思春期は、女子で10歳頃、男子で12歳頃に始まるのがふつうです。
それより数年程度早く始まってしまうことを「思春期早発症」と呼びます。
この項目ではこの病気について説明します。

思春期の始まりは、
女子では乳房の軽度の腫大、
男子では精巣容量の増加、
など周囲から気づかれにくい症状・兆候です。
一方、思春期としてイメージされやすい“初潮”や“声変わり”は、
二次性徴の始まりというより完成期の現象です。

思春期は身長にスパートがかかりぐんぐん伸びます(成長率の増加)ので、
学校検診での成長曲線作成が発見のきっかけになることもあります。

さて、思春期が早く始まると何が問題になるのでしょう。
以下の点が指摘されています;

1.早期に体が完成してしまうために、
 一時的に身長が伸びたのち、
 小柄のままで身長が止まってしまいます。

2.幼い年齢で乳房・陰毛、月経などが現れるため、
 本人や周囲が戸惑う心理社会学的問題が起きます。

3.脳などに思春期を進めてしまう原因になる病変が
 存在することがあります(まれ)。


小児科である当院には、
「まだ小学生低学年なのに女児の胸が膨らんできた」
という相談が時々あります。
その際には、ほかの第二次性徴の有無を確認し、
のちに述べる思春期早発症の診断基準を満たすようなら、
血液検査でホルモン値を評価し、
上昇傾向があれば病院へ紹介して診療を受けていただいています。

男子の場合、思春期兆候が早期に現れると、
ベースに治療が必要な病気が隠れている可能性が高いため、
すべて病院へ紹介しています。

苦い経験例もあります。

「身長が伸びなくなった」
と相談に来た中学生男子。
確かに周囲の友達がぐんぐん伸びる時期なのに、
伸びが止まってしまっています。
病院に紹介して検査を受けていただきました。
すると返信は、
「思春期早発症です」
「すでに骨の成長が止まっており、治療対象になりません」
というものでした。

確認すると、彼は小学校高学年時に身長のスパートが認められました。
小学5年生の時に陰毛が生えてきましたが、父親は、
「ちょっと早いかなあ」
くらいの感覚で医療機関には相談しませんでした。

このタイミングで医療機関を受診していれば、
治療により思春期の進行を遅くして、
最終身長が今より高くなれた可能性があり、
誠に残念です。

思春期発来のメカニズム
・思春期には、脳~生殖器がホルモンにより階層的に刺激され、
 思春期兆候発来というメカニズムが働きます;

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(視床下部)GnRH:ゴナドトロピン放出ホルモン
 ⇩ 

(下垂体) LH:
黄体ホルモン、FSH:卵胞刺激ホルモン
 ⇩   
(精巣)  テストステロン(男性ホルモン)
(卵巣)  エストロゲン(女性ホルモン)


頻度
・2~3%
・男女比 男子:女子=1:1.5~5
 …女子の方が男子の3~5倍多い

原因
・女子の場合は特発性(原因がわからない)ことがほとんどですが、
 まれに脳腫瘍や他のホルモン異常を伴う病気のこともあります。
・男子では特発性は少ないため、病気が隠れていないか十分な検査が必要です。

病態
・性ホルモン(あるいは類似物質)が、
 早期から過剰に分泌されることで症状が出現します。
・そのメカニズムは大きく三つに分けることができます;

1.体質によるもの

特発性思春期早発症(原因不明、体質的な):
・明らかな原因がなくゴナドトロピン(LH、FSH)が早期から分泌されます。
・頭部画像診断(MRIなど)に以上の見つからないタイプです。
・女子に多く発生します。

2.なんらかの病気が背景あるもの

脳腫瘍:男子では特発性思春期早発症は少ないため、脳に腫瘍がないかどうか画像診断で確認する必要があります。

hCG産生腫瘍:hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンをつくる腫瘍が存在することがあります。

(例)副腎腫瘍、卵巣腫瘍、精巣腫瘍など
頭部外傷、水頭症で発症することもあります。

3.実は正常の発達の範囲で病的ではないもの

 早期乳房発育症
・1~3歳頃に多く見られ、乳房のみの一時的な発育が見られます。
・低年齢の場合は、2~3年でなくなる場合が多いです。
・思春期の少し前、6~7歳でみられた場合、ホルモン値は上がっていなくても、
半年から1年以内に早めに思春期に突入することが多いです。

▢ 早期恥毛発育症
・思春期前に陰毛だけ発育することがあります。
・原因がわからない場合も多く、ホルモン値に異常がなければ治療の必要はないと言われています。

自律性機能性卵巣嚢腫(自律性反復性卵胞嚢腫):
・女児では生理的順序に従わない(乳房発育より先に初潮)思春期早発例があります。
・7歳までの女子で、卵巣の嚢胞が腫大してエストロゲンを多量に分泌する病気。
・一時的な乳房腫大や性器出血を起こすことがあり、繰り返すこともあります。
・腹部エコーで卵巣嚢胞が確認できます。
・一時的なもののことが多く、ただし何度も反復したり骨の伸びが止まりそうな場合は、
ホルモン剤による治療を行うこともあります。

症状・診断
・日本人女子の平均的な乳房発達開始時期はおよそ9歳半と言われており、
 +/-2歳程度は正常範囲です。
 → 7歳半以前に乳房の発達を認めた場合に思春期早発症を疑います。

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・以下の条件を満たす場合に思春期早発症と診断されます。
 ✓ 上記思春期兆候を2つ以上満たす場合
 ✓ 思春期兆候が1つでも、年齢不相応な身長の著明な伸び、あるいは骨成熟の明らかな進行
 ✓ 身長が低いにもかかわらず思春期兆候が表れたときは、診断基準年齢を1歳高くして治療を検討。

検査
・血液検査:ゴナドトロピン(LH、FSH)、性ホルモン(男性はテストステロン、女性はエストラジオール:E2)、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)
・画像検査:頭部・腹部の超音波、MRIなど。
・手根骨X-ray

治療
前述の思春期早発症の問題点を解決する目的で治療をします;

1.早期に体が完成してしまうために一時的に身長が伸びたのち、
 小柄のままで身長が止まってしまいます。

→ 小柄のうちに体が完成しないようにして、
 身長が伸びる期間を確保し長くすることで、
 大人になったときの身長が極端に小柄にならないようにします。


2.幼い年齢で乳房・陰毛、月経などが現れるため、
 本人や周囲が戸惑う心理社会学的問題が起きます。

→ 幼い年齢で男性化・女性化が進み、
 本人や周囲が精神的負担を感じないようにします。


3.まれですが、脳などに思春期を進めてしまう原因になる病変が存在することがあります。
→ 原疾患の治療を優先します。

3の腫瘍以外で、1と2の問題がないときは、治療しない場合もあります。
思春期早発症と診断された子どものすべてが治療対象になるわけではありません
さらに治療は最低限にとどめるべきとされています。
二次性徴を不必要に遅らせることは、
二次性徴期に獲得すべき骨塩量を減少させ、
将来的な骨粗しょう症発症リスクを上げるとされています。

特発性思春期早発症の治療>
・LH-RHアナログ(リュープリン®)を使用:4週間に1回ペースの皮下注射
・LH-RHアナログは下垂体から精巣・卵巣を刺激するLH, FSHを抑え、
 結果的に男性ホルモン・女性ホルモンの分泌が抑えられ、
 思春期の進行が緩徐となり、年齢不相応な月経などの思春期兆候を抑えます。
 さらに、骨の成長も緩徐となり、身長の伸びを悪くすることにもなりますが、
 体が完成するまでの期間を長くすることにより成人身長の改善を目指します。
 
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・LH-RHアナログによる治療は、
同じ量をただ4週に1回打ち続けるという単純なものではなく、
月々の身長、体重の推移、数か月に1回程度の血清ホルモン値の変化、
骨成熟の変化などを総合して治療量を変えていく必要があります。
・さらに治療中止のタイミングも、年齢的な問題、あとどれくらい伸びる余地があるか、
などを総合して決めることになります。

・1回目投与で女子の場合、性器出血が生じる可能性があります。
これは性成熟がある程度進行してから治療する場合に多く見られます。
通常、投与後1週間前後で生じます。
・治療中は生理はありません。始まっていた生理も止まります。
・ホルモン療法により周りの子と体の成熟に差がほとんどなくなったタイミングで治療を中止します。

・二次性徴は治療中止後、速やかに回復します。
・女子の場合、治療を始める前に性器出血があった場合は3~6か月以内、
性器出血がなかった場合は2年以内にほぼすべての例で月経が起こります。
・ホルモン療法が原因で将来の不妊につながる心配はありません。
・治療を終了し、注射をやめたからといってすぐに生理が来るわけではなく、
身長が伸びる、胸が膨らむ、発毛、生理が来るという順番で、だいたい1年かけて変化が現れます。
・生理が来るまでは通院して経過観察します。

★ ホルモン療法(LH-RHアナログ治療)をもう少し詳しく
・特発性思春期早発症では、下垂体から出るLHとFSHが高値になります。
・このLHとFSHの分泌を抑えるために、LHやFSHの分泌を促すGnRHというホルモンに似た作用を持つ薬(LH-RHアナログ)を注射してGnRHの受容体の機能を低下させます(ダウンレギュレーション)。
・そして本来体内から分泌されるGnRHホルモンが受容体と結合しないようにすることで、本来のGnRHが作用しないようにします。
・GnRHアナログで受容体をブロックし、体内から分泌されるGnRHがけつごうしないようにして思春期の進行を止める方法です。



<参考>

▢「思春期って何?」(厚生労働省女性の健康推進室ヘルスケアラボ)
#思春期が早い(思春期早発症)
#思春期が遅い(思春期遅発症)

▢「思春期早発症」(日本小児内分泌学会)

▢「思春期早発症について」(Neltoku小児科学)

▢「思春期早発症」(Medical Note)

▢「思春期早発症とは」「思春期早発症の診断・検査と治療法」  
(峰岸 敬先生:Medical Note)