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私は西洋医学を学んだ小児科医ですが、医師になって15年目くらいに漢方に出会い、漢方沼にはまってしまいました。
西洋医学的には病気と考えない不定愁訴(検査で異常が見つからない体の不調)に対応する薬がたくさん用意されているのです。
これはひとえに、ココロとカラダはリンクして症状を作るという「心身一如」という基本概念が漢方にはあるからです。
一方の西洋医学はいつの頃からかココロとカラダを切り離して考えるようになり、不定愁訴に対応できなくなりました。ようやく近年、「心身相関」として介入し始めたところ。

さて、思春期の子どもたちが悩まされる起立性調節障害。
私は元々虚弱系の子どもたち(漢方医学で言う脾虚)が、ストレスにさらされて辛い状態になると捉えています。
漢方的には、色々な専門家たちが様々な視点から治療法を提案しています。
それらの耳学問から私がまとめた表を提示します。

基本処方

めまい立ちくらみ型

 

立ちくらみ、めまい、動悸、息切れ、乗り物酔い

苓桂朮甘湯(39)


立ちくらみ、めまい+胃腸虚弱・冷え

半夏白朮天麻湯(37)

循環虚弱型

めまい、脳貧血、動悸など

半夏白朮天麻湯(37)

低血圧型

立っていると気持ちが悪い、

とにかく怠い

朝起き不良、易疲労、顔色蒼白

補中益気湯(41)

―他剤無効

虚弱、易疲労、(頭痛がない)

補中益気湯(41)

疼痛型:
 頭痛・腹痛

立ちくらみ、食欲不振、習慣性頭痛、乗り物酔い

半夏白朮天麻湯(37)

五苓散(17)


頭痛・腹痛・ストレス

柴胡桂枝湯(10)


虚弱体質、腹痛

小建中湯(99)


動悸、腹痛、頭痛、食欲不振

小建中湯(99)

柴胡桂枝湯(10)

ー胃腸虚弱型

食欲不振、腹痛など

小建中湯(99)

六君子湯(43)

ー精神身体型

精神的ストレスが強く、不安障害、頭痛、腹痛など

柴胡桂枝湯(10)

抑肝散(54)

心身症としてのOD

腹痛、頭痛、緊張

柴胡桂枝湯(10)

 

イライラ、神経質、怒り

抑肝散(54)


不安が強い、パニック

甘麦大棗湯(72)


不安、神経過敏、睡眠随伴症(悪夢)、動悸

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)


喉の詰まり

半夏厚朴湯(16)


苓桂朮甘湯(39)+α

頭痛・水毒(2+)

+五苓散(17)


倦怠感

+補中益気湯(41)


頭痛・腹痛

+柴胡桂枝湯(10)


パニック・過換気、奔豚気

+甘麦大棗湯(72)

苓桂甘棗湯の方意

集中力低下など、血虚

+四物湯(71)

連珠飲の方意

大症状型:大症状>小症状

+補中益気湯(41)


小症状型:小症状>大症状

+小建中湯(99)あるいは柴胡桂枝湯(10)



起立性調節障害(ODと略します)の諸症状を漢方的に分析した病態と、ODに用いられる漢方薬の方意を表にまとめてみました。
日々の診療では、患者さんの訴えを聞き、この表を睨んで薬を選択しています。

OD症状と漢方的病態

OD診断基準

漢方病態

寺澤のスコア

1

立ちくらみ、めまい

水毒


2

立っていると気分悪化、ひどくなると倒れる

水毒


3

入浴が長いと気分悪化、嫌なことを見聞きすると気分不良

水毒


4

少し動くと動悸、あるいは息切れ

気逆・血虚

気逆8

5

朝起き不良、午前中調子が悪い

気うつ

気鬱8

6

顔色蒼白

血虚


7

食欲不振

気虚・脾虚

気虚4

8

臍疝痛

脾虚


9

倦怠感、易疲労

気虚・脾虚

気虚10

10

頭痛

水毒


11

乗り物酔い

水毒



ODに用いられる漢方薬と証

方剤名

虚実寒熱

水毒

脾虚

血虚

気虚

気うつ

気逆

安中散(5)

虚・温






柴胡桂枝湯(10)

虚・温





肝鬱

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

虚・温




肝鬱

半夏厚朴湯(16)

中・中





五苓散(17)

虚・温





当帰芍薬散(23)

虚・温


瘀血




半夏白朮天麻湯(37)

虚・温




苓桂朮甘湯(39)

虚・温





補中益気湯(41)

虚・温


瘀血



六君子湯(43)

虚・温




抑肝散(54)

虚・温


瘀血



甘麦大棗湯(72)

中・中







抑肝散加陳皮半夏(83)

虚・温




肝鬱

小建中湯(99)

虚・温







思春期に多い起立性調節障害(以下OD、orthostatic dysregulation)は、
大人で言う起立性低血圧の思春期版です。

アメリカでは循環器疾患という位置づけですが、
日本の診断基準には「こころ」の要素も入れてしまったので、
様々な疾患のゴミ箱的な診断名になっていると批判されています。
なぜかというと、「こころ」に効く薬が用意されていないので、
臨床現場で困ってしまうのですね。

しかし心身一如(※)という漢方的捉え方からすると当たり前の病態、
つまり漢方薬の得意分野とも言えます。
※ 体と心は切り離せない、連動しているという考え方

漢方的にどんな捉え方をして、どんな風に治療を組み立てるのか、
これまでも繰り返し学習してきましたが、今一度整理してみます。

今回参考にしたのは、漢方薬局のHPで、
主に薬剤師さん&一般患者さん向けですが、
医師にとっても分かり易く、以前から参考にさせてもらっています。

■ ODという病気
・ODは起立時に立ちくらみ、めまい、動悸などの循環器症状や、
 倦怠感、頭重、腹痛などの不定愁訴が生じる疾病。
・女性に多く、5-6月と夏休み明けの9-10月に相談が増える。

■ ODの漢方的病態
・めまい、立ちくらみ → 水毒(=水滞、痰飲)
・胃腸虚弱、疲労倦怠感、根気が続かない → 気虚、血虚、気滞(=気鬱)

■ ODの漢方的病態と対応する生薬
(水毒)茯苓
(痰飲)半夏
(気虚)人参
(気滞)柴胡
(血虚)当帰、芍薬

■ ODの病期と対応する方剤
1)症状の顕著な状態→ 薬味が少なく即効性のある方剤を選択
苓桂朮甘湯半夏白朮天麻湯
2)症状が落ち着けば背景の病態を整えて寛解維持を目指す
柴胡桂枝湯(腹痛)、小建中湯(腹痛、倦怠感)、補中益気湯(だるさ)

■ ODに用いる三大漢方薬
苓桂朮甘湯 ・・・症状の顕著な時期に:めまい、立ちくらみ、動悸、頭痛
半夏白朮天麻湯・・・初期〜亜急性期に:めまい、頭痛、吐き気
補中益気湯 ・・・寛解期の体調管理に:倦怠感、だるさ、筋緊張低下

▢ 苓桂朮甘湯
・動揺性のめまい、立ちくらみ、動悸、頭痛に頻用される。
・古典には「起則頭眩」と記載。
・冷え傾向、頭痛やのぼせ、冷や汗が発作的に現れる病態に適応。
・吐き気が顕著なときは五苓散を併用。
フクロウ症候群(午前中の体調がよくない傾向のヒト)に適応。
・即効性あり、味も悪くないので小児に投与する第一選択薬。

▢ 半夏白朮天麻湯
・めまい、立ちくらみに使用される。
・胃腸虚弱、吐き気、食後の眠気、冷え症に適応。
低気圧頭痛(悪天候で頭痛が悪化する)に適応。
・甘草を含まないので苓桂朮甘湯より長期服用に適する。

■ 苓桂朮甘湯(降起利水補気)と半夏白朮天麻湯(補気化痰熄風)の比較
・共通生薬:白朮、茯苓・・・補気利水
・共通症状:めまい、立ちくらみ、頭痛、乗り物酔い
・苓桂朮甘湯のポイント:桂枝・甘草(降気・・・動悸、息切れ)
 → (発作的な)のぼせ、動悸、頭痛
 → 半夏白朮天麻湯より神経質
・半夏白朮天麻湯のポイント:六君子湯(補気化痰)の6生薬入り+天麻(熄風・・・めまい、頭痛)
 → 胃もたれ、食欲不振、低気圧頭痛
 → 苓桂朮甘湯より胃腸虚弱、冷え傾向

▢ 補中益気湯
めまいが主たる適応ではない
・OD患者の虚弱状態を改善して寛解維持目的の方剤。
・全身倦怠感、手足のだるさ、声や目に力がない、易感染性に適応。
・苓桂朮甘湯に初期から眠前1包を併用する方法もある。

■ 全身病態を調整するその他の方剤

▢ 柴胡桂枝湯(10)、小建中湯(99)
・・・OD患者の胃腸症状と倦怠感などに用いる。

▢ 六君子湯(43)
・・・胃腸虚弱者の食欲不振、食後の胃もたれを軽減する第一選択薬。
 体力維持のための食事療法を支援する方剤。
 本方は、香蘇散(抑うつ、頭重)、半夏厚朴湯(不安、抑うつ)、
四逆散(抑うつ、苛立ち、腹痛)などと併用して臨床領域を広げる工夫がされる。

▢ 当帰芍薬散(23)
・・・顔色不良、冷え傾向(血虚)と性周期と関連するめまいなどに適する。
 本方は、理気薬の四逆散(35)と組み合わせて、
 潜在的鉄欠乏に対する鉄剤と食事指導を併用して、
 女性の起床困難、手足の冷え、ODに用いられる。

▢ 連珠飲
・・・四物湯(補血活血剤)と苓桂朮甘湯の合方。
 桂皮と甘草を含むので、当帰芍薬散(23)より発作性の動悸、のぼせ、頭痛のあるときに適する。
 連珠飲を服用して熟地黄による胃もたれや食欲不振が出たときには、
 当帰芍薬散(23)へ変更するか、人参湯を併用する。

▢ 十全大補湯(48)
・・・連珠飲と補気薬の人参、黄耆を含む。連珠飲の適応病態で、胃腸虚弱や倦怠感を伴うときに適する。


<参考>
・漢方の気ぐすりき.com〜漢方を知る〜病気の悩みを漢方で〜起立性調節障害の漢方

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