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宮内倫也先生による神経発達症と漢方の公園を視聴しました。
西洋医学的知識と漢方医学的解説の両方が出てきて役に立ちました。
漢方薬を考える際は、やはりここでも「五臓論」が登場します。

ASDの発症因子の解説を興味深く聴きました。
リスクが2倍以上になる因子は、
① 出生時の要因:早産、新生児仮死、妊娠感覚が1年未満
② 両親の年齢:母>40歳、父>50歳
・・・私が常々感じてきたことと一致しました。

メンタル不調を訴える思春期の患者さんを診療していると、とにかく「不安」が強いことが印象的です。ASDの子どもたちも、コミュニケーションが苦手で社会参加が十分にできないことから、さらに不安が増すことが考えられます。

一方、ADHDの併存症はASDと少し異なります。生活上のストレスにより自己評価が低下し、それをきっかけに悪循環、それが・・・
(内在化)うつ病、双極症、不安症
(中間)複雑型PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症
(外在化)物質使用症、反抗挑戦症、素行症、反社会性パーソナリティ症
と、一部は精神疾患につながるとのこと。

また、神経発達症を五臓論で解釈すると、ADHDとASDは異なる捉え方をしていました。

・ADHD

腎:腎精不足

肝:肝陽上亢・肝風内動

心:心火偏亢・心神不安

・ASD

脾:脾胃虚弱・痰迷心竅

肺:肺虚熱・肺失粛降
ASD/ADHD併存

気血両虚による心血/肝血不足(虚熱)

肺失粛降による肝火/心火



▶ 脳内のシナプスの刈り込みと疾患

・小児期はシナプス形成が盛んで、思春期以降に刈り込みが行われ、成人期に安定する。

(ASD:自閉スペクトラム症)シナプス形成が過剰、刈り込みが不十分

(SZ:統合失調症)シナプス形成はふつう、刈り込みが早期で過剰

(AD:アルツハイマー病)シナプス形成はふつう、老年期に刈り込みが過剰


▶ ASD(自閉症スペクトラム)の因子(Odds/relatibe risk ratio)

・新生児仮死(低酸素血症) → 1~8

・妊娠糖尿病 → 1.5

・妊娠中のバルプロ酸 → 1.5

・妊娠間隔が1年未満 → 2

・高齢出産(>40歳) → 1~2

・父が高齢(>50歳) → 1~3

・兄弟がASD → 8~10

・早産 → 1~4

・母の肥満 → 1~1.5

・葉酸摂取 → <1


▶ ASDの特性(Nat Rev Dis Primers. 2020 Jan 16;6(1):5)

神経生物学的な特性(脳機能・神経発達の違い)

・知的障害、非定型的な対人交流(対人コミュニケーションの特性)

   ⇩

・学業達成の制限、限定的・制限された社会経験

  ⇩

・社会的・経済的機会の減少


ASDの併存症(Nat Rev Dis Primers. 2020 Jan 16;6(1):5)

【幼児期】~6歳頃

不安症(50%)

ADHD(40%)

・限局性恐怖症(40%)

・反抗挑戦症/素行症(20%)

【小児期~思春期】~12歳頃

不安症(30%)

ADHD(30%)

・反抗挑戦症/素行症(15%)

【成人期】

不安症・社交不安症(30%)

・うつ病(20%)

・強迫症・強迫性障害(20%)


▶ ADHDと睡眠の問題

ADHDが主体:ADHD症状が睡眠問題をもたらす/増悪させる

相互作用:相互因果関係/共通の病因

睡眠の問題が主体:睡眠の問題がADHDをもたらす/ADHDをミミックする


ADHDの併存症

一押しとなる要因

・自己評価低下

・心的外傷

・低IQ

・人格形成への影響

以上により、

 → 内在化すると・・・うつ病、双極症、不安症

 内在化と外在化の中間・・・複雑型PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症

 → 外在化すると・・・物質使用症、反抗挑戦症、素行症、反社会性パーソナリティ症


▶ ASDに併存するADHDはADHDなのか?

ASD:コミュニケーションの症状

ASD/ADHD合併症:認知の不安定性の症状、FPNの乱れ

ADHD:認知の不安定性の症状、DANの乱れ

※ FPN:frontoparietal network,  DAN:default mode network


▶ 神経発達症では正気(気血津液)+「精」が重要

先天の精

・両親から受け継いだ生命の基礎物質(気血津液の源)

・成長、発育、生殖のベースとなる。

・絶えず後天の精の補充を受け、腎で腎精として蓄えられる。

後天の精

・後天的に飲食(水穀)を脾胃が消化吸収して得られる栄養物質

・全身の臓腑組織へ運ばれ、それぞれの生理機能の働きを果たす上で基本物質となる。

・絶えず腎に集まり、先天の精の働きを補う。

腎精と気血津液のイメージ

・腎精:ダムにたまった水

・気:その水が流れ落ちて発生する電気

・血:水が運び出す養分

・津液:水が周囲を湿らせるうるおい


▶ 知的発達症を含む神経発達症

・先天の精の不足(腎精不足)と考えられている。

五遅五軟

 五遅:立遅、行遅、髪遅、歯遅、語遅

 五軟:頭軟、項軟、手軟、足軟、口軟


▶ “虚熱”を理解する

腎精不足により“水不足”となることで、大地は干上がって温暖化が進んでしまう。

・一時的な熱は「実熱」、二次的な熱は「虚熱」

・虚熱は冷ますだけでは解決しない。

① 水不足 → 水を補う

② 温暖化 → 熱を冷ます


▶ 熱により生まれる痰

津液により煮詰まってドロドロになる。

・さらに熱により脾や肺の水分代謝バランスが崩れ、が持続的に生まれる。

・脾胃は生痰の源、肺は貯痰の器

・この痰が様々な症状につながり、張景岳が「怪病気病は痰に属す」と述べるほど。


▶ 生津と化痰のバランス

・虚熱では水不足を想定するため生津作用を意識する。

・痰がたまることに対しては化痰作用(水を散らす)を意識する。

(例)麦門冬湯・・・半夏と麦門冬

(例)柴胡桂枝乾姜湯・・・乾姜と栝楼根


▶ 神経発達症は腎が基盤となる

1.腎

・生命の貯蔵庫

・発達の土台

・脳の成長

2.肝

・情緒の交通整理

・感情やそれに基づく行動の制御

3.心

・精神の司令塔

・精神、意識、睡眠、言葉

4.脾

・エネルギー工場

・思考の整理、脳への栄養補給

5.肺

・バリア

・感覚フィルター、呼吸


▶ ADHDと五臓

1.腎 ・・・腎精不足

2.肝 ・・・肝陽上亢・肝風内動

3.心 ・・・心火偏亢・心神不安


▶ ASDと五臓

4.脾 ・・・脾胃虚弱・痰迷心竅

5.肺 ・・・肺虚熱・肺失粛降


▶ ASD/ADHD併存と五臓

・気血両虚による心血/肝血不足(虚熱)

・肺失粛降による肝火/心火

▶ 神経発達症の症状と五臓

2.肝 → 多動性・衝動性

2&3 → 焦燥・てんかん発作

3.心 → 不安・不眠・不注意

4.脾 → こだわり・疲労

5.肺 → 感覚過敏


▶ 神経発達症に対する漢方薬


心・肝の問題が大きい場合

大柴胡湯(8)+抑肝散(54)・・・飯田処方

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)+抑肝散(54)・・・飯田処方変法


突発的な症状が大きい場合

大柴胡湯(8)+甘麦大棗湯(72)・・・甘麦大棗湯は養心安神作用や補気健脾作用(肺虚熱も静まる)で様々なASD症状への配慮あり、ただし甘草が多いので注意。

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)+甘麦大棗湯(72)・・・大柴胡湯と柴胡加竜骨牡蛎湯は甘草を含まない点で合方しやすい。


フラッシュバックの場合:心血の著しい虚のことが多いと理解されている

四物湯(71)+桂枝加芍薬湯(60)・・・神田橋処方

十全大補湯(48)+小建中湯(99)・・・神田橋処方変法

フラッシュバック怒りを伴う場合

温清飲(57)+桂枝加芍薬湯(60)・・・神田橋処方に清熱を噛ませる。

脳波異常がある場合

柴胡桂枝湯(10)+桂枝加芍薬湯(60)・・・相見処方。「脾胃は生痰の源、肺は貯痰の器」。てんかんは痰迷心竅や風痰が原因、桂枝湯成分でしっかりと痰を捌いている。

感覚過敏からの易刺激性がある場合

人参養栄湯(108)・・・遠志による開竅作用や五味子によるの生津作用もあり、五臓をカバーしたマルチプレイヤー。気血両虚が目立つ場合はASDの一時的な病態に伴う諸症状に対して気長に使いたい方剤(人参養栄湯+大柴胡湯など)。

竹筎温胆湯(91)・・・竹筎によるの清熱化痰作用が特徴であり、人参や茯苓による補気健脾作用も期待できる。長期の使用で清熱化痰が気になるときは、帰脾湯や人参養栄湯との合方で使用する。

天候に左右される場合

茵蔯五苓散(117)・・・清熱利湿作用を持つので、天候に左右されやすい諸症状や口渇やイライラなどを併せ持つときに有効(化痰作用は弱い)。長期の使用で清熱利湿が気になるときは、帰脾湯(65)や人参養栄湯(108)との合方で使用する(人参養栄湯との合方は神田橋処方2号

血虚・虚熱が目立つ場合

六味丸(87)・・・腎陰虚に特化している。気虚がなく血虚が目立つ場合はASDの一時的な病態に伴う諸症状に対して気長に使いたい方剤(六味丸合柴胡加竜骨牡蛎湯など)


▶ 状況に合わせてアレンジする

イライラが強い
・まず肝の問題を収めてから脾や肺や腎の長期カバーに入るか
・両方への配慮をした処方を最初から行うか。

疲労や感覚過敏が大きい
・まず脾や肺を立て直す。



<漢方関連記事の目次>

▢ 総論
子どもに漢方?
漢方薬の上手な飲ませ方
漢方の飲ませ方のコツ
マルツエキスで漢方を飲ませる方法
漢方の副作用

▢ かぜ
風邪の経過と漢方
 ・風邪のひき始め(2剤併用)
 ・風邪を引いて数日(2剤併用)
 ・風邪がよくならない
発熱
咽頭痛

咳(2剤併用)
鼻汁・鼻閉
鼻汁・鼻閉-1
鼻汁・鼻閉-2
副鼻腔炎(ちくのう症)

▢ お腹の症状
悪心・嘔吐(2剤併用)
食欲不振・倦怠感(2剤併用)
下痢(2剤併用)
便秘(2剤併用)
しゃっくり(2剤併用)

▢ いろいろな不調
夜なき
かんしゃく・夜なき
睡眠の悩み(夜なき・眠らない・眠れない)
不眠症
不眠症(2剤併用)
偏食
チック
熱中症
多汗症・寝汗
冷え性(2剤併用)

▢ 頭痛
頭痛
頭痛(2剤併用)
頭痛(天気痛)
天気痛・気象病

▢ 神経発達症(ASD/ADHD)関連
神経発達症の困りごと
自閉症スペクトラム-1
自閉症スペクトラム-2
神経発達症と五臓論
・神経発達症に使用される西洋薬・漢方薬(作成中)
・HSP(繊細さん)(作成中)

▢ 皮膚の病気
水いぼ
じんましん
じんましん(2剤併用)
ニキビ(総論)
ニキビ
ニキビ(2剤併用)
ニキビ
帯状疱疹(2剤併用)

▢ 思春期の心のトラブル&メンタルの不調
メンタルの不調
気分(ドキドキ、イライラ、ウツウツ)
不安
不安障害・パニック(2剤併用)
動悸(2剤併用)
ストレスによる体調不良
心のトラブル
心のトラブル(方剤解説)
のどの違和感(2剤併用)

▢ 起立性調節障害(OD)・自律神経失調症関連
起立性調節障害(病気の解説)
起立性調節障害(気ぐすり)
起立性調節障害-1
起立性調節障害
起立性調節障害-2(フクロウ型体質)
起立性調節障害-3(水毒)
自律神経失調症
OD漢方:基本処方
OD漢方:病態

▢ 月経関連
月経痛・生理痛
月経不順
月経関連のトラブル(月経痛/生理痛・生理不順)
月経関連トラブル(2剤併用)
PMS(月経前症候群)
PMS(月経前症候群)
・更年期障害(作成中)
更年期障害(2剤併用)

▢ 病態・理論
舌診
寺澤の気血水スコア
こどもの漢方医学的特徴は“二余三不足
「不安」を中医学で捉えると
「過緊張」を中医学で捉えると
「イライラ」を中医学で捉えると
・「パニック」を中医学で捉えると
メンタルの不調を「気」と「血」から捉えると
漢方医学における虚実概念の混乱
月経関連漢方を気血水理論から分析してみると

「自律神経失調症」という病名、怪しいですよね。

体調不良で医者にかかり、検査で異常が検出されないとこの病名がつけられる傾向があります。

あるいは、「気のせいでしょう」とか「心療内科・精神科へ行ってみますか?」と誘導されてショックを受けたり。


漢方好きの私から見ると、

「気のせい」=「気の異常」

です。

漢方医学では「気」という概念を用いてその患者さんの病態を把握し、それに見合う漢方薬を処方して治療してきました。

見立てが合えば、手応えがあります。


私は子どもたちのメンタルの不調を漢方で治療することを目標にしています。

乳幼児期の夜泣き、かんしゃく。

幼児学童期の寝ぼけ、自家中毒、登校・登園しぶり、反復性腹痛。

思春期の起立性調節障害、倦怠・疲労感、反復性腹痛・頭痛、不登校、メンタルの不調(不安・緊張・イライラ・ウツウツ)、等々。


今まで診療してきた印象では、「水毒」体質、「脾虚」体質の虚弱児が、ストレスにさらされてそれに反応し「気」の異常(気逆・気うつ・気虚)をきたしている病態であると考えています。


今回、谷川聖明先生による自律神経失調症のセミナーを視聴しました。

理論的でかつわかりやすくて、私のお気に入りの専門家です。

スライドを細見してみましたが、やはり捉えどころがないというか、頭の中で整理しにくいですね。

ポイントと感じた箇所を引用・抜粋させていただきます。


<ポイント>


▶ 自律神経失調症とは

・体の動きを自動で調節している「自律神経」のバランスが乱れ、さまざまな心身の不調が出る病態。

・身体症状:動悸、めまい、頭痛、だるさ、胃腸の不調、手足の冷え、発汗異常、不眠

・精神的な症状:不安感、イライラ、気分の落ち込み、集中力低下


▶ 気の異常(漢方医学的概念)

・気虚(気の不足):疲労倦怠、易疲労、気力低下、食欲不振、食後の眠気、風邪を引きやすい

・気滞(気の滞り):抑うつ、のどや胸のつまり感、腹部の張り、時間で症状が動く、排ガスが多い、ゲップが多い

・気逆(気の逆行):症状が発作的、冷えのぼせ、動悸、顔面紅潮、焦燥感、手足の汗、イライラ、驚きやすい


▶ 気の異常に対する代表的漢方薬 〜陰陽虚実の視点から〜

陽・実    → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

陽・虚実中間 → 半夏厚朴湯(16)

陽・やや虚  → 加味帰脾湯(137)

陽・虚    → 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)


▶ 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)

気逆に対応

・構成生薬の竜骨・牡蛎は動揺する精神を安定させる効果がある。

・適応:

✓ 体力が衰えている人で、症状の根底に強い不安感を抱いている場合に。

✓ 自律神経失調状態により神経過敏と也、動悸や不眠などの症状を訴える方に。

✓ 「悪夢を見る」というキーワードが使用目標になることがある。

✓ 比較的年配のやせ型の女性で、常に不安を感じオドオドしたタイプの方には特に有効。

・効果:愁訴の根底にある不安感を改善させることにより、諸症状を緩和することができる。


▶ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

・陰陽虚実:陽・実

・気血水:気逆、気滞が併存

・適応:ストレスにより交感神経芽か緊張状態となり、不安、抑うつ、イライラ、神経過敏などの精神神経症状を訴える場合。

・竜骨・牡蛎という精神安定作用を持つ生薬を含み、精神不安や抑うつ状態を改善する効果がある。

▶ 半夏厚朴湯(16)

・気血水:気滞

・年齢:ストレス世代

・徴候:

① 咽喉頭異常感症(咽中炙臠)

② 狭心症様症状・喘息様症状

③ 腹部膨満・腹痛・めまい

④ 神経質・几帳面

・適応:

✓ 心気的でこだわりが強い方

✓ 自分の症状をしっかりメモに書いてくるような方

✓ ストレスなどにより気の流れに停滞が生じ、気がうっ滞した部位に閉塞感やつまり感を自覚する方

✓ ヒステリー球、咽中炙臠、梅核気は本剤の使用目標

・心理傾向:末梢性気うつ

✓ 心理的葛藤を身体表現にして解放する。

✓ 精神的に行き詰まると、弱いところ・敏感なところに不快な症状として具体的に現れ、愁訴が安全弁になっている場合がある。

▶ 香蘇散(70)

・適応:① 胃腸虚弱・高齢者の風邪、② 食事性蕁麻疹

・年齢:虚弱者・中高年

・徴候:

① 食事性蕁麻疹

② うつ状態(無力様顔貌)

③ 腹部膨満・腹痛

④ かぼそい声・小さな字

・心理傾向:中枢性気うつ

✓ 心理的葛藤が内向し、鬱々悶々としている。

✓ 身体表現が下手で精神的な息詰まりを上手に解放できない傾向にある。

▶ 精神神経症状4処方の使い分け(気の異常と患者さんの特徴)

・気逆:打ち解けにくい → 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)

・気逆:打ち解けやすい → 加味逍遥散(24)

・気逆>気うつ:打ち解けにくい → 抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)

・気虚>気うつ:打ち解けやすい → 加味帰脾湯(137)


▶ 過剰適応(overadaptation)

・内的な欲求を無理に抑圧してでも、外的な期待や欲求にこたえる努力を行うこと。

・過剰適応になりやすい人の特徴:

✓ まじめ

✓ 頑張り屋

✓ 頼まれるとイヤと言えない

✓ 相手の期待に添う

✓ よいこ

▶ 代表的な婦人科処方薬の陰陽虚実

陽実:桂枝茯苓丸(25)

陽虚:加味逍遥散(24)

陰・虚実中間:温経湯(106)

陰虚:当帰芍薬散(23)


▶ 加味逍遥散(24)を構成する4つのユニット

① 当帰・芍薬・牡丹皮 → 補血、駆瘀血

② 茯苓・白朮・甘草・生姜 → 利水(胃腸の働きを整える)

③ 薄荷、山梔子 → 清熱(精神安定)・・・カッと熱くなって発汗し、スッと引くという「熱のふけさめ」

④ 柴胡 → 自律神経系の緊張緩和


▶ 加味逍遥散(24)

・証:陽虚、瘀血・気逆

・腹診:胸脇苦満、臍傍圧痛、臍上悸

・適応:

✓ 疲労しやすく、精神不安、不眠、イライラなどの精神神経症状

✓ 換気の高ぶりによる、上半身を中心とした熱感や発作性の発汗


▶ 柴胡桂枝乾姜湯(11)と加味逍遥散(24)の証

柴胡桂枝乾姜湯:気逆>気滞

加味逍遥散:瘀血・気逆>血虚・気滞・気虚



<生薬解説>

▶ 生薬解説「竜骨」

・古代の大型ほ乳動物の骨の化石(サイ、ゾウ、マンモスなど)。

・骨は人体でも最も硬い収斂した組織で「気の収斂力が高い」と考えられている。

・動揺する精神を安定させ、気持ちを座らせる効果がある。

・体に必要なものが外に漏れてしまうのを防ぐために用いられる。


▶ 生薬解説「牡蛎」

・牡蛎の殻

・動揺する心神・肝を重しを乗せるように安定させる。

・不安・動悸・不眠に対する鎮静剤。

・体に必要なものが外に漏れてしまうのを、殻で覆うかのように防ぐ。

(例)寝汗、失禁、夢精、帯下、等。


▶ 竜骨と牡蛎の違い(山本巌先生)

・両者の作用は似ている。ともに鎮静作用があり、精神を安定させ、胸腹の動悸を鎮め、弛緩作用がある。

・心悸・煩驚(神経過敏状態)・不眠・多夢などに用いる。

竜骨は安神作用が優れ、牡蛎は心悸を鎮める


▶ 生薬解説「茯苓」

・体から余分な水分を取り除く利水作用がある。

・水毒によるむくみ、めまい、胃内停水などを改善する。

脾の作用を高めることで気を補う効果があり、食欲不振、胃もたれ、嘔気・嘔吐などの消化器症状によく用いられる。

精神を安定させる(=安神)作用にも優れ、不安・不眠・動悸などの精神神経症状にも使用される。


▶ 生薬解説「大黄」

瀉下剤として用いられる。

清熱(抗炎症)活血(血の巡りを改善)する作用がある。

・活血や瀉下により気を下に下ろすことによって、のぼせや興奮など精神的に落ち着かない状態を改善する。


▶ 生薬解説「蘇葉」

・ふだん食用で用いる青じそではなく赤じそを使用する。シソの香りが強いものを良品とする。

・香りの作用で風邪(ふうじゃ)を追い払い、肺や脾胃の気を巡らせる理気作用がある。

・気滞を取り除くことで、嘔気・嘔吐・胸のつかえや不安感などを改善する。

・気滞の代表薬である香蘇散(70)や半夏厚朴湯(16)に含まれる。


▶ 生薬解説「薄荷」

・辛涼解毒剤

・清涼感のある香りが熱を冷まし気を巡らす

・薄荷含有方剤:川芎茶調散(124)、清上防風湯(58)、滋陰至宝湯(92)、竜胆瀉肝湯(76)


▶ 生薬解説「山梔子」

・清熱瀉火:三焦の火熱を瀉し、祛湿解毒する

・熱を冷まし気持ちを静める働き、大便溏泄作用

・山梔子含有方剤:黄連解毒湯(15)、温清飲(57)、加味逍遥散(24)、梔子柏皮湯、加味帰脾湯(137)

▶ 生薬解説「柴胡」

・気血水:気滞 → 理気薬

・気を巡らせ、体にこもった熱を発散させる。

・炎症を抑える。

・怒りの感情を穏やかにする。

・気を持ち上げる。

・ウツウツとした感情を回復させる。



<備考>

★ コタロー香蘇散(N70)の適応:長期処方可能

神経質で、頭痛がして、気分がすぐれず食欲不振を訴えるもの、あるいは頭重、めまい、耳鳴を伴うもの。

感冒、頭痛、じんま疹、神経衰弱、婦人更年期神経症、神経性月経困難症

★ コタローの加味逍遥散(N24)は男性にも処方できる

・頭痛、頭重、のぼせ、肩こり、倦怠感などがあって食欲減退し、便秘するもの。

・神経症、不眠症、更年期障害、月経不順、胃神経症、胃アトニー証、胃下垂症、胃拡張症、便秘症、湿疹



<参考>

・「自律神経失調症」に対する漢方治療(2026.6.4)

(谷川聖明:谷川醫院)

西洋医学ではまだこの「天気痛・気象病」の病態を捉えきれず、一方の漢方医学では「水毒」という概念が合致し、水毒に対する漢方薬が見事に効くという現実があります。

私も風邪で受診した患者さんを診察しているとき、水毒・水滞徴候(※)が目立つと、
「もしかして車酔いしやすいですか?」
と聞きます。ご家族は、

「なぜわかるんですか?」
と不思議がりますが、舌を診ると一目瞭然なのです。

そのような例には、ご希望により、五苓散を頓服薬として処方することがあります。


※ 水毒・水滞徴候:
✓ 胖大舌:舌がボテッとしてむくんでいる
✓ 歯痕:舌辺縁に歯形がある
✓ 振水音:上腹部を軽く叩くとポチャポチャ音がする


久手堅司先生の講義メモから、ポイントと感じた箇所を引用・抜粋させていただきます。


<ポイント>


▶ 治療の柱は以下の3つ:

① 投薬治療:漢方薬中心

② セルフケア指導:生活習慣の工夫、ストレッチや呼吸法の指導

③ 骨格の歪みを改善:パーソナルトレーニングやヨガ・ピラティスなど背骨の動きをよくする運動療法や、整体・鍼灸などを提案


▶ 第一選択薬は五苓散

✓ 水毒の徴候に気象病の症状が合致している。

✓ 五苓散は水毒を改善する利水剤の基本薬。体内の水分代謝異常を調整し、正常に戻す。

✓ 約70%に有効

✓ 肩こりを伴う例では筋弛緩薬を併用すると効果が出やすいが、副作用(眠気・筋力低下)もあるため、できれば単独投与する。

✓ 過去に五苓散の投薬歴があり無効例でも、1日3回服用してもらうと改善する例もある。最低2週間投与し、できれば4週間投与する。3〜4週から効果が出始める症例も多く、また、休薬後に「効いていた」と実感する患者さんもいる。


▶ 水毒でよくみられる症候

✓ 浮腫(水腫)

✓ 車酔い、悪酔い、嘔吐、下痢しやすい

✓ めまい、耳鳴、頭痛

✓ 冷え症

✓ 症状が季節と天候の影響を受ける


▶ 五苓散単独で手応えがない場合


五苓散+西洋薬

 ⇨ 緊張型頭痛:エペリゾン(ミオナール®)、チザニジン(テルネリン®)等

 ⇨ 片頭痛:バルプロ酸(デパケン®)、ロメリジン(ミグシス®)、プロプラノロール(インデラル®)、トリプタノール、等

 ⇨ めまい:ベタヒスチンメシル(メリスロン®)、ジフェニドール(セファドール®)等

 ⇨ 低血圧・起立性調節障害:ミドドリン(メトリジン®)、アメジニウム(リズミック®)等

※ CGRP関連抗体薬使用例では、五苓散は補足的な立場になる。ただし、五苓散が有効な場合が多く、CGRP関連抗体薬導入に至る例は少ない。

五苓散+漢方薬

 ⇨ 緊張性頭痛:葛根湯(1)

 ⇨ 片頭痛:呉茱萸湯(31)

 ⇨ めまい:半夏白朮天麻湯(37)、苓桂朮甘湯(39)

 ⇨ 低血圧・起立性調節障害:苓桂朮甘湯(39)、麻黄附子細辛湯(127)

 ⇨ 全身倦怠感・だるさ:補中益気湯(41)

 ⇨ 不眠:抑肝散(54)

 ⇨ 生理不順:当帰芍薬散(23)

 ⇨ 胃腸不良:六君子湯(43)


▶ 五苓散からの切り替え

・半夏白朮天麻湯(37):めまい、頭痛

・苓桂朮甘湯(39):めまい

・葛根湯(1):肩こり・頭痛

・呉茱萸湯(31):片頭痛・冷え

・抑肝散(54):不眠

・補中益気湯(41):倦怠感・虚弱体質

・六君子湯(43):胃の不調、食欲低下、易疲労


かぜを引いて小児科・耳鼻科を受診すると当たり前のように処方されるかぜ薬・・・果たして、どれくらい有効なのでしょう。
考えてみると、かぜの症状は「侵入してきた病原体(主にウイルス)を追い出す行動」であることがわかります。咳は気道に侵入した病原体を、鼻水は鼻腔に浸入してきた病原体を追い出す防衛反応。胃腸炎でも、嘔吐・下痢ともに消化管から病原体を追い出す行動ですね。発熱についても、ウイルスは38℃以上では失活することがわかっており、病原体にやられたダメージではなく、本来はウイルスをやっつける生体反応です。
すると、かぜ症状を完全に抑え込むことはいいことなの?という素朴な疑問が生まれてきます。そうです、過剰に押さえ込むと病原体を追い出せなくなるので、かえって病気が長引くことが報告されています。
ではかぜ薬の役割は?
防衛反応(=風邪症状)が激しいと本人もつらいため、それをやわらげるのが目的です。あとは自分の免疫力頼み。
しかし、かぜ薬の歴史を紐解くと、日本では西洋医学が入ってくる以前は(今で言う)漢方薬を使用していました。実は漢方薬、すごいことをやっていて、体の免疫力を高めて病原体を追い出すという働きを強化するのです。こちらの方が本来の“かぜ薬”かもしれません。しかし西洋医学に偏った現在、ただ症状を押さえ込む薬が中心となってしまいました。残念ですね。

耳鼻科の元大学教授の講演で「現在のかぜ薬がいかに効かないか」を解説していました。処方される咳止めも鼻水止めもどれも効かない・・・効くのは解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン)と去痰薬のみ、という内容です。備忘録として講義メモをここに残しておきます。

▶ かぜ薬
・古くから葛根湯などの漢方薬が用いられてきた。漢方薬は生体の防衛反応を高める方向に作用する。
・大正時代から生薬(漢方の原料)と西洋薬との配合剤に移行。西洋薬は症状を抑える対症療法にすぎない
・1950年代から西洋薬を配合した総合感冒薬へ移行。対症療法としては優れるものの、治癒期間を遅らせ、場合によると副作用も生じるといった問題点も抱えた。
・小児用製剤では安全面から解熱成分としてアセトアミノフェンのみを含む製剤がほとんど。それ以外に、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、カフェイン、ビタミン、生薬などを含有。

▶ 小児の鼻汁・咳嗽への処方の現実
・抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、粘液融解薬/粘膜繊毛機能改善薬(去痰薬)などをセットにして処方しているケースは少なくない。

▶ 感冒に対する治療法の推奨(EPOS, European Position Paper on Rhinosinusitis and Nasal Polyps, 2020)
・抗菌薬(1a) → 推奨しない(有用性、副作用ともになし)
・ステロイド鼻噴霧(1a) → 推奨しない
抗ヒスタミン薬(1a) → 推奨しない(有用性なし
・血管収縮薬(1a) → (小児には使用しない)
アセトアミノフェン(1a) → 鼻閉鼻漏に有効
NSAIDs(1a) → 疼痛と倦怠感に有効
生食洗浄(1b) → 症状を抑制

▶ 子どもの風邪に抗ヒスタミン薬は有効か?
・Cochrane review での2つのランダム化比較試験では抗ヒスタミン薬のプラセボに対する咳嗽への効果に有意差は出ていない。
・抗ヒスタミン薬はヒスタミン由来の腺分泌に有効。
古典的な鎮静性抗ヒスタミン薬は併せ持つ抗コリン効果でウイルス感染による鼻汁分泌を25-30%抑制(Turner, Heyden)。
・脳内ヒスタミン神経系がH1受容体を介してけいれん抑制系として作動しているため、抗ヒスタミン薬により作用が阻害されて痙攣が誘発される。
・EPOSでは有用性な市としてガイドラインでは推奨されていない。

▶ 抗ヒスタミン薬の痙攣誘発効果
・ヒスタミンの作用 
 ✓ 覚醒
 ✓ 認知機能増加
 ✓ 自発運動量増加
 ✓ 摂食行動抑制
 ✓ けいれん抑制
 ✓ ストレスによる興奮抑制
・抗ヒスタミン薬により「けいれん抑制」系のヒスタミン作用が阻害されてけいれんを誘発する。
・特に小児ではGABAによる中枢神経の抑制系が発達していないため、けいれん誘発の可能性が高くなる。
・要注意:2歳以下、けいれんの既往
・使用する場合は非鎮静性抗ヒスタミン薬を。ただし、非鎮静性抗ヒスタミン薬の中ではセチリジンとロラタジンにはけいれんの記載あり。

▶ 子どものかぜに鎮咳薬は有効か
・2007年3月に Baltimore市が「6歳未満の小児へのOTC鎮咳薬やかぜ薬の使用は安全性と有効性に懸念がある」とする誓願書を提出した。FDAは2007年10月に6歳未満にかぜ薬を、2008年1月に2歳未満の乳児にOTD咳止め・かぜ薬を使用しないよう勧告した。
・2008年秋に製薬会社が自主的に「4歳未満の小児には使用しないこと」と変更した。これを受けて、同年中にイギリス、オーストラリア、カナダでは6歳未満のOTC咳止め・かぜ薬は使用すべきではないと勧告した。
・Dextromethorphan(メジコン®)を用いた cohort 研究では、夜間の咳やQOLにおいてプラセボと有意差がなかったと結論づけられている。
感冒時の咳嗽はむしろ後鼻漏の影響が大きく、鎮咳薬使用は勧められない

▶ 感冒に対する処方の是非
(抗ヒスタミン薬)
鎮静性のものは鼻汁を減らすがけいれんや眠気を誘発し、分泌物を粘稠化する
非鎮静性のものは副作用は少ないが、鼻水・鼻閉には無効
(鎮咳薬)
・感冒の咳嗽の軽減効果なし。
・呼吸抑制や咳嗽の遷延化もある。
(去痰薬)
・湿性咳嗽に有効、副作用もない。

今から20年以上前にも、かぜ薬について調べたことがありました。当時はアメリカをはじめ諸外国で「市販のかぜ薬(OTC薬)を乳幼児に使わないように」というムーブが起きてきた頃です。アメリカでは大瓶で販売されているため、一度に大量を飲んで中毒症状で医療機関に運ばれる、という事情もあったようです。

そして現在、私はかぜ症状にふつうの西洋医学の薬が今ひとつ効かない場合は漢方薬をお勧めしています。明らかに手応えがあるため、「苦い薬を飲む」というハードルを越えた患者さんはリピーターになりますね。

生理痛ではなく、生理が始まる前につらい症状で悩まされる女性は多くいらっしゃいます。
軽度の症状を含めると、80〜90%の女性が何らかの症状を経験すると報告されています。そのうち、PMSと診断される女性は20〜30%、PMDDを辛酸される女性は1.2〜6.4%。

日本産婦人科学会の定義は以下の通り;
PMS(premenstrual syndrome):月経前症候群
・・・月経前3〜10日間の黄体後期に発症する多種多様な精神的、あるいは身体的症状で月経の開始とともに減弱あるいは消失するもの
PMDD(premenstrual dysphoric disorder:月経前不快気分障害
・・・PMSの中で精神症状が主体で強いもの
★ 2013年に改定されたDSM-5にて初めてPMDDが抑うつ障害群のカテゴリーの一つに分類され、うつ病と同列の独立した疾患として格上げされた。

PMS/PMDDの漢方医学的病態(後山尚久先生)
・瘀血と水滞が病態の中心+気鬱
瘀血)骨盤内臓器の充血・鬱血
水滞)黄体ホルモンの作用で、浮腫、体重増加、乳房緊満感、頭痛、眩暈
気鬱)強い瘀血は血の巡りを妨げ気鬱を引き起こす。抑うつ、腹部膨満感

PMSの漢方治療
・婦人科3処方の適応:当帰芍薬散(23)、加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25)
水滞)浮腫・めまい・頭痛
 +(陰証)冷え症・寒がり → 当帰芍薬散:貧血傾向、皮膚の乾燥、色白、月経困難
 +(陽証)冷えなし、暑がり、のぼせ → 五苓散:口渇、自汗、尿不利

PMSの気逆(イライラ)対策
・赤鬼タイプ(外に発散する怒り) → 加味逍遥散
・青鬼タイプ(陰に籠もった怒り) → 抑肝散(54)


・・・小児科の当院にも、PMS症状(生理前のイライラ感)でつらい思いをしている中学生女子が通院しています。加味逍遥散(24)が合い、本人も家族も「楽になった」と喜ばれています。

以前書いた記事では、月経関連症状に使用する漢方薬を、虚実と随伴症状から選択する内容でした。
もう少し掘り下げて、気血水理論で使い分けるセミナーを視聴したので、備忘録としてポイントを書き残しておきます。
患者さんにとっては症状で選ぶ方がわかりやすいのですが、医師側から見ると理論から根拠を持って選択できた方が使い分けしやすい傾向がありますね。
気(生体エネルギー)を体内にまんべんなく行き渡らせる(血・水)状態を健康と捉え、各要素が不足したり、滞ったり、逆流したりすると病気が発生するというイメージです。
そして漢方薬はその偏り・歪みを補正する薬です。だから、その人の本来の健康な状態に戻す薬であり、それ以上のことはできません。過剰な期待は無意味です。


▶ 月経関連処方の気血水(まとめ)
当帰芍薬散(23) → 瘀血・血虚・水滞
加味逍遥散(24) → 瘀血・  ・  ・気鬱・気逆
桂枝茯苓丸(25) → 瘀血・  ・  ・  ・気逆


▶ 気血水とは
【気】
・目に見えない生命エネルギー
・生体における精神活動を含めた機能活動を統一的に制御する要素
【血】
・気の働きを担って生体を循行する赤色の液体
【水】
・気の働きを担って生体を滋潤し、栄養する無色の液体

▶ 気血水の病態
気 → 気虚・気滞・気逆
血 → 血虚・瘀血
水 → 水毒

▶ 瘀血と駆瘀血剤
・血の流れが滞っている状態
・瘀血スコア:瘀血スコア5点以上の項目をセレクト、21点以上で瘀血
(症状)
 ✓ 月経障害(10)
 ✓ 皮下溢血(10)
 ✓ 眼瞼部の色素沈着(10)
 ✓ 舌の暗赤紫化(10)
  ✓ 皮膚の甲錯(5)
  ✓ 歯肉の暗赤化(5)
  ✓ 細絡(5)
  ✓ 手掌紅斑(5)
  ✓ 痔疾(5)
(診察所見)
 ✓ 臍傍圧痛抵抗・右(10)
  ✓ 臍傍圧痛抵抗・左(5)
  ✓ 臍傍圧痛抵抗・正中(5)
  ✓ S状部圧痛抵抗(5)
  ✓ 季肋部圧痛抵抗(5)
★ 瘀血の腹候と圧痛点
(当帰芍薬散)右臍傍、軽いしこりのみ、硬結なし
(桂枝茯苓丸)左臍傍
(大黄牡丹皮湯)回盲部
(桃核承気湯)S状結腸部
・駆瘀血薬:血の巡りをよくする
(虚証)当帰・川芎
(虚実間証)芍薬
(実証)桃仁・牡丹皮(・冬瓜子・大黄)

▶ 血虚と補血剤
・血虚:
(身体症状)皮膚乾燥、あかぎれ、脱毛、爪のもろさ、手足のしびれ、めまい、こむら返り
(精神症状)不眠、集中力低下
(診察所見)腹直筋攣急
・補血薬:血を補う・栄養を隅々まで届ける
(生薬)芍薬、当帰、地黄、阿膠、酸棗仁、小麦、何首鳥
(方剤例)
 ✓ 四物湯《和剤局方》:当帰・芍薬・川芎・地黄
 ✓ 芍薬甘草湯《傷寒論》:芍薬・甘草
 ✓ 小建中湯《傷寒論》:桂皮・生姜・大棗・芍薬・甘草・膠飴

▶ 当帰芍薬散(23)
・気血水:瘀血・血虚・水滞
・症状:頭痛、めまい、吐き気、浮腫
・外見:なで肩、色白、当芍美人

当帰芍薬散の生薬構成 ≒ 四物湯+五苓散
 補血:当帰・芍薬・川芎
 駆瘀血:芍薬・川芎
 利水:茯苓・蒼朮・沢瀉
 順気(気鬱):川芎
 順気(気逆):なし

▶ 加味逍遥散(24)
・気血水:瘀血・気鬱・気逆
・症状:イライラ、のぼせ、便秘
・特徴:煩躁(気分が落ち着かず、イライラしてじっとしていられない)、逍遥(症状がコロコロ変わる)
・生薬説明
✓ 柴胡:清熱作用、抗ストレス作用
✓ 山梔子:清熱作用、煩躁改善作用

加味逍遥散の生薬構成
 補血:当帰・芍薬
 駆瘀血:当帰・芍薬・牡丹皮
 利水:茯苓・蒼朮
 順気(気鬱)柴胡・山梔子・薄荷
 順気(気逆)なし

▶ 桂枝茯苓丸(25)
・気血水:瘀血・気逆
・症状:のぼせ、赤ら顔
・所見:臍上悸、左臍傍圧痛

桂枝茯苓丸の生薬構成
 補血:芍薬
 駆瘀血:芍薬・牡丹皮・桃仁
 利水:茯苓
 順気(気鬱)なし
 順気(気逆)桂皮

▶ 柴胡剤のラインナップ
 実
 ⇧ 大柴胡湯(8)
 ⇧ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
 ⇧ 四逆散(35)
   小柴胡湯(9)
 ⇩ 柴胡桂枝湯(10)
 ⇩ 加味逍遥散(24)
 ⇩ 柴胡桂枝乾姜湯(11)
 ⇩ 補中益気湯(41)
 虚

▶ 陰陽と月経関連処方
(陽証)桂枝茯苓丸(25)、加味逍遥散(24)
(陰証)当帰芍薬散(23)

▶ 六病位と月経関連処方
(少陽病期)桂枝茯苓丸(25)、加味逍遥散(24)
(太陰病期)当帰芍薬散(23)

▶ 冷えのタイプと月経関連処方
・四肢の冷え(血虚・瘀血) → 当帰芍薬散(23)
・上熱下寒タイプ(気逆)・・・手先足先の冷え+顔面紅潮 → 加味逍遥散(24)、桂枝茯苓丸(25)

▶ 月経関連処方の舌所見
当帰芍薬散(23)蛋白・腫大・歯根
加味逍遥散(24)舌尖赤い、しまった感じの形
桂枝茯苓丸(25)紫色、舌下静脈怒張


<参考>
・2026年3月にWEB配信された堀河漢方塾セミナー(谷口聖明Dr.、水澤理可Dr.)

・・・谷口先生のセミナーは何回も聞いていますが、理解しやすくて毎回楽しみです。処方に行き詰まったとき「陰陽」という視点を取り入れることを教えていただきました。
・・・水澤先生は気血水でキレイに分類してくれました。
一つ気づいたこと。以前から「加味逍遥散には気逆の生薬が入っていないのに、なぜ気逆の患者さんに使うんだろう?」と疑問に思ってきたのですが、キーとなる生薬は山梔子であることが判明しました。山梔子は煩躁(気分が落ち着かずイライラしてじっとしていられない状態)を緩和してくれるのですね。

子どものココロのトラブルにどう漢方を適用するか・・・今まで試行錯誤してきました。最近、中高生の起立性調節障害患者さんと話をしていると、気分の浮き沈みとか、気分の不調を訴える人が多いことに気づきました。
そして、気分による漢方薬の使い分けを提唱している大澤稔先生(東北大学産婦人科)のセミナーを思い出しました。講義メモから、役立ちそうなポイントを拾ってみました。

▶ 日常的な「よくある気分の不調」
・ドキドキ:不安症、人前で緊張
・イライラ:苛立ち、落ち着きがない
・ウツウツ:抑うつ、元気がない

▶ 精神的不安定の分類

1.西洋医学の分類
非定型:不安症 → パニック症、予期不安
統合失調症:気分症 → うつ病、双極症

2.東洋医学の分類
急なドキドキがベースにあり、その先にウツウツ・ドキドキが存在する
急なドキドキ+ウツウツ
急なドキドキ+イライラ

▶ 精神的動揺のイメージ
(興奮)
 ↑ 病的興奮状態(イライラ)
   → 向精神薬(メジャートランキライザー)がよく効く
 ↑ 軽い興奮状態(イライラ反応)
   → 向精神薬は効きすぎて副作用の方が目立つ
(正常域)不安発作(急なドキドキ)
 ↓ 軽いうつ状態(抑うつ反応)
   → 抗うつ薬は効きすぎて副作用の方が目立つ
 ↓ 病的うつ状態(ウツウツ)
   → 抗うつ薬がよく効く
(うつ)

▶ 急にドキドキする方(不安症・神経症)への漢方
・すでに安定剤を飲んでいる方へ投与可能
・ひきつけを起こしそうなくらいつらい
・第一選択薬は甘麦大棗湯(72)・・・こみ上げてくる焦燥感(ドキドキ)を抑えてくれる

※ 追加症状には追加処方を;

桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・抑うつ傾向(神経衰弱)あり
・精神的に落ちている

苓桂朮甘湯(39)
・ふらつき(めまい)、立ちくらみ(起立性調節障害)
・自律神経調節障害
・不安で生じる自律神経の変動(ふらつき)を鎮めてくれる
・単独でも不安(ノイローゼ)軽減効果あり

▶ 不安発作のひどい方(不安症・神経症)への漢方
・パニック症・過呼吸などのエピソードのある方へ
 → 甘麦大棗湯苓桂朮甘湯(苓桂甘棗湯の方意)

▶ イライラ(いら立ち)している方への処方
・話の端々に気の高ぶりを感じる、いら立ち、不眠、物音に敏感な人には冷え・のぼせの有無を確認

Q. 冷え・のぼせがありますか?
 No → 動悸が強いですか? 感覚過敏(音・ニオイ・光)がありますか?
 Yes → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
 No  → 愁訴が多い → 加味逍遥散(24)
    愁訴が多くない → 抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)
 Yes → 頭汗多く神経過敏柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
   → 強いのぼせ・便秘・月経困難 → 桃核承気湯(61)
   → 軽いのぼせ・便秘・月経困難 → 加味逍遥散(24)

※ 柴胡加竜骨牡蛎湯は不眠にも有効
※ 抑肝散加陳皮半夏は「抑圧された怒り」に効く・・・何か我慢をしていることが多く、原因のよく分からない特定の身体症状が出ることがある(心身症・神経症)。

以上を別の視点からまとめると、

イライラ+動悸(+感覚過敏) → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
イライラ+多愁訴 → 加味逍遥散(24)
イライラ+少愁訴 → 抑肝散(54)、抑肝散加陳皮半夏(83)
イライラ+頭汗多い(+神経過敏) → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
イライラ+強い(のぼせ・便秘・月経困難) → 桃核承気湯(61)
イライラ+弱い(のぼせ・便秘・月経困難) → 加味逍遥散(24)

▶ ウツウツ(抑うつ)患者さんへの処方
・ウツウツ(神経衰弱)していて、外来に入ってくるときから元気がない。
 → 桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・さらに気分がふさいでのどが苦しい(息がしづらい)。
 → 半夏厚朴湯(16)を併用 

▶ 竜骨牡蛎を含む薬について
・・・ココロの病気は大きく「イライラ」と「ウツウツ」で鑑別可能

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
・キーワードは「イライラ
・神経性心悸亢進、ヒステリーに対応・ココロの高ぶりを抑える
・甘草を含まない

桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
・キーワードは「ウツウツ
・性的神経衰弱、陰萎、遺精
・甘草を含む


<参考>
・Rp.+(レシピプラス)2026年冬号 Vol.25 No.1「使える漢方薬ABC

長年小児科医として夜尿症診療にたずさわってきましたが、正直に言いまして、薬物療法の手応えがない疾患の一つです。

夜尿症の薬物療法とはデスモプレシン(ミニリンメルト®)を指します。
これは抗利尿ホルモンといって、尿を濃縮させて量を少なくする働きがあります。
誰の体にも存在するホルモン(バゾプレシンあるいはバゾプレッシン)ですが、夜尿症児は相対的にそれが少ない、効きが悪いと考え、内服薬で補充するのですね。
抗利尿ホルモンであるバゾプレシンが欠乏する尿崩症という病気がありますが、この病気にもデスモプレシンが投与されます。不思議なのは、尿崩症に使用する量より、夜尿症に使用する量の方が多いこと。

夜尿症のすべてがデスモプレシン治療の対象になるわけではありません。
尿量を少なくする薬ですから、尿量が多いタイプ(多尿型、小児夜尿症の2/3はこのタイプ)に適応になり、有効率は60〜70%です。

一方、尿量は普通だけと膀胱が小さいために朝までに溢れて夜尿になるタイプ(膀胱型)もあります。
このタイプにデスモプレシンを投与しても、残念ながら効果はあまり期待できません。もともと多尿ではないので尿量減少効果が少ないですから。

膀胱型に有効な治療はアラーム療法で、有効率は70%程度。
こちらにまとめましたので興味のある方はお読みください。

多尿型と膀胱型、両方の要素があるタイプを混合型と呼び、予想される通り難治性です。このタイプにはデスモプレシンとアラームの療法を併用します。

また、有効性は低いものの、抗コリン薬や三環系抗うつ薬を併用することがあります。
今から30年前はこの二つの薬剤が夜尿症治療の中心でした。喘息などの病気と比べて、治療の手応えがなく、患者さんも通院に疲れてドロップアウトすることが多かったですね。

以上が一般論ですが、専門家による「難治性夜尿症」の記事が目に留まりましたので、備忘録としてポイントを引用させていただきます。

ポイントとして、
・多尿型と膀胱型を分けていない。
・国際ガイドラインでは薬物療法とアラーム療法を並列推奨されているが、著者はミニリンメルト®や抗コリン薬などの薬物療法を中心に、アラーム療法を補助として考えている様子。
・漢方(抑肝散)の効果に言及している。
などが挙げられます。

欧米では「とりあえず薬を試してみましょう」とミニリンメルトが処方されると耳にしたことがあります。日本のように、多尿型と膀胱型を分けて考えるという、繊細な作業はスルーしている様子。

さらに近年、難治性夜尿症例に神経発達症の合併が多いことが明らかになってきました。漢方の抑肝散は、私がふだんからかんしゃくの相談を受けると処方している方剤の一つです。ようやくこちらの面にも光が当てられてきた、という印象ですね。
神経発達症の漢方に興味のある方は、こちらをご参照ください。


▶ 排尿機能の発達
・3歳頃までに反射性排尿を抑制する脳の高位中枢が発達するため、誘導すれば排尿が可能になり、それ以前にみられていた反射的排尿が消失し、昼間の遺尿がみられなくなる。
・4歳頃には次第に夜間の不随意排尿も解消し、自律排尿が完成していく。
・5歳を過ぎても月に数回以上、夜間睡眠中に尿を漏らす例を「夜尿症」と定義している。
・日本における夜尿症の頻度は、5〜15歳では約6.4%(約80万人)である。

▶ 夜尿症の分類法は2つ
1.一次性(95%)と二次性(5%)
①一次性:生まれてからずっと夜尿が消えない
②二次性:夜尿が一旦、6ヶ月以上解消していたものが再燃
 → 尿路感染症、便秘症、脊髄疾患(脊髄炎、腫瘍など)を要チェック
2.単一症候性(60〜90%)と非単一症候性(10〜40%)
①夜尿のみ
②夜尿+昼間遺尿
 → 慢性便秘症、泌尿器科的疾患(尿路奇形、反復性尿路感染症など)、代謝・内分泌疾患(糖尿病、尿崩症など)、脊髄疾患(潜在性二分脊椎など)、神経発達症(ADHD児など)などの基礎疾患を有している可能性がある

★ 国際標準のチェック項目:ICCS,International
①昼間遺尿:3歳半以降も続く昼間遺尿の有無
②1日の排尿回数:3回以下、あるいは、8回以上は異常
③切迫性排尿の有無
④排尿をこらえている姿勢の有無
⑤下腹部を圧迫しての排尿の有無
⑥尿線を強く描けるか
⑦便秘の有無
⑧神経発達症(ADHD、ASD)合併の有無
⑨学習障害や発達障害の合併の有無

▶ 難治性夜尿症の治療

1.生活指導の徹底
・適切な水分摂取法:飲水の約2時間後に尿が生成されるので、夕食は就寝2時間前に済ませ、それ以降の飲水は極力控える(10mL/kg未満)
・塩分過剰摂取を控える
・就寝前に必ず排尿する習慣をつける

2.ミニリンメルト®(抗利尿ホルモン製剤、DDAVP)の適応
・多尿型
・60〜70%有効
・国際基準ICCSの推奨治療では第一選択薬
・120μgで開始し、効果不十分の場合は240μgへ増量する。
・OD錠は、従来のスプレー剤と比べて効果発現までのタイムラグを考慮し、就寝直前内服ではなく、就寝30分前に内服する。
・OD錠は、錠剤を口腔内で崩壊させ、口腔粘膜から吸収させることが重要である。口腔内で崩壊させずに嚥下したり、服用時に飲水すると十分な効果が得られない。内服前に歯みがきを済ませ、内服後は飲水を控え、口をゆすぐことを避けるなども重要である。

3.抗コリン薬(副交感神経遮断薬)
・上記DDAVPで効果不十分であった場合、機能的膀胱容量増加を目的として使用する。
・従来のオキシブチニン塩酸塩(ポラキス®)やプロピベリン塩酸塩(バップフォー®)に変わり、新しい世代のイミダフェナシン(ウトリス®、ステーブラ®)やコハク酸ソリフェナシン(ベシケア®)のそれぞれOD錠が汎用されている。
・昼間遺尿や過活動膀胱の症状を合併する児では、ウトリスかステーブラ2錠(0.2mg)を2回に分けて使用、体重35kgを超える児では、効果が不十分な場合は倍量まで増量する。
・夜尿のみで昼間遺尿を認めない児では、ベシケア2.5mgを就寝前に使用し、効果が不十分な場合は5mgに増量する。

4.アラーム療法
・薬物療法と並列した治療のオプション
・有効率:65〜70%、中止後の再発率:30〜60%
・作用機序:覚醒排尿を促すのではなく、膀胱の排尿抑制力を高め、膀胱容量を増加させることにある(詳細不明)。
・アラーム療法を成功させるためには、本人の努力のみならず家族の協力が極めて重要である。
・患児が家族と一緒に就寝し、アラームが作動した際、自力で起きることができなければ、親が起こす。
・開始2週間後に(主治医が)電話を入れるなどして治療継続の応援と技術的な問題を解決する。
・6〜8週間継続しても効果が得られなければ、一時中断する。
・(著者は)10歳以上の患児に対して薬物治療の補助療法としてアラーム療法を導入する。

5.睡眠問題への介入
・近年、夜尿症間寺における終夜脳波の検討から、多くが「浅くてクオリティーの低い睡眠が遷延している」ことが明らかになった。
・治療の一助として睡眠の改善が注目されてきており、欧米ではメラトニンの仕様の検討が行われている。

6.漢方による治療
・(著者ら)抑肝散を用いて良好な結果を得ている。使用量は、体重40kg未満に2.5g(夕食後)、体重40kg以上に2.5gで効果が乏しい場合は5gへ増量。
・抑肝散(54)は、漢方でいう「肝」の高ぶりを押さえ、興奮やイライラ、筋肉の緊張などを鎮める方剤であり、もともと小児の夜なき、疳の虫に使用されてきた。


<参考>
小児の難治性夜尿症への対応
 大友義之、順天堂大学小児科(日本医事新報社、最終更新日は2025.9.20)

「不安」「過緊張」「イライラ」など、症状としては捉えにくい感情・情緒を扱ってきました。今回ははっきりとした症状としての「パニック障害・パニック発作」を取りあげてみます。
パニックは「不安と緊張の極致」というイメージですが、漢方(中医学)ではどう捉えているのでしょうか。
ほかの感情・精神症状は「心」と「肝」のアンバランスと説明されていますが、パニックでも心・肝のアンバランスがメイン、そして「脾」と「腎」が登場するのが特徴ですね。


▶ パニック障害

パニック障害は、不安感や恐怖感の高まり、動悸、めまい、ふるえ、冷や汗、呼吸困難などの症状を伴うパニック発作が突然起こる病気。このまま死んでしまうのではないか、という恐怖を感じることもある。


▶ パニック発作

心拍数や血流量の急激な変化は、本来は危機を察知した時に瞬時に対応するための自然な反応である。この仕組みが敏感すぎたり不安定だったりするために、とくに危険が迫っていないのにスイッチが入ってしまうのがパニック発作。

多くの場合、一回の発作は長く続くわけではなく、救急車で運ばれて病院に着いたころには症状がかなり治まっている。検査をしても異常がみつからないケースがほとんど。

しかしパニック発作は繰り返して起こることが多いため、発作がまた起こるのではないかという不安や恐怖を感じ続けることになる。

また、発作を起こした場所やそれに似た状況には近づけなくなり、例えば急行電車や飛行機に乗れなくなるなど、日常生活が制約されることになる。睡眠中など、リラックスしている状況で発作が生じる場合もある。


▶ パニック障害の西洋医学的治療

セロトニン・ノルアドレナリンなど脳内の神経伝達物質のバランスの失調がパニック障害と関係が深いという観点から、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、抗不安薬などが処方される。

▶ 漢方治療
漢方では、不安を感じやすいパニック体質を改善していくことにより、パニック障害の治療を進める。そこには五臓の心・肝・脾・腎が深く関与している。
基本は「心身一如」。心と体は切っても切れない関係にある、という漢方思考です。

パニック障害をはじめとする心のトラブルも、五臓の相互関係の不均衡と関係があります。つまり、五臓というからだ全体のバランスを安定させることにより、「不安体質」「パニック体質」を改善していきます。神経伝達という局所的な現象を化学薬品でコントロールする西洋医学とはまた別のアプローチでである。

 

▶ パニック体質の主な4つの証


(1)「脾気虚」証

・消化吸収や代謝機能をつかさどる五臓の脾が弱い体質。

・脾の機能が弱いので体内に十分な気血を供給できず、中枢神経系も衰弱しており、パニック発作を起こしやすくなっている。

・脾気虚で出やすい症状:疲れやすい、息切れ、軟便、白い舌 など

→ 体力や気力を補う漢方薬を。


◆ さらにこんなケースも
めまい、立ちくらみ、動悸、眠りが浅いなどの症状が顕著な時は、脾気虚に(2)の心血虚が合わさった「心脾両虚」。

(2)「心血虚」証

・精神活動をつかさどる五臓の心が血で満たされていない体質

不安を感じやすいのが特徴で、パニック障害を起こすことも多いタイプ。

・心血虚で出やすい症状;寝つきが悪い、めまい、立ちくらみ、夢をよく見る、など

→ 心血を補う漢方薬を。

◆ さらにこんなケースも
あせり、いらいらが見られる場合、驚きやすさ、強迫観念を併せ持つ場合など、さらに細かいケースに応じて処方を選ぶ。

(3)「肝鬱気滞」証

・情緒をつかさどる五臓の肝の気が鬱滞している体質。

刺激に敏感なため、パニック障害になりやすいタイプ。

・肝鬱気滞で出やすい症状;情緒不安定、いらいら、ヒステリー、下痢と便秘を繰り返す、など

→ 気の流れをよくする漢方薬を。


◆ さらにこんなケースも
いらいら、のぼせ、頭痛などが顕著な場合は熱をとる作用を加えた漢方薬を用いる。


(4)「腎虚」証

生命力の貯蔵庫ともいえる五臓の腎の機能が衰弱している体質。

心身ともに弱っている状態で、びくびくと恐怖を感じやすくなっている。

→ 腎を補う漢方薬で、体の根本から立て直していく。

 

◆ パニック障害に効果的な漢方薬

四君子湯、帰脾湯、酸棗仁湯、黄連阿膠湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、加味逍遙散


<参考>

パニック障害(幸福薬局)


 

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