どんな目的で行っているか、どんな病気が見つかるのか、小児科専門医が解説します。
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▶ (思春期側弯症)
学校健診で見つかる重要な病気の一つである脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)について解説します。
【脊柱側湾症とは】
側弯症は脊柱が側方へ曲がってねじれる病気です。
中学生に多いのは「思春期側弯症」というタイプです。
思春期側弯症は10歳以降に発症するため、
それまで異常がなくても安心できません。
思春期側弯症は圧倒的に女子に多いことが報告されています。
(頻度:0.5~1.0%)
一般的に、年齢が若く初潮前や骨が未熟な例は進行しやすいと考えられています。
【症状】
上半身の形と腰のくびれが左右非対称となり、
片方の背中が隆起するという外見上の問題が生じます。
重症になれば呼吸障害(肺活量の減少)が、
また中年以降に腰痛や背部痛が発生しやすくなります。
【診断】
最終的にはレントゲン検査が必要ですが、
家庭でもスクリーニング可能です。
調査票にある立位検査や前屈検査で、
左右非対称であることから発見されることもあります。
(ただし、家庭でのスクリーニングでは約3割が見逃されます)
医師による学校健診でも前屈検査を行います。
判定基準は、
肋骨・腰部隆起の左右差が5mm以下なら正常範囲、
8mm以上なら要精密検査、
と微妙です。そのため、着衣状態では評価が困難です。
自治体によっては、
モアレ法やシルエッター法が用いられることがあります(群馬県では未導入)。
【健診で側湾症を指摘されたら】
「要精密検査」と指摘されたら、
整形外科を受診して専門医による診療が始まります。
治療はわん曲程度により異なり、
定期的な経過観察、コルセット療法、手術から選択されます。
軽い例は経過観察を指示されますが、
成長が止まるまでは進行する可能性があるため、
途中で通院をやめないで指示に従ってください。
★ 学校健診・内科診察では脱衣が基本です。
昨今の学校健診の内科診察では、
「思春期の子どもたちの脱衣診察はやりすぎではないか?」
と健診の目的を理解されない声が強く、
着衣のまま診察を受ける学校が多いようです。
上記を読んでおわかりのように、
服の上からでは微妙な左右差が判定できません。
そのため思春期側弯症を早期発見できず、
進行してから発見されて手術に至り、
後悔する患者さんを見聞きしています。
思春期なので恥ずかしい気持ちはわかりますが、
健診の目的をご理解いただき、
内科診察の基本である脱衣をお勧めします。
学校健診は、
“症状がまだ出ない時期に病気を早期発見する”
目的で行うスクリーニングです。
ですから、
“私は健康で気になる症状もないから健診は必要ない”
という考えは誤りです。
私が行っているふだんの診療は、症状がある場所を中心に診察します。
しかし健診は、
“症状がないのに病気の予兆を拾い上げるミッション”
のため、私はこちらの方が気を遣います。
内科診察では、主に以下のことを評価します;
① 心臓と肺の異常の有無:
聴診器を胸に当てて心音・肺胞音を確認します。
心音を評価するためには、
心電図と同じように胸の中央から左胸にかけて数カ所の聴診が必要です。
心電図は心臓の動きを電気信号として記録する器械ですが、
聴診は心臓の微弱な音を聴いて問題の有無を判断するデリケートな作業です。
ですから、肌の上から直接聴診します。
② 胸郭異常の有無:
胸の形を観察して、
胸部中央の盛り上がり(鳩胸)や凹み(漏斗胸)を観察します。
③ 脊柱側弯の有無:
肩甲骨の高さの左右差、
前屈み時の胸・腰の盛り上がりの左右差を観察します。
この“左右差”は「cm単位」ではなく、
「mm単位」と微妙な差です。
④ 皮膚の異常の有無
いかがでしょうか。
医師に課せられたミッションをクリアするためには、
ふつうの診察以上に情報を集めることが求められます。
服を着ていると情報不足になり、
小さな異常の見落としの可能性が高くなることがわかると思います。
医師は透視能力があるわけではありません。
着衣診察を別のシチュエーションに例えるなら、
テーブルの上に置いた花瓶に布をかけ、
それを観察して中の花瓶の形を正確に言い当てなさい、
と言われているのと同じこと。
思春期なので恥ずかしい気持ちはわかりますが、
まずは健診の目的をご理解いただき、
精度の高い健診(過剰診断と見落としの少ないスクリーニング)になるよう、
ご協力をお願いします。
以上、医師の立場として書かせていただきました。
ただし、検診時の上半身脱衣は強制されるものではありません。
健診の目的を理解した上でも、
事情により着衣での内科診察を希望・選択できますので、
担当者に相談してください。
その際は病気を早期発見する機会を失う可能性があることを、
予めご了承ください。
さらに学校健診は、病気が疑われる例を専門医につなぐことが目的です。
「要精密検査」という書類をもらっても受診しなければ、
病気の発見が遅れるだけでなく各担当者の努力が無駄になります。
書類をもらったら必ず受診してくださるようお願い致します。
着衣健診で見落とされる可能性のある病気の一つに、
「脊柱側弯症」があります。
軽度の段階で発見されれば装具で済んだかもしれないのに、
進行してから発見されたために手術が必要になった、
という例を見聞きします。
気になる方は、下の脊柱側弯症(思春期側弯症)をお読みください。
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<参考サイト>
▢ 児童生徒等の健康診断マニュアル 映像解説版(日本学校保健会)