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漢方医学には病態把握のための概念がいくつか存在します。
その一つで最も重要なのが「陰陽虚実」。
しかし、漢方家には日本古来の日本漢方と現代中国の中医学に分かれ、さらに日本漢方は古方派と後世方派に分かれ、結局3つの派閥があることになり、そして「虚実」概念の意味するところが微妙に違うという問題が指摘されています。
つまり、「虚実」を語る際に、それが古方派・後世方派・中医学のどれに基づくものか、正確を記するためにはあらかじめ確認しておく必要があるのです。

その違いをわかりやすく説明したセミナー(by 谷口聖明先生)を視聴したので、講義メモを備忘録として残しておきます。
下に示す項目の、

①③は「病気に対する反応性」
②は「体力・体格」
④は「精気」の過不足という抽象概念

という違いがありそうです。①②③④を強引にまとめると、

:体内エネルギー(精気)が充実 → 体力がある → 病原体に抵抗性あり
:体内エネルギー(精気)が不足 → 体力がない → 病原体に抵抗性なし

となりますか。
なお、「虚実中間」という言葉を古方派以外は使わないことを初めて知りました。

虚証
① 病邪に対して抵抗力が弱い状態
② 体力・体格・体質を総合的に判断し、虚弱な状態
③ 病勢が潜在化した状態
④ 精気の不足、または精気の不足によって引き起こされている病態

そして各派による違いは、
 古方派:①②③
 後世方派:①④
 中医学:④

実証
① 病邪に対して抵抗力が強い状態
② 体力・体格・体質を総合的に判断し、頑強な状態
③ 疾患活動性や病因に対する生体反応が亢進した状態
④ 精気の不足(虚証)以外の病的状態、つまり精気の過剰・停滞・変性・亢進などを指す

そして各派による違いは、
 古方派:①②③
 後世方派:①④
 中医学:④

虚実中間
① 虚と実の中間の状態
② 体力・体質・体格が虚弱と頑強との中間の状態
③ 病勢が顕在と潜在の中間的な状態
(解説)虚実中間証とは、虚実の偏りに乏しい状態を示す。腹力や脈の力にあっては、強弱が昼間を示すもの。主に近年の古方派で用いられる用語

以上を各派閥で整理し直すと、以下のようになります;

▶ 古方派の虚実

① 病邪に対して抵抗力が弱い状態
② 体力・体格・体質を総合的に判断し、虚弱な状態
③ 病勢が潜在化した状態

① 病邪に対して抵抗力が強い状態
② 体力・体格・体質を総合的に判断し、頑強な状態
③ 疾患活動性や病因に対する生体反応が亢進した状態
虚実中間
① 虚と実の中間の状態
② 体力・体質・体格が虚弱と頑強との中間の状態
③ 病勢が顕在と潜在の中間的な状態

▶ 後世方派の虚実

① 病邪に対して抵抗力が弱い状態
④ 精気の不足、または精気の不足によって引き起こされている病態

① 病邪に対して抵抗力が強い状態
④ 精気の不足(虚証)以外の病的状態、つまり精気の過剰・停滞・変性・亢進などを指す
虚実中間】なし

▶ 中医学の虚実

④ 精気の不足、または精気の不足によって引き起こされている病態

④ 精気の不足(虚証)以外の病的状態、つまり精気の過剰・停滞・変性・亢進などを指す
虚実中間】なし



・・・私がイメージする「虚実」は日本漢方の古方派に近いことを改めて認識しました。中でも、②のイメージが近いです。聴講してきたセミナーの講師や啓蒙書の多くが古方派だったのでしょう。

「不安」「過緊張」「イライラ」など、症状としては捉えにくい感情・情緒を扱ってきました。今回ははっきりとした症状としての「パニック障害・パニック発作」を取りあげてみます。
パニックは「不安と緊張の極致」というイメージですが、漢方(中医学)ではどう捉えているのでしょうか。
ほかの感情・精神症状は「心」と「肝」のアンバランスと説明されていますが、パニックでも心・肝のアンバランスがメイン、そして「脾」と「腎」が登場するのが特徴ですね。


▶ パニック障害

パニック障害は、不安感や恐怖感の高まり、動悸、めまい、ふるえ、冷や汗、呼吸困難などの症状を伴うパニック発作が突然起こる病気。このまま死んでしまうのではないか、という恐怖を感じることもある。


▶ パニック発作

心拍数や血流量の急激な変化は、本来は危機を察知した時に瞬時に対応するための自然な反応である。この仕組みが敏感すぎたり不安定だったりするために、とくに危険が迫っていないのにスイッチが入ってしまうのがパニック発作。

多くの場合、一回の発作は長く続くわけではなく、救急車で運ばれて病院に着いたころには症状がかなり治まっている。検査をしても異常がみつからないケースがほとんど。

しかしパニック発作は繰り返して起こることが多いため、発作がまた起こるのではないかという不安や恐怖を感じ続けることになる。

また、発作を起こした場所やそれに似た状況には近づけなくなり、例えば急行電車や飛行機に乗れなくなるなど、日常生活が制約されることになる。睡眠中など、リラックスしている状況で発作が生じる場合もある。


▶ パニック障害の西洋医学的治療

セロトニン・ノルアドレナリンなど脳内の神経伝達物質のバランスの失調がパニック障害と関係が深いという観点から、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、抗不安薬などが処方される。

▶ 漢方治療
漢方では、不安を感じやすいパニック体質を改善していくことにより、パニック障害の治療を進める。そこには五臓の心・肝・脾・腎が深く関与している。
基本は「心身一如」。心と体は切っても切れない関係にある、という漢方思考です。

パニック障害をはじめとする心のトラブルも、五臓の相互関係の不均衡と関係があります。つまり、五臓というからだ全体のバランスを安定させることにより、「不安体質」「パニック体質」を改善していきます。神経伝達という局所的な現象を化学薬品でコントロールする西洋医学とはまた別のアプローチでである。

 

▶ パニック体質の主な4つの証


(1)「脾気虚」証

・消化吸収や代謝機能をつかさどる五臓の脾が弱い体質。

・脾の機能が弱いので体内に十分な気血を供給できず、中枢神経系も衰弱しており、パニック発作を起こしやすくなっている。

・脾気虚で出やすい症状:疲れやすい、息切れ、軟便、白い舌 など

→ 体力や気力を補う漢方薬を。


◆ さらにこんなケースも
めまい、立ちくらみ、動悸、眠りが浅いなどの症状が顕著な時は、脾気虚に(2)の心血虚が合わさった「心脾両虚」。

(2)「心血虚」証

・精神活動をつかさどる五臓の心が血で満たされていない体質

不安を感じやすいのが特徴で、パニック障害を起こすことも多いタイプ。

・心血虚で出やすい症状;寝つきが悪い、めまい、立ちくらみ、夢をよく見る、など

→ 心血を補う漢方薬を。

◆ さらにこんなケースも
あせり、いらいらが見られる場合、驚きやすさ、強迫観念を併せ持つ場合など、さらに細かいケースに応じて処方を選ぶ。

(3)「肝鬱気滞」証

・情緒をつかさどる五臓の肝の気が鬱滞している体質。

刺激に敏感なため、パニック障害になりやすいタイプ。

・肝鬱気滞で出やすい症状;情緒不安定、いらいら、ヒステリー、下痢と便秘を繰り返す、など

→ 気の流れをよくする漢方薬を。


◆ さらにこんなケースも
いらいら、のぼせ、頭痛などが顕著な場合は熱をとる作用を加えた漢方薬を用いる。


(4)「腎虚」証

生命力の貯蔵庫ともいえる五臓の腎の機能が衰弱している体質。

心身ともに弱っている状態で、びくびくと恐怖を感じやすくなっている。

→ 腎を補う漢方薬で、体の根本から立て直していく。

 

◆ パニック障害に効果的な漢方薬

四君子湯、帰脾湯、酸棗仁湯、黄連阿膠湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、加味逍遙散


<参考>

パニック障害(幸福薬局)


 

「不安」「過緊張」の次は「イライラ」を扱います。
さて、「イライラ」ってなんでしょう。AIに聞いてみました;

Q.  イライラする心理的な原因は?
A.  イライラする心理は、「理想と現実のギャップ」や「期待とのズレ」から生じる不快感で、ストレス・疲労・睡眠不足・ホルモンバランスの乱れ・完璧主義などが原因となり、心身の余裕がない時に起こりやすく、物事が思い通りにならない状況で生じます。背景にはストレスの蓄積、対人関係の不満、そして「こうあるべき」という強い思いがあり、自己嫌悪や孤立感、時にはうつ状態にもつながるため、原因を見つけて適切なケア(休息、リラックス、環境調整など)をすることが大切です。
だそうです。質問を変えてみました。

Q.  イライラする心理は、不安、緊張、怒り、興奮のどの要素が中心ですか。
A.  
イライラ(苛立ち)する心理は、複数の感情要素が絡み合っていますが、一般的には「怒り」「不安」が中心的な要素であると考えられます。以下に、それぞれの要素がどのように関連しているかを解説します。
・怒り: イライラの最も直接的な構成要素です。自分の思い通りにならない状況や、妨害されていると感じたときに生じる「欲求不満(フラストレーション)」が根底にあり、それが怒りとして表現されます。
・不安: 物事が予期せぬ方向へ進むことへの恐れや、状況がコントロールできないことへの懸念がイライラを引き起こすことがあります。不確実性や将来への懸念は、緊張感や落ち着きのなさとして現れ、イライラに繋がります。
・緊張: 不安やストレスによって身体的・精神的な緊張状態が続くと、些細なことで感情的になりやすくなり、イライラとして現れます。
・興奮: 通常はポジティブな感情ですが、過度な興奮やエネルギーが行き場を失うと、落ち着きのなさや衝動的な反応を引き起こし、結果的にイライラした状態と感じることがあります。 

結論として、イライラは単一の感情ではなく、「怒り」を表面的な表現としつつ、その根底に「不安」や「緊張」といった感情が複合的に存在している状態と言えます。

なるほど。
心理学では「怒り」は二次的感情とされていますから、「不安」や「緊張」をベースにした「怒り」を表面的に感情表現した状態、ということですね。
「不安・緊張」 → 「怒り」 → 「イライラ」という構図かな。

では、この「イライラ」を中医学で捉えるとどうなるのか、幸井俊高先生の解説を読んでいきましょう。
ここでも登場するのは五臓論の「心」と「肝」です。


◆ イライラと中医学

・イライラは西洋医学では治療の対象とならないが、漢方では改善が可能。イライラの背景にある体質的な要因を見極め、その問題点を改善することで、イライラの出にくい体質に変えることができる。

・たとえば同じようなストレスがかかっても、すぐイライラする人もいれば、ぜんぜんイライラしない人もいる。また、生理前や更年期でイライラしてしまう、疲れているのでちょっとしたことでイライラする、などということもある。ストレスの強弱だけでなく、体質的な要因で、イライラしやすかったり、あまりイライラしなかったりする。

・漢方では、イライラは熱邪の仕業と捉える。心神が火熱によってかき乱されると、イライラが生じる。

◆ イライラが出やすい証


(1)「心火」証

心神をつかさどる五臓の「心」が燃えさかっている状態。じっとしていられず、あせりを感じ、落ち着かない。心火を冷ます漢方薬でイライラを鎮める。

(2)「肝火」証

情緒や自律神経系をつかさどる五臓の「肝」に過剰な熱がこもっている。怒りっぽい、すぐかーっとなる、ヒステリー、といった症状がみられる。漢方薬で肝にこもる火邪をさばく。


(3)「肝鬱」証

五臓の「肝」の気の流れが鬱滞しているため、小さな刺激に対しても敏感になっており、イライラしやすくなっている。


(4)「陰虚火旺」証

火熱を冷ますのに必要な陰液が不足している体質。ふつうならイライラしない些細なことにも反応しやすくなっており、いら立つ。漢方薬で陰液を補う。


***

・心火と肝火は、イライラの種がどんと大きくのしかかったときや、いくつかのイライラの種が積み重なって大きくなったときにみられやすい証。

・肝鬱と陰虚火旺は、ちょっとしたことに対しても慢性的にすぐイライラしやすいタイプの証。


以上の証のほかに、体内の過剰な水液が熱をもった「痰熱」証、肝の陰液が不足して肝の機能が失調して内風が生じる「肝陽化風」証なども、よくみられる。

◆ イライラに効果的な漢方


黄蓮解毒湯、三黄瀉心湯、清心蓮子飲、竜胆瀉肝湯、四逆散、加味逍遙散、大柴胡湯、六味地黄丸


<参考>

イライラ(幸福薬局)

私は主に日本漢方を勉強してきました。しかし時々、限界を感じることもあります。中医学は概念論の極致なのでマスターするには大変なエネルギーが必要ですが、美味しいところをかいつまんで使わせてもらっています。

漢方の内蔵(概念)には「脳」がありません。感情は「七情」と細分類されていますが、これを五臓(心・肝・肺・脾・腎)に分配しているのです。つまり、人間の意識・精神活動を独立としたものと考えず、内臓とリンクしたものと捉えています。これは心と体がリンクして相互作用で成り立つ「心身一如」という概念の根拠になっています。心と体を分離して発展してきた西洋医学とは異なりますね。ただ近年、西洋医学も心と体を別に扱ってきたことを反省し、「腸脳相関」とか「慢性頭痛の背景にはうつ病が隠れている」と言い出していますね。

幸井俊高先生(幸福薬局)の解説から、ポイントと感じた箇所を抜粋させていただきました。
一読してみて、「不安」五臓論の心と肝の乱れが原因と読めます。私のイメージとして、心は精神活動をコントロールする新しい脳(大脳新皮質)、肝は感情・情緒をコントロールする古い脳(大脳辺縁系)です。ただし、細分類の心気虚・心血虚・心陰虚・心火や肝欝気滞・肝火などの概念が出てきますが、これは五臓論に気血水理論を合わせた概念です。すると複雑になり、理解しにくいですね。中医学ではこれが延々と続き、病態概念の数が限りなく増えていくので、私はそこでいつも挫折してきました。だから今は、あまり深入りしないようにしています。

なるほど!と感じたところは、
・心火と肝火は外的要因(ストレス・刺激が過剰)
・心気虚と心血虚は内的要因(身体が疲弊・弱って敏感)
くらいでしょうか。

また、漢方薬は羅列されているだけで、どの方剤がどの賞に対応するか分かりません。つまり、この解説を読んだだけでは自分に合った漢方を見つけられません・・・やはり専門書を紐解かないと答えにたどり着けないと思われます。

▶ 不安を中医学で捉えると
漢方では、不安感には五臓の心の機能不調が大きく影響していると考える。は五臓の一つであり、心臓を含めた血液循環(血脈)をつかさどるだけでなく、人間の意識や思惟など、高次の精神活動(神志)をもつかさどる臓腑である。この心の機能が弱ったり、十分潤わされなかったり、余分な熱を帯びたりすると、神志が不安定になり、不安感が生じる。また、精神情緒をつかさどる五臓のの機能が乱れて不安感が強くなる場合もある。

▶ 不安感がひどくなりやすい証


1.心気虚:血脈や神志をつかさどる心の機能(心気)が低下している体質。
・心気の不足により、不安感が生じる。ベースとなる気力や体力が弱いので、普通の人なら気にならないことでも気になってしまう。
・疲れやすい、動悸、息切れなどの症状もみられる。
・心気を補う漢方薬を用いる。

2.心血虚:心の機能を養う心血が不足している体質。
・過度の心労や、思い悩み過ぎ、過労が続くことにより心に負担がかかり、心血が消耗してこの証になる。心血の不足により神志が不安定になり、不安感が高まる。
・どきどきしやすく、驚きやすい。
・心血を潤す漢方薬を用いる。

3.心陰虚:心の陰液が不足している体質。
・心が十分潤わされず、不安感が生じる。些細なことにでも不安を感じる。
・心の陰液を補い、神志を安定させる漢方薬を用いる。

4.心火:神志をつかさどる心が過度の刺激を受けて亢進し、熱を帯びて心火となり、不安感が引き起こされている状態。
・じっとしていられず、あせりを感じ、不安で落ち着かない。悶々として目がさえて眠れない。
・心火を冷ます漢方薬を用います。


・・・以上の四つが、五臓の心の不調に関連して不安感が高まっている証の例。ほかにも以下のような証がある。

5.肝鬱気滞:五臓の肝の機能が乱れた状態。
・肝は、身体の諸機能を調節する臓腑。自律神経系や情緒の安定、気血の流れと関係が深く、ストレスや緊張で機能が乱れ、この証になる。
・気の流れが悪くなることにより、小さな刺激に対しても敏感になっており、不安感が高まる。
・肝の機能(肝気)の鬱結を和らげて、ストレス抵抗性を高める漢方薬を用いる。

6.肝火:肝鬱気滞に熱が加わった状態。
・強いストレスや激しい感情の起伏などで肝気が失調すると、肝気の流れが鬱滞して熱を帯び、この証になる。
・不安感のほかに、不眠、いらいら、怒りっぽい、ヒステリーなどの症状がみられる。
・肝気の流れをよくして肝火を鎮める漢方薬を用いる。

★ 心火と肝火は、不安の種が強くのしかかってきたときや、いくつかの不安の種が積み重なって大きくなったときにみられやすい証。
★ 心気虚や心血虚などの証は、ちょっとした小さなことに対してもすぐに不安を感じてしまう、慢性的に不安にさいなまれやすいタイプの証。


▶ 不安感に効果的な漢方薬


三黄瀉心湯、黄連解毒湯、清心蓮子飲、竜胆瀉肝湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、酸棗仁湯、黄連阿膠湯、帰脾湯、人参養栄湯、甘麦大棗湯、加味帰脾湯、四君子湯、炙甘草湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、四逆散、加味逍遙散、小柴胡湯



<参考>

不安感(幸福薬局)

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