小児夜尿症の治療薬と言えばイコール「三環系抗うつ薬」でした。
夜尿になぜうつ病の薬?と素朴な疑問を抱きましたが、
他に選択枝がなかったので処方していました。
その後、膀胱型に過活動性膀胱に使われる抗コリン薬が応用されるようになりましたが、
効果は今ひとつで、保険適応もないため今ひとつ普及しないで現在に至ります。
2000年代以降、抗利尿ホルモン系のデスモプレシン(ミニリンメルト®)が登場し、
これが「第一選択薬」と位置づけられるようになり、
抗コリン薬と三環系抗うつ薬は「第二・第三選択薬」に格下げされています。
夜尿症ガイドラインでは 、
「デスモプレシンとアラーム療法を併用しても無効の場合は使用を考慮する」
と書かれています。
では、各薬剤の特徴と使用法、注意点をまとめておきます。
▢ 抗コリン薬
▶ 昔は「膀胱型」に使用、現在は?
・私が医師になった頃(30年以上前)は、膀胱容量が少ない「膀胱型」に使用されていた。私の使用経験では有効性は低い印象。
・現在は過活動性膀胱をはじめとするLUTS(下部尿路症状)を伴う非単一症候性夜尿症の昼間の症状の改善目的に使用される。
▶ 抗コリン薬の作用機序
・膀胱平滑筋はムスカリン性アセチルコリン受容体のサブタイプ(M1〜M5)の一つであるM3受容体を介してアセチルコリンが結合することで収縮する。つまり、副交感神経優位な状況下では、アセチルコリンを介して排尿を促す。抗コリン薬はこのM3受容体を遮断することで、結果的に膀胱収縮を抑制し蓄尿機能を高める。
▶ 抗コリン薬の種類
以下のすべて、日本では小児夜尿症に対する保険適応がない(成人の過活動性膀胱のみ適応)。
・オキシブチリン(ポラキス®)2〜3mg、1日3回
・オキシブチリン(ネオキシ®テープ)1枚(73.5mg)
1日1回下腹部、腰部または大腿部のいずれかに貼付
・プロピベリン(バップフォー®)20mg、1日1回(最大2回まで)
・トルテロジン(デトルシトール®)4mg、1日1回
・ソリフェナシン(ベシケア®)5mg、1日1回
・フェソテロジン(トビエース®)4mg、1日1回
・イミダフェナシン(ステーブラ®、ウリトス®)0.1mg、1日2回
★ 国際小児尿禁制学会(ICCS)で夜尿症に提案されている抗コリン薬;
① オキシブチリン2.5mg
② トルテロジン2mg
③ フェソテロジン4mg
④ ソリフェナシン5mg
以上のいずれかを終診1時間前に1回投与。
無効の場合は2倍量に増量可能。
▶ 抗コリン薬の副作用
・ムスカリン受容体の発現部位
M1:シナプス前膜と中枢神経
M2:膀胱平滑筋、心臓、上部消化管
M3:膀胱平滑筋、下部消化管、虹彩、唾液腺
・経口投与による全身性副作用:口腔内乾燥、紅潮、頻脈、集中力の低下、便秘、霧視
・(ICCS)最も問題となる副作用は便秘と残尿増加である。
→ 残尿増加は尿路感染症(膀胱炎)のリスクになる。
▶ 適応となる小児夜尿症
・過活動性膀胱症状がある非単一症候性夜尿症の昼間の症状改善を目的にする。
・単一症候性夜尿症への抗コリン薬単独使用の有効性は証明されていない。
(処方例)
1)ベシケア®OD錠(2.5mgまたは5mg)1回1錠、夕食後
2)ネオキシ®テープ(73.5mg)1回1枚、24時間毎に貼付
注)上記2剤とも、夜尿症に保険適応なし、小児薬用量の設定なし
夜尿症専門医の診療:投与開始2週間後に副作用チェック、4週間後に有効性確認
▢ 三環系抗うつ薬
▶ 薬理学的機序
完全には明らかになっていない。抗うつ作用の他に以下が報告されている;
✓ 抗コリン作用
✓ 睡眠リズムの調節(レム睡眠の抑制)
✓ ノルアドレナリン系の神経伝達物質の取り込み阻害
✓ 抗利尿ホルモンの分泌刺激作用
・・・以上の作用が複合的に夜尿症に有効性を示していると想定される。
▶ 三環系抗うつ薬は3種類;
・クロミプラミン(アナフラニール®)
・イミプラミン(トフラニール®)
・アミトリプチリン(トリプタノール®)
・・・この中で、夜尿症に対する有効性評価はイミプラミンが多い。欧米では安全性と副作用の観点からイミプラミンのみが推奨されている。
▶ 三環系抗うつ薬の効果と再発率
・有効性:30〜50%
・再発率:63〜96%(イミプラミン)
・・・著効例や寛解率は他の治療(デスモプレシン、アラーム療法)より劣る。
▶ 三環系抗うつ薬の夜尿症に対する用法・用量
・添付文書によると、3剤いすれも以下の設定;
25〜50mgを1日1〜2回に分けて服用
(処方例)
トフラニール(10mg)1回1錠、就寝前
⇩ 2週間後も効果不十分な場合
(体重<25kg)20mgに増量
(体重 ≧ 25kg)25mgまたは30mgへ増量
✓ 治療開始後3ヶ月時点でまったく効果がない場合は漸減中止
✓ 効果を認めた場合は、効果を維持できる最少量まで2週間毎に減量
✓ 耐性化リスクを減らすため、drug holiday(3ヶ月毎に少なくとも2週間の休薬)を設定する。
▶ 三環系抗うつ薬の副作用
(約5%)起立性低血圧、口渇、便秘、発汗、頻脈、悪心、倦怠感、不眠
→ これらは休薬により速やかに消失する
・心毒性(刺激伝導障害、心筋機能障害)
→ 死亡例報告もある。患者本人、近親者に心疾患を疑わせるエピドード(失神、突然死など)や不整脈(QT延長症候群)がある場合は、小児循環器専門医に要相談。
<参考書籍・WEBサイト>
(一般向け)
▢ バイバイ、おねしょ!(冨部志保子著、朝日新聞出版、2015年発行)
▢ おねしょ、おもらし サヨナラガイド(羽田敦子著、かんき出版、2021年発行)
▢ おねしょ卒業!プロジェクト(フェリング・ファーマ株式会社)
「おねしょ卒業!サポートムービー」
(医療者向け)
▢ 夜尿症診療リアルソッド(西崎直人著、中外医学社、2022年発行)
▢ 夜尿症診療ガイドライン2021(日本夜尿症学会)