便秘/軟便 → かんしゃく・パニック、の順がよい。
・これは他の“困りごと”の対応にも当てはまる。

▶ 基本は「寝る子は育つ」
・ASD児・青年の44〜93%に睡眠障害があり、持続する。
・患児に「入眠障害・中途覚醒・夜驚症」などの睡眠の問題がある場合は、まず眠りから治す。
・眠れるようになると子どもたちのかんしゃくが減り、落ちついて物事に取り組めるようになり、言葉や運動発達が伸びる。

  睡眠障害
   ↓  ← 漢方薬
  眠れるようになる
   ↓
  かんしゃくが減る
   ↓
  物事に落ちついて取り組める
   ↓
  言葉や運動発達が伸びる

・学童期では、起床困難からの不登校の改善などにもつながる。

▶ 乳幼児の睡眠障害への対応
・大柴胡湯去大黄+甘麦大棗湯の組み合わせが第一選択。
・困っている相談があればすぐに開始する。基本は就寝前に内服。
・昼寝をしない子どもは“過覚醒”が疑われるため「分2:昼食前・就寝前」を指示する。
・症状が安定後、3〜6ヶ月を目安に減薬する。

▶ 偏食など“食べることに関する困りごと”への対応
・眠れない → 昼間寝ている → 昼間の活動量減少 → 疲れていないので眠れない → ・・・
 の悪循環を断ち切るためには、まず「眠れること」を治療目標に設定する。
・甘くて飲みやすい甘麦大棗湯(72)から始める。
・ストレス反応+食が細い → 抑肝散加陳皮半夏(83)
・大柴胡湯去大黄は補脾(脾虚を治す)
・食が細い、軟便あるいは硬便傾向 → 小建中湯(99)

▶ “かんしゃく”への対応
・大柴胡湯去大黄+抑肝散加陳皮半夏(83)がベスト
(柴胡剤を2剤併用することにより強い“肝鬱”に対応)

▶ 初期の不登校への対応
・完全に行けなくなる前からスタートする。
・漢方薬はメインの症状に合わせて調節する。
・症状安定後、3〜6ヶ月ほど継続し、減量・休薬を試みる。

▶ 服薬の工夫
・漢方薬に不安を持っている患者さんには「合わなかったらいつでも止められる」ことを説明する。
・睡眠障害に対して抑肝散(54)を処方する際には「分2:朝・就寝前」を指示する。
・減量する際は、一度に休薬するのではなく回数・量を漸減していく。
・減量する際、複数の方剤を併用しているときは1剤ずつ減らす。
・学童期以降でコンサータなどを内服していても漢方薬は併用可能。

▶ ASDの症状と対応する脳機能・担当部位
・多様な症状と脳機能担当部位が存在し、
 それらが年齢と共に変化する複雑な病態
 ✓ 対人機能 → 中枢神経
 ✓ 感情コントロール → 大脳皮質
 ✓ 社会的行動 → 内側前頭内皮質
 ✓ 睡眠リズム、姿勢運動 → 脳幹
 ✓ 自律神経、感覚 → 帯状回、視床、辺縁系


▶ ASDと神経伝達物質
・オキシトシン:関与している・関与していないと両方の論文があり、結論は出ていない。
 → 漢方方剤では加味逍遥散(24)がオキシトシン分泌を増加させるという報告があるが、頻用はされていない。
・セロトニン:5歳以下のASD児の髄液セロトニン濃度は低い、セロトニン取込み合成能の異常、という報告がある。
 → 甘麦大棗湯(72)
・グルタミン酸:興奮性グルタミン酸と抑制性GABAの不均衡説がある。
 → 抑肝散(54)

近年、社会的に認知され、増えてきた発達症。
残念ながら、それを根本的に治す薬はありません。
症状をやわらげる治療薬も増えてきましたが、
使用できるのは6歳以上です。 

しかし発達症やグレーゾーンの子どもたちは、
乳幼児期から日常生活の中でいろいろ困りごとがあり、
本人と家族を悩ませています。

たとえば、かんしゃく
たとえば、夜なき・夜驚症
たとえば、チック
たとえば、偏食
たとえば、多動
・・・挙げればキリがありません。

年齢別に考えると、以下のようになるでしょうか。

(乳児期)夜なき
(幼児期)睡眠障害、かんしゃく・こだわり、パニック、落ち着きのなさ
(学童期)対人トラブル、不登校
(思春期)不登校、自傷行為、月経前症候群(PMS)

当院は小児科にもかかわらず、漢方薬を多用しています。
漢方は「心身一如」といって、心と体を分けません。
心とからだは独立したものではなく、
互いに影響を受け合いながら存在していると考え、
漢方エキス剤のどれをとっても、
その中には必ずと言ってよいほど「気持ち」「こころ」に作用する生薬が含まれています。

漢方薬の教科書が中国でつくられたのは、今から1800年前の大昔。
当然、その時代は発達障害という病名はありませんでした。
でも、子どもの成長に伴う困りごと・問題行動はありました。
つまり、発達障害があってもなくても、
その子どもに合う漢方薬が見つかれば、一定の効果が期待できます。

では、具体的に困りごととそれに対応する漢方薬を提示します。

<基礎編>

 かんしゃく
 パニック
 不機嫌
 多動
 衝動性
 自傷行為
 他害行為
 易怒

  ⇩ 
 大柴胡湯大柴胡去大黄湯
 黄連解毒湯

 落ち着きのなさ
 不安
 自信のなさ
 怯え

  
 甘麦大棗湯
 柴胡加竜骨牡蛎湯
 酸棗仁湯
 四物湯

 過緊張
 不機嫌
 落ち着きのなさ
 チック

  
 大柴胡湯大柴胡去大黄湯
 抑肝散抑肝散加陳皮半夏


<応用編>

かんしゃく・パニック・睡眠障害などに対して、上記1剤では効果が不十分なときは、

 大柴胡湯甘麦大棗湯
 
それでも効果不十分なときは、

 大柴胡湯抑肝散加陳皮半夏、さらに黄連解毒湯を少量追加

怯え・不安が強いときは、

 甘麦大棗湯柴胡加竜骨牡蛎湯四物湯を追加
 
★ ただし群馬県では、3剤併用は保険診療で認められていません。

<発展編>

お子さんが発達障害と診断された方へ。
基礎薬として、飲んでいただく薬は、

 大柴胡湯あるいは大柴胡去大黄湯

効果が不十分な場合、以下のように2つ目の漢方薬を追加していきます。

✓ 低年齢の自閉症スペクトラムや怯える様子が目立つ → +甘麦大棗湯

不安感怯える症状が強い → +柴胡加竜骨牡蛎湯

かんしゃく易怒性が強い → +抑肝散加陳皮半夏

興奮性が強い → +黄連解毒湯

発達障害をベースとした睡眠障害は、単剤では効きにくい傾向があります。

まずは、甘麦大棗湯あるいは、抑肝散加陳皮半夏
 ⇩
効きが悪いときはこの2剤を併用
 ⇩
それでも効かないときは、甘麦大棗湯大柴胡湯・大柴胡去大黄湯

 副作用チェック
以下の漢方薬(柴胡剤)を長期内服する際は、
投与開始1ヶ月以内とそれ以降も年に1回ペースで、
定期的に血液検査をして副作用をチェックする必要があります。
 抑肝散(54)
 小柴胡湯(9)
 小柴胡湯加桔梗石膏(109)
 大柴胡湯(8)
 大柴胡去大黄湯
 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
・・・注射を嫌がり興奮する小学生以上のお子さんは、
残念ながらお勧めできかねます。
採血が無理な場合は、以下の症状に気をつけて継続する方法もあります。

● 抑肝散(54)
  • 発熱、から咳、息切れ、呼吸困難[間質性肺炎]
  • 尿量が減少する、顔や手足がむくむ、まぶたが重くなる、手がこわばる[偽アルドステロン症]
  • どうき、息切れ、体がだるい、めまい[心不全]
  • 体がだるくて手足に力が入らない、手足がひきつる、手足がしびれる、筋肉痛[ミオパチー、横紋筋融解症]
  • 体がだるい、皮膚や白目が黄色くなる[肝機能障害]

● 大柴胡湯(8)/大柴胡湯去大黄
  • 発熱、から咳、息切れ、呼吸困難[間質性肺炎]
  • 体がだるい、皮膚や白目が黄色くなる[肝機能障害]

● 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
  • 発熱、から咳、息切れ、呼吸困難[間質性肺炎]
  • 体がだるい、皮膚や白目が黄色くなる[肝機能障害]

● 小柴胡湯(9)/小柴胡湯加桔梗石膏(109)
  • 発熱、から咳、息切れ、呼吸困難[間質性肺炎]
  • 尿量が減少する、顔や手足がむくむ、まぶたが重くなる、手がこわばる[偽アルドステロン症]
  • 体がだるくて手足に力が入らない、手足がひきつる、手足がしびれる、筋肉痛[ミオパチー、横紋筋融解症]
  • 体がだるい、皮膚や白目が黄色くなる[肝機能障害]


<参考>

漢方エキス剤のツムラ番号;
 大柴胡湯(8)
 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
 黄連解毒湯(15)
 抑肝散(54)
 四物湯(71)
 甘麦大棗湯(72)
 抑肝散加陳皮半夏(83)
 酸棗仁湯(103)


乳幼児を子育てする中で、多い相談事の一つが“かんしゃく”です。
「気に入らないことがあると泣き叫ぶ」
「ものを投げる」
「スーパーで欲しいものがあると買うまで泣き止まない」
「出かけるときにぐずって着替えない」
「公園で遊びに夢中になり帰ろうとすると癇癪を起こす」
等々・・・。

現在の私の知識では、
・本人自身もよくわからないパニックに対しては、気持ちを受け止め、言語化してなだめる。
・かんしゃくを武器として使うことを覚えそうなら毅然とした態度をとる。
くらいしか思いつきません。

専門家はどのように考え、アドバイスしているのでしょうか。
ネット上や育児書で得られる情報を比較・引用 してみましょう。
まずは YouTube では「かめん先生」が活躍しています。
正体は何者なのでしょう?


グレーゾーンの子どもの癇癪、絶対やってはいけない対応3選(かめん先生)
アメリカのカルフォルニア州立大学のABA(応用行動分析)技法というスキルによるアドバイスです。
1.大声で怒鳴る  → 反復すると子どもの脳にダメージを与える
2.モノでつる   → エスカレートしてエンドレス
3.質問攻撃をする → パニック状態のところに質問責めするとパニックを助長する
ではどうしたらよいかというと・・・
カウンセリングマインドの質問をくり返す」
とのコメント。
???
カウンセリングマインドとは「
受容・共感・傾聴」の3つで、
カウンセラーが人の話を聞くときに使うテクニック。
このスタンスで子どもへ質問をくり返すと、
癇癪が治まりやすくなるそうです。

(例)
公園で遊んでいてそろそろ帰る時間・・・
「そろそろ帰りましょ」
「ヤダ〜、まだ遊ぶ〜」
「もう遅いし暗くなるよ」
「ヤダ〜ヤダ〜」
こんなシーンでは、
「そっか、まだ遊びたいっていうこと?」
と質問します。
質問することで、子どもの気持ちを受容し、共感し、傾聴するのです。
おそらく子どもは、こう答えます;
「うん」
大人は、
「あ〜なるほどね、そうだったんだ〜」
と相づちを打ちます。
それだけ。
えっ、それだけで効果あるの?
と突っ込まれる方、是非トライしてください。
子どもの気持ちにより添うことで、
癇癪が徐々に治まってきますから。

ただし注意点が一つ。
「まだ遊びたかったんだ〜、でも帰る時間です!」
と相づちの後で、再度お約束の確認はしないこと。
せっかく“味方”になったのに、この一言で“敵”に戻ってしまいます。


そもそも、子どもはなぜ癇癪を起こすのか?
この疑問に見事に答えてくれたのが奥田健次氏(臨床心理士・公認心理師)。
メディアにもたびたび登場する異色のカウンセラーです。
彼の活動を特集した番組で、
「癇癪は子どもが自分の要求を実現するために獲得したスキル」
「それを言葉に置き換える訓練をしなければずっと使い続ける」
と表現したのです。
な、なるほど、と頷かされました。

言葉がうまく使えない乳幼児は、泣く事によって要求をかなえようとします。
これは健常児でも発達障害児でも同じこと。
それが通用すると、ずっと使い続けて言葉の習得がおそろかになりがちなのが発達障害児。
保護者は心を鬼にして「泣いて要求しても通用しない」ことをくり返し実行します。
このシーンをTVで放映しましたが、保護者にとっては地獄です。
1時間も泣き叫ぶ自分の子どもを知らんぷりして過ごすのですから。
しかし、発語の練習を並行して行い、1か月もすると、
子どもは「泣いて要求を実現する」ことが減ってきました。
すごい訓練です。
 
ASD・ADHDの子どもは、〇〇がないと癇癪を起こしやすい(かめん先生) 
癇癪は、子どもが自分の要求をかなえる手段として学習した行動です。
しかしこの方法は他の人を困らせることになりますから正しくありません。
ASDやADHDの子どもが癇癪を起こしやすいのは、言葉で表現するのが苦手だからです。
解決法は、言葉で自分の気持ちを表現する練習、です。

そしてもう一つ大切なことは、
「子どもが“
レジリエンス”を持っていないと癇癪を起こしやすい」
こと。
レジリエンスとは「回復力」とか「復活力」を意味します。
子どもが嫌なことに出会ったとき、思い通りに行かなかったときに、
立ち直れたり、気持ちを切り替える能力のことです。
発達障害の子どもはこのレジリエンスの力が低いため、癇癪につながりがちです。
 
ではレジリエンスを高めるにはどうしたらよいか?
子どもが癇癪を起こしているとき、
まずはその気持ちに“共感”してください。
(例)
「保育園に行きたくないよ〜」
「そっか、保育園に行きたくないんだね」
そして次のひとことが重要です;
「教えてくれてありがとう」
このひとことだけで、子どものレジリエンスは高まっていきます。



 ここで初めて「レジリエンス」という用語が出てきました。
私は「打たれ強さ」というイメージを持っています。
困難に出会ったとき、それにどう対応するか、
ただ勝った、負けたではなく、うまくやり過ごす方法・・・。

これは当然、大人にも求められることですね。 
考え方が真っ直ぐすぎる人が、就職して困難に出会うと、
ポキッとこころが折れて退職・転職に追い込まれます。
その時に、柳腰というか、
困難・ストレスをうまくかき分けながらも少しずつ進むことのできる人が生き残るのです。

 次は保育士の方の動画です;

保育士が伝授!癇癪の子どもに絶対すべきこと&NG対応まとめ (ありな先生)
・癇癪とは・・・大声で泣いたり、激しく奇声を上げたりして、興奮と混乱が入り交じった状態。自分の気持ちをまだうまく表現できなかったり、気持ちの切り替えが難しい子どもたちは、癇癪を起こしやすいといえます。
・イヤイヤ期は自我が育っている大事な時期なので、喜ばしいことでもあるけど、実際に関わる身としてはすごく大変です。
・子どもの癇癪は大人の関わり方により、改善することもあれば悪化することもあります。
・癇癪が目的をかなえるための“手段”になってしまっている子には、親は毅然とした態度で接してください。甘やかしやきびしすぎすのも逆効果になります。以下のように正しい主張のしかたを淡々と説明しましょう。
 ✓  そういうときは泣いたり叫んだりするんじゃなくて「〇〇したい」って言葉で言うんだよ。
 ✓ まだ言葉がうまく話せない子どもにはジェスチャーと共に短い言葉で声がけをしましょう。
 
<子どもが癇癪を起こしたときに大人がやるべき5つの対応>

1.癇癪を起こしがちな状況を知る。
・それを知ることにより、大人ができるだけその状況を作らないようにサポートしてあげられる。
(例)
 ✓ 生理的なもの(空腹・眠気など)
 ✓ 自分の思い通りにならなかったとき
 ✓ この後何が起こるのかわからない不安
 ✓ いつもと違うことが起きた時
・癇癪を起こす頻度を減らす事前対策。

2.気持ちを受け止める。
・子どもが癇癪を起こすときは、必ず何かしらの気持ちの変化があり、その気持ちを癇癪という方法で表現しています。
・大人がその気持ちを受け止めてあげないと、子どもは何をされても素直に入ってきません。
・具体的には、子どもの気持ちに共感して言葉で代弁してあげてください。寄り添って声をかける感じです。軽い癇癪ならこれで落ち着くこともあります。
・この方法は、癇癪を止めるだけでなく、子どもが癇癪ではなく言葉で気持ちを表現できるようになっていく効果があります。
・大人が代弁することにより、子どもも自分の気持ちの正体を知ることができるのです。
・何に癇癪を起こしているのかわからないときは、子どものありのままの姿を表現してあげればいいんです。「涙が出てきたね」「悲しいのかな?」「怒っているのかな?」という風に子どもの気持ちにより添ってあげれば大丈夫です。
・これを日々積み重ねていくことで、言葉で気持ちを表現できるようになっていきます。

3.安心できる場所や物を用意する。
・癇癪を起こしたとき、刺激の多い場所では新たな癇癪を起こしやすい傾向があります。
・明るすぎず、こじんまりした、邪魔されない空間があると、早く落ち着きます。
・外出先では大好きな毛布とかタオルで体をくるんであげたり、握らせてあげたり、大好きなぬいぐるみがあったらそれを渡してあげたりして、その場で安心できる空間を作ってあげてください。

4.気持ちを十分に発散させる。
・混乱のピークに達している子どもには、何をしても刺激になってしまいます。
・暴れる場合は危なくないように、ケガをしないように環境調整をして、気持ちを十分に発散できるよう見守りましょう。
(例)
 ✓ 物を投げる → おもちゃなどを片付ける
 ✓ 頭を壁に打ち付ける → クッションを置く
・このとき大事なポイントは「子どもには何もしない」ことです。
・子どもは泣いて気持ちを十分に発散させると落ち着きを取り戻して、こちらの言葉が届くようになってきます。

5.落ち着いてきたら気持ちを切り替えさせる。 
・癇癪を起こした原因には触れずに気持ちを切り替えるお手伝いをする。
 ✓ 「これしてみる?」と別のことに興味を引く。
 ✓ 癇癪を起こした場所をそっと離れる。
・癇癪を起こしやすい子は刺激に弱いので、その原因が近くにあると再発しやすい。
・原因を取り除いていて、大人はいつも通りに接してあげると子どもは気持ちを切り替えやすい。
・嫌がる子どもはそっとしてあげてください。ボーッとしていたい子どももいますので、子どもが動き出すのを待てばOK。

・・・以上の5つのことをくり返し行うことで、子どもの気持ちの表現方法が癇癪から言葉や身振りなどで表現できるようになっていきます。

<子どもが癇癪を起こしたときに大人がやってはいけない3つの対応>
1.怒鳴って癇癪を抑え込もうとする
・子どもは正しい自己主張をすることができなくなります。
・「自分の気持ちをわかって欲しい」から起こす癇癪を叱ってしまうと、わかってもらえないからもっと激しく泣いたり、暴れたりという悪循環に陥ります。
・怒鳴ってしまいそうなときは、いったん子どもと距離を置くのも一つの手です。親も癇癪を起こしそうになったら気分転換、と考えましょう。子どもの安全を確認後、別の部屋に行き10〜30秒間深呼吸すればストレスホルモンが減るので効果的です。

2.癇癪を起こすことで目的を達成させる。
・この“手段”を覚えると子どもは癇癪をくり返すようになります。
・子どもの気持ちを受け止め、正しい主張の仕方を辛抱強く、くり返し教えて“正しい主張”に変換してあげてください。
 ✓ 子どもが欲しいものがあったときに癇癪を起こしたら、すぐに渡すのではなく「コレが欲しいのね、じゃあ「ちょうだい」って言うんだよ」と声をかけ、子どもが言葉やジェスチャーで正しい主張に近い表現ができたら渡してあげましょう。
 ✓ お出かけの際に「今日はおもちゃは買わないよ」と子どもとルールを決めたら、子どもが癇癪を起こしてもルールは変えないようにしましょう。癇癪でルールを変えてしまうと子どもは学習してくり返します。「おもちゃが欲しくなっちゃったんだね」と気持ちを受け止めながらも「でも今日は買わないってお約束したよね」と(癇癪のピークが落ち着いてから伝えて)毅然とした態度をとりましょう。すると子どもは「ルールは守らないといけないんだ」と学んでいきます。

3.癇癪の原因に向き合わせる。
・癇癪の真っ最中にしてしまうと逆効果になり、より興奮してしまいがちです。
・これは子どもの気持ちにより添う“共感”ではなく、論理的な“説明”であり、パニック状態では頭に入りません。
・癇癪が落ち着いてから行うのは大丈夫、子どもは落ち着きを取り戻します。

 
 ・・・癇癪は子どもに自我が芽生えたって言う大事な成長の証ですので、「おお、そんな主張ができるようになったんだ」と成長を認め、「こういうときはこうするんだよ」と正しい主張の仕方を教えてあげましょう。


いかがでしたか?
皆さんの悩みに対して少しでも参考になれば幸いです。

いろいろやってみたけど、うちのこのかんしゃくは大変、困り果てている・・・
という方には漢方薬を提案しています。
興味のある方は、こちらをご覧ください。
 

西洋医学にASD(自閉症スペクトラム)に対する根本的な治療法は存在しません。
療育により、社会生活に適応できるよう訓練していきます。

漢方医学ではどうでしょうか。

それを説明する前に、
まずASDの病態の大まかな捉え方を提示します。

ASD児がもともと有する性質を「一次障害」、
環境により強い不安・緊張の反復・持続すると、
その結果、「二次障害」が発生すると考えられます。

(川嶋浩一郎先生のレクチャーのメモより)

ASDの一次障害:対人関係、コミュニケーション、想像力、変化適応能力の障害
  ↓
(環境による)強い不安・緊張の反復・持続
  ↓
ASDの二次障害:興奮、易怒性、パニック


小児漢方界では、
環境による強い不安・緊張の反復・持続をやわらげることにより、
二次障害には予防と対応ができるのではないか、
と考えて診療に取り入れています。

ここで紹介する川嶋浩一郎先生、山口英明先生ともに、
こころの不調・メンタルの不調を「不安」「緊張」「怒り」に分け、
それに対応する漢方薬を提案しています。

ただ、私が実際に患者さんの話を聞いていると、
「不安」と「緊張」は切り離せないのではないかと感じることがしばしばあります。

私の診療スタイルは、
「この薬から使ってみましょうか」
「これは今ひとつ手応えがなかったからこちらの方がいいかも」
などと患者さんに提案し、一緒に考えながら、
体に合う漢方薬を探すというものです。

近年、川嶋浩一郎先生は
「甘麦大棗湯(72)や十全大補湯(48)は一次障害にも効果を期待できる漢方薬」
と発言し、注目されています。
ただし、講演では「短期間ではなく年単位で長く服用することが必要」と話されていました。

私が参加した講演やWEB配信セミナーから、
ASD関連のメモをまとめてみました;


山口英明先生

<ASD治療に有効とされる漢方薬>

1.怯え・不安
2.緊張・不安定変動
3.怒り・興奮

1  :甘麦大棗湯(72)
2+1:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、大柴胡湯(去大黄)(8)
3  :黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
3+2:抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)


山口先生の解説では、不安・緊張・怒りが並列で扱われています。
ただ前述のように、不安と緊張が切り離せないことがままあるので迷います。


川嶋浩一郎先生

<ASDに対する漢方薬>

・ASDの一次障害に対する漢方:一次障害改善による二次障害軽減
 甘麦大棗湯(72)、十全大補湯(48)

・ASDの二次障害に対する漢方:扁桃体の鎮静や交感神経を抑制する漢方薬
※ 中止するともとに戻ることがある
芍薬甘草群)小建中湯(99)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、大柴胡湯(8)、柴胡桂枝湯(10)、四逆散(35)など
柴胡剤群)小柴胡湯(8)、柴胡桂枝湯(10)、大柴胡湯(8)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、抑肝散(54)・抑肝散加陳皮半夏(83)


▢ こどもの漢方的特徴は「二余三不足
・肝(自律神経系)と心(循環系)が機能亢進
・消化系、呼吸系、腎泌尿・内分泌系が機能不足、すなわち脾(水穀)・肺(宗気)・腎(精気)の不足 → 血の生成不足
・“血は気の母”だから、気の生成不足に及ぶ
 ↓
・“肝”が亢進:怒りっぽい
・“心”が亢進:情緒不安定
・“脾”が不足:意欲が続かない
・“肺”が不足:本能的欲望に流されやすい
・“腎”が不足:夢や希望、志が続かない

<子どものこころの不調に使える抗不安薬>

(西洋薬)
・セロトニン作動性不安薬:クエン酸タンドスピロン(セディール®)
 ・・・小学生にはセディール錠5mgを2-3錠/日

(漢方薬)
1.不安
・甘麦大棗湯(72)が第一選択

2.緊張
・小建中湯(99)が第一選択
・四逆散(35)が第二選択
(鑑別処方)
 実証:大柴胡湯(8)、
 虚証:香蘇散(70)(不安が強いとき)
    柴胡疏肝散 ≒ 香蘇散+四逆散

1+2.緊張を伴う不安
・半夏厚朴湯(16)
・桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

3.怒り
・抑肝散(54)
・抑肝散加陳皮半夏(83)
・柴胡剤群

<方剤解説>

【甘麦大棗湯】
ASDの本治が期待できる方剤で、精神的な視野狭窄を改善させる(オキシトシン様作用)
こんな方へ:
・不安で悲しくなり涙が止まらない
・不安で過呼吸発作が止まらない
・不安でチック発作が止まらない
★ 甘麦大棗湯が効果不十分のADには、セロトニンの上流にあるエストロゲンを増やす四物湯や十全大補湯(48)を試す価値あり。

【半夏厚朴湯】
こんな方へ:吐き気や梅核気(ヒステリー球)、胃腸症状を伴う不安

【桂枝加竜骨牡蛎湯】
こんな方へ:桂枝湯証(軽い頭痛、自汗、悪風、鼻鳴、乾嘔)+動悸を伴う不安

【柴胡加竜骨牡蛎湯】(大黄を含まないTJ12)
こんな方へ:柴胡証(胸満・胸脇苦満)、煩驚(動悸不安+神経過敏・易怒性)

【抑肝散・抑肝散加陳皮半夏】
・小児の“ひきつけ”のために作られた処方なので、青筋を立てて憤怒しやすく、舌が震えて前方に出しにくい人に著効する。
・浅田宗伯の見解は四逆散(35)の変方:四逆散の芍薬(補血)・枳実(行気)が当帰(補血)・川芎(行血)に置き換わり、白朮茯苓の補脾利水と釣藤鉤の鎮痙が加わった処方。
・こんな方へ:神経質で感が強く興奮しやすく怒りっぽいが、自虐的でくよくよして、親子間や家庭内でストレスがぶつけることがあっても、他人に八つ当たりして責めることがない。

ストレス反応十全大補湯(48)
・現代医学の考え方:交感神経(ノルアドレナリン系)を抑えて副交感神経(セロトニン系)活性化、
※ 副交感神経=胃腸機能(漢方的には補脾)
・漢方診断:脾腎両虚
・漢方治療:補脾・補腎  → 十全大補湯(48)など


<参考>
・書評「自閉症は漢方でよくなる」(飯田誠著)

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