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西洋医学ではまだこの「天気痛・気象病」の病態を捉えきれず、一方の漢方医学では「水毒」という概念が合致し、水毒に対する漢方薬が見事に効くという現実があります。

私も風邪で受診した患者さんを診察しているとき、水毒・水滞徴候(※)が目立つと、
「もしかして車酔いしやすいですか?」
と聞きます。ご家族は、

「なぜわかるんですか?」
と不思議がりますが、舌を診ると一目瞭然なのです。

そのような例には、ご希望により、五苓散を頓服薬として処方することがあります。


※ 水毒・水滞徴候:
✓ 胖大舌:舌がボテッとしてむくんでいる
✓ 歯痕:舌辺縁に歯形がある
✓ 振水音:上腹部を軽く叩くとポチャポチャ音がする


久手堅司先生の講義メモから、ポイントと感じた箇所を引用・抜粋させていただきます。


<ポイント>


▶ 治療の柱は以下の3つ:

① 投薬治療:漢方薬中心

② セルフケア指導:生活習慣の工夫、ストレッチや呼吸法の指導

③ 骨格の歪みを改善:パーソナルトレーニングやヨガ・ピラティスなど背骨の動きをよくする運動療法や、整体・鍼灸などを提案


▶ 第一選択薬は五苓散

✓ 水毒の徴候に気象病の症状が合致している。

✓ 五苓散は水毒を改善する利水剤の基本薬。体内の水分代謝異常を調整し、正常に戻す。

✓ 約70%に有効

✓ 肩こりを伴う例では筋弛緩薬を併用すると効果が出やすいが、副作用(眠気・筋力低下)もあるため、できれば単独投与する。

✓ 過去に五苓散の投薬歴があり無効例でも、1日3回服用してもらうと改善する例もある。最低2週間投与し、できれば4週間投与する。3〜4週から効果が出始める症例も多く、また、休薬後に「効いていた」と実感する患者さんもいる。


▶ 水毒でよくみられる症候

✓ 浮腫(水腫)

✓ 車酔い、悪酔い、嘔吐、下痢しやすい

✓ めまい、耳鳴、頭痛

✓ 冷え症

✓ 症状が季節と天候の影響を受ける


▶ 五苓散単独で手応えがない場合


五苓散+西洋薬

 ⇨ 緊張型頭痛:エペリゾン(ミオナール®)、チザニジン(テルネリン®)等

 ⇨ 片頭痛:バルプロ酸(デパケン®)、ロメリジン(ミグシス®)、プロプラノロール(インデラル®)、トリプタノール、等

 ⇨ めまい:ベタヒスチンメシル(メリスロン®)、ジフェニドール(セファドール®)等

 ⇨ 低血圧・起立性調節障害:ミドドリン(メトリジン®)、アメジニウム(リズミック®)等

※ CGRP関連抗体薬使用例では、五苓散は補足的な立場になる。ただし、五苓散が有効な場合が多く、CGRP関連抗体薬導入に至る例は少ない。

五苓散+漢方薬

 ⇨ 緊張性頭痛:葛根湯(1)

 ⇨ 片頭痛:呉茱萸湯(31)

 ⇨ めまい:半夏白朮天麻湯(37)、苓桂朮甘湯(39)

 ⇨ 低血圧・起立性調節障害:苓桂朮甘湯(39)、麻黄附子細辛湯(127)

 ⇨ 全身倦怠感・だるさ:補中益気湯(41)

 ⇨ 不眠:抑肝散(54)

 ⇨ 生理不順:当帰芍薬散(23)

 ⇨ 胃腸不良:六君子湯(43)


▶ 五苓散からの切り替え

・半夏白朮天麻湯(37):めまい、頭痛

・苓桂朮甘湯(39):めまい

・葛根湯(1):肩こり・頭痛

・呉茱萸湯(31):片頭痛・冷え

・抑肝散(54):不眠

・補中益気湯(41):倦怠感・虚弱体質

・六君子湯(43):胃の不調、食欲低下、易疲労


小児科医の私は、子どもの“こころのトラブル”の相談を時々受けます。

・乳幼児期の夜泣き
・幼児期のかんしゃく
・幼児・学童期の反復性腹痛(過敏性腸症候群)
等々。さらに近年は、年長児・思春期の
・眠らない・眠れない
・だるくてつらい・朝起きられない、学校へ行けない
などの相談も増えてきました。

どれも検査で異常が検出できない訴えです。西洋医学では「ストレスを減らして様子を見ましょう」としか言えませんが、漢方では対応する薬が用意されています。なんと1800年前からあるのですよ(!)。昔の人も同じようなことで悩んできたのですね。

それらを紹介したいと思います。まず、子どもの成長とともに心の問題(小児心身症)の症状も変遷していきます。

(乳児期)夜泣き、憤怒けいれん(泣き入りひきつけ)
(幼児期)眠らない、夜驚症、反復性腹痛、かんしゃく
(学童期)眠らない、反復性腹痛・頭痛、チック、起立性調節障害
(思春期)眠れない、反復性腹痛・頭痛、摂食障害、起立性調節障害、過換気症候群・パニック

これらの症状は西洋医学の視点では以下の5つに分けられることに気づきます。そして対応する代表的な漢方薬を列記しますと、
 
1.睡眠障害夜なき・眠らない・眠れない
 → 甘麦大棗湯(72)、抑肝散(54)
2.反復性腹痛(過敏性腸症候群)よくお腹を痛がる
 → 小建中湯(99)、桂枝加芍薬湯(60)、四逆散(35)
3.反復性頭痛(天気痛・片頭痛)よく頭を痛がる
 → 五苓散(17)、柴胡桂枝湯(10)
4.起立性調節障害だるい、朝起きられない、学校へ行けない
 → 補中益気湯(41)、苓桂朮甘湯(39)、柴胡桂枝湯(10)
5.過換気症候群・パニック・不安
 → 苓桂甘棗湯:苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)
6.その他:かんしゃくチック 

となります。これらを中心に説明します。

 1.睡眠障害

(乳児期)夜泣き
・泣き虫、シクシク泣く、不安 → 甘麦大棗湯(72)
・怒りんぼ、ギャーギャー泣く、かんしゃくもち → 抑肝散(54)
★ 泣き入りひきつけ(憤怒けいれん) → 甘麦大棗湯(72) 
 
(幼児期・学童期)眠らない・眠れない
~ 現在、子どもの4〜5人に1人に睡眠問題があります。夜10時以降に就寝する子どもの割合は1~3歳の半分以上。
・不安・泣き虫・あくび → 甘麦大棗湯(72)
・神経質・イライラ・多動 → 抑肝散(54)
・反復性腹痛・虚弱 → 小建中湯(99)
・鼻閉・口を開けて寝ている → 葛根湯加川芎辛夷(2)

(思春期)眠れない
・不安 → 甘麦大棗湯(72)
・イライラ・興奮 → 抑肝散(54)
・動悸・ストレス・恐怖 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
・うつうつ、不安だらけ → 加味帰脾湯(137)
・心身ともに疲れて眠れない → 酸棗仁湯(103)

 2.反復性腹痛(過敏性腸症候群)
基本:小建中湯(99)
・虚弱体質で登園・登校前にお腹が痛くなる、イベントの前になるとおなかが痛くなるタイプに有効
(例)マンガ「ちびまる子ちゃん」に出てくる山根君
応用:
桂枝加芍薬湯(60):(小学校高学年以降の)過敏性腸症候群
柴胡桂枝湯(10):小中学生でストレスまみれ、他に頭痛やだるさも訴える
四逆散(35):中高生でストレスが強く常に緊張、緊張で手が震える、手掌発汗
芍薬甘草湯(68):痛みが強いときに頓服で使用
★ 番外編:のど・胸のつかえ感・違和感 → 半夏厚朴湯(16)

3.反復性頭痛(天気痛・緊張性頭痛・片頭痛)
・気圧変化(低気圧・悪天候)による → 五苓散(17)、苓桂朮甘湯(39)、半夏白朮天麻湯(37)
・筋緊張性頭痛 → 柴胡桂枝湯(10)
・スマホ・パソコンのやりすぎ → 治打撲一方(※)、治打撲一方(89)川芎茶調散(124)
・神経質・イライラ・多動 → 抑肝散(54)
・嘔吐・冷房痛・胃腸虚弱 → 呉茱萸湯(31)
・虚弱体質(+腹直筋緊張)→ 小建中湯(99)
・月経関連頭痛 → 当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25)

治打撲一方(89)の応用(井上博喜Dr.の意見)
 便秘なし → 桂枝茯苓丸へ変更
 瘀血 → 桂枝茯苓丸を追加
 臍痛点 → 葛根湯(あるいは葛根加苓朮附湯)追加
 天候で悪化 → 五苓散を追加
 慢性化 → 加附子 
 ストレス → 柴胡剤追加

4.起立性調節障害

 「朝起きられない」ときに考えるべき病気:
① 体を起こせない(起立性調節障害)
② 目が覚めない(睡眠覚醒リズム障害) → 睡眠の専門医へ
③ そもそも起きたくない(心理社会的要因) → カウンセリングへ
→ 以上を考慮し、①と判断したら漢方薬の出番

 起立性調節障害の諸症状に合う漢方薬
・朝起きられない+だるい・しんどい → 補中益気湯(41)
・朝起きられない+めまい・たちくらみ、車酔い → 苓桂朮甘湯(39)(※)
        +胃腸虚弱・頭痛・めまい  → 半夏白朮天麻湯(37)
・おなかが痛い+虚弱        → 小建中湯(99)
・おなかが痛い+頭が痛い・ストレス → 柴胡桂枝湯(10)
・心身症(ストレスが主因)→ 抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)、
               柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
・生理中に悪化傾向  → 当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25)

※ 苓桂朮甘湯の効果が今一つの場合は、+四物湯(71)(連珠飲の方意)
 連珠飲はめまいのみでなく、婦人病全般に有用(浅田宗伯)。

 倦怠感+α に効く漢方薬
・倦怠感がとにかく強い    → 補中益気湯(41)
・倦怠感 + 貧血・皮膚乾燥  → 十全大補湯(48)
・倦怠感 + めまい・頭痛   → 半夏白朮天麻湯(37)
・倦怠感 + 不安・落ち込み  → 加味帰脾湯(137)
・倦怠感 + 胃もたれ・冷え  → 六君子湯(43)

★ フクロウ型体質(山本巌先生・惠紙英昭先生)
・自覚症状
 ✓ 午前中調子が悪い、15時ごろから元気になる
 ✓ 夜は早く眠ろうと思っても眠れない
 ✓ 朝食は欲しくない
 ✓ めまい、たちくらみがある
 ✓ 頭痛、肩こり、心悸亢進
・体質
 ✓ やせ型が多い
 ✓ 冷え症で手足が冷たい
 ✓ 暖かいところにいると気分が悪くなる
 ✓ 長湯はできない
・他覚的所見
 ✓ 顔色が青い、結膜や更新の色は紅い
 ✓ 舌は湿潤、脈は沈、腹壁は比較的薄く、心窩部浸水音あり
 → これらの症状に苓桂朮甘湯(39)が有効、
 倦怠感が強いときは苓桂朮甘湯(39)+補中益気湯(41)が有効

 起立性調節障害の一部が不登校につながります。
不登校になる前の体の不調:
・頭痛・腹痛
・疲れやすい
・眠れない
・朝起きられない
 → 以上がやがて、不安・抑うつ・不登校につながる。

5.不安・パニック・過換気症候群

● 近年の不登校の原因の第一位は「漠然とした不安」です。
不登校の要因ベスト5(令和4年、文科省):
① 無気力・不安(52%)
② 家庭の問題(13%)
③ 生活リズムの乱れ(11%)
④ 学校の問題(11%)
⑤ 友人関係(9%)

 不安感に対する漢方薬
・悲しみ・パニック・感情失禁  → 甘麦大棗湯(72)
  単剤で効果不十分 → (苓桂甘棗湯)苓桂朮甘湯甘麦大棗湯(72)
  慢性期には    → 苓桂朮甘湯桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・喉のつまり     → 半夏厚朴湯(16)
・不安で心配でたまらない、体力なし、無気力 → 加味帰脾湯(137)
・ストレス、動悸、体力あり → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

★「粉薬は飲めない!」という年長児には錠剤も:
・ストレスが強い・動悸・イライラ
 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)(抑肝散、甘麦大棗湯の代わりに)
・過敏性腸症候群
 → 桂枝加芍薬湯(60)(小建中湯の代わりに)
・頭痛・腹痛・緊張が強い → 柴胡桂枝湯(10)
・だるい・疲れた → 補中益気湯(41)
・喉のつまり → 半夏厚朴湯(16)

6.その他
かんしゃくこちらを参照)
チックこちらを参照)
 
 
<参考>
方剤解説(この項目で紹介した漢方薬) 

当院では西洋医学を基本に診療していますが、西洋医学では手が届かない病態や悩みには、漢方薬の使用を提案しています。
“漢方を飲む”というハードルを越えるとたいてい手応えがあるので、飲めたお子さんはリピーターになります。

約2000年の歴史がある漢方薬は、歴史の荒波にさらされても残ってきました。そしてあらゆる症状に対応できます。
カラダとココロの不調に悩んでいる方、一緒にあなたに合う漢方薬を探しませんか。 


▶ 子どもに漢方?

▶ 漢方薬の上手な飲ませ方

▶ マルツエキスで漢方薬を飲ませる方法

▶ 水いぼ(伝染性軟属腫)のお話

▶ 頭痛(天気痛)

▶ 発達症(ADHDやASD)の“困りごと”に漢方を試してみませんか

▶ 自閉症スペクトラム(ASD)の漢方治療〜その1 

自閉症スペクトラム(ASD)の漢方治療〜その2
 

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