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この項目は、感染症や副鼻腔炎などによる急性頭痛ではなく、ベースに病気が隠れていないけど、発作性の頭痛を繰り返す「片頭痛」の治療に関する内容です。

子どもの片頭痛の特徴を挙げますと、

・持続時間が短い(大人は4〜72時間、子どもは2〜72時間)。
・片側性は希で、両側性が多い。
・拍動性かどうかはっきりしない。
・吐き気・嘔吐が見られることが多い。

もう少し詳しく知りたい方は、こちらをお読みください。

さてふだんの診療の中で、時々片頭痛の相談を受けますが、
子どもの片頭痛の治療薬は、西洋医学では選択枝が2つしかありません。

・アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®
・イブプロフェン(ブルフェン®

これらを処方しても効果今ひとつ、という患者さんもいて、
病院を紹介することもありますが、
残念ながら治療内容はあまり変わりません。

一方、成人の片頭痛治療薬は日進月歩で、
・トリプタン製剤
・抗体医薬
等を用いて目を見張るような効果で注目されていますが、
小児はその恩恵を受けることができません(2025年現在)。

そこで私は、漢方薬でどこまで治療可能か、調べてみました。
すると、トリプタン製剤に頼らなくても、
頭痛の治療ができる可能性に手応えを感じました。

というわけで、
市販薬や病院で処方される鎮痛剤(カロナール®、コカール®、ブルフェン®)では痛みのコントロールができない片頭痛持ちの方は、
この項目を是非お読みください。

さて、頭痛発作時に用いる漢方薬は以下の通り;
・五苓散
・呉茱萸湯
・呉茱萸五苓散(呉茱萸湯+五苓散)


他にも頭痛に効く漢方薬は色々あるのですが、
今回は「片頭痛発作」に絞った話なので、
方剤も限定的です。

3剤の使い分けは、
・五苓散:低気圧により頭痛が悪化する場合
・呉茱萸湯:手足の冷えや胃弱などを伴う場合
・呉茱萸五苓散:上記2剤が単剤で効果が得られないとき併用

五苓散と呉茱萸湯の各々単独での有効率は5割程度、
2剤の併用(呉茱萸五苓散)をうまく使うと7〜8割まで上昇するとのこと。

呉茱萸湯は・・・味がキツくて、苦いというかエグい味で飲みにくいので有名です。
たまに処方しても飲んでくれる子どもは少なく、
「飲めて効いた」
という患者さんはまだ片手で足りるくらいでしょうか。

でも大丈夫。
飲み込めなくても口の中に10秒間含んでから吐き出す「口含法」でも効くそうです。

そして、漢方薬と鎮痛剤を発作時頓服しても頭痛のコントロールができない場合は、
予防内服・定期内服を追加する方法もあります。
そちらも紹介します。

この項目を読んで、当院での頭痛治療を試したいと希望される方は、ぜひご相談ください。

まずは五苓散、呉茱萸湯の単独投与を試してみましょう。
アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®)、イブプロフェン(ブルフェン®)と併用しても大丈夫です。

それでもうまくいかずつらいときは呉茱萸五苓散(呉茱萸湯+五苓散)を試しましょう。
以下に、松田正先生の提唱する呉茱萸五苓散の飲み方を紹介します。
“分単位”で追加投与していく、ち密な方法です。


<片頭痛発作の治療>
・投与のタイミングが大切です。

 前駆症状出現(前兆ではありません!)
   ↓
 呉茱萸五苓散1回目  → 効果あり → 治療終了
   ↓
(効果不十分)
   ↓
 7分後呉茱萸五苓散2回目  → 効果あり → 治療終了
   ↓
(効果不十分) → ロメリジン(ミグシス®)予防投与を検討
   ↓
 5分後トリプタン製剤投与(ただし12歳以上)
   ↓
(効果不十分)
   ↓
 30分後呉茱萸五苓散3回目 → 10分程度で残存症状が軽快することが多い。
   
【解説】
・投与のタイミングは前兆ではなく前駆症状(あくび、倦怠感、急激な眠気、首・肩のこりなど)で、異変を自覚したら直ちに服用する(迷ったらまず服用!)。
・前兆(閃輝暗点、視野狭窄)は呉茱萸五苓散を内服するギリギリ最後のタイミングである。前兆自覚後30分で片頭痛発作が始まってしまう。
・呉茱萸五苓散1回内服しても効果不十分な場合は7分後に追加内服する。「7分間隔で2回連続投与」が標準である。
・呉茱萸五苓散2回目投与後、5分経過しても頭痛がゼロにならない場合は、(12歳以上であれば)トリプタン製剤を投与。トリプタン製剤は、体動により頭痛が悪化するタイミング(首振りテスト・お辞儀テストで確認)で投与するのが“至適タイミング”である。
・トリプタン製剤(内服・点鼻)後30分が経過しても、まだ頭痛、頚部痛、肩こり、倦怠感などの症状が残存している場合には、呉茱萸五苓散3回目投与を行うと10分程度で残存症状が軽快することが多い。
・子どもへの投与の工夫:チョコレートアイスに混ぜ込む、コーラなどの炭酸飲料で飲ませるなどをしても飲めない場合は「口含法」(口の中に漢方薬と水を入れ、10秒間保持してから吐き出させる)方法でも有効。

【備考】
・呉茱萸五苓散はトリプタン注射にも匹敵する即効性と有効性がある。
・呉茱萸五苓散の反復投与では一般の鎮痛剤のようにクセになることはなく、むしろ体質改善効果により片頭痛発作の頻度が減っていくことが期待される。
・呉茱萸五苓散の効果がなければ、二次性頭痛の可能性があるので要精査、二次性頭痛を否定された呉茱萸五苓散不応例にはトリプタン製剤を併用すべし。
・漢方薬と西洋薬のハイブリッド片頭痛治療により、8割の片頭痛患者さんが治療可能である。

(呉茱萸五苓散不応例への漢方アレンジ)大野Dr.
呉茱萸湯+葛根湯・・・項部のコリから来る頭痛
五苓散+桂枝湯桂枝加桂湯合四苓湯)低気圧襲来などによる気の上衡(突発的な精神緊張状態)


<片頭痛の予防治療>
・片頭痛発作の頻度が多いときに考慮する。
・下記薬剤を定期内服+呉茱萸五苓散頓用が基本。

 呉茱萸五苓散を3ヶ月内服  → 頭痛発作減少なら頓服へ
  ↓
(効果不十分)
  ↓
 ロメリジン(ミグシス®)予防内服
  ↓
(効果不十分)
  ↓

①(女性例)ロメリジン+当帰芍薬散を定期内服(2週間試す)
  ↓
(効果あり)
  ↓
 当帰芍薬散定期内服(ロメリジン休薬)

②(めまい)ロメリジン+苓桂朮甘湯を定期内服

③(小児例)小建中湯

④(心因関与)抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、六君子湯


呉茱萸五苓散】(大野Dr.)
・発作頻発例では、呉茱萸五苓散を3ヶ月ほど定期内服(大人であれば1日3回、子どもでは減量)し、発作の頻度が減ってきたら頓用にする(大野Dr.)。

ロメリジン
・呉茱萸五苓散でも効果不十分なとき、ロメリジン(ミグシス®)の予防投与を検討する。ロメリジン単独での予防効果は限定的であるが、呉茱萸五苓散の効果が不十分な時にロメリジンを予防内服することで、呉茱萸五苓散の薬効が増強することが多い。ロメリジンは妊婦には使用禁忌であるが、小児・青年期には比較的安全に投与可能である。
・(松田正Dr.は)片頭痛通院患者の約3割に、片頭痛が多発する春一番(2月中旬)〜台風シーズン終了(9月下旬)の期間限定で、呉茱萸五苓散とロメリジンを併用している。片頭痛発作が減ってきたらロメリジンを中止し、呉茱萸五苓散頓用に戻す例も多い。

当帰芍薬散
・“駆於血剤”の中で頭痛予防に一番有効な漢方薬。
・呉茱萸五苓散とロメリジン併用でも頭痛のコントロールが困難な場合、患者さんが女性なら「ロメリジンと当帰芍薬散を2週間投与+頭痛発作時に呉茱萸五苓散頓用」し、頭痛発作が減少すればロメリジンを中止して当帰芍薬散だけを定期内服させ、呉茱萸五苓散頓用に移行する選択肢もある。

苓桂朮甘湯
・ロメリジン+苓桂朮甘湯を通常量予防内服し、呉茱萸五苓散頓用。
・茯苓含有量は五苓散が3g/日、苓桂朮甘湯は6g/日と多く、苓桂朮甘湯有効例を「茯苓感受性片頭痛」と呼んでいる。
・前庭性片頭痛(めまいを伴う片頭痛)の際に苓桂朮甘湯を予防投与することも多い。

小建中湯
・呉茱萸五苓散の効果が乏しい小児例に、小建中湯通常量を予防投与する。
・小建中湯定期内服+呉茱萸五苓散頓用が標準法。

抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、六君子湯
・呉茱萸五苓散頓用+ロメリジン定期内服でも抑制できない片頭痛発作に活用可能。
・抑肝散は「隠れた怒り」を鎮める薬で、原因不明の頭痛・腰痛の治療にもよく使われる。痛みは「脳」で感知しているので、脳に働きかける漢方薬で痛みをコントロールできることは合点がいく。
・つまり「心因性頭痛」の要素がある場合に手応えが期待される漢方薬である。
・ストレス緩和による片頭痛予防として、小児では小建中湯、成人では抑肝散が選択枝。
・痛みが強い場合には抑肝散から、気分の落ち込みや元気のなさが目立つ場合は抑肝散加陳皮半夏を用いる。
・気分の落ち込みに加えて食欲不振や吐き気など、消化器症状を伴うときには六君子湯から開始する。


<参考> 
主に松田正先生と大野修嗣先生の解説(ツムラの医師専用サイト)を参考に「呉茱萸五苓散」とその関連処方をまとめました。
松田正の「急性疾患にこそ漢方薬を!」(日経メディカル)
「片頭痛こそ漢方が効く」という医師の裏技(2021/08/11:日経メディカル)

▶ 頭痛の漢方治療(飯塚病院、井上Dr.)
・雨降り前に悪化 → 五苓散(17)、九味檳榔湯
 +冷え → 真武湯(30) 
 +冷え・瘀血 → 当帰芍薬散(23)
・冷えがある、冷えで悪化 → 呉茱萸湯(31)
 +瘀血 → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
・パソコンやスマホで悪化 → 治打撲一方(89)
 ー便秘 → 桂枝茯苓丸(25)
以上の方剤で除痛が不十分なとき
 → +川芎茶調散(124)追加

もはや国民病と化した花粉症。
スギ花粉症の罹患率は年々増加し、
日本人の5割に迫る勢いです。


★ ご両親も診療も扱っています( →  大人の花粉症
当院は小児科ですが、
お父さん・お母さん世代の花粉症にも対応しています。
ただし、持病があり他に主治医がいる場合は除きます。


■ どんな病気?

植物の花粉が顔の粘膜に付着してアレルギー反応を起こし、
・眼症状(かゆみ、充血、目やに)
・鼻症状(くしゃみ、鼻汁、鼻閉)
を起こす病気です。
つまり「花粉によるアレルギー性結膜炎&アレルギー性鼻炎の同時発症」
ということになります。
ほかにも皮膚や耳のかゆみ、咽頭違和感、咳なども出現することがあります。


■ 花粉の種類

代表的なものを列挙します;

(春)スギ、ヒノキ、ハンノキ

(夏)カモガヤ、ハルガヤ、オオアワガエリ

(秋)ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ

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もう少し詳しい表を見つけましたThermo Fisher Scientific HP より
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■ 診断

特定の花粉が飛散している時期に一致して、
上記眼症状&鼻症状が続くと疑い、
血液検査で確認して確定診断します。

ただ、初期症状は「くしゃみ、鼻水」なので、
一般の風邪(新型コロナを含めて)と区別するのが難しいです。


<風邪と花粉症の鑑別ポイント>

・目のかゆみの有無:花粉症では目が痒くなり充血しますが、
 風邪では夏風邪のプール熱を除いて目の症状は目立たちません。

・感染性結膜炎とアレルギー性結膜炎の鑑別は、
 前者では黄色い目やにが目立ち、
 後者ではかゆみがメインで目やには多くならないことが多いです。

・鼻汁の性状:風邪の鼻水は経過中ににごって白くなり長引くと青っぱなになりますが、
 花粉症の鼻汁はずっと透明のままです。


私は花粉症を心配して受診した患者さんに、

「2週間経ってもくしゃみと水様鼻汁が続くようならまた診せてください。
 2週間以内に治ってしまったら風邪と考えてよいと思います。」

と説明しています。


★ 花粉症が関連する病気:
口腔アレルギー症候群」(OAS、Oral Allergy Syndrome)
花粉-食物アレルギー症候群」(PFAS、Pollen-Food Allergy Syndrome)


・大人になって果物を食べると口の中がかゆくなるようになった、
 という発症の仕方の果物アレルギー。
・実は花粉症が原因で、
 花粉アレルゲンと果物アレルゲンの構造が似ているため、
 人間の免疫システムが誤認識&誤爆する病態です。
・おもに口の中の症状(腫れ、かゆみ)にとどまるため、
 口腔アレルギー症候群と呼ばれています。
・反応する果物は特定の花粉と対応関係にあります;

ハンノキ、シラカバ)リンゴ、モモ、大豆(豆乳)など
スギ)トマト
カモガヤ)メロン、スイカ、キウイなど
ヨモギ)セロリ、ニンジンなど
ブタクサ)メロン、スイカなど

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・この視点から「花粉-食物アレルギー症候群」とも呼ばれています。
・この場合の果物アレルゲンは体の消化液で簡単に構造が壊れてしまうので、
 全身症状に至ることは希です。
・さらに果物アレルゲンは
加熱・加工で簡単に構造が壊れてしまうので、
 基本的に“生”以外の缶詰やジャム、ドライフルーツなどでは症状が出ません。

※ なお、果物アレルギーはこのタイプの他にも存在します。気になる方は「果物・野菜アレルギー」の項目もご覧ください。


■ 検査

花粉症の診断は、問診でくわしく症状を確認することが基本です。
希望により血液検査で原因となる花粉を確認できます。

当院では以下の二つの検査を用意しています;

①「花粉アレルゲン13」(13種類)・・・肘の静脈から採血が必要
 春・夏・秋の花粉を網羅し、それにダニ、ハウスダスト、イヌ、ネコを加えた、
 私がセレクトした
当院オリジナルです。
 結果が出るまでに1週間弱かかります。 

②「アレルゲン8」(8種類)・・・指尖採血でOK
 採血を嫌がる子どもにはこちらを勧めています。
 指先がチクッとするだけで済みます。
 結果は翌日にわかります。 


■ 治療

 抗アレルギー薬の内服を基本とし、効果不十分な場合は点眼・点鼻を併用して治療します。

抗アレルギー薬(内服)
当院では、お子さんの年齢と希望する薬のかたちで処方薬を決めています。

 シロップ → レボセチリジン(ザイザル®)
 粉ぐすり → オロパタジン(アレロック®)、セチリジン(ジルテック®)
 錠剤   → オロパタジン(アレロック®)、レボセチリジン(ザイザル®)

※ 受験生で眠気が気になる方には、飛行機のパイロットにも許可されている
 フェキソフェナジン(アレグラ®)、
 ロラタジン(クラリチン®)
がお勧めです。 高校生以上ではビラスチン(ビラノア®)がオススメ。

★ 小児用抗アレルギー薬一覧(ユアクリニック秋葉原HPより) 
子どもの抗アレルギー薬

点眼薬:内服だけでは目のかゆみが治まらない方へ

 オロパタジン(パタノール®)
 エピナスチン(アレジオン®)・・・コンタクトレンズの上から使えるタイプ(アレジオン®LX点眼液)もあります。
 エピナスチン(アレジオン®眼瞼クリーム)・・・「塗る点眼薬」(上下のまぶたに塗ると目薬と同じ効果が得られます)、目薬をイヤがるお子さんに。

点鼻薬:内服薬だけでは鼻閉がつらい方へ
 ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(リノコート®) ・・・細かい粉なので刺激や液だれがなくて幼児に使いやすい製剤 
 フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アラミスト®)・・・液体製剤。体に吸収される際に失活し、全身の副作用が少ない製剤です。

漢方薬

 上記治療を行っても効果不十分の患者さんには漢方薬の併用を勧めています。体質や症状により5種類以上の漢方薬を使い分けています。漢方薬は眠くならず、目の症状にも効く方剤があります。
 当院では「抗アレルギー薬と漢方薬の併用」がスタンダードです。

(漢方薬がお勧めの患者さん)

✓ 他院で処方された抗アレルギー薬では効果が今ひとつ
✓ 目の症状が強くて目薬を使っても今ひとつ
✓ 喉のチリチリ感がよくならない
✓ 花粉症期間中、体がだるくて熱っぽい
✓ 抗アレルギー薬を飲むと眠くなる
✓ 他院で強い薬(ステロイド薬)を処方され心配

(以下の図表はツムラのHPより引用)
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■ 舌下免疫療法

・スギ花粉症のみ、体質改善の治療法が用意されています(詳しく知りたい方はこちらをご覧ください)。

 「夜泣き」は生後3週頃から始まり、6ヶ月~1歳半がピークで、3歳頃には80%消失する生理現象です。

 夜間、それも結構決まった時間帯に赤ちゃんは泣いてぐずります。病気ではありませんが、これが連日続くとお母さん、お父さんは参ってしまいます。

 一般的な対策としては、まず赤ちゃんが不快となることをチェック!

・お腹がすいた

・おむつが汚れた

・暑いあるいは寒い

 などなど。

 一通り対応しても泣きやまないときは「抱っこ」。

 「私がいるから大丈夫」と安心させる気持ちで抱っこしたり子守歌を歌ったり。

 お母さん一人では大変ですから、疲れがたまってくるようであればお父さんにも是非協力してもらって下さい。お母さんが幸せでなければ赤ちゃんも幸せになれません。

 

 ポイントは「赤ちゃんの感情をしっかり受け止めてあげること」だと思います。「泣く」という行為は数少ない赤ちゃんの意思表示の方法です。それを繰り返し受け止めてあげることにより「自分は大切にされている」と感じるようになり、「生きてるって幸せなことだ」「ヒトと触れ合うって気持ちの良いことだ」と広がっていきます。赤ちゃんが初めて育むヒトとヒトの間の信頼関係です。これが将来豊かな人間関係を築く土台になっていくのです。

 

 その昔、アメリカの有名な「スポック博士の育児書」には子どもを乳児期から一人で別室で寝かせ、自立心を養う旨の記述がありました。日本でも「抱き癖がつくから放っておきなさい」とする風潮が一時ありました。

 しかし、現在は前述のように赤ちゃんが泣いたらしっかり抱きしめてあげることが推奨されています。アフリカのある部族では、ぐずってなく赤ちゃんが少ないことが観察され、日本人が不思議に思ってなぜかと問うと「日本人は服の上から赤ちゃんを抱いていませんか?」「母親の肌と赤ちゃんの肌を直接合わせると落ちついて泣き止みます」という目からウロコのコメント映像を見たことがあります。

 

 もし、泣いている赤ちゃんを放っておいたらどうなるのでしょう。より激しく泣き、最後には疲れ果てて寝てしまいます。これが繰り返されるとだんだん泣かない赤ちゃんになっていきます。

 これは決して「がまん強くなった」訳ではありません。「自分がつらくて泣いていても誰も助けてくれないんだ」とあきらめてしまうのです。それが続くと、「自分は大切にされない存在」「生きていたってしょうがないんだ」と自己評価の低い子どもになっていく可能性があります。

 現在社会問題になっている子どもの「不登校」「引きこもり」「摂食障害(拒食症、過食症)」「切れやすい」などを扱っている専門家は、それらに陥る子どもの共通点として「自己評価の低さ」を挙げています。


 いろいろやってみたけどやはり大変、というときは漢方薬をお勧めしています。日本の伝統的な医学である漢方には夜泣きの薬が複数用意されています(⇩)。

 お母さんも「もう限界!」とつらいときには赤ちゃんと同じ薬をお母さんにも飲んでいただきます。すると母子ともに気分が楽になるのです。これは「母子同服」といって、500年も昔から行われてきたことです。みんな夜なきに悩んで、解決方法を模索してきたのですね。


<夜なきに使われる漢方薬>

 抑肝散(54)   → 怒りんぼ系の赤ちゃんに

 甘麦大棗湯(72) → 泣き虫系の赤ちゃんに

 小建中湯(99)  → ぐずりがちや突然泣き出す赤ちゃん、泣き入りひきつけに

抑肝散の母子同服;夜、赤ちゃんに一袋の1/3を飲ませ、残りの2/3をお母さんが飲んでみてください。



<当院で赤ちゃんによく処方している漢方薬>

 当院は小児科医には珍しく、漢方を多用しています。
「子ども、それも赤ちゃんに漢方?」と驚かれるかもしれませんが、
漢方薬の歴史は1800年もあり、ある意味人体実験を繰り返し有益かつ無害な薬だけが生き残っているため、利用しない手はありません。
私は西洋薬ではうまくコントロールできない風邪症状や湿疹等にも頻用しています。
その一部を紹介します;

(症状改善)

 麻黄湯(26)  → 生後数ヶ月以内の赤ちゃんのはなづまりに

 小青竜湯(19) → 鼻風邪の初期(水っぱな)に。アレルギー性鼻炎にも有効。

 葛根湯加川芎辛夷(2) → 鼻風邪が長引いてにごった鼻水になったら

 五虎湯(95)  → 風邪を引くとゼーゼーする赤ちゃんに

(体質改善)

 小建中湯(99)  → お腹の調子が安定しない虚弱児に

 黄耆建中湯(98) → 虚弱&乾燥肌でかゆがる赤ちゃんに

 人参湯(32)  → よだれが多くよだれかぶれが続く赤ちゃんに


などなど。飲ませ方のコツも伝授しますので、試したい方は声をかけてください。

当院かかりつけ患者さんの約3割がリピーターです。

ニキビは日本人の60%以上が経験するありふれた皮膚病で、
10代に多いことから「青春のシンボル」とも言われますが、
放置して悪化すると跡が残ることがあります。

従来の治療は赤ニキビを治すだけでしたが、
近年、“ニキビ肌”そのものを治すぬり薬が登場し、
ニキビ治療が一変しました。

当院ではニキビの新しいぬり薬と、
漢方薬の内服を併用する治療を提案しています。
つまり、“外からも中からも治す”イメージ。
効果・手ごたえは十分あります。

「どのくらい通院が必要?」
という疑問に対する答えは、
「どこまで治したいか?」
によります:

赤ニキビだけを治したい → 数週間~数ヶ月

ニキビ肌まで治して肌をきれいにしたい → 半年~1年間(毎月の通院)

すると、ニキビが8割減少することが期待できます。
では診療内容を紹介します;



<ニキビができるメカニズム>


まず、敵を知りましょう。
ニキビの始まりと経過は下のように(マルホのHPより)分けられます;

(毛穴詰まり) → (①白・②黒ニキビ) → (③赤ニキビ) → (④黄ニキビ) 
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非炎症期白ニキビ、黒ニキビ
思春期の男性ホルモン分泌により、
毛穴の奥の皮脂腺から分泌される皮脂が増加(①)し、
皮脂の出口である毛穴の角質が増加(②)して塞がった状態

炎症期赤ニキビ、黄ニキビ
溜まった皮脂の中でニキビ菌(アクネ菌)が増殖(③)し、
それがつづいて慢性的に炎症
(④)を起こした状態


<ニキビの種類と治療> 

病期により治療が異なります。
非炎症期は毛穴詰まりを解消する治療、
炎症期は抗菌薬・殺菌薬が中心になります。
(下表をクリックすると拡大表示されます)

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上記に加え、ニキビ痕(皮膚の凹凸)まで治したい方には、
柴苓湯を使用します。


<薬の解説>

ディフェリン®ゲル】(ジェネリック:アダパレンゲル) 

2008年に登場し、ニキビ治療に革命を起こした塗り薬です。

“ニキビ肌”とは毛穴がつまりやすい肌であり、
ディフェリン®は毛穴の角質を減らして毛穴を広げ、
中に溜まった皮脂を外に出してくれます
(「ニキビができるメカニズム」の②に作用)。
ただし、効果が出るまで3ヶ月くらいかかります。

★ ディフェリン®ゲルは顔面のみの適応のため、
体幹(胸や背中)のニキビには同様の作用をもつベピオ®ゲルを使用します。

(使用の実際)
1日1回就寝前に顔全体に塗布
・目の周囲・唇・小鼻など粘膜に近い部位は避けます

(塗布量)
・チューブから人差し指の第一関節の長さ(1FTU=0.5g)
 を出したディフェリン®を顔全体に塗ります(面塗り)。
・1ヶ月に1本使い切るのが目安です。

(副作用と対策)
・使用開始後、2週間以内に皮膚乾燥・刺激感(ヒリヒリ感)が出てくるため、
あらかじめ保湿剤(ヘパリン類似物質ローション)を塗ってから重ね塗り
します。
・続けていると刺激感は数週間で落ち着いていくのがふつうです。

アクアチムクリーム】(ジェネリック:ナジフロキサシンクリーム)

・抗生物質入りのぬり薬。
・赤く炎症を起こしているニキビ、黄色く化膿したニキビに1日2回“点塗り”します。 


漢方薬
「ニキビ」に適応のある漢方薬は次の3つです。

白/黒ニキビ桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)

赤ニキビ清上防風湯(58)

白/黒/赤ニキビ荊芥連翹湯(50)


赤ニキビに使う漢方薬は、
炎症の熱を抑える作用があるため“清熱剤”と呼ばれます(苦いです)。
ニキビの状態により、以下の漢方薬を使うこともあります;
十味敗毒湯(6)
黄連解毒湯(15)
排膿散及湯(122)
つまり、6種類以上の漢方薬を使い分けて治療することになります。

★ どうしても漢方薬の顆粒を飲めない人には、
 錠剤が用意されている十味敗毒湯と黄連解毒湯をお勧めしています。



<治療の実際>

「赤ニキビを治したい」と患者さんは受診されますが、
よく観察すると白ニキビも混在していることがほとんどです。
前述のように「どこまで治したいか?」に応じて治療が変わります;

赤ニキビのみ → 1ヶ月通院

(内服)漢方の清熱剤(清上防風湯十味敗毒湯黄連解毒湯排膿散及湯

(外用)アクアチム®クリーム

赤+白ニキビ → 1年間通院

(内服)清熱剤(上述)+ 桂枝茯苓丸加薏苡仁、あるいは荊芥連翹湯
    改善後もニキビ痕が目立つときは柴苓湯に切り替える

(外用)アクアチム®クリーム + ディフェリン®ゲル



<スキンケアと外用薬を塗る順序>


処方例:
・ディフェリン®ゲル
・ヘパリン類似物質ローション
・アクアチム®クリーム


★ スキンケアは1日2回が基本です;

1.洗顔(泡状の石けんがオススメ、やさしくなでるように洗いましょう)

2.保湿剤(ヘパリン類似物質ローション)塗布

3.ニキビ治療薬(ディフェリン®)夜1回、顔全体に塗布

4.抗菌薬(アクアチム®)1日2回、赤く炎症を起こしている部位だけ点で塗布


<食生活のヒント>
昔は「スナック菓子はダメ」とか「チョコなどの甘いものはダメ」とかいわれていましたが、
近年の書物は「ニキビを悪化させる食品にエビデンスのあるデータはない」と書かれる傾向がありました。
しかし最近発表された論文で、以下のことが判明しました;
・牛乳を1日1杯の飲む人はニキビの頻度が12%増え、5杯では76%増える

・砂糖入り飲料を1日1杯飲む人はニキビが18%増え、5杯では36%以上増える
・脂肪分の多い食品(フライドポテトやハンバーガーなど)や
 甘い菓子(ドーナツ、クッキーなど)もニキビの頻度増加と関連している
 → 牛乳/乳製品、砂糖(炭水化物)、脂肪を取り過ぎないようにしましょう。



<ブログ内の記事>
ニキビの漢方(その2)2剤併用による効果増強
ニキビの漢方(その3)柴苓湯の使い方


<関連記事>
“虚実”で使い分けるニキビ漢方

<参考>
▢ 尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023

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