カテゴリ: 夜尿症

私が小児科医になった30数年前は、
小児夜尿症の治療薬と言えばイコール「三環系抗うつ薬」でした。 
夜尿になぜうつ病の薬?と素朴な疑問を抱きましたが、
他に選択枝がなかったので処方していました。

その後、膀胱型に過活動性膀胱に使われる抗コリン薬が応用されるようになりましたが、
効果は今ひとつで、保険適応もないため今ひとつ普及しないで現在に至ります。

2000年代以降、抗利尿ホルモン系のデスモプレシン(ミニリンメルト®)が登場し、
これが「第一選択薬」と位置づけられるようになり、
抗コリン薬と三環系抗うつ薬は「第二・第三選択薬」に格下げされています。

夜尿症ガイドラインでは 、
デスモプレシンとアラーム療法を併用しても無効の場合は使用を考慮する
と書かれています。
では、各薬剤の特徴と使用法、注意点をまとめておきます。

▢ 抗コリン薬

▶ 昔は「膀胱型」に使用、現在は?
・私が医師になった頃(30年以上前)は、膀胱容量が少ない「膀胱型」に使用されていた。私の使用経験では有効性は低い印象。
・現在は過活動性膀胱をはじめとするLUTS(下部尿路症状)を伴う非単一症候性夜尿症の昼間の症状の改善目的に使用される。

▶ 抗コリン薬の作用機序
・膀胱平滑筋はムスカリン性アセチルコリン受容体のサブタイプ(M1〜M5)の一つであるM3受容体を介してアセチルコリンが結合することで収縮する。つまり、副交感神経優位な状況下では、アセチルコリンを介して排尿を促す。抗コリン薬はこのM3受容体を遮断することで、結果的に膀胱収縮を抑制し蓄尿機能を高める。

▶ 抗コリン薬の種類
以下のすべて、日本では小児夜尿症に対する保険適応がない(成人の過活動性膀胱のみ適応)。
・オキシブチリン(ポラキス®)2〜3mg、1日3回
・オキシブチリン(ネオキシ®テープ)1枚(73.5mg)
  1日1回下腹部、腰部または大腿部のいずれかに貼付
・プロピベリン(バップフォー®)20mg、1日1回(最大2回まで)
・トルテロジン(デトルシトール®)4mg、1日1回
・ソリフェナシン(ベシケア®)5mg、1日1回
・フェソテロジン(トビエース®)4mg、1日1回
・イミダフェナシン(ステーブラ®、ウリトス®)0.1mg、1日2回

★ 国際小児尿禁制学会(ICCS)で夜尿症に提案されている抗コリン薬;
① オキシブチリン2.5mg
② トルテロジン2mg
③ フェソテロジン4mg
④ ソリフェナシン5mg
以上のいずれかを終診1時間前に1回投与。
無効の場合は2倍量に増量可能。

▶ 抗コリン薬の副作用
・ムスカリン受容体の発現部位
 M1:シナプス前膜と中枢神経
 M2:膀胱平滑筋、心臓、上部消化管
 M3:膀胱平滑筋、下部消化管、虹彩、唾液腺
・経口投与による全身性副作用:口腔内乾燥、紅潮、頻脈、集中力の低下、便秘、霧視
・(ICCS)最も問題となる副作用は便秘と残尿増加である。
 → 残尿増加は尿路感染症(膀胱炎)のリスクになる。

▶ 適応となる小児夜尿症
・過活動性膀胱症状がある非単一症候性夜尿症の昼間の症状改善を目的にする。
・単一症候性夜尿症への抗コリン薬単独使用の有効性は証明されていない。

(処方例)
1)ベシケア®OD錠(2.5mgまたは5mg)1回1錠、夕食後
2)ネオキシ®テープ(73.5mg)1回1枚、24時間毎に貼付
注)上記2剤とも、夜尿症に保険適応なし、小児薬用量の設定なし
夜尿症専門医の診療:投与開始2週間後に副作用チェック、4週間後に有効性確認


▢ 三環系抗うつ薬

▶ 薬理学的機序
 完全には明らかになっていない。抗うつ作用の他に以下が報告されている;
 ✓ 抗コリン作用
 ✓ 睡眠リズムの調節(レム睡眠の抑制)
 ✓ ノルアドレナリン系の神経伝達物質の取り込み阻害
 ✓ 抗利尿ホルモンの分泌刺激作用
・・・以上の作用が複合的に夜尿症に有効性を示していると想定される。

▶ 三環系抗うつ薬は3種類
・クロミプラミン(アナフラニール®)
・イミプラミン(トフラニール®)
・アミトリプチリン(トリプタノール®)
・・・この中で、夜尿症に対する有効性評価はイミプラミンが多い。欧米では安全性と副作用の観点からイミプラミンのみが推奨されている。

▶ 三環系抗うつ薬の効果と再発率
・有効性:30〜50%
・再発率:63〜96%(イミプラミン)
・・・著効例や寛解率は他の治療(デスモプレシン、アラーム療法)より劣る。


▶ 三環系抗うつ薬の夜尿症に対する用法・用量
・添付文書によると、3剤いすれも以下の設定;
 25〜50mgを1日1〜2回に分けて服用

(処方例)
トフラニール(10mg)1回1錠、就寝前
 ⇩ 2週間後も効果不十分な場合
(体重<25kg)20mgに増量
(体重 ≧ 25kg)25mgまたは30mgへ増量
✓ 治療開始後3ヶ月時点でまったく効果がない場合は漸減中止
✓ 効果を認めた場合は、効果を維持できる最少量まで2週間毎に減量
✓ 耐性化リスクを減らすため、drug holiday(3ヶ月毎に少なくとも2週間の休薬)を設定する。

▶ 三環系抗うつ薬の副作用
(約5%)起立性低血圧、口渇、便秘、発汗、頻脈、悪心、倦怠感、不眠
 → これらは休薬により速やかに消失する
・心毒性(刺激伝導障害、心筋機能障害)
 → 死亡例報告もある。患者本人、近親者に心疾患を疑わせるエピドード(失神、突然死など)や不整脈(QT延長症候群)がある場合は、小児循環器専門医に要相談。


<参考書籍・WEBサイト>

(一般向け)
▢ バイバイ、おねしょ!(冨部志保子著、朝日新聞出版、2015年発行)
▢ おねしょ、おもらし サヨナラガイド(羽田敦子著、かんき出版、2021年発行)
▢ おねしょ卒業!プロジェクト(フェリング・ファーマ株式会社)  
 「おねしょ卒業!サポートムービー」 


(医療者向け)
▢ 夜尿症診療リアルソッド(西崎直人著、中外医学社、2022年発行)
▢ 夜尿症診療ガイドライン2021(日本夜尿症学会) 

夜尿症の治療を考えるタイミングは、
小学1年生になっても毎晩ある状態」です。
昼間のおもらしもあるお子さんの場合は、
「小学校入学前」にご相談ください。

治療法がある程度決まったら、
来院しなくても済む「オンライン診療」も可能です。

夜尿症で悩んでいるお子さん、ご家族の方へ向けて、
ふだんの診療で説明していることをまとめました。

▢ 夜尿症のお話
 夜尿症とは?
 いつ頃から治療を考えるべき?
 どんな治療をするの?
 夜尿症は治るの?
 ・・・等についてお答えしました。どうぞ参考にしてください。

おねしょ対策(日常生活・宿泊行事
 ふだんの生活の中での工夫を説明しました。

夜尿症の生活改善
 薬やアラームを使用する前にできること・すべきことがあります。
 これだけで治ってしまうことも。

夜尿症治療薬デスモプレシン(ミニリンメルト®
 オシッコを濃くして尿量を減らす薬です。

夜尿症のアラーム療法
 パンツにセンサーをつけて夜尿を本人に知らせることにより、
 夜尿が減る治療法です。 

夜尿症に対する抗コリン薬・三環系抗うつ薬
 デスモプレシンとアラーム療法の併用でも治療効果が得られない場合、
 これらの薬を併用することがあります。 

ここでご紹介するのは一部の商品です。
おねしょ対策用品は日々新しいものが開発・発売されていますので、
ネットで最新情報を検索してみてください。

【おねしょ対策用品】

▶ オムツ
こども用オムツの大きいタイプ;
グーン スーパー BIG パンツ(大王製紙) 
・ムーニースーパーBIG(男の子用)(女の子用)(ユニチャーム)
大人用よりひと回り小さいタイプ;
簡単テープ止めタイプSSサイズ(リフレ)
ライフリー リハビリパンツSサイズ(ユニチャーム)

▶ パンツ
「おねしょ パンツ」とネット検索するとたくさんヒットします。
消臭素材、吸収素材、防水素材などがチェックポイントです。
例)
おねしょ対策パンツ
おねしょパンツ

▶ 尿パッド
ライフリーさわやか安心パッド男性用(ユニチャーム)
ボイズ肌ケアパッド超スリム女性用(日本製紙クレシア)

▶ パジャマ
「おねしょ対策 ズボン」で検索するとたくさんヒットします。
おねしょガード付き(ウエストから膝くらいまで防水加工をした裏布が縫い付けられている)パジャマ・ズボンが販売されています。
例)
おねしょ対策ズボン
おねしょガードズボン

▶ シーツ
「おねしょシーツ」とネット検索するとたくさんヒットします。
防水タイプ・非防水タイプ?
洗濯可能・不可能 ?
など、確認して購入しましょう。

【寝具の工夫・管理】

▶ 防水シーツ・紙製使い捨てパッドの使用
敷き布団の上に介護用の防水シーツをかぶせるのが一般的です。
防水シーツには吸水性がないので、その上にバスタオルを敷いて、さらにふつうのシーツで全体を包んでおくと、防水シーツがずれにくく、バスタオルやシーツは自宅で洗濯できるので負担が軽減できます。
防水シーツだけでなく、敷き布団の上に敷く紙製の使い捨てパッドもさまざまなサイズのものが販売されています。

▶ ふとんの洗い方・乾かし方
1.おねしょの部分に40℃くらいのぬるま湯を2〜3回、ニオイが消えるまでゆっくりかける。この時、熱湯はNG(オシッコの蛋白成分が固まってしまう)。その後、タオルでたたいて水分を取る。
2.おねしょをしてから間もないときは、重曹を振りかけて尿を吸い取る。完全に吸い取ったら重曹を払い、ビネガースプレー(※1)を吹き付け乾いたタオルでたたくようにして水分を取る。
3.スプレーボトルに入れたクエン酸水(※2)をおねしょで濡れたふとんにスプレーし、オシッコのアルカリ性を中和させた後、乾いたタオルでたたくようにして水分を取る。
4.市販のオムツをおねしょで濡れたふとんに当て、その上で足踏みをする。オムツにオシッコが素早く吸収される。その後1を実施し、またオムツを当てて足踏みを繰り返すと手早く水分が吸収できる。
5.天気のよい日は天日干し(午前10時〜午後2時頃まで)、仕事で取り込むのがムリな場合は室内の日当たりのよいところに干す。シーズンの変わり目にはふとん専門クリーニング店でふとんの丸洗いをすればベター。

※1)ビネガースプレー:スプレーボトルにホワイトビネガー(食用酢)と水を1:4の割合で入れればできあがり。
※ 2)クエン酸水:ドラッグ・ストアで売っているクエン酸粉末を小さじ2杯+水400mLをスプレーボトルの中で溶かせばできあがり。

<参考>
おねしょのおふとんの対処法(城山ふとん店)

【宿泊行事対策】
直前ギリギリになってから医療機関を受診してもできることは限られてしまい、
不十分な対応にならざるを得ません。
イベントの3ヶ月以上前に相談されることをオススメします。

▶ 宿泊行事が差し迫っている場合
行事当日までできる範囲で生活改善(※)からはじめます。
治療は行事当日の6週間前から始めるのが望ましいです。

・生活改善;
✓ 夕食時の水分制限(200ml:コップ1杯まで)。
・行事参加時の対策;
✓ 濡れやシミが目立ちにくい濃い色(黒や紺色)のパジャマを持参させる。夏も同様。
✓ 心配であればおねしょ対策パンツズボン(おねしょガード付き)を用意する。併用も可。
✓ パンツに尿失禁用パッドをつけ、さらにもう一枚パンツを重ねるなどの工夫をする。
✓ 夕食時と夕食後の水分摂取量を制限する(200ml:コップ1杯まで)。
✓ 就寝前に排尿させる。
✓ 担任の先生に、夜中12時過ぎに友だちに気づかれないように起こしてもらい、トイレへ行く。
✓ 朝、担任の先生が早めに様子を見に行き、失敗していたら目立たないように着替えや濡れたシーツの始末をしてもらう。

▶ 宿泊行事までに時間がある場合
医療機関を受診して生活改善や薬物療法をはじめ、
治るまで治療を続けます。
・生活改善を始める。
・1〜2ヶ月しても改善が見られない場合は薬物療法をはじめる。
・宿泊行事への参加に向けた具体的な対策を担任の先生と相談する(前述)。
・効果のある薬剤と使用量を確認し、服用方法をこどもと一緒に確認した上で持参させる。
・ふだんアラームを使用している場合は、この時だけ薬に替えるなど主治医と相談する。


※ 「夜尿症の生活改善のポイント」(当院ブログ)


【Q&A】

Q.オムツは使った方がいい?使わない方がいい?
A.夜尿があるうちは、オムツを無理矢理外す必要はありません。夜尿が治ってくると、子どもは自分からオムツを脱ぎ捨てます。

Q.宿泊行事が夏の場合と冬の場合で気をつけるポイントは異なりますか?
A.夏は熱中症対策として日中は水分制限はせず、夕食から水分制限を始めましょう。
冬は冷え対策として暖かい衣服を持たせ、こどもの寝相を想定した寝間着類を用意しましょう。
(例)厚手の下着や重ね着、靴下、腹巻き、ハイネック、ダウンベストなど
 
Q.学校主催以外の宿泊行事の場合、担任の先生がいないので無理でしょうか?
A.付き添いの大人が夜尿症について相談・管理ができるかどうかが重要な点です。
相談しにくい場合は、保護者自身がボランティアとして参加し、担任の先生と同じように対応する方法があります。 

【家族の方へ】 

夜尿は子ども本人が望んでしていることではありません。
たるんでいるからでも、甘えているからでもありません。
保護者にとっては「困ったこと」「困った子」かもしれませんが、
一番困っているのは子ども本人です。

家族の方に実践していただきたいことが5つあります。
お子さんの夜尿に対して、
1.怒らない
2.起こさない
3.あせらない
4.ほめる
5.比べない

1〜3は古くから言われてきたことで、ご存知かと思います。
4 → 治療に関して約束が守れたり、夜尿がなかったりしたら、その時にほめてあげてください。 
5 → 兄弟や同世代の他の子と比べることは、子どもにとってとてもつらいこと。 

夜尿克服に大切なのは、親子が一緒に取り組む雰囲気です。
子どもの自主性を尊重しつつ、サポートしてあげてください。 


<参考書籍・WEBサイト>
以下の書籍、サイトを参考にしました。
(一般向け)
▢ バイバイ、おねしょ!(冨部志保子著、朝日新聞出版、2015年発行)
▢ おねしょ、おもらし サヨナラガイド(羽田敦子著、かんき出版、2021年発行)
▢ おねしょ卒業!プロジェクト(フェリング・ファーマ株式会社)  
(医療者向け)
▢ 夜尿症診療リアルソッド(西崎直人著、中外医学社、2022年発行)
▢ 夜尿症診療ガイドライン2021(日本夜尿症学会)

夜尿症の治療は薬物療法とアラーム療法が代表的ですが、
その前に生活指導・生活改善を行うことが前提であり必須です。
これらを守っていただかないと、治療効果が期待できません。

▶ 生活改善のポイント
1.規則正しい生活をする
2.水分の取り方に気をつける
3.塩分を控える
4.便秘に気をつける
5.寝る前にトイレへ行く
6.寝ている時の寒さ(冷え)から守る
7.夜中、無理にトイレに起こさない

以上は治療が終了するまで継続していただきます。
各項目を説明します。

1.規則正しい生活をする
・夜更かし(※1)や不規則な生活は夜尿症を悪化させます。
・早寝・早起き、決まった時間の食事を心がけましょう。
・朝食と昼食はしっかり食べましょう。
・夕食は少し控えめにして早めに食べましょう。
・夕食は大皿ではなく取り分けて出しましょう。
・夕食後から寝るまでは、2〜3時間(※2)空けましょう。
※1)夜間のオシッコ量を減らす抗利尿ホルモンは夜11時頃の深い睡眠中に多く分泌されます。寝る時間が遅いと分泌量が減ります。就学前後の子どもに必要な睡眠時間は11時間とされています。
※2)摂取した水分は3時間で約80%が尿になりますので、そこまで待って排尿して膀胱を空にすると夜尿が減ります。よって、夕食終了後から寝るまでに3時間あけるのが理想ですが、不可能であればせめて2時間あけると効果が期待できます。

★ 子どもが習い事(スポーツクラブ、部活、塾など)に通っている場合;
食事のタイミングや水分摂取量の管理が難しいですね。
夕食を2回に分ける(出かける前に軽い夕食で小腹を満たし、帰宅後に水分を控えて満福にならないように軽く食べる)など、工夫が必要です。

2.水分の取り方に気をつける
・「一日中水分制限」ではありません。夕方までは自由にたっぷりと水分を飲ませて結構です。大切なのは夕方以降、水分を控えることです。
・望ましい一日の水分摂取リズムは以下の通り(※1);
 ✓ 朝起きてから昼食までにコップ2杯の水を飲み、
 ✓ 給食の時も水分をたっぷり摂取し、
 ✓ その後は夕食にかけて飲む量を控えめにし、
 ✓ 夕食後には飲まない。
・寝る前に水分をたくさん取ると夜尿につながります。夕食を含めて就寝まではコップ1杯(200ml)程度までにとどめましょう。
・寝る前にのどが渇いたら冷凍庫のを1〜2コ舐めてのどを潤しましょう(かみ砕いて飲み込まないように)。
・飲み物は、カフェインの多いコーヒー、緑茶、紅茶、コーラ、ココアなどを控え、
 カフェインの入っていない水、麦茶、ルイボスティーなどに替えましょう(※2)。
・果物はほとんど水分なので、夜ではなく朝食べるようにしましょう。

※1)摂取水分量を数字で表すと、夜尿症児の1日の水分量の目安は、
 ✓ 夏は1000mLまで、冬は800mLまで
 ✓ 3回の食事の時にそれぞれ200mLずつ、それ以外では夏は100〜400mL、冬は0〜200mL程度
 ✓ 汗がダラダラ出るような激しい運動をするときは、追加水分補給可(夏は1000mL、冬は500mLまで)・・・一気飲みせずゆっくり飲む
 ✓ 上記目安で水分補給をしても、さらにのどが渇く場合は少し追加OK

※2)飲み物の100mLあたりのカフェイン量
 ✓ コーヒー(ドリップ)   90mg
 ✓ コーヒー(インスタント) 40mg
 ✓ 玉露           120mg
 ✓ 抹茶           30mg
 ✓ 紅茶           20mg
 ✓ 煎茶           20mg
 ✓ ほうじ茶         20mg
 ✓ ウーロン茶        20mg
 ✓ 番茶           20mg
 ✓ 玄米茶          15mg
 ( 麦茶、黒豆茶、杜仲茶、ルイボスティーなどは、0mg)
 ✓ ココア          10mg
 ✓ コーラ            9mg
 ✓ 板チョコ         30mg

3.塩分を控える※1※2
・塩分が多いと喉が渇いて水分をたくさん飲みたくなり、夜尿につながります。
・子どもが好む外食(ハンバーグ、ラーメン、カツ丼など)は塩分を多く含みます。ファミレスのドリンクバーも必要以上に飲み過ぎてしまうのでよくありません。
・味噌汁も塩分をたくさん含むので、薄味にするなど工夫をしましょう。
・夕食で控えた方がよいもの;
 ✓ ふりかけ、梅干し、漬物
 ✓ スープ類(麺類、鍋料理などを含む) → 具を中心に食べてスープは残す。
 ✓ 果実類、ジュース、海藻
 ✓ 牛乳やヨーグルト
 ✓ アイスクリーム
 ✓ 塩分や刺激物の多い食事・調味料(醤油やソース、ドレッシング)
 → 上記をすべて守ると窮屈な食生活になるかもしれませんが、日本人は塩分を摂り過ぎる傾向があるため、家族の健康のためにも塩分を控える生活を心がけましょう。一生続くわけではなく、将来、夜尿症がなくなったら弛められます。

※1)年齢別塩分摂取量(1日)の目安
 ✓ 園児(3〜5歳) 3.5g未満
 ✓ 小学生(低学年〜高学年)
   男子:4.5g未満〜6.0g未満
   女子:4.5g未満〜6.0g未満
 ✓ 中学生以上
   男子:7.5g未満
   女子:6.5g未満

※2)人気メニューに含まれる塩分
 1位:6.6g カップうどん
 2位:5.5g カップラーメン、とんこつラーメン
 3位:4.9g カップ焼きそば
 4位:4.3g ミートスパゲッティ
 5位:4.1g きつねうどん
 6位:3.6g カツ丼
 7位:3.4g ピザ
 8位:1.9g 牛もつ煮込み
 9位:1.7g サンドイッチ
 10位:1.5g ハンバーガー
 それ以外:唐揚げ弁当(1.4g)、梅おにぎり(1.0g)、食パン(0.8g)、フライドポテト(0.7g)

4.便秘に気をつける
・腸に大量の便があると膀胱を圧迫し、夜尿の原因になることがあります。便秘のある方は、まず便秘を治しましょう。便秘の改善により夜尿症患者の半分が治ったという報告もあります。
・食物線維の豊富な食べ物を食べましょう。食物線維には水様性と不溶性に分けられ、便に対する影響が少し異なります;
(不溶性食物線維)腸内の水分を吸収して膨れるためウンチのかさが増えます;
 例)納豆などの豆類、
   野菜類、
   イモ類(サツマイモ、里芋、こんにゃく)、
   トウモロコシなど
(水様性食物線維)腸の中で水に溶けてウンチを柔らかくしてくれるほか、腸内細菌のエサになります;
 例)海藻類(ワカメ、寒天、ところてんなど)、
   キノコ類(しいたけ、しめじ、えのき等)、
   果物類(リンゴ、梨、バナナ、キウイフルーツ、ドライフルーツなど)
・朝起きたらコップ1杯の水を飲み、朝食をしっかり食べましょう。
・登校前にトイレに行く時間を15分程度確保し、排便サイクルを習慣づけましょう。
・洋式トイレではいきみにくいので、幼児の場合、足が踏ん張れるよう踏み台を用意すると良いです。

5.寝る前にトイレへ行く
・トイレに行ってから寝る習慣をつけましょう。
・忘れがちなお子さんには声がけを徹底しましょう。
・排尿が雑(短時間でサッと終わらせてしまう)なお子さんには、寝る前の排尿の際は便座に座って足台を設置して30秒以上は排尿に時間をかけるようにしましょう。
・布団に入り30〜1時間経っても寝付けないときは、もう一度トイレに行きましょう。

★ 適切な排尿姿勢(洋式トイレの場合)
・足台の設置(空き段ボール箱で代用可能)…足をブラブラさせているとお腹に力が入りにくいので。
・足の裏で踏ん張り、背筋を伸ばす
・最低でも30〜60秒間、排尿に時間をかける

昼間のおもらしがあるお子さんへの指導(定時排尿
・尿意を感じる・感じないにかかわらず決まった時間にトイレに行くことを「定時排尿」と呼びます。ある程度決まった時間間隔で排尿する習慣をつけると、おもらしの確率が下げられます。
例)1日7回排尿、睡眠8時間のお子さんでは、日中は約2時間毎の排尿を。
・タイマーの使用、定時排尿トレーニング用腕時計「ウォブル」(※)、学校の休み時間、家族の声がけなど、色々模索してみてください。
・それでも失敗するお子さんは、尿パッドやビッグサイズのオムツなどを利用しましょう。

※ )トイレトレーニング用腕時計(楽天で検索)

6.寝ている時の寒さ(冷え)から守る
・夜尿は夏より冬の方が多いのがふつうです。比較する場合は前の年の同じ季節と比べましょう。
・冷えは尿量の増加や膀胱の縮小につながります。誰でも冷えるとトイレが近くなりますよね。
・対策として、寝る前にお風呂に入って体を温める(ぬるめのお湯にゆっくりつかる)、ふとんをあらかじめ温めておく、など試してみてください。
・冬は下着を重ね、靴下をはき、腹巻き・ボディウォーマーを使い、湯たんぽを利用するなどして、体を冷えから守り、温かくして寝ましょう。ただし、使い捨ての“貼るカイロ“は低温やけどのリスクがあるので使用しないでください。

7.夜中、無理にトイレに起こさない 
・夜中に無理にトイレに起こしても、治療効果はありません。
・ただし宿泊行事の時に、緊急避難的に夜中に起こすことは問題ありません。
 
▶ 家族の方へのお願い
夜尿は子ども本人が望んでしていることではありません。
たるんでいるからでも、甘えているからでもありません。
保護者にとっては「困ったこと」「困った子」かもしれませんが、
一番困っているのは子ども本人です。

家族の方に実践していただきたいことが5つあります。
お子さんの夜尿に対して、
1.怒らない
2.起こさない
3.あせらない
4.ほめる
5.比べない

1〜3は古くから言われてきたことで、ご存知かと思います。
夜尿症児の性格は引っ込み思案、自信を持てない、自己評価が低い・・・とされていますが、
そうならないための大切なことは、周囲の大人が怒らないことです。
4 → 治療に関して約束が守れたり、夜尿がなかったりしたら、その時にほめてあげてください。 
子どもはお父さん・お母さんの笑顔が大好きです。保護者が喜んでくれるとうれしくなり、もっと頑張ろうという気持ちにつながります。
5 → 兄弟や同世代の他の子と比べることは、子どもにとってとてもつらいこと。 

夜尿克服に大切なのは、親子が一緒に取り組む雰囲気です。
子どもの自主性を尊重しつつ、サポートしてあげてください。
 

<参考書籍・WEBサイト>
以下の書籍、サイトを参考にしました。
(一般向け)
▢ バイバイ、おねしょ!(冨部志保子著、朝日新聞出版、2015年発行)
▢ おねしょ、おもらし サヨナラガイド(羽田敦子著、かんき出版、2021年発行)
▢ おねしょ卒業!プロジェクト(フェリング・ファーマ株式会社)  
(医療者向け)
▢ 夜尿症診療リアルソッド(西崎直人著、中外医学社、2022年発行)
夜尿症診療ガイドライン2021(日本夜尿症学会)


<Q&A>

Q.  夜尿を避けるため、夜中にこどもを強制的に起こすのはいけないこと? 
A.  お勧めできません。夜尿が治りにくくなります。
その理由は、
・抗利尿ホルモン分泌低下:ヒトでは睡眠中にバゾプレシン(バゾプレシン、尿を濃くして量を減らす作用)の分泌が増えて、目が覚めると減ります。強制的に起こすと抗利尿ホルモンの分泌が低下し、尿がたくさんつくられてしまいます。 
・ヒトの睡眠の邪魔をすると、体内の電解質(ナトリウムなど)その他の代謝に変化が起こり、夜間多尿傾向になります。
・自律神経(交感神経&副交感神経)バランスが乱れ、夜間多尿傾向になります。
・ふつう、寝ている間に尿をためる経験を重ねることで、膀胱が満たされた刺激が脳に伝わり排尿をガマンするという回路が育ちますが 、膀胱に尿が溜まらないうちに起こすとこの回路の成熟が遅れる可能性があります。
・ただし、アラーム療法の音を介して夜尿をした瞬間に患者さんが起きる・起こすことは別の意味があり、治療効果があるので問題ありません。
 

Q.  夜尿症児にオムツを使用するのはいけないこと?
A.  どちらでもOK。正解はありません。本人の希望と家族の負担を天秤にかけて決めてください。
オムツ使用の是非は、現行ガイドラインでは以下の3つを考えて決めるよう提案されています。
①夜尿症の改善への影響
②夜尿症児の睡眠への影響
③夜尿症児・家族の生活の質(QOL)への影響 
研究報告では、
①オムツ不使用群の方が夜尿がない日が少なかったという報告があるが結論づけは困難。
②オムツ不使用群は睡眠の質が低下し、オムツ使用群は夜尿がない健常児と変わらないという報告があるが結論づけは困難。
③夜尿が多い場合は寝具の洗濯が家族の大きな負担になっているのは事実。
・・・ではパンツチャレンジはいつが適当でしょうか?
 → 幼児期は自然に任せるのがよいですが、小学生高学年では「本人が“夜尿を治したい”と自覚し、パンツを使うことで治療へのモチベーションが上がる(いつもより水分制限を頑張ったり、寝る前にしっかり2回トイレへ行ったり)ことが期待できるタイミング」がよい、という意見があります。

Q.  “ガマン訓練”はした方がよい?
A.  夜尿症児にはお勧めできません。
尿意を感じたとき、わざとトイレへ行かず排尿をガマンする訓練を“ガマン訓練”と呼びます。
日本の現行ガイドラインでは「単一症候性夜尿症に対して、ガマン訓練を行わないことを提案する(推奨グレード2C)」と記載されています。 
研究によると、ガマン訓練により膀胱に貯められる尿量は増えますが、夜尿症自体は減らなかったと報告されています。 
非単一症候性夜尿症(夜尿+昼間のおもらし)では有効とする報告・意見もありますが、日本の現行ガイドラインでは「非単一症候性夜尿症の昼間の下部尿路症状(LUTS)に対して、一律にはガマン訓練を行わないことを推奨する(推奨グレード1C)」と記載されています。
先天性尿路異常(膀胱尿管逆流など)や膀胱機能異常(神経因性膀胱など)がベースにある夜尿症児が無理なガマン訓練を続けると、元の病気が悪化する可能性があります。
 
成人の過活動性膀胱(膀胱が勝手に収縮してしまう) ではガマン訓練を「膀胱訓練」と呼び、過活動性膀胱診療ガイドラインでは「推奨グレードA」と記載され、小児とは異なり“お勧めの治療”に位置づけられています。なお、小児の過活動性膀胱には診療ガイドラインは今のところ存在しません(2024年現在)。

Q.  「ほめるとよい」ことはわかりますが、ご褒美とかペナルティの設定はどうですか?
A.  夜尿がなかったことをほめるのではなく、生活改善のルール(夕食後の水分制限、就寝前のトイレ、定時排尿など)を守れたことをほめましょう。ペナルティの設定は夜尿症改善効果がなく、むしろ治療モチベーションの低下につながるのでやめましょう。
 

デスモプレシンミニリンメルト®)は「多尿型」の夜尿症に使用する薬です。
多尿型とは、夜間につくられるオシッコの量が多いため、
朝までに膀胱からあふれてしまうタイプです。
多尿型は夜尿症全体の2/3を占め、多数派です。

以前は点鼻薬でしたが、2012年に内服薬(舌下で溶かしてから飲み込む)が登場し、
使いやすくなりました。

デスモプレシンの元は人が作り出す「バゾプレシン」というホルモンで、
誰でも持っています。
バゾプレシンは「抗利尿ホルモン」と呼ばれ、
オシッコを濃くして尿量を減らす作用があります。
夜間寝ている間に昼間と同じオシッコの量が作られると朝まで持ちませんから、
夜間に抗利尿ホルモンを分泌して尿量を減らし、朝まで持つようになっているのです。
 
夜尿症児ではそのホルモンが足りないため外から補充して尿量を減らす、という考えです。
なお、デスモプレシンを内服しても、体内ホルモンであるバゾプレシン分泌には影響がないことが報告されています。

ではデスモプレシンの服用方法・注意事項を説明します。

▶ デスモプレシン(ミニリンメルト®)の服用方法
・この薬はちょっと変わった飲み方をします。水と一緒に飲み込んではいけません。舌の下に置いて溶かし、口の粘膜から吸収されるのを待つ薬です。
・この薬は無味無臭です(敏感なお子さんは“にがい”ということがあります)。抵抗のあるお子さんには「魔法のキャンディー」と説明するとよいかもしれません。
水なしで舌の下に入れて溶かしてください。ふわっと溶けて粘膜から吸収されるようになっています。ゴクンと飲み込んでしまうと吸収率が低下します。
・服用するタイミングは就寝30〜60分前かつ夕食2〜3時間後(※)です。
・具体的には、夜、歯を磨いた後にこの薬を口に入れ、水を使わずに口の中で溶かすように飲む方法がオススメです。服用後はうがいも避けてください
・この薬は軟らかいため、取り出すときに欠けたり割れたりすることがありますが、
 それらを集めて全部飲めば効果は変わりません。
・他の薬を飲んでいる人は、他の薬を服用後に、この薬を水なしで服用してください。

※ 少なくとも夕食後1時間あけてから。夕食後服用までの時間が短いほど効果が落ちると報告されています。
 
<注意事項>
・この薬を服用する2〜3時間前から翌朝までの飲水は、コップ1杯程度にしてください。コップ1杯以上の水分を飲んだときは、副作用(水中毒⇩)のリスクがあるため、その日は薬の服用をやめてください。
・どうしても水分を取りたくなったときは、冷蔵庫の製氷機でつくった氷(1コ約15mL)を数個まで舐めてもよいです。
・水分補給が必要となる急性の病気(発熱、胃腸炎など)になった場合は、この薬の服用をやめてください。
・夜、部活動やクラブチームなどのスポーツがある日は、水分補給のコントロールが難しくなるため、この薬の服用をやめてください。そのような日が多い場合は、アラーム療法を検討しましょう。
・デスモプレシン開始1週間後に、副作用チェックとして血液検査を行います。

【水中毒】
・デスモプレシンは抗利尿作用(オシッコの量を減らす)作用があるため、水分をたくさん飲むと体内に水分が溜まりすぎてしまい、低ナトリウム血症を起こすことがあり、これを水中毒と呼びます。
・水中毒の症状は、頭痛や吐き気、嘔吐、体がだるい、などです。このような症状が出た場合は、すぐに主治医や薬剤師に連絡してください。

▶ デスモプレシンの治療効果
<治療効果判定>
(著効)夜尿頻度が100%減少、または1ヶ月で1回未満に減少
(有効)夜尿頻度が50〜99%減少
(無効)夜尿頻度が0〜49%減少
・1ヶ月後に50%、2ヶ月後に70%の夜尿症児に効果があります。
・治癒までにかかる期間は、軽度の夜尿症なら3〜6ヶ月、重度なら数年程度です。アラーム療法より長くなる傾向があります。
 
▶ デスモプレシンの効果不十分なとき
・水分制限・塩分制限の徹底を再確認します。
・他の病気に必要な薬剤もできるだけOD錠(口の中で溶ける、水なしで服用できる薬)へ変更します。
・一度開封して時間が経った薬剤は使用しないでください(湿気の吸着により薬効が下がるため)。
必ず“舌下”で溶かしてください飲み込んではいけません!
・歯みがきを終えてから服用してください。
・服用タイミングの模索・・・個々の患者さんで、就寝30分前〜就寝直前といろいろ試すと多少の効果の差が出ます。 
夕食と就寝時間が近いと効果が落ちます( → 2時間以上間隔をあけてください) 
・薬の投与量を調節:120μgで効果が乏しいときは1〜2週間後に240μgまで増量します。夜尿日数が減らなくても夜尿量(おむつの重さ)が軽くなっていれば効果ありと判断します。 
※ 欧米では240μgが標準量に設定されています。 
・2ヶ月後も効果が乏しい場合はアラーム療法の併用を検討します。

▶ デスモプレシンの減量・中止方法
・効果が得られたら突然やめるのではなく、ゆっくりやめていく方が再発率が少ないとされています。減量は数ヶ月おきに行います。
(例)240μg/日 → 120μg/日 → 120μg/日隔日(※) → OFF
 ※ 4投3休(月曜日〜木曜日は内服し、金曜日〜日曜日は休薬日)でも可


<参考書籍・WEBサイト>
以下の書籍、サイトを参考にしました。
(一般向け)
▢ バイバイ、おねしょ!(冨部志保子著、朝日新聞出版、2015年発行)
▢ おねしょ、おもらし サヨナラガイド(羽田敦子著、かんき出版、2021年発行)
▢ おねしょ卒業!プロジェクト(フェリング・ファーマ株式会社)  
(医療者向け)
▢ 夜尿症診療リアルソッド(西崎直人著、中外医学社、2022年発行)
▢ 夜尿症診療ガイドライン2021(日本夜尿症学会)


★ デスモプレシンの添付文書より;
・適応:6歳以上で尿浸透圧あるいは尿比重が低下している夜尿症(目安としては、夜尿翌朝の起床時尿の平均尿浸透圧 ≦ 800mOsm/Lあるいは平均尿比重 ≦ 1.022) 

小学校に上がる頃になっても夜尿(おねしょ)が続くと心配になりますね。
治療を考えるタイミングはいつ頃がよいのか、どんな治療があるのか、
小児科医が説明します。

▶ おねしょと夜尿症の違い
ご存知の通り、乳幼児期は夜尿が当たり前。
排尿が自立するのは3〜4歳頃であり、
夜尿がほぼ無くなるのは4歳以降です。
6歳未満では夜尿があっても必ずしも病気ではありません。

夜尿は下のグラフのように年齢とともに頻度が減ってきます;

夜尿症罹患率と年齢のコピー

大まかにいうと、
幼稚園年長児  → 15%
小学1〜2年生  → 10%
小学5〜6年生  → 5%

つまり、小学校高学年でも約5%(1クラスに2〜3人)もいるのです。
また、このグラフは、
「小学1〜2年生で夜尿症のあるお子さんの約半分は卒業までに治る」
とも読み取れます。

さて日本には「夜尿症診療ガイドライン」なるものが存在し、
そこに「夜尿症の定義」が記載されています。

夜尿症の定義のコピー

つまり、
「4歳以下のお子さんは病的と考えなくてよい」
「様子観察して5歳以上になったら考えればよい」
ことになります。
 しかし5歳ではすぐに治療が始まることは少なく、
 医師から生活改善の指導や今後の見通しを説明されて理解することからはじまります。

▶ 夜尿が治療対象となるのは何歳? 
一番気になる点ですね。下の表をご覧ください;
夜尿症治療と年齢
 
ちょっと複雑な表ですが「毎晩夜尿がある」場合は、
・6歳未満 → 経過観察
・6〜7歳  → 生活改善
・7〜8歳  → 治療開始
となります。

小学校に上がる前までは生活改善で様子観察し、
「小学校入学後もで毎晩続くようなら医療機関を受診し治療検討」
が現実的と思われます。

▶ 治療が必要ない(医療機関受診が必要ない)のはどんな場合?
前述のように夜尿があればすべて治療対象ではありません。
後述する「生活改善」を守っていただくとおうちで解決することあります。
では「どんな時は様子観察でよいか?」という視点で書くと・・・
✓ 未就学児でおねしょはあるけど、昼間のおもらしはないお子さん。
✓ 小学校低学年(6〜7歳)で夜尿は毎日ではないお子さん。

▶ 自然に治るのに治療は必要?
「自然に減っていくのだから、わざわざ病院へ通院して治療する必要があるの?」
という素朴な疑問が生まれます。
夜尿症の自然治癒率は年間10〜15%程度とされていますが、
適切な診断と治療を受けることで、
1年で約50%、2年で約70%、3年で約80%以上…
と治癒率が数倍高くなり、夜尿症卒業までの期間が短くなることが期待されます。

▶ 夜尿症を治療すべき理由
医学的治療により早く治る傾向があるほかに、以下の理由も考えられます。
・夜尿があると自尊心や自己評価に悪影響が生じる。
・宿泊行事(キャンプや修学旅行など)に対応する必要がある。
・他の病気がないかどうか検査する必要がある。
・神経発達症(ADHDやASD)を発見するきっかけになる。
★ ADHD児の約20%に夜尿症を認めると報告されています。

▶ 昼間のおもらしもあるのですが・・・
なお、“昼間のおもらし“もある場合は、
他の病気がかくれている可能性があるため、
より早い時期(6歳になったら)に相談していただく必要があります。 

★ 昼間のおもらしと新型コロナ
新型コロナが登場した2020年春、全国一斉休校・休園措置が取られました。
この間、上記で悩んでいるお子さんのおもらしが消えたことが観察されています。
家庭で好きなときにトイレに行ける、家族が声がけをする・・・それらが効果的だったようです。
ですから、「行きたいときにトイレへすぐ行ける」環境を整えてあげれば、
昼間のおもらしの大部分が消えてしまう可能性があります。
友人関係のストレスがかくれていることもありますが。

▶ 便秘も関係している?
尿もれのほかに「便もれ」という言葉もあります。
こちらは、頑固な便秘が隠れている証拠です。
肛門の上の直腸に大きくて硬い便がたまっていると、
それが通せんぼして便が出にくくなります。
すると軟らかい便がその脇を通って漏れ出るのです。
直腸に大きな便の塊があると、
その前方にある膀胱を圧迫して尿をためられる量が減り、
夜尿になることがあります。
夜尿症児で便秘がある場合は、まずこちらの治療をして解消しましょう。

▶ 日常生活の工夫
当院ブログ「おねしょ対策(日常生活・宿泊行事)」をごらんください。

▶ 小児科受診後の流れ
小学校入学後も夜尿が続くお子さんが小児科を受診した場合、
どんな診療が展開するのか、説明します。

①くわしい問診
②診察
③尿検査

とシンプルです。
①くわしい問診では、夜尿の頻度と程度、生活状況など、
ふつうの風邪とは異なることをたくさん聞きます。
②診察では、一般的な診察の他、尿の出口や腰仙部の発毛や皮膚の凹みなども確認します。
③尿検査では、簡便な尿検査を院内で行います。

ただし、昼間の尿漏れや再発例、診察で問題がある場合は、
総合病院で追加検査(血液・超音波・画像検査など)が必要になります。

尿検査は来院時に1回と、
そのほかに当院では朝一番の尿を医院に持参していただき、
尿の濃さ(比重と浸透圧)を3回測定しています。
これはどんな治療が最適なのか判断する重要な情報になります。

館林市近隣の夜尿専門医は以下のサイトで検索できます。

群馬県内で夜尿症を相談できる医療機関(おねしょ卒業!プロジェクト)
夜尿症学会会員医師検索サイト(日本夜尿症・尿失禁学会)

▶ 生活改善のポイント
前述の検査結果が揃うまで、生活改善を指導します。
夜尿症児にはすべて当てはまる、生活改善のポイントがあります。
受診すべきか迷っている場合は、
まず家庭で生活改善を1〜2ヶ月間試して効果がなかったら受診する選択もありですね。

以下のことを守っても夜尿症が消えない・減らない場合に治療を考えます。
また、以下のことを守ってもらわないと治療効果が期待できません。
ここではポイントだけ記します(くわしくは当院ブログ「夜尿症の生活改善」を);

1.規則正しい生活をする
・夕食後から寝るまでは、2〜3時間空けましょう。
(摂取した水分は3時間で約80%が尿になります)

2.水分の取り方に気をつける
・夕食を含めて就寝まではコップ1杯(200ml)程度までにとどめましょう。

3.塩分を控える
・塩分が多いと喉が渇いて水分をたくさん飲みたくなり、夜尿につながります。

4.便秘に気をつける
・朝起きたらコップ1杯の水を飲み、朝ご飯をしっかり食べましょう。
・登校前にトイレに行く時間を15分程度確保し、排便サイクルを習慣づけましょう。

5.寝る前にトイレへ行く
・トイレに行ってから寝る習慣をつけましょう。
・布団に入り30〜1時間経っても寝付けないときは、もう一度トイレに行きましょう。

6.寝ている時の寒さ(冷え)から守る
・冬は下着を重ね、靴下をはき、体を冷えから守り、温かくして寝ましょう。

7.夜中、無理にトイレに起こさない 
・夜中に無理にトイレに起こしても、治療効果はありません。

▶ おねしょ日記の活用
日々の様子を記録しておくと、振り返るきっかけとなり、
治療に対するモチベーションを保つことができます。
現在は紙のノートではなく、スマホアプリが利用できます。
例)スマイル!こども日誌」「おねしょカレンダー」「おねしょ日記

▶ 夜尿症治療の実際
生活改善を2週間〜1ヶ月試みても改善ないようなら治療を開始します。
治療に際しては、夜尿症のタイプをあらかじめ知っておく必要があります。
実は夜尿症は3つのタイプがあり、以下のように分類されます;

1.多尿型:夜間作られるオシッコの量が多くて朝までに膀胱からあふれてしまう(60〜70%)。
2.膀胱型:オシッコの量はふつうだけど膀胱が小さいので朝までにあふれてしまう(30〜40%)。 
3.混合型:多尿型と膀胱型の両方が当てはまる。

これらが尿検査で判断できると下記のように治療法につながります。

1.多尿型 → 薬物療法(デスモプレシン)
2.膀胱型 → アラーム療法
3.混合型 → 薬物療法(デスモプレシン)+アラーム療法

以前は上記フローに従って治療を開始しましたが、
近年、どのタイプにどの治療法を選択しても治療成績はあまり変わらないことが報告され、
患者さんの希望を聞いて選択する医師も出てきました。
しかし長年小児科医をしてきた私の経験からは、上記に従って治療法を考える方が、
治療効果を得られやすい印象があります。

薬物療法デスモプレシンミニリンメルト®)という薬を毎晩1回内服する方法です。
開始後1か月で50%、2ヶ月で70%に効果がありますが、
再発率は40〜70%と高いです。
治療期間は、軽症:3〜6ヶ月、重症:数年、が目安です。
別項目でくわしく説明しています(⇩)ので、知りたい方はご覧ください。

▢ 夜尿症治療薬「デスモプレシン」(ミニリンメルト®)について

アラーム療法は下着にアラームのセンサーをつけ、
下着が尿で濡れ始めたらアラームで知らせ、 
本人が起きてトイレに行く習慣をつける方法です。
有効率:60〜70%、再発率:10〜20%、脱落率:10〜40%、
ふつう、1〜2ヶ月で効果が現れ、1ヶ月夜尿がなければ中止します。
治療を2週間〜3ヶ月間試みても改善のない場合は、
生活改善・薬の服用方法・アラームの使用方法を再確認します。
別項目(⇩)で説明していますので、くわしく知りたい方はご覧ください。

夜尿症のアラーム療法について

デスモプレシンとアラーム療法を併用しても改善のない場合は、
他の薬(抗コリン薬や三環系抗うつ薬)を併用することがあります。
当院で処方することは稀ですが、詳しく知りたい方はこちらをお読みください。

▶ デスモプレシンとアラーム療法の比較(メリット・デメリット)
デスモプレシンのメリット
 ✓ 高い有効率(70%
 ✓ 即効性がある
 ✓ 宿泊行事に携帯可能
 ✓ 保険診療内
 ✓ 有効性が高い例を予測可能
デスモプレシンのデメリット
 ✓ 高い再発率(40〜70%
 ✓ 副作用(水中毒)のリスク
 ✓ 治療期間が長い
アラーム療法のメリット
 ✓ 高い有効率(70%
 ✓ 短い治療期間
 ✓ 低い再発率(15%
アラーム療法のデメリット
 ✓ 保険診療外(費用負担あり
 ✓ 速効性なし
 ✓ 高い脱落率(30%
 ✓ 夜尿頻度が少ないと効果が小さい

▶ 治療に対するモチベーションを上げる方法
(小学校低学年)
「おねしょ・おもらしは恥ずかしい」という気持ちがまだ芽生えていないお子さんがいます。
その場合に有効なのが“ご褒美作戦”です。
子どもが喜ぶご褒美を用意して本人にメリットを提示しましょう。
(小学校中学年)
ご褒美作戦が使えるのは小学校低学年まで。
精神的に成長すると「ご褒美がないから頑張らない」というパターンも出てきます。
一方、この頃になると「恥ずかしい」という気持ちが生まれてくるので、
本人に寄り添う形で知識を与え、内面のモチベーションを養えるようリードしましょう。
(中学生以上)
思春期を迎えると夜尿症は治ることが多いのですが、
この時期に残る場合は難治です。
治療を見直し、できることはないか再確認。
日常的には「自分の症状とつき合っていく」考えをベースに、
夜尿が消えて朝まで眠る → 途中で起きてトイレへ行く方針に転換しましょう。

▶ 治療をはじめたけど…有効?無効?
夜尿症治療を始めたけど、減ったような気がするけどなくならない…
それを評価するにはおねしょ日記で比較するとわかりやすいですね。
今は便利なスマホアプリを利用する時代です。
再掲)スマイル!こども日誌」「おねしょカレンダー」「おねしょ日記

有効性の評価には一応基準がありますので提示します;
(著効)夜尿頻度が100%減少、または1ヶ月で1回未満に減少
(有効)夜尿頻度が50〜99%減少
(無効)夜尿頻度が0〜49%減少
…つまり、夜尿回数が半分以下に減らないと「有効」と評価しないことになります。

▶ おねしょ卒業!
治療により夜尿回数がだんだん減ってきたとき、
どこで治療を終了するか、治ったと判断するか・・・。

抗利尿ホルモン薬(デスモプレシン)開始後、
2〜3ヶ月間夜尿がなくなったら毎日の服用を2日に1回に減らし、
それでさらに2ヶ月以上継続して夜尿がなければ晴れて“卒業”となります。

<参考>
※ 国際小児尿禁制学会の「夜尿症治癒」の定義; 
「服薬・夜尿アラームの使用を止めてから6ヶ月間夜尿がゼロなら“ほぼ成功”」
「服薬・夜尿アラームの使用を止めてから2年間夜尿がゼロなら“大成功”」
※ 欧米の定義;
 完治:治療中止後2年間、再発なし
 寛解維持:治療中止後6ヶ月間、再発なし
 再発:治療中止後、1ヶ月で1回以上の夜尿が再出現

★ 二通りの“おねしょ卒業”パターン
上記は「おねしょなしに朝まで眠れた」というゴールです。
しかし実際にはもう一つ、卒業パターンがあります。
それは「途中で起きてトイレへ行き、また眠って朝を迎える」こと。
おねしょ専門医がおねしょが治った大人について調べたところ、
・起きない派(おねしょなしで朝まで眠れた)→ 3割
・起きる派(途中で起きてトイレへ行った) → 7割
だったそうです。
ふつう相談を受ける小学校低学年では「起きない派」を目指して治療しますが、
思春期を過ぎても残る頑固な夜尿には「起きる派」に方針転換した方がよい、
という専門家もいます。

▶ なかなか治らないとき
薬物療法やアラーム療法でも解決しない場合、
夜尿症以外の病気がかくれていないかどうか、
総合病院へ紹介して検討していただくことになります。
 例えば、夜尿以外の症状があり泌尿器科疾患が疑われる場合を以下に示します;

▶ 泌尿器科紹介が必要になる症状 
・昼間、以下の症状(下部尿路症状:LUTS)が目立つお子さん(夜尿症全体の10%);
1.昼間のおもらし
2.急に起こる尿意、我慢ができない尿意 
3.排尿困難(尿線が細い、排尿時間が長い、腹圧をかけないと排尿できない) 
4.排尿回数が少ない(1日3回以下)または多い(1日8回以上)
5.オシッコしている途中で途切れ、また出る(断続尿線)
6.尿がまん姿勢(※)
7.残尿感
8.排尿後のちびり
8.外性器や下部尿路の痛み

※  尿がまん姿勢
・足をクロスさせてモジモジする。
・モジモジ体をくねらせながら夢中でゲームやYouTubeをやっている。
・チンチン(ペニス、陰茎)をつまんでオシッコを我慢している。
・しゃがみ込んで自分のかかとでお股(会陰部)を圧迫する。
・トイレに駆け込んであわててオシッコする。
・さっきまで平気だったのに急に「ママ、オシッコ!」と言うことが多い。
・便座の周りや便器カバーに尿が飛び散っている(男児の場合)

★ 過活動性膀胱
・突然の激しい尿意に襲われ、ひんぱんにトイレへ行ったり、がまんできずに漏らしてしまう症状です。 
・こども全体の約20%、夜尿症児では20〜40%にみられます。
 
▶ 中学生・高校生の夜尿対策
最初に提示したグラフを見ると、中学生・高校生では限りなくゼロに近くなるように見えますが、
実は中学生の3〜5%、高校生の1〜3%に月に数回以上夜尿があると報告されています。

この年齢になったら、自分で管理するように切り替えていきます。
夜尿がクセになっている(実は夜尿は気持ちがいい)、なれてしまっている状態から脱却し、
自分で振り返る習慣をつける目的です。
基本的な治療を続けるとともに、以下のルールを守るよう指導します。
✓ 睡眠中に尿意を感じたらトイレへ必ず行く。
✓ 排尿後に気づいた場合はパンツやオムツを自分で取り替える。 
✓ 濡れてしまったパンツやシーツはなるべく自分で洗濯する。 

▶ 二次性夜尿
治っていた夜尿が半年〜数年以上たってから再発したり、
今まで夜尿がなかったこどもが中学生・高校生になって突然夜尿を発症するタイプで、
この状態を二次性夜尿と呼びます。
二次性夜尿の頻度は、夜尿症全体の1割以下です。
その原因は、
・過度の緊張状態や精神的なストレスを持続的に受け続けた場合
・別の病気(脳腫瘍、糖尿病、腎臓病、ホルモン異常など)の影響
等の可能性があります。
夏に消えた夜尿が冬に再発した場合は“冷え”が悪化因子になっている可能性があり、
その対策をすると消えることもあります。
腹巻き・ボディウオーマーなどを試してみるとよいでしょう。ただし、使い捨ての“貼るカイロ“は低温やけどのリスクがあるので使用しないでください。
別の病気がない場合の二次性夜尿の治療は、ふつうの夜尿(一次性夜尿)と同じです。
 

▶ 大人の夜尿症
20歳を過ぎても治りきらない「成人型夜尿症」は0.5〜1%(100〜200人に1人)です。
ただ、成人男性は通院をやめてしまうことも多く、正確な数・頻度は不明です。
学童期の夜尿症が男子に多いのに対して青年期・成人期の夜尿症は女子にも多く、
夜尿が月経前後にだけ起こるケースもあります。 

大人が夜尿症になる原因は様々ですが、ストレスが大きな原因の一つです。
特に二次性夜尿症の場合は心因性のものであることが多いとされています。

ストレス以外の要因としては、以下のものも考えられます;
✓ 寝る前の飲酒
✓ 睡眠薬

また、病気がかくれていることもあります;
✓ 睡眠時無呼吸症候群・・・夜間の尿量が増えるため、夜間頻尿や夜尿症の原因に。
✓ (まれですが)脳血管障害、脳腫瘍、多発性硬化症 
病気の有無を見分けるポイントは、以下のような夜尿以外の症状の有無です;
✓ 昼間の頻尿・尿失禁
✓ 排尿困難感 
以上の症状が気になる場合は泌尿器科を受診してください。 
なお、成人の夜尿は内科よりも泌尿器科で診療することが多いようです。
よくわからない場合は受診前に電話で問い合わせてみてください。

▶ 夜尿は遺伝する?
・両親のいずれかに夜尿症があった → こどもが夜尿症になる確率は5〜7倍
・両親ともに夜尿症があった → こどもが夜尿症になる確率は11倍
※ ただし、単一の原因遺伝子は特定されていません。


<参考書籍・WEBサイト>
以下の書籍、サイトを参考にしました。
(一般向け)
▢ バイバイ、おねしょ!(冨部志保子著、朝日新聞出版、2015年発行)
▢ おねしょ、おもらし サヨナラガイド(羽田敦子著、かんき出版、2021年発行)
▢ おねしょ卒業!プロジェクト(フェリング・ファーマ株式会社)  
(医療者向け)
夜尿症診療リアルメソッド(西崎直人著、中外医学社、2022年発行)
▢ 夜尿症診療ガイドライン2021(日本夜尿症学会) 


★ 夜尿症分類は4つ存在します;

1.帆足・赤司による分類(上記)
①多尿型
②膀胱型
③混合型

2.国際尿禁制学会・日本のガイドライン〜その1
①一次性:生まれてからずっと夜尿が持続(75〜90%)
②二次性:(6ヶ月以上)消えていたが再発(10〜25%)
 ②-1:別の病気の発症や悪化に伴う夜尿
 (例)糖尿病、尿崩症、膀胱炎、慢性腎臓病、甲上腺機能亢進症、
    下垂体腫瘍、てんかん、睡眠時無呼吸など
 ②-2:心的ストレスを契機に発症した夜尿
 (例)両親の離婚、同胞の誕生、受験勉強、いじめなど

3.国際尿禁制学会・日本のガイドライン〜その2
①単一症候性:夜尿のみ(90%)
②非単一症候性:夜尿+下部尿路症状(後述)(10%)

4.膀胱内圧+脳波検査による渡邊らの分類
夜尿のない児:膀胱に尿が溜まると脳波上浅い睡眠へ移行し覚醒して排尿する
夜尿のある児:
I型:脳波上浅い睡眠に移行するが完全に覚醒できず夜尿をしてしまう
IIa型:脳波上まったく覚醒反応が生じず深い睡眠のまま夜尿をする重度の覚醒障害が原因
IIb型:膀胱に生じる無抑制収縮を原因としたある種の下部尿路機能障害があるため深い睡眠のまま覚醒せずに夜尿をしてしまう

▶ アラーム療法とは?
こどものパンツが濡れたことを感知してアラームが鳴る(あるいは振動する)センサーをパンツに装着し、睡眠中の排尿を本人に気づかせることにより、夜尿を減らしていく治療法です。

初めて報告されたのが1938年と歴史は古く、欧米では1960年代から積極的に取り入れられ、現在は抗利尿ホルモン薬とともに第一選択の治療法です。

日本では従来「夜尿児は夜起こさない方がよい」と生活指導されてきたため導入が遅れましたが、有効率の高さから近年普及してきました。

開始年齢は8歳以降が目安です。
薬物療法(抗利尿ホルモン薬、抗コリン薬等)より有効率は高く、再発率は低い方法ですが、脱落率が高いことも特徴です;

【有効率】60~70%

【再発率】10~20%

【脱落率】10~40% 

理由は、装着の違和感、他の家族の反対、覚醒できない等。つまり、本人のモチベーションと家族の協力が必要なのです。

多くの場合アラームが鳴っても本人は目を覚まさず、保護者が起こすことになります。このため、親が夜に家にいる、同じ部屋か少なくとも隣の部屋に寝る、などの環境が、また毎晩子どもを起こすことが数ヶ月以上続きますので、根気と覚悟も要求されます。

夜尿アラームは保険適応はなく(医療器具として未認可)、自費で購入することになります(↓)。

 

<市販(通信販売)されている夜尿アラーム>

製品名

販売

参考価格

備考

ウェットストップ3

MDK

7776円

有線式、装着型、バイブ付き

ちっちコール4販売終了

石黒メディカルシステム

7200円

有線式、装着型、バイブなし

ピスコール

アワジテック

19440円

レンタル

無線式、枕元置き型、バイブ付き

パッド30枚セット

(パッド90枚セットもあります) 


▶ アラーム療法で夜尿が治るメカニズム
そのメカニズムは、睡眠中の膀胱にためられる尿量(膀胱容量)が増加することと説明されています。アラーム療法開始後1~2ヶ月で膀胱容量は約1.5倍へ増加し、2~3ヶ月続けるうちにさらに増えて夜尿が治っていきます。
治っていく過程をより具体的に説明すると、
①アラームが鳴る
②こどもが気づく(気づかない場合は声をかける)
③こどもの脳が「起きる」と「ガマンする」の2つの選択肢で迷う
④こどもは眠りが深いため、ガマンする方向へシフト。
以上、①〜④を繰り替えるうちに、だんだん寝ていても朝まで膀胱にオシッコを貯めておけるようになるのです。
 

▶ アラーム療法の実際

■ 使用法

・夕食後は水分を控え、寝る前に排尿し、夜尿アラームを装着します(各アラーム機器の説明書に従ってください)。

・アラームが鳴り本人が目覚めたら、残りはトイレで排尿させます(トイレに行けなければオムツに排尿しても許容)。

・眠りが深く自分で起きられない場合は、保護者・家族が起こしてください(※1)。

・一晩に複数回夜尿がある場合は、初回のみの使用でもOKです(※2)。無理のない範囲でつづけましょう。

毎晩必ず装着させ、土曜日・日曜日も中断しないでください。

・最低6週間、できれば3ヶ月続けてください。

 

※1アラームが鳴ったら速やかに子どもを起こし、残りはトイレで排尿させ、時間帯と尿量を測定して記録してください(記録用アプリ「スマイル!こども日誌」「おねしょカレンダー」「おねしょ日記)。

アラームや家人の呼びかけに全く反応しない場合もありますが、不可能なら完全覚醒させなくても大丈夫です。

はじめて2~3週間しても全く起きることができない場合、家族の負担や本人の自信喪失を避けるために、いったん中断して半年後に再チャレンジすることも考えましょう。

※2一晩のうちに何度も夜尿をする場合、本人および家族が寝不足になりがちなので、最初の1回だけアラームを使う方法でもかまいません。

 

■ よい兆候 
・夜尿量が減ってきた(おむつが軽くなった)。

・アラーム音に反応し目が覚めるようになった。

・アラームが鳴る時刻が朝方にずれてきた。

・一晩のアラーム作動回数が減ってきた。

・夜尿日数が減ってきた。
・・・効果は4〜6週間後くらいから実感できることが多いようです。
・・・夜尿量・回数が減るパターンと、尿意で覚醒できるパターンがあります。 


■ 終了時期と方法

・アラーム療法は即効性はありません。開始後、成功したり失敗したりで一喜一憂・・・「2歩進んで1歩さがる」くらいの感覚であせらずに見守りましょう。
導入1ヶ月後を目安に効果判定をします。効果があれば、最低3ヶ月は続行しましょう。 

・夜尿回数が減ってきたら、最低14日間連続で夜尿が消失するまで継続してください。ここに到達するには3~4ヶ月(5~24週間)を要します。

・「14日間連続夜尿なし」を達成できたら、就寝前の水分制限を解除し、1ヶ月間再発しないことを確認してから終了しましょう(オーバーラーニング)。オーバーラーニングを行うことで、再発率が減ります(50% → 25%)。

・3ヶ月試しても効果が得られないときは医師に相談してください。一旦アラーム療法をやめて、他の治療法を考慮するタイミングです。しばらく間を置いて再度トライすると有効なこともあります。
・アラーム療法は、有効であっても無効であっても4〜6ヶ月間の治療と考えてください。


<Q&A>

Q.  アラーム療法中、音で起きられないこどもを無理矢理起こすべきですか?起こさなくてもよいですか?
A.  (今のところ)正解はありません。
欧米の多くのガイドラインでは、「アラーム音が鳴ったら患児を覚醒させて排尿を促す」 ことが成功の秘訣とされてきましたが、根拠となるエビデンスは乏しいのが現実です。
強制的に覚醒させたこどもと覚醒させなかったこどもを比較した研究では、夜尿症の改善に差がなかったという報告があります。
ある夜尿症専門医の意見を紹介します;
アラーム音により本人が夜尿をした瞬間を認識させることが必要、少なくとも音が鳴ったら本人を起こして知らせるよう指導している、ただし起こした後にトイレへ誘導することまでは強制していない
だそうです。


<参考書籍・WEBサイト>

(一般向け)
▢ バイバイ、おねしょ!(冨部志保子著、朝日新聞出版、2015年発行)
▢ おねしょ、おもらし サヨナラガイド(羽田敦子著、かんき出版、2021年発行)
▢ おねしょ卒業!プロジェクトおねしょ卒業!サポートムービー」(フェリング・ファーマ株式会社)  

(医療者向け)
▢ 夜尿症診療リアルソッド(西崎直人著、中外医学社、2022年発行)

▢ 夜尿症診療ガイドライン2021(日本夜尿症学会)
 

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