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「不安」「過緊張」「イライラ」など、症状としては捉えにくい感情・情緒を扱ってきました。今回ははっきりとした症状としての「パニック障害・パニック発作」を取りあげてみます。
パニックは「不安と緊張の極致」というイメージですが、漢方(中医学)ではどう捉えているのでしょうか。
ほかの感情・精神症状は「心」と「肝」のアンバランスと説明されていますが、パニックでも心・肝のアンバランスがメイン、そして「脾」と「腎」が登場するのが特徴ですね。


▶ パニック障害

パニック障害は、不安感や恐怖感の高まり、動悸、めまい、ふるえ、冷や汗、呼吸困難などの症状を伴うパニック発作が突然起こる病気。このまま死んでしまうのではないか、という恐怖を感じることもある。


▶ パニック発作

心拍数や血流量の急激な変化は、本来は危機を察知した時に瞬時に対応するための自然な反応である。この仕組みが敏感すぎたり不安定だったりするために、とくに危険が迫っていないのにスイッチが入ってしまうのがパニック発作。

多くの場合、一回の発作は長く続くわけではなく、救急車で運ばれて病院に着いたころには症状がかなり治まっている。検査をしても異常がみつからないケースがほとんど。

しかしパニック発作は繰り返して起こることが多いため、発作がまた起こるのではないかという不安や恐怖を感じ続けることになる。

また、発作を起こした場所やそれに似た状況には近づけなくなり、例えば急行電車や飛行機に乗れなくなるなど、日常生活が制約されることになる。睡眠中など、リラックスしている状況で発作が生じる場合もある。


▶ パニック障害の西洋医学的治療

セロトニン・ノルアドレナリンなど脳内の神経伝達物質のバランスの失調がパニック障害と関係が深いという観点から、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、抗不安薬などが処方される。

▶ 漢方治療
漢方では、不安を感じやすいパニック体質を改善していくことにより、パニック障害の治療を進める。そこには五臓の心・肝・脾・腎が深く関与している。
基本は「心身一如」。心と体は切っても切れない関係にある、という漢方思考です。

パニック障害をはじめとする心のトラブルも、五臓の相互関係の不均衡と関係があります。つまり、五臓というからだ全体のバランスを安定させることにより、「不安体質」「パニック体質」を改善していきます。神経伝達という局所的な現象を化学薬品でコントロールする西洋医学とはまた別のアプローチでである。

 

▶ パニック体質の主な4つの証


(1)「脾気虚」証

・消化吸収や代謝機能をつかさどる五臓の脾が弱い体質。

・脾の機能が弱いので体内に十分な気血を供給できず、中枢神経系も衰弱しており、パニック発作を起こしやすくなっている。

・脾気虚で出やすい症状:疲れやすい、息切れ、軟便、白い舌 など

→ 体力や気力を補う漢方薬を。


◆ さらにこんなケースも
めまい、立ちくらみ、動悸、眠りが浅いなどの症状が顕著な時は、脾気虚に(2)の心血虚が合わさった「心脾両虚」。

(2)「心血虚」証

・精神活動をつかさどる五臓の心が血で満たされていない体質

不安を感じやすいのが特徴で、パニック障害を起こすことも多いタイプ。

・心血虚で出やすい症状;寝つきが悪い、めまい、立ちくらみ、夢をよく見る、など

→ 心血を補う漢方薬を。

◆ さらにこんなケースも
あせり、いらいらが見られる場合、驚きやすさ、強迫観念を併せ持つ場合など、さらに細かいケースに応じて処方を選ぶ。

(3)「肝鬱気滞」証

・情緒をつかさどる五臓の肝の気が鬱滞している体質。

刺激に敏感なため、パニック障害になりやすいタイプ。

・肝鬱気滞で出やすい症状;情緒不安定、いらいら、ヒステリー、下痢と便秘を繰り返す、など

→ 気の流れをよくする漢方薬を。


◆ さらにこんなケースも
いらいら、のぼせ、頭痛などが顕著な場合は熱をとる作用を加えた漢方薬を用いる。


(4)「腎虚」証

生命力の貯蔵庫ともいえる五臓の腎の機能が衰弱している体質。

心身ともに弱っている状態で、びくびくと恐怖を感じやすくなっている。

→ 腎を補う漢方薬で、体の根本から立て直していく。

 

◆ パニック障害に効果的な漢方薬

四君子湯、帰脾湯、酸棗仁湯、黄連阿膠湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、加味逍遙散


<参考>

パニック障害(幸福薬局)


 

参考にした本には、2剤併用による増強効果の例が掲載されており、
単剤で効果が今ひとつだった場合の“次の一手”として利用可能で助かります。
当院は精神科・心療内科ではないので向精神薬を希望あるいは必要な患者さんの診療はしていませんが、
思春期の不安症状に対しては漢方薬を提案しています。


■ 不安症状に対する漢方薬には、ベンゾジアゼピンやSSRIなどのような耐性や依存の問題はない。

■ 2剤併用による効果増強レシピ

半夏厚朴湯3包+四逆散(湯?)3包/日
半夏厚朴湯3包+大柴胡湯3包/日
・・・半夏厚朴湯証で、ストレスが強いときに柴胡剤を併用すると効果増強

香蘇散3包+半夏厚朴湯3包/日
・・・うつ症状に
香蘇散3包+六君子湯3包/日
・・・ストレスが原因で食欲がないとき(香砂六君子湯の方意)
香蘇散3包+小柴胡湯3包/日
・・・風邪の後の耳管狭窄、鼻涙管狭窄に(紫蘇散の方意)
香蘇散3包+八味地黄丸3包/日
・・・高齢者の耳鳴りに

加味帰脾湯2包+補中益気湯2包
・・・加味帰脾湯証で、元気のない状態が続くとき
加味帰脾湯2包+桂枝加竜骨牡蛎湯2包/日
・・・加味帰脾湯証で、ドキドキしやすい、驚きやすいときに

苓桂朮甘湯1包+甘麦大棗湯1包、発作時頓用 あるいは
苓桂朮甘湯1包+桂枝加竜骨牡蛎湯1包、発作時頓用
・・・パニック障害に

加味逍遥散3包+黄連解毒湯2包/日(のぼせ)
加味逍遥散2包+桃核承気湯2包/日(PMSの強いとき)
・・・加味逍遥散単剤では効果が弱いため、随伴症状に応じて多剤を併用

抑肝散2包+加味逍遥散2包/日
・・・抑肝散証で、イライラ、のぼせ、ほてりが強いときに併用

■ 不安障害・パニック障害の基本漢方薬

半夏厚朴湯(16):1回1包、1日3回、発作時頓用も可
・・・不安、息苦しさ、喉のつまり感、呼吸がしにくい(空気飢餓感)。几帳面・真面目な性格の人に有効。甘草を含まないため長期投与可能。
※ クラシエ、オースギに錠剤あり

香蘇散(70):1回1包、1日3回
・・・気分が晴れない、訴えが多彩、軽い風邪症状。

加味帰脾湯(137):1回1包、1日3回
・・・漠然とした不安感、不眠。心労による食欲不振、栄養障害、体力低下などに。「心配性で他人から見れば何でもないことが気になる」「ささいな身体症状で『癌ではないか』などとひどく不安になる」例に。
・・・不安神経症とは関係ないが、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)などに使用されることがある。
※ クラシエに錠剤あり

柴胡加竜骨牡蛎湯(12):1回1包、1日3回
・・・動悸(不整脈)、イライラ、悪夢、パニックに
・・・「悪夢・驚きやすい・動悸」が竜骨+牡蛎の使用目標
・・・メンタル系の訴えに頻用され、抑うつ・緊張感・イライラに有効
・・・期外収縮(ストレスが原因)の動悸を改善する
・・・鎮静効果を高めたいときは大黄含有製剤(ツムラ以外)を選択すべし
※ クラシエに錠剤あり

柴胡桂枝乾姜湯(11):1回1包、1日3回
・・・神経過敏、冷え、抑うつ、頭部発汗
・・・仕事や家事で頑張りすぎたときのストレスで起こる諸症状(不眠、倦怠感、元気がない等)に
・・・柴胡加竜骨牡蛎湯の虚証版であるが、使い分けが難しいことがある

桂枝加竜骨牡蛎湯(26):1回1包、1日3回
・・・神経過敏、脱毛、夢精、夜尿症
・・・体力が衰えているものの精神不安に
・・・女性で抑うつ傾向のある場合に
・・・夜尿症(小児〜成人まで)に
・・・円形脱毛症

加味逍遥散(24):1回1包、1日3回
・・・イライラ、漠然とした不安、更年期神経症
・・・気逆が主体だが、気虚・気うつにも有効
・・・愁訴(身体的愁訴と精神的愁訴)が多く、客観的な所見よりもオーバーな場合に
・・・症状が軽くなっても治ったと言わないことが多い
・・・更年期障害に対するホルモン療法はほてりや発汗には有効であるが、抑うつや不安感には効果が弱く、漢方併用が有用

抑肝散(54):1回1包、1日3回
・・・焦燥感、興奮、イライラ、不眠、チック、眼瞼けいれん、手足の震え
・・・イライラ、易怒性を目標に選択
・・・認知症の興奮に効果的
・・・「胸がモヤモヤする」(胸煩)に有効
・・・身体症状症(身体表現性障害)に

苓桂甘棗湯:1回1包、1日3回(頓用でも効果あり)
★ エキス剤にはないので、苓桂朮甘湯+甘麦大棗湯、あるいは苓桂朮甘湯+桂枝加竜骨牡蛎湯
・・・パニック障害、突き上げるような動悸発作
※ OTCにコタロー苓桂甘棗湯エキスがある。

神田橋処方:(四物湯1包+桂枝加芍薬湯1包)を1日3回
・・・PTSDによるフラッシュバック
・・・瀕死の重症や性被害のような重篤なものばかりでなく、上司や教師の叱責、友人の言葉などで起こる軽度のものにも対応する。

■ 不安症に対する第二選択薬

抑肝散加陳皮半夏(83):
・・・抑肝散(54)よりうつ傾向のある場合に有効

帰脾湯(65):
・・・不安感に。心配性で何気ないことで不安になったり、不眠になるときに


 <参考>
すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方(安斎圭一著、羊土社) 

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