子どもの片頭痛の特徴を挙げますと、
・持続時間が短い(大人は4〜72時間、子どもは2〜72時間)。
・片側性は希で、両側性が多い。
・拍動性かどうかはっきりしない。
・吐き気・嘔吐が見られることが多い。
もう少し詳しく知りたい方は、こちらをお読みください。
さてふだんの診療の中で、時々片頭痛の相談を受けますが、
子どもの片頭痛の治療薬は、西洋医学では選択枝が2つしかありません。
・アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®)
・イブプロフェン(ブルフェン®)
これらを処方しても効果今ひとつ、という患者さんもいて、
病院を紹介することもありますが、
残念ながら治療内容はあまり変わりません。
一方、成人の片頭痛治療薬は日進月歩で、
・トリプタン製剤
・抗体医薬
等を用いて目を見張るような効果で注目されていますが、
小児はその恩恵を受けることができません(2025年現在)。
そこで私は、漢方薬でどこまで治療可能か、調べてみました。
すると、トリプタン製剤に頼らなくても、
頭痛の治療ができる可能性に手応えを感じました。
というわけで、
市販薬や病院で処方される鎮痛剤(カロナール®、コカール®、ブルフェン®)では痛みのコントロールができない片頭痛持ちの方は、
この項目を是非お読みください。
さて、頭痛発作時に用いる漢方薬は以下の通り;
・五苓散
・呉茱萸湯
・呉茱萸五苓散(呉茱萸湯+五苓散)
他にも頭痛に効く漢方薬は色々あるのですが、
今回は「片頭痛発作」に絞った話なので、
方剤も限定的です。
3剤の使い分けは、
・五苓散:低気圧により頭痛が悪化する場合
・呉茱萸湯:手足の冷えや胃弱などを伴う場合
・呉茱萸五苓散:上記2剤が単剤で効果が得られないとき併用
五苓散と呉茱萸湯の各々単独での有効率は5割程度、
2剤の併用(呉茱萸五苓散)をうまく使うと7〜8割まで上昇するとのこと。
呉茱萸湯は・・・味がキツくて、苦いというかエグい味で飲みにくいので有名です。
たまに処方しても飲んでくれる子どもは少なく、
「飲めて効いた」
という患者さんはまだ片手で足りるくらいでしょうか。
でも大丈夫。
飲み込めなくても口の中に10秒間含んでから吐き出す「口含法」でも効くそうです。
そして、漢方薬と鎮痛剤を発作時頓服しても頭痛のコントロールができない場合は、
予防内服・定期内服を追加する方法もあります。
そちらも紹介します。
この項目を読んで、当院での頭痛治療を試したいと希望される方は、ぜひご相談ください。
まずは五苓散、呉茱萸湯の単独投与を試してみましょう。
アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®)、イブプロフェン(ブルフェン®)と併用しても大丈夫です。
それでもうまくいかずつらいときは呉茱萸五苓散(呉茱萸湯+五苓散)を試しましょう。
以下に、松田正先生の提唱する呉茱萸五苓散の飲み方を紹介します。
“分単位”で追加投与していく、ち密な方法です。
<片頭痛発作の治療>
・投与のタイミングが大切です。
前駆症状出現(前兆ではありません!)
↓
呉茱萸五苓散1回目 → 効果あり → 治療終了
↓
(効果不十分)
↓
7分後に呉茱萸五苓散2回目 → 効果あり → 治療終了
↓
(効果不十分) → ロメリジン(ミグシス®)予防投与を検討
↓
5分後にトリプタン製剤投与(ただし12歳以上)
↓
(効果不十分)
↓
30分後に呉茱萸五苓散3回目 → 10分程度で残存症状が軽快することが多い。
【解説】
・投与のタイミングは前兆ではなく前駆症状(あくび、倦怠感、急激な眠気、首・肩のこりなど)で、異変を自覚したら直ちに服用する(迷ったらまず服用!)。
・前兆(閃輝暗点、視野狭窄)は呉茱萸五苓散を内服するギリギリ最後のタイミングである。前兆自覚後30分で片頭痛発作が始まってしまう。
・呉茱萸五苓散1回内服しても効果不十分な場合は7分後に追加内服する。「7分間隔で2回連続投与」が標準である。
・呉茱萸五苓散2回目投与後、5分経過しても頭痛がゼロにならない場合は、(12歳以上であれば)トリプタン製剤を投与。トリプタン製剤は、体動により頭痛が悪化するタイミング(首振りテスト・お辞儀テストで確認)で投与するのが“至適タイミング”である。
・トリプタン製剤(内服・点鼻)後30分が経過しても、まだ頭痛、頚部痛、肩こり、倦怠感などの症状が残存している場合には、呉茱萸五苓散3回目投与を行うと10分程度で残存症状が軽快することが多い。
・子どもへの投与の工夫:チョコレートアイスに混ぜ込む、コーラなどの炭酸飲料で飲ませるなどをしても飲めない場合は「口含法」(口の中に漢方薬と水を入れ、10秒間保持してから吐き出させる)方法でも有効。
【備考】
・呉茱萸五苓散はトリプタン注射にも匹敵する即効性と有効性がある。
・呉茱萸五苓散の反復投与では一般の鎮痛剤のようにクセになることはなく、むしろ体質改善効果により片頭痛発作の頻度が減っていくことが期待される。
・呉茱萸五苓散の効果がなければ、二次性頭痛の可能性があるので要精査、二次性頭痛を否定された呉茱萸五苓散不応例にはトリプタン製剤を併用すべし。
・漢方薬と西洋薬のハイブリッド片頭痛治療により、8割の片頭痛患者さんが治療可能である。
(呉茱萸五苓散不応例への漢方アレンジ)大野Dr.
・呉茱萸湯+葛根湯・・・項部のコリから来る頭痛
・五苓散+桂枝湯(桂枝加桂湯合四苓湯)低気圧襲来などによる気の上衡(突発的な精神緊張状態)
<片頭痛の予防治療>
・片頭痛発作の頻度が多いときに考慮する。
・下記薬剤を定期内服+呉茱萸五苓散頓用が基本。
呉茱萸五苓散を3ヶ月内服 → 頭痛発作減少なら頓服へ
↓
(効果不十分)
↓
ロメリジン(ミグシス®)予防内服
↓
(効果不十分)
↓
①(女性例)ロメリジン+当帰芍薬散を定期内服(2週間試す)
↓
(効果あり)
↓
当帰芍薬散定期内服(ロメリジン休薬)
②(めまい)ロメリジン+苓桂朮甘湯を定期内服
③(小児例)小建中湯
④(心因関与)抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、六君子湯
【呉茱萸五苓散】(大野Dr.)
・発作頻発例では、呉茱萸五苓散を3ヶ月ほど定期内服(大人であれば1日3回、子どもでは減量)し、発作の頻度が減ってきたら頓用にする(大野Dr.)。
【ロメリジン】
・呉茱萸五苓散でも効果不十分なとき、ロメリジン(ミグシス®)の予防投与を検討する。ロメリジン単独での予防効果は限定的であるが、呉茱萸五苓散の効果が不十分な時にロメリジンを予防内服することで、呉茱萸五苓散の薬効が増強することが多い。ロメリジンは妊婦には使用禁忌であるが、小児・青年期には比較的安全に投与可能である。
・(松田正Dr.は)片頭痛通院患者の約3割に、片頭痛が多発する春一番(2月中旬)〜台風シーズン終了(9月下旬)の期間限定で、呉茱萸五苓散とロメリジンを併用している。片頭痛発作が減ってきたらロメリジンを中止し、呉茱萸五苓散頓用に戻す例も多い。
【当帰芍薬散】
・“駆於血剤”の中で頭痛予防に一番有効な漢方薬。
・呉茱萸五苓散とロメリジン併用でも頭痛のコントロールが困難な場合、患者さんが女性なら「ロメリジンと当帰芍薬散を2週間投与+頭痛発作時に呉茱萸五苓散頓用」し、頭痛発作が減少すればロメリジンを中止して当帰芍薬散だけを定期内服させ、呉茱萸五苓散頓用に移行する選択肢もある。
【苓桂朮甘湯】
・ロメリジン+苓桂朮甘湯を通常量予防内服し、呉茱萸五苓散頓用。
・茯苓含有量は五苓散が3g/日、苓桂朮甘湯は6g/日と多く、苓桂朮甘湯有効例を「茯苓感受性片頭痛」と呼んでいる。
・前庭性片頭痛(めまいを伴う片頭痛)の際に苓桂朮甘湯を予防投与することも多い。
【小建中湯】
・呉茱萸五苓散の効果が乏しい小児例に、小建中湯通常量を予防投与する。
・小建中湯定期内服+呉茱萸五苓散頓用が標準法。
【抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、六君子湯】
・呉茱萸五苓散頓用+ロメリジン定期内服でも抑制できない片頭痛発作に活用可能。
・抑肝散は「隠れた怒り」を鎮める薬で、原因不明の頭痛・腰痛の治療にもよく使われる。痛みは「脳」で感知しているので、脳に働きかける漢方薬で痛みをコントロールできることは合点がいく。
・つまり「心因性頭痛」の要素がある場合に手応えが期待される漢方薬である。
・ストレス緩和による片頭痛予防として、小児では小建中湯、成人では抑肝散が選択枝。
・痛みが強い場合には抑肝散から、気分の落ち込みや元気のなさが目立つ場合は抑肝散加陳皮半夏を用いる。
・気分の落ち込みに加えて食欲不振や吐き気など、消化器症状を伴うときには六君子湯から開始する。
<参考>
主に松田正先生と大野修嗣先生の解説(ツムラの医師専用サイト)を参考に「呉茱萸五苓散」とその関連処方をまとめました。
・松田正の「急性疾患にこそ漢方薬を!」(日経メディカル)
・「片頭痛こそ漢方が効く」という医師の裏技(2021/08/11:日経メディカル)
▶ 頭痛の漢方治療(飯塚病院、井上Dr.)
・雨降り前に悪化 → 五苓散(17)、九味檳榔湯
+冷え → 真武湯(30)
+冷え・瘀血 → 当帰芍薬散(23)
・冷えがある、冷えで悪化 → 呉茱萸湯(31)
+瘀血 → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
・パソコンやスマホで悪化 → 治打撲一方(89)
ー便秘 → 桂枝茯苓丸(25)
以上の方剤で除痛が不十分なとき
→ +川芎茶調散(124)追加