夜尿症の薬物療法とはデスモプレシン(ミニリンメルト®)を指します。
これは抗利尿ホルモンといって、尿を濃縮させて量を少なくする働きがあります。
誰の体にも存在するホルモン(バゾプレシンあるいはバゾプレッシン)ですが、夜尿症児は相対的にそれが少ない、効きが悪いと考え、内服薬で補充するのですね。
抗利尿ホルモンであるバゾプレシンが欠乏する尿崩症という病気がありますが、この病気にもデスモプレシンが投与されます。不思議なのは、尿崩症に使用する量より、夜尿症に使用する量の方が多いこと。
夜尿症のすべてがデスモプレシン治療の対象になるわけではありません。
尿量を少なくする薬ですから、尿量が多いタイプ(多尿型、小児夜尿症の2/3はこのタイプ)に適応になり、有効率は60〜70%です。
一方、尿量は普通だけと膀胱が小さいために朝までに溢れて夜尿になるタイプ(膀胱型)もあります。
このタイプにデスモプレシンを投与しても、残念ながら効果はあまり期待できません。もともと多尿ではないので尿量減少効果が少ないですから。
膀胱型に有効な治療はアラーム療法で、有効率は70%程度。
こちらにまとめましたので興味のある方はお読みください。
多尿型と膀胱型、両方の要素があるタイプを混合型と呼び、予想される通り難治性です。このタイプにはデスモプレシンとアラームの療法を併用します。
また、有効性は低いものの、抗コリン薬や三環系抗うつ薬を併用することがあります。
今から30年前はこの二つの薬剤が夜尿症治療の中心でした。喘息などの病気と比べて、治療の手応えがなく、患者さんも通院に疲れてドロップアウトすることが多かったですね。
以上が一般論ですが、専門家による「難治性夜尿症」の記事が目に留まりましたので、備忘録としてポイントを引用させていただきます。
ポイントとして、
・多尿型と膀胱型を分けていない。
・国際ガイドラインでは薬物療法とアラーム療法を並列推奨されているが、著者はミニリンメルト®や抗コリン薬などの薬物療法を中心に、アラーム療法を補助として考えている様子。
・漢方(抑肝散)の効果に言及している。
などが挙げられます。
欧米では「とりあえず薬を試してみましょう」とミニリンメルトが処方されると耳にしたことがあります。日本のように、多尿型と膀胱型を分けて考えるという、繊細な作業はスルーしている様子。
さらに近年、難治性夜尿症例に神経発達症の合併が多いことが明らかになってきました。漢方の抑肝散は、私がふだんからかんしゃくの相談を受けると処方している方剤の一つです。ようやくこちらの面にも光が当てられてきた、という印象ですね。
神経発達症の漢方に興味のある方は、こちらをご参照ください。
▶ 排尿機能の発達
・3歳頃までに反射性排尿を抑制する脳の高位中枢が発達するため、誘導すれば排尿が可能になり、それ以前にみられていた反射的排尿が消失し、昼間の遺尿がみられなくなる。
・4歳頃には次第に夜間の不随意排尿も解消し、自律排尿が完成していく。
・5歳を過ぎても月に数回以上、夜間睡眠中に尿を漏らす例を「夜尿症」と定義している。
・日本における夜尿症の頻度は、5〜15歳では約6.4%(約80万人)である。
▶ 夜尿症の分類法は2つ
1.一次性(95%)と二次性(5%)
①一次性:生まれてからずっと夜尿が消えない
②二次性:夜尿が一旦、6ヶ月以上解消していたものが再燃
→ 尿路感染症、便秘症、脊髄疾患(脊髄炎、腫瘍など)を要チェック
2.単一症候性(60〜90%)と非単一症候性(10〜40%)
①夜尿のみ
②夜尿+昼間遺尿
→ 慢性便秘症、泌尿器科的疾患(尿路奇形、反復性尿路感染症など)、代謝・内分泌疾患(糖尿病、尿崩症など)、脊髄疾患(潜在性二分脊椎など)、神経発達症(ADHD児など)などの基礎疾患を有している可能性がある
★ 国際標準のチェック項目:ICCS,International
①昼間遺尿:3歳半以降も続く昼間遺尿の有無
②1日の排尿回数:3回以下、あるいは、8回以上は異常
③切迫性排尿の有無
④排尿をこらえている姿勢の有無
⑤下腹部を圧迫しての排尿の有無
⑥尿線を強く描けるか
⑦便秘の有無
⑧神経発達症(ADHD、ASD)合併の有無
⑨学習障害や発達障害の合併の有無
▶ 難治性夜尿症の治療
1.生活指導の徹底
・適切な水分摂取法:飲水の約2時間後に尿が生成されるので、夕食は就寝2時間前に済ませ、それ以降の飲水は極力控える(10mL/kg未満)
・塩分過剰摂取を控える
・就寝前に必ず排尿する習慣をつける
2.ミニリンメルト®(抗利尿ホルモン製剤、DDAVP)の適応
・多尿型
・60〜70%有効
・国際基準ICCSの推奨治療では第一選択薬
・120μgで開始し、効果不十分の場合は240μgへ増量する。
・OD錠は、従来のスプレー剤と比べて効果発現までのタイムラグを考慮し、就寝直前内服ではなく、就寝30分前に内服する。
・OD錠は、錠剤を口腔内で崩壊させ、口腔粘膜から吸収させることが重要である。口腔内で崩壊させずに嚥下したり、服用時に飲水すると十分な効果が得られない。内服前に歯みがきを済ませ、内服後は飲水を控え、口をゆすぐことを避けるなども重要である。
3.抗コリン薬(副交感神経遮断薬)
・上記DDAVPで効果不十分であった場合、機能的膀胱容量増加を目的として使用する。
・従来のオキシブチニン塩酸塩(ポラキス®)やプロピベリン塩酸塩(バップフォー®)に変わり、新しい世代のイミダフェナシン(ウトリス®、ステーブラ®)やコハク酸ソリフェナシン(ベシケア®)のそれぞれOD錠が汎用されている。
・昼間遺尿や過活動膀胱の症状を合併する児では、ウトリスかステーブラ2錠(0.2mg)を2回に分けて使用、体重35kgを超える児では、効果が不十分な場合は倍量まで増量する。
・夜尿のみで昼間遺尿を認めない児では、ベシケア2.5mgを就寝前に使用し、効果が不十分な場合は5mgに増量する。
4.アラーム療法
・薬物療法と並列した治療のオプション
・有効率:65〜70%、中止後の再発率:30〜60%
・作用機序:覚醒排尿を促すのではなく、膀胱の排尿抑制力を高め、膀胱容量を増加させることにある(詳細不明)。
・アラーム療法を成功させるためには、本人の努力のみならず家族の協力が極めて重要である。
・患児が家族と一緒に就寝し、アラームが作動した際、自力で起きることができなければ、親が起こす。
・開始2週間後に(主治医が)電話を入れるなどして治療継続の応援と技術的な問題を解決する。
・6〜8週間継続しても効果が得られなければ、一時中断する。
・(著者は)10歳以上の患児に対して薬物治療の補助療法としてアラーム療法を導入する。
5.睡眠問題への介入
・近年、夜尿症間寺における終夜脳波の検討から、多くが「浅くてクオリティーの低い睡眠が遷延している」ことが明らかになった。
・治療の一助として睡眠の改善が注目されてきており、欧米ではメラトニンの仕様の検討が行われている。
6.漢方による治療
・(著者ら)抑肝散を用いて良好な結果を得ている。使用量は、体重40kg未満に2.5g(夕食後)、体重40kg以上に2.5gで効果が乏しい場合は5gへ増量。
・抑肝散(54)は、漢方でいう「肝」の高ぶりを押さえ、興奮やイライラ、筋肉の緊張などを鎮める方剤であり、もともと小児の夜なき、疳の虫に使用されてきた。
<参考>
・小児の難治性夜尿症への対応
大友義之、順天堂大学小児科(日本医事新報社、最終更新日は2025.9.20)


