カテゴリ:思春期 > 学校健診

学校健診は「症状がないけど病気がかくれているかどうか」をスクリーニングする医療行為です。
どんな目的で行っているか、どんな病気が見つかるのか、小児科専門医が解説します。

▶ 学校健診でわかること

低身長に隠れている病気

▶ 思春期が来るのが早い

▶ 小児肥満

子どものスポーツ障害

脊柱側弯症(思春期側弯症) 

★ この項目は、群馬県医師会作成の「学校医Q&A」をもとに、
生徒・保護者向けにわかりやすく説明を試みたものです。
・・・

脊柱側弯症は、脊柱(背骨)が曲がってねじれる病気です。
程度により、外見上からだがゆがんで見えたり、
腰痛の原因になったりします。
軽症の場合、自覚症状が乏しいのも特徴です。
しかし、思春期には成長とともに急速に進行するタイプ「思春期側弯症」が多く、
学校健診ではこれを見つけて早期診療につなげるという重要な役割があります。
思春期側弯症はほとんどが女子に発症するため、“正確な健診”と“プライバシー保護”のベストバランスが求められます。

 ▢ 脊柱側湾症の頻度
・疑い例を含めると全児童生徒の約0.5〜1.0%。
・頻度が高いのは小学4年生から中学3年生までの期間の女子。

▢ 側弯症の種類
1)機能性側弯(一時的側弯状態) 
・悪い姿勢、脚長差、坐骨神経痛による側弯などにより生じた側湾状態であり、
その原因が取り除かれれば消失します。
・ふつう、仰臥位にて消失し、脊柱のねじれ(回旋)はありません。
2)構築性側弯(真の病気)
・椎体のねじれ(回旋)変形を伴う脊柱の側方への湾曲で、仰臥位でも消失しません。
(1)特発性側弯症
 ① 幼児期側湾症(0〜3歳に発症)
 ② 学童期側弯症(4〜9歳に発症)
 ③ 思春期側弯症(10歳以降に発症)
(2)二次性側湾症
 ① 先天性側弯症
 ② 神経原性側湾症
 ③ 筋原性側湾症
 ④ 神経線維腫症による側湾症
 ⑤ 間葉系疾患による側湾症 

脊柱側弯症の症状
・軽症:無症状のことが多いです。
・中等症:本人が自覚し、心理的ストレスを感じます。
・重症:症状が出現し、腰痛・背部痛、呼吸器・心臓の障害が出現することがあります。
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思春期に進行する思春期側弯症
・思春期側弯症は急速に進行することが特徴であり、
早期発見・早期介入が望まれます。
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脊柱側湾症健診のチェックポイント
学校健診では視診にて、
体型が左右非対称になっていないかどうかを確認します。 

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①肩の高さの左右差
②ウエストライン(脇線部分の輪郭)び左右差・非対称性
③肩甲骨の高さと突出程度の左右差
④前屈検査(※)での肋骨隆起・腰部隆起の左右差

(※)前屈検査
 両方の掌を合わせ、肩の力を抜いて両腕を自然に前に垂らし、
 膝を伸ばしたままゆっくりとお辞儀をします。
 この間、医師は子どもの正面あるいは背面に位置し、
 子どもの背面を見通すようにしながら、
 肩、背中、腰の順に左右の高さに差があるかどうかを、
 視診、あるいは触診で確かめます。
 この検査を行う際に、医師は椅子に腰掛けて行います。
 後ろ向き、あるいは前向きの一方のみでなく、
 向きを変えて前後両方から観察することも推奨されています。

前屈検査の際の服装について
・上半身裸(女子では上半身をブラジャーだけ)にしての検査が推奨されています。 
・しかし、プライバシー保護、羞恥心のこともあり、
体操着をめくって前屈位にして、後面より観察することも行われています。
・側湾症の中で「思春期側弯症」は8割を占め、
変形は進行しやすく、女子がほとんどです。
・健診の正確さを得るために、診察時の服装、姿勢などにつき、
子どもへの事前指導と 保護者への連絡などを十分に行うことが有効です。
 
脊柱側弯症の治療
・整形外科専門医が行います。
(軽症)様子観察

(中等症)装具装着
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(重症)手術
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昨今、「学校健診で上半身裸になる必要があるのか?」と社会問題化しています。
学校医の立場から言わせていただくと、
学校健診でチェックを求められる、
・心臓と肺の異常の有無
・胸郭の異常の有無
・脊柱の異常の有無
を確認するには、一般の内科診察と同じく「上半身裸」が基本です。

「着衣健診」では判断材料となる情報量が減りますので、
見落としのリスクが増えることをあらかじめご了承ください。

ただ、「脱衣診察」は強制されるものではないので、
「着衣診察」でも全然かまいません。

もし「着衣健診」を基本とするなら、
上記疾患のチェック義務を消していただくのが筋です。
そうすればこちらのストレス、
「布で隠された場所の異常を見つける作業」
もなくなります。


私は小児科医ですので、側弯症当事者の言葉が記憶に残っています。
中学1年生で「思春期側弯症」を指摘されて整形外科を受診し、
コルセット治療が始まった女子。
「進行が止まらなければ将来手術も検討予定と言われた」
と、不安に満ちた表情で話されました。 
保護者の方は「もっと早く見つかれば手術なんて・・・」
という気持ちが捨てられない様子。
その学校の検診は「着衣診察」でした。
 

参考
思春期の女子に多い「脊柱側わん症」とは?原因、症状、治療法を解説
(2022年3月17日:NHK)
小児の脊柱側弯症(日本整形外科学会)
側弯症の矯正固定術(脊椎手術.com)
学校健康診断、内科診察の着衣・脱衣問題 〜開業小児科医のつぶやき〜
 (2022.7.31:当院ブログ)

近年、学童生徒の運動能力の低下が指摘されています。
その中身をみると、クラブチームや部活動でたくさん運動している子どもたちと、
ゲーム三昧で運動量が少ない子どもたちという二極化が進んでおり、
トータルでみると運動能力低下という状況が浮かび上がります。

そこで「運動器健診」(筋骨格系の異常をチェック)というものが、
2016年から学校健診に組み込まれるようになりました。
運動しすぎによるスポーツ障害と運動不足による機能障害を対象とします。

本来は整形外科医がこの分野の専門ですが、
整形外科医が学校医になることは少ないため、
学校健診でスクリーニングして疑わしい例は整形外科医を受診して診療を受ける、
という流れになっています。 

私は小児科医ですが、基礎知識をまとめるつもりでこの項目を書いています。

運動器健診の目的は、学校健診の意義である、
「無症状のうちに病気を早期発見して診療につなげる」
と同じく、
無症状のうちに筋肉・骨格の異常を見つけて早期診療につなげる
ことです。
その所見・病気は放置すると障害が残るかもしれないのです。

ですから、学校健診で「要受診」という書類をもらったら、
子どもの健康を守るために、必ず整形外科医を受診してください。

★ この項目は、群馬県医師会作成の「学校における運動器健診マニュアル」をもとに、
生徒・保護者向けにわかりやすく説明を試みたものです。

 
▢ 運動器健診の目的
・骨格の異常、バランス能力、関節の痛み、可動域制限の有無など、
四肢体幹を健診することにより、運動の過不足による障害を早期にチェックし、
早期に介入して、子どもの将来にわたって健康を守ることが目的です。
・多くの筋肉・骨の病気やケガは痛くなってから診断・治療しても回復しますが、
骨・軟骨障害の中には無症状のまま進行し、
痛みや動かしにくい(可動域制限)という症状が出たときには、
治療によっても完治せず将来障害を残す病気もあります。
(例)肘や膝の骨・軟骨障害、脊椎分離症など
 
ロコモティブシンドローム
・運動器(※)の障害のために移動機能の低下(移動や日常生活に何らかの障害)を来した状態です。
・ロコモティブシンドロームが進行すると、自分の身の周りのことができなくなります。
(※)運動器:人が自分の体を自由に動かすことができるための骨・関節・筋肉や神経。

「子どもロコモ」のチェック
以下の質問でできない項目がありますか?
・片足立ち:5秒以上しっかりとバランスを取れる
・しゃがみ込み:倒れずに踵をつけてしゃがめる。
・両手挙げ:耳の横までしっかり腕を挙げられる。
・前屈:指を床につけることができる。

一つでもできないものがあれば「こどもロコモ」の疑いがあります。
学校健診の「運動器健診」はこれをチェックする目的で行われています。

▢ 運動器健診の流れ
・一次検診:家庭で記入した「運動器健診問診票」(⇩)を養護教諭がチェックし、
学校医による診察を行います。
問題があれば学校医が二次検診を指示し、学校長から保護者へ通知されます。
・二次検診:整形外科専門医を受診し、診療を受けます。

運動器健診問診票
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・「運動器健診問診票」の
【運動機能のチェック】【オーバーユース】【脊柱側わん症】
の項目で右側に一つでもチェックがあった場合は、
健診のうえ整形外科専門医の受診を勧めます。

▢ 学校医による健診の具体的内容

1)運動機能のチェック

① 片足立ち(体のバランス感覚)
【方法】
・まっすぐ立たせます。
・片足立ちをさせ、浮かせた膝を90度に曲げさせます。
 → バランスを崩さず、5秒以上保つことができたら合格。
・片足立ち検査は反対側も行います。
【考察】
・腹筋群や下肢筋群の筋力が弱いとバランスを保ちにくくなります。
・右足はできるけど左足ができないなど、左右で差がある場合は、
足の筋力に左右差があることが疑われます。
【疑われる病態】
・足底・足趾、足関節・膝関節・股関節・脊椎の変形や痛みがあるために、
体重が支持できない。
(例)各関節の関節炎、単純性股関節炎、足部疲労骨折、下腿疲労骨折、
大腿骨頭すべり症ペルテス病発育性股関節形成不全先天性股関節脱臼

・足関節や股関節など下肢の筋力低下あるいは運動失調があるために、
片足で体重を支えられない。
・下肢の柔軟性低下や立直り反応不良があるため、
体の位置や重心の位置を修正できない。

② しゃがみ込み(下肢のかたさの検査)
【方法】
・肩幅に脚を開かせます。
・深くしゃがみ込ませます。
・しゃがみ込んで踵(かかと)を浮かせず、後方に転倒せずにできたら合格。
【考察】
・このテストでは、股関節・膝関節・足関節の柔軟性を評価します。
・とくにアキレス腱の伸張性低下が著しい場合に不合格になりやすくなります。
【疑われる病態】
・殿筋群の柔軟性低下による股関節屈曲制限。
・大腿四頭筋など大腿筋群の柔軟性低下による膝関節屈曲制限。
・腓腹筋やヒラメ筋など下腿部金の柔軟性低下による足関節背屈制限
脳性まひ外傷後など)。
大腿骨頭すべり症、ペルテス病、発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)
等のスクリーニングになります。

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(「imidas」より)
両腕を真上に上げる(上肢のかたさの検査)
【方法】
・バンザイをするように両手を真上に挙げさせます。
・左右ともバランスよく耳の横まで挙げることができたら合格。
【考察】
・このテストでは、肩関節の柔軟性を評価します。
・両手が真上に挙がらない場合や左右差がある場合には、
肩関節の以上や筋肉の柔軟性低下が疑われます。
【疑われる病態】
・胸郭・肩・肘などの柔軟性低下。
・胸郭・肩・肘などの関節に変形や痛み。
(例)関節炎、腱板断裂、肩甲骨高位症(スプレンゲル変形など。
・肩関節周囲の筋力低下。
(例)腋窩神経麻痺、分娩麻痺(腕神経叢麻痺)

埼玉県運動器健診:運動器機能不全例
(2010-2013年1343名の小学生のデータ)
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2)オーバーユース
(1)上肢
① 肩関節
【方法】
・医師は横から観察します。
・両肘関節を伸ばした状態で上肢を前方挙上させ、上腕が耳につくか否かを観察します。
【疑われる病態】
投球障害肩、腱板炎、上腕二頭筋長頭腱炎、上腕骨近位骨端線離開、翼状肩甲骨
② 肘関節
【方法】
・医師は横から観察します。
・両前腕を回外させて、手掌を上に向けた状態で肘関節を屈曲・伸展させます。
・伸展では上肢を肩関節の高さまで挙上させて検査することにより、
わずかな伸展角度の減少を確認できます。
・完全に伸展できるか、左右差がないかを観察します。
・屈曲では手指が肩につくかどうかを観察します。
・前腕の回内および回外を観察します。
(例)野球肘では腕を伸ばすと片方だけ真っ直ぐ伸びなかったり、
最後まで曲げられなかったりします。
【疑われる病態】
野球肘、離断性骨軟骨炎、上腕骨内側上顆骨端線離開

(2)体幹
【方法】
・かがんだり(屈曲)、反らしたり(伸展)したときに、
腰に痛みが出るか否かを確認します。
【疑われる病態】
腰椎分離症、腰椎椎間板ヘルニア、腰部筋膜炎

(3)膝
【方法】
・膝のお皿の下の骨(脛骨粗面)の周囲の腫れ、痛みがあるかどうか確認します。
 → 痛みがある場合はオスグッド・シュラッター病を疑います。
・軟骨には神経がないため、発症早期では痛みがなく、
動きが悪い、ひっかかるなどの症状だけの場合もあり、
曲げ伸ばしをしてうまく曲げられない場合は注意が必要です。
【疑われる病態】
オスグッド・シュラッター病、膝蓋靱帯炎、腸脛靱帯炎、鵞足炎

3)脊柱側湾症

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【方法】
児童生徒を、背中を裸または薄着にした状態で、姿勢正しく立たせ、
以下の項目の有無をチェックします。
① 両肩の高さの左右差
② 両側の肩甲骨の高さの左右差
③ ウエストライン(腰のライン)の左右差
④ 上体を前屈したときの肩甲骨の高さの左右差

前屈テスト
・ゆっくり前屈させながら、
背中の肋骨の高さに左右差(肋骨隆起、リブハンプ)があるかどうか、
腰椎部の高さに左右差(腰椎隆起、ランバーハンプ)があるかどうか、
を確認します。
・リラックスした状態で、両腕を左右差が生じないように下垂させ、
両側の手掌を合わせて両足の中央に来るようにします。
・背部の高さが必ず観察者の目の高さに来るように前屈させながら、
背中の頭側から腰の部分までみていきます。

運動器健診で「整形外科を受診してください」と言われたら?
・速やかに整形外科を受診してください。
・整形外科医による診察・検査の結果、病気が見つかった場合は、診療内容が学校へ報告されます。
・整形外科医による診察・検査の結果、病気が見つからなかった場合は、柔軟性やバランスを高める運動(ロコモ体操⇩)を勧めます。


<参考>

▢ 「学校保健安全法」内の運動器健診の内容
① 脊柱の疾病および異常の有無については、形態等を検査し側湾症などに注意する。
② 胸郭の異常の有無については、形態及び発育を検査する。
③ 骨、関節の異常及び四肢運動障害等の発見に努める。 

子どもロコモ体操
 
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▢ 「子どもロコモ対策マニュアルムービー
(埼玉県医師会学校医会運動器健診委員会、2015年)

▢ 「子どもロコモ読本」(久光製薬株式会社、2019年)

▢ 「子どもロコモ 予防・改善プロジェクト」(山形徳衆会)

▢ 「子どもの運動器疾患とロコモティブシンドローム予防
 帖佐悦男(Jpn J Rehabil Med 2021;58:925-932)

▢ 「子どもロコモと運動器健診について
 林承弘、他(日整会誌 J. Jpn. Orthop. Assoc.; 91:338‐344, 2017)

★ この項目は、群馬県医師会作成の「学校医Q&A」をもとに、
生徒・保護者向けにわかりやすく説明を試みたものです。
 
私は小児科医なので関節の痛みは専門外であり、
相談を受けたら基本的に整形外科に紹介しています。

ただ、
 どんなスポーツで、
 どんな年齢で、
 どんな症状が出ると、
 どんな病気が疑われるのか・・・
基礎知識を整理しておきたいと思います。


スポーツ傷害とは?

・スポーツにより生じるすべての運動器の異常で、2つに分けられる;
1)スポーツ外傷(ケガ):1回の外力で生じる
2)スポーツ障害(故障):くり返し負荷で生じる

・スポーツ傷害の原因
 ✓ オーバーユース(使いすぎによる疲労の蓄積)
 ✓ 誤った練習方法
 ✓ 正しくないフォームや動作

・スポーツ障害の特徴
①体の一部にくり返しの負荷がかかることで生じる炎症が主体
②スポーツ種目やポジションに特異性が高い
③外科治療の対象になることは少なく、
多くは練習量のレベルダウンやフォームの矯正で快方に向かう。

・スポーツ障害の予防
① 練習は週3〜4日以内にする。
② 練習前に十分なウォーミングアップをする。
③ 正しいフォームと基本動作を身につける。
④ 無理のない正しい筋力トレーニングをする。
⑤ 同じ動作ばかりを繰り返さない。
⑥ 練習後はクーリングダウンを行う。
特に試合や練習でいじめた場所はアイシングする。


【サッカー】

<小学生>
・下肢の障害が多く、足部、とくに踵部(かかと)の障害が多い。
(例)踵骨骨端症外脛骨障害母趾種子骨障害など
・次に多いのが膝の障害。
(例)オスグッド病分裂膝蓋骨膝蓋靱帯炎など
・障害は練習の頻度や量に比例するため、
部活やクラブチーム以外に練習が重なっていないかどうかを、
確認することが必要です。

<中学生> 
・体の発育に個人差があることに注意。
・中学生の部活はほぼ毎日練習があるため、
同じ練習をしていても筋骨格系の発育がよい生徒は障害がなくても、
発育の遅い生徒は障害が起きやすい傾向があります。
・下肢のどこにも障害が出るが、 オスグッド病などが多く起こり、
中足骨疲労骨折もよく見られます。
・練習が過度になると、腰椎分離症も起こりえます。
 
 
【野球】

<小学生>
・上肢の障害が多く、ほとんどが肘の障害(いわゆる“野球肘”)。
・肘の障害には2種類あります;
①外側障害(上腕骨小頭離断性骨軟骨炎):重症化して野球を続けられなくなることもあるので要注意。
②内側障害(リトルリーグ肘など):軽症で治りやすい。
・野球肘は全力投球数に比例します。
・指導者や親が注意をしても、隠れて練習していることがあります。
野球肘予防のストレッチが推奨されます。

<中学生> 
・肘の障害に加え、肩関節の障害(野球肩リトルリーグ肩)も起こるようになります。 
・野球肘・野球肩は投球数、投球フォームに関連があり、肩障害予防のストレッチが推奨されます。
・小学生の時と比べて練習量が急に増えたり、硬式野球を始めて急にボールが重くなったりすることも原因として考えられます。

★ 「青少年の野球障害に対する提言
日本臨床スポーツ医学会が投球制限のルールを提唱(1994年)。
・小学生:週3日以内、1日2時間以内、1日50球以内、週200球以内
・中学生:週1日以上の休養日が必要、1日70球以内、週350球以内
・高校生:週1日以上の休養日が必要、1日100球以内、週500球以内
※ 1日2試合の登板は禁止。
※ 投手と捕手は2名以上育成しておく。

★ 「野球を楽しむための提言」(3・3・3のトリプルスリー)
・練習時間は3時間
・練習日数は週に3
・シーズンオフは3か月

【バレーボール】
・膝、、肩、腰椎の障害が起こります。
・膝では「ジャンパー膝」などの障害が多いです。
・肘・肩の障害は野球に比べると軽症です。
・腰椎の障害には腰椎分離症などもあり、
早期発見早期治療により完治しますが、
放置により一生分離症を抱えることもあり、要注意です。

【テニス】
・下肢、、肩の障害が起こりますが、比較的軽症です。

【陸上競技】
・ほとんどが下肢の障害です。
・関節部以外にも、筋肉部、腱部の障害も起こります。

【バスケットボール】
・膝、足部の障害が多くみられますが、比較的軽症です。

【水泳】
・スポーツ障害の頻度は少なめです。
・バタフライ選手の腰痛(腰椎分離症の可能性あり)、
平泳ぎ選手の膝痛が時々あります。


<疾患解説>

オスグッド・シュラッター病】Osgood-Schlatter Lesion
・若年男子の激しいスポーツ競技者に多い。
・脛骨粗面部の障害
・キック、ジャンプなどの激しい膝伸展の反復により、脛骨粗面の軟骨が牽引される。
・膝蓋靱帯の牽引による Overuse syndrome
 → 急激な成長による大腿四頭筋の相対的な過緊張+ジャンプ・ランニングのくり返し
・症状
 ✓ 脛骨粗面部の隆起
 ✓ 骨端線が閉鎖すると症状消失

リトルリーグ肩
・上腕骨近位骨端線離開
・十分な筋力がなく、過度の関節の柔軟性を認める小児期に、
間違った練習方法や練習のやり過ぎにより発生する。

野球肘
(内側の痛み)内側型:Tension overload
投球動作の加速期初期には肘関節は強く外側に曲げられ、
内側側副靱帯や手関節屈曲腱などの内側構成体が引っ張られ、炎症が起こる。
靭帯が引っ張られ、骨の一部が剥がれる。
例)内上顆裂離・骨端離開、内側側副靱帯(MCL)損傷、尺骨神経障害
(外側の痛み)外側型:compression injury
投球動作の加速期初期には肘関節は強く外側に曲げられ、
上腕骨小頭部(外側)の循環・栄養が障害される。
骨と軟骨がぶつかって破壊される。
離断性骨軟骨炎:プロ野球選手が軟骨摘出術を受けることになる障害)。
例)離断性骨軟骨炎(OCD)、滑膜ひだ障害
(後側の痛み)後方型:Extension injury
ボールを離したとき肘関節は過伸展され、遊離体を形成したり、
上腕三頭筋付着部に炎症を起こす。
例)肘頭骨端離開・骨端閉鎖不全、滑膜ひだ障害、骨棘骨折、肘頭疲労骨折(滑車・橈骨頭OCD)

腰椎分離症
・先天性と後天性(外傷性)がある。
・後天性(外傷性)では、
 発症のピーク:13-14歳
 スポーツ選手の20〜45%(全体としては6〜7%)
・スポーツ動作での屈伸-曲げ、ひねり運動の持続が、
関節突起間部に異常な応力の集中をもたらす結果生じる。
・分離部の動きにより痛みが発生する。
・分離型は3タイプ
 亀裂型:コルセットにより骨癒合可能
 偽関節型・欠損型:リハビリあるいは手術
・治療:
 陳旧性であれば、通常の腰痛に応じた治療
 新鮮骨折であればコルセットを4〜6か月装着しスポーツを禁止する。
 偽関節で骨癒合が無理な場合は伸展のみを制限する軟性コルセットを考慮する
・癒合率は初期>分離期なので、早期治療が望ましい。



 <参考>
運動器検診とスポーツ障害(福岡県医師会) 
・「スポーツ損傷シリーズ」(日本整形外科スポーツ医学会)
・「スポーツで起こりやすいケガと故障」(日本臨床整形外科学会)
・「
子供の運動スポーツ医学の立場から考える」(日本臨床スポーツ医学会



★ この項目は、群馬県医師会作成の「学校医Q&A」をもとに、
生徒・保護者向けにわかりやすく説明を試みたものです。

日本人小児の約10%が肥満であると報告されています。
 
ところで、肥満ってどこから病気なのでしょうか。
近年は「ポッチャリ系」という言葉も生まれ、
以前より否定的な雰囲気はなくなりましたが・・・。

肥満の定義は「肥満度が20%以上、かつ体脂肪率が有意に増加した状態」です。
★ 肥満の評価方法(実は複雑です)については最後【備考】(1)に記載しました(⇩)。
★ 「有意な体脂肪の増加」は以下の通り;
・男児:年齢を問わず体脂肪率25%以上
・女児:体脂肪率30%以上(11歳未満)、35%以上(11歳以上)


「脂肪」には内臓脂肪と皮下脂肪があり、以下の特徴があります;
内臓脂肪)比較的容易にたまり、容易に燃焼することが可能。
皮下脂肪)いざという時のため(飢餓など)にエネルギーを備蓄。

皮下脂肪型肥満 → “洋なし形体型”、
内臓脂肪型肥満 → “リンゴ型体型”、
となることが知られています。

学校健診では「肥満度」を計算して、以下のように分類しています;
 肥満度20%以上 →  軽度肥満 
 肥満度30%以上 → 中等度肥満
 肥満度50%以上 →  高度肥満


医学的には「肥満=病気」ではありません。
(肥満)+(それによる健康障害・医学的異常)
を「肥満症」と呼び、治療が必要な病気として扱います。

「肥満症」の怖いところは、
「今つらい症状がないのに、将来の病気に確実につながっていく」
ことです。
症状がないので本人・家族に病識が乏しく、
「肥満の基準に当てはまりますので医療機関を受診してください」
という書類を学校からもらっても、
スルーしてしまう方が少なからず存在します。

しかし多くの大人が苦しんでいる心筋梗塞脳卒中高血圧
その原因となる生活習慣病(2型糖尿病など)、メタボリック症候群
などは、そのルーツを探すと「小児期の肥満」がもとであることが判明しており、
そのリスクは「大人になってからの肥満」より「小児期・思春期の肥満」の方が、
強く関連していると報告されています。

学齢期では、肥満により生じる合併症はまれであり、
外見や運動能力低下などによる心理社会的問題と、
引き続いて起きる自立の障害がみられることが多く、
「こころとからだ」の健康障害を引き起こすため、
明らかな合併症がなくても小児肥満の改善は必要です。

学校健診における肥満児の抽出は、
小児期に病的な肥満を解消することにより、
将来の命に関わる病気を予防しようという試みなのです。
肥満児の将来の病気のリスクを減らすのは、指摘された今です!
必ず医療機関を受診してください。

小児科開業医の当院では「軽度〜中等度肥満」を診療しています。
「高度肥満」は以下の目的で総合病院へ紹介しています;
・「肥満症」の有無の検索(血液検査、エコー検査)
・管理栄養士による食事指導

近隣の中学校では「肥満度50%」の生徒に医療機関受診を指示します。
このレベルでは自覚症状がなくても、
血液検査の異常をすでに示していることが多いためです。
そして「小児肥満症」は以下の基準で診断されます。

<小児肥満症の診断基準>

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(「高度肥満児対策の手引き」群馬県医師会、2017年発行より)

内臓脂肪型肥満によりさまざまな病気が引き起こされやすくなった状態を、
「メタボリック・シンドローム」と呼び、治療の対象になります。
小児肥満の10〜20%がメタボリック・シンドロームと診断されます。
★ 診断基準はこの項目の最後【備考】(2)に提示しました(⇩)。

▢ 医療機関を受診する目安
・学童期の軽度〜中等度肥満 → 学校での保険指導
・学童期の高度肥満、保険指導が効果的でない中等度肥満
→ 学校医やかかりつけ医を受診して原因を調べ、
 原因により生活習慣の見直しを行います。
・学校医やかかりつけ医の介入が効果的でない例は、高次医療機関への紹介が必要です。
★ この項目の最後【備考】(3)に記載しました(⇩)。

ほかに、高次医療機関での診療が必要な病態に、
症候性肥満と発達障害と伴う肥満があります。

▢ 症候性肥満
・肥満のほとんどは食べ過ぎが原因(原発性肥満)ですが、
まれに体重が増える病気が隠れている(症候性肥満)ことがあり、
その病気に対する治療が必要です。
(例)内分泌異常、視床下部異常、遺伝子異常、等
・症候性肥満は身長の伸びが悪いことが多いのが特徴です。

▢ 発達障害を伴う肥満
・発達障害児の多くは環境への適応障害があり、
その結果として不安の増加、自己評価の低下、運動の減少に加え、
食べることに満足を見いだすようになると肥満につながります。
・発達障害の正しい診断と支援が必要です。


では「肥満度>50%」の生徒への診療・指導内容を書いてみます。

▢ 肥満診療の目標
肥満度をそれ以上増加させないこと。
(思春期前・思春期)現在の体重を維持します。
(最終身長到達後)減量が必要です。
肥満度を中等度(<50%)にすること。
※ 柔道や相撲など、体重増加が必須であるスポーツを行っている場合は、定期的にフォローし、血液検査異常や呼吸器症状を認めない限り体重増加を許容します。

▢ 診療内容と通院の目安
・食事指導・運動指導でエネルギー収支のアンバランスを修正します。
・体格の評価:成長曲線を利用します。
・目標達成困難な場合は達成できない要因を探ります。
・児が自分の問題として取り組めるように支援します。
・はじめは1か月に1回、効果が現れたら2〜3か月に1回、通院します。
・体重を毎日測定して「体重測定表」に記入し、受診の際に医師に見せてください。

▢ 食事療法
・肥満は食事・おやつ・ジュースなどの過剰摂取と、
運動不足により起こるものがほとんどです。

 (消費エネルギー)<(摂取エネルギー)
          ⇩
 (消費エネルギー)>(摂取エネルギー)

へ持っていけば解消します(単純ですが難しい)。
・成長期においては摂取エネルギーを極端に減らすと危険です。

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・実際の食事内容や食習慣を把握して見直し、
そこから改善できる点・難しい点などをあぶりだして一つ一つ対応していきましょう。

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▢ 運動療法
・肥満児は運動が苦手なことが多いので、
まずは体を楽しく動かすことから始めましょう。
・関節痛や腰痛が現れた場合は、運動を中止して整形外科を受診しましょう。
運動は“ほんのり汗を掻く程度”(心拍数120〜140拍/分)が適切です。
・1日10〜15分ではじめ、徐々に増やして、
最終的には1日60分程度の運動を目標にしましょう。

▢ 行動療法
・毎日の体重記録・運動記録・生活習慣記録はモチベーションを維持するのに役立ちます。
・「肥満は体質」から「肥満は習慣」と意識を修正しましょう。
・「できなかったことを叱る」のではなく、
「できたことを褒める」スタンスが望まれます。


▢ ライフステージに応じた、肥満対策

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【備考】(1)
<肥満の評価方法>

肥満の評価方法は以下の種類があります;

1)肥満度
2)BMI(Body Mass Index)
3)ローレル指数
4)腹囲

学校健診では「1)肥満度」が採用されています。
成人領域で用いられるBMIは、海外では用いられているようですが、
日本の学校健診では使用されません。

肥満度は以下の計算式で求められます;

(肥満度%)=[(実測体重ー標準体重)/標準体重 ] × 100 

学童期以降は、
 肥満度20%以上 → 軽度肥満 
 肥満度30%以上 → 中等度肥満
 肥満度50%以上 → 高度肥満
と診断します。

なんだ、結構単純・・・と思いきや「標準体重」がくせ者で、
計算式で求めるのです。
その計算方法も、実は2種類あります:

①その1;係数 a と b は下表を使います。 

(標準体重)= a × 身長(cm)ー b 
 
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学校健診で使われている計算式です。
ただし、年齢毎に係数が異なるので、同じ身長体重であっても、
誕生日を挟んで年齢が増えると肥満度が変わってしまう欠点があります。
とくに身長が−2SD以下の低身長時では肥満度の評価が正しくない可能性があります。

②その2;

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 個人の肥満度の変化の評価には、
この方法を用いた肥満度はグラフ化すると視覚的に判定しやすく、
縦断的な評価を行いやすいとされています。
ただし、思春期発達段階の違いなどに基づく、年齢による体型の差は考慮されません。
 
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2)BMI=体重(kg)/(身長(m)×身長(m))
日本人の成人では25以上を肥満としています。
小児では年齢とともに変動するため、
パーセンタイル基準値と比較し、
90および95パーセンタイルを超えていれば肥満と診断します。

3)ローレル指数=体重(kg)/(身長(m)×身長(m)×身長(m))×10
160以上:肥満
180以上:中等度肥満
200以上:高度肥満
低学年の場合、身長によって補正する必要があります。
身長110〜129cm:180以上が肥満
身長130〜149cm:170以上が肥満

4)腹囲(臍高囲)
日本人の小児メタボリックシンドローム診断基準(6〜15歳)によれば、
小学生:75cm以上が内臓脂肪量増加
中学生:80cm以上、または腹囲/身長が0.5以上で内臓脂肪量増加
と判断します。


【備考】(2)
<メタボリック・シンドロームの診断基準>(6〜15歳)

① 腹囲の増加:
・中学生:80cm以上
・小学生:75cm以上ないし腹囲÷身長が0.5以上
② 中性脂肪が120mg/dl以上、ないしHDLコレステロールが40mg/dl未満
③ 収縮期血圧125mmHg以上、ないし拡張期圧70mmHg以上
④ 空腹時血糖100mg/dl以上

注)採血が食後2時間以降である場合は、
中性脂肪150mg/dl以上、血糖100mg/dl以上を基準としてスクリーニングを行います。
この食後基準値を超えている場合には空腹時採血により確定します。 

 → 腹囲の基準①を満たした上で②〜④のうち2つを含む場合が、
「小児メタボリックシンドローム」と診断されます。


【備考】(3)
<高次医療機関への紹介が必要な場合>
 

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上記以外でも、以下の場合は高次医療機関へ紹介されます。
・睡眠時無呼吸や発達障害がある場合
・関節痛などで運動制限を要すると考えられる場合
 

★ この項目は、群馬県医師会作成の「学校医Q&A」をもとに、
生徒・保護者向けにわかりやすく説明を試みたものです。


身長が低い=病気、ではありません。
しかしまれに治療が必要な病気が隠れていることがあります。
学校健診での身長計測の目的はそのような例を見つけることです。

まず、どんな場合に「身長が低い」と判断するか、
その基準をお示しします。

① 現在の身長が低いこと
② 身長の増加率(成長率)が低いこと

①は当然ですが、②は?ピンときませんね。
現在の身長が低くなくても、
2年に渡って身長の伸びが鈍い場合も問題視する、という意味です。
★ この項目の最後に計算方法を記載しました(⇩)。

養護教諭・学校医はこの二つの指標を用い、
「成長曲線」と「成長率(増加率)曲線」を作成して、
各生徒に問題がないか検討しています。

両親の身長も参考になります。
両親の身長から予測される本人の身長の計算式があります;
(target height)
 男児=(父の身長+母の身長+13)÷ 2
 女児=(父の身長+母の身長ー13)÷ 2
(target range)target height の95%信頼区間
 男児= target height ± 9cm
 女児= target height ± 8cm
この式から得られる予測身長から大きく外れる場合は、
病気が隠れている可能性があり、検討が必要です。

身長が低くなる原因となる代表的な病気を提示します。


<低身長の原因となる病気>

▢ 内分泌疾患
成長ホルモン分泌不全性低身長(※)
甲状腺機能低下症
・副腎機能異常症
性腺機能低下症
▢ 染色体異常症・奇形症候群
Turner症候群(※)
Prader-Willi症候群(※)
Russel-Silver症候群
▢ 骨系統疾患
軟骨異栄養症(※)
骨形成不全症
▢ 代謝疾患および栄養障害
慢性腎不全性低身長(※)
慢性炎症性腸疾患
・心臓疾患
▢ 体質性低身長
・特発性低身長
SGA性低身長(※)
・家族性低身長
▢ 精神・情緒・愛情などの環境異常
愛情遮断症候群
・虐待
▢ 思春期遅発症
(※)は成長ホルモン療法の適応があります。


たくさんの病気がその部分症状として「身長が低い」を表すことがわかります。
この中には治療により成長が回復する病気があります。
とくに(※)の病気は、成長ホルモン補充療法による効果が期待できます。
この場合、骨端線(骨の端にある骨が成長する部位)の活動が止まる(骨端線閉鎖:男子17歳、女子15歳)前に治療を開始しなければ効果がありません。

「元気だから多少背が低くても大丈夫」と放置すると、
治療により改善できる病気を見逃してしまう可能性があります。
学校健診で「身長が低い」ことを指摘された方は、
必ず医療機関を受診してください。 

では、実際に学校医がどのように成長曲線・成長率曲線を利用して、
病気の有無を判定しているのか、例示してみます。
興味のある方はご覧ください。


(例1:成長曲線)
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 A:身長は低いけれど平均との差が一定で経過しています。
 (想定される例)思春期遅発症
 B:乳幼児期から身長が低く、加齢とともに平均との差が広がっています。
 (想定される例)何らかの先天的疾患
 C:ある時点から成長率が低下しています。
 (想定される例)何らかの後天的疾患


(例2:成長曲線&成長率曲線:女子)

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(症例1)慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症
成長曲線はすでに7歳の頃から増加不良が存在しますが、
この頃からの発症と思われるが周囲のものは気づかず、
外来に来たのは4年後でした。
甲状腺機能低下に基づく活動性の低下や学業不振がありましたが、
ゆっくり進んだためその変化に周囲は気づかなかったようです。
「成長率」をしっかり確認しておけば、
より早期に診断できた可能性があります。

(症例2)クローン病慢性炎症性腸疾患の一つ)
軽度の反復性腹痛で来院した女児で、
経過中に急性虫垂炎と診断され手術を受けています。
成長曲線をみると12歳時点で−2SDを下回っています。

(症例3)アトピー性皮膚炎
厳格な食事制限を行ったため、十分な栄養の摂取ができず、
身長増加に支障を来した例です。
食事制限解除により、身長増加の改善が得られました。


(例3:成長曲線&成長率曲線:男子)
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(症例4)特発性成長ホルモン分泌不全型低身長
成長ホルモン(GH)補充療法にて身長増加が得られています。

(症例5)成長ホルモン分泌不全脳腫瘍
ある時点から急速に身長増加が障害されています。


★ 私の経験例「思春期早発症」;
忘れ得ぬ患者さんがいます。
「身長が低くなる病気」でありながら「身長が急に伸びる病気」。
それは「思春期早発症」です。
これは思春期が本来の年齢より早く来る病気です。
思春期は成長のスパートを認める期間ですから、
身長が急に伸びて、周りのみんなを追い越します。
しかし早く始まった思春期は、早く終わってしまうので、
すると成長がそこでストップ、逆にみんなに追い抜かれ、
結局「身長が低い」まま状態になってしまうのです。
この病気では「身長が低い、伸びない」と気づいたときには、
時すでに遅く、治療法がありません。
身長が急に伸びたときに「?」と疑って検査し診断できれば、
治療法がありますので、本来の身長まで伸びる可能性があります。
気づくポイントとして、身長が伸びるほかに、第二次性徴が挙げられます(⇩)。
男子では声変わり、喉仏が目立つ、陰毛・腋毛が生えてくる、等
女子では乳房発達、陰毛・腋毛が生える、生理が始まる、等
これらが以下の目安に照らし合わせて「早すぎない?」という時期に出現したら、
小児科にご相談ください。

<思春期早発症を疑う症状の目安>
(男子)
・9歳までに精巣(睾丸)が発育する。
・10歳までに陰毛が生える。
・11歳までに腋毛・ひげがはえたり、声変わりがみられる。
(女子)
・7歳6か月までに乳房がふくらみ始める。
・8歳までに陰毛・腋毛が生える。
・10歳6か月までに生理が始まる。



以上、「身長が低い」ときにどのような病気が考えられるかを解説しました。
再掲します;

「元気だから多少背が低くても大丈夫」と放置すると、
治療により改善できる病気を見逃してしまう可能性があります。
学校健診で「身長が低い」ことを指摘された方は、
必ず医療機関を受診してください。 



<身長の評価方法>

低身長:平均からの隔たり(SDスコア)を使用します。
SDスコアは以下の式で計算されます;

 (身長ー平均身長) ÷ (標準偏差) = SDスコア

 ※ 平均身長と標準偏差は同性・同年齢の数値を使います(成長科学協会HP)。

小中学生では「ー2SD以下」を身長が低いと判断します。
「ー3SD」(0.14パーセンタイル)以下は病気が隠れている可能性が高く、
「ー2SD〜ー3SD」はグレーゾーン(境界領域)です。 

★ SDとパーセンタイルとの関係;
 -2.0SDが2.28パーセンタイル
 -2.5SDが0.62パーセンタイル
 -3.0SDが0.13パーセンタイル


成長率:計算方法は以下の通り:

 (身長成長率ー平均身長成長率)÷(標準偏差)= 成長率 

 ※ 平均身長成長率と標準偏差は同性・同年齢の数値を使います(成長科学協会HP)。 

 「ー1.5SD以下の成長率が2年間続く」と「身長が低い」と判断されます。 

 学校健診で見つかる重要な病気の一つである脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)について解説します。


脊柱側湾症とは

側弯症は脊柱が側方へ曲がってねじれる病気です。
中学生に多いのは「思春期側弯症」というタイプです。

思春期側弯症は10歳以降に発症するため、
それまで異常がなくても安心できません


思春期側弯症は圧倒的に女子に多い
ことが報告されています。
(頻度:0.5~1.0%)
一般的に、年齢が若く初潮前や骨が未熟な例は進行しやすいと考えられています。

症状

上半身の形と腰のくびれが左右非対称となり、
片方の背中が隆起するという
外見上の問題が生じます。
重症になれば
呼吸障害(肺活量の減少)が、
また
中年以降に腰痛や背部痛が発生しやすくなります。       


診断

最終的にはレントゲン検査が必要ですが、
家庭でもスクリーニング可能です。
調査票にある立位検査や前屈検査で、
左右非対称であることから発見されることもあります。
(ただし、
家庭でのスクリーニングでは約3割が見逃されます

医師による学校健診でも前屈検査を行います。
判定基準は、
 肋骨・腰部隆起の左右差が5mm以下なら正常範囲、
 8mm以上なら要精密検査

と微妙です。そのため、
着衣状態では評価が困難です。 

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自治体によっては、
モアレ法やシルエッター法が用いられることがあります(群馬県では未導入)。

健診で側湾症を指摘されたら

「要精密検査」と指摘されたら、
整形外科を受診して専門医による診療が始まります。

治療はわん曲程度により異なり、
定期的な経過観察、コルセット療法、手術から選択されます。

軽い例は経過観察を指示されますが、
成長が止まるまでは進行する可能性があるため、
途中で通院をやめないで指示に従ってください。



★ 学校健診・内科診察では脱衣が基本です。

昨今の学校健診の内科診察では、
「思春期の子どもたちの脱衣診察はやりすぎではないか?」
と健診の目的を理解されない声が強く、
着衣のまま診察を受ける学校が多いようです。

上記を読んでおわかりのように、
服の上からでは微妙な左右差が判定できません。
そのため思春期側弯症を早期発見できず、
進行してから発見されて手術に至り、
後悔する患者さんを見聞きしています。


思春期なので恥ずかしい気持ちはわかりますが、
健診の目的をご理解いただき、

内科診察の基本である脱衣をお勧めします。

年に1回、必ずやってくる学校健診。
内科診察の際に、上半身の服を脱ぐか、服を着たままやるか、
ネット上で賛否両論の議論が炎上しています。

私は医師の立場から内科診察の内容と意義を述べてみます。

学校健診は、
“症状がまだ出ない時期に病気を早期発見する”
目的で行うスクリーニング
です。

ですから、
“私は健康で気になる症状もないから健診は必要ない”
という考えは誤り
です。

私が行っているふだんの診療は、症状がある場所を中心に診察します。
しかし健診は、
“症状がないのに病気の予兆を拾い上げるミッション”
のため、私はこちらの方が気を遣います。


内科診察では、主に以下のことを評価します;


心臓の異常の有無:

聴診器を胸に当てて心音・肺胞音を確認します。
心音を評価するためには、
心電図と同じように胸の中央から左胸にかけて数カ所の聴診が必要です。

心電図は心臓の動きを電気信号として記録する器械ですが、
聴診は心臓の微弱な音を聴いて問題の有無を判断するデリケートな作業です。
ですから、肌の上から直接聴診します。

胸郭異常の有無:

胸の形を観察して、
胸部中央の盛り上がり(鳩胸)や凹み(漏斗胸)を観察
します。

脊柱側弯の有無:

肩甲骨の高さの左右差、
前屈み時の胸・腰の盛り上がりの左右差を観察
します。
この“左右差”は「cm単位」ではなく、
「mm単位」と微妙な差です。

皮膚の異常の有無

いかがでしょうか。
医師に課せられたミッションをクリアするためには、
ふつうの診察以上に情報を集めることが求められます。
服を着ていると情報不足になり、
小さな異常の見落としの可能性が高くなることがわかると思います。

医師は透視能力があるわけではありません。
 
着衣診察を別のシチュエーションに例えるなら、
テーブルの上に置いた花瓶に布をかけ、
それを観察して中の花瓶の形を正確に言い当てなさい、
と言われているのと同じこと。


思春期なので恥ずかしい気持ちはわかりますが、
まずは健診の目的をご理解いただき、
精度の高い健診(過剰診断と見落としの少ないスクリーニング)になるよう、
ご協力をお願いします。


以上、医師の立場として書かせていただきました。

ただし、検診時の上半身脱衣は強制されるものではありません
健診の目的を理解した上でも、
事情により
着衣での内科診察を希望・選択できますので、
担当者に相談してください。

その際は病気を早期発見する機会を失う可能性があることを、
予めご了承ください。


さらに学校健診は、病気が疑われる例を専門医につなぐことが目的です。
「要精密検査」という書類をもらっても受診しなければ、
病気の発見が遅れるだけでなく各担当者の努力が無駄になります。
書類をもらったら必ず受診してくださるようお願い致します。

着衣健診で見落とされる可能性のある病気の一つに、
「脊柱側弯症」があります。
軽度の段階で発見されれば装具で済んだかもしれないのに、
進行してから発見されたために手術が必要になった、
という例を見聞きします。
気になる方は、下の脊柱側弯症(思春期側弯症)をお読みください。


<このブログの中の関連記事>

▶ 脊柱側弯症(思春期側弯症) 

▶ 
低身長に隠れている病気

▶ 思春期が来るのが早い

▶ 小児肥満

▶ 
子どものスポーツ障害



<参考サイト>
▢ 
児童生徒等の健康診断マニュアル 映像解説版(日本学校保健会)

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